当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2016年9月15日放映のアメトーークを見た。「竜兵会」というダチョウ倶楽部の上島竜兵率いる芸人のグループ(いわゆる、「軍団」)が解散の危機に直面しており、解散するか存続するかを番組でメンバーの投票により決定するという内容だった。

 竜兵会は、アメトーークで過去にも扱われている。といっても、もう10年近く前のことである。ひな壇に座っていた竜兵会のメンバー(主要なのは、土田・有吉・劇団ひとりの3人である)は、その10年近くの間に新しく話すようなエピソードがなかったからここまでブランクが生じたと口をそろえる。そして、上島竜兵のダメなところ、竜兵会の嫌いなところ、上島本人の老いなどを口々に愚痴っていく。

 今回の笑いの中核を担っていたのは、上記のような上島と竜兵会に対するイジリである。上島のギャグに動きのキレがなくなったとか、肌の張りがなくなって爺さんみたいな体つきになっているとか、飲み会を開くとネガティブな話ばかりで会計でもいつも揉めるとかいった点は、上島本人と竜兵会が持っているズレである。これを指摘するイジリは、このズレを視聴者に分からせるためのツッコミである。後輩芸人たちが先輩でこれまで散々おごられてきたであろう上島を容赦なくイジる様は、それ自体ズレてもいるので、その点も笑いを生む。そして上島は、このイジりにたいしていちいちキレて喧嘩をすれば、それがまた笑いを生んでいくことになる。

 今回は、番組開始当初からイジる側の竜兵会メンバーがうんざりしたような様子を見せており、一人竜兵会存続を願って元気に動き回る上島との対立構図が分かりやすく作られていた。そういう意味では、「解散したい部下と解散したくないリーダー」というコントの構図が色濃かった回だとも言える。結局このコントは、竜兵会の発足早々に脱退した寺門ジモンが上島と新・竜兵会を結成するという綺麗なオチまでついて終わっていた。

 流れとしては綺麗だったが、肝腎の上島に元気やキレがないというのは、土田や有吉が散々指摘した通りだったので、その点が笑いを阻害していた。前述の通り、容赦なく悪口をぶつけてくる後輩に対して、上島はキレて笑いを生み出さなければならないのだが、有吉も「フガフガ言うだけ」とツッコんでいた通り何を言っているのかが聞き取りにくく、キレてもテンションが維持できずに尻すぼみで終わってしまう。往年のギャグも動きにキレがなくなっている。そもそもダチョウ倶楽部や上島のギャグの数々は、単体ではそこまでおもしろいものではなく、見ている方に「あ〜、知ってるやつだ!」という感動を呼び起こす作用の方が狙いとしては強いと思われる。それを「さあこれを見て笑え」というスタンスでやられても、こちらとしても何度も見てとうの昔に飽きているものなので、真顔にしかならない。この上島のヘタクソさや老いやスベリっぷりもズレの一つではあるので、うまくツッコんでやれば笑いに変えられるのだが、竜兵会のメンバーはニヤニヤしながら見ているだけで何もしない(マンキンでツッコんでもスベリを重ねるだけで絡み損だという判断もあるのかもしれない)。上島も、若いときであれば自分で「ウケねえじゃねえか」みたいなツッコミを入れられたのだろうが、それも鳴りを潜めていた。

 結局、一時代を築いた上島のマジの老いをまざまざと見せつけられただけであり、こちらとしては「可哀想」という感情が勝って、なかなか笑えなかった。ひな壇の面々は、もう少しここにツッコミというフォローを入れてほしかったというのも正直なところである。上島は(というかダチョウ倶楽部は)、おそらく話芸は不得手で、動きとリアクションで笑いをとってきた芸人である。その手の「体を張る」芸人が老いるとこうまで使いでがなくなるという厳然とした事実に、戦慄さえ覚えた。筆者としてはこの事実を分かっていたつもりだったが、改めてこれを目の当たりにするとやはり新鮮な恐怖を感じたのである。番組で上島のライバルとされていた出川も、基本的には同じタイプであり、後輩からイジられても適切なキレ芸を出すことができないのだが、奇跡的な天然を連発するからおもしろいのである。だから、テレビに出てくるのである。上島に、あそこまでの天然はない。
 今回は上島のこの老いを嘲笑うことでまだ成立していたが、これは1回しか打てないカンフル剤である。これを打ったら、体にも無理がかかることになるので、あとは不毛化が加速することになる。「オワコンは、『オワコンだ』とさえ言われなくなったときに本当にオワコンになる」というやつである。今回は上島を「オワコンオワコン」とイジる回だったのであり、これで最後の残機1も消滅した恰好である。

 土田とかの話を聞いてると、上島はもっと昔から「自分の芸風でいつまでできるのか」というのを悩んでいた節がある。そうだとしたら、その悩みが現実のものになりつつあるというのも非常に残酷ではある。体を張る(以外のことができない)芸人には、共通の悩みだろう。
 若い人たちで、この手の老芸人の面倒をもっと見てやってほしいが。

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