2022年のキングオブコントです。
1.クロコップ
カードというアイテムの要素が付与されたオリジナルのあっちむいてホイをやるネタでした。そこに、80年代〜90年代の少年向けバトル漫画(及びそれを原作としたアニメ)のような、キャラクターが延々と長い説明台詞を言って状況や心情を逐一説明してくれる演出が入っていました。ネタの核にあったのは、そのノリであっちむいてホイというどうでも良さそうなゲームをやるズレです。その意味では、そういったバトル漫画(特にBGMにも使われていた遊戯王)のパロディという要素も多分にあるネタだったと思います。
このオリジナルあっちむいてホイは、前述の通り自分のターンが来るたびにカードを1枚引いて、自分へのバフや相手へのデバフをかけられるルールなのですが、出てくるカードのしょうもなさや、相手が引いたカードにどう対応するかは、ネタを作った人間(と見る人間)の大喜利力が試される部分ではありますが、あんまり印象に残るものはありませんでした。
細かいことかもしれませんが、私は表情の芝居がしきれていないと思いました。松本も顔のことに言及していましたが、特にあっちむいてホイでこっちを向いた時の顔は、2人とも油断していました。苦しい状況の時は苦しい表情をしてほしいですし、余裕な状況の時は余裕な表情をしてほしかったです。それこそパロディ元のバトル漫画のように、「くっ」とか「やあ」みたいな台詞をいちいち言うのもありかもしれません。
最後に出てきたハシゴも、コントの上ではヘリから垂れているという設定なのですが、ハシゴの上に何もないことが見えてしまっていたので、少し興ざめしました。テレビでこのネタをやる時は、ハシゴの上が見えなくなるように映像を切ってもいいと思います。ただ舞台でそこまでやるのは難しいでしょう。このギャップは、舞台でやられているネタをそのまんまテレビで放映している番組自体の問題なので、ネタをやっている芸人にはどうしようもありません。
あとオチなんですが、最後にチャイムを鳴らしてバトルを終えるという展開がまず挟まっていたので、「チャイムが鳴った瞬間に我に返って素に戻る」あるいは「先生に怒られる」みたいなベッタベタなものかと一瞬危惧してしまいました。ただその後ヘリが来るという(これも非常にバトル漫画らしい)もうひと展開があったので良かったのですが、この二段構え事態に若干面食らったので、チャイムはなしでもいいかもしれません。少しオチが散らかり気味かと思います。
2.ネルソンズ
実際に2人でかけっこ勝負をして何のヤマもオチもなく和田まんじゅうが勝ってしまったところはおもしろかったです。和田が「良かったあ」と言った瞬間に声を出して笑いました。和田演じる新郎が「足が速い」という設定はネタ中に散々フってきている部分なので、実際に他者と徒競走をさせた時にどうなるかというのは大喜利のしどころなのですが、本当にメチャクチャ速いとか、相手の青山がものすごく遅いとかそういう分かりやすいのが何にもなかったことに逆に意表を突かれました。和田本人はどう見ても足が速そうには見えない風貌なのに、「足が速い」と連呼して見る側を不安にさせておいて、「どう落とし前をつけるのか」とモヤモヤしていたら特に何もない、というのは計算だったらすごいと思います。ただ残りの部分の展開は、ネタの設定に対する大喜利への答えとしてはそこまでのものがなかった印象です。
和田もコント中ずっと表情で芝居をしていたのはエラいです。とはいえこのコントでの和田の役回りはツッコミであり、説得力を持ってそのキャラを見せるには相当な演技力が必要です。今回の和田は普段のイジられキャラが若干透けて見えてしまっていました。これを払拭するにはもう少し芝居を磨く必要があります。こればっかりは本当に微妙な問題であり、なおかつ「どう芝居すればおもしろく見えるか」という大喜利的な観点も混ざってくるので、具体的にどういう芝居をすればいいのかは私にもなんとも言えません。色々試してウケるものを見つけていくしかないところだとは思います。
3.かが屋
飲み屋で飲む女上司(賀屋)と男の部下(加賀)という設定でした。冒頭、女上司が男の部下を責め、部下がそれに困惑するというフリのシーンが割りと長めに入ります。そのフリの後に、賀屋がトイレに移動して同僚らしき人物に電話をかけ、この状況に対するネタバラシが入ります。このネタバラシは、その後部下がトイレに入った時にも行われていました。
そしてこの2度のネタバラシは、とてもおもしろかったです。冒頭の若干長いフリもきちんと活きていました。賀屋が女上司をきちんと演じられていたからこそネタバラシでの大きい笑いを生むことができたんだと思います。
ただ松本や飯塚が言っていたように、後半このネタは失速します。私も2度のトイレでのネタバラシ以外におもしろいポイントはなかったと思います。ネタバラシが済んでしまうと、「公共の場でSMプレイをする2人」と「それを見て困惑する第三者」という手垢にまみれた設定になってしまうからです。そこにちゃんと工夫があれば文句なしで優勝できるネタだったと思います。
4.いぬ
有馬は舞台コント用の若干大仰な芝居がとてもうまいと思いました。
本人たちも冒頭の煽りVTRで言っていましたが、水曜日のダウンタウンの30-1グランプリで見せていたような「気持ちの悪い」ネタでした。一応、括弧をつけておきます。ゴールデンでできたことが結構な奇跡だと思います。
とはいえ小峠や山内も言っていたように、やっていることが基本的にずっと一緒なので、ファーストインパクトはかなりある一方で、見続けているとだんだん飽きてきます。しつこくやることで「気持ち悪さ」が増していくのは確かなので、一本調子に徹するのは「気持ち悪いこと」をやりたいのであれば間違っていない演出です。ただ優勝や笑いを目指す場合は、違う展開が欲しいところです。本人たちが「気持ち悪いこと」をやりたい(あるいはそれが笑いに直結すると思っている)可能性も若干ある気がしますから、そうであれば周りの言うことなど無視すればいいと思います。
そんな風に思うのは、太田がう大やどぶろっくに若干雰囲気が似ているからかもしれません。
5.ロングコートダディ
料理の鉄人的な番組の収録という設定で、何度入場をやり直しても帽子を落としてしまう料理人(兎)とツッコミ役のAD(堂前)のコントでした。
この手の一向に前に進んでいかないハウツーコントは、実力のあるツッコミと本物の天然(例えばさんちゃんとジミーちゃん)にアドリブでやらせるのが一番おもしろいです。敢えてそこに挑んでいった度胸は買いますが、まず兎はやばい天然を「全然」演じ切れていないと思います。なんか、わざと演じている感が抜けません。堂前のツッコミの演技は及第点なだけに惜しいです。
またネタ中に出てくるボケもあんまり大喜利力の高さを感じませんでした。帽子が落ちてしまうというボケもはっきり言えばベッタベタであり、何度も繰り返すようなものではありません。同じボケを何度も繰り返したと言えば2015年のロッチの一本目のネタ(試着室のやつ)ですが、あの水準には達していないものです。
去年のM-1で見たときも思いましたが、ロングコートダディはそんなに大喜利が得意じゃないのでしょうかね。
6.や団
3人全員にかなりの演技力が求められるコントです。死んだフリドッキリをする中嶋はネタバラシの際のおちゃらけた演技が、ツッコミ役の本間にはシリアルキラーを見てしまったことに対する驚きの演技が求められます。そして一番難しいのは伊藤であり、シリアルキラーの静謐な狂気を孕んだ落ち着きと、普段のふざけた感じをどちらも演じ切って、両者のギャップを出す必要があります。いずれも日常生活ではまず出くわさないシチュエーションである(=見る側も正解が分からない)ため、演技力を上げて説得力を出そうにもかなりの空中戦を求められます。
ただ3人とも演技力が必要な水準に達していないと思います。サイコパスが出てくる映画とかは、参考になるんじゃないでしょうかね。また見た目のことを言うのはもうあんまり良くないのでしょうが、3人ともアラフォーであるためか目尻の皺が目立ち、血色もあんまり良くないので、「河原で遊ぶ」という若者のような設定が似合いません。そこがまず気になってしまいます。
飯塚が褒めていた死体処理のリアリティは、多分サスペンスやウシジマくんで結構こすられている話なので、こちらが知らない知識をもっと出して欲しかったです。
7.コットン
冒頭の煽りVTRできょんの憑依力について言われていましたが、確かにキャラはちゃんと演じられていたと思います。おばさんとおっさんをきちんと演じ分けられていました。一方相方の西村の演技力が並なので、きょんとの対比で悪目立ちしてしまった印象はあります。
設定は、浮気をしてしまった男(西村)が依頼した浮気証拠バスターなる業者のおばちゃん(きょん)が男の部屋に来て実際に証拠隠滅を行うという今までにないものです。おばちゃんが出したローラーが伸びたところはおもしろかったですが、「浮気をした男が残す証拠大喜利」に対する回答としてネタを見ると物足りなかったです。また細かいことかもしれませんが、おばちゃんは消臭スプレーを掛け布団の上から噴霧するだけで、掛け布団の下には何もしていませんでした。そういういい加減さでおばちゃんの腕の良さについての説得力が減じられてしまうので、もっと注意した方がいいと思います。
それからおばちゃんはネタ中にやってきた浮気男の彼女をだまくらかすために途中でおっさんになるのですが、見る側は最初から「本当はきょんというおっさんである」ということが分かっているので、さほどの驚きも笑いも生じませんでした。最初はおっさんの状態で登場し、途中でおばちゃんに変わる方が驚きは生まれると思います(それはおもしろいかどうかはまた別の話です)。少なくとも、煽りVTRで素の状態のきょんの姿をネタの前に見せてしまったのはあんまり良くなかったと思います。あれでは先にネタバラシを受けるようなものなので、きょんが途中でおっさんに変わってもインパクトがありません。
8.ビスケットブラザーズ
煽りVTRで2人から「笑うことをあきらめるな」を言われました。おもしろくないのをこっちのせいにされているようで若干腹が立ったので、他の出場者より悪口マシマシで書きます。
2人とも演技力は大したことはありません。
設定も、細かいことを抜きにすればピンチの人を助けにやって来たヒーローがツッコミどころ満載という古めかしいもので、ネタ中に出てくるボケも「こんなヒーローは嫌だ大喜利」への回答として見たときに、75点〜85点ぐらいに終始していた印象です。だって、下がブリーフで上が女物のセーラー服なんですよ。私が思い出したのは、水曜日のダウンタウンでバカにされていたFUJIWARAのヒーローショーコントや、同じ番組で知った5GAPのヒーローショーコントでした。最大限悪く言うと、おもしろい小学生が一生懸命考えた感じなんです。ネタ自体の展開もひたすら「こんなヒーローは嫌だ大喜利」に答えていくだけで、単発のボケが足し算で積み重ねてられていくのみであり、深みがほとんどありません。それこそFUJIWARAのヒーローショーコントみたいに営業をフラっと見に来たライト層にはウケるネタなんだと思います。審査員は客席のウケに引っ張られ過ぎでしょう。
ただ、煽りVTRであんなこと言われなければもうちょっと楽しく見られたような気はしてきました。煽りVTRはもっと錦鯉みたいなバカっぽい感じで撮られた方が良かったと思います。
9.ニッポンの社長
EVA的な設定でした。博士(辻)が少年(ケツ)を巨大ロボットのパイロットとして勧誘するのですが、色々あって結局乗れないという展開を繰り返します。この「乗れない理由」が大喜利になっているという構造です。
言いたいことはほとんど山内に言われてしまいましたが、一応書いておきます。まずコントの構造として、大喜利の答え(=乗れない理由)が明らかになるたびに暗転するという展開を繰り返していたため、一つ一つの大喜利がぶつ切りで、ネタ全体もただの足し算になってしまっていました。どうせなら前のものを伏線にして後に活かすような展開が欲しかったです。例えば、見ている側には明示されなかった最初の「乗れない理由」とかは、後に活かせるはずです。私はニッポンの社長ならそれくらいやってくれるはずだと思って見ていましたが、何もありませんでした。
そして、その手の伏線めいた練り込みがないわりに一つ一つの大喜利にもそこまで爆発力はなく、しかも暗転時のケツの表情を見せるのに時間をとっているためか、絶対数も少なかったです。最後のオチで暗転を2回繰り返した意図もよく分かりませんでした。1回目の暗転後にハケようとするケツを見せておいてそこでもう1回暗転するというボケなのかなとも思いましたが、これも私の想像でしかありません。
10.最高の人間
吉住と岡野陽一というピン芸人2人の即席ユニットです。
岡野がテーマパークの園長、吉住がそのテーマパークのピエロ的なはっちゃけキャラを演じるという設定で、2人の演技力がコント全体から出そうとしている狂気を存分に表出できていたと思います。吉住は、はっちゃけている芝居・素の芝居・岡野に恐怖する芝居を全部ちゃんとやっていました。ただ、ピエロ的なバカ明るい存在が逆に狂って見えるというのは結構こすられているテーマかとは思います。それこそ、バットマンのジョーカーみたいなもんですね。
吉住が素に戻って「逃げて」と言った瞬間はおもしろかったです。これは吉住の演技力でちゃんとギャップを出せていたからです。ただあとは全体的に笑いより狂気が先に出ていました。
あと最後の岡野は、どうせならちゃんと爆発して欲しかったです。
<ファイナルステージ>
1.や団
1本目と同じく伊藤が狂気的な人物を演じるネタでした。演者たちの年齢的なギャップの部分はクリアできていましたが、本間のツッコミにあんまり演技力がないのが1本目より気になりました。中嶋も狂った人物を演じていたのですが、伊藤より演じ切れていなかったと思います。
伊藤の狂気も、なんか作り物感が目立ってしまっていました。何でかと聞かれると困るのですが、雨を気にせず濡れている設定とか、雷と共に叫ぶ演出とかは、実にフィクション的で既視感に溢れており、かなり鼻についたので、ああいうところで冷めちゃったような気はします。
2.コットン
1本目に続き、きょんがおっさんみたいな女性を演じていました。きょんの演技力は確かなものであり、おっさんが出た時はおもしろかったです。西村の演技も1本目よりは良かったと思います。
ただまず「タバコを吸う女性」という笑いどころはあんまり目新しいものではないうえに、それに依拠したボケばっかりが出てくるので、ネタが一本調子になっていました。タバコが身近にないと分かりづらいあるあるネタ的なものも多かったです。
3.ビスケットブラザーズ
女装という設定はコットンとかぶっていましたが、コットンとは全然違う内容でした。むしろ芸人のコントでよく見るクオリティの低い女装を逆手に取った設定でした。
客席も松本もよく笑っていたので優勝は間違いないだろうとは思いましたが、私はなぜかあんまり笑えませんでした。多分「二重人格的」ともいえる設定が、やっぱり狂気の表現方法としては手垢まみれだからだと思います。や団と一緒で、狂気の作り物感が目立ち、冷めてしまったのでしょう。2人の演技力も、1本目よりは良かったようには思いましたが、まだまだです。
狂気の演出で参考になるのはやっぱり我が田中だと私は思っています。我が田中と今回の出場者たちは何がどう違うのかと聞かれても、多分非常に細かい部分の積み重ねでしかないので説明に困るのですが、逆に言うと細かい部分にまで神経を配ることが大事です。
<総評>
狂気的なネタが多かったですね。
客席のウケだけで考えるならビスケットブラザーズの優勝でいいとは思いますが、個人的には胸を張って推せるネタはありませんでした。
バラエティ的に使い道のありそうな新星も見つからなかった感じです。ビスケットブラザーズは、自分たちのキャラを出していかないとテレビに残れないと思います。
1.クロコップ
カードというアイテムの要素が付与されたオリジナルのあっちむいてホイをやるネタでした。そこに、80年代〜90年代の少年向けバトル漫画(及びそれを原作としたアニメ)のような、キャラクターが延々と長い説明台詞を言って状況や心情を逐一説明してくれる演出が入っていました。ネタの核にあったのは、そのノリであっちむいてホイというどうでも良さそうなゲームをやるズレです。その意味では、そういったバトル漫画(特にBGMにも使われていた遊戯王)のパロディという要素も多分にあるネタだったと思います。
このオリジナルあっちむいてホイは、前述の通り自分のターンが来るたびにカードを1枚引いて、自分へのバフや相手へのデバフをかけられるルールなのですが、出てくるカードのしょうもなさや、相手が引いたカードにどう対応するかは、ネタを作った人間(と見る人間)の大喜利力が試される部分ではありますが、あんまり印象に残るものはありませんでした。
細かいことかもしれませんが、私は表情の芝居がしきれていないと思いました。松本も顔のことに言及していましたが、特にあっちむいてホイでこっちを向いた時の顔は、2人とも油断していました。苦しい状況の時は苦しい表情をしてほしいですし、余裕な状況の時は余裕な表情をしてほしかったです。それこそパロディ元のバトル漫画のように、「くっ」とか「やあ」みたいな台詞をいちいち言うのもありかもしれません。
最後に出てきたハシゴも、コントの上ではヘリから垂れているという設定なのですが、ハシゴの上に何もないことが見えてしまっていたので、少し興ざめしました。テレビでこのネタをやる時は、ハシゴの上が見えなくなるように映像を切ってもいいと思います。ただ舞台でそこまでやるのは難しいでしょう。このギャップは、舞台でやられているネタをそのまんまテレビで放映している番組自体の問題なので、ネタをやっている芸人にはどうしようもありません。
あとオチなんですが、最後にチャイムを鳴らしてバトルを終えるという展開がまず挟まっていたので、「チャイムが鳴った瞬間に我に返って素に戻る」あるいは「先生に怒られる」みたいなベッタベタなものかと一瞬危惧してしまいました。ただその後ヘリが来るという(これも非常にバトル漫画らしい)もうひと展開があったので良かったのですが、この二段構え事態に若干面食らったので、チャイムはなしでもいいかもしれません。少しオチが散らかり気味かと思います。
2.ネルソンズ
実際に2人でかけっこ勝負をして何のヤマもオチもなく和田まんじゅうが勝ってしまったところはおもしろかったです。和田が「良かったあ」と言った瞬間に声を出して笑いました。和田演じる新郎が「足が速い」という設定はネタ中に散々フってきている部分なので、実際に他者と徒競走をさせた時にどうなるかというのは大喜利のしどころなのですが、本当にメチャクチャ速いとか、相手の青山がものすごく遅いとかそういう分かりやすいのが何にもなかったことに逆に意表を突かれました。和田本人はどう見ても足が速そうには見えない風貌なのに、「足が速い」と連呼して見る側を不安にさせておいて、「どう落とし前をつけるのか」とモヤモヤしていたら特に何もない、というのは計算だったらすごいと思います。ただ残りの部分の展開は、ネタの設定に対する大喜利への答えとしてはそこまでのものがなかった印象です。
和田もコント中ずっと表情で芝居をしていたのはエラいです。とはいえこのコントでの和田の役回りはツッコミであり、説得力を持ってそのキャラを見せるには相当な演技力が必要です。今回の和田は普段のイジられキャラが若干透けて見えてしまっていました。これを払拭するにはもう少し芝居を磨く必要があります。こればっかりは本当に微妙な問題であり、なおかつ「どう芝居すればおもしろく見えるか」という大喜利的な観点も混ざってくるので、具体的にどういう芝居をすればいいのかは私にもなんとも言えません。色々試してウケるものを見つけていくしかないところだとは思います。
3.かが屋
飲み屋で飲む女上司(賀屋)と男の部下(加賀)という設定でした。冒頭、女上司が男の部下を責め、部下がそれに困惑するというフリのシーンが割りと長めに入ります。そのフリの後に、賀屋がトイレに移動して同僚らしき人物に電話をかけ、この状況に対するネタバラシが入ります。このネタバラシは、その後部下がトイレに入った時にも行われていました。
そしてこの2度のネタバラシは、とてもおもしろかったです。冒頭の若干長いフリもきちんと活きていました。賀屋が女上司をきちんと演じられていたからこそネタバラシでの大きい笑いを生むことができたんだと思います。
ただ松本や飯塚が言っていたように、後半このネタは失速します。私も2度のトイレでのネタバラシ以外におもしろいポイントはなかったと思います。ネタバラシが済んでしまうと、「公共の場でSMプレイをする2人」と「それを見て困惑する第三者」という手垢にまみれた設定になってしまうからです。そこにちゃんと工夫があれば文句なしで優勝できるネタだったと思います。
4.いぬ
有馬は舞台コント用の若干大仰な芝居がとてもうまいと思いました。
本人たちも冒頭の煽りVTRで言っていましたが、水曜日のダウンタウンの30-1グランプリで見せていたような「気持ちの悪い」ネタでした。一応、括弧をつけておきます。ゴールデンでできたことが結構な奇跡だと思います。
とはいえ小峠や山内も言っていたように、やっていることが基本的にずっと一緒なので、ファーストインパクトはかなりある一方で、見続けているとだんだん飽きてきます。しつこくやることで「気持ち悪さ」が増していくのは確かなので、一本調子に徹するのは「気持ち悪いこと」をやりたいのであれば間違っていない演出です。ただ優勝や笑いを目指す場合は、違う展開が欲しいところです。本人たちが「気持ち悪いこと」をやりたい(あるいはそれが笑いに直結すると思っている)可能性も若干ある気がしますから、そうであれば周りの言うことなど無視すればいいと思います。
そんな風に思うのは、太田がう大やどぶろっくに若干雰囲気が似ているからかもしれません。
5.ロングコートダディ
料理の鉄人的な番組の収録という設定で、何度入場をやり直しても帽子を落としてしまう料理人(兎)とツッコミ役のAD(堂前)のコントでした。
この手の一向に前に進んでいかないハウツーコントは、実力のあるツッコミと本物の天然(例えばさんちゃんとジミーちゃん)にアドリブでやらせるのが一番おもしろいです。敢えてそこに挑んでいった度胸は買いますが、まず兎はやばい天然を「全然」演じ切れていないと思います。なんか、わざと演じている感が抜けません。堂前のツッコミの演技は及第点なだけに惜しいです。
またネタ中に出てくるボケもあんまり大喜利力の高さを感じませんでした。帽子が落ちてしまうというボケもはっきり言えばベッタベタであり、何度も繰り返すようなものではありません。同じボケを何度も繰り返したと言えば2015年のロッチの一本目のネタ(試着室のやつ)ですが、あの水準には達していないものです。
去年のM-1で見たときも思いましたが、ロングコートダディはそんなに大喜利が得意じゃないのでしょうかね。
6.や団
3人全員にかなりの演技力が求められるコントです。死んだフリドッキリをする中嶋はネタバラシの際のおちゃらけた演技が、ツッコミ役の本間にはシリアルキラーを見てしまったことに対する驚きの演技が求められます。そして一番難しいのは伊藤であり、シリアルキラーの静謐な狂気を孕んだ落ち着きと、普段のふざけた感じをどちらも演じ切って、両者のギャップを出す必要があります。いずれも日常生活ではまず出くわさないシチュエーションである(=見る側も正解が分からない)ため、演技力を上げて説得力を出そうにもかなりの空中戦を求められます。
ただ3人とも演技力が必要な水準に達していないと思います。サイコパスが出てくる映画とかは、参考になるんじゃないでしょうかね。また見た目のことを言うのはもうあんまり良くないのでしょうが、3人ともアラフォーであるためか目尻の皺が目立ち、血色もあんまり良くないので、「河原で遊ぶ」という若者のような設定が似合いません。そこがまず気になってしまいます。
飯塚が褒めていた死体処理のリアリティは、多分サスペンスやウシジマくんで結構こすられている話なので、こちらが知らない知識をもっと出して欲しかったです。
7.コットン
冒頭の煽りVTRできょんの憑依力について言われていましたが、確かにキャラはちゃんと演じられていたと思います。おばさんとおっさんをきちんと演じ分けられていました。一方相方の西村の演技力が並なので、きょんとの対比で悪目立ちしてしまった印象はあります。
設定は、浮気をしてしまった男(西村)が依頼した浮気証拠バスターなる業者のおばちゃん(きょん)が男の部屋に来て実際に証拠隠滅を行うという今までにないものです。おばちゃんが出したローラーが伸びたところはおもしろかったですが、「浮気をした男が残す証拠大喜利」に対する回答としてネタを見ると物足りなかったです。また細かいことかもしれませんが、おばちゃんは消臭スプレーを掛け布団の上から噴霧するだけで、掛け布団の下には何もしていませんでした。そういういい加減さでおばちゃんの腕の良さについての説得力が減じられてしまうので、もっと注意した方がいいと思います。
それからおばちゃんはネタ中にやってきた浮気男の彼女をだまくらかすために途中でおっさんになるのですが、見る側は最初から「本当はきょんというおっさんである」ということが分かっているので、さほどの驚きも笑いも生じませんでした。最初はおっさんの状態で登場し、途中でおばちゃんに変わる方が驚きは生まれると思います(それはおもしろいかどうかはまた別の話です)。少なくとも、煽りVTRで素の状態のきょんの姿をネタの前に見せてしまったのはあんまり良くなかったと思います。あれでは先にネタバラシを受けるようなものなので、きょんが途中でおっさんに変わってもインパクトがありません。
8.ビスケットブラザーズ
煽りVTRで2人から「笑うことをあきらめるな」を言われました。おもしろくないのをこっちのせいにされているようで若干腹が立ったので、他の出場者より悪口マシマシで書きます。
2人とも演技力は大したことはありません。
設定も、細かいことを抜きにすればピンチの人を助けにやって来たヒーローがツッコミどころ満載という古めかしいもので、ネタ中に出てくるボケも「こんなヒーローは嫌だ大喜利」への回答として見たときに、75点〜85点ぐらいに終始していた印象です。だって、下がブリーフで上が女物のセーラー服なんですよ。私が思い出したのは、水曜日のダウンタウンでバカにされていたFUJIWARAのヒーローショーコントや、同じ番組で知った5GAPのヒーローショーコントでした。最大限悪く言うと、おもしろい小学生が一生懸命考えた感じなんです。ネタ自体の展開もひたすら「こんなヒーローは嫌だ大喜利」に答えていくだけで、単発のボケが足し算で積み重ねてられていくのみであり、深みがほとんどありません。それこそFUJIWARAのヒーローショーコントみたいに営業をフラっと見に来たライト層にはウケるネタなんだと思います。審査員は客席のウケに引っ張られ過ぎでしょう。
ただ、煽りVTRであんなこと言われなければもうちょっと楽しく見られたような気はしてきました。煽りVTRはもっと錦鯉みたいなバカっぽい感じで撮られた方が良かったと思います。
9.ニッポンの社長
EVA的な設定でした。博士(辻)が少年(ケツ)を巨大ロボットのパイロットとして勧誘するのですが、色々あって結局乗れないという展開を繰り返します。この「乗れない理由」が大喜利になっているという構造です。
言いたいことはほとんど山内に言われてしまいましたが、一応書いておきます。まずコントの構造として、大喜利の答え(=乗れない理由)が明らかになるたびに暗転するという展開を繰り返していたため、一つ一つの大喜利がぶつ切りで、ネタ全体もただの足し算になってしまっていました。どうせなら前のものを伏線にして後に活かすような展開が欲しかったです。例えば、見ている側には明示されなかった最初の「乗れない理由」とかは、後に活かせるはずです。私はニッポンの社長ならそれくらいやってくれるはずだと思って見ていましたが、何もありませんでした。
そして、その手の伏線めいた練り込みがないわりに一つ一つの大喜利にもそこまで爆発力はなく、しかも暗転時のケツの表情を見せるのに時間をとっているためか、絶対数も少なかったです。最後のオチで暗転を2回繰り返した意図もよく分かりませんでした。1回目の暗転後にハケようとするケツを見せておいてそこでもう1回暗転するというボケなのかなとも思いましたが、これも私の想像でしかありません。
10.最高の人間
吉住と岡野陽一というピン芸人2人の即席ユニットです。
岡野がテーマパークの園長、吉住がそのテーマパークのピエロ的なはっちゃけキャラを演じるという設定で、2人の演技力がコント全体から出そうとしている狂気を存分に表出できていたと思います。吉住は、はっちゃけている芝居・素の芝居・岡野に恐怖する芝居を全部ちゃんとやっていました。ただ、ピエロ的なバカ明るい存在が逆に狂って見えるというのは結構こすられているテーマかとは思います。それこそ、バットマンのジョーカーみたいなもんですね。
吉住が素に戻って「逃げて」と言った瞬間はおもしろかったです。これは吉住の演技力でちゃんとギャップを出せていたからです。ただあとは全体的に笑いより狂気が先に出ていました。
あと最後の岡野は、どうせならちゃんと爆発して欲しかったです。
<ファイナルステージ>
1.や団
1本目と同じく伊藤が狂気的な人物を演じるネタでした。演者たちの年齢的なギャップの部分はクリアできていましたが、本間のツッコミにあんまり演技力がないのが1本目より気になりました。中嶋も狂った人物を演じていたのですが、伊藤より演じ切れていなかったと思います。
伊藤の狂気も、なんか作り物感が目立ってしまっていました。何でかと聞かれると困るのですが、雨を気にせず濡れている設定とか、雷と共に叫ぶ演出とかは、実にフィクション的で既視感に溢れており、かなり鼻についたので、ああいうところで冷めちゃったような気はします。
2.コットン
1本目に続き、きょんがおっさんみたいな女性を演じていました。きょんの演技力は確かなものであり、おっさんが出た時はおもしろかったです。西村の演技も1本目よりは良かったと思います。
ただまず「タバコを吸う女性」という笑いどころはあんまり目新しいものではないうえに、それに依拠したボケばっかりが出てくるので、ネタが一本調子になっていました。タバコが身近にないと分かりづらいあるあるネタ的なものも多かったです。
3.ビスケットブラザーズ
女装という設定はコットンとかぶっていましたが、コットンとは全然違う内容でした。むしろ芸人のコントでよく見るクオリティの低い女装を逆手に取った設定でした。
客席も松本もよく笑っていたので優勝は間違いないだろうとは思いましたが、私はなぜかあんまり笑えませんでした。多分「二重人格的」ともいえる設定が、やっぱり狂気の表現方法としては手垢まみれだからだと思います。や団と一緒で、狂気の作り物感が目立ち、冷めてしまったのでしょう。2人の演技力も、1本目よりは良かったようには思いましたが、まだまだです。
狂気の演出で参考になるのはやっぱり我が田中だと私は思っています。我が田中と今回の出場者たちは何がどう違うのかと聞かれても、多分非常に細かい部分の積み重ねでしかないので説明に困るのですが、逆に言うと細かい部分にまで神経を配ることが大事です。
<総評>
狂気的なネタが多かったですね。
客席のウケだけで考えるならビスケットブラザーズの優勝でいいとは思いますが、個人的には胸を張って推せるネタはありませんでした。
バラエティ的に使い道のありそうな新星も見つからなかった感じです。ビスケットブラザーズは、自分たちのキャラを出していかないとテレビに残れないと思います。
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