2022年のM-1です。
<過去回>
→2021.12.19M-1グランプリ2021
→2020.12.20M-1グランプリ2020
→2019.12.22M-1グランプリ2019
→2018.12.2M-1グランプリ2018
→2017.12.3M-1グランプリ2017
→2016.12.4M-1グランプリ2016
1.カベポスター
ボケの永見が過去の出来事(自分が参加した大声コンテスト)を独り芝居で再現していくのに対して、浜田が横でツッコミを入れていくスタイルの漫才でした。M-1の決勝で同じスタイルの漫才をやったコンビとして思い出されるのは、スーパーマラドーナですね。
1ボケと1ツッコミのユニットをひたすら積み上げていく足し算の漫才ではなく、常に前のクダリが後ろのクダリの伏線にちゃんとなっており、それがどんどん連鎖していく台本だったのは好感が持てました。『ん』で終わる言葉を言わせなくなったとか、ユリアにつなげる参加者とか、キスでは口をすぼめない最後のオチとかは、全て前に伏線がありました。
ただそこまでウケは広がっていなかった印象です。トップバッターだったというのもあるとは思いますが、永見が再現していた大声コンテストの参加者の声量が全員同じくらいで、「永見が優勝した」という設定にあまり説得力がなかったのは良くなかった気がします。永見が言葉で誰が優勝したのかを説明をしてくれていたので、設定の理解に難が生じるということはなかったのですが、どうにも説明的でとってつけた感が否めないのです。
もちろん、あまり声を小さくし過ぎるとお客さんに聞こえなくなってしまうので、バランスが難しいことではあるのですが、できる人は「(お客さんには)通るけど小さい(とお客さんがハッキリ判断できる)声」を出せるはずです。
あと、糸電話のツカミはおもしろかったです。大声コンテストで叫ばれるワードのチョイスにも大喜利のセンスを感じました。ただ、もっとこだわれるとは思います。大声コンテストのワードチョイスの方は少しウケ狙いが過ぎる感はありました。
ツッコミの浜田は声が若干麒麟川島に似ていると思いました。
2.真空ジェシカ
ネタのフォーマットは去年と同じで、コント風の漫才でした。ただ、1ボケと1ツッコミのユニットを積み上げていく足し算の漫才であり、カベポスターみたいな前後の伏線がないのも去年から変わっていませんでした。
とはいえ、去年より大喜利力は上がっていたと思います。ただそのせいで浮かび上がってしまったのは川北の演技力の低さでしょう。ガクのツッコミは及第点だと思います。風貌のせいもあるかとは思いますが、南キャンの山ちゃんみたいにできていると思います。ただ川北は、「ボケたがりだけど演技力がついていっていない作家タイプの芸人」の代表格みたいな存在に見えてしまいます。笑わずにポーカーフェイスを保ててはいるのですが、全部ウケ狙いでわざとやっているように映ってしまうのです。もう1つ上のステージに行くには、ザキヤマやフット岩尾みたいな絶妙にとぼけた感じを出していく(=モノホンの天然ボケの人なんだなとお客さんを錯覚させる)必要があります。これは、大喜利力の低さもカバーできる最強の武器です。川北は風貌でも損をしているような気がするので、ザキヤマや岩尾みたいなフラを身に付けた方がいいということも付け加えておきますが、そのあたりは最終的には本人がやりたいようにやればいいとも思います。
3.オズワルド(敗者復活組)
決勝に上がってこれなかったのも納得の出来でした。おもしろくなくはないんですが、去年のネタと比べるとどうしても爆発力に欠けます。
この理由を説明するのは、難しいです。多分、とっても微妙な部分なんです。畠中の演技力に改善が見られず、サイコパスを全く演じきれていないのは去年と一緒なので、そこの問題ではないのです。複数の審査員が指摘していましたが、前半の笑いが少ない時間が去年のネタより長かったのは一因だとは思います。
あとはまあ、本当に細かい話ですが、ブラックコーヒーを飲めない理由を説明する伊藤の台詞は何と言っているのかよく分からなかった(「致死量を超えた麦茶」って言ってますかね?)ですし、その前段階として伊藤のヤバイ情報を暴露しようとする畠中に対して伊藤があんなに焦った(演技をする)理由もよく分かりませんでした。フリとして畠中が暴露した自分の情報は「好きな人の抜け毛を食べる」というものだったのですが、サイコ畠中にツッコむ常識人としてずっと振る舞う役の伊藤に同レベルの暴露ネタがあるとは思われないので、あんなに焦ることが理解できないのです。もっとフリが必要だと思います(畠中の台詞に「俺はお前のヤバい情報も持ってるんだぞ」みたいなのを加える、とかです)。
ここに書いたのはいずれも非常に細かい点だとは思いますが、M-1で上を狙うにはそういう細かい点もおろそかにできないということでしょう。
4.ロングコートダディ
去年と同じコント風の漫才でした。マラソンの世界大会という設定で「こんな奴に抜かされたらイヤだ」という大喜利を延々と交互にやっていくネタでした(そういう意味では、笑い飯的なネタでもあります)。と思いきや、最後にはちゃんと伏線回収の大オチが待っていました。
2人は基本ずっと走っているので、ちょっと足音がうるさかったというのはあります。「こんな奴に抜かされたらイヤだ」大喜利も、全体的にそこまでレベルが高くはないと思いました。そのうえ漫才なので基本的に「こんな奴に抜かされたらイヤだ」というボケをパントマイムで表現せざるを得ず、ツッコミ役が言葉で表現することで初めてどんな奴かが分かるという仕組みになっていたのですが、そのせいでカベポスターみたいに説明的になってしまい、ウケ狙い感が出ていたのは良くなかったと思います。漫才なので、あんまりムチャクチャなボケや漫画チックなボケ(おもしろいかどうかはおいといて、パーマンとか、馬に乗った三蔵法師とか、裸足で手術着の人とか、そういうやつです)ができないのも難しいところでしょう
5.さや香
関西弁で延々ケンカをするしゃべくり漫才でした。2人の技術は、ちゃんとしています。このネタに限った話ではありますが、演技力もちゃんとあります。
ハイヒールややすともを見ていると思いますが、関西弁のしゃべくり漫才の強みってアドリブ感が出せることだと思うんですよね。アドリブで立ち話をしている感じを出せると、作り物感が薄れて、「マジでボケている人」をより容易に演出することができるのです。
ただ今回さや香の場合、ボケの石井が34歳にして免許を返納したといういかにも作り物っぽい話から漫才が始まっていたので、作り物感を消せるという関西弁のしゃべくり漫才のメリットを自ら放棄してしまっていました。それは、とてももったいないことだと思います。そのせいで父親が81歳という話も嘘に聞こえしまうので、結構な大ネタなのに惜しいと思います。
もうちょっと時間を長めにとって自由にしゃべった方が、良さが出る気はします。あんまりM-1向きって感じがしません。
6.男性ブランコ
私が真っ先に思ったのはバカリズムの「都道府県の持ち方」とかマユリカ中谷の「ひらがなを尻に入れる」ってネタに似ているということですかね。本来実体として存在しない記号を手で取り扱うという発想が一緒です。別に、パクったと言いたいわけではありません。大喜利的な発想力は、非常に高いと思います。私は1本目のネタの中では一番好きです。
2人とも、演技力もちゃんとしています。毎回オチでは浦井が死んでばっかりで変化が欲しいかなとは思いましたが、オチを死で揃えることでロッチの更衣室ネタみたいに良くなっている気がしました。
ただ全部をパントマイムでやっており、見る側が想像しなければならない部分が大きいので、何が起きたのかよく分からない瞬間があったのは残念です。五線譜が倒れてきてゆで卵みたいに切られたなんてのは言葉で説明されるまで何が起きたか分かりませんでした。
7.ダイヤモンド
コンセプトはいいんですよ。日本語の言葉遊びで言わなくていい情報をわざわざ押しつけてくるという内容のネタだったので、私はわらふぢなるおのカラ質問のネタを思い出しました。
ただわらふぢなるおと比べると、ダイヤモンドの2人は演技力が物足りません。2人とも物足りません。技術が物足りないのかもしれません。何と言っていいのか分かりませんが、ヘタな漫才を見たときに覚える「この人ヘタだなあ」という感想が真っ先に出てきます。ナイナイのANNの「ナイナイ30周年記念漫才」というコーナーで矢部のヘタなツッコミを聞いた時と同じ感想です。
ボケの野澤はヘタでも「そういうしゃべり方しかできない変な人なのだ」と理解すればいいのでまだ許せるのですが、ツッコミの小野がヘタなのは致命的です。あと「もね」という語尾をあんなに嫌がる理由もよく分かりません。
ネタはいいのに、ノイズが多すぎてだいぶ損なわれています。非常にもったいないです。もう一回言いますが、ネタのコンセプトはいいのです。審査員は言葉遊びがワンパターンだとは言っていましたが、私は上記の技術的な問題が解決できれば中身はワンパターンでも結構ごり押していけると思っています。
8.ヨネダ2000
THE Wでのこのコンビのネタを見た限りでは、今年のランジャタイ枠だろうなあと予想していたのですが、本当にそうでしたね。
ネタ自体は2021年のTHE Wで披露したものと似ており、ずっと一定のリズムがある中で色々やっていくという内容でした。愛が急にDA PUMPに入ってきたときは私も声を出して笑いました。
やりたいことをやりきった感は受けたので、どこをどう直した方がいいという話は特にありません。去年のTHE Wの時と比べれば、やりきる力も伸びてきていると思います。
9.キュウ
ツッコミの清水は、ここぞというところでは歌舞伎並みに大袈裟に芝居がかったツッコミを入れています。ただそれに引っ張られているのか普通の部分のしゃべりも妙に芝居がかっていてクサかったので、意識して直した方がいい気はします。東京ホテイソンのたけると同じ問題ですね。それと、ツッコミの時のあの手は粗品と被って見えてしまうような気がします。
前半はフリが長く、笑いの総量も少なかったのですが、後半一気に畳みかけてきました。「うまいでしょう」に対する「うまくないでしょう」というツッコミは今年のM-1で一番おもしろかったですよ。
10.ウエストランド
あれですね。ちょっとずつヒントが出てきて誤答で悪口を言うという構成が、往年の「芸能人検索ワード連想クイズ」の笑いそのものです。一度不正解とされたもの(「警察に捕まり始めている」)を後から出てきたヒントでもう一度言う笑いなど、あのコーナーで見られた笑いのパターンが体現されていました。ただやっぱりおもしろさの根源は、悪口が芯を喰っているから、というよりかは、間違っている(一度不正解にされたものをもう一度言うというのも、間違いのひとつです)から、というところにあると思います
そしてあのコーナーは、ちゃんと正解があるからボケとしての誤答のズレが際立つのであって、今回のネタでもあるなしクイズの正解を最後にはちゃんと発表して欲しかったです。その担保がないと、単に悪口のために正解のないクイズを用意したということになり、正解からのズレがなくなってしまいます。そうすると、「間違っている」というズレの根幹が遊泳しだしてしまうのです。
最後に正解を発表するとオチがなくなるので難しさはあるのですが、何とかしてもうひと展開してオチをつけるか、テロップでも何でもいいので正解を発表する仕組み(これはM-1では不可能なので、M-1以外の場でこのネタをやる場合、ということになります)を用意するか、少なくともどちらかはやっといて欲しいです。
<最終決戦>
1.ウエストランド
1本目と同じ構造のネタでした。こちらでは私の希望通りあるなしクイズの本当の正解を最後に発表してくれていましたが、やっぱりこれをやるとうまくオチないんですね。
悪口を言っているだけで、一度不正解になったものをもう一度言うクダリとか、しょうもないダジャレみたいな連想とか、ちゃんと複数のヒントをまとめて考えた解答とかをもっと見せてほしかったです。ただ客も前の方に言われたヒントは忘れてしまうので、やっぱりテロップでずっと出しておく必要があるのでしょう。
2.ロングコートダディ
タイムマシンを題材にしたコント漫才でした。
大きな笑いが、「堂前のジェスチャーが実は江戸時代じゃなくて去年のだった」というクダリで起きるのですが、この数が少なく、笑いの総量が少なくなってしまっていた印象を受けました。
あと兎がツッコミの際に大きくガッツポーズをするのは、私はそんなに好きではありませんでしたが、好みの問題です。
3.さや香
嘘っぽい導入がなかった分、関西人のアドリブ立ち話感を1本目より出せていたと思います。ただまだまだ2人ともしゃべりに芝居がかかってる部分が若干あるので、これから芸歴を積んでそのクサさを消していければもっと良いと思います。
テンション高く絶叫する様子はブラマヨやチュートっぽかったですし、急に正気に戻るクダリはハマカーンを彷彿とさせました。これまでのチャンピオンが脳裏に浮かんできた感じです。
<総評>
私はさや香がもっと競るかなと思いましたが、多分ウエストランドに悪口を言われたせいで贔屓目に見ていた分もあると思います。よく考えれば、審査員には人を傷つける笑いが好きそうな面々が揃っていたので、だからこそウエストランドの漫才が刺さったのかもしれません。
演者は誰も触れていませんでしたが、優勝賞品に(さや香がディスっていた)佐賀牛が入っていたのがキュウの「うまくないでしょう」の次におもしろかったです。
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1.カベポスター
ボケの永見が過去の出来事(自分が参加した大声コンテスト)を独り芝居で再現していくのに対して、浜田が横でツッコミを入れていくスタイルの漫才でした。M-1の決勝で同じスタイルの漫才をやったコンビとして思い出されるのは、スーパーマラドーナですね。
1ボケと1ツッコミのユニットをひたすら積み上げていく足し算の漫才ではなく、常に前のクダリが後ろのクダリの伏線にちゃんとなっており、それがどんどん連鎖していく台本だったのは好感が持てました。『ん』で終わる言葉を言わせなくなったとか、ユリアにつなげる参加者とか、キスでは口をすぼめない最後のオチとかは、全て前に伏線がありました。
ただそこまでウケは広がっていなかった印象です。トップバッターだったというのもあるとは思いますが、永見が再現していた大声コンテストの参加者の声量が全員同じくらいで、「永見が優勝した」という設定にあまり説得力がなかったのは良くなかった気がします。永見が言葉で誰が優勝したのかを説明をしてくれていたので、設定の理解に難が生じるということはなかったのですが、どうにも説明的でとってつけた感が否めないのです。
もちろん、あまり声を小さくし過ぎるとお客さんに聞こえなくなってしまうので、バランスが難しいことではあるのですが、できる人は「(お客さんには)通るけど小さい(とお客さんがハッキリ判断できる)声」を出せるはずです。
あと、糸電話のツカミはおもしろかったです。大声コンテストで叫ばれるワードのチョイスにも大喜利のセンスを感じました。ただ、もっとこだわれるとは思います。大声コンテストのワードチョイスの方は少しウケ狙いが過ぎる感はありました。
ツッコミの浜田は声が若干麒麟川島に似ていると思いました。
2.真空ジェシカ
ネタのフォーマットは去年と同じで、コント風の漫才でした。ただ、1ボケと1ツッコミのユニットを積み上げていく足し算の漫才であり、カベポスターみたいな前後の伏線がないのも去年から変わっていませんでした。
とはいえ、去年より大喜利力は上がっていたと思います。ただそのせいで浮かび上がってしまったのは川北の演技力の低さでしょう。ガクのツッコミは及第点だと思います。風貌のせいもあるかとは思いますが、南キャンの山ちゃんみたいにできていると思います。ただ川北は、「ボケたがりだけど演技力がついていっていない作家タイプの芸人」の代表格みたいな存在に見えてしまいます。笑わずにポーカーフェイスを保ててはいるのですが、全部ウケ狙いでわざとやっているように映ってしまうのです。もう1つ上のステージに行くには、ザキヤマやフット岩尾みたいな絶妙にとぼけた感じを出していく(=モノホンの天然ボケの人なんだなとお客さんを錯覚させる)必要があります。これは、大喜利力の低さもカバーできる最強の武器です。川北は風貌でも損をしているような気がするので、ザキヤマや岩尾みたいなフラを身に付けた方がいいということも付け加えておきますが、そのあたりは最終的には本人がやりたいようにやればいいとも思います。
3.オズワルド(敗者復活組)
決勝に上がってこれなかったのも納得の出来でした。おもしろくなくはないんですが、去年のネタと比べるとどうしても爆発力に欠けます。
この理由を説明するのは、難しいです。多分、とっても微妙な部分なんです。畠中の演技力に改善が見られず、サイコパスを全く演じきれていないのは去年と一緒なので、そこの問題ではないのです。複数の審査員が指摘していましたが、前半の笑いが少ない時間が去年のネタより長かったのは一因だとは思います。
あとはまあ、本当に細かい話ですが、ブラックコーヒーを飲めない理由を説明する伊藤の台詞は何と言っているのかよく分からなかった(「致死量を超えた麦茶」って言ってますかね?)ですし、その前段階として伊藤のヤバイ情報を暴露しようとする畠中に対して伊藤があんなに焦った(演技をする)理由もよく分かりませんでした。フリとして畠中が暴露した自分の情報は「好きな人の抜け毛を食べる」というものだったのですが、サイコ畠中にツッコむ常識人としてずっと振る舞う役の伊藤に同レベルの暴露ネタがあるとは思われないので、あんなに焦ることが理解できないのです。もっとフリが必要だと思います(畠中の台詞に「俺はお前のヤバい情報も持ってるんだぞ」みたいなのを加える、とかです)。
ここに書いたのはいずれも非常に細かい点だとは思いますが、M-1で上を狙うにはそういう細かい点もおろそかにできないということでしょう。
4.ロングコートダディ
去年と同じコント風の漫才でした。マラソンの世界大会という設定で「こんな奴に抜かされたらイヤだ」という大喜利を延々と交互にやっていくネタでした(そういう意味では、笑い飯的なネタでもあります)。と思いきや、最後にはちゃんと伏線回収の大オチが待っていました。
2人は基本ずっと走っているので、ちょっと足音がうるさかったというのはあります。「こんな奴に抜かされたらイヤだ」大喜利も、全体的にそこまでレベルが高くはないと思いました。そのうえ漫才なので基本的に「こんな奴に抜かされたらイヤだ」というボケをパントマイムで表現せざるを得ず、ツッコミ役が言葉で表現することで初めてどんな奴かが分かるという仕組みになっていたのですが、そのせいでカベポスターみたいに説明的になってしまい、ウケ狙い感が出ていたのは良くなかったと思います。漫才なので、あんまりムチャクチャなボケや漫画チックなボケ(おもしろいかどうかはおいといて、パーマンとか、馬に乗った三蔵法師とか、裸足で手術着の人とか、そういうやつです)ができないのも難しいところでしょう
5.さや香
関西弁で延々ケンカをするしゃべくり漫才でした。2人の技術は、ちゃんとしています。このネタに限った話ではありますが、演技力もちゃんとあります。
ハイヒールややすともを見ていると思いますが、関西弁のしゃべくり漫才の強みってアドリブ感が出せることだと思うんですよね。アドリブで立ち話をしている感じを出せると、作り物感が薄れて、「マジでボケている人」をより容易に演出することができるのです。
ただ今回さや香の場合、ボケの石井が34歳にして免許を返納したといういかにも作り物っぽい話から漫才が始まっていたので、作り物感を消せるという関西弁のしゃべくり漫才のメリットを自ら放棄してしまっていました。それは、とてももったいないことだと思います。そのせいで父親が81歳という話も嘘に聞こえしまうので、結構な大ネタなのに惜しいと思います。
もうちょっと時間を長めにとって自由にしゃべった方が、良さが出る気はします。あんまりM-1向きって感じがしません。
6.男性ブランコ
私が真っ先に思ったのはバカリズムの「都道府県の持ち方」とかマユリカ中谷の「ひらがなを尻に入れる」ってネタに似ているということですかね。本来実体として存在しない記号を手で取り扱うという発想が一緒です。別に、パクったと言いたいわけではありません。大喜利的な発想力は、非常に高いと思います。私は1本目のネタの中では一番好きです。
2人とも、演技力もちゃんとしています。毎回オチでは浦井が死んでばっかりで変化が欲しいかなとは思いましたが、オチを死で揃えることでロッチの更衣室ネタみたいに良くなっている気がしました。
ただ全部をパントマイムでやっており、見る側が想像しなければならない部分が大きいので、何が起きたのかよく分からない瞬間があったのは残念です。五線譜が倒れてきてゆで卵みたいに切られたなんてのは言葉で説明されるまで何が起きたか分かりませんでした。
7.ダイヤモンド
コンセプトはいいんですよ。日本語の言葉遊びで言わなくていい情報をわざわざ押しつけてくるという内容のネタだったので、私はわらふぢなるおのカラ質問のネタを思い出しました。
ただわらふぢなるおと比べると、ダイヤモンドの2人は演技力が物足りません。2人とも物足りません。技術が物足りないのかもしれません。何と言っていいのか分かりませんが、ヘタな漫才を見たときに覚える「この人ヘタだなあ」という感想が真っ先に出てきます。ナイナイのANNの「ナイナイ30周年記念漫才」というコーナーで矢部のヘタなツッコミを聞いた時と同じ感想です。
ボケの野澤はヘタでも「そういうしゃべり方しかできない変な人なのだ」と理解すればいいのでまだ許せるのですが、ツッコミの小野がヘタなのは致命的です。あと「もね」という語尾をあんなに嫌がる理由もよく分かりません。
ネタはいいのに、ノイズが多すぎてだいぶ損なわれています。非常にもったいないです。もう一回言いますが、ネタのコンセプトはいいのです。審査員は言葉遊びがワンパターンだとは言っていましたが、私は上記の技術的な問題が解決できれば中身はワンパターンでも結構ごり押していけると思っています。
8.ヨネダ2000
THE Wでのこのコンビのネタを見た限りでは、今年のランジャタイ枠だろうなあと予想していたのですが、本当にそうでしたね。
ネタ自体は2021年のTHE Wで披露したものと似ており、ずっと一定のリズムがある中で色々やっていくという内容でした。愛が急にDA PUMPに入ってきたときは私も声を出して笑いました。
やりたいことをやりきった感は受けたので、どこをどう直した方がいいという話は特にありません。去年のTHE Wの時と比べれば、やりきる力も伸びてきていると思います。
9.キュウ
ツッコミの清水は、ここぞというところでは歌舞伎並みに大袈裟に芝居がかったツッコミを入れています。ただそれに引っ張られているのか普通の部分のしゃべりも妙に芝居がかっていてクサかったので、意識して直した方がいい気はします。東京ホテイソンのたけると同じ問題ですね。それと、ツッコミの時のあの手は粗品と被って見えてしまうような気がします。
前半はフリが長く、笑いの総量も少なかったのですが、後半一気に畳みかけてきました。「うまいでしょう」に対する「うまくないでしょう」というツッコミは今年のM-1で一番おもしろかったですよ。
10.ウエストランド
あれですね。ちょっとずつヒントが出てきて誤答で悪口を言うという構成が、往年の「芸能人検索ワード連想クイズ」の笑いそのものです。一度不正解とされたもの(「警察に捕まり始めている」)を後から出てきたヒントでもう一度言う笑いなど、あのコーナーで見られた笑いのパターンが体現されていました。ただやっぱりおもしろさの根源は、悪口が芯を喰っているから、というよりかは、間違っている(一度不正解にされたものをもう一度言うというのも、間違いのひとつです)から、というところにあると思います
そしてあのコーナーは、ちゃんと正解があるからボケとしての誤答のズレが際立つのであって、今回のネタでもあるなしクイズの正解を最後にはちゃんと発表して欲しかったです。その担保がないと、単に悪口のために正解のないクイズを用意したということになり、正解からのズレがなくなってしまいます。そうすると、「間違っている」というズレの根幹が遊泳しだしてしまうのです。
最後に正解を発表するとオチがなくなるので難しさはあるのですが、何とかしてもうひと展開してオチをつけるか、テロップでも何でもいいので正解を発表する仕組み(これはM-1では不可能なので、M-1以外の場でこのネタをやる場合、ということになります)を用意するか、少なくともどちらかはやっといて欲しいです。
<最終決戦>
1.ウエストランド
1本目と同じ構造のネタでした。こちらでは私の希望通りあるなしクイズの本当の正解を最後に発表してくれていましたが、やっぱりこれをやるとうまくオチないんですね。
悪口を言っているだけで、一度不正解になったものをもう一度言うクダリとか、しょうもないダジャレみたいな連想とか、ちゃんと複数のヒントをまとめて考えた解答とかをもっと見せてほしかったです。ただ客も前の方に言われたヒントは忘れてしまうので、やっぱりテロップでずっと出しておく必要があるのでしょう。
2.ロングコートダディ
タイムマシンを題材にしたコント漫才でした。
大きな笑いが、「堂前のジェスチャーが実は江戸時代じゃなくて去年のだった」というクダリで起きるのですが、この数が少なく、笑いの総量が少なくなってしまっていた印象を受けました。
あと兎がツッコミの際に大きくガッツポーズをするのは、私はそんなに好きではありませんでしたが、好みの問題です。
3.さや香
嘘っぽい導入がなかった分、関西人のアドリブ立ち話感を1本目より出せていたと思います。ただまだまだ2人ともしゃべりに芝居がかかってる部分が若干あるので、これから芸歴を積んでそのクサさを消していければもっと良いと思います。
テンション高く絶叫する様子はブラマヨやチュートっぽかったですし、急に正気に戻るクダリはハマカーンを彷彿とさせました。これまでのチャンピオンが脳裏に浮かんできた感じです。
<総評>
私はさや香がもっと競るかなと思いましたが、多分ウエストランドに悪口を言われたせいで贔屓目に見ていた分もあると思います。よく考えれば、審査員には人を傷つける笑いが好きそうな面々が揃っていたので、だからこそウエストランドの漫才が刺さったのかもしれません。
演者は誰も触れていませんでしたが、優勝賞品に(さや香がディスっていた)佐賀牛が入っていたのがキュウの「うまくないでしょう」の次におもしろかったです。
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