当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2023年のキングオブコントです。
 今年も「お笑いの日」の最後のコンテンツという扱いだったみたいですが、「お笑いの日」の他のコンテンツは見ていません。

1.カゲヤマ
 このコントの範疇では2人の演技力に問題はなかったと思います(他の演技ができそうなほど演技力が高いと思ったわけではありませんが)。
 冒頭で上司役の益田が取引先に謝るために襖の奥に消えていくコントなのですが、この展開のせいで見ている方のハードルがかなり上がります。いざ襖を開けた時にきちんとウケるかどうかで全てが決まりますが、ちゃんと期待に応えるものを見せてくれました。

 私個人は、反対側の襖を開けた時も尻が出てきた瞬間が一番おもしろかったです。あと、「松屋は味噌汁付いてます」ってツッコミも良かったですね。
 
 残りの気になった部分は基本的に設定面なので、箇条書きにしておきます。

・2人とも着ているスーツが少し大きいです。そのせいで、あんまりちゃんとした社会人に見えません。益田の方には素早く脱着をしなければいけないという事情はあるでしょうが、スーツの大きさにツッコミは入らないまま進んでいくので、見ている方としてはモヤモヤが残ります。
・上司が服を脱いで謝っている状況に対するツッコミのワードチョイスとして、「エグい」という語にはセンスを感じないので、使わない方がいいと思います。ツッコミ役は状況を大声で説明しながらウロウロすれば十分その役割を果たせるので、「エグい」や「ヤバい」みたいな一語で便利な(=ゆえにセンスがないと周囲から思われる)形容詞を使う必要はないと思います。
・襖の向こうの部屋に奥行きがなさすぎてとても狭く感じるので、現実感がありません。襖を開けた時に見える対岸の壁が近すぎます。あとで活きてくるのかなあと思いましたが、結局何でもありませんでした。2人がセットの仕様にどこまで口を出せるかが未知数なのではありますが、もう少しリアリティのある広さにした方がいいと思います。
・益田は計2回謝りに行くのですが、当然2回目の方が謝り方がエスカレートしています。ただ、1回目の謝罪理由が「取引策の極秘資料を紛失した」というものなのに対して、2回目は「新商品のサンプルを忘れてきた」というものであり、明らかに1回目の方が罪が重く、謝罪の激しさとマッチしていません。今回のコントのように台詞で説明するだけでいいので、ちゃんと1回目より激しく謝らなければいけない理由を設けて欲しかったです。そうしないのであれば、「1回目よりショボい理由なのに謝り方がエスカレートしている」というのはツッコミポイントになるはずですが、ツッコミが入らないまま進んでいくので気になるのです。
・たばやんが襖を開けた時に、益田が服を脱いだ状態にもかかわらず股間がギリギリ見えないというクダリが2回ありました。タイミングがピシャリと合ってきちんと股間を隠せていたのはいいですが、「太ももを前に持ってきて隠す」「正面を向いた体育座り」という隠し方は、とにかく明るい安村のネタと一緒です。故意にパクったわけではないのかもしれませんが、たとえ意図せぬものだったとしてもあんな有名なネタとのカブリは避けた方がいいと思います。安村サイドと話が付いているなら構いません。
・2回目の謝罪を終えた益田は浴衣姿で出てきますが、そこに対するツッコミは入りません。ここでもっとおもしろい恰好ができていたら更に良くなったかと思いますが、欲張りすぎな気もします。
・最後の「めっちゃ怒ってる〜!!」という大オチは、おもしろいおもしろくないの以前に、少し違和感がありました。取引先が本当に怒っていたら、謝りに行った部下があんなにささっと逃げられるとは思えないからです(そもそも謝り終えた上司が晴れやかな顔で「許してくれた」と言ってくる展開と矛盾しています)。最後の大オチを一番おもしろくする必要はありませんが、違和感を覚えるような展開は避けて欲しいです。

2.ニッポンの社長
 外国に行こうとしている彼女を放っておく彼氏(辻)と、その男友達(ケツ)が彼女を止めに行くのか行かないのかで揉めて喧嘩をするという使い古された設定です。この設定の古さをフリにして、辻らしいサイコなコントをやっていました。殴り合いの中でも至極どうでもいい部類の喧嘩で、刃物を持ち出してくる辻は、とてもおもしろかったです。ただ、基本的にはボケの種類がその一つであり、あとは辻が持ち出す武器がエスカレートしていくだけなので、冒頭がクライマックスでした。こういうしつこさは好き嫌いがあるので、これを好むのが辻の作家性なのでしょう。
 一応、このコントのボケは辻のサイコっぷりのみではありません。コントが進んでいくに従って、辻の凶器攻撃にずっと耐えるケツの化物さも目立っていく構造にはなっています。客席からはこれに対する笑いが起こっていましたが、私はケツの打たれ強さを笑うことはできませんでした。ナイフで刺されても銃で撃たれても血痕の一つもつかないので、リアリティがなかったことが原因だと思います。まあ、血は出しすぎるとお客さんを引かせてしまうので、演出で意識的に使う場合はバランスが難しいですが、動きの芝居でもリアリティが出せていませんでした。手榴弾を食らった時や地雷を踏んだ時も吹っ飛び方は、あんなものじゃあ済まないと思います。2人の殴り合いもじゃれているようにしか見えず、リアリティがありませんでした。まあ、このあたりをちゃんとやろうと思ったら殺陣師やスタントマンレベルの技量が求められるので、そういう意味では設定が演者の力量(とキングオブコントの1ネタに使える予算)を超えてしまっているコントです。他方でアニメでやったら、おもしろくなる設定のような気はしました(アニメという形で戯画化すれば、ケツ役の人が流血したり黒焦げになったりしても、そこまで引かれません)。

3.や団
 お芝居の稽古という設定のコントでした。
 厳しくて個性的な演出家を演じる伊藤は、登場時からいきなり「インパーソネーション」や「スラスト」というワケの分からないカタカナ語を使ってきます。この時点で、見ている側は伊藤のエキセントリックさがボケの主題なのかなと錯覚するはずです。
 ところが実際のボケは、伊藤に残っていたまともな人間性から生じます。天然のトリックスター役である中嶋が、すぐに灰皿を投げる癖のある伊藤に対して、投げたらただでは済まなそうな巨大な灰皿を提供し、伊藤がそれを投げようか投げまいかで葛藤しだすのです。中嶋のこの天然っぷりと伊藤の葛藤がこのネタにおけるボケの主役でした。

 エキセントリックな演出家というこすられた設定から入り、実際は一つずらしたところに主題を持ってくるコントの構成は現代的でしたが、私はあんまり笑えませんでした。主題である伊藤の葛藤が、あんまり芝居で出せていなかったからだと思います。中嶋が持ってきた巨大灰皿が回っている時に、伊藤はもっと表情や体の震え等で芝居をするべきだと思います。灰皿を見つめる伊藤の感情が、あの芝居では伝わってきません。そのせいで上記のようなこのネタの構造に気付くのが遅れ、気付いた時にはネタが終わってしまっていた、という感じでした。このへんをちゃんと伝えるには、灰皿が回っている間に誰のどういう表情をどういう順番で映していくかという絵コンテをきちんと考える必要があると思います。そういう意味で映画的な編集が必要な脚本なので、生で披露するコントには向いていないと思いました。

4.蛙亭
 ネタを書かない芝居上手(中野)と、ネタを書く芝居下手(イワクラ)っていうよくある力関係のコンビです。
 そのため、おととし出た時にも書きましたが、イワクラの下手さが目立たないネタの方が当然うまくいきます。イワクラの下手さを隠すためには、イワクラが素に近い状態でお話を進めていけるようにしないといけません。今回のネタは、まさにそういう構造になっていました。イワクラは、街で突然会った大声の変な人に対して、戸惑いながら対応をしていけばいいからです。皆さんも、現実世界でああいう変な人にあったら、マンキンでツッコんだりはせず、今日のイワクラみたいに若干戸惑いながら逃げ腰の対応をするんじゃないでしょうか。あれが、多くの人の「素」なんです。そういうことです。冒頭ではイワクラが泣く芝居をする必要があるのはあんまり良くはないですが、本当に冒頭だけなので目立っていませんでした。
 さてイワクラが素に近い状態でいると、キングオブコメディみたいなボソッと言う弱めのツッコミができるのも蛙亭の魅力です。ツッコミの強弱は個人の好みなのですが、私はこの手の弱いツッコミが好きです。そして好都合なことに、今回のネタにおける中野にはパッと見ただけでツッコみたくなるポイントがたくさんありました。ただ、基本的に中野が全部独白でツッコミポイントを片づけてしまっていたのが残念でした。あの妙な服装も、キックボードで寿司を運んでいたことも、イワクラからの弱ツッコミという形で指摘して欲しかったです。それに反論する形にさせた方が、中野の「変さ」もより際立つと思うのです。
 あと、中野は終始大声だったので、「お寿司バカにするなー!!」と激昂した後にイワクラが「ビックリした」という反応をするのは結構違和感がありました。それ以前から、それぐらいのテンションでずっと喋っていたからです。

5.ジグザグジギー
 一言で言うと、「市長の記者会見が大喜利風である」というネタでした。基本的にボケの種類はその一つであり、最後に笑点風の大喜利を混ぜ込むという変化は見せていましたが、それに至る前はずうっとIPPONグランプリの松本風に大喜利をしていました。ただ、大喜利風に見せている記者会見の内容が大喜利としておもしろいわけではなく(内容は市長の発言としてとても普通でした)、ほぼほぼ大喜利を答えるときの芸人(というよりは、主には松本人志)の仕草や言い方のあるあるをおもしろがる内容であり、「IPPONグランプリの松本のモノマネ」と形容しても過言ではないネタでした。それゆえに、審査員席に座っていた松本をイジる構造ができ上がっていたので、そのせいでいおもしろくなってはいましたが、ネタを単独で見た時にそこまでおもしろいものではない(冒頭はおもしろくても持続力がない)と思います。審査員に松本がいてこそ面白味を生じるネタでしょう(小峠の笑顔も、その部分を笑っている表情に見えました)。ちなみに設定上市長は元お笑い芸人らしいのですが、このフリは別になくてもいいと思いました(あってもいいです。毒にも薬にもならないので、どっちでもいいです)。
 色々言いましたが、お芝居は2人ともかなりできていると思います。

6.ゼンモンキー
 お芝居は、文句ありません。個人的にはたどたどしいしゃべり方で役の陰キャっぽさを表現しつつも、ヤンキーっぽい2人に対して物怖じせずに堂々と物を言う二面性を両立させていた荻野(メガネの子)のお芝居に一番好感が持てました。
 問題は設定と流れです。冒頭は十分期待させてくれるんです。1人の女性をめぐって2人の男が殴り合いの喧嘩を始めるという古臭い設定から、そこに無関係の第三者(荻野演じる高校生)が闖入してくるというひねられた展開は、ニッポンの社長やや団と共通しています。ただ結局この3人が、交わってしまうんですね。蓋を開けてみれば、荻野も同じ女性が好きだったという流れに収束していくんです。この流れは、とても陳腐です。冒頭で期待させておいて結局小ぎれいに小さくまとまってしまっているので、3人の全然違う風貌や背格好も併せて見ると、売れない役者が寄り集まって小さな劇場で公演している舞台コントみたいでした。これまた売れない作家が、脚本を書いているようなやつです。
 個人的な好みもありますが、高校生のお願いと喧嘩をしている男たちの三角関係は、最後まで交わらないままお話を展開させてくれた方が新しさが出たと思います。それか、あの舞台設定だけを借用して、「近くでヤンキーが喧嘩をしている賽銭箱で何を願うか大喜利」を実力派芸人たちにアドリブでやってもらった方がおもしろくなるのではないかと思いました。

7.隣人
 チンパンジーに落語を教えるという設定は奇天烈です。チンパンジーの扮装もかなりリアル寄りながら絶妙なチープさが残る着ぐるみであり、そのバランスが恐怖さえ掻き立ててきます。ちょうど、「ごっつ」に出てくる着ぐるみみたいなバランスのクオリティなんです。
 ただ、この設定の奇天烈さが抱かせる期待ほどの展開は(松本が指摘していた落語家がチンパンジーっぽく話し出す展開を除けば)なかったというのが正直なところです。出オチ感が、満載でした。チンパンジーがバナナにこだわるのはとても普通ですし、感動的な展開で感動的なBGMを流すのも普通ですし、檻を開けたら逃げ出したという大オチもひねりがありません。
 2人ともチンパンジーっぽい声を出すのは美味かったですが、橋本の落語はヘタでした。ウマすぎても気が散ると思いますが、「師匠」という設定に対してのツッコミが欲しくなるほどのヘタさでした。落語のネタがおもしろくないと言っているわけではなく、落語で求められる水準の芝居ができていないという意味です。
 ちなみにこのネタで売れたとしても、バンビーノと一緒でチンパンジー役の中村の方は顔を覚えてもらえないんだろうなということが心配になりました。そしてどうせなら、本物のチンパンジーに落語を教えてみた方がおもしろくなると思います。昔やっていたCHIMPAN NEWS CHANNELですね。今はもう、できないのでしょうね。

8.ファイヤーサンダー
 西田本人と思わせておいて実はモノマネ芸人だったという冒頭のネタバラシは、とてもおもしろかったです。ただその後どうしても尻すぼみになっていったので、もったいないなあと思いました。一応相方もマネージャーじゃなくて監督のモノマネ芸人だったのが明らかになるクダリと、監督の「総合的判断」発言をすぐにモノマネし始めるくだりはおもしろいのですが、やっぱり冒頭のネタバラシには勝てません。
 これは冒頭のネタバラシが強すぎることが原因なので、そういう意味では悲観的になる必要はありません。レツゴー漫才のネタにおいては、「三波春夫でございます」のツカミがピークになってしまっていたのと同じ理由です。それゆえに、あそこだけ切り取ったショートネタにした方がいいと思います。是非、向上委員会の閉店ギャグで見たいです。

9.サルゴリラ
 展開が、あんまりないんですね。「こんなマジシャンはいやだ」大喜利を延々やっているだけなんです。私がよく言う「足し算」のネタであって、大喜利の個々の回答が前後に絡み合ってくることはそれほどないんです。これだとネタのおもしろさも大喜利一つ一つのクオリティ頼りになります。そのクオリティがどうかと言えば、好みはあるかと思いますが、私はそんなに好きではありませんでした。あんなに高得点が入ったのは、納得できません。
 芝居に文句はありません。特に赤羽のツッコミは良かったと思います。それと最後何もツッコまずに終わったのは、好きです。あと児玉のくたびれた風貌は、売れてなさそうなマジシャンというこのネタの役どころに合っていると思いました。

10.ラブレターズ
 「挨拶に行った彼女の実家がヤバい」という設定だったので、どうしても何ヶ月か前に放映されていた水曜日のダウンタウンの説を思い出して比べてしまいました。あの説ほどのぶっ飛び方は、出せていなかったですね。
 それと、アパートでシベリアンハスキーを飼っているという設定だったのですが、セットがアパートに見えません。口で説明されて初めて「そういうことだったんだ」と理解できたのですが、もったいないです。もう少し狭さの分かるセットにした方が、ネタバラシをした時の笑いも増すと思います。
 あとどうしようもないこととはいえ、犬が作りものだったので、いまいち世界観に没入できませんでした。最後の最後にお母さんが「絶対に今じゃない」とツッコミを入れてまともに戻るのもどうにも好きません。

<最終決戦>
1.ニッポンの社長
 血まみれの臓物、不安になるほど長いフリ、絶対にしゃべるはずのない人がしゃべる現実感の無さといったあたりの設定は、実に辻の作家性が出てるんですけどねえ。
 長めのフリからの一発目のツッコミできちんとフリで消費した時間に見合っただけのウケをとれるのは流石なのですが、それ以降そのウケを超えてくるものがあんまりないんですね。明確におもしろいピークは1つ作れるので、どっちかというと、4コマ漫画向きの資質だと思います。

2.カゲヤマ
 今回のネタはウンコがらみだったので、汚いネタが好きなんですかね。
 長い沈黙の後の益田の最初の一言は、それほど私の胸を打ちませんでした。終わり方も含めて不可解さの方が勝ったので、あんまり笑えるものではなかったと思います。多分、「人の机にウンコするけど仕事ができる」という設定を前にしても、「普通の人が一生懸命考えた変な人」感が匂い立ちすぎて嫌なんだと思います。「人の机にウンコをする」と「仕事ができる」が二項対立として綺麗すぎるんですよね。まあ、やりたいことをやったのなら良しとしましょう。
 あとたばやんのスーツはやっぱり若干大きいと思います。

3.サルゴリラ
 いい話を全て「魚」に例えるせいで台無しになるというコントなのですが、基本的にそれ一辺倒なので「魚」という喩えがハマらないとどうにもなりません。別に「魚」ってそんなにおかしくもないと思うんですけどね。もっと絶妙なワードを、探していけると思います。
 2人のお芝居は一本目より好きでした。特に児玉はあのキャラに入りきれていましたね。ただ赤羽は序盤から「魚」を嫌がりすぎだと思います。少し芝居が大袈裟でした。

<総評>
 審査員が散々言っていましたが、点数の詰まり方を見てもレベルは高かったと思います。笑える瞬間も、近年では一番多かったです。あと児玉は永野に似ている気がします。

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