当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2023年のTHE Wです。

<過去回>
2022.12.10THE W 2022
2021.12.13THE W 2021
2020.12.14THE W 2020

1.まいあんつ
 ピン芸人です。
 ネタの中心は、ギャグでした。ギャグが中心のピンネタというとYes!アキトやサツマカワRPGを思い浮かべる人も多いと思いますが、まいあんつのネタは、全体にシンデレラというストーリー性を持たせ、その設定を利用して笑いをとる場面も多かったです。単なるギャグの羅列には終わっていなかったということです。そこは、素直に感心しました。

 とはいってもネタの比重の多くを占めるのはギャグなので、ギャグのクオリティがウケの多さに直結します。彼女のギャグは、Yes!アキトやサツマカワRPGよりも全体的な動きがダイナミックかつアクロバティックで、どっちかというと原西のギャグに近いと思いましたが、原西ほどの(動きだけでも強引に笑いをかっさらえる)破壊力はまだないと思いました。そうなるとギャグひとつひとつのしょうもなさもどうしても粒だってきてしまうので、私にはハマりませんでした(動きにもっと破壊力があれば、このしょうもなさは逆に武器にもなり得るはずです)。

 あと、ネタの(ギャグではない)ストーリー部分においては、彼女の悪くない芝居を垣間見ることができたので、この演技力も武器にできると思います。

2.はるかぜに告ぐ
 1年目ということでしたが、しゃべり(というか、漫才における演技)は1年目とは思えないほど達者でした。特にツッコミのとんずはハスキーな声質も非常にツッコミという役回りにマッチしており、咄嗟のボケ(天然・人工を問いません)に反応できる瞬発力さえあればすぐにでも売れると思います。
 他方ボケの一色の方は、とんずの実力のせいでかなりドーピングがされていると思います。ネタ中のしゃべりは一般人が素でしゃべるときに近い感じだったので、もっと演技力を求められる役回りを任せた時にどうなるかは未知数です。

 ネタの大喜利力の方もとんずの実力でかなり誤魔化されていますが、実際のところは中の中の上くらいだと思います。岸和田を悪く言うのは関西人以外にはあんまりピンと来ないでしょうし、「傘は日本でもパクられる」という話題はそれなりにこすられているものです。作家気質の客も唸らせるような題材を用意できれば、M-1もとれるでしょう。

3.スパイク
 去年と一緒で、ボケの小川の演技力は及第点なのですが、ツッコミの松浦の演技力がいまいちです。ツッコミの台詞がいちいち説明的なのも良くないと思います。観客に対する「ここ笑いどころですよ」アピールが強すぎて、見ている方としては寒くなってしまうのです。
 小川の方も、最初にサンドバッグに対峙した時に見せた陰湿なキャラはその1回限りで、その後は終始ブチ切れていました。また、ネタの冒頭で見せた「返事が早すぎる」というボケも後に活きてくることはなく、その場限りでした。色々なキャラができると言えば聞こえがいいですが、キャラが安定していなかったのでネタを見る際の視点の置き方がよく分からなくなってしまいました。もしかしたら、情緒不安定なキャラを表現したかったのかもしれませんが、それをやるなら後半にももっと「静」の部分を混ぜ込んだ方がいいと思います。後半は小川がずっとブチ切れている(いわば、「ブチ切れている」という状態で逆に安定している)ので、不安定さも大して伝わってこないのです。その結果全体的なストーリー性に欠け、小川の色々なキャラクターが見せるボケの足し算(羅列)になってしまっていました。

4.やす子
 元自衛官という自分のキャラを存分に活かしたネタだったのは良いと思います。
 基本的には回文を順番に見せていくフリップ芸だったのですが、途中での変化や前半の伏線を回収するクダリもあり、単なる足し算で終わらせようとしなかったのは褒められるところです。
 ただフリップのめくり方が甘く、前のフリップの画が見切れていることが何度もありました。見ている方の視線が散るので、良くないです。

 あと、これは贅沢な要求だとは思いますが、回文ひとつひとつの中身は自衛隊に絡めたものになっていたのですが、「回文」というテーマはそれ自体は自衛隊と全く関係がありません。ここも関係のあるものが思い付けると更にいいと思います。

5.ハイツ友の会
 見ている方も不安になるくらい長めのフリがあった後に、ちゃんと爆発力のあるクダリを展開できるかというのが勝負のネタでしたが、きちんとこちらの期待を超えてきました。
 フリの部分でボケの西野が演じていた陶芸家は、とても癇に障る不思議なしゃべり方の人間だったのですが、これに対する最初のツッコミはその点をストレートに指摘するわけでもなく、きちんと変化を付けてきており、しかも納得のいく変化の付け方だったのが良かったです。これを考え付く力こそが、大喜利力です。
 ツッコミの清水はずっと一般人が素でしゃべる感じでダウナーな調子だったのですが、それですらヘタに見えてしまったのは良くないと思います。あの「マンキンでいかずに諭す感じのツッコミ」はネタにとっても合っているのですが、もっとうまくできます。それこそ、今日の司会だった山ちゃんとかはその第一人者だと思います。

6.紅しょうが
 相撲部屋の出待ちをする女性ファン2人の喧嘩コントでした。
 この設定自体には、新奇さはあるんだと思います。

 喧嘩コントなのでどっちがボケでどっちがツッコミという役割も決まっておらず、2人とも結構無茶苦茶なことをしていました。そのせいで2人ともキャラが分かりづらくなっていたのは良くなかったと思います。前述の通り2人とも同じようなレベルで無茶苦茶をしていたので、2人を対比してキャラを浮かび上がらせることができる構造にもなっていませんでした。その結果、見ている側の視座の置き方も難しかったです。

7.変ホ長調
 M-1のファイナリストだったことで有名はアマチュアコンビです。
 私は彼女らがM-1でやったネタは見ていませんが、今回のネタも本当にアマチュアレベルだなと思えるほどの演技力しかありませんでした。そのせいで、ネタ前の煽りがマイナスの方向に働いていました。アマチュアということを前面に押し出さなければ、アンガールズ的なヘタさを前に押し出したネタなのかなと勘違いする余地がまだあったからです。
 ネタ中の大喜利力は中の中の中の上くらいはあったと思いますが、演技力の無さがその僅かなメリットも吹き飛ばしていました。

8.梵天
 ツッコミの薪子(姉)はそれなりに演技力があると思います。あんり系のパワフルなツッコミですが、まだあんりほどの力はないですね。
 ボケのしおたむ(妹)は、ものすごくヘタです。新しい話題に移るときの間もおかしいことがあり、台本を読まされている感がすごいです。わざとヘタにやっているのではないかと勘繰りたくなるくらいですが、その点にツッコミは入らないので見ている方としてはモヤモヤが残るだけです。

9.ゆりやんレトリィバァ
 「エアハムスターショー」というエアハムスターでジャグリング的な動き(要は、ジャグリングのパントマイム)をするネタでした。
 ただ最後に「世にも奇妙な物語」風のオチをつけたこともあり、衒奇的なばかりで奇に深みがないネタでした。実にゆりやん的だと言えばそれまでなのですが、奇を衒っているだけでその後ろの後ろまで考え抜かれていないんですよね。ネタの中身もずっとエアハムスターをいじっているだけで変化がなく、この構造を見抜いてしまうと早めに飽きが来ます。

10.あぁ〜しらき
 「奇を衒いたいだけ」っていうのは基本的にゆりやんと一緒なんですよね。でもこの人のネタの場合、中盤の「忘れてください」っていう台詞だけはおもしろかったんです。しらきが演じていた人物が、奇を衒うためだけに考え出された空想上の存在ではなく、人間味ある存在だということが垣間見えたからです。
 あとは、長いフリの後のネタバラシで出てきたのがしらきが散々テレビでやってきたキャラクター(といっても、オリジナルよりはゴールデンの生放送に合わせてマイルドにされていたと思います)だったので、ゆりやんが見せた完全な新キャラとは異なり、「結局それなんかい」というツッコミを自分で入れやすかった部分もあったと思います。
 まあでも、川島が言っていたように大筋ではどっちもどっちです。本人がやりたいことができたんだったらそれでいいでしょう。


11.ぼる塾
 2020年に出た時は3人だったのですが、酒寄が復帰して4人になっていました。
 ただ、4人になったことで明らかにバランスが悪くなっていました。全員に台詞と役割を与えた結果、全体的に間も悪くなっていました。あんりのツッコミは冴え渡っていましたが、きりやは相変わらずヘタクソですし、田辺さんもヘタクソです。田辺さんは、全体的な風貌と声質のおかげであのヘタクソさをキャラだと理解できる余地があるのでまだいいのですが、それでもしゃべりの間は常に半テンポくらいズレており、4人になったことで生じた間のおかしさがそれを際立たせてしまっていました。
 あんりと田辺さんの2人で漫才をさせた方がおもしろい気がします。ただ酒寄は、それなりにしゃべれていました。

12.エルフ
 実家で行われるネットの生配信を見守る家族という現代的な設定でした。演技力云々については特に言うことはないのですが、ネタバラシをされたところでそれはおもしろいことなのだろうかという疑問が先に立ちました。大きなネタバラシは2回あるのですが(姉妹それぞれが生配信者だったと分かる瞬間)、その手の変身系のコメディは昔からあり(「ミセス・ダウト」とか、「デトロイト・メタル・シティ」とか)、現代的な設定の割りに笑いの構造は結構こすられているものなのです。
 そして、この手の変身系コメディでは、変身前と変身後の落差が笑いを生むので、変身前のキャラクターをお客さんに根付かせるための前フリをもっと丁寧にやってくれないと、おもしろさが生まれにくくなります。今回のネタのようにカジュアルにささっとバラされても、こちらとしては面食らうばかりなのです。だから、制限時間のあるこの手の賞レースに向いたネタとは言えないと思います。

<最終決戦>
1.スパイク
 「靴下の裏真っ黒」というワンフレーズでほぼ勝負したネタです。サツマカワRPGはR-1で「大会近いもんな」のワンフレーズで勝負したネタをやっていましたが、こういうのが賞レースうまくいくことはほとんどありません。笑いが一辺倒になるからです。

2.エルフ
 荒川のギャルキャラを全面に出した漫才でした。
 設定がホストだったので、荒川が夜のお店でやってそうなコールだとかギャグだとかを披露するんですが、あやまんJAPANと雰囲気は一緒です。あれは、現場で参加してこそ楽しいものだと思います。見ているだけだと疲れの方が溜まっていきます。

3.紅しょうが
 裏切りが2回ありました。2回目の裏切りは見ている方も予想できていなかったでしょうから、その点は見事なのですが、おもしろさが熊元の服装という見た目に頼りきったものになっていました。あれが笑えないと、もう大して笑えません。服装だけで笑いをとるのは、これまで色々な人が色々な試みを重ねてきているので、もう至難の業です。その高くなったハードルを、超えてはくれませんでした。

管理人/副管理人のみ編集できます