当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2023年のR-1です。

 最初に言っておきますが、この番組の後にやっていたENGEIグランドスラムは見ていません。1秒たりとも見ていないので、おもしろかったかおもしろくなかったかは一切分かりません。分かりません!!

 それと何度でも言いますが、落語家も含めたピン芸人のことを最大限悪く言うと、「誰からも相方として求められなかったやつ」ということになります。演者が一人というのは、それだけでできることに大幅な制約がかかるので、「一人でやるのが本当におもしろいのか」というのは、常に自問自答して欲しいと思っています。

1.Yes!アキト
 去年の決勝では、本人が得意な単発ギャグをただ並べただけの足し算のネタをやっていました。
 今年は、ネタ前の煽りVTRでも「そのレベルから脱却する」という趣旨のことを言っていましたが、蓋を開けてみれば大して変わっていませんでした。
 今年のネタは一応「プロポーズ」というネタ全体に通底する設定があり、「結婚してください」と言わなければならないのにふざけて一発ギャグを言ってしまうという構造になってはいました。プロポーズという設定をフリにして個々の一発ギャグを際立たせたつもりなのでしょうが、大して効果的ではなかったというのが正直なところです。
 原因は大きく分けると2つあります。
 まず、ネタの最初の方は「結婚してください」を言い損ねて「けっ…けっ…」と言い淀んでいるうちに「け」から始まる一発ギャグを言ってしまうという流れになっていたので、まだ設定によるフリが活きていたのですが、そのうちこの設定を知らん顔で無視して、「け」以外から始まる一発ギャグを次々と連発するようになってしまっていました。こういうことをやるなら、頭文字を「け」ではないものにシフトするための理屈が絶対に必要です(例えば、プロポーズの言葉を「死ぬまで添い遂げましょう」に変えて、ギャグも「し」から始まるものに変える、みたいな感じです)。こういった形で何かしらの理屈をつけてやらないと、せっかく設けた設定が無意味になってしまい、本人が「ただ一発ギャグががやりたいだけの人」に見えてきてしまうのです。
 2つ目の理由は、一発ギャグ以外のブリッジに当たる部分での本人の演技力が低いことでしょう。演技力が低いゆえに真剣にプロポーズをしようとしているように見えず、やはりただ単に一発ギャグがやりたい人に見えてきてしまうのです。
 まあ、このあたりをきちんと手当てしたところで効果的なフリになるわけではないのが難しいところです。色々とバリエーションを考えて、試してみるしかありません。

2.寺田寛明
 ピン芸は基本的に自分がボケをやるのかツッコミをやるのかを決める必要があるのですが、陣内みたいにツッコミをやる方を選んできたネタです。ボケ役は、色々とおかしいところのある日本語の数々であり、厚切りジェイソンみたいに日本語のおかしなところにツッコミを入れていくネタになっていました。
 そしてそのツッコミも、レビューサイトのクソコメという形で行われていました。このハードウェアは、とてもいいと思います。なぜなら、かなり辛辣なことを言っても「クソコメならそんなもんだな」と思えるからです。見ている方の悪口に対する許容度が、かなり上がるのです。
 あとはソフトの部分(ツッコミを入れる日本語のチョイスの部分)と、本人の演技力でしょうね。厚切りジェイソンみたいにテンション高くやるか、もっと堂々とやるかのどちらかが必要だと思います。若干、舞台上の本人がフワフワしていた感じは否めません。

3.ラパルフェ 都留
 ネタの特徴も問題点もYes!アキトにそっくりだと思います。
 本来「細かすぎて」みたいな番組に向いているショートネタの数々を、一つの設定のもとに集めて尺を稼いでいるネタです。違いはと言えば、アキトのショートネタがギャグだったのに対して、この人がやっていたのはモノマネだという点です。
 そして、都留が披露したネタの設定は「阿部寛が怪獣と戦う」というものでした。これ自体、阿部寛の身長の高さをイジったものですが、私はそのこと自体を初めて知りました。川合俊一や大林素子みたいな分かりやすい人をイジるのであればもっとおもしろく見られたんでしょうね。この他にも全体的にドラゴン桜だとか下町ロケットだとか阿部寛のことに詳しくなければ楽しめない内容が多めであり、「細かすぎて」にも出せるような単発で破壊力のあるものはわずかだったと思います。正直「阿部寛の何を言っているのかわからないしゃべり方」くらいですね。これなら、それこそ単発で破壊力のある森泉とかも混ぜた構成にした方が良かったと思います。
 あと事前に録音されているツッコミの声は棒読み過ぎて気が散ります。本人が声色を変えて吹き込んでいるようにも聞こえたんですが、どうなんでしょうね。

4.サツマカワRPG
 去年のYes!アキトみたいに単発のギャグを並べたネタをやっていました。一応、前のギャグの登場人物が次のギャグに登場するという形でネタ全体につながりは持たせており、また最後には伏線めいた展開もありましたが、いずれも隠し味程度の存在感しかなく、基本的には単発ギャグを順番に陳列した足し算のネタだと言っていいと思います。
 多分、本人はこういうのがやりたいのでしょう。ラストイヤーだからこそやりたいことを優先したのではないかと推測します。ストーリーのある長編漫画より単発の4コマ漫画の方が好きな私も、気持ちは分かるつもりです。
 ロボットのネタとかは、ロボット役の別の人間がいた方がおもしろいんじゃないかとやっぱり思います。ピン芸という手法自体の限界が垣間見えました。

5.カベポスター 永見
 勝ちに行くならバカリズムのコメントが全てだと思います。サツマカワ以上に単発のネタの羅列になっていたので、単発の破壊力に頼るしかないのですが、そこまで破壊力はなかったからそれほど点数が出ていませんでした。
 ただ私としては、ロープウェイのクダリを伏線にして2回出してきたのが良かったと思います。単発の破壊力に頼れないのであれば、ああいうのをもっと増やさなければなりません。
 ちなみに審査中の永見とせいやの絡みで、せいやが永見のネタに引っ掛けたツッコミを入れていたのですが、あまりにスベったせいで誰も拾わなかったのがおもしろかったです。

6.こたけ正義感
 現役の弁護士なので、色々と色眼鏡で見たくなる自分がいます。これを読む人もそれをこそ期待しているような気もします。でもまあ、グッとこらえて他の方々と同じように論評しようと思います。
 「弁護士」というキャラクターは、それ自体とても強いものなのですが、ネタの中身は日本の法律のおかしなところにツッコミを入れていくというものであり、自身のキャラクターを存分に活かしてはいました。専門家の目線からすれば彼がネタ中で入れていたツッコミにもおかしなところはないではないのですが、専門家でなければ気付けないようなツッコミどころは無視していいです。それは私が常々言っていることです。
 ただ、弁護士というキャラクターはとても強いものであり、小竹先生がネタ中で見せたような絶叫は、このキャラに合っていません。「(弁護士みたいな)勉強のできる人はそんなバカみたいなことをしない」という思いが勝ち、若干、引いてしまいます。弁護士レベルの強いキャラを凌駕するような演技力があれば(それこそ、東大出なのにそれを忘れさせるほどの演技ができる香川照之レベルのやつです)問題はないのですが、そこまでのレベルにはまだ達していません。ザコシが言っていたこともそういう意味だと思います。
 それと、フリップネタではあったのですが、フリップを部分部分を順番に見せていくクダリもあり、若干めくりに手間取って先に見えてはいけない部分がチラッと見えてしまったりもしていたので、どうせならパワポのような形でネタを見せた方が良かったと思います。
 あと、テレビで売れたいのであれば、弁護士というキャラクターは今後もついて回ります。披露できるネタも今回のようなものに限定されてしまうところでしょう。それが嫌であればそれこそ香川照之レベルの芸達者になるしかないのですが、舞台でやっていきたいというだけであれば関係のない話です。

7.田津原理音
 街で見かけるおかしな人をトレカ化して(トレカのパックの開封という形で)紹介していくネタでした。フリップ芸の変形です。
 おかしな人が全員同じ顔だったのは、個人的には嫌です。顔が同じであることを伏線として利用しないのであれば、一人一人の顔を変えて欲しいです。全員同じ顔だと、一人の芸人がウケ狙いでその男を演じているだけに見えてきて、作り物感が出てしまうんですよね。
 バカリズムは「ステージ上でやるネタとしてどうなのか。映像ネタとしてやった方がいいのではないか」という趣旨のことは言っていましたが、私を含め大多数はテレビを通して映像の形でこのネタを見ているので、問題はないと思います。これは、R-1は「テレビで見たときにおもしろいネタのNo.1」を決める大会なのか、それとも「ステージで見たときにおもしろいネタのNo.1」を決める大会なのか、という大会のスタンスや審査基準の話です。私は、前者であるべきだと思っています。なぜなら、大多数の観客はネタをテレビで見ており、また優勝者も基本的にはテレビで使われることになるからです(なので、理想としては審査員も映像の形でネタを見るべきだと思っています)。

8.コットン きょん
 きょんの演技力・憑依力はさすがです。芝居はばっちり決まっており、BGMも相まって「踊る大捜査線」で見られたような「力のある役者で固めたカッチリとしたコント」を見ている気分になりました。
 笑いの中核は、警視庁がカツ丼に力を入れていることの滑稽さであり、きょんの演技力もあってずっと見ていられる中身にはなっていましたが、どうせなら「こういう属性の人間にはこういうカツ丼を出せばいい」という偏見の部分でも笑いをとって欲しかったです。そこは、大喜利のしどころだと思うのです。「40代男性に食べさせたら自供を始めた料理とは?」なんてのはいかにも大喜利っぽいじゃないですか。本人はしているつもりかもしれませんが、まだまだ弱いです。そこが弱いせいで、笑いの中身がずっと警察のおかしさ一辺倒になっていたのが惜しいです。

<ファイナルステージ>
1.田津原理音
 基本的なネタの構造は1本目と同じでしたが、こっちの方が捻りが効いてておもしろかったです。特にタオルの色が何通りもあったところなんか、1本目もフリになっていたと思います。ただ、笑いどころのカードが全員同じ顔だったが嫌だというのも1本目と同じです。
 今回のトレカは美男子を取り扱ったものであり、田津原本人は男装のままカードを見て「カッコいい」などと言っていました。ひょっとして、ゲイという設定だったのでしょうか。ポリコレへの配慮なのかもしれませんが、ネタを見るうえでのノイズになってしまっていたのは確かなので、ちゃんと女装するか、事前の説明が欲しかったところではあります。
 あとネタの最後でカードが全然ファイルに入っていかなかったのはおもしろかったです。あれは、アクシデントだったんでしょうか。

2.コットン きょん
 演技力は相変わらず高いのですが、演技力に頼り過ぎだと思います。1本目からその嫌いはありましたが、笑いの中身が設定一辺倒で、ずっと予想や期待を超えてきません。大喜利が足りてません。

※2023.3.10追記
 八百長疑惑が話題になっているようですが、私はそもそも疑惑の根拠になっている「誤表示」に気付きさえしなかったので、何とも言えません。
 ネタだけを見た場合、今回の優勝者は「順当」の部類に入ると思います。
 八百長か否かについては根拠のない憶測めいたことしか言えないので、気になる人は各自調べてください。演者もそうでない人も含めて、色々な人が色々なことを言っていますよ。

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