当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2024年のM-1です。

<過去回>
2023.12.24M-1グランプリ2023
2022.12.18M-1グランプリ2022
2021.12.19M-1グランプリ2021
2020.12.20M-1グランプリ2020
2019.12.22M-1グランプリ2019
2018.12.2M-1グランプリ2018
2017.12.3M-1グランプリ2017
2016.12.4M-1グランプリ2016

1.令和ロマン
 トップバッターは毎年不利なのですが、去年トップバッターから優勝しているこのコンビが再びトップバッターになったのは一番公平だったと言えるんではないですかね。トップバッターにしてはよくウケてましたよ。
 こういうことを書いて尺を稼いでいるのは、あまり書くことがないからです。くるまは、どうでもいいことを力説するボケ役を綺麗に演じきれています。ケムリのツッコミの演技にも文句はありません。気になったのは、名前の五十音順で席順が決まる学校ばかりではない(=そういう学校を出ていない人にはピンと来ないネタであると思われる)ということと、漢字が苦手な人にもさほどピンと来ないだろうなあということぐらいですかね。あとM-1の決勝に残るほどのコンビに「幼卒」みたいなネットで有名なネタを使って欲しくはないです。オリジナルだけで、勝負して欲しいです。ワタナベは漢字に厳しくないけどサイトウは厳しいという話もさほどピンと来ません。全体的に、もう少し「子どもにこんな名前をつけたい」というお題の大喜利は練ることができると思います。

2.ヤーレンズ
 去年と同じく細かいボケを詰め込んだビュッフェみたいな漫才でした。楢原のキャラの仕上がり具合は見事です。出井のツッコミの演技力も、去年より確実に上がっていると思います。去年と比べると「出井が楢原に乗っかるクダリ」の痛々しさがかなり減退していました。
 一方全体的な大喜利力がそこまでではないのは去年のままでしたが、「深追いすると良くない」みたいな前後のつながりを意識したクダリもあったので、このまま突っ走って欲しいと思いました。
 審査員の点数の合計は令和ロマンより25点も低かったですが、私は同じくらいだったと思いますよ。

3.真空ジェシカ
 ガクのツッコミは相変わらず冴えています。そして川北がバラエティ慣れしたのか、段々と演技力がついてきているような気がしました。ツカミで令和ロマンのツカミを踏まえての台詞を言えていたのはバラエティ慣れの証左だと思います。「ジャンプは最後までおもしろいですよ」のクダリはおもしろかったですよ。ガクのツッコミ台詞への反攻だったので、意表を突かれたからです。後半の「出口が近そうだ」もおもしろかったです。前のクダリが伏線になっていたからです。
 「偏った政党のポスター」も一応前から伏線が張られていたのですが、川北がポスターの文字を声に出して読むという形で演じており、分かりにくいと共にテンポが悪くなっていました。街頭演説を演じるという形ならあのやり方でも納得できたんですけどね。

4.マユリカ(敗者復活組)
 阪本にはさして演技力があるように見えないのですが、漫才で演じていたのが(阪本の素に近そうな)暗い感じの男子だったので、それほど演技しなくてもリアリティは出せるんだと思います。見ていることはできました。
 中谷には漫才向けの演技力があると思いますが、今回のネタでは全体的にオーバーだったと思います。なんか、マンキンすぎて同窓会に来た女子に見えないんですよね。もうちょっと静かにツッコむ形でやってみても良かったのではないでしょうか。嘘くさく見えてしまうと、漫才全体に作り物感が匂い立ってしまいます。「ウケ狙い」というのを視聴者が読み取ってしまうと、どうしても身構えてしまいますよ。
 直前にネタを披露したヤーレンズや真空ジェシカと比べるとボケの絶対数が少なかったのも、コンテスト的には厳しかったと思います。とはいえ、前のボケが後ろに活きてくるようなクダリをきちんと入れ込んでいたのは評価できます。
 歌詞が上海ハニーと同じ校歌は若干おもしろかったです。

5.ダイタク
 笑い飯みたいに役割を交互に変えながら漫才をしていましたが、実質は双子のエピソードをひたすら積み重ねていっているだけでした。個々の内容も「双子ならそんくらいはできるよな」という予想のつく話ばかりで、M-1で上に行く漫才師のボケに求めているような裏切られ感はほとんどありませんでした。これをいいように言うと、ともこや大吉が言っていた「綺麗すぎる」という言葉になるんだと思います。
 2人とも演技はちゃんとできていると思います。

6.ジョックロック
 病院を舞台にしたコント漫才でした。ボケの大喜利力にそれほど光るものはありませんでした(スタッフ笑いらしきものが盛んに起きていた心臓マッサージのクダリはそれなりにおもしろかったような気がしますが、私がスタッフ笑いを好んでいるだけのような気もします)。ボケのゆうじろーの演技力は高くはありません。前後の伏線的なクダリもほとんどありませんでした。
 唯一無二なのはやっぱり福本のツッコミなんでしょうね。大声で絶叫するタイプのおいでやす小田みたいなツッコミであり、あの声量と声質があってこそのあのネタなんだと思います。ただ福本がボケに乗っかった「江戸っ子」のクダリはやっぱり見ていられませんでした。ゆうじろーが乗りたくなるほどクオリティの高いボケをやっているわけではなかったので、ツッコミのキャラがブレるだけです。

7.バッテリィズ
 ボケのエースのアホキャラを利用して、アホなボケを言わせていく漫才でした。エースは服装・髪型・遠目だとつながって見える眉毛などでファーストインプレッションからきちんとアホに見えるので、そのあたりの演出は抜かりがないと思います(ツッコミの寺家が対比的にバッチリとスーツで決めているのもエースのアホキャラを際立たせていると思います)。
 逆の見方をすると、漫才中のボケのクオリティはそこまででもなく、エースのアホキャラにかなり助けられています。「ライト兄弟が電気を発明すべき」とか「ガリレオ・ガリレイは細そうすぎる」とかいったボケは、文字に起こしてみるとしょうもなく、悪い意味で笑点レベルと言ってもいいと思います。一応伏線的なクダリを入れていたのは感心しましたが、これだけで戦っていくのは厳しいと思います。
 あと、アホで言うと本物のアホ(天然)がテレビにはうじゃうじゃいるので、そのあたりと比べれば作り物感の方が強くなってしまっていると思いました。ゆえに私はこのネタもそこまで楽しむことはできませんでした。今後テレビでやっていくのも、なかなかに茨の道なのではないかと思いました。エースが「本物」になれるなら別ですけどね。
 加えて言うなれば、最後にエースが「もうええわ」と自分で言ってしまっていたせいで、エースのアホキャラの作り物感が匂い立ってしまっていました。「もうええわ」は普通はツッコミが言う台詞ですが、あれはなんだったんでしょうね。冒頭に記したエースの見た目の演出も、バッチリ決まりすぎていていることに思いを馳せると逆に怪しく見えてきます

8.ママタルト
 檜原があんなにちゃんとツッコミをできるのは発見でした。ただ、石田も言っていましたが、最後のツッコミの台詞が私には聞き取れませんでした。肥満が膝蹴りで割っていたものの名前を檜原がツッコミで言っていたのですが、それが何だったか分かりませんでした。
 体がでかく、髪が少なく、そのわりに結構動ける大鶴肥満のキャラクターを存分に活かしたネタでしたが、悪く言うとそれ以上でもそれ以下でもないんですね。「肥満のあのキャラクターだったらこういうボケが入ってくるだろうな」という予想を裏切ってくるものはひとつもありませんでした。それでは、M-1で上には行けません。「アホキャラならそういうボケになるだろうな」というボケばかりだったバッテリィズの問題と通底していますが、こっちは審査員の点数が低かったのが不思議ですね。

9.エバース
 「ドラマでよくあるような話は細部を詰めて考えるとツッコミどころだらけ」という題材のネタでした。ボケの佐々木は淡々としゃべればいいのでそれほど演技力は求められません。町田のツッコミも、マンキンという感じでやってはいませんでしたが、演技力に問題は覚えませんでした。
 大喜利もしっかりできていると思います。「ドラマでありそうな話にツッコんでください」というお題への大喜利に高いレベルで答えられています。ただ、後半は「●年後にまたここで会おうと約束した場所がこんな風に変わってしまった」という大喜利が中心であり、こちらのクオリティは今一つだったと思います。ここでもうちょっと練ってくれたら、もっと笑えたとは思います。

10.トム・ブラウン
 どんなのをやってくるかと不安でしたが、しっかりとランジャタイヨネダ2000の枠を全うしていました。
 この手の奇矯なネタは本人たちがやりたいことをやったのであれば特に言うことはないのです。ただ、私が一番おもしろく思えたのは後半にみちおが疲れていたシーンです。本来、みちおが本物の奇天烈なのであれば、奇天烈なことをやっているうちは疲れることはないと思います。疲れたということは、あのキャラも作り物であり、無理矢理やっているということなのです。私は結局、みちおが自分でやっているキャラに徹しきれていない(=クオリティを保てていない)部分を嘲笑っていたわけで、奇天烈キャラそのものに笑っていたわけではないのです。すなわち、今年のトム・ブラウンも作り物の狂気を演じて見せていただけで、本物の狂気ではないのです。
 毎回布川の頭を2度撃つところとその後にシャンパンのコルクを当てるところは若干おもしろかったです。いつか、M-1で作り物ではない本物の狂気を見てみたいです。

<最終決戦>
1.真空ジェシカ
 川北がツッコミに反攻したシーンがおもしろかったのは1本目同様です。「長渕が聞こえてくる」というのも伏線を活かしていて粋です。途中に入る間が長めのネタでしたが、他でカバーできていました。

2.令和ロマン
 「銃はまだ試してなかったよ」は今年のM-1で一番おもしろかったです。ただ、他のところの大喜利は物足りなかったですね。
 くるまとケムリの演技力に文句はありません。

3.バッテリィズ
 今回も「もうええわ」をエースが言っていましたね。しかも「世界遺産に行きたい」という冒頭のフリもエースが言っていたので、エースがこのネタを主導して作っている感が強くなってしまっていました。お墓の話が連続していくクダリは伏線としては見事なのですが、台本がキレイになればなるほどアホキャラの作り物感が強くなるのがこのコンビのジレンマですね。アホには、キレイな台本は書けないはずなのです。2本目で早くも化けの皮が剥がれてきていたのが残念でした。
 台本をどっちが書いているのかは分かりませんが、どっちにせよエースが賢く見えるような部分は極力排除した方がいいと思われます。

<総評>
 私が審査員だったら最後の投票は真空ジェシカに入れていたと思います。2本目にも1本目並みに大量のボケが入っていたらもうちょっと戦えたんじゃないでしょうかね。

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