当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

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 2025年のR-1です。

1.ヒロ・オクムラ
 オタサーの姫みたいな女子大生が、工学部出身の非モテ理系男性3人でやっているベンチャー企業の就職面接を受けに来たという内容の1人コントでした。オクムラ本人が演じていたのは、そのベンチャー企業の社長です。
 演技力は申し分ありません。早口でまくし立てる能力も申し分ありません。上記の設定は若干ベタで大喜利力にも特に見るべきものはありませんでしたが、そのあたりはオクムラの演技力でカバーできていました。
 ただ、女子大生やオクムラの同僚の言動はオクムラが全て口で説明しており、「実際この状況でそんな説明的な台詞言わんやろ」というの私の胸中に生じたセルフツッコミが絶えずノイズとして残響していました。もちろん、ネタの演出や台詞回しである程度はカバーできる問題ではありますが、ピン芸という手法それ自体の限界も見えました。
 何度でも同じことを言いますが、「(複数人ではなく)ピン芸でやってこそおもしろい」という積極的な理由がない限りは、ピン芸という手段を取るべきではないと私は思っています。ピン芸であることを相方探しやネタ合わせの労を回避していることの言い訳にしてはなりません。今回のオクムラのネタには、その「積極的な理由」が見出せませんでした。女子大生もオクムラの同僚も演じる役者がいた方がおもしろかったと思います。無論、この3人にもオクムラ並みにちゃんとできる力量がないと、今回オクムラが披露したピンネタよりひどい出来にはなってしまいます。そんな人物を3人も見付けてきちんとネタ合わせをするのは、並大抵のことではありません。この3人の言動を観客の想像に委ねることで低コストで笑いを生み出せるのがピン芸という手法のメリットではありますが、それは作り手にとってのメリットでしかありません。このネタをピン芸でやる「観客にとってのメリット」をきちんと打ち出して欲しいのです。

2.チャンス大城
 ド頭でやった「カラオケ屋の電話の音」はおもしろかったです。その次にテレビでよく見る「防犯ブザーの音」を披露していたので、「(向上委員会の閉店ギャグ的な)小ネタを積み重ねていくネタなのかな」という期待と不安が入り混じった感情が沸いたのですが、その後は基本的に人形相手に一人芝居をしていました。
 昨今はチャンスの露出も増えているので、彼本人がああいうぶっ飛んだネタをやると分かっている(=普段テレビで見るチャンスがフリになって視聴者の狂気に対するハードルが下がる)からこそ見ていられたネタだったとは思います。
 こういう狂気的なネタ対して私は「狂気に作り物感がある」と評するのが一般的ですが、今回のネタには若干本物っぽさを感じました。チャンス本人があっぷあっぷな感じで一生懸命ネタを演じていたからだと思います。

3.田津原理音
 ボケだらけの説明書(組立家具のもの)にツッコミを入れていく陣内スタイルのネタでした。ヒロ・オクムラのネタと違って一人でもできる(=他の演者もいた方がいいのにな、とは思わない)ネタにはなっていました。
 ツッコミの演技力にそんなに文句はありません。陣内よりはあると思います。大喜利力もそれなりだとは思います。
 ただボケの画が出てくる前に食い気味にツッコミ台詞の最初の方が聞こえてきてしまうのが気になりました。早いと思います。自分の手元の説明書ではなくて観客が見ている画と同じものを見ながらツッコめばこの問題は解消できると思います。
 あと最後の「LOVE」が「MIHO」になるという大ボケは、説明書冒頭のパーツ説明のページで簡単に触れておいて、伏線っぽくした方が良かったと思います(録画したものを見返しましたが、「LOVE」と「MIHO」はちゃんと対応していました)。触れすぎると鼻につきますが、「STU」のクダリもあるのでそれがうまいこと煙幕になると思います。

4.ハギノリザードマン
 得意の手作り小道具と自分の顔を使ったモノマネを積み重ねて尺を埋めたネタでした。一応、「家を出る息子に父が語りかける」という設定を設けて各ネタの接着剤にしていたのですが、単にとってつけただけであり、この設定がフリとして活かされたり伏線になったりということは(最後の最後のTikTokのクダリを除けば)ほとんどありませんでした。そういうのを入れ込まないと、賞レースで上には行けないと思います。彼に入った点数は高すぎると私は思います。
 個々のネタも、amazonのは(友近も言っていたように)本人の表情込みでおもしろかったですが、一番よく見る「肉まん」は披露されておらず、全体的にパワー不足でした。

5.ルシファー吉岡
 居酒屋でルシファーが後輩に語りかけるという設定でしたが、ほぼほぼ漫談だったので、この設定はあってもなくてもよかったです。普通に落語家スタイルで漫談をしても良かったんじゃないかと思います。冒頭のレモンサワーを注文するクダリも全然後に活きてきませんでした。でも、最後の乾杯の後に若干の間があったのはおもしろかったので、あれを引き出すための設定だったのであれば良しとしましょう。
 肝心の漫談の内容は、まあまあおもしろかったです。ただ「結局顔じゃなくて心持ちだ」という昔からあるベタな結論に落ち着いてしまうのはもったいないと思いました。ルシファーの得意技は気持ち悪い下ネタだと思うので、もっとぶっ飛んだ言説を力いっぱい叫んでくれた方が個人的には楽しめたと思います。

6.吉住
 婚活の中での(喫茶店らしき場所での)お見合いという設定の一人コントでした。ヒロ・オクムラのネタと同じく対面の相手とひたすら話すネタだったのですが、こっちはまだ見ていられました。吉住の言動に笑いの要素が全てぶち込まれており、話し相手の言動をそこまで想像しなくても良かったからです。
 最後に落語っぽくオトしたのは不意を突かれておもしろかったですが、それ以外は特に笑える部分はなかったです。笑いの中心は「(陰キャから見た)陽キャに対する偏見(という名の悪口)」で、題材自体にそこまで新鮮味がなかったからでしょう。
 加えて、「脳内会議が見えてしまう」というのがこのネタの一番のバラシどころだと思うのですが、それをバラされてもあまり驚きが無いのは致命的だったと思います。なぜ驚けないかと言えば、バラす前とバラした後とで脳内会議の画的な見た目がほとんど一緒(照明を暗くするかしないかぐらいの違いがあるのみ)で、観客が「本当に見えてるんだ」と強く自覚することができないからです。ここはもっと、演出上の工夫が必要だと思います。これも、ピン芸という手法の限界でしょう。

7.さや香 新山
 世の中に転がっているおかしなこと(=ボケ)にテンション高くツッコミを入れていくネタでした。漫才だったら、この「おかしなこと」を主張する役回りを石井がやるんでしょうね。そして残念ながら、さや香の漫才には勝てていませんでした。これぞ、ピン芸の限界そのものです。
 個々のネタにもあんなにテンション高くツッコミを入れるほどのものはなく、新山本人の大喜利力に疑問符が付きました。前のネタが後ろのネタに活きてくるような伏線めいたクダリも「失礼しました」のひとつだけで、この出来じゃあ賞レースでは勝てないなと思いました。

8.友田オレ
 辛いものが苦手だということだけを伝える演歌を歌うネタでした。冒頭のフリも長く、とにかく笑いどころが少なかったです。基本的に辛いものが苦手ということをストレートに伝えているだけであり、妙に歌唱力が高くてメロディの完成度も高いのに歌詞の内容がしょうもないということだけが笑いどころで、大喜利力も感じられませんでした。
 賞レースで上を目指せるネタではなかった(ゆえにこのネタに入った点数も高すぎると思います)ですが、やりたいことをやれたというような満足感は不思議と感じ取れました。

9.マツモトクラブ
 外国人らしき生徒たちに日本語を教える先生をマツモトクラブが演じる1人コントでした。
 機械で流される生徒たちのガヤがボケで、先生はツッコミ役でした。そうなると、当然生徒たちの拙い日本語が笑いの題材になります。そして、カタコトや訛りを笑うのはド直球の差別になり得るので危険です。その点がずっとノイズになっていたので、ヒヤヒヤしながら見ざるを得ませんでした。こういう笑いも許される世界がいつか(遠い未来でもいいので)訪れたらいいなというのは常々私が思っていることではありますが、現状この手の笑いをナイーブに表現するとノイズの方が勝ってしまうということです。
 あと、その種類の笑いであれば、やっぱり天然で飛び出したものの方がおもしろいと思います。さんまのからくりTVでやっていたファニエスト外語学院は今やったら完全な差別になり得るので難しい(そのうえ、どこまでが本当の天然かは判断しづらい)でしょうが、ああいう天然には勝てていませんでしたね。

<FINAL STAGE>
1.田津原 理音
 なんか、凡庸なフリップ芸になっていました。
 全体的にはどうでもいいことにいちいち興奮している天然気味の人物の言動をフリップで紹介しながら、田津原がそれにツッコミを入れていく構造でした。ただ、前後で伏線めいた絡みはなく、フリップで紹介されるどうでもいい言動の数々も大喜利力の高さを感じられませんでした。あと、フリップに登場する天然くんはずっと同じ絵で描かれていたのですが、その顔が過度にコミカル(そのくせそんなに絵が巧いわけでもない)でそれが絶えずノイズになっていました。「笑ってくれよ」という下心を感じてしまいました。

2.ハギノリザードマン
 フリップをめくってお題を出した後に、日常のシチュエーションの再現モノマネをしながらツッコミを入れていました。得意の手作り小道具は、途中で出てきたノコギリ以外にはありませんでした。そのノコギリも、ほぼ現実で見るノコギリの再現だったので、手作りだった意味はほとんどありませんでした。
 前後の伏線めいた絡みも掃除のクダリにしかなく、個々のネタにも大して大喜利力は感じられませんでした。このネタもほぼほぼ凡庸なフリップ芸に堕していたと思います。

3.友田オレ
 フリップを使ってはいましたが、前二者と違って凡庸ではありませんでした。音楽に乗せながら売りの美声で「ないないなないなない音頭」というものが披露されていました。
 ただ、基本的に「向こうは俺を○○しない」ばかりで変化に乏しく、なおかつ「向こうは俺を語呂合わせない」みたいな素っ頓狂なものが出てきた後に「向こうは俺の指示を聞かない」とか「夢に出てこない」みたいな意外と普通のものが混ざってきたので、笑いがどんどん尻すぼみになっていました。

<総評>
 フジテレビの番組ですが、想像よりは企業CMが入ってましたよ。

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