当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2024年10月7日にエピソード1とエピソード2が、同年10月14日にエピソード3とエピソード4が、それぞれAmazon Prime Videoで配信された番組です。「地上波ではできない過激な企画を実現する」というのがコンセプトとのことでした。
 番組を手掛けているのは「水曜日のダウンタウン」で高名な藤井健太郎氏と、「藤井組」と言ってもいいいつものメンバーでした。ナレーションの銀河万丈も、「クイズ☆タレント名鑑」や「テベ・コンヒーロ」といった藤井氏の番組でよく起用されており、藤井組に含めていいと思います。テロップのフォントや色味も「水曜日」そのものだったので、視聴者としては「水曜日」をそのまま見ている感覚でした。きっと「水曜日」の企画会議でアイディアとして出たにもかかわらずコンプライアンス的に実現できなかったものを、こっちに持ってきたのではないかと想像されます。

 さて私がこれを見て本稿を書こうと思ったのは、エピソード2が炎上したからです。それはエピソード2の項で書くとして、各エピソードごとに実際に視聴して思ったことを書いていきます。

エピソード1 スポーツスタンガン

 リングにスタンガンを持った2人の芸人を入れ、先にスタンガンを食らった方が負けというルールでトーナメントを行っていました。
 スタンガンを食らいたくない一心で卑怯な手を使ったりする芸人たちの嫌な部分は垣間見えていたので、「演出により特殊な状況を設定し、人間が社会生活を送るために被っている品行方正の皮をひん剥いて、嫌なところを剥き出しにする」という藤井演出の特徴はよく表れていたと思います。ただそれを笑えるかどうか(=実際に剥き出しになった「嫌な部分」が笑えるレベルに止まっているか)は、多分に視聴者個々人の好みに拠る部分が大きいです。スタンガンを食らった時のリアクションも撮れ高として狙っていた部分かもしれませんが、ここは一様に地味でそれほどおもしろくなってはいませんでした。この点は、誤算だったのかもしれません。
 それよりも、この企画自体が芸人たちにとっても初めての試みであるため、みな勝つため、そして笑いをとるために試行錯誤をしており、試合が進むにつれてどんどんその引き出しが開けられていったのが興味深かったです。ある者は声を出して威嚇してみたり、ある者はしゃがんで的を小さくしてみたり、前述の通りスタンガンにトラブルが起きたことを装って敵の隙を誘う卑怯な者もいました。見ている芸人たちのガヤを聞いてみても「スタンガン道」とか「スタンガンズハイ」などといった新しい概念が次々と生まれていたので、みんなおもしろくするために頑張っているんだなというのが見えて、素直に感心しました。ただ、MCの設楽がSっ気たっぷりにスタンガンでふざけるクダリが一番面白かったのは事実です。設楽という人選は、見事だったと思います。

エピソード2 麻酔ダイイングメッセージ

 「芯を喰ったダイイングメッセージなど本当に書けるのか」という疑問を麻酔を使って検証する企画です。芸人が2人1組のチームになり、一方は麻酔を注入されている状態で仕掛け人の役者陣が演じる殺人事件(の小芝居)を目撃しながら、麻酔で意識を失う前にできるだけダイイングメッセージを書き、もう一方がそれを呼んで犯人を当てるというゲーム形式の企画でした。
 ここで使われた麻酔はプロポフォールという静脈麻酔薬(点滴で血管に注入するタイプの麻酔薬)であり、当然単なる娯楽目的では使用できないので、プロポフォールを使った胃カメラ検査のついでにこの企画を行うという方便が用いられていました。藤井氏が過去に手掛けた「カイジ」では、参加者に与える罰としての血抜きを血液検査という方便でやっていましたが、それと同じ手法でしたね。
 
 とはいえこれが単なる方便なのは誰の目から見ても明らかであり、日本麻酔科学会から2024年10月16日に「このような麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切であり、日本麻酔科学会として断じて容認できるものではありません。」(抜粋)という声明を出され、炎上してしまいました。

 私の考え方を述べますが、まず本企画はここまでやった割りにそんなにおもしろくなかったです。「麻酔を打たれた人はこうなるんだ」というのを知ることができたのでinterestingではありましたが、決してfunnyではありませんでした。実際に書かれたダイイングメッセージも全く核心を突いておらず、犯人当ての局面もある程度当てずっぽうで挑まなければならないものばかりであり、ミステリー作品のようなハラハラ感はほとんどなかったです。まあ、「フィクションのミステリーで見るようなダイイングメッセージが残っているのはいかにもご都合主義的なことなんだな」という感想には至ったので、ミステリーに対する諷刺にはなっていたと思います。役者陣のお芝居もクオリティになかなかに難があり、そこに一切ツッコミが入らないのも辛かったです。普段の水曜日であれば、スタジオの演者がワイプからもっとツッコミを入れてくれたはずです。そんなわけなので、2度目はないでしょうから、麻酔の濫用に関してそこまで心配はしなくていいと思います。

 上記のような方便で麻酔を使用したことの是非そのものに対する私の意見ですが、私は笑いに使える手段は多ければ多いほどいいと思っているので、一応擁護をしておきます。この擁護に対する反論は、聞いてみたいところです。
・そもそもプロポフォールのような注射タイプの麻酔薬は医療従事者(医師・看護師等)しか手に入れられない(厚生労働省が、一般人に処方できる注射薬を限定して定めている)ため、本番組が「麻酔は娯楽目的で使っても良い」という誤ったメッセージを与えるものだとしても、それを実現できるのは医療従事者のみである。
・医療従事者は倫理を含めた専門教育を受けなければならないため、濫用はその専門教育の方で防止できるはず。
・例えば包丁を使った殺人事件を描いたようなドラマも、「包丁を人に使うと人を殺すことができる」という良くないメッセージを与えるものではあると思われるが、上記のような事情から包丁と比較したらプロポフォールが濫用される危険性は有意に低いはず。

エピソード3 右翼左翼レース

 ウエストランドときしたかのが対決する格好になっていた企画です。道行く人に政治信条を聞き、「右寄り」と言われたら右折しなければならず、「左寄り」と言われたら左折しなければならないというルールで目的地を目指すというのが大枠の内容です。
 当然道行く人の見た目だけからその人の政治信条を類推しなければならないので、「こういう見た目の人の政治信条は○寄り」という偏見をある程度使わなければなりません。撮れ高があるとすれば、「この人、絶対○寄りだな……。なぜそう思った?」という大喜利への回答としてバッチリおもしろい人が登場した場合でしょうが、そういう人はほとんど出てきませんでした。ウエストランドもきしたかのもこの大喜利をさほど積極的にやっていなかったのが大して撮れ高がなかった大きな要因だと思います。MCのカズレーザーみたいなちゃんと知識のある人がプレイヤーになった方が、もっと撮れ高が生まれたと思います。

エピソード4 童貞人狼

 8人の自称童貞の芸人の中から1人だけいる非童貞を見抜くというゲーム企画です。
 私は下ネタが好きなので、この番組の中で唯一大笑いできたのがこの企画です。8人は全員いかにも童貞然とした見た目であり、その8人が自身の性体験を赤裸々に(といっても、正解の1人以外は嘘をついています)一生懸命語るのがとてもおもしろかったです。ただここには非童貞が童貞を嘲笑しているという権力的な構造があるので、童貞の方が見たら辛くなっただけではないかと推察もされます。
 とはいえ、見た目による偏見についての大喜利(本エピソードにおいては、「この人、絶対童貞だな……。なぜそう思った?」という大喜利)はエピソード3よりよっぽどちゃんとできていました。

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