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Lost Records: Bloom & Rage

 発売と同時にゲームカタログに追加されたのでやってみました。
 ライフイズストレンジシリーズ最も評価の高い1作目を制作した、DONTNOD(フランスのゲーム会社)の開発チームが手掛けている作品だったからです。ライフイズストレンジシリーズは、2以降微妙な出来のものしか出来上がっておらず、3からは開発会社すらも変わってしまったので、本作こそ1作目のような何かを味わわせてくれるのではないかという期待がありました。

 ゲーム性は、ライフイズストレンジシリーズと全く変わりありません。時折アクションゲーム的な操作でポイント&クリックができるアドベンチャーゲームです。ゆえに最も大事なのは、お話の出来ということになってきます。
 結論から言うと、「あんまりピンと来なかった」というのがわたくしの正直な感想です。

 主人公は、4人の女性です。プレイヤーが操るのはその中の1人であるスワンです。物語は、1995年と2022年という2つの時間軸をザッピングしながら進んでいくことになります。95年に出会い、親友となった4人は、ある出来事をきっかけに疎遠になってしまいました。その4人が、27年後の2022年にある物が送られてきたのをきっかけに再会することになります。プレイヤーを駆り立てる原動力になっているのは、「95年に何があったのか」「送られてきた物の正体は何なのか」という謎です。
 なのですが、前半はなかなかお話が核心に入っていきません。物語はTape1とTape2の2部構成になっていますが、お話が大きく動き出すのはTape1の終盤になってからです。そこに至るまでの間に見せられるのは、4人のキャッキャウフフな夏模様です(もう少しフォーマルな言い方をすれば、女性間のホモソーシャル的描写です)。ライフイズストレンジの1作目でもこういった描写が作品のひとつの核になっていたとは思いますが、あちらは序盤にクロエの死という衝撃的なシーンを持ってきてきちんとプレイヤーを引き留める作りになっていました。大して本作は、ストーリー上(クロエの死に匹敵するような)大きな動きがなく、全体的に平板で退屈です。キャッキャウフフが好きじゃないと、眠くなってきます。

 Tape2の最後までやれば95年に何があったかは一応描かれますが、結局どういうことだったのかについての説明は乏しく、すっきりと納得はできません。良く言えば色々な解釈が可能な作りになっているということではありますが、熱心に考察するほど興味が持てなかったというのが正直なところです。その一因として、敵役の描写不足という点は一つ挙げられると思います。
 本作には、コーリーとディランというプレイヤーの敵愾心を極端に煽ってくる「嫌な奴」が登場します。ディランは、4人の主人公の1人であるキャットの姉です。コーリーはディランの彼氏で、キャット姉妹の親が経営する牧場で住み込みで働いている男です。ステレオティピカルないじめっ子の描写はライフイズストレンジの1作目と同様うまいと思いましたが、この2人とキャットの仲がなぜあんなに険悪なのかはいまいち分かりません。Tape1の終盤でキャットは白血病で余命も長くないということが分かりますが、その後の描写を見る限り、彼女は軟禁同然で実家に閉じ込められているんだろうなあというところまではなんとなく伝わってきます(ゆえに、キャットはこっそりと家を抜け出して他の3人と交流することにプライスレスなものを感じているわけです)。ただ、キャットの自由を奪っている最大の悪役は、どう考えてもキャットの両親であると思われます(一雇人に過ぎないコーリーの意思だけでキャットを閉じ込めておくことはできないでしょう)。コーリーはキャットの父から言われて彼女を連れ戻そうと動き回る様子が描かれていますが、肝腎のキャットの両親はそもそも作中に登場しません。顔も声も一切分からないのです。何でコーリーみたいなただの雇われに悪役のほとんど全てを担わせたのかが分かりません。一応、コーリーは腹に一物を抱えたままディランと両親に取り入って、キャットを亡き者にして牧場を乗っ取ろうとしているのかなあという推測はできますが、詳しい描写がないのでよく分かりません。コーリーは言動の煽り性能だけは高いので、こちらとしては気持ちよくぶん殴りたいのですが、一番の「戦犯」であろうキャットの両親が影も形も見えず、キャットが軟禁されている背景事情もよく分からないので、「キャット軟禁の必要性は全くなく、キャット本人にも一切非はない」と気持ちよく信じ切ることができないのです。キャット本人も口が悪く、終盤にはコーリーへの意趣返しとして牧場が経営している土産物店(の駐車場に設置されているオブジェ)への放火や牧場の財産である鹿を逃がすといった行為にまで及ぶので、そのような大罪にプレイヤーが一緒になって熱狂するには「そこまでやるのも仕方ない」と思える必要性が強くあります。なのに前述の通りコーリーがどれだけ悪い奴かの描写が薄く、そもそも土産物店や鹿がどういう施設なのか(ここでコーリーや両親がどれだけあくどいことをやっているか)の説明もないので、キャットが一人で暴走しているようにも見えてしまい、コーリーをぶっ飛ばした時もいまいちカタルシスがないのです。キャットの両親のことを明確に描いてくれれば、「親との対決」という葛藤がストーリーに生じ、それがライフイズストレンジ1の最後の最後の選択のような深みをもたらしてくれたと思うんですけどね。

 また、本作のキーのひとつであろう「アビス」(森の中に急にできた紫色に光る穴)も、何なのかがよく分かりません。何かの代償を支払うと願いを叶えてくれる存在(ハガレンの錬金術みたいなもの)なのかなあということはぼんやりと想像がつきますが、詳しいルールの説明は一切ないので、結局何が起こったのかもどう利用すればいいのかも全然分かりません。ゆえに最後の最後でキャットが絶叫していた「私たちは二度と会ってはならない」という言説もどういう理屈でそうなるのかがさっぱり分からないのです。そのため、2022年と1995年を並行させるという本作ストーリーの大きな構造それ自体も、必要性が不明のまま終わってしまいました。そもそも、大きな動きがなく登場人物が飲み屋で会話しているだけの2022年パートは、全体的に退屈です。
 これらの点はプレイヤーの解釈で補うべきところではなく、ちゃんと説明をして、アビスを利用すべきかどうかの葛藤や、アビスを利用してしまったことに対する後悔といった主人公たちの感情をプレイヤーにも共有させた方が、深みのあるストーリーになったと思います。

 というわけで、全体的に描写不足な点が目立ち、薄味で平板なストーリーだったと思います。何度も言っている通り、良く言えば解釈の余地を多分に残しているということなので、最終的には好みの問題なのかもしれませんが、私がこの手のお話を好かないということはハッキリしています。

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