最終更新:ID:9vkmez8eRA 2010年12月10日(金) 21:15:34履歴
ボクは店長。
某コンビニエンスストアの、店長なのだ。
どんな経緯で店長になったの?と聞かれれば、
高校生になって始めたコンビニのバイトを続けているうちに、
二十二歳という年齢にも関わらず、ボクは店長になっていた、と答える。
バイト時代は、優秀だったの?いや、そんなことはないよ。
学校では、運動も勉強も苦手だったし。
ボクの人生は、思うに、普通の人生だったのだ。
普通の小学校。普通の中学校。普通の高校を出て。
可もなく、不可もなく。傍から見れば、なんてつまらない人生だと思われているかもしれない。
でも、ボクは一生懸命に生きてきたのだ。
ボクに、この勤勉さ、人にはつまらないと言われるこの性格がなければ、ボクは店長になれなかっただろう。
真面目なのは偉いよ、って?そうじゃないんだ。
それが普通だと思っていたから、ボクは普通の人生を過ごして来られた。
だから、このコンビニは売り上げも普通だけど、それがボクの唯一の自慢。
ボクの宝とも言える、自慢のコンビニなのだ。
「いらっしゃいませぇ、デニーズへようこそぉ」
店の入り口が開く音とともに、そんな声がレジのほうから聞こえた。
ボクが慌ててレジまで行くと、口が半開きになったお客さまと、にこにこと笑っているバイトがいた。
「ちょっと亀井さん!ここファミレスじゃないから!」
「ウヘヘ、間違えやしたぁ。すいやせん、すいやせん」
ぺこぺこと、お客さまに頭を下げる。
お客様は、面白い店員さんだね、とボクに言われたので、はあ、本当にどうもすみません、とボクも頭を下げる。
「昔、デニーズでバイトしてたんですよぉ」
「亀井さん、ここでバイトを始めて、何年目?」
「大学生になってからずっとお世話になってるので、四年目です」
自信たっぷりに答えるので、ボクは突っ込む気力も、怒る気力もなくし、
「そっか、もう四年かぁ」と相槌をうつのが精一杯だった。
高校を卒業し、ボクがこの店の店長になったときに、初めてバイト採用の面接をしたのが、この亀井さんだった。
始めの印象は、黒髪で、前髪をキレイにそろえた、どこかお金持ちのお嬢様、というところだった。
大学に入学したばかりで、アルバイトを探している、というので、
それなら長く続けてもらえるだろうと、ボクは彼女を採用することに決めた。
「それじゃ、雑誌の品出しに戻るから、レジは任せたよ」
「はい!」元気よく返事をする、亀井さん。
普段はぽけぽけとした雰囲気の人だけれど、本気でお客様からクレームを受けたりすることはなかった。
亀井さんのレジ打ちに対する愛着は理解しがたいけれど、レジで差額を出してしまったりしたことも、一度もない。
お店の入り口にいれば、その笑顔だけで、売り上げにも貢献してくれて、最近は後輩の指導も板に付いてきた。
そんな亀井さんも、この冬でバイトを辞めることになっている。
大学四年生となれば、春から就職だ。
就活の忙しい時期も、率先してシフトを入れてくれたし、亀井さんははよくやってくれた。
できることなら、ずっと続けてもらいたかったけれど、コンビニのバイトなんて、いつまでも続けるような仕事でもない。
特に、亀井さんのように、周りに気配りも出来る、素敵な女性なら。
もっと広い世界で、その才能を発揮するべきだ。
少し、目頭が熱くなる。
「てんちょ、おつかれさまでしたぁ」
「おつかれ…って、もう上がり?」いつの間にやら、時計を見れば、零時が近い。
「わたし、今日で最終日です」
亀井さんも、少し涙ぐんでいるように見えた。
「そっか。送別会、してあげられなくてごめんね」
「いいんですよ、冬のこの時期、忙しいのは知ってますから。
それに、春まではまだ、こっちにいるので」
こっち、とはどういう意味だろう、と少し思った。
「亀井さん、独り暮らしだったっけ」
「そうですよぉ」
ただ引っ越すという意味なのか。
それとも、就職先自体、東京の会社じゃないのかな。
それは、ボクには分からないし、知るべきことじゃない。
「ちょっと待ってて」
ボクは慌ただしく店内を歩き回り、亀井さんが好みそうなケーキと、梅の入ったお菓子、
それから、海苔がぱりぱりじゃないほうのおにぎりを袋に包んで渡した。
「これ、持って行って。今まで、亀井さんにはお世話になったから。本当にありがとう」
「まだお世話はしてませんよぉ。これから、するんですから」
「えっ?」
どういう意味?と聞こうとしたところで、
「何だか名残惜しいなぁ」と亀井さんが言う。
ボクもだよ、と口が滑りそうになった。できれば、この先もずっと、亀井さんと一緒にいたかった、と。
でも、そんなことはできない。
ボクが、亀井さんの足を引っ張るような真似は。
そんなボクに、亀井さんが言った。
「一人じゃ、こんなに食べきれませんよ。てんちょ、わたしのお家に来てくれませんか?」
第二話へ...
某コンビニエンスストアの、店長なのだ。
どんな経緯で店長になったの?と聞かれれば、
高校生になって始めたコンビニのバイトを続けているうちに、
二十二歳という年齢にも関わらず、ボクは店長になっていた、と答える。
バイト時代は、優秀だったの?いや、そんなことはないよ。
学校では、運動も勉強も苦手だったし。
ボクの人生は、思うに、普通の人生だったのだ。
普通の小学校。普通の中学校。普通の高校を出て。
可もなく、不可もなく。傍から見れば、なんてつまらない人生だと思われているかもしれない。
でも、ボクは一生懸命に生きてきたのだ。
ボクに、この勤勉さ、人にはつまらないと言われるこの性格がなければ、ボクは店長になれなかっただろう。
真面目なのは偉いよ、って?そうじゃないんだ。
それが普通だと思っていたから、ボクは普通の人生を過ごして来られた。
だから、このコンビニは売り上げも普通だけど、それがボクの唯一の自慢。
ボクの宝とも言える、自慢のコンビニなのだ。
「いらっしゃいませぇ、デニーズへようこそぉ」
店の入り口が開く音とともに、そんな声がレジのほうから聞こえた。
ボクが慌ててレジまで行くと、口が半開きになったお客さまと、にこにこと笑っているバイトがいた。
「ちょっと亀井さん!ここファミレスじゃないから!」
「ウヘヘ、間違えやしたぁ。すいやせん、すいやせん」
ぺこぺこと、お客さまに頭を下げる。
お客様は、面白い店員さんだね、とボクに言われたので、はあ、本当にどうもすみません、とボクも頭を下げる。
「昔、デニーズでバイトしてたんですよぉ」
「亀井さん、ここでバイトを始めて、何年目?」
「大学生になってからずっとお世話になってるので、四年目です」
自信たっぷりに答えるので、ボクは突っ込む気力も、怒る気力もなくし、
「そっか、もう四年かぁ」と相槌をうつのが精一杯だった。
高校を卒業し、ボクがこの店の店長になったときに、初めてバイト採用の面接をしたのが、この亀井さんだった。
始めの印象は、黒髪で、前髪をキレイにそろえた、どこかお金持ちのお嬢様、というところだった。
大学に入学したばかりで、アルバイトを探している、というので、
それなら長く続けてもらえるだろうと、ボクは彼女を採用することに決めた。
「それじゃ、雑誌の品出しに戻るから、レジは任せたよ」
「はい!」元気よく返事をする、亀井さん。
普段はぽけぽけとした雰囲気の人だけれど、本気でお客様からクレームを受けたりすることはなかった。
亀井さんのレジ打ちに対する愛着は理解しがたいけれど、レジで差額を出してしまったりしたことも、一度もない。
お店の入り口にいれば、その笑顔だけで、売り上げにも貢献してくれて、最近は後輩の指導も板に付いてきた。
そんな亀井さんも、この冬でバイトを辞めることになっている。
大学四年生となれば、春から就職だ。
就活の忙しい時期も、率先してシフトを入れてくれたし、亀井さんははよくやってくれた。
できることなら、ずっと続けてもらいたかったけれど、コンビニのバイトなんて、いつまでも続けるような仕事でもない。
特に、亀井さんのように、周りに気配りも出来る、素敵な女性なら。
もっと広い世界で、その才能を発揮するべきだ。
少し、目頭が熱くなる。
「てんちょ、おつかれさまでしたぁ」
「おつかれ…って、もう上がり?」いつの間にやら、時計を見れば、零時が近い。
「わたし、今日で最終日です」
亀井さんも、少し涙ぐんでいるように見えた。
「そっか。送別会、してあげられなくてごめんね」
「いいんですよ、冬のこの時期、忙しいのは知ってますから。
それに、春まではまだ、こっちにいるので」
こっち、とはどういう意味だろう、と少し思った。
「亀井さん、独り暮らしだったっけ」
「そうですよぉ」
ただ引っ越すという意味なのか。
それとも、就職先自体、東京の会社じゃないのかな。
それは、ボクには分からないし、知るべきことじゃない。
「ちょっと待ってて」
ボクは慌ただしく店内を歩き回り、亀井さんが好みそうなケーキと、梅の入ったお菓子、
それから、海苔がぱりぱりじゃないほうのおにぎりを袋に包んで渡した。
「これ、持って行って。今まで、亀井さんにはお世話になったから。本当にありがとう」
「まだお世話はしてませんよぉ。これから、するんですから」
「えっ?」
どういう意味?と聞こうとしたところで、
「何だか名残惜しいなぁ」と亀井さんが言う。
ボクもだよ、と口が滑りそうになった。できれば、この先もずっと、亀井さんと一緒にいたかった、と。
でも、そんなことはできない。
ボクが、亀井さんの足を引っ張るような真似は。
そんなボクに、亀井さんが言った。
「一人じゃ、こんなに食べきれませんよ。てんちょ、わたしのお家に来てくれませんか?」
第二話へ...
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