「はい、今日の授業はここまで」

万に一つも面白いとは言えない、今世紀最大級につまらない授業がやっとのことで終わっても、
問題は富士山よりも高く山積みだ。

「え、えり・・・これ、えりが寝とった分のノート・・・」
「・・・」

授業が終わっても机に突っ伏している右隣の眠れる姫君に
畏れ多くも声をかけてみたけれど、案の定ふたを閉じた貝のごとく無反応。
まるでえりのところだけ時間が止まってしまっているかのようにも見える。
いや、もしかして変わり身の術でマネキンと入れ替わっているのかも。

「・・・ノート、ここに置いておくけん」
「・・・」

5限は“なかざー”の授業やないし・・・サボるか。
えりから発せられる覇王色の覇気に追いやられて、足取り重く教室から出ていく。
廊下ですれ違うやつらが「またサボりか」と鋭い視線を向けてくるが、
ラストサ○ライで渡○謙演じる勝元の最後の勇姿のように廊下を突き進む。
屋上に出る思い扉を開けると、すぐに左に折れる。
少し奥まったところにある鉄製の梯子を上り、貯水タンクの日陰に寝転んだ。

「ふぅ・・・」

れーなの特等席。
真っ青な空に飾りつけ程度の雲が風に流されている。
意外とその流れは速くて、じーっと1つの雲のかけらを目で追っていくと
すぐにれーなのからだを支えてるコンクリートの床が横目から視界に入り込んできた。
ここではそんなに風を感じないのに、空の高いところではかなりの風が吹いているみたいだ。
なんか変な感じ。
そして、ここでこんなに暢気な昼と夕方の間を過ごしているというのに、
2階下の教室では今でも美しい姫君がプンスカしてるに違いない。
これは変と言うよりも嫌な感じだ。
そんなことを考えているうちにお腹の下で5時限目のサボりを決定させるチャイムが鳴った。
やれやれ、困った高校生だ。

「やれやれ、困った高校生なの」
「さゆ?」

秋風に長い黒髪を靡かせながら、その白い肌を太陽のオレンジに染めて突っ立っている。
そこまでなら美少女の登場シーンみたくなっていたものの、
腐った生ごみを漁るカラスを見るような蔑んだ目でれーなのことを見ているその姿はなんとも憎たらしい。
ここまでキツイとなるとれーなと言えど許容範囲を超えているためさすがに興奮はしない。
そっちがその気なら、とこっちも挑発するような声のトーンで「なん?」と返してやった。
が、全く動じないところがまたムカつく。

「えりとケンカしたの?」
「えっ、なんで・・・」
「はぁーあ、いっつも浮気ばっかしてるから。そりゃ、えりじゃなくてもイライラきちゃうよね」
「う、浮気なんて・・・!」
「さゆみの家に証拠VTRたくさんあるけどw」
「う・・・」
「まぁ、れーなイジリはこのへんにしておいて ケンカの理由はなんなの?」
「・・・それは―――


昨日の放課後、いつものようにえりと川の堤防沿いを歩いてデート兼下校。

「はぁぁーぁ、ガッコ疲れた」
「そーやね、“なかざー”は相変わらず怒鳴ってばっかやし」
「関西弁がうっとぉしーですよ」

学校終わりの教科書の入っていないスクールバッグの中身は一日分のため息でいっぱいだ。
何にも入っていないはずなのに、その分鞄は重たく、肩に喰い込むように感じる。
ま、でもね。
決して学生としての使命を全うして勉学に励んだわけじゃないのに、放課後になると達成感と解放感で心は躍る。
川から上ってきた風が堤防の芝生の匂いを運んで鼻をくすぐり、一つ深呼吸をすると、
くすんだ肺の空気と酸素やイオンをふんだんに含んでいそうな新鮮な空気が一変に入れ替わる。
何とも言えない幸せなひと時。

「ねぇ、れーな あれ見てぇ」
「ん?」

夕焼けで金色に輝くえりが指差した方向には、2人のカップルが並んでベビーカーを押して歩いていた。
20代後半・・・いや、前半?
間を取って25歳くらいかな?

「25歳くらいかなぁ?」
「それくらいやない?」
「ってことはだよ えーっと・・・」
「10歳差?」
「違うよw 今年で17歳なるから・・・25−17=9だから9年後w れーなおバカw」
「くっ・・・///」

バカなわけやないけんね。
れーなやってちゃんと“ひっ算”すれば・・・

「9年後にはあーなってるのかぁ(キラキラ) チラッ///」
「えっ/// な、なん!?///」
「9年後に子供がいるってことは、あの子見た感じ1歳くらいだし7年後には子作りして・・・」
「こっ・・・///」
「で、やっぱり7年くらい二人っきりで結婚生活楽しみたいし・・・///」
「けっ・・・///」
「てことは、そろそろプロポーズとかされておかないと・・・///」
「プ、プロ・・・///」
「チラチラ///」
「ドキドキ///」

プ、プロポーズなんて・・・

「できるわけないと!///」

そしてれーなは走り去ってしまった・・・―



「なるほどね それはれーなが悪いの」
「そ、そんなんわかっとぉし///」

自分で言っておいて恥ずかしい、そして情けない。
もちろんさゆは「まったく、いつになったら素直に好きって言えるの?」と呆れながら文句を言ってきた。
そして例のごとく「ま、れーなが告白したところでさゆみがいる限りれーながフラれるのは100%なのw」と
UFOの存在並に信憑性0%の決まり文句を付け足した。

「はやく謝ればいいのに」
「謝るって言ってもえり全然口聞いてくれんし・・・」
「それはえりの“口で謝る前に態度で示せ”ってゆーメッセージなの これだからヘタレちびニャンキーは・・・」

ヘタレもチビも公認な感じになってきてるけど、ニャンキーってどーゆージャンルなん・・・?

「別にヤンキーとかやないっちゃん せいぜいロックかポップってカンジやけんね」
「思いっきりヤンキー、いやニャンキーなの すぐ授業サボるし」
「さゆだって今サボッとぉやん」
「さゆみは違うの ちゃんと先生に出された子猫捕獲命令を遂行してるだけなの」
「命令?」
「まさかとは思うけど5時間目は授業変更で中澤先生の授業になったって知らないわけじゃないよね?w」
「えっ・・・!」
「だってあんなにでっかく黒板に書いてあったの そんなの見落とすおバカなんてこの世にいるとは思えないのw」

そーだったのか・・・
“なかざー”の授業をサボった者の行きつく先は一つと決まっている・・・ゴクッ
急に風が冷たくなったような気がした。

「じゃぁ、さゆみ戻るから れーなは保健室にいたってことにしておくから、辻褄合わせはやっておいてね」
「え、あ・・・ありがと」

コツコツと鉄製の梯子を下りていく音が聞こえる。
なんか“屋上の梯子”と“さゆ”という組み合わせに変なエッチな思い出があるような気がしたけど、
頭の中の記憶にそーゆーのはないからきっと気のせいに違いない。
下で扉の閉まる音がして、再び静寂とともに涼しい秋風がれーなの隣に寝転び視界には青空と白雲が広がった。
さて・・・えりにどうやって謝ろうか・・・
・・・とりあえず、保健室に行って考えよう。



そして放課後。

「田中は今日帰ったらちゃんと医者に行って、夜更かししないでゆっくり休むんだぞ」
「はい」
「じゃぁ、委員長」
「起立―

いつも通り、いいんちょの鶴の一声でクラス全員の警戒態勢が崩れ、それぞれの生徒が散り散りになって動き始める。
えりだけがその日常的風景からはみ出て、想定外の行動に出る。
あっけに取られて点になってるれーなの眼に、
一番最初に教室から出て行こうとしたガリ勉君にタックルをかまして一番の座を奪い取ったえりの姿が小さく写った。

「えり、待っ・・・」

止まってくれないのはわかっていても、声を出さずにはいられなかった。
ガリ勉君には悪いが、せっかく体勢を立て直したところにれーなもタックルをかまして二番という順位で教室から飛び出す。
階段に向かって早足で歩くえりの背後10メートルくらいにそっと忍び寄る。

・・・・・・ついて来たのは良いけど、どーしよう。

何もできないまま、いつもの階段、いつもの玄関、いつもの道をただただえりの後ろをストーキングする。

学校の敷地を出てからは、絵里は左右をよく確認もしないで車道をぶった切っていったりするからかなり危ない。
これは怒ってる怒ってないに関係なく、いつもれーながえりの代わりに左右の安全確認をしていることの賜物と言っても過言ではないだろう。
川の堤防に出るために車道を渡ろうとしたときなんて、大型トラックが横からやってきて、思わず「危ない」と声を漏らしてしまった。
当の本人は、れーなの言葉どころかトラックが後ろを通ったことすら気が付いていないようだ。
そんな周りの事なんてお構いなしなえりに、ハラハラしながらもちゃんと声をかけることができず、やはりただただ背中を追っていくばかり。
川の堤防に登るといつの間にかえりの姿は小さくなっていた。
ざっと30メートルくらいかな?
昨日同様、右頬に夕日の強い紫外線を感じながらアスファルトで舗装された道に脚を繰り出す。
軽く遠くの方まで見渡してみたけど、今日はベビーカーを押す昨日の若々しい家族の姿は見えなかった。


どーしたら、えりは機嫌直してくれんのやろ?

ずーっと、頭の中を同じ質問がグルグル。
その質問が頭の中を一周するたびに「えりに告白しちゃえよ、そしたら許してくれるって」というもう一人のれーなの声が聞こえる。
その提案に、臆病なれーなは「そんなん無理やって」と何の味もない解答を叩きつけるしかできない。
何とも言えない苦々しさに顔を俯けて、次々と送り出される自分のスニーカーの傷の数えながら歩みを進めていく。
夕日の光にやられて、しだいに頬がピリピリしてきた。
時折吹き抜ける秋風がその熱くなった頬を冷ましてくれるけど、わずかに冬の予感を含んだ風が首元をくすぐり、体がブルッと震える。

「さむっ」

ふいに顔を上げてえりの方を見てみる。
知らない間にえりとの距離は縮まっていた。
そのことよりも、15メートルほど先で振り返ってこっちを見ていたえりにドキリと心臓が鳴る。

れーながえりを視界に捉えたとわかるとえりは慌てるようにして顔を背けて、そのまま芝生の上を通って河川敷へと下りていく。
最初は行動の意味がつかめなかったけど、「もしかしたら口をきいてくれるのかもしれない、これはチャンス」と、
勝手に自分にとって都合の良い方向にえりの行動を解釈して、さっきまでと同じようにえりの後を追いかけてゆく。
「ここは男らしく潔く謝ってやるったい!」と意気込んでえりに近づいていったが、
えりは一番下まで下りきると、持っていたカバンを落とし、そこに頭を置いてれーなに一瞥もくれることもなく寝てしまった。
「これはいったいどーゆーメッセージなん?」と、さゆが隣にいたら相談したいところだった。
完全に意表を突かれた形になり、結局声をかけるタイミングを失ってしまった。
仕方ないからちょっと離れたところに腰を下ろして、眠り姫の出方を伺うことにしよう。

・・・ん?

腰を下ろしたところには、まるでれーなの為に用意されていたクッションのようにクローバーが群生していた。
クローバー・・・ずいぶん昔の思い出がふわっと風に運ばれてきた。





・・・・・・・・・あれ? ここどこだっけ・・・? ・・・寒い。
眼を開けると、視界の上の方には暗い青に近い紫色が広がっている。
下の方にいくにつれてだんだん赤みが強くなっていき、夕日のオレンジ色が眩しく光っていた。
そっか、えり寝ちゃってたんだ。
芸術を思わせる赤と青のコントラストを眺めて寝転んだまま、ふぅっと息を吐き出す。
寝る前に感じていたストレスはちょっとだけ分解されていて、秋の清々しさを肌で感じることができた。
れーなが恥ずかしがり屋なことなんて、えりわかってたのに・・・バカみたいw
少し自嘲気味に笑う。
昨日ベビーカーを押している若いカップルをこの河川敷で見かけたときに、横にいるれーなに思い切って“結婚”について振ってみた。
少しドキドキしながられーなの返事を待った結果、返ってきたのは「できるわけないと」というなんともれーならしい反応だった。

別に本気でプロポーズを期待してたわけじゃないけど、できるわけないという返事にちょっと寂しさみたいのが顔を出す。
もっとえりのことを想って欲しかった。
そして、こうなったら思いっきり悲しそうな顔をしてれーなを困らせてやる、と思った矢先、れーなは走り去って行ってしまったのだ。
おかげで昨日家に帰ってから寝るまでプンスカしっぱなし。
目覚めの悪さも重なってか今日になってもイライラは無くならず、結局退屈な学校をれーな無しで過ごしてしまった。
「どーせなら学校休めば良かったな」と後悔しながら1番に教室から飛び出て、
まっすぐ家に帰るつもりだったけど、河川敷に出る車道を渡ったところで、後ろでれーなの声がしたことに気が付いた。
ハッとして振り向こうとした瞬間、大型トラックが顔の前を通過して心臓が凍りついた。
恐怖で心臓がバクバクいってたけど、なぜかその時はすぐに顔を前に戻して、何事もなかったように再び歩き出していた。
れーなはその時「危ない」って言ったんだと、川の堤防に上がる階段を登りきったところで気が付いた。

それから普通に歩いていても、なんだか後ろの方が気になってうまく歩けない。
トラックが目の前を通ったときからずっと心臓のリズムが変な気がする。
右から照りつける夕日に火照らされた右頬にも負けず、左頬も紅潮しているのがわかる。
向かいから来た人とすれ違う時に顔が少しニヤついていることに気づいて、慌てて顔をしかめた。
湧き上がる気持ちとそれを誰にも見せまいとする気持ちが顔面上で争って、
自然な歩き方に加えて自然な表情の作り方もわすれちゃったみたい。
フフッと笑うと口元がアヒル口になった。
いつだったか、れーなが可愛いって言ってくれたっけ///

・・・そうだ この時にはもうイライラなんて無くなってたなw


このまま家まで落ち着いて帰れそうにもないと思い、
だったらいったん河川敷で一休みして、れーなが近くからいなくなったところで帰ろうと思いついた。
そんな作戦を立てたとき、正面から風が吹き抜けて行った。
ちょっぴり冷たい風に背を向けるようにして後ろを振り返る。
風が通り過ぎるのを待って髪を整えてから顔を上げると、れーなは深刻そうな顔を下に向けて歩いていた。
そのうちに顔をあげたれーなと目が合って、一瞬ドキッとする。
慌てて視線を逸らした後、河川敷を下って行った。
後ろにれーなが付いて来ているのがわかったから、作戦成功のために寝たふりをして、
れーなが先に帰ってしまうのを待とうと決めた。
鞄を枕にして蒼い芝生の上に寝転ぶ。
夕焼けが眩しかったけど、目は開けないようにした。


・・・で、気づいたら寝てた。
全く自分の睡魔の戦闘力の高さに自分でも怖くなる。
でも、寝る前には沈みかけていた太陽が、まだ辛うじて空に身を留めているのだから、
そんなに長い時間眠っていたわけでもないようだ。
まさか丸1日寝てたってわけでもないだろうし。


よいしょっ、と上半身を起こす。
と、頭から何かが落ちた感触がした。
首をひねって後ろを見下ろすと、そこには白い花と緑の茎でできた輪っかが落ちていた。

「クローバー・・・?」

たしか、シロツメクサって言うんだっけ?
ちょうどえりの頭くらいの大きさで可愛らしい出来栄えのリング。
それがえりの頭に乗っかってたみたい。
落ちたリング手に取って、前を向いて良く見えるようにわずかに残っている夕日の光にかざした。

・・・そーいえばあれは幼稚園児くらいの頃だっけ?
今思えばあの頃かられーなはヘタレで恥ずかしがり屋だったなw
幼稚園で年中組くらいの時、ちょうど昨日みたいにえりが結婚したいって言ったときに、
れーなはやっぱり恥ずかしがって逃げて行ってしまったことがあった。
当然えりは怒って次の日のお帰りの時間までれーなとは口を利かなかった。
そう、今日みたいに。
で、そんなえりになんとか機嫌を直してもらおうと、
わざわざ幼稚園の先生に頼んでシロツメクサの王冠の作り方を教えてもらい、
ちょっと不細工な形をした王冠と2つの指輪を作ってきたのだ。

その時よりも形の整っている王冠を下からちょっと覗くように見ようとした時、
頭の上からシロツメクサの小さな白い花びらが落ちて膝の上にちょこんと乗る。
その時に膝の辺りからお腹の辺りにかけて紺の布がかけられていたのに気が付いた。
あっ、ブレザーだ。
寝る前に感じた少し冷たい風がまた吹き付ける。

「うぅ・・・寒い」

身体に寒気が走る。
寝てる間に体が冷えてしまっていたようだ。
それでもブレザーのかかっている所とかかっていない膝下とでは温かさが違うような気がした。
それに、わざわざ膝からお腹にかけていてくれたのはスカートがめくれないように気を使ってくれたんだ。
きっと。
なんだか嬉しくなって、ブレザーを顔に寄せた。
あぁ、れーなの匂いがする///
すーっと息を吸い込むと少し青臭い匂いが一緒に香ってきた。

あっ・・・///

香りの正体を突き止めようと手元を見ると、左手の薬指にはさっきのシロツメクサのリングを小さくしたものがぴったりはめられていた。
嬉し涙がこぼれそうになって、ぎゅうっと手元のブレザーを強く抱き寄せた。

「れーな、大好き///」





それからちょっとしてれーなが戻ってきた。
自販機で買ってきた暖かいコーンポタージュを貰って、隣にいるれーなと夕日が沈んでいくところを眺めながらそれをゆっくりと啜った。

「ありがとね、れーな///」
「べ、別に120円くらい・・・///」
「そーじゃなくて・・・w」
「?」
「・・・お返しにえりも」
「え?」
「チュッ・・・///」

柔らかい唇を重ね合わせ、ほんのひと呼吸分の優しいキス。
唇を離してちょっと照れた顔をすると、恥ずかしさに耐えながら真っ赤になったれーなが抱きしめてきた。

れーなの暖かい身体に、身体だけじゃなくて心がポカポカする///
長い時間抱きしめあった後、ちょっと体を離すとお互いくすぐったいような笑顔がこぼれる。
もう一度優しくキスをして、鼻を擦り合わせて笑った。

「ねぇ、見て見て わたし達にもあんな時があったわね」

不意に頭の上の方で柔らかい女の人の声が聞こえた。
びっくりしてれーなと一緒になって振り返ると、そこには昨日見かけた若いカップルがベビーカーを押していた。
えり達に聞こえたんだとわかると、男の人の方が「邪魔しちゃダメじゃないか」と女の人の額を軽く小突く。
女の人は幸せそうな苦笑いをした後、えり達の方を向いて「ごめんね」と言うように笑いかけてきた。
男の人も後ろの方で優しいほほ笑みを浮かべている。
恥かしくなってえりとれーなは顔を俯かせ、ちょっとしてからもう一度後ろを振り返ると、すでに2人はむこうに向かって遠ざかっていた。
その幸せそうな後ろ姿を見つめていると、れーなが震えた声を振り絞ってぼそっと言葉をかけてきた。

「れ、れーな達も・・・し、将来は・・・///」

うへへw
ムリしなくてもいいのにw

「ねぇ、れーな・・・」
「な、なに・・・?///」
「・・・帰ろっか?w」
「う、うん///」

将来のことはまた今度聞かせてもらおう。
これ、約束ねw
ほんの1時間前までのイライラしてた自分がアホみたいに思えてくるほど、今は幸せな気持ちに包まれていた。
<幸せのおすそ分け>・・・だったのかもしれないな。
河川敷の芝生の上をれーなと並んで歩きながら、えりは薬指にはめられた白い花のついた指輪にクスッと笑いかけた。
コーンポタージュの空き缶を持っているれーなの左手の薬い指にも、白い花のついた指輪がはめられていた。



秋麗編 完

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