連れてこられた場所は、さゆみの自宅だった。
独り暮らしをしている割に、彼女の部屋は広くて大きい。
これがモデルの部屋かとれいなは子どものような感想を持った。

「とりあえず、なに着てほしい?水着とか体操着とかそういうの以外だったらさゆみなんでも…」
「ちょぉ待て」

話がどんどん飛躍しているこの状況に、れいなは一度止めた。
まだ自分はさゆみを撮影するなんてひと言も言っていないし、コンクールに出品する予定もない。
れいなが弁解しようとすると、さゆみはれいなの手を握り締めた。

「さゆみはれいなの写真が好きなの。だから、そのカメラにさゆみが写りたいの」

真っ直ぐで大きな瞳に見つめられ、れいなはドキッとする。
それは、あの日、屋上で初めてさゆみを見たときとまったく同じ表情だった。
時折雑誌で目にするさゆみではない。ありのままの等身大の、16歳の道重さゆみが目の前にいた。

急にれいなの心臓が高鳴った。
その表情を、一挙一動を、カメラに収めたくなった。
ああ、ヤバい、いま、まさに撮りたくなってきたと、れいなはさゆみに無理やり持ってこさせられたカメラのセットを広げた。
フィルムを新しいものに交換し、レンズを綺麗に拭き取る。
なんだか無性に楽しくなってきたれいなは「水色っぽい服ある?」と聞くと、さゆみは嬉しそうに微笑んだ。

それから数時間、ふたりは近所の公園に行って撮影をした。
本当は商店街や駅前、学校や図書館などにも行きたかったのだが、さすがに範囲を広げるとさゆみに支障が出ると考え、れいなは自重した。

水色のシャツに紺色のリボン、ピンク色のスカートにショートブーツ。
頭に大きめの花の髪飾りをつけた格好は、公園という場所には不釣り合いであったが、
太陽に照らされるさゆみの姿は、ファインダーを通してさらに輝きを増していた。
れいなは夢中になってシャッターを切り、さゆみもそれに応えた。

「バリ綺麗よ、さゆ…」
「ほんと?ありがとう」

こんなに楽しく写真を撮るのはいつ以来だろうとれいなは考えた。
ほんの1ヶ月前は、ただ学校を追い出されないように、気に入った青空を切り取っていただけなのに、いまは、この瞬間を丁寧に収めたいと思っていた。
瞬間を切り取るのではなく、ひとつの動いていた時間をカメラに収めたくなっていた。

―ああ、やっぱりカメラ好きやっちゃん

れいなはそう自覚しながら、その感覚を思い出させてくれたさゆみに感謝しながらシャッターを切った。
さゆみも嬉しそうに、れいなに微笑んだ。



「ありがとう」

家に帰ったれいなはさゆみに開口一番、そう伝えると、さゆみはきょとんとした顔を見せた。

「なにが?」

よくよく考えれば、モデルを使った作品が高校のコンクールに出品できるわけがない。
最初から、この作品はコンクール用じゃなく、さゆみがれいなを本気にさせるために仕組んだものじゃないかとれいなは考えた。
だが、それを伝えるのもなんだか憚られたし、さゆみはさゆみで惚けるだろうしで、れいなはただ、心に浮かんだ感謝をさゆみに伝えた。

「なんでもなか」

やっぱりさゆみは惚けたので、れいなもそれ以上はなにも言わず、カメラを置こうとした。
するとその手にそっとさゆみの手が重なった。れいなが振り返ると、すぐ自分の肩越しにさゆみの顔があった。
整った顔立ち、甘い香り、さらさらの髪、さゆみをさゆみたらしめるすべてに心臓が高鳴る。

「れいな…」
「ん?」
「もう一枚、撮ってくれる?」

その声はあまりにも大人だった。
なんだかそれですべてを語ってしまいそうな気配があり、だけど確信を持てなかったれいなは無意識に頷いてカメラを再び手にした。
ふたりはそのまま手を繋ぎ、さゆみの部屋へと入った。


女の子らしく、ピンクと白を基調としたその部屋はれいなを自然と落ち着かせるとともに、胸を高鳴らせた。
さゆみがおもむろに髪留めを外すと、長く黒い髪が流れた。
さゆにはその髪型がいちばん似合っとーよと口に出す前に、れいなはカメラを構える。
さゆみが首に付けたネックレスを外す姿、リボンを解く姿、花の髪飾りを外す姿、それをひとつひとつ丁寧に撮っていく。

シャッターを下ろすたびにさゆみは「道重さゆみ」になっていく。
有名雑誌の専属モデルではなく、ひとりの女の子に戻っていくその姿が、堪らなく愛しかった。

さゆみがシャツのボタンに手をかけた瞬間、れいなはその手を取る。
「うん?」と優しく、だけど何処かおびえた表情を見せたさゆみの頭を一度撫で「そのまま寝て?」と言うと、さゆみは素直に従った。
さゆみは大きなベッドに横になり、れいなはその下半身を跨ぐようにしてベッドにのぼり、カメラを構えた。

「バリきれーよ…」

だれにともなく呟かれた言葉は室内にぽつんと浮かび、そのままシャッターの音とともに消えていく。
髪を投げ出して優しく微笑むさゆみを、れいなは夢中になって撮っていく。
わずかな視線のズレ、さゆみの些細な表情の変化、指先の動き、そんな小さなことでもれいなは胸が高まり、シャッターを切る。

「さゆ、こっち見て?」
「や、やだぁ……なんか、恥ずかしい…」

その言葉にれいなはいったんカメラから顔を外してさゆみを見つめた。
そして驚愕した。
こんなにさゆみは美しかっただろうか?
確かに、さゆみは可愛くて美人で、肌が白くて、服から覗く四肢が長くて綺麗で、流れる髪や大きな瞳は整っていたのだが、
いま、この瞬間、今日一日いっしょに過ごしてきた時間の中で、これほど完璧なさゆみは見たことがなかった。

れいなは震えながらカメラを構え、シャッターを切りながらさゆみのシャツのボタンに手をかける。
さゆみは視線を外すものの、れいなを抵抗することなく受け入れた。
ボタンを外し終えると、そこから可愛らしいキャミソールが露わになる。
こんなもの、さゆみにとっては邪魔だといわんばかりに、れいなはほぼ無意識にそれをめくり上げた。

「れいなぁ…」

下着1枚の向こう側に、さゆみの全てがある。
れいなはそれを自覚しながらシャッターを切る。
欲情しているのが分かる。その向こう側を明らかにしたいと思う。

「脱いでくれる?」

初めてれいなが自分の希望を口にすると、さゆみはひとつ頷いて素直にそれに従った。
一度体を起こし、羽織っていた水色のシャツとキャミソールを脱ぎ捨てると、白いブラジャーとスカートのみになる。

れいなはファインダーを覗くが、もうそのシャッターを押すことは叶わなかった。
ただ手が震えた。
こんなに美しい人を見たことがなかった。
この人の前に立てば、自分なんてちっぽけで、太刀打ちできなくなることを自覚した。

だれだったか、真の芸術の前で人は無力だと言った人がいた。
あれは事実だとれいなは悟った。
歯が立たないと思う。
なにがと問われれば答えられなくなるほどに、すべてが、その一挙一動が、その存在が、まさに完璧だった。
そんなの反則だろと思ってしまうくらいの存在に、震えて、胸が痛んで、思わず跪いてしまうほどの破壊力。

―なんで?

そんな単純な問いにすら、答えは出せない。
あなたの前に立てば、すべてが無力だと思い知ってしまうから。

れいなはファインダーを覗くことをやめ、真っ直ぐに自分の瞳でさゆみを見つめた。
髪を乱して白いベッドに横たわる彼女は何処までも綺麗だった。
カメラを片手に持ちながら、左手をさゆみの背中に回すと、彼女は軽く体を浮かせた。
その隙にれいなはさゆみの胸を覆っているブラジャーを取り去ると、さゆみの上半身が露わになった。

「……マジ?」

れいなは思わず口にした。
そんな言葉しか出てこない自分を呪うが、たぶんそれ以上の言葉はもうない。
100の言葉を持ってきても、さゆみの1も表現しきれないのだと思い知る。

「ばかぁ…」

なにをもって彼女がそう呟いたか定かではないが、確かに彼女はそう言った。
ああ、なんかもう、ありがとう―――
全く以って意味を成さないその感謝を心に浮かべファインダーを覗くと、さゆみは腕を伸ばして、レンズを遮った。

「れいな…愛して……?」

甘い声が室内に響いたその瞬間、れいなはカメラをベッドの脇に置き、さゆみに口付けた。
さゆみの唇は柔らかく、口付けるたびに甘く感じられた。

「んっ…ふっ……」

切ない吐息が漏れるたびに、れいなは欲情した。
すべてを、さゆみのすべてを自分のものにしたかった。
れいなはキスを落としながら、自分の右手をさゆみの胸に這わせた。
形の良くて大きな胸がれいなによって潰されると、さゆみはピクッと体を反らせた。
そのいちいちの反応が嬉しくて、れいなは夢中で胸を揉む。

「やぁぁ…れい…なぁ……」

唇の端から漏れるその声が甘く、れいなの脳を直撃した。
ああ、感じてくれとーっちゃねと妙に嬉しくなって、れいなは唇を頬へと移動させ、舌を突き出して舐めた。
さゆみの肌は白くて柔らかく、何処までも舐められると思う。まるでれいなは子猫のように夢中でさゆみを舐めた。

「れいなぁ…くすぐったいの…」
「イヤやった?」
「…なんか、恥ずかしいの」

そうさゆみは言うものの、れいなは止めようとはせず、そのまま唇を耳へと移動させ

「バリ可愛いよ、さゆ」

そう呟いた。
さゆみはビクッと反応するも、嬉しそうに微笑んでれいなの首に両腕を回して引き寄せた。
そのまま口付けると、ふたりはどちらともなく舌を絡めて、互いを求めあった。

「さゆ……さゆっ…」
「はぅ…れいなぁ…あっ…」

れいなはさゆみを求めながら、右手をするすると下へとおろしていく。
白い肌をなぞるように下げ、ピンク色のスカートのホックに手をかけると、そのままアッサリとジッパーを下ろし、下着に手をかける。

「脱がすけん」

そう呟くと、さゆみの返答も待たずに、れいなは下着とスカートをほぼ同時に脱がした。
なにも身に纏っていないさゆみの姿は、完璧なんて言葉では陳腐だった。
もはやそれは、ひとつの奇蹟だと感じた。

「さゆ……」

ただ聞きたくなったんだ、その瞬間。
意味なんてなくて良い。理由なんてそんなもの、いらない。
ただ、ただ、さゆみがあまりにも美しいから、ただ単純に問いたくなったんだ。

―愛しても、良いですか?

れいなはさゆみの膝をぐいと持ち、そのまま両脚を開かせた。
さゆみは突然のことに体を震わせたが、れいなにはそれを待ってやるだけの余裕なんてものは存在しなかった。
れいなはさゆみのそこにキスを落とした。

「あっ!」

突然やって来た刺激にさゆみはビクッと反応したが、れいなは構わずに茂みの奥をかき分けていく。
黒い茂みの奥深く、さゆみのピンク色の突起が現れ、れいなは迷うことなくそれを口に含んだ。

「あぁっ!れ…れいなぁ…あぁん!」

甘い香り、さゆみの香り。さゆみの全てが此処に在る気がした。
れいなは舌を突き出してさゆみの蕾を舐め上げると、さゆみは両腕で必死にれいなを押し返す。

「はぁっ…あぁっ、ひっ…あっ!」

両手を使ってさゆみの下腹部を押し広げ、蕾を夢中になって舐める。
突き出た蕾はピンク色で、敏感になっているせいかビクビクと脈を打ち、与えられる刺激に形を変えながらもさらなる刺激を待っていた。
キスをして、舌で転がして、少しだけ甘噛すると、さゆみは泣きながら声を上げた。

「やっ、やぁっ!れいな…れいなぁ…はぅ…さゆみ、も…あぁぁっ!」

押し返そうとしていた両手は、いつの間にかれいなの頭を自分の下腹部に押し付けていた。
やってくる大きな快感が怖いのに、その快感がもっと欲しくて、未知の恐怖におびえながらも、さゆみはれいなを求めた。
もっと深く、もっと強く、れいなを感じたかった。

「さゆ…入れるけん…」

鼻先で蕾を押しながら、れいなは軽くそこを舐め、自分の指を1本挿入した。
ぬぷっと厭らしい音を奏でながら、れいなの指はさゆみのそこに簡単に入っていった。

「はぁぁっ!んっ…んっ!」

絡み付く愛液が暖かかった。
れいなは舌を使って全体を愛しながら、さゆみの中で暴れた。

「んんっ!れい…あぁ!れいな…れいなぁっ……はぁっ…はっ…あっ!」

さゆみも限界を迎えようとしていた。
れいなはいったん顔を上げ、さゆみにキスを落とすと、さゆみも夢中になってそれに応えた。
口の端から唾液がこぼれ落ちるが、ふたりはそんなことを気にする間もなく、互いを感じ合い、絶頂へと昇り詰めていく。
下腹部の厭らしい音、舌と舌が絡み合って奏でる音、れいなの細い指が与える快感、れいながくれるすべて―――

「れいな…さゆみ、もう…もっ…あっ、はぁ…ぁ、イきそう…なのっ」
「いいよ、さゆ。イけばいいと」

そうしてれいなは軽く笑ったかと思うと、一気に指を2本に増やし、再びさゆみの中で暴れる。
急にやってきた快感にさゆみは体を震わせるも、もっとれいなが欲しくて両腕を伸ばし、腰をがくがく振った。
なにも考えられない。れいな以外になにも考えられない。そんな子どもっぽくてバカみたいな感想を、さゆみはもってしまった。
それでもいいやって思ってしまうほどの快感が、さゆみに襲いかかって来たから。

「れいなぁっ!さゆみもう…あっ…あぁぁっ!イっ…あっ…イくぅっ!」

さゆみはそうしてれいなを求め、れいなもそれに応えてさゆみを攻めた。
真っ白い世界が広がると同時にれいなの腕の温もりを感じ、さゆみはふっと意識を飛ばした。



「初めてが女の子ってなんだかすごくない?」

さゆみはシーツから顔を出してそう呟いた。
れいなは「そうやと?」と軽く笑いながら、さゆみの髪を撫でてやった。
ほんの1時間前、此処でそんな行為が行われたなんてちょっと信じがたいが、その証として、さゆみの腰は軽く痛みを伴っていた。

「ねぇ、約束して?」

さゆみはそうしてもぞもぞと体を動かし、れいなに近づいてきたので、れいなもそれに応えるようにさゆみを抱きしめた。
真っ白い肌の温もりとさゆみの髪から感じる匂いにやられたように、れいなは目を細めた。

「れいながカメラマンになったら、さゆみと付き合って?」

その答えに、れいなはさゆみと目を合わせた。
彼女は真っ直ぐな瞳でれいなを見つめた。まるで「迎えに来て」といわんばかりのその表情に、れいなも覚悟する以外になかった。


「3年くらいかかるかもしれんけん、必ず行くっちゃん」

れいなは優しく、だけど強く宣言して、さゆみにキスをした。
どれほど月日がかかっても、必ずあなたに逢いに行く。
どうして、いま、こんなにもさゆみに惹かれたのかなんてわからないけど、必ず逢いに行くからとれいなは想いを告げると、さゆみも嬉しそうに微笑んだ。

ああ、きっと朝陽に照らされたさゆみはもっと綺麗なんだろうなと、れいなはその姿を想像しながら、さゆみを抱きしめ、眠りについた。


いらない、れいな以外になにもいらないの。
ああ、さゆ。さゆがおれば、もうなんも考えられん。



そうやってふたりはその瞬間に互いに想っていたはずなのに、
最後までふたりは、想いを伝えるのに最も簡単であり、最も難しい「好き」という言葉を出すことはなかった。







第10話へ...

Wiki内検索

どなたでも編集できます