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"可愛いね"、"綺麗だね"、"美人だね"

よく言われる。
もう聞き慣れすぎて、昔ほど胸がピンポン玉のように弾むことはなくなってしまったけど、言われて悪い気はしない。
むしろ自分は勝ち組なんだって優越感に浸れるからもっと言ってほしい。
世の中最初から綺麗なものなんてそうそういない。自分は選ばれた人間。
妬んでくる者もそりゃいるけど自分に自信があればわりかし孤独でもなんとかやっていける。
私、道重さゆみは、自分の容姿に絶対の自信があった。


*******


朝陽学園。
全国から突飛した能力を持った学生が集まる、小学校〜高校までを収容した私立の名門。
さゆみは故郷の山口から転校して1年前この学園に編入してきた。
とにかく頭が馬鹿でも何か1つだけこれだ!っていう特技があれば猿でも入れちゃうところなんだけど、
あいにくさゆみは容姿以外これといって自慢できるものはなにも無く、親が札束で学園長の頬をはたいて無理矢理入学させたらしい。
さゆみの家って先祖が結構偉い僧侶だったみたいで、その人の遺産が未だ残ってるらしく一般の家庭よりは少しお金に余裕があるんだとか。
財力にものを言わせて名門校に入学するのがいけないことなのかどうかはわからない。
でも入り方が少し違うだけで入学したらみんな同じようなもんでしょ?
さゆみはそういう考えだったんだけど、当然周りはそれでいいなんて考えは持っちゃくれないみたいで。
入ったはいいけど特技がなにもないからコネで入ったのはバレバレだったらしく、
転校生+外部編入+裏口入学のトリプルパンチで入学早々さゆみは露骨にハブられた。

「でも気にしないもん♪」

そんなわけで今日も屋上で一人飯としゃれこむのだ。
勝手に作った屋上の合鍵でドアを開錠してからいつもの場所へと足を運ぶ。
入り口から死角になる場所、給水塔の影になってる部分がさゆみの特等席。
独りで優雅に便所飯ならぬ屋上飯を楽しんだ後、惰眠を貪るのがさゆみにとって学校での唯一の娯楽となっている。
まず誰も来ないので気楽に羽を伸ばすことができるのだ。


「ぅぅ〜〜〜っぐ、ひっくひっく、グスッ、うっうっ・・・」

だが、今日は先客がいたらしい。

「・・・あの、もしもし?大丈夫?誰だか知らないけど、なに泣いてんの?」

さゆみの聖域に土足で踏み入り、それも特等席を陣取り、男のくせにベソベソと泣いているのが気に食わなかったので
少々怒気を孕んだ口調で話しかけてみた。
泣き虫ヤローは一瞬ビクッと肩を震わせてから恐る恐るとさゆみの方に振り返り、

「ぅう・・・」
「───、」

その相貌に、さゆみが、息を呑んだ。
男子の制服を着ているので男なんだろうけど顔だけ見たら女の子そのもの。
汚れ無き白い肌と長い下睫毛に中途半端に伸びた髪の毛、学ランを着ていなかったら間違いなく女と勘違いしていただろう。
他人の顔を見てショックを受けるなど未知の体験で、さゆみはしばらくの間そのまま固まって言葉を発することすらできなかった。
女男の泣き声で我に返る。

「ちょ、ちょっと。いつまでも泣いてないでよ。どうしたのか理由ぐらい言ってくれてもいいじゃん」
「うう〜・・・恥ずかしくて言えんちゃ〜言えんちゃ〜・・・」

ちゃ?
って確か福岡だっけ。もしかして九州の生まれだったりするのかなこいつも。

「なにを恥ずかしがって、」

・・・、よく見てみると、服が乱れていた。髪もボサボサでところどころ泥がついている。
もしかして、イジメかな。さゆみの中でこいつに対する仲間意識が芽生えてきた。

「別に恥ずかしくないよ。何されたかさゆみに言ってみ?笑わないから」
「・・・ううう、うぐぐ、うっうっ・・・服を脱がされて、体触られた・・・男に〜・・・うわあああん」
「うげ」

まぁこの外見なら同姓から襲われるのも無理ないかもしれないがそちらの世界の事情にあまり首を突っ込みたくないノーマルなさゆみとしては
聞くんじゃなかったと早くも5分前の自分の行動を悔やみつつあった。

「それは災難だったね。でもあんたもさあこんな女みたいに髪伸ばしてるから悪いんじゃない?」

一房持ち上げて指でクシクシ触ってからぐっと握ってみるが全く癖がつくことなくスルリとさゆみの手を滑っていった。
茶ッパに染めてるくせにキューティクルに艶があって羨ましい。

「別に伸ばしてるわけじゃなか・・・切るの面倒なだけっちゃん・・・」
「面倒くさがってる場合かっ。さっさと切りなよ。男は坊主が一番」
「坊主・・・はやだ」
「坊主じゃなくてもいいから切れよ」
「・・・ぅぅ」

ちょっと。目がウルウルしてるんだけどまさかまたピーピー泣くんじゃないよね。
男のくせに情けないやつ・・・

結局、そいつにかまけていたせいで昼食を食べ終わったのは昼休み終了ギリギリの時間でシエスタはできなかった。
ヤンキーみたいな格好してるくせに泣き虫なそいつはご飯も食べずにずーっと泣いていた。
どっか行ってくれないかなと思いつつも泣いている人間にうるさいからどっか行ってと言えるほどさゆみは非情ではなかったので
終始最悪な気分で昼休みを過ごした。
できればもう会いたくない。

*******


「あ、またいるし」
「・・・」

そもそもこの屋上の入り口は毎回施錠してあるはずなんだけど、さゆみみたいに合鍵を持っているわけじゃないだろうしどうやって開けてるの。
泣き虫くんは以前見た時とはうって変わって今日は不機嫌そうだ。可愛い顔にシワ寄せて仏頂面を決めこみながら手摺に肘を乗せて校庭を眺めている。

「何見てるの?」
「・・・」
「無視?何見てんだよチビ太くん」
「バカ共がバカみたいにバカ騒ぎして遊んどぅなって見てたと。あとチビって言うな」

さゆみの方を見向きもしないでぶっきらぼうにそう言うチビ太くんの表情はどこか憂いを帯びていて・・・ああもしかしてこいつ。

「友達いないの?」
「・・・」
「図星か」
「うるさい。福岡から転校してきたばっかやけんしょうがないやろ」
「え!マジで!・・・転校早々ホモに襲われるとかあんた何か憑いてるんじゃない?ありえないでしょ」
「・・・慣れとぅし」

どうやらいろいろ辛い思いをしてきたらしい。もしかしたら転校してきたのもそれが理由なのかも。
今までの人生をリセットしようと意気込んで新天地に来たもののいきなりあんなキツイ洗礼を受けたらまぁ・・・ああなるのも頷ける。
境遇がさゆみと被る部分が多々あって、こいつのことをもっと知りたいと思った。

「あんた名前なんて言うの?」
「田中れいな・・・」
「れいな。私は道重さゆみ。家族からはさゆとかさゆちゃんとか呼ばれてるからそう呼んで」
「・・・さゆ」
「うん」
「・・・さゆ。なぁ、さゆ。あれ何?」

れいなが校庭に向かって指を差した方向を見ると双眼鏡でこちらを覗く男子生徒がいた。
双眼鏡はれいなではなく明らかにさゆみの方を向いている。
男子生徒はその場所から微動だにせず、双眼鏡を降ろすこともせず、ただただこちらを蛇のようにじっとりと覗いているだけ。

「ああ、あれねえ・・・さゆみのファンでしょたぶん」
「ファン?芸能人じゃあるまいしバカじゃないと?」
「さゆみが可愛すぎるからしょうがないでしょ。前いた学校でもさゆみの追っかけいたし、もう慣れた」
「可愛い?さゆが?・・・自分で自分のこと可愛い思っとぅの?」
「うん。他人からもよく言われるし。実際さゆみ可愛いでしょ?」
「えー・・・普通やない?」
「!?」

10万ボルトの電流を脳天に叩き落されたような衝撃が走った。
生まれてこの方、顔については可愛い未満の評価を貰ったことがなかったさゆみにとってその言葉は
タンスの角に小指を10回連続でぶつけた後に素足で画鋲を踏むよりも痛烈な痛みを伴った。
しかし顔にはおくびにも出さないよう努める。こんな軟弱者のふとした言葉に本気で傷つけられたなんてムカツクし。

「えー!れいなおかしい。さゆみ、普通なんて言われたの始めて。ちょっとショック」
「れいなお世辞言うの得意じゃないけん、本当に思った時しかそういうの言わん」
「冷たいんだなあ・・・。他の男の子はみんなさゆみのこと可愛いって言ってくれるのに」
「・・・おまえ女の友達いないっちゃろ?」

この鈍感がなかなか鋭いことを言ってきたので少々戸惑った。

「ドキ。なんでわかったの?」
「そういうの、女は嫉妬するけんね。性格的に好かれそうな感じじゃないし、よく一人でいるし」
「恥ずかしいからあんまり見ないでよ」
「目立つけん自然と目に入るんよ」

やっぱり目立つんだ。
そりゃそうだよね、こんな美少女が取り巻きも引き連れずずっと独りでいるんだもん、一般人にはさぞかし好奇の対象として映っていることだろうさ。

「でも、れいなだって友達いないじゃん」
「・・・」
「さゆみもいないけどれいなもぼっちじゃん」
「うるさか」
「・・・」
「・・・」
「友達、なる?」

ほんの少し勇気を出してそう呟くと、ようやくれいなはさゆみの目を見てくれた。
出会って間もないが、こいつと話してわかったことがある。
れいなはさゆみと少し似てる。
性格とかではなく、境遇が。どちらも外部からの編入生で友達がいない。そして今後もできる見込みがない。たぶん。
さゆみも長い間独りで過ごしてきたが、別に孤独が好きというわけでもないしできるものなら同姓の友達とキャピキャピしたい。
でも・・・

「マジでさゆみと友達にならない?」
「・・・なんで」
「なんでって・・・普通理由とか聞くぅ?れいなってデリカシーの欠片もないね。愚鈍すぎ!ぼっちなのも納得だね。
 だからさっきも言った通りさゆみには友達がいないの!寂しいの!だから友達欲しいの!れいなだってそうじゃないの!?」
「うん・・・」
「でもさゆみ嫌われまくってるからさぁ・・・」
「うん」
「だから、」
「よかよ」
「え?」

向日葵のような大物に例えるのは大袈裟すぎる、公園とかにポンポン生えまくってるシロツメクサがふわっと花開いたような
慎ましやかで、どこか不器用そうな笑顔を見せながら彼はもう一度同じセリフを言うのが照れくさいようで、

「えっと・・・友達になってあげるっちゃよ。さゆがそう言うなら」
「・・・」
「・・・聞いてる?」
「・・・・・・あは」
「なんで笑うと?意味わからん・・・」

そりゃ笑いもするよ。
れいなが、言葉とは反対にすごい嬉しそうな顔してるんだから。
そして彼の目にはさゆみも同じように映っていたんだろうね。

*******


お互いにお互いしか仲間がいなかったからだろう。
さゆみとれいなは異性同士でありながらも友達としてすぐに打ち解けた。
周りからひやかしの目で見られていても独りじゃなかったので然程気にしたりもしなかった。

*******


夏休み。
相変わらずさゆみにはれいなしか友達がいないのでこれといって誰かと遊ぶ等の予定が入っていたりとかは全くなかった。
かといって暇なの?と問われるとそうでもない。
さゆみは馬鹿だった。というかさゆみは基本ルックス以外のスペックは全て平均以下である。
人は生まれてくる時に何がしか秀でているものが必ずある、無能で生まれてくる運のないやつもたまにいるが。
さゆみはそれが能力ではなく顔だったに過ぎない。
つまり体力、知力、画力等に分配されるはずだった人間のエネルギー体みたいなプラズマっぽいものがさゆみの場合全て顔に集束されたんだ。
だから基本的に無能なんだよさゆみは。
前置きはここまでにしてつまり何が言いたいかというと、
無能ゆえ学校のテストはボーナス前のリーマンの財布の中身並に悲惨な状況だったので、補習があったのである。
そしてそれはれいなも同じだった。

「れいな、今日一緒に帰ろ」
「うん。帰りに本屋寄りたいっちゃん。でもれいなこの後英語の補習もある・・・さゆは終わったと?」
「英語はギリギリで回避できたからね。じゃあ待ってるよ。時間になったら来るから、またね」
「うん」

図書室で1時間ぐらい寝て、それかられいなを迎えに行こう。

*******


「やば」

図書室の時計を見ると起きる予定だった時間から10分も過ぎている。完全に寝過ごした。
まだれいなは教室で待っていてくれてるかな。10分ぐらいでギャーギャー言うようなら泣かそう。うん。
ハタから見るとゾウガメを彷彿とさせるような鈍足を極めた走りだっただろうがさゆみなりに急いでれいなが待つ教室へと向かった。

「〜〜。でさ〜」
「キャハハハ」

廊下を走っていると周りの迷惑を気にしない井戸端会議をする主婦のような耳障りで甲高い声がれいなの待つ教室から聞こえた。
同じ補習組の子達だ。さゆみのクラスメイトでいつも4人くらいで徒党を組んで行動している。
学校によくいる、目立つ系に属することも出来ない連中が中途半端に悪ぶっている感じ。
さゆみの苦手なタイプなのでその声が聞こえた瞬間、足が一層ノロくなった。
廊下にまで聞こえてくるほど大きな声で喋るなんて女の子とは思えない行儀の悪さにうへぇってなる。
教室に入りたくないけどれいながいるし仕方ないよね、と自分に言い聞かせながら開きっぱなしのドアから身を──

「マジで道重ってさあ自分以外の女みんなブス〜とか思ってそうだよね」
「思ってそう思ってそう!性格の悪さが顔に滲み出てるっつーかさあ!」
「コネ入学の無能のくせに追っかけがいるからって完全に調子こいてるからねあいつ〜」
「追っかけっつってもキモい系しか相手にしてねーし?」
「「「「キャハハハハ!」」」」

・・・・・・うわ、最悪。
ラッキーなことにさゆみが教室に入ろうとしたことに気付いていなかったのでそのままUターンして廊下の影に隠れる。
バレないようにチラっと中を覗くとれいなもさゆみの存在に全く気付いてなかったようで、一人ポツンと絵を描いていた。
あーもう健気にさゆみのこと待ってないで出てこいよバカ!こんな状況でノコノコと教室に入れるわけないでしょこの愚鈍ー!

「道重って自分の顔利用して街でおっさん引っ掛けて金巻き上げてるらしいじゃん?」
「え、それって援交?マジ?」

マジなわけないだろ誰だよそんな噂発信したの殺すぞ。

「マジマジ。おっさんの涎とか汗とか道重の体にこびりついてるんだよ」
「うわっドン引き。なんかニオいそうじゃねそれ」
「キャハハ!あーなんかおっさん臭いかも道重!それが原因だったんだー!ヤバーイ」
「数学の補習の時もあいつの周りだけなんか空気が澱んでたし。ウチ隣だったんだけど机ちょっと離して離脱したから」
「あ、ウチも5cmくらい離した」
「おまえら酷いことしすぎ。道重が可哀相じゃん・・・・・・・・・2cmくらいにしとけって!」
「次からそうするわ!キャハハハ!」

・・・・・・。
・・・さすがに、直でこんなの聞くと、キツイなー・・・。
なんか、死にたくなってきた・・・。

「そういえばさぁ道重のやつ最近、」

バンッ!

「「「「!」」」」


机を思いっきり叩いたような音が廊下にまで響いてきて何があったんだろうと教室内をちらりと見ると、

「うるさか」

絵を描いて大人しくしていたかと思っていたれいなが机に両手を乗せて一人突っ立っていた。
目線の先はさゆみの悪口言いまくっていたやつらに向いている。
突然の出来事に陰口集団だけでなくさゆみまでポカンとしてしまう始末。

「あ、あんまり人の悪口とか言うの、よくないけん」
「「「「・・・・・・」」」」
「れいなの友達のこと、悪く言うな」
「「「「・・・・・・」」」」
「・・・終わり。」

れいなが教室から出てこっちに向かってくるのがわかって、さゆみは瞬時にその場を離れた。
後から聞こえてくる『チビうぜー』だの『ヒーロー気取りかよ』だのの言葉がさゆみの心を深く抉った。
今、れいなと顔を合わせたくなかった。

*******


『待ちくたびれて先に帰っちゃった。ごめん(;´д`)』

送信。
・・・ほんとはまだ学校にいるけど、これでれいながさゆみを探しに来ることはないだろう。そのまま真っ直ぐ帰ってくれ。
携帯を閉じて給水塔に背を預けて空を仰ぐ。
これで安心。

「・・・」

『れいなの友達のこと、悪く言うな』

「あは・・・」

ビビリで泣き虫のくせに、足と唇震わせて頑張っちゃって・・・。

「ううっ・・・」

なんで後先のこと考えずにあんなこと言ったの?
あいつらに食って掛かったら自分もターゲットにされて悪口言われることぐらい、れいなの足りない脳みそでもわかりそうなものじゃない。
自分が悪口言われたわけでもないし、放っとけばその内終わったのに、なんでよ?
なんで自分が不利になることをワザワザしたのよ?
バカじゃないのホント。
ほんとーに、バカ。

「グスッ・・・ぅぅ〜〜っ」

違う。
ほんとは嬉しかった。
カッコよかった。
さゆみのためにあんなこと言ってくれたれいなが。
だって初めてだったんだもん、あんな風に守ってもらったの。

「ぁりぁとぉ・・・れいなぁ・・・うう〜、ありがとぉ・・・」

さゆみの目から流れるしょっぱい水が屋上の地べたを塗らした。

*******


トクントクン。
れいなといると自然と胸の鼓動が早くなって息苦しくなる。
れいなに見つめられるとポワポワって顔が熱くなって、真っ直ぐれいなの目を見れない。
授業中でも休み時間でも、ずっとれいなのことを考えている。
そして最近、学校に行くのが楽しい。
なんでこんなに幸せなんだろう。
この気持ちはなんなんだろう。

*******


新学期初日、昼休みのことだった。
外が何やら騒がしい。
夏休み気分がまだ抜けていないバカなやつが校庭でSurvival Danceでも踊っているんだろうか。
イエイイエイイエイイエイイエイ♪ウォウウォウウォウウォウ♪ってやつ。
少数の人はスルーしてたけど野次馬根性丸出しの大多数の人間はなんだなんだとこぞって窓から外を眺めていた。
そしてさゆみも野次馬側の人間である。
さゆみの席は一番端っこの窓側の席だったので席から少し背伸びをすれば外の様子が見えた。

「ん?」

見れば、騒がしいバカな人間の正体はれいなだった。正確にはれいなと、あともう一人男子生徒がいる。
その2人が学校の玄関口の前で何か揉み合いになっていた。
れいなではないもう一人の生徒が『好きになっちゃったんだよ!』と大声で喚き散らしている。恥も外聞もない。
一方のれいなは終始キモイキモイとそれを拒否していた。
窓から眺める野次馬連中がホモ頑張れーだのキスしろーだの野次を飛ばしていてその姿にイラっとくる。
・・・助けに行かないと。
そう思い席を立ったが、

「おい道重ーおまえ今日日直だろー?職員室行ってプリント持ってこいよー。5時間目の授業それないと困るじゃんよー」
「えっ」

こんなタイミングで日直の仕事を言い渡されるさゆみは本当に間の悪い人間だ。
それどころじゃないと断ろうと口を開いたが、冷静になって考えてみると断ったとしてさゆみの代わりに誰に仕事を頼む?
さゆみにはれいな以外友達はいない。

「あ、うん。今から行くから・・・」

ごめん、れいな。
この用が済んだらすぐ行くから!



この時。
もしもこの時、さゆみが日直の仕事を後回しにして、すぐにれいなを助けに行っていたら、
未来は、変わっていたのかな。





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