絵里はスーツケースを持って品川駅に現れた。
その理由は単純だった。

「週末は福岡行くけん、親父に会いに」

一昨日の昼休み、弁当を食べながられいな君は絵里にそう告げた。
単身赴任中の父親に会いに、れいな君は福岡に行くようだ。
絵里は週末にれいな君に会えないことが不満なのか頬を膨らませたが、文句は言わなかった。

しかし、結局寂しさが上回り、その日帰ってすぐに荷づくりを始めた。
いずれは結婚するんだし、絵里がお父さんに挨拶に行けばれーなも告白してくれるかもっ!というわけのわからない思考回路まで働き始めた。
結果、絵里は朝早くに品川駅に現れ、福岡へ行く新幹線のチケットを手配していた。

「れーなビックリしちゃうかな?まー良いよね、たまにはこういうサプライズも」

そうして絵里はスーツケースを引いて改札へ向かおうとする。
すると、改札横の切符売り場に、見覚えのある人物を見つけた。
なにかと絵里と縁のある彼は、絵里の姿を認めると「あ…」と声を出した。


「聖君、どうしたの?」
「亀井さんこそ……どうして?」

中等部の譜久村聖君は黒いボストンバッグを肩から提げ、チケットを財布にしまった。

「絵里は…ちょっと、福岡に」
「え?あ、実は、僕も福岡に行こうと思って……」

そうして彼はしまったばかりのチケットを取り出して絵里に見せた。
品川―博多間の新幹線のチケットに絵里は思わず「凄いね、それ!」と笑った。

「旅行?」
「いや、まぁ、ちょっと……旅行というか、えりぽんに、サプライズしに」

その言葉に絵里は「へ?」と返した。
聖君の説明によると、生田衣梨奈も同じくこの週末に実家の福岡に帰る予定だったようだ。
衣梨奈は今日の午前の新幹線で帰るので、いっしょに行かないかと誘われたが、聖君は「用事」があるからと断った。
その「用事」を済ませた聖君は、いまから新幹線で衣梨奈を追いかけるようだ。

「おっきなサプライズだね……なんで?」

人のことを言えたものではないが、絵里がそう聞くと、聖君は照れたように笑ってバッグから小さな紙袋を取り出した。
紙袋の中にはリボンが結んである小さな箱があり、その上には「Happy Birthday」とメッセージカードがついていた。

「えりぽん、今日が誕生日なんで……」

聖君のその言葉に絵里はすべてを納得して微笑んだ。
どうやら彼の「用事」とは、このプレゼントを買いに行くためのものだったようだ。
何処までも真っ直ぐで何処までも誠実な彼は、本当に王子のようでカッコいい。
愛されている衣梨奈が羨ましくなってしまうほどの眩しさに絵里は目を細め「喜ぶよ、えりぽん」と返した。

「じゃあ、いっしょに行く?」
「え、良いんですか?」
「うん、絵里もまぁ、サプライズしに行くようなもんだから」

絵里がそうして歩き出そうとしたときだった。
自分たちの後方から「もー、離れぇよえりぽん!」と聞き覚えのある声が飛んできた。
男子高校生のくせに妙に高いその声の持ち主を絵里はよく知っている。
まさかと思って振り返ると、案の定、そこに彼がいた。

「れーな……なにしてんの…」
「げぇっ?!」

そこにはスーツケースをひいた田中れいな君と、その腕にピッタリとくっついている衣梨奈がいる。
なぜ此処に絵里がいるのか分からないれいな君は、慌てて衣梨奈を引き剥がそうとするが離れない。
しかし、衣梨奈は衣梨奈で、絵里の隣にいる聖君を認めた途端にその笑顔が曇った。


「聖……なんで、おると?」
「……用事、終わったから」
「そうやなくて、なんで亀井さんとおると?」

その言い方に聖君はムッとした。
絵里と会ったのはたまたまであり、別に意図したわけではない。
それに、いまのいままでれいな君とベタベタくっついていたのは何処のだれだと思う。

「えりぽんこそ、田中さんといっしょに帰るなんて聞いてないけど?」
「……だって、れいな君が誘ったっちゃもん」

彼女の言葉に鋭く反応したのは絵里だった。
れいな君は「ちょっ、えりぽん!」と言い返すが、衣梨奈の言葉はしっかりと絵里の耳に入った。
絵里は笑顔を引き攣らせ「ふーん……」と冷たい目を向けた。

「えりぽんといっしょに里帰りするんだれーな…」
「ちがっ…誤解やって。たまたまえりぽんも福岡行く言うけん……てか絵里こそなんでフクちゃんと」
「あっそ。じゃあ、れーなはえりぽんと仲良く里帰りデートしてくれば?」

絵里はれいなの疑問には答えず、聖君の左腕をぐいと引っ張った。
急に力を受けた聖君は「うぇ?」と驚くが、絵里の勢いに任せるまま、ずるずると引っ張られていく。

「行こ、聖君」
「え、あ、あ、亀井さん…?」

そうして絵里と聖君はふたりして改札を通り、新幹線のホームへと歩きだした。
その態度に怒りが沸々とわいて出たのは衣梨奈の方だ。衣梨奈は下唇を噛みながられいなの右腕をぎゅうと掴む。

「れいな君、行こ」
「え、えりぽん?!な、なんで怒っとぉ……ってぇ、ちょっとぉ!」

衣梨奈の勢いに引きずられるままに、れいな君も改札を通っていった。
かくして、絵里と聖君、れいな君とえりぽんという二組の福岡里帰りの旅が始まった。


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新幹線に乗り込んだ絵里と聖君は、当然のように並んで座る。
学校で話したり、ご飯をいっしょに食べたりすることは会っても、こんなに同じ空間にいることはない。
絵里の隣に座る聖君はなかなか落ち着かず、困ったように頭をかき、窓の外を眺めた。
新幹線は品川駅に停車中のままであるために、外は駅のホームというつまらない風景のままで聖君はほとほと困った。

「……ごめんね」

ふと発せられた言葉に聖君は振り返る。絵里は困ったように笑って両手を目の前で合わせた。

「ケンカに、聖君、巻き込んじゃって」
「え。あ、ああ、だいじょうぶですよ、たぶん」

だいじょうぶとは言ったものの、なにがだいじょうぶなのか、なにも分かっていなかった。
実際、衣梨奈はれいな君に誘われていっしょに里帰りするようだったし、絵里がいなかったら、どうなっていただろうと思う。
れいな君と嬉しそうにいちゃついていた衣梨奈の笑顔がよみがえり、聖君は溜め息を吐く。
せっかくの誕生日プレゼントも、渡せるのだろうかとカバンの中をちらりと見た。
とんだサプライズだなと苦笑していると、新幹線の通路を、前の方から当事者ふたりが歩いてきた。

衣梨奈はれいな君の腕にしがみついたまま、黙って聖君を睨んでいる。
聖君もなにも言わないままに彼女を見つめるが、衣梨奈はふいっと目を逸らし、通路を挟んだ絵里たちの横の席に座った。
当然のようにれいな君も衣梨奈の隣に座る。

「絵里、誤解やって」

通路側の席に座ったかと思うとれいな君は身を乗り出して絵里に謝った。
絵里はれいな君を見ようともせずに雑誌を開いた。

「えりぽんも帰るって言うけん、せっかく同じ場所に行くんやったらいっしょに行った方が良いやん」

れいな君の言い訳を聖君も黙って聞いていた。
まあ至極真っ当な理由とは言えるが、絵里が怒っている問題はそこじゃない気がしていた。
絵里はれいな君に向き直る。

「それで仲良くふたりで里帰りデートなんでしょ?」
「デートやなくてさぁ…いっしょに帰らん方が変やろ」
「じゃあなんで絵里に言わなかったの?」

そう、問題はそれだよと聖君は思う。
デートという後ろめたいことがなければ、絵里に話すのが普通ではないのだろうか。
自分がモテることで絵里が嫉妬することをれいな君はその経験から知っているはずだった。
それの原因として、れいな君がフラフラしすぎなのもあるが、絵里に黙っていることもひとつだった。
えりぽんといっしょに帰るとひと言話せば、絵里も此処まで怒らないだろうになと聖君は思った。

「いや……言う必要ないかなって」

その言葉に聖君はピクッと反応した。
この人ホントに鈍感なんだと溜め息を吐きたくなるが、もう文句を言うのも疲れたので黙っている。
絵里の怒りはいよいよピークに達したようで、そのオーラは赤から静かな青へと変化しつつある。
嫉妬の青の炎に聖君も何気にハラハラしていると、新幹線が動き出した。

さて、博多までの5時間、どうなることやら…と聖君は思った。


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新幹線が動き出して3分後、絵里は「はぁ」と溜め息をついた。

「絵里って嫉妬深いよね……」

急に吐き出された言葉に聖君は左側の彼女に向き直る。
絵里はむぅと頬をふくらませ、前髪を弄った。

「分かってるんだけどさぁ……」

絵里の言葉になんて返すべきは聖君は迷った。
聖君は女の子にフラフラしすぎなれいな君のことを尊敬できないし、言ってしまえば苦手だった。
だからというわけではないけれど、聖君は絵里の気持ちがよく分かる。
分かるが故に余計に、れいな君への怒りが募る。こんな可愛い子を、もう放っておくなよと叫びたくなる。

「僕も、嫉妬してますから……田中さんに」

聖君は絵里を通り越し、通路向こうのれいな君の隣、窓側の席に座る衣梨奈をちらりと見た。
彼女は窓の外を流れる景色を見ている。

「……よく分かんないです、女の子って」

聖君がそう呟くと、絵里は暫し考えたあと、話を変えた。

「そういえばさ、この間は結局、なにも言わなかったの?」
「この間?」
「ほら、絵里のこと電車で助けてくれた日。あの朝、えりぽんのこと、追いかけたじゃん」

絵里に言われ、聖君はその日のことを思い出した。
その日は、たまたま電車がいっしょになった絵里と登校し、その途中で盛大な勘違いをした衣梨奈に会った。
結果、衣梨奈を追いかけたのだが、聖君は誤解を解くのが精一杯で、告白は出来なかったのだ。

「タイミング、はかってます…今日とかも、考えたんですけどね」

足元に置いたボストンバッグの中には、衣梨奈への誕生日プレゼントが入っている。
それを渡したときに、告白もできたらと思っていたが、どうもそういう雰囲気ではなさそうだった。

「やっぱ好きなんですかね、田中さんが…あ、亀井さんの前で言うのも、あれですけど」
「ううん、良いよ。それに、えりぽんはれーなのこと、従兄のお兄ちゃんって感じで慕ってるだけの気もするし」
「そうだと良いんですけどね。ただ、あんなにべったりされると……」
「へへ。絵里と聖君、似てるかもね」

絵里と聖君は困ったように笑う。
その姿は当然、通路向こうのれいな君と衣梨奈も見ているわけで、段々と面白くなくなってくる。

―絵里やって、フクちゃんと仲良くしとぉやん……つか、なんで絵里がおるとよ?

れいな君は絵里が此処にいる理由を聞いていないため、余計に面白くない。
絵里に限って、まさか聖君と浮気なんてことはないだろうけど、あんなに楽しそうに話されると少し心配になる。

「れいな君、お弁当食べん?」

急に左側の衣梨奈から声を掛けられれいな君は「ふぇ?」と間抜けな声を出した。
衣梨奈は黄緑色の小さなカバンの中から弁当箱を取り出して広げた。
どうも彼女の手作りのようであり、少しだけ焦げた玉子焼きや、不格好なオニギリがある。
しかし、トマトやブロッコリーのおかげで色鮮やかであり、朝ご飯をあまり食べなかったれいな君の食欲をそそるには充分だった。

「食べて良いと?」
「うん、えりがんばってつくったと!」

そうしてれいな君は衣梨奈から弁当箱を受け取ると、黄色と茶色の混ざった玉子焼きを頬張った。
焦げてはいるものの、砂糖の甘みで中和され、なかなか美味しい。

「うまかよ、これ」
「ホント〜?良かったぁ、失敗せんで」

和気藹々と食事を始めたふたりの様子は当然、通路を挟んだ絵里と聖君にも伝わる。
手づくり弁当だとぉ?と聖君は眉を顰め、鼻の下をだらしなく伸ばすれいな君に絵里は再び笑顔を引き攣らせる。
絵里はポケットから携帯電話を取り出しカメラを起動させた。
なにをするんだろうと聖君が思っているのも束の間、絵里は聖君の左腕にぎゅうとしがみついた。

「写真とろっか聖君」
「へ?」
「ほら、初の小旅行の思い出ってことで!」

絵里は聖君にさらに近寄る。そのおかげで絵里の胸が聖君の腕に当たる。
先ほどから感じていた確かな温もりとその柔らかさに、一気に聖君の胸は高まり、生唾を呑み込む。
思春期真っ盛りの中等部の彼にとって、あまりにも大きな刺激に顔は紅潮し、それと同時に下腹部が徐々に膨らんでいく。

「ほら、撮るよ?」

絵里の笑顔にドギマギしながらも、必死に自分の欲望を抑え、構えられた携帯電話に微笑んで見た。
絵里は器用に指先でシャッターを押すと、「撮れたかな?」と確認をする。
携帯電話を聖君に見せてくることで、彼女の流れる髪からは甘い香りが漂ってくる。
正直、写真どころではないが、聖君はなんとか理性を保ちながら、荒くなっていく息を整えることに集中した。

「聖君なんか硬くない?」
「はっ?!」
「いや、笑顔がさー」

ああ、なんだそっちかと、一瞬でもイヤらしいことを考えた自分を恥じながら聖君は写真を見た。
確かに、憧れの女性とのツーショットに緊張したせいか、写真の中の自分は随分と顔がこわばっている。
なんかもう色々情けないなぁと考えていると、通路向こうから再び声が聞こえてきた。

「れいな君お茶飲まん?」
「うん?」

すると衣梨奈はペットボトルを開ける。
なにもそこまでしなくともと思ったのも束の間、衣梨奈はそれを一口飲み、れいな君に渡してきた。

「はいっ」

笑顔の衣梨奈とペットボトルを交互に見ながら「こ、こ、これはっ……間接キスというやつか?!」とれいな君は考える。
れいな君は顔が紅潮するのを感じながらも、なにも考えずにペットボトルに手を伸ばす。
鼻の下、伸びてないと良いなとボンヤリ思い、衣梨奈の口付けたペットボトルを手に取った。


瞬間だった。
推定距離1メートル弱の地点から放たれた絵里の剛速球は見事にれいなの後頭部に直撃した。
幸いにして絵里の投げたものも同じくペットボトルであったため、衝撃は恋愛事情の缶ほどではない。
とはいえ近距離から放たれた速球の威力は凄まじく、れいな君は見事に前のめりに倒れ、図らずも衣梨奈の胸に飛び込む形になった。

「れ、れいな君っ!」
「ぐぉ…つか、えりぽんっ…」

いたいけな中等部女子の胸に飛び込んだその姿に聖君は思わず立ち上がった。
が、それより一瞬早く絵里は「バカっ!れーなのバカッ、さいてーっ、アホっ、エッチ、ハゲ!!」と叫んだ。

「な、なんがバカかっ!」

れいな君は衣梨奈の胸から顔を起こし、絵里に向き直った。

「さっきからずーーーーっとえりぽんとイチャついて…信じらんない!」
「ばっ、絵里こそフクちゃんと写真撮ったりベタベタしよってなんがアホかっ!」
「それはれーながっ」

普段の聖君なら、すぐに公共の場で大声で言い合うこのふたりを止めただろう。
だが、自分の大好きな人の胸に飛び込まれた聖君の怒りは計りしれない。
たったいまれいな君がした行為が不可抗力であるにせよ、沸々と浮かんだ怒りの感情に思わず殴りたくなった。
それでも、「亀井さん落ち着いて…」と必死に宥め、場を収束させたのは、彼の最後のプライドだった。


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新幹線は名古屋を通過し、博多を目指す。
あんな言い争いをした割に車掌を呼ばれなかったのは不幸中の幸いとも言えた。
衣梨奈とれいな君は絵里たちより数列前の席に座り直している。おかげで嫉妬合戦は一時休戦となったが、それでも全く、心は穏やかではなかった。

―なにやってんだか……

聖君は深く溜め息をついてシートに座り直す。
自分がこんなに嫉妬深かったのだということに初めて気付いた。
衣梨奈がだれかと嬉しそうに話したり、だれかのために弁当をつくったり、だれかの隣で笑っているのを見ると、胸が痛む。
付き合っているわけでも、まして告白したわけでもないのに、こんな想いを抱くのは自分勝手だとも分かっていた。

聖君が再び溜め息を漏らしそうになったとき、その肩にコテッと温かいものを感じた。
それが絵里の温もりだと気付くのにそう時間はかからなかった。
絵里は先ほどの嫉妬合戦に疲れたのか、それとも寝不足なのか、聖君の肩に頭を乗せて寝息を立てていた。
瞳を閉じて夢の世界を泳ぐ絵里、流れる髪、潤いをもった唇、整った顔立ちに思わずときめく。

「可愛いなぁ……」

れいな君のことが苦手なのは、自分が愛してやまない人がいるくせに、いつまでも煮え切らずにフラフラしているせいだった。
自分の憧れの女性が、そんな男を好きでいることもあまり好ましくはなかった。
たぶんドラマや漫画なんかでは、こんな場面で男はこう言うんだろうなと聖君は思う。

―僕に、しときませんか?

だけど、聖君は決してそれを口にしない。
それは往々にして、ヒロインからその次に返ってくる言葉が決まっているからではない。
自分たちより数列先の席に座った彼女のことが、どうしようもなく好きで堪らないからだった。

聖君は苦笑して、絵里を起こさぬようにそっと立ち上がり、ボストンバッグを持って通路へと出た。
すると、タイミングが良いのか悪いのか、通路の前の方かられいな君がスーツケースを持って歩いてきた。
同じことを考えたのだろうかと思いながらふたりはぶつからないようにすれ違う。

「……大事にしたらどうですか」

だが、黙ってすれ違わずに聖君は言葉を吐いた。
ずっと心の中にしまい込んできた想いを呟くと、れいな君は怪訝な顔で振り返る。

「好きな人のこと、もっと大事にしたらどうですか」
「……だれに対して口聞いとぉとや?」

れいな君も珍しく退くことなくそれに応えた。
分かっている。自分がれいな君を苦手なのは、好きな人がいるくせに、いつまでも煮え切らずにフラフラしているせいなのだ。
そしてそれが、鏡の中の自分を見ているようでイヤなんだ。
告白することも、気持ちを抑えて引くこともできず、ただ中途半端に衣梨奈のことを想い続けている自分が嫌いなんだ。
好きな人のことを、もっと大事にしなくちゃいけないのは、自分なんだ。

「………すみませんでした」

そうして聖君は頭を下げると歩き出した。
急にケンカを売られ、それを買うこともなく刃を引っ込められたれいな君はどうして良いか分からなくなった。
彼の背中をしばらく見ていたが、大袈裟に肩を竦めたあと、絵里の席へと向かう。
絵里は相変わらず眠っていて、その寝顔は相変わらず可愛かった。

「……分かっとぉよ、大切にせんとって…」

れいな君はそう言うと、羽織っていた薄手のカーディガンを絵里にかけてやる。
そして起こさないように彼女の前を通って座ろうとすると、その肩を掴まれた。
思わず「へ?」と間抜けな声を出すが、その声は一瞬にして絵里の唇に吸い込まれた。
触れるだけのキスのあと、れいな君がポカンとしていると、彼女はだらしなく「うへへぇ」と笑った。

「ありがとね、これ……」
「え、あ、あぁ、うん…」

まさか先ほどの声が聞こえたのだろうかと思うが、れいな君はなにも言わず席に座った。
絵里は優しく微笑んだまま、れいな君の腕にぎゅうと抱きついた。
れいな君の確かな温もりが愛しいのか、絵里は再び眠りに就いた。
結局その寝顔も愛しくて、なんで彼女が同じ福岡行きの新幹線に乗っているのかという疑問も忘れ、れいな君も目を閉じた。


一方、衣梨奈の隣に聖君が座った途端、衣梨奈は頬を膨らませてそっぽを向いた。
完全に誤解している彼女をどうにか宥めないとと思うが、あまり良案も浮かばず、聖君は紙袋を取り出した。
そして半ば強引に衣梨奈を振り向かせると、その手に紙袋を渡す。

「…なんこれ?」
「いいから開けてよ。コレ渡したくて福岡行くつもりだったから」

衣梨奈は言われたとおりにすると、中に入っていた箱とそのメッセージカードを認めた。
思わず顔を上げるが、今度は聖君が照れたのか口をもごもごさせて目を逸らす。

「……これ、わざわざ…?」
「ホントは福岡でサプライズしたかったんだけど……と、とにかく誕生日おめでとうって言いたかったんだよ。
 あと、亀井さんとは駅でたまたま会っただけだから。ホントにそういうつもりとかなく…」

聖君が早口で説明するが、その言葉は最後まで出ることはなかった。
衣梨奈は嬉しさのあまり、隣に座る聖君の胸に飛び込み、ぎゅうと彼を抱きしめた。
突然の出来事に呆然とする聖君を差し置き、衣梨奈はその耳元で「ありがとっ!大好きっちゃ、聖!」と呟いた。

あまりにも唐突な「好き」という二文字に聖君の心臓は高鳴り、汗も噴き出る。
恐らく衣梨奈に告白なんて意図はなかったのだろうけど、それでも告げられた言葉に聖君はまさに天にも昇る心地だった。
自分が告白する前に「好き」と言われては太刀打ちできない。
聖君はドラマや漫画でありがちな「僕もだよ」とも言えず、彼女の背中に腕を回すこともできず、ただただ衣梨奈の温もりを感じていた。


新幹線が博多に着くまで、もう暫く、ドラマは続く。
そして恐らく、博多に着いたあとも、恋愛ドラマは続いていきそうです。




たなえりとPONPONの里帰り おわり




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「はぁ……絵里、いかんっ…もう…」
「んへへぇ〜…れーなまた出ちゃう?」

新幹線の狭いトイレの中、れいな君は絵里に下腹部を弄られ何度目かの絶頂を迎えそうになっていた。
さすがに公共の場の座席でしなかった分マシとは言えるが、それでも此処はトイレ。背徳の気持ちは少なからずあっても、快感には耐えられない。

「やばっ…絵里……絵里…はぁ…あっ」

耳元で甘く「れーなぁ」と囁きながら絵里はれいな君の竿や玉に絶妙な刺激を与える。
非日常的な場所でイかされそうになっていることや、絵里から感じる女性の香りにれいな君は翻弄される。
絵里は優しく微笑んだかと思うと、すっとしゃがみ込み、れいな君のそれを口に含んだ。

「あぁっ…も、もう…絵里……絵里っ!」
「ひーよれーな……飲んであへるよ?」

そうして絵里はちゅう〜っと音を出してれいな君を吸い、舌を突き出してチロチロ舐めた。
れいな君はもう我慢がきかず、絵里の口の中に自分の欲望を吐き出した。

「はぁ……はぁ……絵里、ヤバい…」
「んへへ〜、れーな可愛いなぁもう」

そうして絵里はれいな君のをごくんと飲みこむと、彼に抱きついて再びキスをした。
れいな君もそれに応えるように舌を突き出してキスを交わす。
だれか入ってくるかもしれないという不安もあったが、そんなことはもう構わずにキスをし、絵里の胸を揉み始めた。


博多に着くまでもう暫く、このふたりのエッチも続きそうですw






「あのふたりさすがなの…」 [image]

そして、その一部始終を、道重財閥が極秘開発した壁をも透けて見える望遠鏡でさゆみが見ていたことは、また別のお話ですw



おわれw

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