骨折のまとめ〜Part1〜
骨折の原因と分類
1.骨折の原因
骨折の発生原因は種々であるが,スポーツ,交通事故,労働災害が全体の6割を占め,その他は歩行中の転倒など日常的な場面で発生している.発生部位は年齢によって偏りがあるが,吉田らの統計値によると約50%が上肢に発生している.
2. 骨折の原因となる外力
骨折(fracture)とは,骨が組織学的に一部または全体にわたり連絡を断たれたものである.転倒や交通事故などのさまざまな形で,身体に瞬間的に大きな外力が加わったときに発生する.しかし比較的小さな力であっても剪断や捻れが加わると容易に骨折を引き起こすことも珍しくはない.
骨折の原因となる外力はその作用形態から直達外力と介達外力に分けられる.その外力が骨に対し圧力や張力または合成された屈曲力,剪断力,捻転力として作用し,その強度限界を越えたときに骨折が発生する.皮質骨の強度率は24.4�/㎟とされる.Messererの実験によると死体大腿骨に約300kgの屈曲力を加えるとわずか数分の1の力で折れた.
また通常骨折には至らないほどの弱い外力であっても,骨粗鬆症,骨腫瘍,骨形成不全などの骨疾患では容易に病的骨折が起きうる.また弱い外力であっても同一部位に繰り返し同じ外力(ストレス)が加わるときには疲労骨折が起きる.
3. 骨折線による分類
骨折をレントゲンでみた骨折線によって分類することができる.これは骨折の型や外力の加わり方などによって異なってくるが,たとえば長管骨において直達外力が強力なときは横骨折となりやすく,屈曲力が加わると骨の特性である牽引力と圧縮力との関係において牽引力が弱いために螺旋骨折や斜骨折が発生する.通常螺旋骨折などは骨折よりも治療期間が長く慎重に治療させる.
4. 単純骨折と複雑骨折
骨折部と外界が創により連絡しているものを開放性骨折または複雑骨折といい,骨折部と外界が閉鎖されているものを閉鎖骨折または単純骨折という.複雑骨折では感染症の可能性が高く,特に深部感染をきたすと骨癒合は遷延し不良な予後経過をたどることもある.
骨折の治療機転
1. 骨癒合の過程
骨癒合過程は炎症期,修復期,再生期の3期に分けられる.炎症期には骨膜が破綻し骨折により生じた間隙と髄膜内には血腫が形成される.血小板はマクロファージは止血や壊死組織の除去という役割だけでなく,種々の軟骨を誘導する物資を放出し軟骨形成の「引き金」となっていることが解明されてきた.修復期は血腫に新生血管が侵入し軟骨芽細胞は内軟骨性仮骨を形成し骨折部の間隙を架橋する.仮骨は発生部位により髄腔内仮骨,骨膜性性仮骨,外仮骨と呼ばれる.再生期は仮骨の再吸収と骨細胞への置換により癒合が完了する.これらの期間は一部で同時に進行するが,炎症期短く逆に再生期は全治癒期間の70%と相当に長い.
この骨癒合過程は組織反応によって分けると,傷害初期反応期,膜性骨化期,軟骨形成期,内軟骨性骨化期になる.
いずれにしても,患者に骨癒合の過程をできるだけ平易な言葉で説明すると,免荷や部分負荷の必要性が良く理解でき荷重量の遵守に役立つ.
2. 直接的骨癒合(一次骨癒合)
AOプレート固定のように骨折部の固定強度が高いときには,通常の骨折の治療過程にみられるような外膜性および内膜性化骨が形成されないままに,破骨細胞と骨芽細胞が骨折接合面を越えて移動しつつ再び骨の連続性が得られることがある.このような化骨形成のない特殊な骨癒合過程を直接的骨癒合あるいは一次性骨癒合と呼ぶ.これに対して通常の骨癒合過程を間接的骨癒合または二次性骨癒合という.
骨癒合の条件
骨癒合の条件は,骨折部の接合,骨折部の固定,十分な血流,そして適度な圧迫刺激である.癒合を左右する因子としては骨折部の状況,骨折の型,骨折部位,全身状態,感染の有無,外力の状況,周囲軟部組織損傷の程度,年齢など多くの因子に影響される.
骨内血流の乏しい部位の骨折では血腫と膜性骨化が不十分で治癒過程の進行が遅いとされている.
骨癒合の判断は動揺の有無,腫張の有無,限局性の圧痛やレントゲン像による仮骨形成状況などによってなされる.仮骨の大きさは正常範囲でも相当変動があり,骨膜下骨折や骨膜の損傷の少ないものは仮骨が少ないが,転位の大きいものや第3骨片のある骨折では仮骨は非常に大きいことがある.
仮骨は量的な面より質的な面が大切で,異常発生する仮骨の多くは不良仮骨であり骨癒合の判断は慎重に行われる.
骨癒合不良な主な骨折
骨癒合を円滑にするためには骨折部をできるだけ解剖学的な位置関係に整復し,骨折端に適度な圧縮力が必要である.
肋骨や鎖骨は多少の可動があっても骨癒合は可能だが,他の骨折に関しては不動でなければならない.骨癒合には引張応力がなく垂直方向に働く適度な圧縮力が必要であり,その反面,骨折部に働く剪断力,屈曲力,捻転力などは骨癒合を障害する.脛骨骨幹部骨折では,腓骨も同時に骨折している症例の方が脛骨単独骨折例より軸圧がかかりやすく癒合期間も短い.
中手骨 2週
肋骨 3週
鎖骨 4週
前腕骨 5週
上腕骨骨幹部 6週
脛骨,上腕骨頸部 7週
下腿骨 8週
大腿骨 8週
大腿骨頸部 12週
骨癒合の日数
骨癒合日数は前述の癒合条件によって左右されるが,正常 表 骨折癒合日数
発達の経過で最小限の値を示している(表).小児はさらに20〜30%早く癒合し,反面高齢者は通常より遅れる傾向にある.
5)合併症
骨折の合併症は受傷時の一時的な合併症と治療経過中または治療経過後に発生する二次的な合併症がある.急性期の合併症は血管・血流傷害,神経損傷,周囲の軟部組織損傷などである.二次的な合併症は変形,偽関節,感染症,反射性交感神経性ジストロフィーなどである.
理学療法においては特に二次的な合併症の出現に注意をはらう必要がある.下腿骨折時のギプス固定によって腓骨神経麻痺を生じることがある.母趾の伸展障害や腓骨神経固有知覚領域の知覚障害を早期に発見し,治療を行う.感染症では局所熱感や発熱またはCRPなどの血清データを参照しておく.
また骨盤骨折,肋骨骨折では内臓損傷を合併することがある.骨盤骨折や大腿骨骨折では多量の出血を伴うこともあり治療開始時には配慮が必要である.
重篤な合併症として区画症候群がある.その代表的なものがフォルクマン拘縮である.血行障害は特に正中神経および深部屈筋群に強く,その完成したものの経過は乏しい.
表 骨折の合併症
二次性 遷延治癒偽関節変形治癒短縮成長傷障害過成長感染 関節拘縮 滑膜炎関節内および関節周囲の癒着骨膜下仮骨反射性交感神経性異常栄養症
骨粗鬆症と骨折の関係性
1.骨粗鬆症について
もともと高齢者の転倒は多くみられるものであるが,それによる外傷自体は少なくないようである.しかしこれに骨粗鬆症による骨の脆弱化が伴うと,わずかな外力によって骨折を生じる.
転倒経験だけでも不安や恐怖を生じるが,さらに骨折が加われば,安静期間が長期化し,股・膝関節屈曲拘縮,四肢体幹の筋力低下,腰背痛などが加わり活動意欲も低下する.そのため,“寝たきり老人”にもなりかねない.加えて肺炎や尿路感染症・心肺機能低下・深部静脈血栓症などさまざまな合併症を引き起こし,死亡することも稀ではない.
しかし,骨接合術(創内および創外固定)や人工骨頭置換術といった手術治療は早期離床を可能とした.理学療法は骨折の治療(術前・術後)とほぼ並行して行われ,その役割は重要である.
骨粗鬆症とは
骨粗鬆症の治療(薬物療法)に関するガイドラインが1998年に作成され,骨粗鬆症の治療および予防に対する現在の考え方がまとめられた.
A.定義および診断指針
骨粗鬆症とは「骨量が減少し,骨微細構造の劣化により骨強度が低下し,骨折を起こしやすくなった全身的疾患」と定義され,原発性と続発性とに分類される.診断は日本骨代謝学会の診断基準に基づく.続発性骨粗鬆症および他の低骨量を呈する疾患を除外して,胸腰椎側面X線写真による脊椎椎体骨折の有無の判定,他疾患の鑑別および骨量計測によって,正常,骨量減少,骨粗鬆症と判別する.他疾患の除外診断のために必ず生化学検査を行う. 若年成人平均値(YAM)とは20‐40歳の平均値であり,骨塩量計測は腰椎正面(第二‐四腰椎)の計測が標準的であるが,それが困難な場合にのみ,橈骨,第二中手骨,大腿骨頚部,踵骨の骨塩量値を用いる.骨塩量計測機器の種類,あるいは計測部位
の違いによる骨塩量値の違いがあるので,評価には十分の注意が必要である.
治療方針
〔理学療法〕
骨粗鬆症予防,骨量増加には適度の運動負荷が重要である.高齢者には最も簡単に行える歩行が勧められる.急性期の腰背痛では安静も重要だが早期からの筋力訓練,体位変換,短期間のコルセット使用,歩行を可能とさせ,慢性期では椎体に負荷をかけない伸展を中心とした治療体操が重要である.温熱療法などの物理療法は慢性疼痛の改善に有効である.大腿骨頚部骨折予防のため最近殿部プロテクターが使用されている.
〔食事療法〕
骨量維持のために適切な食生活が大切で,予防のためにはカルシウム摂取量は閉経後,老年期においては800mg/日以上,治療のためにはさらにそれ以上の摂取が必要である.
〔薬物療法〕
疼痛に対しては消炎鎮痛薬を用いる.骨粗鬆症治療(予防)薬は次の場合に考慮する.
1.骨量減少と骨折
いかなる骨折が骨量減少と関係あるか明らかにするため,Stoneらは65歳以上の9483人の集団を対象に,骨量測定後平均10.4年間(脊椎,大腿骨頸部骨量測定後は平均8.5年間)にわたって追跡し,その後に発生した骨折を調査している.その結果,骨量の減少と有意な関係があったのは,大腿骨近位部骨折,手関節部骨折,脊椎椎体骨折の他,上腕骨骨折,肋骨骨折,骨盤骨折,下腿骨骨折などで,調査した骨折のほとんどで骨量減少がそのリスクとなっていた.しかし同時に,骨折発生への骨粗鬆症の寄与度は10〜44%程度であったと指摘していて,骨量減少が骨折発生の主たる要因であることは間違いないものの,骨量減少が骨折発生の全てを説明するわけではない.
2.骨折発生リスクを高める他の要因
1)既存骨折
既存骨折の存在が骨折発生のリスクとなることは,これまでの多くの研究結果で一致している.軽微な外傷で生じた骨折の既往があれば,骨量や年齢で補正してもなお,骨折発生のリスクを有意に高める.最近発生されたメタアナリシスでは,既往骨折例では,同じ部位の骨折のみでなく,他の部位の骨折リスクも有意に上昇することが明らかとされている.
2)加齢
年齢によっても骨折リスクが異なる.すなわち,骨量が同じであっても,年齢が異なれば骨折発生リスクも異なり,高齢になるほど骨量減少に伴う骨折リスクが高まることになる.
骨折の疫学
前述のごとく,骨粗鬆症によって骨折のリスクが高まるが,そのうちで患者数が多いのは大腿骨近位骨折,橈骨遠位端骨折,上腕骨近位端骨折,脊椎骨折である.以下にはこれらの骨折に関する近年の疫学的知見を概説する.
1.骨折の原因
骨折の発生原因は種々であるが,スポーツ,交通事故,労働災害が全体の6割を占め,その他は歩行中の転倒など日常的な場面で発生している.発生部位は年齢によって偏りがあるが,吉田らの統計値によると約50%が上肢に発生している.
2. 骨折の原因となる外力
骨折(fracture)とは,骨が組織学的に一部または全体にわたり連絡を断たれたものである.転倒や交通事故などのさまざまな形で,身体に瞬間的に大きな外力が加わったときに発生する.しかし比較的小さな力であっても剪断や捻れが加わると容易に骨折を引き起こすことも珍しくはない.
骨折の原因となる外力はその作用形態から直達外力と介達外力に分けられる.その外力が骨に対し圧力や張力または合成された屈曲力,剪断力,捻転力として作用し,その強度限界を越えたときに骨折が発生する.皮質骨の強度率は24.4�/㎟とされる.Messererの実験によると死体大腿骨に約300kgの屈曲力を加えるとわずか数分の1の力で折れた.
また通常骨折には至らないほどの弱い外力であっても,骨粗鬆症,骨腫瘍,骨形成不全などの骨疾患では容易に病的骨折が起きうる.また弱い外力であっても同一部位に繰り返し同じ外力(ストレス)が加わるときには疲労骨折が起きる.
3. 骨折線による分類
骨折をレントゲンでみた骨折線によって分類することができる.これは骨折の型や外力の加わり方などによって異なってくるが,たとえば長管骨において直達外力が強力なときは横骨折となりやすく,屈曲力が加わると骨の特性である牽引力と圧縮力との関係において牽引力が弱いために螺旋骨折や斜骨折が発生する.通常螺旋骨折などは骨折よりも治療期間が長く慎重に治療させる.
4. 単純骨折と複雑骨折
骨折部と外界が創により連絡しているものを開放性骨折または複雑骨折といい,骨折部と外界が閉鎖されているものを閉鎖骨折または単純骨折という.複雑骨折では感染症の可能性が高く,特に深部感染をきたすと骨癒合は遷延し不良な予後経過をたどることもある.
骨折の治療機転
1. 骨癒合の過程
骨癒合過程は炎症期,修復期,再生期の3期に分けられる.炎症期には骨膜が破綻し骨折により生じた間隙と髄膜内には血腫が形成される.血小板はマクロファージは止血や壊死組織の除去という役割だけでなく,種々の軟骨を誘導する物資を放出し軟骨形成の「引き金」となっていることが解明されてきた.修復期は血腫に新生血管が侵入し軟骨芽細胞は内軟骨性仮骨を形成し骨折部の間隙を架橋する.仮骨は発生部位により髄腔内仮骨,骨膜性性仮骨,外仮骨と呼ばれる.再生期は仮骨の再吸収と骨細胞への置換により癒合が完了する.これらの期間は一部で同時に進行するが,炎症期短く逆に再生期は全治癒期間の70%と相当に長い.
この骨癒合過程は組織反応によって分けると,傷害初期反応期,膜性骨化期,軟骨形成期,内軟骨性骨化期になる.
いずれにしても,患者に骨癒合の過程をできるだけ平易な言葉で説明すると,免荷や部分負荷の必要性が良く理解でき荷重量の遵守に役立つ.
2. 直接的骨癒合(一次骨癒合)
AOプレート固定のように骨折部の固定強度が高いときには,通常の骨折の治療過程にみられるような外膜性および内膜性化骨が形成されないままに,破骨細胞と骨芽細胞が骨折接合面を越えて移動しつつ再び骨の連続性が得られることがある.このような化骨形成のない特殊な骨癒合過程を直接的骨癒合あるいは一次性骨癒合と呼ぶ.これに対して通常の骨癒合過程を間接的骨癒合または二次性骨癒合という.
骨癒合の条件
骨癒合の条件は,骨折部の接合,骨折部の固定,十分な血流,そして適度な圧迫刺激である.癒合を左右する因子としては骨折部の状況,骨折の型,骨折部位,全身状態,感染の有無,外力の状況,周囲軟部組織損傷の程度,年齢など多くの因子に影響される.
骨内血流の乏しい部位の骨折では血腫と膜性骨化が不十分で治癒過程の進行が遅いとされている.
骨癒合の判断は動揺の有無,腫張の有無,限局性の圧痛やレントゲン像による仮骨形成状況などによってなされる.仮骨の大きさは正常範囲でも相当変動があり,骨膜下骨折や骨膜の損傷の少ないものは仮骨が少ないが,転位の大きいものや第3骨片のある骨折では仮骨は非常に大きいことがある.
仮骨は量的な面より質的な面が大切で,異常発生する仮骨の多くは不良仮骨であり骨癒合の判断は慎重に行われる.
骨癒合不良な主な骨折
- 大腿骨頸部関節包内骨折
- 脛骨中下1/3部での骨折
- 手の舟状骨骨折
骨癒合を円滑にするためには骨折部をできるだけ解剖学的な位置関係に整復し,骨折端に適度な圧縮力が必要である.
肋骨や鎖骨は多少の可動があっても骨癒合は可能だが,他の骨折に関しては不動でなければならない.骨癒合には引張応力がなく垂直方向に働く適度な圧縮力が必要であり,その反面,骨折部に働く剪断力,屈曲力,捻転力などは骨癒合を障害する.脛骨骨幹部骨折では,腓骨も同時に骨折している症例の方が脛骨単独骨折例より軸圧がかかりやすく癒合期間も短い.
中手骨 2週
肋骨 3週
鎖骨 4週
前腕骨 5週
上腕骨骨幹部 6週
脛骨,上腕骨頸部 7週
下腿骨 8週
大腿骨 8週
大腿骨頸部 12週
骨癒合の日数
骨癒合日数は前述の癒合条件によって左右されるが,正常 表 骨折癒合日数
発達の経過で最小限の値を示している(表).小児はさらに20〜30%早く癒合し,反面高齢者は通常より遅れる傾向にある.
5)合併症
骨折の合併症は受傷時の一時的な合併症と治療経過中または治療経過後に発生する二次的な合併症がある.急性期の合併症は血管・血流傷害,神経損傷,周囲の軟部組織損傷などである.二次的な合併症は変形,偽関節,感染症,反射性交感神経性ジストロフィーなどである.
理学療法においては特に二次的な合併症の出現に注意をはらう必要がある.下腿骨折時のギプス固定によって腓骨神経麻痺を生じることがある.母趾の伸展障害や腓骨神経固有知覚領域の知覚障害を早期に発見し,治療を行う.感染症では局所熱感や発熱またはCRPなどの血清データを参照しておく.
また骨盤骨折,肋骨骨折では内臓損傷を合併することがある.骨盤骨折や大腿骨骨折では多量の出血を伴うこともあり治療開始時には配慮が必要である.
重篤な合併症として区画症候群がある.その代表的なものがフォルクマン拘縮である.血行障害は特に正中神経および深部屈筋群に強く,その完成したものの経過は乏しい.
表 骨折の合併症
骨折そのものの合併症 骨折部に隣接した組織の合併症 骨折部より離れた組織の合併症一次性 阻血性壊死感染 神経損傷血管損傷腱損傷腸,膀胱または肺の損傷 脂肪塞栓ショック
二次性 遷延治癒偽関節変形治癒短縮成長傷障害過成長感染 関節拘縮 滑膜炎関節内および関節周囲の癒着骨膜下仮骨反射性交感神経性異常栄養症
骨粗鬆症と骨折の関係性
1.骨粗鬆症について
もともと高齢者の転倒は多くみられるものであるが,それによる外傷自体は少なくないようである.しかしこれに骨粗鬆症による骨の脆弱化が伴うと,わずかな外力によって骨折を生じる.
転倒経験だけでも不安や恐怖を生じるが,さらに骨折が加われば,安静期間が長期化し,股・膝関節屈曲拘縮,四肢体幹の筋力低下,腰背痛などが加わり活動意欲も低下する.そのため,“寝たきり老人”にもなりかねない.加えて肺炎や尿路感染症・心肺機能低下・深部静脈血栓症などさまざまな合併症を引き起こし,死亡することも稀ではない.
しかし,骨接合術(創内および創外固定)や人工骨頭置換術といった手術治療は早期離床を可能とした.理学療法は骨折の治療(術前・術後)とほぼ並行して行われ,その役割は重要である.
骨粗鬆症とは
骨粗鬆症の治療(薬物療法)に関するガイドラインが1998年に作成され,骨粗鬆症の治療および予防に対する現在の考え方がまとめられた.
A.定義および診断指針
骨粗鬆症とは「骨量が減少し,骨微細構造の劣化により骨強度が低下し,骨折を起こしやすくなった全身的疾患」と定義され,原発性と続発性とに分類される.診断は日本骨代謝学会の診断基準に基づく.続発性骨粗鬆症および他の低骨量を呈する疾患を除外して,胸腰椎側面X線写真による脊椎椎体骨折の有無の判定,他疾患の鑑別および骨量計測によって,正常,骨量減少,骨粗鬆症と判別する.他疾患の除外診断のために必ず生化学検査を行う. 若年成人平均値(YAM)とは20‐40歳の平均値であり,骨塩量計測は腰椎正面(第二‐四腰椎)の計測が標準的であるが,それが困難な場合にのみ,橈骨,第二中手骨,大腿骨頚部,踵骨の骨塩量値を用いる.骨塩量計測機器の種類,あるいは計測部位
の違いによる骨塩量値の違いがあるので,評価には十分の注意が必要である.
治療方針
〔理学療法〕
骨粗鬆症予防,骨量増加には適度の運動負荷が重要である.高齢者には最も簡単に行える歩行が勧められる.急性期の腰背痛では安静も重要だが早期からの筋力訓練,体位変換,短期間のコルセット使用,歩行を可能とさせ,慢性期では椎体に負荷をかけない伸展を中心とした治療体操が重要である.温熱療法などの物理療法は慢性疼痛の改善に有効である.大腿骨頚部骨折予防のため最近殿部プロテクターが使用されている.
〔食事療法〕
骨量維持のために適切な食生活が大切で,予防のためにはカルシウム摂取量は閉経後,老年期においては800mg/日以上,治療のためにはさらにそれ以上の摂取が必要である.
〔薬物療法〕
疼痛に対しては消炎鎮痛薬を用いる.骨粗鬆症治療(予防)薬は次の場合に考慮する.
1.骨量減少と骨折
いかなる骨折が骨量減少と関係あるか明らかにするため,Stoneらは65歳以上の9483人の集団を対象に,骨量測定後平均10.4年間(脊椎,大腿骨頸部骨量測定後は平均8.5年間)にわたって追跡し,その後に発生した骨折を調査している.その結果,骨量の減少と有意な関係があったのは,大腿骨近位部骨折,手関節部骨折,脊椎椎体骨折の他,上腕骨骨折,肋骨骨折,骨盤骨折,下腿骨骨折などで,調査した骨折のほとんどで骨量減少がそのリスクとなっていた.しかし同時に,骨折発生への骨粗鬆症の寄与度は10〜44%程度であったと指摘していて,骨量減少が骨折発生の主たる要因であることは間違いないものの,骨量減少が骨折発生の全てを説明するわけではない.
2.骨折発生リスクを高める他の要因
1)既存骨折
既存骨折の存在が骨折発生のリスクとなることは,これまでの多くの研究結果で一致している.軽微な外傷で生じた骨折の既往があれば,骨量や年齢で補正してもなお,骨折発生のリスクを有意に高める.最近発生されたメタアナリシスでは,既往骨折例では,同じ部位の骨折のみでなく,他の部位の骨折リスクも有意に上昇することが明らかとされている.
2)加齢
年齢によっても骨折リスクが異なる.すなわち,骨量が同じであっても,年齢が異なれば骨折発生リスクも異なり,高齢になるほど骨量減少に伴う骨折リスクが高まることになる.
骨折の疫学
前述のごとく,骨粗鬆症によって骨折のリスクが高まるが,そのうちで患者数が多いのは大腿骨近位骨折,橈骨遠位端骨折,上腕骨近位端骨折,脊椎骨折である.以下にはこれらの骨折に関する近年の疫学的知見を概説する.
2010年01月12日(火) 20:06:00 Modified by ID:eaOSogWRfA