鷲足炎
【病態】
縫工筋、薄筋、半腱様筋の3腱が付着する鷲足といわれる部位がある。この鷲足に繰り返されるストレスが加わり、炎症が生じたものを鷲足炎と呼ぶ。ランニングやサッカーのように膝関節の屈伸・回旋運動の繰り返しによる機械的ストレスが原因となる。そのため、over useとして軽く見られがちであるが、重症例では歩行や階段昇降動作が困難になり日常生活に支障をきたす場合がある。
【私的見解】
鷲足炎の多くは薄筋の炎症である。【症状】
運動後に膝関節内側部(鷲足)を中心として疼痛が生じる。炎症が強い場合は腫脹や熱感が生じる。初期症状では、運動後に鷲足付着部に違和感を訴える程度であるが、過度な運動やストレッチなどの準備運動不足により徐々に悪化し、運動に関わらず日常生活動作で疼痛が発生する。伸張痛や収縮痛は再現性が低いが、重症例では再現される。【診断】
鷲足部に限局した疼痛(圧痛)を認める。下腿外旋位でのSLRで鷲足にストレスを(triger muscle test)与え、疼痛の有無を確認する。また、鷲足を圧迫しながら膝関節の屈伸運動を繰り返しながら、クリック音の確認や腱の滑走度合い(引っ掛かりがないか)を確認する。内側側副靭帯損傷、膝蓋靭帯炎(オスグッド・シュラッター病、ジャンパー膝)との鑑別が必要になるが、鷲足炎では膝関節外反ストレステストでは陰性を示すことから鑑別は容易である。
X-Pでは時に、外骨腫や離断性仮骨が認められる場合があるが、比較的稀である。
MRIでは、鷲足を構成する腱の高信号と、単房性や多房性の嚢腫として描出される腫脹した滑液包が認められる。ガングリオン、Baker嚢胞、内側側副靭帯浅層直下滑液包腫脹、膝蓋靭帯炎、縫工筋断裂などとの鑑別にもMRIは有効である。
【治療】
急性期は運動を中止し、アイシングなどの炎症症状に対する治療を行う。疼痛のない範囲から鷲足構成腱のストレッチを開始する。外反膝を呈する場合は、正常膝に比べ、鷲足構成腱のストレスが増加するために、インソールにて内反方向に誘導することも有効である。また、大腿四頭筋を主として膝関節・股関節周囲筋の筋力トレーニングも行うべきである。股関節外旋筋群の柔軟性の欠如や、股関節内旋筋の筋力低下によりknee-outを制御できない場合も鷲足へのストレスが増加する為、外旋6筋や大殿筋・中殿筋などのストレッチ、大内転筋や長内転筋などの股関節内旋筋のトレーニングを行う。疼痛が軽減・消失した段階でknee-outの異常屈曲動作が出現しない動作パターンを習得してから競技復帰へと誘導していく事が大切である。
【私的治療】
外旋6筋や内旋筋群を含めた股関節の支持性低下が多く見られるのが、鷲足炎の特徴であると考える。また、両側(特に患側)の腹筋群の筋力低下が常に認められる。高校レベルのサッカー選手の身体機能チェックを行った際にも、同様に患側の外腹斜筋の筋力低下が著明に認められた。腹筋群や股関節周囲筋の筋力向上による股関節の支持性向上は必須トレーニングであると考える。
2007年11月15日(木) 22:34:14 Modified by mediwiki_sikkan