18世紀初頭・・・四方を険しい山々に囲まれたとある国で、当時の政府により一風変わった条例が制定された。
個体数が少なく絶滅の恐れがあるという理由で、国の周辺の山野に棲んでいたドラゴン達に対して如何なる形であっても彼らを捕獲したり殺傷したりすることを禁じたのである。
そのためドラゴン達が棲んでいるとされる山中の深い森には到る所に立入禁止の札が掲げられ、国に住んでいた人々はドラゴンという生き物をほとんど目にすることがなくなってしまったのだ。
だが少なくとも17世紀の中頃までは、そんな一般の人々にとってもドラゴンは比較的身近な生き物だった。
どんな猛獣も敵わない強靭な爪や牙を有し、強固な鱗に覆われたその巨体で自在に空を飛ぶドラゴン。
彼らの知能は人間の言葉を話すこともできる程に高く、中には人間達とただならぬ関係を持った者もいたという。

「ふ〜ん・・・以前は、この国も随分と自由だったんだな・・・」
誰もいない閑散とした図書館で比較的新しい歴史書を開きながら、俺は小さく溜息をついていた。
人間達とのただならぬ関係というのが気になるが、この国の出身者の自伝などには時折かつてのドラゴン達と何かしらの性的な交渉があったという記述を見かけることがある。
つまり、過去には実際にドラゴンを相手にそういった交渉を持ち掛けた人がいたということなのだ。
わざわざあんな深い山奥にドラゴンを探しに行ってまでそんなことをしたということは、少なくともある一部の人達にとってはそれだけの価値のある体験だったのに違いない。
その1点だけでも、俺にはそんなドラゴン達の存在が非常に興味深いものに見えていた。
俺もそんな過去の人々のように、山に棲むドラゴン達と出会ってみたいと考えていた1人だったからだ。

だが・・・今はもう野生のドラゴンの姿を見つけるのは至難の業だと言っても過言ではないだろう。
山にはあちらこちらに高い柵が張り巡らされ、人々がドラゴン達と接触しないように厳重な警備が敷かれている。
条例を破ったことに対する罰則は特にこれといって定められているわけではないそうだが、仮に捕まったとしても精々軽い罰金や短い懲役が待っている程度で、それ程の重罪に問われることはないはずだ。
何しろ俺にはドラゴン達を捕まえたり傷付けたりするつもりなど毛頭ないし、ただほんのちょっとだけ過去の人々が味わったであろうその不思議な体験をしてみたいだけなのだから。

頭の中でそんな空想に一区切りをつけると、俺は手にしていた本を畳んで席を立っていた。
ここ最近は近隣諸国との領土争いが激化の一途を辿っていることも手伝ってか、俺のように戦争とは無縁の一般人達はそんな現実の慌しい喧騒から逃れるかのように新たな楽しみを見つけ出すことに腐心している。
そしてそんな俺の目に留まったのが、この不思議なドラゴンという未知の生き物の存在だったのだ。
ふと図書館の窓から外に目を向けてみれば、その遥か向こうには明るい緑に覆われた深い森が広がっている。
あんな目と鼻の先に近頃の人々が誰も見たことのない生き物が棲んでいると想像しただけで、ワクワクとした興奮が胸に湧き上がってくるのはまだ若い俺にとっては至極当然のことだと言えた。

それから1週間程経ったある日の夜、俺は密かに山を登る準備を整えてそっと家を出て行った。
今日を決行の日に選んだのは、ここ数日降り続いた雨のお陰で翌日には山間に深い霧が出るという予報があったためだ。
いくら山への侵入者に対する警備が厳重だとは言っても、昔ならともかく今の時代にドラゴンをどうこうしようなどと考える人間はそう多くはないだろう。
だとすれば、霧に乗じて山に入ることはそれ程難しいことではないに違いない。
まあ、実際にドラゴンを見つけてからどうするかについてはまだ何も考えてはいないのだが・・・

やがて寝静まった人々の家々を縫うようにして暗い街並みを抜け出すと、俺は誰にも見られていないことを確かめてから真っ暗な闇に包まれた森の中へと入っていった。
侵入防止用の柵が巡らされているとは言ってもそれはあくまでドラゴン達が棲んでいるというやや標高の高い場所にある森の周辺だけで、低地にある山道は別段塞がれているということはない。
だから少なくとも柵の手前までであれば山に入ることも禁じられてはいないし、仮に山間の警備に見つかっても特にお咎めを受けることはないだろう。
とは言え、やはり怪しまれないためにも誰の目にも付かないで行動するに越したことはない。
そしてそろそろと慎重に湿った地面を歩き続けていると、しばらくして前方に太い針金でできた高い柵が薄っすらとその姿を浮かび上がらせていた。

高い柵だ・・・菱形に編まれた針金の壁が実に3メートル近い高さまで聳え立ち、それが森の一帯を囲い込むようにずっと向こうまで伸びている。
事情を知らない者が見ればまるでこの柵の向こうに何か重要な軍事施設があったり、或いはとても公には出来ないようなキナ臭いことが行われているかのように感じるに違いない。
確かにドラゴンという生き物を完全に人々の目に触れさせないようにするにはこのくらいのことをしなければならないのだろうが、天然記念物だってこんな厳重な匿われ方はしないだろう。
それにこの延々と続く柵を建てるのにだって、相当な費用や人手が掛かっているはずだ。
文献を読んだだけでは今一つピンとは来なかったものの、俺は眼前に立ち塞がる不気味な柵を見て初めてドラゴンの保護という歴史の裏側に潜んでいるであろう闇の存在に意識を向け始めていた。

とは言え・・・ここまで来て手ぶらで帰るのも癪なことには変わりない。
見たところ柵の針金は太さ3ミリくらいはあるようで、掴んで攀じ登ることもできなくはないだろう。
他には特に人間の侵入を外部に知らせるような仕掛けも有りそうにないし、そうかと言って柵に電流が流れているわけでもなさそうだった。
まあ、中にいるドラゴン達の保護が目的なのだから、電流など流したりしたら逆に危険というものだろう。
だが一応は手近にあった枯れ枝を拾って柵に投げ付けてみると、カシャンという乾いた音が周囲に響き渡る。
「よし・・・問題はなさそうだ」
これからやろうとしていること自体が問題だということはさて置いて、俺はもう1度辺りに視線を巡らせてから網のように張られた柵を登り始めていた。

ガシャッ・・・ガシャッ・・・
きっと後になって冷静に考えてみれば、俺はこの時なんて馬鹿なことをしていたんだろうかと思うことだろう。
接触の禁じられた未知の生き物を探し出す・・・まあ、ここまではまだいい。
人間の好奇心などというものは、抑圧されればされる程より強固なものになっていくようにできているからだ。
厳重に禁止された行為を敢えて犯すこと程良心が咎めることはなく、またそれと同時に一種のスリルにも似た高揚感を得られることもないだろう。
だがそんな犯罪を犯してでも俺がドラゴンに会おうとしているのは、普通の人が聞けば如何にも嘲笑の的になりそうな程に馬鹿げた理由によるものなのだ。

ガチャッ・・・ガシャシャ・・・
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
重い荷物に荒い息を吐きながらも柵を登っていくと、やがて地面に突き立てられた支柱が力を失ったのかまるで不埒な侵入者を振り落とそうとするかのように柵全体がユラユラと前後に大きく揺れ動く。
だがやはりそれ以上のことが起きる様子はなく、俺は揺れが収まるのを待ってから柵の上端へと手を掛けていた。
所詮はこの高い柵も、虚仮威しでしかないのだろう。
これがもし不透明な壁か何かだったなら何とか向こう側を覗いてやろうと考える連中が多少いるかも知れないが、柵の向こう側が丸見えなのであれば敢えて柵を攀じ登ってまで中に入ろうとは考えないのが人間というものだ。
この俺のように、何かこの柵の向こう側に特別な目的を持った者でない限りは・・・だが。

「よっと・・・」
ドサッ
やがて柵の上を乗り越えて立ち入りを禁じられている向こう側にそっと飛び降りると、俺は少しずつ辺りに立ち込め始めた深い霧に紛れるようにして暗い森の中を慎重に歩き始めた。
ここからは、何時ドラゴンに出会っても不思議はない場所なのだ。
山に棲むドラゴンの目に果たして人間がどう映るのかは皆目わからないが、知能が高いということであれば余程の空腹ででもない限り突然襲われるというようなことはないだろう。
そして湿った茂みをそっと左右に掻き分けながら森の奥に向かって足を踏み入れていくと、しばらくして急勾配の山肌を削り取って作ったかのような大きな洞窟が眼前に幾つもその姿を現していた。
あそこに、ドラゴンが棲んでいるのだろうか・・・?
てっきりドラゴン達は他の獣と同じように森の中で暮らしているものだとばかり思っていたものの、どうやらこの森は彼らの住み処を覆い隠すための役割を果たしていただけに過ぎなかったらしい。
だがようやく目的の物を見つけられたという嬉しさに油断したのか、俺は1歩足を踏み出した拍子に足元に張っていた細い紐のようなものに躓いて無様に転んでしまっていた。

ピピー!ピピー!
"午前3時46分22秒、侵入警報発報!南西山岳部、標高618メートル第2居住区前にて反応あり"
突如として鳴り響いたけたたましい警報音と抑揚のない高音の機械音声が、山中の監視所に詰めていた数人の男達を浅い眠りから叩き起こしていた。
「何だ?どうかしたのか?」
「南西の第2居住区前にて、何者かがセンサーに掛かったようです」
「ドラゴンが掛かったのではないのか?」
訝しげに尋ねたその指揮官の言葉に、先程応対した男がすぐさま返事を返す。
「第2居住区には5つの洞窟がありますが、ドラゴンの反応は5匹とも全て洞窟内に確認できます」
「野生の獣の可能性は?」
「有り得なくはないですが・・・時間帯が時間帯なだけに確認を要するでしょう」
それを聞くと、指揮官は傍にあった無線を手に取って簡潔な命令を下していた。
「すぐに出動だ。場所は南西第2居住区前。現在のところ反応は1つだけだが、警戒は怠るな」
「了解!」
その数秒後、監視所に隣接した小さな詰所から武装した数人の男達が霧に包まれた森の中へと飛び出していった。

「い、いてて・・・」
転んだ先が柔らかい土だったお陰で特に大きな怪我はせずに済んだようだが、それでもあまりに突然の出来事に上手く受け身が取れなかったせいであちこち痛めてしまったらしい。
「全く・・・一体何だったんだ?」
だが不運な転倒の原因となったその足首に掛かっていた細い紐を目にした瞬間、俺は心中に湧き上ったある種の嫌な予感に胸の鼓動を早めていた。
もしかしてこれは・・・侵入者を感知するための仕掛けなのではないだろうか・・・?
森を囲む柵全体にそんな仕掛けを施すとしたら大変な労力を要するだろうが、ドラゴンが棲んでいる洞窟の付近にだけというのであれば大分話は変わってくる。
そして今正に、俺がその仕掛けに掛かってしまったのだ。

「まずいな・・・早く逃げないと、捕まっちまうぞ」
とは言ったものの、前方にあるのは大きな洞窟が5つ程連なった岩壁だ。
逃げるとしたら来た道を引き返すより他にないだろうが、真っ暗な上にこう霧が深くては無暗に走り回るのも危険というものだろう。
だが結論を出せずにあたふたと躊躇っている間に、背後から数人の人間達の気配が近付いて来るのが感じられる。
仕方ない・・・ここは取り敢えず、何処かの洞窟の中に身を潜めるとしよう。
もしかしたらドラゴンが中にいるかも知れないが、その時はその時だ。
俺はこのまま、ドラゴンの姿も見ないで捕まるのだけはどうしても避けたかったのだ。
やがてそう心に決めると、俺は新たな紐に掛かってしまわないよう足元に注意しながらそっと手近な洞窟の入口へと潜り込んでいった。

グゥ・・・・グゥゥ・・・
月明かりさえも届かない真っ暗な洞窟の奥から、何やら大きな寝息のようなものが聞こえてくる。
眠ってくれていたのは好都合というより他にないが、やはりここにドラゴンがいるのだろう。
流石にこんな闇の中で未知の生き物と顔を合わせるのには勇気が要ったものの、俺は徐々に騒がしくなり始めた外から離れるように更に奥へと身を滑り込ませていた。
シュルッ・・・
だが次の瞬間、突然体の周りに何か長い蛇が這い回ったかのような不気味な感触が走る。
「わっ・・・ぐ・・・ぅ・・・」
そして驚きとともに悲鳴を上げ掛けると、俺の口にその硬い鱗に覆われた何物かが素早く巻き付けられた。
「静かにしなさい・・・外の人間達に・・・捕まりたくはないんでしょう・・・?」
これは・・・ドラゴンの声・・・?
真っ暗な闇の中から聞こえてきたそんな場違いな程に透き通った声に、俺は相変わらずドキドキと心臓を暴れさせながらもそっと体の力を抜いていた。

やがて捕まえた人間がおとなしくなったことをその尻尾越しに感じ取ったのか、ドラゴンが俺の口に巻き付けていた尾の先端をそっと離してくれる。
「ド・・・ドラゴン・・・?」
「フフ・・・そうよ・・・あなた、私達に会いにきたんでしょう?」
「ど、どうしてわかるんだ?」
長らく人間との接触などないはずなのに、このドラゴンは何故俺が会いにきたということを知っているのだろう?
「あら、簡単なことじゃない。この辺りは普通の人間には入れないようになっているし、それに・・・」
「それに・・・?」
不意に妙なところで言葉を切ったそのドラゴンの様子に、訊き返す声にも不安の色が滲み出してしまう。
何しろ俺は一応口だけは利けるものの、体の方は依然としてドラゴンの太い尾に捕らわれてしまっているのだ。
完全な真っ暗闇の中で声の主の姿も見えぬというのに、冷静でいられる方がおかしいというものだろう。

「静かに・・・外の人間達に聞こえるわ」
だがドラゴンは一言そう言うと、月明かりに薄っすらと照らされている洞窟の外へと視線を向けたようだった。
その深い霧の立ち込める森の方角から、数人の男達の声が細々と聞こえてくる。
「ここだ・・・誰か見つけたか?」
「いや、足跡は幾つか残っているが、人の姿は見えない」
やはり、先程の紐に引っ掛かったのがまずかったのだろう。
このままここにいたら、何れにしても彼らに見つかってしまうに違いない。
「大丈夫よ・・・彼らは洞窟の中にまでは入ってこないから・・・しばらくじっとしていなさい」
「ほ、本当に・・・?」
まるで俺の心を読んだかのようなそのドラゴンの一言が、却って俺の不安を大きくしていった。
とは言え、屈強な尾に捕らえられた今となってはおとなしくこのドラゴンに従っていた方がいいだろう。
やがてそれからものの10分も経つ頃には、洞窟の外に感じられた男達の気配が跡形もなく消え去っていた。

「さぁ、行ったわ・・・もう大丈夫よ」
その声とともに、幾重にも体に巻き付けられていたドラゴンの尾がシュルシュルと解けていく。
果たしてようやくその拘束から解き放たれると、俺はドラゴンがいるであろう背後をゆっくりと振り向いた。
そこでは透き通った青色に輝くまるで蜥蜴や蛇を思わせるような切れ長の大きな瞳が2つ、俺よりもやや高い位置から真っ直ぐに俺の顔を見下ろしている。
これが・・・ドラゴン・・・?
まだ宙に漂う2つの瞳しか目にしていないというのに、俺はその生き物の巨大さをもう十分に理解していた。
眼前に佇んでいるであろう巨躯の全容はまるでわからないが、背にはきっと大きな一対の翼があり、そして驚く程に長くて太い尾が背後からスラリと伸びているのだろう。
そんな想像を膨らませていた俺の顔に疑問の表情が貼り付いていたのを見て取ったのか、不意にドラゴンがさっきの話の続きを唐突に切り出し始めていた。

「意外に思うかも知れないけれど、あなたのように深夜にこっそりと私達に会いにくる人間は割と多いのよ」
「一体、何のために・・・?」
俺がそう訊くと、ドラゴンの青い瞳がほんの少しだけ細められていた。
まるで、まだ見ぬその顔に微かな笑みを浮かべたかのように。
「そう言うあなたは、一体何の目的があってこんな夜中にこんな場所へきたのかしら?」
「う・・・そ、それはその・・・」
まさかドラゴンとその・・・交尾がしたかったなどとは口が裂けても言えず、俺は何と答えてよいかもわからないまま思わず返事に詰まってしまっていた。
だがそんな俺の様子に、ドラゴンが今度ははっきりとそれとわかるように笑い声を上げる。
「フフフ・・・顔を真っ赤にしちゃって、わかりやすい子ね・・・あなたは、これが目的だったんでしょう?」
クチュ・・・
突如として雌らしい艶を帯びたそんなドラゴンの声が聞こえたかと思った次の瞬間、何処からともなく響いてきた粘着質な液体の弾ける淫靡な水音が周囲の沈黙を破っていた。

それが何の音なのかを理解した途端に、俺は顔がボッと熱く火照ったのを感じていた。
「他にも・・・同じ目的の人がいたんだな・・・」
「ええ、もちろんよ・・・あなたも1度味わえば、きっと病み付きになるでしょうね」
「そ、そんなに・・・?」
そう言いながらも、胸に湧き上がった期待についゴクリと大きく息を呑んでしまう。
先程聞こえたクチュリという水の音・・・あれはきっと、ねっとりと細い糸を引く濃厚なドラゴンの愛液が深い深い肉洞の奥底で雄の到来を今か今かと待ち侘びている音だろう。
そのいやらしい想像に、俺の下半身は既に敏感過ぎる程の反応を示していた。

「ほら、どうしたの?折角ここまできたのに、まさか怖気付いちゃったのかしら?」
闇に浮かぶ青い瞳に見据えられながら動きを止めていた俺に、ドラゴンがそんな挑発の言葉を投げ掛けてくる。
「そんなことないよ・・・ただその・・・ちょっとだけ不安でさ・・・」
「心配しなくても、今夜のはただのお遊び・・・ここ最近はお呼びが掛からなかったから、丁度いい退屈凌ぎね」
「そ、そうか・・・」
促されるままに肯定の返事を漏らしながら、俺は頭の中から拭い去ることのできなかった疑問を反芻していた。
お呼びが掛からなかったというのは、一体どういう意味なのだろうか・・・?
それにこのドラゴンは、俺を探しにきた人間達が洞窟の中には入ってこないということを知っていたのだ。
明らかに、定期的に人間達と何らかの関わりを持っているかのような態度じゃないか。
だがその不穏な思考も、ドラゴンの声が聞こえるとあっという間に霧散してしまう。
「ほら、早く服を脱ぎなさい・・・お望みなら、力尽くで毟り取ってあげてもいいのよ」
「あ、ああ、待ってくれ」
それが目的できたのにもかかわらず何時の間にかドラゴンの方から交尾を要求されて、俺はしどろもどろに答えながらいそいそと服を脱ぎ始めていた。

「あら・・・フフフ・・・随分と美味しそうじゃないの・・・」
ややあって脱いだ服の下から顔を出した準備万端の怒張に、ドラゴンがジュルリと舌を舐めずる。
「これで、いいのか?」
そしてついに上も下も着ていた服をすっかり脱ぎ去ると、俺はドラゴンの大きな手に導かれるまま冷たい岩床の上へと裸の体をそっと横たえられていた。
そんな俺の股間へ、まずはドラゴンがゆっくりと口を近付けてくる。
大きく見開かれた2つの青い瞳に間近からペニスをじっと見つめられて何とも言いようのない恥ずかしさを覚えたものの、やがてジュルッという音とともに肉棒へ分厚い舌が乱暴に巻き付けられた。

「ふあっ・・・!」
突然ペニスへと塗り込められたその強烈な快感に息の漏れるような嬌声を上げた途端、たっぷりと潤ったドラゴンの舌から熱い唾液がジュワッと溢れ出してくる。
「あっ・・・は・・・あ・・・」
ジンジンと焼け付くような熱さとペニスが蕩けるような未曾有の快感に、俺は思わず反射的に体を起こしていた。
そんな俺の行動を見て取ったのか、ドラゴンが上目遣いに俺を見上げながらペニスをギュッと締め付ける。
「ああっ!か・・・き、気持ち・・・い・・・いいぃ・・・」
そのお仕置きにも似た激しい快楽責めに、俺は起こしかけていた体を再び岩床の上に倒れ込ませていた。
ドラゴンの舌はなおもペニスを締め上げながら、ザラザラとした感触を敏感な肉棒に容赦なく擦り付けていく。

「だ、だめだ・・・はぐっ・・・も、もうだめ・・・ぇ・・・」
だがやがて極上の舌責めに思う存分よがり狂わされると、ドラゴンが唐突にペニスから舌を離していた。
更には寸止めの憂き目にヒクヒクと戦慄いていた憐れな雄の象徴をたっぷりと焦らした挙げ句に、ドラゴンが大きな舌を一杯に使ってペニスを根元からゆっくりと時間を掛けて舐め上げていく。
ジョリ・・・ジョリジョリジョリ・・・
「あ・・・ああ〜〜〜〜〜〜!!」
そして反り上がった分厚い舌の先端が限界ギリギリのカリ首をチュルッと駆け上がった次の瞬間、俺はついに限界を迎えて真っ暗な虚空へと盛大な白濁の飛沫を上げてしまっていた。

ビュッビュビュッ・・・ビュルル・・・
「は・・・あ・・・あぁ・・・」
「フフフ・・・どうだったかしら・・・?」
股間や腹の上に飛び散った精をペロペロと舐め取りながら、ドラゴンがうっとりとした声でそう囁き掛けてくる。
だが想像を超えたあまりの快感に、俺はただただ興奮に荒い息を吐きながらブルブルと体を震わせていた。
ショリッ
「はうっ!」
やがて射精の余韻に浸っていたペニスを再び舐め上げられると、その刺激が俺の意識を現実へと引き戻す。
「ねぇ・・・どんな気分だったの?」
「あ・・・う・・・き、気持ち良かった・・・」
そしてグッタリと手足を投げ出したままそう答えると、俺を見つめるドラゴンの眼が嬉しそうに輝いていた。

「じゃあ・・・こっちも味わってみたいでしょう?」
ヌチュ・・・
そう言いながら、ドラゴンがまたしても俺に聞こえるように股間から淫らな水音を響かせる。
あの分厚い大きな舌でしゃぶられただけでもこれ程までに気持ちが良いというのに、もしドラゴンの中に入れられたら一体どうなってしまうのだろうか・・・?
そんな期待と不安を孕んだ想像が、一時は萎え掛けていた俺の雄槍を再び奮い立たせていった。
「あ、ああ・・・味わって・・・みたい・・・」
俺はもう、すっかりこのドラゴンの虜になってしまったのだろう。
やがてドラゴンから投げ掛けられた問いにまるで操られるように答えを返してしまうと、その返事に満足したのかそのまだ見ぬ巨体がのそりと俺に覆い被さってきていた。

「フフフフ・・・いい子ね・・・大丈夫、ちゃんと手加減してあげるわ」
そして俺の両手を地面の上に押し付けながら、ドラゴンがそっと俺のペニスに向けて腰を落とす。
ニュル・・・ズブ・・・グブグブ・・・
「くは・・・あ・・・ついぃ・・・」
先程味わった唾液とはまた違う濃い粘り気のある愛液が、膣口に触れた肉棒にたっぷりと塗り付けられていた。
そのいやらしい粘液もまた、火傷してしまうのではないかと心配になる程の熱さを保っている。
やがてペニスがまるで吸い込まれるように根元まで一気に呑み込まれてしまうと、俺は思わず両手を押さえ付けられているのも忘れて思い切り背筋を反り返らせていた。
「はぁっ・・・こ、これ・・・は・・・くぅぅ・・・」
熱く蕩けたこの上も無く柔らかい肉の海で、肉棒がこれでもかとばかりに舐め回されていく。
蠕動にも似た大きな膣のうねりと小刻みな肉襞のバイブレーションからなる究極の合わせ技に、俺は成す術も無く絶頂の高みへと押し上げられていった。

「それじゃあ・・・そろそろ搾ってもいいかしら・・・?」
「あ・・・ま、待って・・・もう少しだけ・・・このままで・・・」
「いいわよ・・・フフフ・・・たっぷりと楽しみなさい・・・」
ただでさえ我慢も限界だというのに、これ以上新たな刺激を加えられたらとても耐えることなどできそうにない。
だがドラゴンの方は、これでもまだ入れただけくらいにしか考えていないのだろう。
ニュリュッ・・・ジュルル・・・
「く・・・あぁ・・・」
快感に耐えられずに下手に腰を動かそうものなら、それだけでも出してしまいそうだ。
俺もドラゴンもお互いに全く腰を動かしてはいないというのに、ゆっくりと流れるように蠢く肉襞の責めだけでジワジワと追い詰められてしまう。
そしてこれ以上は射精を我慢できそうになくなると、俺は掠れた声でドラゴンにとどめを懇願していた。
「い、いいよ・・・もう・・・あはぁ・・・」
そんな俺の屈服の声に、ペニスを捕らえていた膣が突然キュッと小さく収縮する。
その瞬間まるで強く引っ張られたかのようにペニスが膣の更に奥深くまで吸い込まれると、一斉に襲い掛かってきた無数の熱い肉襞と柔突起の群れが捧げられた雄に容赦無く食らい付いていた。

グッチュ・・・ジュブッ・・・ジュブジュブジュブ・・・
「ひっ・・・ひいぃ・・・」
凄まじい圧搾と執拗な愛撫に翻弄されて、張り詰めていたペニスが一瞬にして2度目の白濁を噴き上げる。
だが射精中だというのにもかかわらずなおも激しい躍動にペニスを扱き上げられて、俺は必死に首を左右に振りながら次々と吸い上げられる精の奔流に悶え狂っていた。
「はぐっ・・・う、うあああぁ〜〜!」
こんなの・・・到底人間が受け止められるような快感じゃない・・・
やがて射精の勢いが衰えた肉棒を無数の肉の花弁に根元から思い切りしゃぶり尽くされると、辛うじて精巣の奥底に残っていた最後の1滴が容赦なく搾り取られてしまう。
グギュゥ・・・
「か・・・は・・・」
そしてそんな雄として完膚なきまでの敗北を喫すると、俺はそのままクタッと意識を失ってしまっていた。

「あら・・・これでも大分手加減したつもりだったんだけど・・・情けないのね・・・」
肺の中の息を残らず吐き出してしまったかのようなか細い呻きとともに気絶した人間を見下ろしながら、私は膣の中に咥え込んでいた彼の肉棒をようやく放してやっていた。
ややあって、ジュボッという鈍い音ともに私の熱い愛液で蕩かされてしまった小さな雄が外へと吐き出される。
「フフ・・・でも約束通り、今日のところはこのくらいにしておいてあげるわ・・・」
そして大量の精と愛液で汚れてしまった彼の体を隅々まで綺麗に舐め清めると、私は地面に蹲ったまま裸の人間が寒がらないようにとその小さな体をそっと抱き抱えてやった。
朝になれば、きっと彼も私の懐で目を覚ますことだろう。
やがて疲れ切った表情を浮かべてスースーと静かな寝息を立てている人間の顔をしばらくじっと見つめると、私はフフッと満足げに鼻息を漏らして自らも深い眠りに落ちていった。

凄く暖かい・・・あれ?そう言えば俺、一体どうしたんだっけ・・・?
ポカポカとした温もりの中で取り戻した意識が、ほんの数時間前のおぼろげな記憶をフラフラと辿っていく。
そしてしばらくしてその記憶の一端にドラゴンの存在が姿を現すと、俺は思わずガバッと飛び起きていた。
そんな俺の眼前で、見覚えのある2つの青い瞳を湛えた大きなドラゴンが楽しげに微笑んでいる。
だが俺は明るい朝日の下で初めてドラゴンの全容を目の当たりにして、思わず息を詰まらせてしまっていた。
「あっ・・・あう・・・」
尻尾も、体も、それに背から広げられた翼までもが、想像以上に大きいのだ。
それに口の端から生えている牙や手足の爪が誇る鋭さといったら、まるで研ぎ澄まされた刃のようですらある。
その上全身を覆った真っ赤な鱗は宛ら鋼のように艶やかな光沢を保っていて、俺はそれが紛れもなく天敵のいない完成された猛獣の姿であることを思い知らされていた。
夜の内に既に彼女と熱い一夜を共にしていたお陰で俺は何とか平静さを保てたものの、もし何も知らずにいきなりこんな巨竜に抱き抱えられていたとしたらきっと猛烈な恐怖感を覚えたに違いない。

「フフフフ・・・お目覚めかしら・・・?」
「あ、ああ・・・す、凄く・・・よかったよ・・・」
それでも巨大なドラゴンに裸の体を抱えられているという状況で声が震えてしまったらしく、俺はドラゴンの問いに恐る恐るそう返事を返していた。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃないの。大丈夫よ、襲ったりなんてしないから」
「も、もちろんわかってるさ」
人間の俺からしてみれば昨夜の出来事は間違いなくこのドラゴンに襲われたようなものなのだが、あれ程までに激しかった行為もやはり彼女にしてみればただのお遊びという感覚らしい。
まあ、あんなに気持ち良かったのだからこの際細かいことには目を瞑るとしよう。

「それじゃあ、早く服を着なさい。山の朝はとても冷え込むんだから」
だがその割にはちっとも寒さを感じなかったのは、きっと彼女が夜通し俺を温めてくれていたからなのだろう。
やがてドラゴンから言われるがままに地面へと脱いであった服を素早く着込むと、俺はすっかり明るくなった洞窟の外を見ながら帰り仕度を始めていた。
「その・・・また、ここに来てもいいかな・・・?」
「フフフ・・・言った通り、あなたももう私の虜ね・・・ええ、もちろんよ。何時でも歓迎するわ」
そう言いながら、ドラゴンがその顔に巨体に似合わぬ雌らしい笑みを浮かべる。
そしてそんなドラゴンの返事に満足すると、俺は軽快な足取りでドラゴンの洞窟から出ていった。

「さてと・・・どうやって帰ろうかな・・・」
ここへきた時は夜の闇が俺の姿を晦ましてくれたが、今は燦々と輝く太陽の光が辺りに降り注いでいる。
1度は侵入者を感知する仕掛けに掛かってしまったこともあり、少なくともあの柵を乗り越えるまでは慎重に立ち回らなければならないだろう。
もし誰かに見つかって捕まったとしても大して重い刑罰が与えられることはないと思うが、それよりも何よりもまたあのドラゴンに会いにいくのが困難になることの方が俺には耐えられなかった。
あのドラゴンの言う通り完全に彼女の虜になってしまったことが何処か悔しい気もしたが、確かにあんな体験は平凡に街で暮らしている限り絶対に味わうことなどできないに違いない。
そしてそんなことをあれこれ考えながら足音を殺して森の中を歩いていると、やがて俺のずっと前方にその平凡な世界とこの未知の世界を隔てている高い柵が見えてきていた。

よし・・・もう一息だ・・・
だが終着点が見えたことで些かの安堵を覚えた俺の耳に、不意に背後から鋭い声が突き刺さる。
「そこまでだ!止まれ!」
「え・・・?」
そんなあまりにも突然の出来事に驚いて咄嗟に背後を振り向いてみると、俺の眼前で5、6人の黒いレンジャー服を着た男達がこちらに向けて銃を構えていた。
恐らく、昨日の夜に俺を探しにきた連中だろう。
「貴様、民間人だな?ここが立入禁止区域であることを知らんわけではなかろうに、中で何をしていたのだ?」
「い、いや・・・俺は別に・・・」
そしてまたしても本当のことを告げられぬその質問に狼狽していると、やがて指揮官らしきその男が腰に身に着けていた重厚な手錠を取り出して俺に見せ付けてきた。

「フン、答えられんか・・・まあいい・・・貴様には、後でゆっくりと尋問を受けてもらうとしよう」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ・・・俺は精々ただの不法侵入だろ?何もそんなに脅さなくたって・・・」
「勘違いしているようだが、ここは国有地や私有地ではない。軍用地なのだ。当然、侵入には相応の罰則がある」
ぐ、軍用地だって・・・?一体、この男は何を言っているんだ?
ここは、単に個体数の少なくなったドラゴン達を保護するための隔離地域じゃないっていうのか?
「そんなこと・・・聞いたこともないぞ」
「だろうな・・・妙な噂を流されたりしても困るから、一般の国民には事実が伏せられているのだ」
そしてそう言うと、男がゆっくりと俺の方に向かって歩を進めてくる。

「とにかく、我々と一緒に来てもらおう。心配せずとも、それ程辛い尋問をするつもりはない」
「ほ、本当に・・・?」
「我々はただ単に、貴様の侵入の目的が知りたいだけだからな・・・」
裏に何か別の意図が隠されているのではないかと思えるような何処か含みのある言い方が気にはなったものの、俺はおとなしく投降しようと両手を上げてその場に跪いていた。
どうせ逃げ回ったところで周囲は全て高い柵に囲まれてしまっているし、柵を登っている間に銃を突き付けられてしまえばそれまでのこと。
軍用地への侵入に対する罰則が一体どんな物なのかについては俺には皆目わからないが、仮にも何も知らない民間人相手に軍がそれ程酷い刑罰を下すとは考えにくかった。

数人の男達に連れられて薄暗い森の中を少し歩いていくと、やがて目的地と見える小さな建物が見えてきた。
一切の装飾を取り払った外観と木々に埋もれるような低い天井の作りが、いかにも軍の拵えた施設という趣を醸し出している。
きっと柵で囲まれた区画のそれぞれにこういう建物があって、日々侵入者の有無をチェックしているのだろう。
やがて飾り気のない入口から建物の中に入ると、俺はそのまま真っ直ぐに尋問室と思しき部屋へと通されていた。
「しばらくここで待っていろ」
「あ、ああ・・・わかった」
そしてその返事に満足した付き添いの男が部屋を出ていくと、狭い密室の中に独りポツンと取り残されてしまう。
まあ、おとなしく従ったお陰で手錠を嵌めるのは勘弁してくれたくらいなのだから、言いにくいことさえ言ってしまえば尋問はすぐにでも終わることだろう。
だがしばらくしていよいよ尋問官と思しき1人の男が部屋に入ってくると、俺は胸を締め付けられるような緊張にブルッと小さく身を震わせていた。

「さて、と・・・」
やがてそんな野太い声を漏らしながら、見たところ中年を迎えていそうな体格のよい男が何処かゆったりとした動作で俺の向かいに設けられていた席へと腰掛ける。
そしてどういう態度を取っていいかわからずに縮込まっていた俺をジロリと一瞥すると、彼はおもむろに胸の内ポケットから太い葉巻を取り出していた。
「まあそう硬くなるな。お前が協力的なら、すぐにでも終わることだからな」
そう言いながら咥えた葉巻に火を点ける様は、随分と階級の高い軍人の佇まいのようにも見える。
「先に言っておくが、お前の処分をどうするか決めるのは我々ではなく、街にあるちゃんとした法的機関だ」
「法的・・・機関?」
「平たく言えば裁判所さ。ただし一般の訴訟ではなく、こういった軍事関係の裁判に使われる特別なものだがな」
まだ何も訊かない内からそんなことを言い出すということは、本当に彼らはこの尋問で得た俺の言い分で俺をどうこうするつもりはないのだろう。

「我々がお前に確認したいのはたったの2つ。1つは、何の目的でこの禁止区域に入ったかということだ」
「それは・・・」
「尤も、大体の想像はつくがな・・・これまでにも何十人と侵入者を捕まえてきたが、大半は同じ答えだった」
まあ確かに、ドラゴンを隔離・保護する名目で設けられたこの禁止区域にわざわざ人目を盗んで足を踏み入れる連中の目的なんて、最初から決まっているようなものだ。
金品以外の目的で金庫破りをする泥棒がいないのと同じく、ドラゴンが目的でない侵入者などいないのだろう。
そして問題はドラゴンに会ってどうしたか、何をするつもりだったのかということなのだが、以前に捕まった大勢の侵入者達はどうやらその具体的な目的の部分までもが俺と同じだったらしかった。
「だからこの際はっきり訊くが、お前の目的はドラゴンと姦淫することだろう?」
「う・・・そ、その通りです」
もし誰かがこのやり取りを傍で聞いていたとしたら、きっと物凄く奇妙なやり取りに映ったに違いない。
だが彼はそんな俺の返事を聞いても特に表情を変えることはなく、淡々と話の先を続けていた。

「満足したか?」
「え?・・・いや・・・その・・・はい・・・」
あれ程の経験ができるのなら、過去の人々がドラゴンのもとへ足繁く通った理由にも納得がいくというものだ。
今のようにドラゴンとの接触が条例で禁じられてさえいなければ、俺だってきっと毎日のようにドラゴンに会いにくることだろう。
「フン・・・こう訊けば大抵の連中は必死で否定していたものだが、お前は素直な奴だな」
そう言った彼が、何時の間にかその顔に微かな笑みを浮かべている。
「尋問はこれで終わりだ。だが、裁判までは街の拘置所に入っていてもらうぞ。条例への違反は違反だからな」
「あの・・・もう1つの確認したいことって・・・」
「ん?お前の目的が達成されたかどうかということだ。十分に満足できたんだろう?」
ああ・・・そういうことか・・・

「時間がないから、後のことは拘置所で聞くがいい。恐らくは、お前と同じような連中が大勢いるだろうからな」
やがて彼はそう言いながらそっと席を立つと、入って来た時とは逆に少し早足で部屋を出ていった。
本当に、今ので尋問が終わったのだろうか?
尋問というからにはもっときつい迫られ方をしたり答えにくいことを幾つも訊かれることを覚悟していただけに、予想以上にあっさりと終わってしまったことで拍子抜けしたと同時に何だか少し不安になってしまう。
ここへ侵入した目的を訊かれるのはわかるし、その目的が達成されたかどうかを確認するのも当然のことだろう。
だがたったそれだけの確認に、一体どれ程の意味があるというのだろうか?
第一、軍事裁判なんて普通は軍の関係者が掛けられるもので、そこで有罪になるということは即ち戦犯になることを意味している。
そして通常の刑罰では死刑を除けば罰金や禁錮年数の多寡くらいしか問題にはならないのだが、この国では戦犯の処遇については全て軍の裁量に委ねられることになっていた。
「俺・・・一体どうなっちまうのかな・・・」
再び部屋の中に取り残されてしまったという孤独感からか、ふとそんな力無い声が口から漏れてしまう。
色々と想像を巡らせる内に何だか思ったよりも深刻な状況の中に置かれていることに気が付いて、俺は迎えがくるまでのしばらくの間暗澹とした気分で独り頭を抱えていた。

それから5分後、俺はまたしても数人の男達に付き添われて監視所から連れ出されていた。
よく見れば監視所の傍の柵に開閉式の出口が備え付けられていて、簡単な南京錠のようなもので施錠されている。
彼らは、ここから柵の内外を出入りしているのだろう。
やがてその出口から柵の外に出ると、俺はそのまま街の拘置所まで連行されることになった。
俺には妻も子供もいないし両親も数年前に病気で他界しているから今更家族の心配をする必要はないのだが、それでもしばらくはこんな日常の光景も見られなくなるのだと思うとやはり陰鬱な気分になってしまうものだ。
そしていよいよ道の向こうに件の拘置所らしき厳めしい建物が見えてくると、キリキリと締め上げられるかのような鋭い緊張感が胸の内に漲ってくる。

「ここが拘置所だ。まあまだお前の罪状も確定していないことだし、それ程酷い扱いは受けないから安心しろ」
付き添いの男達はそう言うものの、改めて間近から見上げるとかなり大きな建物らしい。
それだけでも俺にとっては随分な圧迫感があるというのに、その上ここに収容されているのは全員が軍事裁判に掛けられるような人々ばかりなのだ。
彼らが言うにはそのほとんどが俺と同じくドラゴンと性交するために禁止区域への侵入を試みた者達らしいが、それにしたって社会的に犯罪者と目される連中と同じ場所にいるのは気分的にも落ち着かない。
まあ、他の人々にしてみれば俺もそんな犯罪者の1人でしかないのだろうが・・・
だが入所してから1時間余りにも及んだ大量の書類のやり取りや簡単な審問を終えた頃には、俺は何だかグッタリと気疲れをしてしまったお陰で早く独房で休みたいなどと考えていた。

ガラララッ・・・
「さあ、早く中に入れ。食事は日に3度、普段に比べれば量は少ないだろうが、そのくらいは我慢しろ」
やがて薄暗い独房の扉が開けられると、俺は看守に言われるまでもなく自分からその檻の中へと入っていった。
食事について何やら注意事項を話しているようだが、今はとにかく体を休めたかったのだ。
昨夜はドラゴンとあんなに激しい行為に及んで気絶させられた上に、今日は今日でほとんど1日中移動と緊張の連続に自分でも随分と消耗してしまっている実感がある。
審問の間にいくつか情報を訊いてみたところでは、俺の裁判は3日後の午後だそうだ。
1人当たり約3〜40分程度の短い略式裁判で、日によって10人から15人くらいの人々が判決を言い渡されるという。
要するにこれは通常の裁判のような有罪か無罪かを問う性質のものではなく、まずは有罪ありきの考え方でその罪状を確認し、刑の重さを決めるためのものらしかった。
「・・・以上だ。まあ、今日はゆっくり休んで疲れを癒やすといい。明日からは、退屈な日々になるだろうがな」
俺がボーッとした頭で考え事をしている間に何事かを喋り続けていたのか、やがて看守が少しばかり現実に戻ってきた俺の意識にそんな言葉を投げ掛けて独房から離れていってしまう。

「え・・・え・・・?今、何て言ってたんだ?」
だが何か重要な説明でも聞き逃したのかと思って慌てて壁に凭れさせていた体を起こすと、不意に背後から他の男の声が聞こえてきていた。
「なぁに、便所とベッドの使い方を注意していただけさ。聞き流したって問題のねぇこったよ」
「だ、誰だい?」
「お前のお隣さんさ。俺も、お前と同じくドラゴンに会いにいこうとして捕まったクチでな」
一見すると硬くて丈夫な煉瓦でできているように見える独房の壁も、大勢の人々を拘置できるようにという工夫からかかなり薄く作られているらしい。
そのお陰でか、隣の独房で俺と背中を合わせるようにして座っているのであろう中年風のいかにも野蛮そうな男の声が意外な程にこちらまでよく聞こえてくる。

「俺と同じくって・・・どうして俺がドラゴンに会いにいっただなんてわかるんだ?」
「看守どもの態度さ。あいつらは、ドラゴンの棲む禁止区域で捕まった連中には割と優しいことで有名なのさ」
確かにそう言われれば、監視所から俺をここまで連れてきた男も言っていたように、彼らにはあまり人権的に酷い扱いは受けなかったような気がする。
「その理由を・・・知ってるのか?」
「俺達は何れ裁判で戦犯になる身だからな。そうなれば軍の奴隷みたいなもんだし、今だけ愛想がいいんだろ」
戦犯は軍の奴隷か・・・確かに、そういう言い方が1番正しいのかも知れない。
「そうなったら・・・俺達一体どうなるんだろうな・・・」
「ヘヘヘヘ・・・そんなに知りたいんなら、教えてやってもいいんだぜ?」
「え・・・?」
流れに任せて彼と意識を共有しかけた途端に聞こえてきた予想外の返答に、俺は思わずぽっかりと開けた口からそんな呆けた声を漏らしてしまっていた。

「これからどうなるか・・・あんたは知ってるってのか?」
「知ってるとも。と・・・それを教える前に1つ聞いておくが・・・お前、実際にドラゴンとはヤッたのか?」
「あ、ああ・・・まあな・・・」
そう正直に答えるのには自分でも相当な羞恥心が伴ったものなのだが、どうやらあの尋問官に続いて彼にもそんなことは至極当然のことのように受け入れられたらしい。
「だったら、多分お前は民間人によるドラゴンへの無断接触と姦淫の罪でBC級戦犯に認定されるはずだ」
「立入禁止区域への不法侵入の罪じゃないのか?それに、どうしてドラゴンとの接触が戦犯になるんだ?」
どうにも想像とは違う話の展開に、俺は思わず彼にそう訊ねていた。
「昔からこの国は、他国との領土争いが絶えなかった。まあ領土争いと言えば穏やかだが、要は戦争中なのさ」
「そんなことは知ってるよ・・・それで?」
「そこである時、軍の連中は山に棲む大勢のドラゴン達を軍事利用することを思い付いたのさ」
ドラゴンを軍事利用するだって・・・?
確かにあんな恐ろしい存在を味方に付けられたとしたらこれ程頼もしいことはないだろうが、彼らだって人間と同等かそれ以上の高度な知能を持つ存在なのだ。
そんなドラゴン達が、自分より知恵も力も劣る人間の命令を素直に聞くなどとは到底思えない。

「つまり軍の奴らにしてみれば、ドラゴン達は強力な兵器であると同時に貴重な財産の1つなんだよ」
「だから民間人のドラゴンへの無断接触は戦争法規に照らし合わせて有罪、か・・・妙なシステムだな」
だが俺がそう言うと、壁の向こうからでもそれとわかる彼の含み笑いの気配が俺の背中を叩いていた。
「でも山への侵入はあくまで条例で禁じられているだけで、法律では禁じられていないんだ。何故かわかるか?」
「・・・罰則を設ける必要がないからか?」
「罰則はもちろん規定されてるさ。軽い罰金とかな・・・その理由は、国が取り締まらなくても問題ないことだ」
次々と壁越しに聞こえてくる彼の言葉が、俺の中で蟠っていた様々な疑問を少しずつ解き解していく。
彼の言う通り、この国では法律とは違って条例に関してはそれを守らせるための強制力を配置する必要がない。
だからあんな風に簡単な柵だけ建てておいて、肝心の侵入を食い止める役目を持つ人間は1人もいないのだ。
「でもそれじゃあ、その気になれば誰だって立入禁止区域に侵入し放題ってことじゃないか」
「そうさ。そしてわざわざ、侵入者が柵の中に入ってから捕まえるわけだ。戦犯を1人でも多く出すためにな」
一見すると極論にも聞こえる彼のその言葉も、いざ自分がその立場になってみると驚く程素直に受け入れられた。

「で・・・肝心の戦犯に認定された連中がどうなるのかって話だ」
「ど、どうなるんだ?」
不意にトーンが落ちたその声に微かな不安を抱きながらも、つい先を聞きたくて彼を急かしてしまう。
「さっきドラゴンを軍事利用すると言ったが、何の見返りも無く奴らが人間の言うことを聞くわけがないだろ?」
「ああ・・・」
「だからドラゴン達に協力してもらう代わりに、軍は彼らに生贄を捧げることにしたのさ」
その瞬間、俺は背中に嫌な予感を纏った冷たい汗が滑り落ちていくのを感じていた。
「ま、まさか・・・俺達がその・・・生贄に・・・?」
「まあ、そんなところだ。恐らくは有罪になった奴全員が、俺達と同じ運命を辿ることだろうよ」
ドラゴンへの生贄・・・以前行きつけの図書館でドラゴンについて調べていた時に本で読んだことがある。
人里離れた寒村などの傍に凶暴なドラゴンが棲んでいた場合に稀に見られた風習で、村をドラゴンの脅威から守るために定期的にドラゴンへ若い娘を人身御供として差し出していたのだという。
そしてドラゴンに供された不運な娘達は大抵の場合抵抗も許されぬまま徹底的に嬲り尽くされ、最後には無残にもドラゴンに食い殺されてしまう場合がほとんどだったというのだ。

「そんな・・・俺が・・・ドラゴンの生贄に・・・」
「まあそう深刻に考えるなよ。生贄とは言っても、俺達に課せられる刑はドラゴンとともに3日間過ごすことだ」
え・・・?
「まあその間ドラゴンから何をされようとも、軍は一切関知してはくれんがな。ただ、大抵は生きて出られる」
「本当か・・・?」
「ああ・・・俺が保証するとも。おっと、もう寝る時間だな・・・お前も、精々いい夢を見ろよ」
やがて彼は何を慌てているのか矢継ぎ早にそう捲くし立てると、ロクに俺の返事も聞かないうちにさっさと眠りについてしまったようだった。
仕方ない・・・俺も、今日はもう眠るとしよう。
だが彼から聞いた話が幾度となく頭の中で蘇り、俺はそれからもしばらくは眠りにつくことができなかった。

「早く起きろ、お前の番だぞ」
翌朝、俺はそんな看守の声で眠りから目を覚ましていた。
だが辺りを見回しても天井近くに取り付けられた小さな窓から眩い朝日が差し込んでいることを除いては、独房の中は昨夜と同じく何処か寂しい沈黙を保っている。
「ああ、わかったよ。今行くって・・・」
そして別の男の声がその呼び掛けに応じたのを聞き取ると、俺はようやくそれが隣の独房から聞こえてきた声だったのだと理解していた。
あの声は恐らく、昨日俺と話していた男だろう。
そうか・・・彼が昨日の夜慌てて眠りについていたのは、今日の朝が裁判の時間だったからなんだな。
彼にはもう少し他にも聞きたいことがあったのだが、ここはあくまでも裁判を待つ人々の収容施設なのだ。
裁判が終わったら、彼もまた何処か別の施設へと移されてしまうのに違いない。

「ふう・・・俺は明後日か・・・」
ドラゴンへの生贄というものが果たして実際にどういうものなのか、本で得た昔の知識しか持ち合わせていないのが逆に不安の種になってしまっている。
3日間もあの巨大な猛獣とともに暮らす・・・
以前に会った彼女のようなドラゴンならそれも決して不可能なことではないような気がするが、人間に使役されるための交換条件ということであれば俺達には相応の境遇が待ち構えているということだろう。
それにしても・・・あの男はどうしてこれから俺達がどうなるのかを詳しく知っていたのだろうか・・・?
もしかしたら軍の連中に捕まった時にそのことを尋問官へ訊ねてみたのかも知れないが、彼らがそんなことまで事細かに教えてくれるとはどうしても思えなかったのだ。

ただただ日に3度の食事を摂るだけの退屈な2日間は、無理矢理に眠りにつくことで何とか過ぎていった。
どうせあれこれ考えていたって、自分で納得のいくまともな結論など出るはずもない。
やがて3日目の昼過ぎになると、ようやく俺を裁判へ呼び出しに2人の看守が独房へとやってきた。
「待たせたな。お前の番だ」
「あ、ああ・・・」
そして久し振りに孤独な独房から抜け出すと、長らく鈍らせていた体を解すように大きく伸びをする。
そんなふてぶてしささえ感じられるであろう俺の行動を、2人の看守が特に文句を言うこともなく見守っていた。
ここから裁判の開かれる会場までは少し外を歩かなければならないらしいが、数日間ロクに運動もしていないこんな体ではそれも随分な苦行に感じられることだろう。

目的地である軍事裁判所は、拘置所のすぐ傍にあまり目立たぬように建てられていた。
独房で話を聞いたあの男の言葉を借りて表現するならば、ここは正しく戦犯の人間を量産するために作られたある種の軍事施設と言える。
これまでにも数え切れぬ程多くの人々がこの道を歩き、そして裁判へと掛けられていったのだ。
だがいざ裁判の会場に入ってみるとそこは想像していたような大仰な広間などではなく、何処か威圧感のあるただの窓の無い横長の部屋になっていた。
そこに大きな長机が並べられていて、裁判官を務めていると思しき軍服を着た人達が5人程座っている。
その光景を一言で表現するとしたならば、正に圧迫面接そのものといったところだろう。
そして彼らの正面に据えられた裸椅子に座らされると、いよいよ俺を戦犯に仕立て上げるための裁判が始まった。

住所氏名を名乗るという形式的な開始の儀式が終わるとともに、5対1の苦しい質問責めが続く。
尤もその苦しさは俺の犯した行為を責められているという感覚からくるものよりも、内容が内容だけに答えにくい質問が多かったことの方が大きな理由だった。
とは言え、結論がわかっている裁判以上に滑稽な茶番はない。
やがて数十分の質疑応答を終えた頃には、俺に下される判決が彼らの手によってその場で書き上げられていた。
「では、判決を下す・・・」
"軍法条例で禁止されているドラゴンへの無断接触及び姦淫行為により、被告をBC級戦犯に認定する"
その結果は・・・独房であの男が言った通りのものだった。

「俺・・・この後どうなるんだ?」
裁判が終わって次の目的地へと連行される途中で、俺は傍に付き添っている看守にポツリとそう訊ねてみた。
彼らは裁判の終わった人間を、無事に次の移送先まで護送するのが仕事なのだそうだ。
看守というよりは寧ろ、ただの監視兼付添人というような立場なのだろう。
「お前はこれから山中にある別の収容施設に入るんだ。そこで、刑の内容について説明を受けることになる」
「一体どんな刑なんだ?」
彼は感情を表に出さないようにしているのか終始無表情を保っていたものの、その俺の質問にほんの少しだけ暗い面持ちを見せたところを見ると恐らくは知っているのに違いない。
そして答えをせがむような俺の気配に屈したのか、彼がおずおずと話を切り出していた。
「この国は今、戦時下だからな・・・他国に対する武力として、ドラゴンの存在は欠かせないものになっている」
「ドラゴンが他の国の人間達と戦うのか?」
「そうだ。彼らがその気になれば、人間なんて10人が束になってもとても敵わないだろう」
まあ確かに、ただでさえ見上げるような巨体の上に恐ろしく鋭い牙と爪を持っているのだ。
鋼のように硬い彼らの鱗の前では銃器だって大した役には立たないだろうし、普通の人間なんてあの大きな眼にギロリと睨み付けられただけで金縛りに掛かってしまってもおかしくない。
そんなドラゴン達を武力として活用することができれば、この上もない戦果を上げられるのは当然のことだろう。

「そのドラゴン達に協力してもらうために、軍は彼らとある契約を結んだのさ」
「契約って・・・生贄か?」
「ああ・・・まあ生贄とは言っても、命まで取られることはないよ。実際、ほとんどは無事に釈放されてるしな」
ほとんどはっていうことは・・・何人かは無事ではなかったということなのだろうか?
そんな俺の訝しげな視線を感じ取ったのか、彼が慌てて訂正の言葉を口にする。
「犠牲が出たのは最初の頃だけだよ。雄のドラゴンの生贄にされた娘が、不運にも食い殺されちまったのさ」
「今はそんなことはないのか?」
「だから今は、雌のドラゴンとしか契約していない。彼女らは、人間を捕食することなんてまずないからな」
成る程・・・取り敢えず、俺は死刑紛いの重い刑罰に処されるという程のものでもないらしい。
だが、果たして彼はそんなことを俺に話してもよかったのだろうか?
普通なら、仮にも罪人である俺に国を挙げて隠蔽している裏事情を話すことなど禁じられているはずだ。

「わかったよ、色々ありがとう。でも、俺にそんなことを話してあんたは大丈夫なのか?」
「平気さ。考えてもみな。うちと争ってる国々は、皆ドラゴンが戦争に駆り出されてることを知っているんだぞ」
それを聞いただけで、俺は彼が何を言いたいのかがわかった。
他国ですら知っている事情が、自国の国民にだけ知らされていない今の状況が既に異常なのだ。
まあ戦争など日常の蚊帳の外と思って暮らしている人々には確かに知らせなくてもいい事実かも知れないが、戦犯としてその奇妙な国策の当事者となった俺には知る権利があるということなのだろう。
「だからお前は、ただ黙ってお勤めを果たしてくればいいのさ。何、たった3日間の我慢じゃないか」
「そ、そうだな・・・そうするよ」

何時の間にか親しげに口を利いてくれるようになった看守とそんな話をしながらしばらく歩いていくと、俺はやがて数日前に忍び込んだあの禁止区域に通じる柵の前へと辿り着いていた。
そして街へいく時にも通った記憶のある柵の入口を潜り抜け、簡単な尋問を受けた例の建物へと再び通される。
「今日はもう遅いから、奥の独房で寝るといい。刑の執行は明日の朝からだ」
「いきなりかい?」
「ここの指揮官から事前に説明はあるさ。これからお前がやるのは、ある意味で公的事業みたいなもんだからな」
とんだ公的事業もあったもんだ・・・まあ、今更ジタバタしたって始まらないだろう。
まだ頭の中では断片的な情報がくっついたり離れたりしていて上手く整理できていないが、取り敢えずたったの3日間だけ耐えればまた自由の身になれるのならもうなるようになれと言うしかない。
そして親切な看守から例の指揮官の男に身柄を引き渡されると、俺はそのまま拘置所よりも少し質素な独房に移されて朝まで眠りについていた。

「おい、何時まで寝ているんだ。さっさと起きろ」
次の日、俺はそんな怒声に早朝から叩き起こされて監視所の奥側にあった別棟へと連れていかれた。
前にここへきた時は厚い木々に囲まれていて気が付かなかったが、どうやらここは平屋でありながら監視所などよりも何倍も大きな建物らしい。
監視所から続く渡り廊下から建物内に入るとすぐに小さな部屋がいくつか並んでいて、更に部屋の入口とは反対側の壁に何やらまるで金庫のような頑丈な扉が取り付けられている。
恐らくは、あの扉の奥で件のドラゴンと3日間過ごすことになるのだろう。
そして少し通路を歩いた先にある小部屋の1つに案内されると、先程から俺の到着を待っていたらしい監視所の指揮官がジロリと俺を睨み付けていた。
「連れてきました」
「御苦労、退がっていいぞ」
「はい」
やがてそんな形式的なやり取りを挟んで俺をここへ連れてきた男が静かに部屋を出ていくと、指揮官がようやく厳しかった表情を少し和らげる。

「まあそう硬くなるな。何も無理難題を押し付けようというんじゃないからな」
「俺は、何をすればいいんだ?」
「もしかしたらもう他の誰かから話を聞いているかも知れんが、貴様の役目はドラゴンへの生贄になることだ」
淡々とした口調で、指揮官が先を続ける。
「簡単に言えば、我々がこれから協力を仰ぐドラゴンに対する貢物というわけだな」
「命の危険は・・・ないんだよな?」
「その点は問題ない。まあ、無事でいられるかどうかは貴様次第だろうが・・・とにかくだ」
若干奇妙な含みを持たせた言葉を掻き消すように、彼が声を張り上げる。
「貴様にはあの中で、1匹のドラゴンと3日間過ごしてもらう。食事と水は十分に支給されるから心配するな」
そう言い終えると、"他に質問は?"とでも言いたげな指揮官の視線が真っ直ぐに俺の顔へと叩き付けられていた。
正直に言えば訊きたいことは幾らでもあるのだが、それを訊いたところで俺の処遇が変わるわけでもないだろう。
「いや、ないよ。始めてくれ」
そしてそう返事を返すと、指揮官がフンと鼻息を吐いて部屋の奥にある大きな扉を開けていた。

扉の向こう側は・・・とても暗かった。
部屋の明かりが差し込んでいる様子から床に厚い藁がギッシリ敷き詰められているのは見て取れるが、それ以上のことは意外と横幅や奥行きのある部屋だということしかわからない。
だが恐る恐るその暗がりの中へ入ろうとした瞬間、不意に指揮官が俺を呼び止めた。
「待て、1つ言い忘れていた。中に入る前に、そこにある囚人服に着替えるんだ」
「ど、どうして?」
「中に入れば嫌でもわかる。いいから、早く言う通りにしろ」
突然予想外の横槍を入れられて何だか覚悟が鈍ってしまったような気がするが、服を着替えるのも何か意味のあることなのだろうか?
とは言えここで逆らう必要も特に感じられず、俺は素早く着ていた服を脱ぎ去るとテーブルの上に用意されていたその薄く灰色がかった囚人服を手に取っていた。

一体何でできているのか、妙に軽い服だ。
裸の体の上に直接羽織る服の割には少し肌触りに癖があるような気がするが、多分材質は何度もリサイクルできるような細かいプラスチック繊維か何かなのだろう。
やがて上も下もすっかり囚人服に着替えると、俺はそばにいた指揮官に両腕を広げて見せた。
「これでいいのか?」
「ああ、それでいい。では、中に入れ」
そんな俺の姿に満足したのか、彼が大きく頷く。
そして促されるままその薄暗い大部屋の中へそっと足を踏み入れると、俺の背後でガシャーンという重々しい音とともに向こう3日間は開くことのない頑丈な扉が閉ざされていた。

サク・・・サク・・・
床一面に敷き詰められた藁を踏む度に、そんな小気味よい音が周囲に響き渡っていく。
部屋の中はまるで本物の洞窟の環境を模したような作りになっていて、壁も天井も全てゴツゴツとした歪な岩のような意匠で覆い尽くされていた。
そして真っ暗なはずの部屋を照らしているのは、天井のあちこちに埋め込まれている小さな豆電球の淡い光だけ。
こんな場所で3日間も過ごすなど、たとえ自分独りでだったとしても相当な苦行に感じられることだろう。
やがて広い部屋の中程まで進んでいくと、その奥の方にドラゴンのものらしい大きな影が見えてきていた。
地面に蹲って眠っているのか、こんもりとした黒い塊から辛うじて背に生えた翼のシルエットだけが確認できる。
だがドキドキと胸の鼓動を早めながらも更に数歩ドラゴンに近付くと、突然その巨影が長い首を持ち上げた。

「う・・・あ、あんたは・・・」
暗闇の中からゆっくりを俺へ振り向けられたドラゴンの視線・・・
そのサファイアの如く美しい青色を湛えた瞳に、俺は確かな見覚えがある。
「あら・・・また会ったわね、坊や」
そして数日前の夜にも聞いたあの澄んだドラゴンの声を耳にすると、俺はそれまで張り詰めていた緊張の糸がプツンと音を立てて切れたことを実感していた。
拘置所で隣の独房の男に話を聞いてからというもの決して表には出さなかったものの、俺だってもし凶暴なドラゴンと3日間も過ごすことになったらどうしようかと悩まなかったわけではない。
だがこのドラゴンなら、少なくとも酷い目に遭わされるようなことはないだろう。

「よかった・・・俺・・・一体どんなドラゴンに差し出されるのかと思ってたよ・・・」
ドラゴンが顔見知りだったことで胸の内を満たしていった安堵にトサッと膝をつきながらそう言うと、彼女は地面に横たえていたその見上げるように大きな体をゆっくりと持ち上げていた。
「あら・・・油断しない方がいいわよ・・・前に会った時はただの遊びだったけれど・・・」
そしてそう言いながら、ドラゴンが静かに俺の方へと歩いてくる。
「今のあなたは私が人間のために働くことへのご褒美なのよ・・・フフフ・・・わかるでしょう・・・?」
「え・・・えぇ・・・?」

一体、彼女は何を言っているのだろうか・・・?この俺が・・・ご褒美だって・・・?
「ど、どういう意味なんだ・・・?」
「わからないとは言わせないわよ・・・この前の夜に・・・あなたにもたっぷりと教えてあげたはず」
その言葉とともに、間近から俺を見下ろしていたドラゴンの顔に何ともうっとりとした笑みが浮かんでいた。
「フフフフ・・・これからの3日間、あなたは誰が何と言おうとこの私の物・・・そう・・・私のモノよ・・・」
クチュ・・・
「あ・・・あぁ・・・」
彼女の言葉とともに聞こえてきた、ねっとりと尾を引く淫らな水音。
その音を聞いた瞬間に、まるで条件反射の如く俺のペニスが少しずつ膨張を始めていく。
「ま、待ってくれ・・・確かにまたあんたに会いたいとは言ったけど・・・これから3日間もなんて・・・」
「今更逆らったって無駄よ・・・それとも、この私に勝てるとでも思っているのかしら?」
怒気とも敵意とも違う、しかし獲物を射竦ませる確かな負の感情が、彼女の大きな青い瞳に宿っていた。
逃げる術も抗う術も失った獲物を前に捕食者が歓喜の涎を垂れ流すように、最早万策尽き果てた俺の狼狽した様子にドラゴンがその本性とも言うべき嗜虐心を露わにする。

「うぅ・・・うわああぁ・・・」
突如としてザワザワと全身を粟立たせた本能的な恐怖に、俺は何時の間にか砕けてしまった腰を引き摺るようにしてその場から後退さり始めていた。
だが唯一の出口であるあの頑丈な扉は既に閉められてしまっているし、何よりこの最強の猛獣から無事に逃げ延びることなどできるわけがない。
そして地面を掻いた右足が伸び切った途端に素早く尻尾を巻き付けられると、俺はそのままズルズルと彼女の巨大な腹下まで成す術も無く引き摺り込まれてしまっていた。

「フフフ・・・」
「は・・・あぁ・・・」
無造作に地面の上へと横たえられた俺の顔を舐め回すように、ドラゴンの青い瞳がゆっくりと巡らされていく。
まだ尻尾を巻き付けられた右足以外は彼女に捕まっているわけではないのだが、俺は強大な捕食者だけが持つ鋭い視線にまるで手足の力が吸い取られていくような感触を味わわされた。
以前会った時とは明らかに違う獲物を押さえ付けるかのような圧倒的な迫力が、微かな笑みを浮かべた彼女の全身から痛い程に発散されている。
「おとなしくしなさい・・・いいわね・・・?」
そして極めて穏やかな、それでいて底冷えのするような澄んだ声でそう囁かれると、俺は声を上げて返事をする余裕もないまま無言で体中の力を抜いていた。
きっと山で獣を仕留めた時も、彼女はこうして屈伏させた獲物にゆっくりとあの凶悪な牙を突き立てるのだ。
もし命が保証されていなかったら、俺はまず間違いなく大声を上げて泣き叫んでいたことだろう。
だが辛うじて冷静さは保てていたものの、相変わらず心臓の鼓動はバクバクという大音響で暴れ回り、凄まじい恐怖で深呼吸を阻害された呼吸器が先程からハッハッという短い息を吐き出し続けていた。

グッ・・・
「う・・・あ・・・」
やがて俺が身も心も観念したのを見て取ったのか、彼女がその大きな手で俺の首根っこをそっと抑え付ける。
こんな巨大な生き物に片手で首を掴まれるなど想像しただけでも背筋が寒くなることなのだが、最早俺には微かな呻き声を漏らしながらも黙って彼女に身を任せることしかできなかった。
更には残っていたもう一方の手を俺によく見えるようにそっと差し出すと、彼女がその指先から生えた鋭利な爪の先端を俺の胸元に音も無く突き付ける。
そして俺の着ていた緩い服の端に爪先をほんの少し引っ掛けると、ビリリッという小気味のよい音とともに囚人服の上着が真っ二つに切り裂かれていた。

「ひっ・・・」
そんな突然のドラゴンの行動に驚いて反射的に身を竦めた次の瞬間、抵抗の予兆でも感じ取ったのか首を握っていた彼女の手にほんの少しだけ力が込められる。
だが俺がそれ以上は動けないことを確かめると、続いて彼女の爪先が下に穿いていたズボンへと掛けられた。
「さてと・・・ここはどうなっているのかしら?もしかして、もう待ち切れなかったりしてね・・・フフ・・・」
そしてそう言いながら、今度はゆっくりと焦らすようにその恐ろしい白刃を下へと滑らせていく。
ビッ・・・ビリッ・・・ビリリ・・・
やがて左右へと切り開かれたズボンの間からあまりに無防備な肉棒が露わになると、その恥ずかしい雄の象徴は俺自身の怯え切った心とは裏腹にはち切れんばかりの肥大化を果たしていた。

「あ・・・は・・・うぅ・・・」
「あらあら・・・何て美味しそうなのかしら・・・」
それを見た彼女が、ジュルルッという生々しい音を響かせながら分厚い舌で自らの口元を舐め回す。
またあの舌で包まれたら・・・またあの舌で舐め上げられたら・・・またあの舌で締め付けられたら・・・
そう考えただけで、先程までとは打って変わってゾクゾクとした興奮が俺の背筋を駆け上がっていった。
「ほら・・・どうして欲しいのか言ってごらんなさい・・・正直にね・・・フフフ・・・」
ツツッ
「ひうっ・・・そ、そん・・・な・・・」
恐怖の底に埋もれていたかつての甘い記憶を呼び覚まそうとするかのように、彼女が先程服を切り裂いた尖った爪の先で張り詰めたペニスの裏筋をそっと撫で上げていく。

だがまたしてもあの青い瞳にじっと見据えられた瞬間、俺は逆らう気力の最後の一欠片を粉々に擦り潰された。
「す、好きなだけ・・・舐め回してくれ・・・唾液もたっぷり塗り込めて・・・たくさん搾って・・・ああっ!」
そしてまるで操られるようにして吐き出したそんなおねだりの言葉が終わるか終らないかの内に、彼女の太い2本の指が俺のペニスの先端をカリ首の辺りからキュッと軽く撮み上げる。
「フフフフ・・・そんなのじゃだめ・・・もっと必死に乞いなさい・・・でないと・・・捻り潰しちゃうわよ」
「ふああっ・・・」
そう言いながらコリコリと大きな指の腹で肉棒を捏ね繰り回されて、俺は歓喜の涙を流しながら身を捩っていた。

スリスリ・・・ムギュッ・・・
「ひぃ・・・」
やがてどうしてよいのかわからずに黙っていた俺の様子についに業を煮やしたのか、ジワジワと弄ぶかのような甘い愛撫から一転して彼女が不意にペニスを握り締める。
まさか本当にペニスを捻り潰されるようなことはないと思うが、それでも俺の顔に視線を注ぎ込んでいる彼女の青い竜眼には何処か安心のできない不穏な輝きが宿っていた。
「ほらほら、どうしたの?この私に・・・あんなことやこんなこと・・・してもらいたいんでしょう・・・?」
その彼女の熱を帯びた艶っぽい言葉に、数日前あの洞窟で味わわされた快楽の記憶が蘇ってくる。
「あ・・・あぅ・・・」
こんな暗い密室の中で3日間も巨大なドラゴンの慰み者にされるなど堪らなく恐ろしいはずのに、何故か心の何処かにその運命に対して必死には抗い切れぬ自分がいたのだ。

ギュゥ・・・グリリッ・・・
「ああっ・・・!」
だがそれでも返事を返せずにいると、再びペニスが彼女の手の中でもみくちゃにされていた。
「ふぅん・・・随分と意気地なしなのね。こんなに張り合いがないのなら・・・いっそ食べちゃおうかしら?」
「えぇ・・・!?」
た、食べるってまさか・・・俺・・・を・・・?
やがて唐突に聞こえてきた彼女の耳を疑うような一言に目を開けた俺の前で、トロリとした唾液に濡れ光る凶悪な牙の森がゆっくりと口を広げていく。
大きな鹿や猪ですら一息に噛み砕けるような強大なドラゴンの顎に狙いを付けられて、俺は諦観の溶け込んだ大粒の涙の他には断末魔の悲鳴すら喉の奥に引っ掛かってしまって上手く出てこなかった。

あ・・・あ・・・
早く何かを言わなければ・・・彼女の望む返事を口にしなければ・・・
そんな激しい焦燥に駆られてパニックに陥った頭の中が辛うじて纏まり掛けた思考を幾度も掻き乱しては、何かを言い掛けた口が空しい空気を吐き出していくばかり。
そしていよいよ俺の引き攣った頬が彼女の尖った牙の先に軽く触れた瞬間、今にも消え入りそうな短い一言が喉で声を堰き止めようとする地獄の門番から逃げ出すことに成功していた。
「たす・・・けて・・・」
すると自分自身でもようやく聞き取れるくらいのその微かな空気の震えが届いたのか、俺の頭を丸ごと咥え込もうとしていた彼女の動きがピタリと止まる。
「あなたの気が済むまで、幾らでも俺のモノを搾ってください・・・だから・・・た、食べないで・・・」
他に言うべき言葉など思い付けず、結局俺はそれだけ言うとギュッと目を瞑って震えることしかできなかった。

ベロッ・・・ペロペロ・・・
「うぶっ・・・あ、熱っ・・・」
数瞬後、まるで煮え滾る熱湯のようなドラゴンの唾液の感触が顔一杯に広がってくる。
だがもうだめだと思ったのも束の間、俺は一杯に溢れ出した涙を彼女に舐め取られているのだと理解していた。
「泣きじゃくった顔もまた、とっても可愛いわね・・・大丈夫よ、あなたを食べたりなんてしないわ」
「ほ、本当・・・?」
「本当よ。だって私・・・もう我慢できそうにないんですもの・・・」
が、我慢できそうにない・・・?それってどういう・・・
やがて彼女の言葉の真意が掴み切れずに呆けた表情を浮かべていると、俺の顔を綺麗に舐め清めた彼女の視線がいきり立ったまま長らく放置されていた雄槍へと向けられる。
たった今その主が文字通り死ぬ程怖い思いをしたというのに、あろうことか下半身のモノは初めて外の空気に触れた時と同様呆れる程の興奮を漲らせていた。
ああ・・・我慢できないって・・・そういうこと・・・か・・・
そして彼女の口がほんの少しだけ小さく開けられたのを目にした次の瞬間、俺のペニスがまるで吸い込まれるかのように音も無く彼女の口内へと呑み込まれていった。

パクッ
「はふぅっ・・・くぁっ・・・」
次の瞬間、以前このドラゴンにペニスを咥えられた時とは比較にならない程の凄まじい快感がそそり立つ竿全体に余すところなくたっぷりと塗り込められていた。
肉棒全体にギッチリと巻き付けられた彼女の舌が、大量の唾液を溢れさせながらじわりと根元を締め付けていく。
それだけでも意識が飛んでしまいそうなくらいに気持ちがいいというのに、彼女は更に赤黒い舌のとぐろから微かに顔を出している亀頭の鈴口へとその舌先を捩じ込み始めていた。
一体どうやっているのか分厚いはずの舌の先が細い鏃のように鋭く尖り、敏感な性感帯の内側をも蹂躙しようと強引な侵入を試みている。

ショリリ・・・グリッ・・・ギュゥ・・・チュルルルッ
「ぐあはっ・・・そ、そこは・・・あはぁ・・・」
きつくペニスを締め上げながらも舌全体がまるで蠕動するかのようにグニグニとペニスを揉みしだき、彼女は数日振りに俺の精を搾り出そうと容赦のない愛撫を幾度も幾度も繰り返し続けていた。
適度にザラついた舌の感触と焼け付くような熱い唾液がビリビリという高圧電流にも似た激しい刺激を生み出し、俺の全身からみるみる内に快楽へと抵抗する気力を奪っていく。
「か・・・かはぁ・・・ぅ・・・」
こ、これが彼女の・・・本気の・・・舌責め・・・
これ以上ないくらいに気持ちいいのに・・・今にも精を放ってしまいそうなのに・・・声が上げられない・・・!

俺は藁の敷かれた地面の上で大の字の格好のままビクンビクンと悶え続けながら、先程から身に余る快楽を少しでも緩和するべく必死に大声を出そうと試みていた。
だが幾ら肺に溜まった空気を声帯に通してみても、限界を超えた気持ちよさに麻痺してしまった喉からは空しく掠れた小さな喘ぎ声が微かに漏れていくばかり。
ああっ・・・イ、イク・・・出るううぅ・・・
ビュビュ〜〜ビュルルルッ・・・チュウウ〜〜〜・・・
「ああぁ〜〜〜〜っ!」
やがて成す術も無く屈服の奔流を噴き上げたと同時に猛烈な吸引を味わわされ、俺はようやく気も狂わんばかりの悲鳴染みた嬌声を暗い部屋の中一杯に迸らせていた。

ジュッジュッ・・・キュウゥ・・・
「は・・・はひぃぃ・・・」
完敗だ・・・人間が・・・このドラゴンに抗うことなんて到底できるわけがない。
手足の指先1本1本までが痙攣するかのような凶暴な快楽の嵐に最後の1滴までもをあっさりと吸い上げられて、俺は苦しげに荒い息を吐いたままピクリとも体を動かすことができなかった。
これ程の責めを味わわされた今なら、前の交尾など彼女にとっては所詮お遊びでしかなかったことがよくわかる。
「フフフフ・・・久し振りの私の舌は、どうだったかしら・・・?」
「も、もう・・・おかしくなっちゃいそうだ・・・少しだけでいいから・・・休憩を・・・」
「あら・・・私の生贄に、そんな自由があるとでも・・・?フフフフフ・・・」
そ、そんな・・・このまま休みなく3日間もなんて・・・どう考えたって死・・・

「昼飯の時間だ!部屋の入口に、食料と水を置いておくぞ!」
とその時、突然壁の何処かに埋め込まれていると見える拡声器から少しひび割れた救いの声が掛けられていた。
よ、よかった・・・昼食の時間なら、流石の彼女もきっと俺を休ませてくれるはず・・・
だが俺の顔にそんな希望が宿ったのを見て、彼女が実に意地の悪そうな笑みを浮かべて何やら耳元に囁いてくる。
「残念だけど、あれは私の食料よ。生のままの豚を丸々1頭なんて、あなたには食べられないでしょう?」
「なっ!?ま、待ってくれ・・・だって食事と水は支給されるから心配するなって・・・確かに・・・」
「フフ・・・上手いわねぇ、あの人間も・・・それは、腹を空かせた私に食われる心配をするなっていう意味よ」
まさか・・・ハ、ハメられた・・・?
「ドラゴンに捧げる生贄に、水や食料なんて必要ないに決まっているでしょう?」
「じゃ、じゃあこの3日間・・・俺は一体どうやって生きればいいんだ・・・?」
そしてその絶望的な自問の直後、俺は突然覆い被さってきた彼女の下敷きにされて苦悶の声を上げていた。

ドサッ
「うぐっ・・・い、いきなり何を・・・」
「簡単なことよ。彼らは一応ああやって食料を用意するけど、私達は2週間くらい飲まず食わずでも平気なの」
やがて言いながら、彼女が地面の上へと押し倒した俺の肩と両足をそっと体重を掛けながら踏み付ける。
その見上げるようなドラゴンの巨体が誇るズッシリとした重量を遠慮なく上に載せられて、俺は何時の間にか首と腕から先を除いて完全に体の自由を奪われてしまっていた。
「だ、だから・・・?」
「だからこの3日間、たっぷりと楽しみましょう。それこそ、飢えも渇きも感じる暇がない程にね・・・」
そしてその声が終わるのとほぼ同時に、俺は辛うじて視界の端に見えている彼女の秘部、灼熱の愛液に熟れて蕩けた真っ赤な割れ目がゆっくりと左右に口を開ける様を見せ付けられていた。

「あ・・・あぁ・・・」
ほ、本当に・・・彼女は続けるつもりなんだ・・・
俺が釈放される3日目の朝まで休みなく・・・あの凶暴な肉欲の坩堝で俺を・・・
恐怖とも興奮ともつかない刺激がザワザワと背中を這い回り、絶望という名を持つ最上の媚薬が体中の隅々にまで深く深く滲み込んでいく。
前にも1度あの中を味わったことがあるだけに、俺は今すぐこの場から逃げ出したい欲求と思う存分彼女に犯されたいという欲求の鬩ぎ合いに独り心中で悶えていた。
だがそんな葛藤の行く末は、最初から考えるまでも無く既に決定されてしまっている。
何しろ仮に抵抗しようとしたところで、ドラゴンに全力で押さえ付けられた肩と足がピクリとも動かせないのだ。
彼女にしてみれば、後はただポッキリと折れた俺の心がそれを受け入れるのを待つだけのこと。
そしてその決定的な瞬間は、思ったよりも早くに訪れようとしていた。

たっぷりと間を持たせて焦らすように、彼女がいきり立った俺のペニスのすぐ上で艶めかしく腰をくねらせる。
「フフフフフ・・・」
彼女の大きな尻がまるで蜜蜂のダンスの如くゆっくりとした8の字を描くように振られる度、ドラゴンの愛液が持つ凄まじい熱が微かなぬくもりとなって敏感な亀頭を擽っていた。
ポタッ・・・
「くあぁっ!」
やがて彼女の方も雄の到来を待ち切れないのか、秘裂から溢れ出した熱い滴がペニスの先端へと垂れ落ちてくる。
そのペニス全体をジワジワと焼きながら睾丸の方へと流れ落ちていく燃えるような刺激に、俺の中で最後まで決して手放すまいとしていた大事な何かが音を立てて崩れ落ちていた。

「は・・・ぁ・・・や、優しくして・・・くれ・・・」
そう言ってゴクリと大きく息を呑んだ拍子に、思わず目から大粒の涙が零れ出してしまう。
だがこれは多分・・・歓喜の涙なのだ。
強大な捕食者に捕らわれた獲物が最期の瞬間に感じるという至高の恍惚感。
それが今、成す術もなく彼女の中に呑まれようとしている無力なペニスからまるで強力な麻薬のように俺の心身を甘く深く蝕み始めていた。
そしていよいよ俺が何もかも観念したことを感じ取ったのか、彼女の肉壷がそっと雄槍の穂先へと被せられる。

チュプ・・・
「フフフ・・・だぁめ・・・」
「ぐ・・・うああああっ・・・!」
熱い・・・熱い熱い熱い・・・!
久し振りに与えられた人間の獲物を心置きなく蹂躙できる喜びからなのか、彼女の秘肉が前とは到底比べ物にならない程の高熱と快感でペニスの先端を包み込んでいった。
あまりの熱さに必死で身を捩ってみても、最早抵抗と呼べるような身動ぎは完全に封じ込められてしまっている。
グブ・・・ニュブ・・・ズズズ・・・ピュピュッ・・・
「があ・・・ぁ・・・」
やがて悶え狂う俺の反応を楽しむかのように少しずつ彼女の膣の中へとペニスを埋められると、つい先程搾り尽くされたはずの肉棒が早くも微かな白濁の滴を噴き上げてしまっていた。

「あらあら・・・もう出しちゃうなんて・・・余程気に入ってくれたのね・・・」
グチュ・・・ニュチュゥ・・・
「はぁっ・・・ま、待って・・・だ、だめ・・・」
ペニスを呑み込まれただけで射精してしまった恥ずかしさも消えぬ内に、彼女が降参した獲物を更にしゃぶり尽くそうと分厚い肉襞を上下させ始めていた。
「遠慮なんてしなくてもいいのよ・・・これからもっともっと気持ち良くなるんだから・・・フフフフ・・・」
そんな彼女の甘い睦言のような殺し文句が、快楽に沸騰した頭の中にゆっくりと流れ込んでくる。
そしてあれだけの精を放ってもなお萎える様子を見せない肉棒を押し潰さんばかりにギュッと締め付けながら、無数の舌にも似た柔らかでいて力強い花弁が一斉に敏感な部分を舐め上げた。

「ぐああぁ・・・う・・・が・・・ひぃ・・・」
次々と翻される肉欲の嵐に、ペニスがまるで暴風に舞う塵のように弄ばれてしまう。
右へ左へと忙しなく捏ね繰り回されながらも時折根元からきつく扱き上げられて、俺は身動きの取れない体を呪いながらただただ掠れた声で泣き喚くことしかできなかった。
それでも、まだ彼女は本気ではないのだろう。
悶え狂う俺の顔を満足げに見つめる彼女の腰は俺の股間にグッと押し付けられたままで、そこには捕らえた肉棒を決して逃がさないようにという強い意思のようなものさえ感じられる。
だがそれなら、彼女の持つその見上げるような巨体で俺をしっかりと組み敷けばいいだけの話だ。
こんな巨大なドラゴンの下敷きにされたら、たとえどんなに激しく抵抗したところで非力な人間如きが自力で逃げ出すことなどそれこそ天地が引っ繰り返りでもしない限り無理なことだろう。
なのに彼女は、相変わらず俺の肩と足を踏み付けているだけでそれ以外の部分には触れようともしないのだ。
逃げようともがく獲物の様子をじっくり楽しみたいというのもあるのかも知れないが、俺の想像が正しければきっとこれには別の意味があるのに違いない。
想像しただけでも背筋が凍り付きそうになる、世にも恐ろしい意味が。

ピュッ・・・ピュルッ・・・
「く・・・はあ・・・も、もう・・・許して・・・」
精嚢で新たな精子が作られる度にすぐそれを吐き出させられて、俺はもう幾度目になるのかわからぬ射精の快感につい弱音を吐いていた。
一方的に嬲りに嬲られた体には既に暴れる体力すら残っていないらしく、先程まで盛んに藁の地面を掻いていた手足の指先にすらもう満足に力が入らなくなってしまっている。
今の俺に唯一できるのは、止め処なく溢れる涙を絞って彼女に許しを乞うことだけだった。
だがそんな弱り切った獲物の様子が、一見優しそうな彼女の内に秘めた嗜虐心の炎に極上の油を注いでいく。
「フフ・・・もう暴れる力もないようね・・・でも安心して・・・これからが本番なんだから・・・」
「そんな・・・も、もう無理だよ・・・これ以上やったら俺・・・」

ここにきてから今の今まで頭の片隅にさえなかった死への恐怖が、ゆっくりとその重い頭を擡げ始めていた。
生贄となった人達のほとんどは無事に釈放されているというが、どう考えたって3日後には文字通り精も根も枯れ果てた憐れな抜け殻が残されるだけのような気がするのだ。
この俺の状況を見れば彼女にだってそれくらいわかるはずなのに、それでも彼女は俺に一時の休みも与えてはくれないのだろうか・・・?
やがてそんな暗い絶望に塗れた表情で彼女の顔を見つめていると、不意に彼女がその口で俺の口を塞いでくる。
「ん、んぐ・・・うっ・・・」
そして抵抗する間もなくあの分厚い舌を口内に捩じ込まれ、俺は彼女に熱い唾液をたっぷりと流し込まれていた。
「ぐぅ〜〜〜〜!ん〜〜〜〜〜〜!」
ジュウッと喉を焼くその熱さに上げた唸り声も空しく、大量のドラゴンの唾液をゴクリと飲まされてしまう。
チュパッ・・・
「うぁ・・・な、何を・・・うぐぅ・・・」
「いいから、あなたは黙って寝てなさい・・・舌を噛みたくないのならね・・・」
だが何処か不気味にも見える意味ありげな笑みを浮かべながら彼女がそっと腰を浮かせた気配を感じ取ると、俺は先程から感じていた悪い予感が的中したことを悟ってギュッと目を瞑ると必死に歯を食い縛っていた。

長らく待ち望んでいたであろう本番を前に彼女の暖かい吐息が汗ばんだ俺の首筋へと吹き掛けられ、思わず身を固めるなどという無意味な防衛本能が働いてしまう。
そして暗闇の中でその瞬間を待つ俺の恐怖心がついに限界を迎えたのを見て取ると、根元までペニスを咥え込んだ彼女の腰がゆっくりと前後に滑り出していた。
ニュチュ・・・グチュ・・・
少しずつ、少しずつ・・・無数の肉襞と柔突起のうねりが俺のモノをいやらしく巻き込むように呑み込んでは、無造作に摩り下ろしながらジワジワと締め付けていく。
「うっ・・・ぐ・・・くふっ・・・」
「ほらぁ・・・だんだん良くなってきたでしょう・・・?」
返事をする余裕などあるはずもなく、俺はガクガクと前後に揺さ振られる自らの下半身を彼女の腰の動きに合わせようとひたすらに意識を集中していた。
もし少しでもついていけなくなれば、俺の肉棒は一瞬にして暴れ狂う肉壷の饗宴に捧げられてしまうことだろう。
だがそんな俺の不安をよそに、艶めかしく振られ始めた彼女の腰は更にその激しさを増していった。

やがて無慈悲に続けられるそのグラインドに自らの雄槍を突き出すようにして追従していると、それまで前後に振られていた腰が先程俺を追い詰めた時のように細長い8の字を描き始める。
「あ・・・やめ・・・そ、そんなの・・・もう・・・ああぁ・・・」
そして両手足を押さえ付けられた不自由な体勢ではついに彼女の責めについていけなくなり、俺は左右へも捻られ始めた魔性の竜膣に捕らわれたまま存分に嬲り尽くされていた。
グジュッギュジュッヌチュッニチャッ・・・!
「が・・・・・・ぁ・・・」
ブシュッ・・・ドブッドブッ・・・
その途端、自分で想像していたのよりも遥かに大量の精が一気に彼女の中へと放出される。
そん・・・な・・・どう・・・して・・・?
俺の精なんて、彼女の舌責めと度重なる肉襞の愛撫を受けて確かに枯れ果てていたはず。
なのにまるで数日振りの解放であるかのようなその量と勢いに、俺は快楽で真っ白に塗り潰された頭の中に辛うじて残った理性の欠片へと懸命にしがみついていた。

もしかしてこれは、彼女に唾液を飲まされたからなのだろうか?
いや、仮にそうだったとしても、恐らく精の量が増えることそれ自体は大した問題ではない。
寧ろ当面俺が危惧するべきことがあるとすれば、先程から全く射精が止まる気配が無いということだろう。
「フフフ・・・どうかしら?もうこれ以上は無いと言い切れるくらい、気持ちいいでしょう・・・?」
「ふああっ・・・た、助け・・・止めてぇ・・・」
微かな喘ぎ声の中に潜んだそんな命乞いの言葉に、イキっ放しのペニスがなおも締め上げられる。
ズチュッ・・・グシュッ・・・
「あはあぁ・・・」
「だめよ、そんなこと言っても・・・この私に逆らうなんて許さないわ」
そして俺が苦悶と喜びに満ちた吐息を漏らすと、再び彼女の腰が弾むような躍動を開始していた。

ビュゥ〜〜〜ドクドク・・・ビュルルル・・・
「ああん・・・いいわぁ・・・もっと・・・もっとちょうだい・・・フフフフフ・・・」
彼女自身も初めての絶頂が近いのか、雌らしい艶掛かったその声が次第に妖しい雰囲気を纏っていく。
「ああぁ・・・うああ〜〜〜〜・・・」
やがて既に意味を成していない俺の壊れた嬌声が更に彼女の肉欲を熱く滾らせると、うっとりと上気した笑みを浮かべた彼女が涙でグシャグシャになった俺の顔にそっと鼻先を擦り付けてきた。
「あなた、最高よ・・・だから、とっておきの体験をさせてアゲル・・・」
ドスゥッ
「はぅっ・・・!!」
そしてゾクゾクするようなその囁き声が終わった次の瞬間、彼女の円錐状に尖った硬い尻尾の先端が大きく広げられた両足の間で無防備な姿を曝け出していた俺の尻穴目掛けて勢いよく突き入れられる。
その瞬間、俺は微かに生き残っていた脆弱な理性の欠片を今度こそ跡形も無く消し飛ばされていた。

「う・・・ぅ・・・こ、ここは・・・?」
何もかもが儚く崩れていくかのような淡い夢の世界から不意に現実へと引き戻されてみると、俺は薄暗い部屋に敷き詰められた藁の上などではなく、真っ白なカーテンで仕切られた病室のベッドの上にいた。
だが状況が掴めずに漏らしてしまった俺の声を聞き取った看護師らしき女性が、何だかしばらく見ていなかったような気のする邪気のない笑顔を浮かべながら声を掛けてくる。
「ここは病院よ。お勤めご苦労様。数日で退院できるでしょうから、今は休んでいなさい」
「え・・・あ、ああ・・・もう3日経ったのか・・・?」
「3日どころかあなた、ここへ来てから丸2日も寝てたのよ。まあ、私達にとってはいつものことだけどね」
じゃあやっぱり、俺が気を失っている間に3日間という生贄の期間は終わったのだろう。
そして俺は意識不明のまま、この軍事病院へと運ばれたのに違いない。

あのドラゴンとの交尾も、もう終わってしまった・・・
あんなに恐ろしくて苦しい目に遭わされたというのに、いざこうして平和な日常へと戻ってみると何だか凄くもったいないことをしてしまったような気がしてしまうのは一体どうしてだろうか。
こっぴどく弄ばれて病院送りにされた今もなおそう思う程に、あのドラゴンは俺にとって魅力的な存在だった。
今頃彼女は、強力なドラゴンの兵として何処ぞの戦場へと駆り出されていることだろう。
そして短い契約期間が切れると、再び山中の洞窟で退屈な日々を咀嚼する生活に戻るのだ。
それを考えると、折角の機会に彼女を十分満足させてやれなかったであろう自分が何だか情けなくなってくる。
少し硬めに作られたベッドの上に仰向けになりながら、俺はぼんやりとそんな追憶に耽っていた。

無事に自分の家に帰り着くことができたのは、それから更に2日後のことだった。
公的事業という名の通り病院での入院費が全額免除になったことは素直に嬉しかったが、10日近くほったらかしにしていた家の埃っぽさがまた退屈な世界へと舞い戻ってきたことを実感させる。
ほんの目と鼻の先に、その気になればすぐに手の届く所に、俺はあんな桃色の別世界を見つけてしまったのだ。
あの刺激的な生活に比べれば、まぐわう相手も話をする相手すらもいないこの街で独り寂しく暮らすことに一体どれ程の価値があるというのだろうか。
やがて家に帰って来た時はほんの小さな火種でしかなかったその鬱憤にも似た感情は、1日、2日と日を置く毎にみるみる巨大な炎へと燃え上がっていった。

「さて・・・行くか・・・」
それから1週間後、俺は特に何かを意識することも無く深夜になってからフラリと家を抜け出していた。
そして人々の息遣いが疎らになった街中を歩き通し、真っ暗な闇に覆われた山道へと足を踏み入れる。
以前と違って全く荷物らしい荷物を持っていない軽装だからというのもあるとは思うが、十分な湿気を含んだその柔らかな土の感触は妙に心地良く、そして何処か懐かしささえ感じられた。
この山道をもう少し行けば、やがて現実の世界と夢の世界の境界線が見えてくることだろう。
それは細い針金を菱形に編み合わせて作った、高さ約3メートル程にも及ぶ柵。
本来隔絶されるべき2つの世界を結ぶ境としては、驚く程に脆弱な代物だと言っていい。
だがそれもそのはず・・・
この柵は決して侵入者を阻むためなどではなく、侵入者でない者を阻むためにこそ建てられているのだ。

やがてガシャガシャと無遠慮な音を立てながらものの3分程で柵を乗り越えると、以前にもそうしたように欝蒼と茂った草木を掻き分けながら目的の場所を目指す。
今夜はあの時のように深い霧は出ていなかったが、そんなことはもうどうでもよかった。
誰かから姿を隠す必要など、もう何もない。
俺を捕まえたいというのなら、好きにするがいいさ。
だが誰が何と言おうとも、俺は行くのだ。またあそこへ。あの洞窟へ。ドラゴンのもとへ。彼女の、もとへ。
また彼女の、あの妖しい潤いに満ちた美しい声を聞きたいがために。
そして彼女と、再び1つになりたいがために。

「あら、いらっしゃい坊や・・・待っていたわ・・・」

このページへのコメント

絶対に抵抗できない状況の中で、人間の限界を超えてドラゴンさんと交わるシチュ最高すぎます...
随分前の作品ですが、美味しく頂きました。ありがとうございます

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Posted by 名無し(ID:zyJ/t+FuTg) 2018年05月09日(水) 08:31:32 返信

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