ピ・・・ピピピピッ・・・
"Farth8 0900"
次なる地球Farthの調査を開始してから1週間後・・・
これまでとは違って確かな目に見える形での"成果"があった昨日の調査を受けて、CIの起動準備に取り掛かる船員達には幾許かの活気が戻ってきていた。
「Farth8 0902、CIアウェイクニングフェーズを開始します」
「データ送受信用配線のリジェクト完了。起動用のショック用意」
「チャージしています。離れてください」
今回は一体どんな調査結果を得ることが出来るのだろうか・・・
毎日のように悲惨なCIの最期を見続けてきた彼ら調査班の興味と希望は、今日もその一事に余すところなく振り向けられているのだろう。

ドンッ
やがて起動の電気ショックを受けてCIが無事に都合6度目の覚醒を果たすと、昨日はこれまでになく穏やかな最期を迎えたからかCIが静かにその体を起こしていた。
「CI。気分はどうだ?問題無いか?」
「ああ・・・今までで最も平穏な気分で目が覚めたよ」
そしてゆっくりと周囲を見回すと、ベッドから降りたCIがリーダーの方へと顔を振り向ける。
「それで、今日の調査項目は?」
「今日も引き続き植性調査だ。現状では一番具体的な成果が上がっているからな」
「ああ・・・それは問題無いけど・・・またあの木の根に襲われる可能性は無いのかい?」
そんな何処か不安そうなCIの質問に、近くにいた女性船員が答える。
「解析班によると、あの木の根は雨の日の翌日に活発になる性質があるらしいわ。つまり、今日は恐らく大丈夫よ」
「成る程、それなら安心だ・・・では、FPモードでのデータ記録を開始します」

だがそう言って何時ものようにカメラと各種センサーを起動させると、私はリーダーが随分と渋い顔をしていることに気付いてセンサー類の動作確認を中断していた。
「リーダー、何か・・・?」
「実は、植性調査の他にもう1つ重要な任務があるんだが・・・頼めるか?」
「重要な任務?」
やがてその意味を探るように彼の言葉を復唱した瞬間、私にもそれが何なのか想像が付いてしまう。
「ああ・・・昨日の私の遺体の回収ですね?」
「そうだ」
昨日の私は寄生性の樹木に種子を植え付けられて心肺停止に陥り掛けたところで腕に内蔵されていたEMP爆弾を炸裂させて、寄生された私がこの星の生態系に想定外の影響を与えないように自らの命を絶ったのだ。
「あのEMP爆弾は電磁パルスの発生にリソースの大部分を食っていて、爆薬による爆発力は低いんだ」

確かに、昨日私が搭載していたEMP爆弾は爆発時に腕を自分の胸へ押し当てることが前提の設計になっていた。
だが心拍数が一桁というほとんど心臓が動いていない状態な上に全身の神経系にもダメージを受けていたから、自分の腕を胸に押し付けるという行為が出来たかどうかは甚だ疑わしいというものだろう。
もちろん電子機器類は言うに及ばず損傷の治癒を促進する血中のナノマシンまでもが全て故障した状態で体内の爆弾を爆発させたのだから生きている可能性は絶無だが、その分想定よりも大きく原型が残っている可能性が高いのだ。
「EMPの影響を考慮して、昨日のCIの終末データはパッケージ化されて爆発の前に全ての送信を完了している」
「つまり、送信完了から爆発直前までのデータは保存されていないということですね?」
「ああ・・・それにCI、もしEMPによる完全な自爆が困難だと想定された場合、お前ならどんな行動を取る?」
完全な自爆が困難だと想定された場合・・・
例えば今回のように爆弾を心臓に近付ける余裕や余力が無く、体幹の一部が大幅に残存する蓋然性が高い場合ということか・・・
「それなら、コード化したデータをEMPの影響を受けないメディアに書き込んで可能な限り情報保全を・・・」
「そうだ。遺体を見つければ、そのメディアも見つけられることだろう。とにかく、今は少しでも情報が欲しいんだ」
「分かりました。昨日に引き続き、EMPの爆心地である南東6600メートルのエリアを中心に植性調査を開始します」

任務は把握した。
だが、万一のことを考えて取り敢えずセンサー類の動作確認だけはマニュアルに沿って実行しておくべきだろう。
現在日時はFarth8の0912、船室の床面積は約330平方メートル、気温は摂氏23.2度、船室内の船員は全員バイタル良好・・・女性船員が2名足りないのはデータの解析班と連携を取る為に出向しているからに違いない。
「CI・・・悪いが、今回の素体には通常武装を除けば自爆装置の類は一切搭載していない。理由は察してくれ」
「了解です、問題ありません」
「それと、昨日採取した調査サンプルは今も解析班の方で解析を進めている。何か判ったら随時連絡を入れよう」
私はそのリーダーの言葉に一度だけ深く頷くと、船員の案内で船の外へと送り出されていた。

「CI、通信確認だ。声は聞こえるか?」
「音声良好です。こちらの声と画像は届いていますか?」
「ああ・・・画像、音声ともにクリアだ。相対マップにEMPの爆心地を表示してある。まずはそこへ向かってくれ」
目的地までは6595メートル・・・
ローバーでもそこそこに時間の掛かる距離だが、サンプル採取という重責を担っているからにはこの期に及んで弱音を吐いている場合ではないだろう。
「了解。南東方向へ向かいます」
私はそう言ってローバーに乗り込むと、何時その辺の地面からあの木の根が飛び出してくるのかと内心ビクビクしながらも目的地へと向かって急いだのだった。

もうすぐ船から離れること約4000メートル・・・
解析班の結論が正しかったのか、或いはただ単に運が良かったのか、私は特に何の障害も問題も無く静かな森の中を進んでいた。
相対マップ上には所々に野生動物らしき高温点が見受けられるものの、そのほとんどは移動していないか動いていたとしても時速2キロ以下という緩慢な動きを見せるに留まっている。
「CI、順調か?」
「今のところ問題はありません。目標地点までは後20分程で到着します」
「分かった。だが忘れないでくれ。遺体の回収は、あくまでも植性調査の副次的任務だからな」
もちろん、それは理解している。
だが今回は、これまでの調査で初めて自分の前身を目にすることが出来るかも知れないというある種の期待が胸の内にあったことは確かだろう。

やがてEMPの爆心地と思われる地点から100メートル程のところにまで到達すると、私は爆発の影響評価も兼ねて周辺を捜索するべくローバーから降り立っていた。
「目標地点まで100メートル。周辺の調査を開始します」
「CI、もし見つけられたらで良いんだが・・・昨日CIが見たという寄生されたドラゴンの糞を解析してくれないか」
「了解です。昨日のパッケージデータに目撃場所のログが記載されているので、探してみます」
我ながら、任務に忠実というか妙に几帳面というのか・・・
後の調査のことを考えてこんなことまで事細かに記録しておくくらいなのだから、やはり昨日のCIがパッケージデータの送信後もデータの蓄積を止めたとは思えない。
だがEMP爆弾の爆心地に近付いていくにつれて、私は何となく嫌な予感を覚えていた。
何故ここの周辺に、野生動物がほとんどいないのだろうか?
少なくともこんな深い森の中に生物の死骸が放置されていたら、屍食性の動物の1体や2体は周辺をうろついていてもおかしくないはず・・・

そして最早確信と言っても良い程の焦燥を胸に茂みの奥を覗いてみると・・・
恐らくはEMP爆弾が爆発した時に出来たらしい直径150センチ程のクレーターが地面に残されていた。
「リーダー、CIの遺体がありません」
「何だと!?場所は間違いないのか?」
「爆発痕があるので爆心地は間違い無くここです。多少は周囲に血のようなものも飛び散っているようですが・・・」
どういうことだろう?
まさか全ての電子機器とナノマシンを失ったのに、至近距離から爆風を浴びて命を繋ぎ止めたとでもいうのだろうか?
いや・・・仮に即死はしなかったのだとしても、既に心拍数はほとんど0に近かったはず。
何処をどう考えても、自力で動けるはずが無いのだ。
それなのに、全く痕跡も残さず遺体が消えてしまうということがあるのだろうか?

「CI、とにかく遺体の捜索は後回しだ。大至急ドラゴンの糞の解析に移ってくれ」
「りょ、了解・・・」
予想外の事態に一瞬動揺しかけた私はそのリーダーの声で気を取り直すと、昨日のログを辿ってドラゴンが糞を落としたらしい場所を探り当てていた。
何故リーダーは・・・いや解析班は、そんなにドラゴンの糞に拘るのだろうか?
確かに寄生された宿主の糞から何かが判明する可能性は比較的高いとは言え、今はCIの遺体を捜すことが最優先に思えるのだが・・・
だが取り敢えず、私は昨日見た時と全く同じ状態で地面の上に落ちていた真っ黒な糞を慎重にマニピュレーターで拾い上げて検査用のシリンダーへ入れていた。

ピ、ピ、ピ・・・ピー・・・
「どうだ!?」
向こうでリーダーがそんな声を張り上げたのが、少しばかりくぐもって聞こえてくる。
「極々普通の糞よ。組成は経口摂取した食物よりも体組織の代謝で発生した老廃物の方が多いみたいだけど・・・」
「どういうこと?」
「この糞には、昨日CIが推測したような樹木の種子が全く含まれていないのよ。つまり、繁殖方法が違うんだわ」
繁殖方法が違う・・・ということは、昨日見たあのドラゴン達は仮に樹木に寄生されていたのだとしたら一体どうやってその種子を撒くというのだろうか?
体内に寄生物質と種子を植え付けられたのだから糞として周囲に散布する方が遥かに効率的に子孫が残せるはずなのだが、そうではないというのなら合理性を追求する自然界ではある意味で異質と言って良いだろう。

「CI、植性調査は中止だ。遺体・・・いや、寄生されたCIの捜索を最優先事項に指定する」
「了解。念の為、採取したドラゴンの糞をローバーに保管します。捜索に移るので、ローバーは回収してください」
「分かった。標的を見つけたら、どうやって樹木の繁殖に資するのかを慎重に見極めてくれ。その後は任せる」
任せる・・・というのは、樹木に寄生された昨日の私をどう処理するのかということだろう。
もし生け捕りに出来るのならそれでも良いし、それが無理なら確実に息の根を止めて遺体を回収しろということだ。
未知の惑星の環境調査に来たはずだというのに、まさか植物に寄生されて正気を失った自分自身を探すなんていう奇妙な任務に就くことになるとは・・・

やがて採取したドラゴンの糞のサンプルを載せたローバーが自動操縦で船に戻って行ったのを確認すると、私は標的を見つけ出すべく相対マップの検知範囲を拡大していた。
ここから2400メートル程離れた場所に体温反応が4つ・・・余り動いてはいないようだが、少なくとも半径3000メートル圏内で検知出来る恒温動物はその一団を除けばポツポツと7、8体程単体で散在しているだけらしい。
「まずはここからか・・・」
徒歩で接近してもいいが、流石にこの距離では向こうへ着くまでにかなり体力を消耗してしまうだろう。
「リーダー、アンカーワイヤーと小型ブースターでの移動を許可して貰えますか?」
「立体起動装置か?確かに森林部での高速移動には適しているが、標的の隠密追尾行動には向かないぞ?」
「では、移動は徒歩限定に・・・?」
だが私がそう言うと、リーダーの背後で話を聞いていたらしい女性船員がふと何かを思い付いたように声を上げる。
「CI、昨日開発した強走剤を使ってみたらどう?」
「強走剤?」
「昨日のCIのパッケージデータから心拍抑制効果のメカニズムを突き止めて、毒性の無い鎮静薬を作ってみたの」

その言葉に、何故か私よりも先にリーダーが疑問の声を上げる。
「何時の間にそんなものを・・・」
「やっと仕事が出来たって解析班の方々が大喜びだったので・・・試作品を1本だけ今日のCIに搭載してあるんです」
まさか・・・昨日の今日でもうそんな進展があったとは・・・
解析班の連中は昨日までこれと言った調査の収穫が無くて手を持て余していたらしいが、どうやらそちらにも私の想像以上に優秀な人材が揃っているらしい。
「それを使うとどうなるんだ?」
「使用から6時間程度は激しい運動をしても心拍数の上昇が50%以下にまで抑制出来るわ」
「それは確かに素晴らしいが・・・安静時に副作用は出ないのか?」
確かに昨日寄生された影響で心臓の拍動が弱まった時は激しい運動でその症状を軽減出来たものの、安静時に心拍数が弱まってしまったら本末転倒というものだろう。
「大丈夫です。あくまでも心拍を早める心筋の運動を抑制するものなので、安静時には影響が出ません。ただ・・・」
「筋肉への酸素の供給量が減るから酸欠に近い症状が出る、と・・・」
「ですがCIならナノマシンの働きで酸素の供給を強化出来るので、単純な心拍抑制の効果が期待出来るはずです」

成る程・・・普通の人間には使用してもただ疲れやすくなるだけだが、私ならナノマシンが酸素循環を補佐してくれるから生物としての反射による心拍数の上昇だけを都合良く抑えられるというわけだ。
「50%以上の抑制効果っていうことは・・・」
「たとえ全力疾走したとしても精々120前後までしか心拍数が上がらないから、長時間運動が続けられるはずよ」
「よし・・・強走剤の使用は許可しよう。ただ、次からは事前に私に報告してくれ」
やがてそんな船での遣り取りに耳を欹てながらも、私は今一度自身の装備を確認していた。
その中に、確かに見慣れない薬品アンプルが1本だけ追加されている。
「これかな・・・?」
そしてそのアンプルを使用してみると、私は特に体に異常を感じないことを確認してから調査に戻っていた。
「おっと・・・何時の間にか標的が移動してるな・・・このままじゃ検知範囲から消えてしまいそうだ」
私は少し目を離した隙に2800メートル以上離れたところにまで移動していた野生動物達の正確な位置を確かめると、そちらの方角に向けて全力で走り始めていた。

ザッザッザッザッザッザッ・・・
「お・・・おおっ・・・?」
不思議だ・・・自分でもかなりの運動量で動いている自覚があるというのに、心臓の鼓動が早くなった様子がほとんど感じられない。
乳酸の蓄積も抑えられているのか筋肉の疲労もまるで感じられず、私は3000メートル近い距離を実にものの5分足らずで駆け抜けていた。
そしていよいよ相対マップ上に映った野生動物達の気配が近付いてくると、茂みの陰から慎重に周囲の状況を窺う。
「あれは・・・例のドラゴン達か・・・?」
やがてその視界の先に恐らくは雌雄の営みに耽っているのだろう雌雄2組のドラゴンを見つけると、私は周囲に他の生物がいないことを確認してから注意深く彼らの様子を観察していた。

全身に肌理の細かい茶色い鱗を纏った尻尾の長いドラゴン・・・あれが、恐らく雄だろう。
そして雄にうつ伏せに組み伏されてその肉棒を何度と無く打ち付けられている、体中を暗い緑色の鱗に覆われた一回り小さな個体の方が雌なのに違いない。
余程交尾に夢中になっているのか、そこからほんの15メートル程離れたところに立っていた私の存在にはどちらの番いも全く気が付いていないようだった。
「アッ・・・オウッ・・・ウオアッ・・・!」
ドスッ、ドスッという鈍い音とともに雄ドラゴンの腰が振られる度に、静かな森の中へ甲高い雌の嬌声が響き渡っていく。
「いや・・・違うな・・・」
嬌声というよりも、あれはどちらかと言えば悲鳴に近いようだ。
その証拠に、こちらから微かに見える雌の横顔には明らかな苦痛の表情が滲んでいる。
雄の方は雄の方で、まるで正気を失っているかのように虚ろな瞳で中空を見つめながらまるで何かに取り憑かれたかのように一心不乱に腰を振り続けているのだ。

そしてその数秒後・・・
「ウアオアァッ!」
突然雌のドラゴンが激しい咆哮を上げたかと思うと、2匹の結合部から大量の白い粘液が溢れ出していた。
「ガ・・・アゥ・・・」
相当に激しい射精だったのか、精を放った方の雄もまるで体中の力を残らず使い果たしたかのように組み伏せていた雌の上へぐったりと崩れ落ちていく。
「・・・?」
だが次の瞬間、私はつい今し方目の前で果てたはずの雌雄のドラゴンがピクリとも動かないことに気が付いていた。
「まさか・・・死んでる・・・?」
いや・・・雄のドラゴンからはもう生体反応を感じないが、雌の方はまだ辛うじて息があるらしい。
しかしそれでも虫の息であることには違い無いらしく、自身の背中に圧し掛かっている雄の亡骸を除ける力さえもが既に失われてしまっているらしかった。
「オウアァッ!」
やがてそうこうしている内に、どうやらもう一方の雌雄も絶頂の極みに達したらしい。
そして先の連中と同じように大量の白濁を吐き出した雄がそのまま絶命すると、体内に大量の精を注ぎ込まれた雌がやはり瀕死の様子でヒクヒクとその身を痙攣させていた。

「リーダー、聞こえますか?」
「ああ・・・モニターも見ている。一体何が起こったんだ?」
「恐らく、あの雄のドラゴンは例の樹木に寄生されていた個体です」
私はそう言うと、どうやら昨日の私がそうだったように徐々に心臓が止まりつつあるらしい雌のドラゴンへと近付いていった。
「もしそうだとしたら、彼らは樹木の繁殖の為に操られているはずだろう?何故こんなところで交尾をしてるんだ?」
「それは分かりません・・・しかし息絶えたということは、もう役目を終えたということなのでしょう」
自分で言いながら、私はふと脳裏に恐ろしい想像を浮かべていた。
根の触手で捕らえた獲物に寄生したあの樹木の目的は、子孫の繁栄・・・それは間違い無いだろう。
当初はその糞に種子を混ぜることで繁殖範囲を拡大していくのかと思っていたのだが、それでは種子を広範囲にばら撒くことは出来ても効率的な繁殖が出来るとは限らない。
何しろ、これ程立派で巨大な樹木になるには当然のことながら相応の養分が必要だからだ。
つまり、確実な繁殖の為には種子とともに発芽に十分な養分をも同時に確保する必要があるということになる。

「ア・・・アゥ・・・」
私は今にも息絶えそうな雌のドラゴンの間近までやってくると、何処か虚ろな瞳でこちらを見つめている彼女がそのまま静かに息を引き取る瞬間を目の当たりにしていた。
恐らくは昨日の私も、こうして徐々に弱っていく心臓の音を聞きながらゆっくりと死を迎えたのだろう。
しかし木の根から直接寄生源を植え付けられた私やこの雄のドラゴンと違い、性交によって間接的に寄生された雌の方は果たして同じように復活するのだろうか?
それとも私の想像通り、このまま2匹ともここで、樹木の養分として発芽の苗床にされてしまうのだろうか?
本当ならローバーを呼び寄せて彼らの亡骸を回収した上でその繁殖のメカニズムを解明したいところではあるのだが、残念ながら今は寄生されたCIの確保が最優先事項だ。
複数の熱源が固まっていたここにいなかったとすると、他に散在している熱源を個別に当たっていくしか無いだろう。

「4匹のドラゴンの死亡を確認。リーダー、ローバーは遠隔操作で彼らの回収作業を行えますか?」
「いや・・・小さな物なら付属のマニピュレーターで回収出来るが、そのサイズとなると単独では不可能だ」
まあ、それはそうだろう。
「ではこの場所の座標を記録願います。後々モニターすれば、樹木の繁殖方法については解明出来るかも知れません」
「分かった。それとCI、捜索中の目標だが・・・もしかしたら熱源探知に掛からない可能性があるかも知れん」
何だって?熱源探知に掛からない?
「何故です?」
「CIの素体はイグアナ・・・つまり爬虫類をベースにしている。EMP爆弾で全電子制御から解放された今は・・・」
「体温も冷血動物のそれになっていると?」
成る程・・・確かに、その可能性が無いとは言い切れない。
特に一旦は死を迎えて全身の生体細胞が活動を止めたわけだから、寄生されて操られた今は単純な神経反射だけで動いていて、体温があったとしても極めて低温状態になっている可能性はある。
仮に十分体温が高かったとしても精々外気温と同程度だろうし、そうなれば熱源探知で探すのは難しいに違いない。

「あくまでも仮定の話だ。ただ、気を付けた方が良いだろう。熱源探知は過信せず、動体センサーを頼りに探すんだ」
「了解」
動体センサー頼りか・・・
無数の草木が揺れ動くこの深い森の中では、正直なところ動体センサーもそれ程役に立たないと言って良い。
あくまでも物資の加速度の変化を捉える為の機器だから低速で等速運動しているような物を検知することは難しいし、それでなくても今は高速で襲い来る木の根を一瞬捉えることが出来る程度にまで感度を下げているのだ。
故意か偶然かにかかわらず低体温の動物に静かに忍び寄られたとしたら、流石の私にもそれを察知出来る自信は無い。
ガサッ・・・
だが次の瞬間、私は不意に背後から聞こえて来た茂みを揺する音にビクンと体を硬直させると勢い良く音のした方に顔を振り向けたのだった。

「・・・?」
何もいない・・・?
明らかにただ風で茂みが揺れたのとは違うだろう大きな音がしたというのに、振り向いた先に広がっていたのは別段普段と変わらぬ森の景色。
それに、例によって動体センサーには何の反応も見られなかった。
「気のせいか・・・」
これまでこの深い森の中で各種のセンサーを頼りに生物の気配を探知してきたというのに、突然それらが全て役に立たなくなってしまったかも知れないという不安が私の心を掻き乱していた。
「落ち着けCI。強走剤のお陰で心拍数こそ抑えられているが、お前の焦りようは手に取るように伝わってくるぞ」
「りょ、了解・・・」

とにかく・・・任務を続けなくては・・・
寄生された雄のドラゴンと性交した雌が雄とともに絶命してしまったのが仮にあの樹木の正常な繁殖形態に沿ったものだとしたら、寄生されたCIの今後の行動は概ね予測が付く。
つまり、番いとなる雌の個体を見つけて性交に及ぶということだ。
私の体はあらゆる生物と雌雄を問わず交尾が可能な生殖器と機能を備えているから、寄生されたCIも相手の性別が雌でさえあればその種族を問わず襲い掛かる可能性があるだろう。
そういう意味では既にもう何処かで別の生物の雌と共倒れになっているというケースも考えられるのだが、もし寄生された生物の脳に同種の生物を探す因子が組み込まれていたとしたらそのターゲットは間違い無くこの私だ。
だがEMP爆弾で全ての電子機器を破壊され少なくとも片腕は滅失しているか酷く損傷しているはずの寄生されたCIが、この広大な森の中でその本能だけで私を探し当てるのは容易なことではないはず・・・
そう考えれば、確かに必要以上にビクビクすることは無いのかも知れない。

「!」
しかし次の瞬間、今度は一瞬だけ動体センサーに何かの影が映り込んでいた。
それも、一時的に後ろを振り向いていた私の更に背後から・・・
つまりこいつは、明らかに私の死角をついて移動している何らかの生物だということになる。
移動距離と動体センサーの感知時間から考えてそれ程高速で移動しているわけではないらしいが、状況から考えてもこの私を狙っていることだけは確かなようだ。
だが本当の問題は、これだけ至近距離に潜んでいるはずの何者かの存在を熱源感知出来ないという事実の方だった。
いや・・・それでもまだ、相手がCIだとは限らないはず。
生物の進化の過程を鑑みてもこのFarthに変温動物が存在していないというのは考えられないし、或いは解析班の見解が間違っていて何らかの理由でまた木の根がその活発さを取り戻してしまったのかも知れない。
とにかく、死角を減らす為に今は少しでも視界の開けた場所へ移動した方が懸命だろう。
木の幹に背中を預けて様子を見るという選択肢も頭の中には浮かんだのだが、昨日はそれが引き金になって手足を拘束されてしまっただけに、解析班の言葉を疑うわけではないもののどうしても理性がそれを拒絶してしまうのだ。

「リーダー、警戒の為に記録用カメラを後方に向けたいのですが、バックアップをお願い出来ますか?」
「分かった。背後の警戒はこちらの視認で行う。それと念の為、熱源感知と動体センサーの閾値を下げておけ」
「了解」
確かに、何よりも自分の身を護らなければならないこの状況においては少しでも周囲の変化に神経を尖らせる必要があるだろう。
私はリーダーの指示通り熱源の感知閾値を周囲の平均外気温と同じに、動体センサーの感知速度を時速1キロメートルにまで下げていた。
「うっ・・・」
当然そんなに低速で動く物体を感知したのでは揺れ動く木々や茂みの葉をも悉く感知してしまうせいでセンサー反応だらけになってしまうのだが、少なくとも自分の周囲の空間だけは完璧に動体を検知出来るだろう。
熱源感知の方も木々の葉による蒸散や陽光の当たり具合の変化で局所的な気温にムラが出来ているお陰で特定の何かの生物の影を捉えることは難しいが、強い風さえ吹かなければ生物の移動の痕跡くらいは見えそうだ。
尤も、それをしたからといって突然襲ってくる何かに反応と対応が出来るかどうかはまた別の話なのだが・・・

「では、カメラを後方に向けます」
「一応武器も使えるようにしておけ。標的をなるべく無傷で捕らえたいところではあるが、今はそうも言ってられん」
それはつまりスタンガンやゴム銃などのような非殺傷性の武器ではなく・・・
威力の大きな殺傷用の武器を使用することも念頭に置けという意味だろう。
「了解。高出力フィンガーレーザーと超振動クローのセーフティをアンロックします」
これなら私の左右の指先に装備された武器だから昨日のように武器の格納部を拘束されて使えなくなることも無いし、突然襲い掛かってきた敵と近接戦闘になったとしても十分な威力を発揮するはず。
そして当初の予定通り船からモニターしている記録用のカメラを自分の後方へ向けると、私は視界の中に展開される動体センサーと熱源感知モニターを凝視しながらゆっくりと移動を開始していた。

それから数分後・・・
「よし・・・この辺りなら大丈夫なはずだ・・・」
私は鬱蒼と草木の茂った森の中でも比較的開けた場所を見つけると、一先ず大きく息を吐いていた。
まだはっきりと確証があるわけではなかったものの、先程から何かが私の周囲に付き纏っているような感覚がある。
だが、今のところは私から半径7メートル程のエリアでは動体センサーにも熱源探知にも反応は無い。
「CI、大丈夫か?」
「はい。今のところは異常ありません・・・ん?」
とその時、私はふと足下にあの麻薬花が1輪だけ咲いていることに気が付いていた。
色取り取りの花弁を揺らす美しくも奇妙な花だが、昨日この花の植性を調査した時は複数の花が群生していたはず。
恐らくは私が想像したように、実際にこれは自在に木の根を操って獲物を捕らえる周囲の樹木達にとっては天然の痺れ罠の機能を有する花なのだろう。
だが幾ら周りを見渡してみても、他に同じ花が咲いている様子は無い。
まあこの花の植性はまだ調査中だから詳しいことは判らないが、少なくとも樹木が疎らなこの周辺ではこの花が幾ら群れて咲いていたところで大した役には立たないはずだ。

「どうかしたか?」
「あの麻薬花が、ここに1輪だけ咲いています。土が均されているので、誰かが人為的に植え替えたのかも・・・」
だがそう思って間近から花を見下ろした次の瞬間、リーダーの逼迫した声が私の耳に突き刺さっていた。
「CI!上だ!」
視線を下に向けたことで必然的に私の後ろ上方を捉えた記録用のカメラ・・・
そこに映ったのであろう何者かが、一瞬遅れて動体センサーと熱源感知の検知範囲に飛び込んでくる。
しまった・・・!
木々の梢で揺れる葉を検知しないよう、各種センサーのZ軸方向には3.5メートルの検知範囲しか設定していなかったのが仇となったのだ。
だが樹上から飛び降りて来たのだろうそれを確認する間も無く、私は背後から凄まじい重量と衝撃を叩き付けられていた。

ドドッ!ドサッ!
「ぐあっ!」
一瞬にして地面の上に背後から組み敷かれ、右の腕が湿った黒土の上に押し付けられる。
だが私の右腕を掴んでいるそれは・・・紛れも無くこの私の右手だった。
「標的のCI、出現しました!」
船内で飛び交うそんな女性の声が、微かに私の耳にも届いてくる。
だがやはりEMP爆弾の衝撃で左腕は吹き飛んだのか、高出力フィンガーレーザーを搭載していた私の左腕は依然として何の拘束も受けてはいなかった。
よし・・・これなら何とか・・・
指先さえ背後に向けることが出来れば、少なくともこいつに手傷は負わせられるはず・・・
それに唯一自由の利く片腕で私の右腕を掴んでいる限り、こいつから大した攻撃を受ける危険は無いだろう。

「CI、攻撃しても構わん!とにかく、一旦その状況から離脱しろ!」
「りょ、了解・・・!」
もちろん、言われなくともそうするつもりだ。
だが地面を掻いていた左手を引っ繰り返そうとしたその時・・・
私はどういうわけか体がピクリとも動かないことに気が付いていた。
な・・・何だ?体が・・・麻痺・・・している・・・?
その瞬間、私はハッと息を呑んでいた。
このCIに押し倒された時、私の体の下にはあの麻薬花があった。
無数の毒棘を有するあの花に盛大に腹を打ち付けてしまった今、もしや無数の麻痺毒が私の全身を駆け巡っているのでは・・・
つまりあの花は、私の注意を引き付けると同時に私の拘束までを見越してこのCIが植え替えた罠だったのだ。

「う・・・ぐ・・・」
最早腕だけとは言わず、全身が全くと言って良い程にピクリとも動かない。
群生した麻薬花の毒棘に表皮を掠ったくらいでは局所的に感覚が無くなる程度の軽度の麻痺で済んだというのに、心臓に近い体の中心部に深く棘を刺すとたった1輪でこれ程までに深刻な症状を来たすのか・・・
いや・・・それでも、体内のナノマシンが多少なりとも解毒を進めているはず・・
今は全く体が動かないが、しばらくすれば麻痺自体は解けるはずなのだ。
このCIの目的が私の殺害ではなく交尾をすることなのだとしたら、何とかそれまで耐え凌げば良いだけのこと。
しかしそんな私の思惑は、直後に敢え無く打ち砕かれていた。

バキッ!ガブ・・・メシャッ・・・
「うあっ!」
次の瞬間、私は掴まれていた右腕を後ろへ捻り上げられるとそのままCIに噛み付かれていた。
そして手首の辺りに鋭い牙を容赦無く突き立てられると、何度も咀嚼するようにして右手をズタズタにされてしまう。
幸いというべきか麻痺毒のお陰で苦痛の類はほとんど感じなかったものの、私は自分と同じ姿をした相手を微塵の躊躇いも無く痛め付けるその冷酷さに背筋を震わせていた。
ドサッ・・・
やがて既に原型を留めていない血だらけの右手が地面の上に投げ出されると、背中の上のCIが少し体勢を変えた気配が伝わってくる。
ま、まずい・・・こいつの目的は、まず私を完全に無力化すること・・・つまり、左手も破壊する気だ!
しかしそれが分かったからといっても、今の私にはどうすることも出来なかった。
そしてまるで私に見せ付けるかのように、CIの右手がゆっくりと私の左腕を持ち上げていく。
「ひ・・・ひっ・・・」
メキ・・・ミシ・・・
そして肩の関節が悲鳴を上げることなどお構い無しに無理矢理腕を反対側へ引っ張られると、バキッという肩の砕ける嫌な感触が全身に響き渡っていた。
グシッ・・・グシャッグシッ!ベギギッ・・・
更にはそのままの体勢で左手も無惨に噛み砕かれ、正視に耐えない血塗れの肉塊が再び地面の上に投げ捨てられる。
これだけのことをされても苦痛の類を全く感じないことだけが救いではあったものの、完全に反撃の術を失ってしまった私は最早このCIにとっては余りに無力な俎上の鯉でしかない。

そしていよいよ本来の目的である交尾に及ぶべく、CIがゆっくりと私の背中にしな垂れ掛かってきた。
ズッ・・・ズブブ・・・
「ぐあぁっ・・・!」
二股に分かれた歪な肉棒が、あろうことか私の性器と尻穴へ同時に挿入されていく。
ズズッ・・・ズグ・・・グブブ・・・
「ひっ・・・や、止め・・・がぁ・・・ぁ・・・」
体内の麻痺毒の解毒が進んだのか、或いは花が1輪だけだったから毒の量が少なかっただけなのか、徐々に徐々にではあるが体の感覚が戻りつつある気がする。
だが完全に破壊された両手の痛みを感じるより先に、私は体内に押し込まれた2本の異物の感触に戦慄していた。
グググ・・・ズズン!
「ぎゃはっ!」
微塵の躊躇も無く尻穴と肉洞の双方へ根元まで突き入れられた、極太の怪槍。
しかし自身にも備わっているその性器が持つ機能を知っているだけに、黒々とした恐怖と不安が私の胸の内を満たしていった。

「よ、止せ・・・た、頼むから・・・あ・・・はぁ・・・」
自分の姿をした・・・いや、紛れも無い自分の分身に強引に犯されて、無様に助けを求めてしまうという屈辱。
これから自分の身に起こることを知って恐れ戦いている私の姿を堪能しているのか、どうやら背後のCIはほんの1分程じっと動かずに私の様子を観察していたらしい。
だが私の中にある種の諦観が芽生え始めたことを敏感に感じ取ると、いよいよCIが私の首をその右手で地面の上に押さえ付けていた。
ググッ・・・
いや・・・もしかしたらこいつは、私の体から完全に麻痺が抜けるのを待っていただけなのかも知れない。
その可能性に思い当たった瞬間、私は思わず情けない悲鳴を上げていた。
「う、うわああああぁぁぁぁ〜〜〜〜!」
そんな私の叫び声をまるで掻き消すかのように、凄まじい勢いで振動を始めた2本の肉棒がまるで私の肉洞と直腸を抉るように超高速で左右に反復回転し始めていた。
ビィィィィィィン・・・ゴシャシャシャシャシャシャッ!
「ぎゃばあああああぁっ!」
本来は出力を調整してありとあらゆる種の雌を絶頂させる為の補助機能が、掛け値無しの全力で私の敏感な秘部を蹂躙していく。
EMP爆弾の爆発でCIに搭載されていた全ての電子機器は破壊されたはずだというのに、複雑な回路基盤を使用しない単純なモーター駆動による性器の機能は依然として十分稼動しているらしかった。

ブシャッ・・・ブシュシュ・・・
「が・・・あが・・・が・・・」
その苦痛とも快感とも判別の付かない壮絶な刺激に、一瞬にして射精を強要されてしまう。
ブィィィィィィィィィィン・・・
「ぐががががぁっ・・・!」
だがスリットから飛び出した2本の肉棒が盛大に精を放ったにもかかわらず、まるで無感情に私の局部を責める背後のCIが更に強烈な振動を送り込んできた。
ビュビュッ・・・ブシュッ・・・
「あぐぐ・・・うあぁっ・・・」
末端の麻痺した体を背後から組み敷かれた挙句に容赦の無い連続射精を味わわされ、まるで直接エネルギーでも吸い取られているのではないかと思えるような凄まじい疲労感が全身の力を奪っていく。
そして一頻り私の中を掻き回して数度の精を搾り取られると、ようやくCIがその動きを止めていた。

「が・・・はぁ・・・」
幾度と無く大量に吐き出した白濁の海に沈められながら、今度は何をされるのかという不安が心中に込み上げてくる。
「CI、奴は本格的な交尾の体勢に入ろうとしているようだ。今の内に何とか反撃出来ないか?」
「む、無理です・・・多少の感覚はありますが、全身の運動神経が麻痺していて・・・」
しかしそんな私とリーダーとの通信に、不意に女性の船員が割り込んでくる。
「CI、立体起動装置よ。後方に推進用のバックブラストが装備されてるから、上手く行けば敵を吹き飛ばせるわ!」
「た、確かに・・・よしCI、こちらから遠隔でセーフティをアンロックする。タイミングを見て起動しろ」
「りょ、了解・・・!」
確かに、彼女の言うことは尤もだ。
この私の体重を水平方向に射出出来るだけの出力を備えた立体起動装置のバックブラストなら、直撃すれば背後のCIを吹き飛ばすことは十分に出来るはず。
しかし問題は、果たしてこのCIにそれが通用するのかということだった。
こいつが麻薬花を使って私の体を麻痺させたのは、当然の如く予想される反撃を防ぐ目的のはず。
熱源探知や動体センサーに掛からないよう遥か上方から襲ってきたことといい、幾ら正気を失っているとは言っても相当に知能が高いだろうことは容易に推察出来る。

「よし、立体起動装置のセーフティはアンロックした。何時でも良いぞ、CI」
そうは言うものの、全身の感覚が希薄な上に背後の様子が全く見えないのではタイミングなど計りようもない。
方法があるとしたら、CIが交尾の為にそのペニスをより深く私の中へ押し込んだ瞬間を狙うより他に無いだろう。
だが悠長に状況を整理している暇などあるはずもなく、"その瞬間"は思ったよりも早くに訪れていた。
ズズ・・・ズンッ!
「くあっ!」
溜めた腰を一気に突き出したのだろう強烈な挿入の衝撃が、私の体を一直線に貫いていく。
い、今だ・・・!
そして迷っている暇など無いと即座に覚悟を決めると、私は反作用による多少の被害を覚悟しながらも最大出力で立体起動装置のバックブラストを起動していた。

ドゥッ!
「がはっ・・・!」
地面に体を密着させた状態でのバックブラストの起動・・・
まるで体重の数倍の重量で全身を押し潰されるかのような圧迫感に、一瞬にして呼吸が止まり意識が薄れていく。
だが次の瞬間、私の耳にリーダー達の驚いた声が飛び込んできていた。
「なっ・・・!?か、かわされた!」
最後の挿入の瞬間に私が反撃に出ることを予見していたのか、どうやらCIは強力な推進力を得る為に細く絞られたバックブラストの射出口からだけ微かに体を捩って身をかわしていたらしい。
「そ、そんな・・・あぁっ・・・!」
ドズッ!
そしてその射出口を塞ぐようにあろうことか自分自身の尻尾の先端を捻じ込まれると、私は今度こそ反撃の手段を全て失ってしまっていた。
やがてそんな絶望に沈んだ私の心に追い打ちを掛けるように、根元まで突き入れられたCIのヘミペニスが再び高速で振動と反転を繰り返していく。
ゴシャシャシャシャッ!ブィィィィィィン・・・!
「ひぎゃあああっ!」

ドシュッ!ブシュシュ・・・!
「あ・・・があぁ・・・」
次の瞬間、私は背後のCIのそれとほとんど同時に再び精を放ってしまっていた。
体内を熱い何かが駆け抜けていくおぞましい感触に、私は性交の末に命を落としたあのドラゴン達を思い出していた。
ドサッ・・・
「うっ・・・?」
そして不意に背後に預けられた重量にようやく少しだけ動くようになった首を傾けてみると、役目を終えて絶命したらしいCIがぐったりと力無く私の背中の上に倒れ込んでいる。
これで・・・私も後数分の命か・・・
だがそんな諦観におとなしく自身の運命を受け入れていると、私のバイタルをモニターしている女性船員の1人が声を掛けてきた。

「CI、聞こえる?」
「え、ええ・・・聞こえます」
「ちょっと意外な事実なんだけど、あの雌ドラゴンと同じく二次寄生を受けたはずなのに心拍の弱化が見られないの」
心拍の弱化が見られない・・・?
「これは私の憶測なんだけど、多分強走剤の先行作用のお陰で心筋の弱化症状がブロックされてるんだわ」
「つまり?」
「強走剤の効果が続いてる後数時間くらいは、正常に活動出来るはずよ」
それを聞いて、恐らくはそれまで沈痛な面持ちを浮かべていたのだろうリーダーが少しばかり声を弾ませる。
「それは朗報だ。CI、丁度今し方ローバーとサンプルを回収したから、これからローバーをそちらに向かわせる」
「了解。それでは、当初の想定通りCIの遺体を回収します」
私はそう言うと、ずっしりと重いCIの体の下からやっとのことで這い出していた。
これが・・・昨日の私か・・・
EMP爆弾の爆発で無惨に左腕が吹き飛んだ、何処からどう見ても私そのもののCIの姿。
全身に搭載されている電子機器のほとんどは故障して使い物にならなくなっただろうに、彼は樹木に寄生された生殖用のゾンビとして丸一日この森の中を彷徨っていたのだろう。

そしてそれから約1時間後・・・
私は遠隔操作で送られてきたローバーにCIの遺体を積み込むと、自身もその操縦席に乗り込んでいた。
だが何時強走剤の効果が切れて心拍弱化が起こるか分からないだけに、一応操縦モードは自動操縦に切り替えておいた方が良いだろう。
「ふぅ・・・後数時間の命だけど・・・今回は初めて生きたまま帰還出来そうだな・・・」
そんな独り言に、私は船内でも安堵の息が漏れたのがスピーカーから微かに聞こえてきたような気がしたのだった。

「お帰り、CI!」
「よく戻ったな!無事で何よりだ」
確実に船に戻れるよう安全なルートを割り出して慎重に森の中を進んできたことで帰りは約2時間もの時間が掛かってしまったものの、私は何事も無く船に辿り着くとリーダーや船員達から熱い歓迎を受けていた。
「はい・・・任務、完了しました」
「回収した遺体は大至急解析班の方へ回して。CIはすぐに精密検査よ」
「まあ待て。CI、後の調査はこちらで引き継げるからお前が望むなら終末処置を取ることも出来るが、どうする?」
終末措置・・・今現在の私の調査データを取り出して生体機能だけを停止させる、いわゆる安楽死措置のことだろう。
確かに後数時間もすれば強走剤の効果が切れ二次寄生による心拍弱化が始まり、私はそのまま死を迎えることになる。
彼の提案は、これまでの数日間苛酷な調査で無惨な最期を遂げ続けてきた私に対するせめてもの心遣いなのだろう。
「いえ・・・二次寄生でどのような変化が起こるのか未知数なので、調査は最後まで続けます。検査をしてください」
「そうか・・・分かった。すぐに検査室へ通してやれ。CI・・・ありがとう」
私はそれを聞いた瞬間、私の見えないところでリーダーがどれ程今回の環境調査任務に大きな苦悩と葛藤を抱えていたのかを理解してしまっていた。
私が何の感情も持たぬただの無機質なロボットか何かであれば問題は無かったのだろうが、なまじ普通の生物と同じ感情や機能を有しているだけに危険な調査に派遣することに対する罪悪感のようなものを感じていたのに違いない。
しかしそれは同時に、彼が単なるデータとクローン素体から構成された私という存在を共にこの奇妙な惑星の調査に臨む明確な一個の仲間として認識してくれていることの表れでもあった。

やがて検査室へ通されると、私は朝目覚めた時と同じように船室の中央のあるベッドへと寝かされていた。
そしてデータの抽出とより精密な身体データをモニタリングされ、ここからの経過を具に観察されることになるのだ。
「CI、気分はどう?」
「ああ・・・悪くない。データはどう?」
「今のところは特に異常は無いわ。強走剤の効果はそろそろ切れる頃だと思うけど・・・」
船に帰還してから約2時間・・・確かに、そろそろ強走剤の使用から6時間が経つ頃だ。
とその時、私の心拍をモニターしていた女性船員が声を上げる。
「心筋の活動が再活発化しました。強走剤の効果が切れたようです」
「分かったわ。心拍数をモニターしておいて。それと、エピネフリンの準備よ」
「いや・・・昇圧剤は必要無いよ。どちらにしろ、私は助からない。それよりも、寄生の実態を解剖して調べてくれ」
そんな私の言葉に、船員が困惑の声を上げる。
「でもCI・・・もしかしたら、樹木に寄生されてからでも救える方法を見つけられるかも知れないわ」
「それなら尚更、私を解剖するべきだ。もし方法を見つけられたら、起動時のバックアップデータに組み込んでくれ」
「CI、心拍弱化始まりました。現在45です」

そんな静かな会話の最中に淡々と告げられ始めた、死へと続くカウントダウン。
だが昨日既にこの状況を体験している私に、もう恐怖は無かった。
判断に迷ったらしい彼女がリーダーの方へ顔を向けたものの、彼もまた私の意見に賛成だったらしい。
「CIの望み通りにしてやれ・・・彼は、延命が無意味なことをこの場にいる誰よりも知っているんだ」
「心拍数更に低下、現在36です」
「分かりました・・・CIの全データをリアルタイムでモニターよ。解析班にも解剖の準備を急がせて」
やはり、彼女も優秀な調査スタッフだ・・・
自身の感情を押し殺してでも忠実に任務を全うすることは、決して簡単なことではないのだから。
「心拍数、21まで低下しました」
「CI、大丈夫?」
「ああ・・・景色から色が消えた・・・そ、そりょそりょ・・・りょれちゅも・・・」
徐々に徐々に壊れていく、私の無惨な姿・・・
しかし、この部屋の中にその光景から目を逸らしている者達はただの1人もいない。
「心拍数0・・・Farth8 1622・・・CI、機能停止しました」
そして薄れ行く意識の中で、私は自身の死を告げる船員の声を微かに聞いたような気がしたのだった。

「CI・・・」
またしても・・・しかも今度はほんの目と鼻の先でその命の灯火を消した尊い仲間の姿に、私は他の誰にも聞こえない程の小さな声で彼の名を呼んでいた。
調査の開始から1週間・・・ようやく初めてCIが調査から"生還"したというのに、この期に及んでも私は結局彼の命を救うことが出来なかったのだ。
もちろん、CIにはCIなりの任務に対する矜持があったのは確かだろう。
しかし昇圧剤の投与を拒否してまでも樹木に二次寄生された犠牲者の運命を全うしようとしたその覚悟は、たとえ生物学的な"死"そのものから外れた存在である彼にとっても容易に持ち得るものではなかったはず。
だがもしかしたらその引き金になったのは、私が彼に言った"重要な任務"という一言だったかも知れないのだ。

「リーダー・・・今後の指示は・・・?」
やがてじっと押し黙っていた私の様子を不審に思ったのか、CIの最期を看取った彼女がそんな声を掛けてくる。
「ん・・・ああ・・・CIを大至急解剖へ回してくれ。それと、船の移動の準備だ。明日からは調査エリアを変更する」
「了解です。それで、次の目的地は何処に・・・?」
「ここから2000キロ程北上し、亜寒帯の調査に移る。着陸場所は現地付近で4ヘクタール程度の平原を探してくれ」
そんな私の指示に、全員が一斉に頷く。
「それと、解析班へのCIの移送が終わったら休憩にするとしよう。皆、今日もご苦労だった」
私はそう言い残すと、一足早く船室を後にしていた。
何を弱気になっているのだ、私は・・・
CIの死を無駄にしない為にもこの調査に全力を尽くすと、私は毎日のように自身に誓っているというのに・・・
だがベッドからストレッチャーに移されたCIが船室を出て解析班の待つドックの方へ運ばれて行ったのを見送ると、私は明日から始まるだろう新たな調査に向けて英気を養うべく食堂へと足を向けたのだった。

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