『竜神様、御願いがあります』

『供え物』を我の前に置いた娘の手が合わさる。紅潮する白い肌、震える唇。
それでも彼女は、言葉を紡いだ。

『私の、はじめてを、もらって下さい』

はじめてとは……処女を捧げる事。我に?

わ、我は……どうすればよいのだ?

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

事の起りは十数年前に遡る。

我は竜神。人の世でいう昭和の時代。古の大河より分かれし瑞々しき流れを守護するモノ
として造られた……筈だった。務めを果たさずして、祭られしばかりの我と社(やしろ)
はヒトの争いに焼かれ、飲まれたのだ。

願われ報いる、それが我が務めであり存在。

それは失われた。力は無くもう名前すら思い出せない程に衰弱し、神体の鏡と共に錆び朽
ち逝くのを待つばかりの歳月。
我は疲れていた。ひたすらに飽いていた。無意味に磨耗していくその日々に。永の眠りで
すらこの空虚は埋められぬ。

誰か。

誰でもよい。潰える前に一度だけ、我を……。

『ねえねぇ、おかあさぁん! こんなとこになにかおちてるよ?』

ふいにさしのべられた小さな手。幼き娘が我の孤独を拾い上げた。
彼女の名は永鋤 好美(ながすき このみ)。それが最初の出会いであった。

『んしょ。んしょ。ママ、小枝もってきたよ』

『その枝は棘が出てるから気をつけなさい。…・・・さてと、これでいいかしら?』

好美は母親と共に、ままごとの範疇ではあったが簡素な社を造ってくれた。手を合わせる
二人。唱和する声。

『おかあさんのからだがじょうぶになりますように』

『好美が元気に育ちますように』

……願われた。残念ながら叶える力は無かったが、今一度務めを果たす事を請われた。
これ以上の喜びが他にあろうか。我はその願いが叶う事を切に望んだ。

その後数年間。好美は何度も我の社を訪れては、他愛の無い雑談や小さな願い事等に興じ
た。今思えば幼子が玩具に友愛を求める感覚だったのかもしれないが、それでも我の無聊
を随分と慰めてくれたのは間違いない。

しかしある日を境に好美は我の前から去った。幾日か前にどこか遠くの街に住処を移すら
しい事を話していたので、覚悟はしていたが一抹の寂しさは延々と我を蝕み続けた。

また、我は独りになった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

さらに十数年後。訪れる者は無く社も再び朽ち果てた。我の鏡もほぼ錆の塊と化し、やが
て金屑と化すであろう。もはや外の様子すらおぼろげにしか分からない。
しかし我は消えなかった。笑ってくれてもよい。あの娘、好美との日々が我を現世に繋ぎ
止めていたのだ。ある筈の無い再会を願って。

こうしてどれだけ時を刻んだであろうか。

『嘘? 本当に、まだ、あった……』

若き娘の声と手が、我の末期を救い上げた。

『よかった……! でも、こんなになって。ゴメンね。本当にゴメンね……』

泣いている見知らぬ温もりと声。しかし我は識っていた。あの娘が、好美が帰って来たのだ。

『引越しした後も時々夢に出てきたの。でも中々来る機会が無くて……ほったらかしにさ
れて怒ってるよね?』

(そんな事は無い! また逢えただけで我は嬉しいぞ)

聞こえる筈もなかろうに我は思わず応えていた。彼女はハッと顔を上げると何かを思い出
す様に首をかしげていたが、急に慌てて我を地面に置く。

『ごめんっ! 肝心なモノを自転車に忘れてた。スグ戻ってくるから待っててー!』

近くの木の根にでも引っ掛かったらしく、よろめきながら離れていく好美の気配。程無
く戻ってきた彼女は我を何かの中へ安置した。木製の小屋か棚の様な箱だ。
そして次第に明瞭になっていく視界。戻っていく力。

これはまさか……なんという事だろう。我は、我は再び祭られたのだ!

『小学生の時工作で作ったんだよ。粗末で申し訳ないけどしばらくこれで我慢してね』

謝罪か祈りか、手を合わせながら語りかける娘。黒髪を後ろに束ね、顔付きは大人に近づ
いていたが紛れも無い好美だった。
彼女の想いが社を通じて我に活力を注ぎ込んでくる。神たる者が言うのも可笑しいが、奇
跡としか思えない。

『高校が転校になってまたこちらに引っ越してきたから、今後とも宜しく御願いします』

深々とお辞儀をした瞬間垣間見えたうなじに、我は何故か見とれてしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


願いを告げる拍手(かしわで)の音が幾度と無く積み重なる日々。好美と我の日常が再び始
まった。

――パン、パン。

『明日の期末テストなんだけど、数学がちょー危ないの。せめて赤点取りません様に』

(鯛焼き買ってここに来る暇があるなら勉強せい)

『お供え物も出さずに何を言うかって? じゃあ鯛焼き半分あげるからさっ』

(……約束はできぬぞ)

結局赤点は免れたようではあった。

――パン、パン。

『となりのクラスにカッコいい男子がいるんだけど、結構ライバル多そうなんだ。偶然の
出会いとか無いかなぁ』

(……それは我の務めではない。他を当たれい)

縁結びの心得は多少はあったが本職ではない。とにかく知らぬ。

『ねね。やっぱりちょっとエッチな下着とか選んだ方がいいのかな? も、もちろんいき
なり見せたりしないけど、廊下でぶつかったひょーしにとか……キャッ』

(だから、そのような色事は我は知らぬし興味も無い!)

『はしたない真似は止めなさいって? うーんそうだよね。やっぱり清純派路線でいこう
かなっ。うんうん』

(…………)

――パン、パン。

『水泳の時とか皆アタシを頭でっかち胸貧乳とか言ってからかうの。成績で叶わないから
だって思ってもなんかもう……確かに言えてるのよね。お願い。アタシの胸を大きくして
くださいっ!』

(わ、我を何の神だと思っておるのだっ!)

む、胸は見せんでもよい。はしたない真似はよさぬか、よさぬかと言っておる!

『はぁい。ご開帳。……か、形はいいと思うんだけど、どうかな?』

……我は見なかった事にした。

繰り返すが我の声は好美には届いていない。とりあえず彼女について分かったのは、概ね
才色兼備と言えるものの年頃の娘としては幾分かずれている性格だった。

一度壁を越えたら遠慮が無い。それ故周囲からも浮いた存在であるようで、生じる鬱憤を
我に話す事で解消しようとしているのだろう。
その点では力になってやりたいが、蘇ったばかりで神としての力は殆ど無い。口惜しいが
我にできるのはささやかな助けでしか無い。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『もう駄目眠ぃー。宿題一度ぐらいさぼっても……ぃけないそんな事かんがえちゃぁ……
グーグー』

ゴトンッ!

『いったぁーい! ……ってなんで辞書が落ちてくるのよ。まあ目覚めたしいっか』

(蟻の穴から堤もなんとやらだそうだからな。油断するでない)

好美の部屋。手足となる眷属を持たない我はこうして直接出向くしかない。手荒な手段で
あるものの、これが精一杯の神通なのだ。

『ふぁー。お、終わったぁ……』

よくぞ務めを果たしたの。だがそこで寝るとは何事だ。風邪を引いてしまうではないか。
とは言えもう一度起こすのは忍びない。

ジリジリジリジリ!

『きゃっ! もう朝? 机の上で寝ちゃったんだ……あれ? ジャンパー? アタシ着た
覚えないのに』

我の腕はこんな作業には向いていないらしい。思ったより小さな……肩に掛けてやる事し
かできないが。

『さてと、学校に行ってきまーす。お留守番宜しくね』

窓際の我、ではなくてぬいぐるみに挨拶すると好美は寮を後にする。それを見届けると我
は社に戻……るのを止めた。別に頼まれたわけでは無いがもう少しだけ居る事にしよう。
実際この前変な男が下着を盗みに入ろうとしたではないか。

(しかし、あの慎みの無い造りはなんとかならんのか。かえって淫らに見え)

……我は今、何を考えたのだ? 

このたわけが! 我は慌てて自分を叱り付けた。よりによってあの、扇情的な布切れを身
に付けた……の姿を想うとは何事だ。
そもそも一人の人間にここまで構う事がおかしいのだ。我は神、神なのだぞ! この土地
一帯を守護するという大任を果たさずしてなんとするか!

(だが、今の我にはそんな資格も、力も無い)

そう。我に務めと力を与えてくれる筈の信者はいない……いや、強いて言えば好美だけだ。
ならばその、貴重な信者に報いるのも立派な神の務めではないか。いつしか我はそう考え
る様になっていた。

間もなくその欺瞞を思い知らされるとも識らずに。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ある満月の晩。

我はいつもの様に好美が眠りに付くまで見守っていた。床に着く彼女に今日も大事は無さ
そうである。やや寝苦しいのか布団の中で軽く身じろぎする彼女の寝顔は、実に穏やかで
美しい。

『んッ!くふっ……』

その表情が不意に歪んだ。全身を軽く仰け反らせ、唇からは明らかな苦鳴が漏れ始める。

(どうしたのだ! しっかり、しっかりせい!)

慌てて痙攣する彼女に近づく。我に見えぬ災厄が潜んでいたとでもいうのか……不覚!
あらん限りの霊力で正体を見極めようと力を凝らした時だった。

くちゃり。

『アッ……う、ふうぅっ! ウウんッ』

粘った水音と、甘い喘ぎ。何故か我の動きは止まっていた。

くちゃり、くちゃり、くちゃっ。

『ウクッ! イイ、いいよぉ・・・・・・』

掛け布の上からも分かる程の大胆な動き。好美の腰が艶かしく動いては淫らな音を紡いで
いく。これは、これは何、なの、だ?

(そ、そなたは何を)

知らずに我は問うていた。いや知っていた。いたのだが。この場にいてはいけないと承知
しているにも関わらず……体が、体が動かせぬ。

(お、おのれ……なんたる事、ぞ)

我はせめて無かった事にしようと目を閉じ、周囲の感覚から己を切り離す事に集中した。
しかし好美の盛りの歌声は、その守りをいともたやすく突き崩していく。

くちゃくちゃくちゃ。くちゃくちゃくちゃりっ。

『あアあはッ! もっ、と。もっと締めてぇ、アはっ、こすって……くだ、さい』

掛け布を勢い良く撥ね退ける気配。情欲に踊らされ、より大胆にくねる雌の喜びがひしひ
しと我の感覚を犯して来る。無心になろうとする程淫らな光景が鮮明に喚起され、目を見
開きたくなる衝動に駆られてしまう無限地獄。甘美な誘惑に我は必死に耐え続けた。

(な、ならぬ、ならぬのだ!)

くちゃっ……ぐちゅちゅ! ぐちゅっ。

あと少しの様だ。しばし堪えれば大事には、至らぬ。

『ほ、欲しぃのお! りゅ……神、さまぁ……!』

我は、目を、見開いてしまった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(おぉ……おおおぉ……)

小ぶりながら先端は確かな勃起を示す剥き出しの乳房。

腰から下、濡れそぼった下着の中を蠢き犯す指。

絶句する我の前には、半裸を晒しだらしなく乱れる好美の痴態が在った。

ぐちゅ! ぐちゅぐちゅ、ぐちゅん!

『ハァ、ハアッ! き、きてアはッ、はアアアアーッ! ……アッ』

絶頂を迎えた肢体が何度となく痙攣。余韻の喘ぎがそれに続く。

『ハアッ、ハあーっ。はぁああん……』

(……ぁ……我は、我は……)

もはや己が何をしたいのかも分からない。我はただただ呻くしかなかった。いったい
この身はどうしてしまったというのだ?
年頃の娘が想い人に愛される事を願って、自身の性を慰めるのは珍しく無い。相手が人間
ならば我はまだ対処の仕様があったであろう。専門の務めではないにせよ神としてその成
就を援ける事もできた筈だ。

だが、しかし、何故に。

(好美よ。我を求めてくれたのか?)

我がそう問うた瞬間。彼女の蕩けた瞳が我を向いた。捉えた。見ていた。

(ば、馬鹿な! ありえぬっ!)

常人には不可視の我は思わずたじろいだ。そんな筈は無い。この娘がただの人間なのは、
長い付き合いで明らかではないか。気の迷いだ。観えてなどおらぬっ……!

『あ、あぁ、想ったとぉり、きれい……』

まだ意識は混濁しているのかも知れぬが、うっとりと我を見つめる好美。
何たる事ぞ。確かに彼女は神の姿を観ているのだ。

(わ、我はその、み、見るつもりは)

愚かしくも弁解を試みる我の舌。戯言を吐き出そうとしたが、この期に及んでは為す術の
無い事は悟っていた。
同時に屈辱と恐怖、歓喜がないまぜになった暗い感情の渦が湧き上がってくる。神たる我
のこのような失態を知られたのだ。ただでは……すまさぬ。すましてはならぬ。

いっその事……してくれよう、か。

(よ、よさぬかっ)

我は心底恐ろしかった。形骸の誇りにすがる余り道を違えようとする己が浅ましさ。そ
のように我を惑わす好美の存在。そして神すら弄ぶこの運命―全てが全てが全てが。

彼女ヲ犯セ。モノニシロ。

衝動に押し潰される。

彼女をクラエ。消シテシマエバ。

無かった事に。楽に、なる?

……我は、我はこのまま堕ちるのであろうか? 

『すぅ……すううっ……』

(こ、好美?)

行為に疲れ果てたのか、不意に眠りに落ちた彼女の寝息。それに押し流されるかの如く我
の惑いは徐々に消え去っていった。

(……我は……我は……すまぬ)

いかんともしがたい罪悪感にかられ我は深く頭を垂れた。詫びにもならぬが視線を逸らし
ながら好美の乱れた衣服を整え、できるだけ自然に布団を掛けてやる。

(そなたが見たのは……夢。夢なのだ。忘れるがよい)

白々しい弁解を置き土産に、我は逃げるように社へと去った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あの狂おしい夜が空けたその日の内に、好美は社を訪れた。
当然我は顔向けなどできる筈も無く、ただ叱責を受けんとして畏まっていたのだが。

『ごめんね竜神様。今日はちょっぴりへんな夢見ちゃって……その、ごにょごにょシテた
から来るのが遅れちゃった』

彼女は顔を赤らめながらもいつもの様に我と過ごした。どうやらあの事は夢と思ってくれ
たらしく、今は我の姿も観えていない様だ。一瞬安堵したがすぐに自責の念に苛まされる。
結局神として申し開きのし様の無い大失態を犯したのは事実なのだ。

その後幾日かは彼女の顔をまともに見れない日々が続いた。

彼女が傍にいるだけで、あの夜が心に蘇る。

我の名前を呼ばれるだけで、狂おしい想いに満たされる。

顔でも見ようものなら我は……今度こそ好美をどうにかしてしまうのではないか。せめて
今までの繋がりだけでも壊したくはなかった、のだが。

(うっ……好美よ、我は、我はぁッ!)

我は独り追憶に悶えるのを止められなかった。実体の無い己が身ではあったが、それは自
慰と呼ぶに相応しい淫らな行為。付近に魑魅魍魎の類でもいようものならさぞかし物笑い
の種になった事だろう。

だが有り難い事に我に本当の性は無い。時が経つにつれ、いつもの様に好美と接する事が
できる様になっていった。いくら形を精密に造り、その情動を真似たとしても所詮は霊体。
生身の者達とは違うのだ。

そう、違うのだ……あの時の事は経験としてこの身に修めるしか無い。せめて二度と道を
踏み外さぬ為の枷として役立てようではないか。我は己に誓いを立てて務めに邁進し続けた。

……あの冬の日が訪れるまでは。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

当時好美は珍しく背荷物付きの大所帯で我が社を訪れた。山登りか野営でもするのであろ
うか。もし後者なら少しだけ嬉しい。

『はぁ……し、死ぬかと思った』

(無理をするでない。ほれ、髪が乱れておるではないか。襟元もだ)

風を吹きつけてやると、彼女は慌てて身繕いを始めた。直接では無いが意図が通じるのは
とても楽しい瞬間だ。

『やだ。ブラがちょこっと出てる! ……ひょっとして中、見てないよね?』

背負う時の苦しさか襟元のボタンを外したのが仇になり、胸元がややはだけ気味になって
いる。気が付かず屈んだ時の事を気にしているのだろう。

(ふん、そなたから見せた事もあったというのに。今更何を恥らっておるか)

『あー! 今アタシの胸についてなんか言ったでしょ! セクハラだ。セクハラー』

噛みあわない言葉のやりとりもいつもと変わらず。彼女は我に供え物をくれた。後から思
えばそこから何かが違っていたのだが。

『はいこれ……手作りなんだけど。どう、かな?』

きらびやかな包装に包まれた西洋風の菓子箱。丁寧に帯まで掛けてあるとは豪勢だ。我は
感覚の手を伸ばして中身を探った。思った通りの西洋菓子、チョコレートか。

(いつもすまぬな。ありがたく頂くぞ)

彼女にはわからないが、我はチョコレートを存分に楽しんだ。ちなみに神の食事とは供物
に込められた『供えた』という想いを受け取るもので、その点では非常に美味しかった。
後は頃合を見て持ち帰ってもらえばよいのだが。

(ん……どうしたのだ? にやにやして気持悪いではないか)

我の鏡を見つめる好美の表情がいつになく怪しい事に気が付いた。

『え? ううん。何でもないよ……うれしぃ』

何故かそこで恥らう彼女に少々戸惑ったが、これもまた楽しい偶然であろう。さて今日は
どんな話をしてくれるのだろうか。

(体に大事はなかったか? 学業は上手く言っておるか? その……想い人とは一緒にい
なくてもよいのか?)

届かぬ無い問いを投げかける我の前で、好美ははにかみながら話を切り出した。

『あのね。今日は2月14日、ば、バレンタインデーの日なんだ』

(ふむ。愛を伝えるあの行事か)

人間達の風習にも大概慣れてきた。それにしても想いを物に託し、食してもらう事で伝え
ようとするのは我々神に通じる様で何か可笑しい。我にくれたのは驚きだがこれは所謂義
理の類であろう。それでも十分嬉しかったが。

『ぎ……じゃないんだよ。材料、高かったんだから。あのね、これはね、その……』

先の言葉でなんとなく合点がいった。今回の訪問はおそらく意中の人に対する相談であろ
う。供え物ついでに我を練習相手に選ぶとはいかにも彼女らしい思い付きである。

(いかんな。払った金の多寡では想いは伝わらぬ。こういった事は相手が悟っていても言
葉に出すべきものであろう?)

聞こえはしないが彼女の部屋にあった恋に関する書物の一文をそらんじる。本来は関係な
いと突っぱねる話だが、なんとなく興が乗ったので助力してやるとしよう。とは言え我に
できるのはせいぜい話を聞くぐらいだが。

しかし当の好美は『う〜』と唸るばかり。落ち着き無く足をもじもじさせては、こちらを
睨み付けるだけで一向に話をしそうに無い。

(全くそなたらしくも無い。いつもの威勢はどうしたのだ?)

『バカ……ほ、本当にい、言っちゃうからね。し、知らないんだから』

どうした事か今度は多少怒っている様子。……正直ワケが分からぬ。いつにも増して彼女
は読み辛くなっていた。

戸惑いを隠せない我の前で、ようやく決意したのか彼女の手が合わさる。

『竜神様、御願いがあります』

急に畏まり紅潮する白い肌。震える唇が願いを紡いだ。

『私の、はじめてを、もらって下さい』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(な……)

はじめてとは……処女を捧げる事。我に? 

ふ、不可解だ。肉体すら持たぬ異形の存在を初めての男性に選ぶなぞ……ままごとにして
も度を越しているではないか。

『ふぅ、イッ、言っちゃった……』

緊張の糸が切れたのか、社の前にへたり込む好美。ちらりと見えた足の付け根の情景に
さらに混乱が高まっていく。

わ、我は……どうすればよいのだ? 基本的には彼女に手も足も出せぬ己が身だ。困惑の
末動いたのは間抜けな口先だけであった。

(こ、好美よ、いくら何でも悪ふざけが過ぎるではなッ! か、な、何をするか)

不意に鏡が社からひったくられた。中に宿る我に噛み付かんばかりの勢いで叱責が飛んでくる。

『竜 神 様 の バ カ! バカバカバカバカ! ……なんで、なんでそうなのよ! 
神様のクセに人間の小娘如きの気持も読めないの?』

神に対して不遜極まりない言動だったが、怒る気すら起きず我はただ彼女の激しい想いに
圧倒されるばかりだった。

『あ、あんなにしっかり見てたのに……わ、悪ふざけなんて、この朴念仁のインポ龍!』

(ぶ、無礼な! いくら我とてそこまでされては許……)

混乱の中男性格にとって最悪の侮辱は理解できた。さすがに我も耐えかねて鏡の中から牙
を剥いて飛びだそうと、したが。

『う、うううっ……うううっ』

伏せた顔に流れる涙、漏れる嗚咽。

(……ぅ……ぁ)

先程の怒りから一転……泣いていた。あの天真爛漫を絵に描いたような娘が泣いていた。
初めて目にするその悲しみが我が怒りの矛先をあっさりと止め、へし折る。
理屈抜きで己がとんでもない失態をしたと悟ってしまい、我は鏡の中から乗り出した頭を
垂れていた。

(またしても……好美よ、すまぬ)

申し訳なさと愛おしさの入り混じった何とも言えない感情に突き動かされ、我は泣きじゃ
くる彼女の頬をそっと舐めていた。もはや体面などどうでもよい。少しでもこの過ちを取
り繕いたくて仕方が無いのに、伝えられない己が境遇が呪わしかった。

……傍にいたい。話をしたい。その身に触れたい。

ようやく気が付いた。笑いたいものは笑うがいい。我は神でありながら、いつしか初心な
男子の如く好美に好意を抱いていたのだ。
今や好美の想いもはっきりと理解できていた。この身に向けられたるは真摯な求愛。男性
としてそれに応えずしてなんとするか。

(我は……我もそなたが愛しい)

無駄とは知りながらその身体をかき抱こうとし、

がしっ。

(う! ……ああ? こ、好美?)

ふいに身体に圧し掛かる重み。頭に感じられるたおやかな腕の感触に我は硬直した。
ま、まさか、ふ、ふ、触れておる……のか? 
お、思い返せば愚かにも気が付かなかったが、先程からの彼女の振る舞いはまるで我を観
ているかのようではあった……つまり。

『ウ、フフ……ウフフ、うふふふふ……』

漏れる嗚咽はいつの間にか忍び笑いへ。我の顔をしっかりと抱きしめたまま好美はゆっく
りと顔を上げる。そこにはいつもと変わらぬ、もといこれまでにない会心の笑顔。

『やったぁ! アタシも竜神様を愛してるよぉ』

強烈な頬擦りが我の顔を遠慮無く蹂躙。少々痛かったがその様な事はどうでもよい。

(そ、そなた、あの時から我を)

やはりあの夜の事は偶然ではなかったのだ。まんまと騙され通した事に唖然とする我の耳
元で、やや申し訳無さそうに彼女が囁く。

『夢だと思っていたのはホントだよ。でもあれから何度か姿が見えたり、声が聞こえたり
する様になったの。自分でも暫く信じられなかったけど』

確かにこの時代の人間なら、普通は己が異常を疑うだろう。

『それにね、ぉナニ……で見える様になったなんて恥ずかしい事認めたくなかったし』

(む、むう。なるほど)

異国には性の交わりを通じて霊力を高める呪術があると聞く。おそらく長年我に触れてい
た影響が自慰行為の時に開花したに違いない。その経緯故に自覚するのに相当の時間と覚
悟がいったのは納得できる。
その間彼女は耐えて信じてくれたのだ。我は嬉しくてしょうがなかったが、慌てて舞い上
がりそうになる己を抑える。こうして話せる間柄になった以上けじめは必要だ。

(ま、まず詫びねばならぬ事がある。そ、そなたの……あの行為を見てしまふがっ!)

『ハイそこまで。……ってせっかくイイ雰囲気なのにぶち壊すなんてサイテー』

我の謝罪は好美の両手で塞がれた。まずい事にまた怒らせてしまったようだ。彼女の顔が
正面から我に詰め寄ってくる。

『別に怒ってなんかいないよ。逆にふしだらな娘だって軽蔑されるか、怒ってるんじゃな
いかって心配したぐらい』

(そ、そんな事があるものか! 我を想ってしてくれたのであろう)

彼女が頬を染めて頷く。先程とは対照的なしおらしさに心が高鳴った。

『うん。その……見てて興奮した?』

(う、うむ)

我も素直に頷く。人間であればかなり赤面していた事であろう。

『あ、もしかして思い出して一人で慰めちゃったり、とか?』

(……すまぬ)

『なんでそこであやまるのかなぁ。好きな人のオカズになるって嬉しい事だと思うよ?』

理屈はともかくもはや完全に好美のペースだった。持ち前の遠慮の無い性格が我の躊躇い
を躊躇する事無く踏み潰していく。もはやどこにも逃げ場などありはしない。

『つまりアタシもシテしまう程竜神様が好き。竜神様もシテしまう程アタシが好き』

(そそそ、そうであろうか?)

止めを刺される予感。彼女の瞳が言葉が我の意志を思うが侭に染め上げていく。

『そ う な の。だからアタシと竜神様はラブラブ……難しく言うと相 思 相 愛。
わかった?』

(わ、わかった)

『宜しいっ。じゃあ、アタシの御願い……聞いてくれるよね?』 

無論……我に否はなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ちゅむっ。

誓約の口付け。互いの意志を確認しあった我と好美は自然と行為に及んでいた。軽く触れ
合った先から甘い情念が染み込んでくる様でなんとも心地良い。

『……っ。ぷはぁ。アタシの初めて……どう?』

(た、たまらぬ……ん? んん?)

我は気が付いてしまった。まさか……これが『もらって欲しい』なのか? 我はてっきり
……む、無論口付けだけでも何とも言えぬ至福ではあるのだが、何故か残念な気持を拭う
事が出来ぬ。

『また余計な事考えてる……このカタブツ』

むーと頬を膨らまして好美が我を睨み付ける。相手を喜ばせるのが自身の務めである筈な
のだが、全くここの所不覚続きだ。己の不甲斐なさを恥じるものの、どうしてよいかはさ
っぱり分からない。

おろおろする我の頭を彼女は犬にする様に撫でてくれた。情けない気もするがそれで心が
落ち着いていく。

『心配しなくてもちゃあんとさせてあげるから……ってなんか経験豊富でスゴイやらしー
感じよね? あ、でもアタシはしょ、処女だよ?』

(わ、わかっておる!)

そこで眩暈がするかの様な台詞。平静になりかけた心にまた波が立ち、知らずに声も上ず
ってしまう。全く何とした事か。ここまで己を失っているというのにそれがたまらなく嬉
しいではないか。

内心沸き立つ我の目前で、好美がいそいそと上着を脱ぎ始める。

(ま、待て! いやその待たぬでもよいが、ここでするのかおふっ!)

動揺する視界に白い布。その向こうから、呆れるようなそれでいて明らかに面白がってい
る声が飛んでくる。

『ほらほら、ぼさっとしてないでテント建てるの手伝ってよ?』

数瞬後落ちたのは防寒用の襟巻き。その先には背荷物を紐解き中身を取り出している彼女
がいた。テントとは聞きなれぬ言葉だが、建てるというからには小屋か何かであろうか。

(こんな布切れと棒で小屋が建つというのか? ……むんっ)

重なる誤解と失態を誤魔化す様にいそいそと鏡から出ると、鉄骨を持ってふらふらする好
美を素早く支える。そこで彼女の目が点になっている事に気が付いた。

(ま、また間違ってしもうたのか? す、すまぬ)

考えるより先に詫びてしまう我の胸元でクスクスと笑う好美。その手が我の蛇腹をいとお
しむ様に愛撫する。

『う、ううん。間近でしかも全身を見るのって初めてだなぁって……お腹意外はつるぷに
なんだね?』

(む? むう。まあ我は龍といっても水蛇の性も強いからの)

俗に言う天龍の如き立派な角や鱗は持ち合わせてはいないが、全てを潤すが如き青白の肌
は密かな自慢だ。その部分に繊手がそっと重なり、ぞくぞくする歓触を送り込んでくる。

『絵画の龍みたいないかついのを想像してたんだけど、こっちの方がステキかも……気持
良さそうだし』

言葉の意味に心が痺れる。それは彼女も同じだったのか、半ば抱き合うような姿勢で我ら
は暫く寄り添っていた。

いっそ、このまま……。

『は、ハイッ! 続きはちゃんと勃てて、じゃなくて! 建ててからしよ……もう』

崩れかけた均衡を戻したのは好美だった。慌てて我もそれに従う。気恥ずかしさに急き立
てられる様に焦りつつ、なんとかテントは完成した。

『完 成っ。これがアタシ達の"愛の巣"だよっ。えへへへ』

ややいつものペースを取り戻したのか、屈託無くはしゃぐ彼女に自然と目が細まる。それ
にしても確かに巣の様に見えなくも無い布の小屋。この中で……するのか。帳の向こうで
絡み合う光景を思うと再び心身が熱くなってくる。

『あ……でも良く考えたら二人も入んないね。もーアタシのバカバカ大バカ!』

(確かに我には少し狭すぎるかもしれぬな)

我を取り戻しテントの中を覗き込むと、例えとぐろを巻いたとしても互いに動き辛そうで
あった。気まずい沈黙が暫く続く。

『……も、もー我慢できない。外でしちゃおう。うんそうしよ!』

(な、ならぬ! 今は冬で、しかもこれからさらに寒くなるのだぞ)

やけ気味に今度こそ服を脱ごうとする好美を慌てて制止する。周囲は黄昏を通り越して暗
く染まり始め、恐らく寒さも肌を刺すぐらいになっている筈だ。裸になって風邪でも引か
れたら事である。

『大丈夫だってば。思いっきりエッチすればきっと暖かくなるよ、ねぇ』

そこで猫撫で声は卑怯ではないか。あ、後そんな所を指でいじるで、ない。執拗な誘惑に
蕩けそうになりながらも我は必死に耐えた。

(せめてそなたの部屋では駄目なのか?)

『駄目! 初めてを女の子の部屋でするのはタブーって知らないの?』

無理を言う。我が知るはずが無いではないか。とにかくこのままでは埒が明かない。我は
思案を巡らせると……大きく息を吐いた。まったく呆れるにも程がある。

(くっ、くくっ。この、たわけが)

『え?』

自分の事かと一瞬むくれる好美はさておいて我の笑いは次第に大きくなり、爆発した。

(ぐわっはっははっ! なんとまあ我の無様なことよのぉ。こ、これで神と言うから笑わ
せるわ! ぐわーっはっはっは)

思いっきり笑うと何故かすっきりした。同時に不安定だった己もどこかへ去ってしまった
様だ。わけがわからず呆然としている彼女に我は自信たっぷりにまくし立てる。

(忘れておったわ。我は元々実体の無い存在。その姿や大きさとてきちんと定まってはお
らぬのだ!)

『へーそおなんだ。って、て事は』

物分りの良い娘だ。我は頷くと意識を軽く集中させ、己が身体を一回り縮めた。無論限界
はあるが逆に大きくする事もできる。

『ス、ススゴいっ! さすが神様! あ、でもアソコも小さくなっちゃうのは……ごにょご
にょ』

(アソコがどこだかは知らぬが、それよりそなたはどういう基準で神を見ておるのだ?)

笑いながら軽く彼女を小突いてやる。その後もじゃれ合いながら我らはテントの中に荷物
を運び込んだ。床に柔らかい敷物、支柱に電灯を吊るして灯を入れるとそこは外界から隔
離された特別な空気に満ちていく。

――ようやく準備が整ったのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『じゃあ、竜神様はアタシがいいって言う迄待っててね』

好美は我をテントの外に出させると一人中に篭った。灯りのおかげで中ではうっすらと物
影が舞い落ちるのが見て取れる。
やがてほっそりとした娘の輪郭ができあがると、恥ずかしげに呼ぶ声がした。期待に震え
ながら布の帳に押し入ると。

(お、おおおぅう……)

感嘆の声を抑えきれない。思った通り、いやそれ以上の光景。そこには生まれたままの彼
女がいた。

あの夜と同じ乳房。儚げな肢体。恥ずかしげに秘所を隠しつつ、笑顔を作って迎えてくれ
る姿のなんといじましい事。

『竜神様の手じゃ服を脱がすの大変だと思ったからぁ……』

熱い視線に耐えかねたのか笑顔が崩れそうになった。が我はその前に好美の唇を奪いで泣
き声を封じる。

(そなたの心遣いは承知しておる。その愛しい身体を恥じる事など無い)

我は彼女の周囲に緩やかに巻いたとぐろを少し狭め、包み込む様に囲ってやる。
眼前の瞳がゆっくりと別の色に蕩けていく……少しは安心してもらえた様だ。股間を隠し
ていた手も緩やかに下がり、そして別の想いを体現する。

『嬉しい……じゃあ、もっと良く見てね。これが……アタシだよ』

ニュチャッ……。

好美の片手は乳房を押し上げ強調し、空いた手は薄い陰りに包まれた股間の肉を押し開く。
そして男を知らぬ鮮紅色の内部に光る滴りを、指で塗り広げて魅せてくれた。
はじめての光景だが何故か躊躇は感じない。ただ愛しさを込めて見届けると、彼女も覚悟
を決めたのかよどむ事無く欲情を口にする。

『いやらしいよね? はしたないよね? でもいいの。おっぱいも、アソコも全部竜神様
に捧げたいの』

その声はなんと激しく、なんと熱いのか……我知らず顔を彼女に肉薄させていく。

(我もそなたの全てが見たい。さあ、もっと近くで魅せてくれぬか)

『うん。いいよ……う! う、うぅ! ……あアンッ』

情熱のままに我は好美に口付けを繰り返した。驚きが快楽の喘ぎに変わる調べが耳に心地
良い。

唇、乳房、そして股間の秘肉。

彼女の女性を舌でやさしく愛撫し、そして蹂躙する。それは確実に雌の欲情を焚き付け、
やがて外に溢れ出すであろう。その時が我らが結ばれる時だとなんとなしに悟っていた。
はやる心を抑えて念入りに火種を育てていく。

ピチャピチャ……ジュロッ。

『はぁうん。やだ……おつゆ、吸わないでよぉ』

(何を言う。このままだと床が濡れてしまうではないか。んん?)

発情の証を啜る度その粘りが増していく。美味い。と感じてしまう己が感覚にやや戸惑う
が、そんな事はどうでもよくなっていた。味わう度に我の身体も熱く滾っていく。

『ねへぇ、ねぇ。もう、もう……アタシ、はぁはぁ、駄目かも』

快感に立っていられなくなったのか崩れ落ちる好美。しかしそこは我のとぐろで優しく受
け止めてやる。興奮が全身を侵食しているのか、触れた彼女は甘い喘ぎを何度も放った。

――そろそろ頃合かもしれぬな。

こちらも、そろそろか。我はいよいよの時を好美に告げる。

(好美。そなたの処女を頂くぞ)

恍惚に閉じられた彼女の目が驚きにはっと開くが、言葉の意味を理解するにつれそっと閉
じられる。初めての痛みがやはり怖いのだろう。祈るように承諾の言葉が流れる。

『御願い……します。私の、初めてを――もらって下さい』

震えながらも最後はしっかりと告げられた願い。それを叶えるべく我は男の権能を……。

(…………)

これは、な ん と し た 事。

『はぁ、はぁ……御願い。はや、くぅ』

焦らされていると思ったのか、目をぎゅっと閉じながらも好美が呻くがしかし。

――無い。

こんなにも彼女が欲しいのに。こんなにもこの身は猛っておるのにだ。

(ここに至るまで気付かぬとは、不覚ッ……)

我には、我にはそれを体現する術が、イチモツが無かったのだ。

『ね、え。どう、したの?』

痺れを切らしたのか、好美が身体を起こして来るがどうしてよいか分からない。異変に気
が付いたのか、彼女の問いに憂いが増す。

『アタシの身体なら心配しなくてもいいん……だよ?――ウソ』

そこで我の視線の行き先に気が付いたらしく、共に硬直に支配された。

(わ、我はな、そのだ)

『う、うん。ななな、無いね。のかな?』

互いの言葉がぼろぼろと崩れ落ちる。気まずい。ひたすらに気まずくて耐えられぬ。この
まま消えてしまいたいぐらいだったが、好美の手前そうもいかず我はひたすら己が股間を
睨み付けていた。

(す、すまぬ!……我はそなたを愛してやれない……)

神たるモノが泣いてはならぬ。ならぬのだが……詫びる傍から目頭に熱いものがこみ上げ
てくるのを止められない。情けない事に涙は流せるというのか。

『はーい泣かない。泣かないの。泣くのはめーです』

(う、あ。好美ッ……)

幼い子供にする様に全身で我の顔を抱きしめてくれる彼女。鼻先には柔らかい乳房の感触
があったが、欲望より奇妙な安らぎを感じてしばし己を委ねてしまった。

『神様だものね。オシッコもしないだろうし、付いてなくても全然、普通だよ』

(だがしかし、ここまでそなたにさせておいて……)

『初めての時はいろいろあるってば。アタシは全然気にしてないよ』

(だがな。できぬ、できぬのだぞ。こんな、こんな我など)

『いじけるのもいい加減にしないと、怒るよ?』

本気が混じった声に自責を吐き出すのを慌てて止める。しかし……ならどうすればよいと
言うのだ。身体の芯を焼く欲情の猛りをどう鎮めろと。突然沸いた理不尽な怒りに突き動
かされ我は息も荒く好美を睨み付けてしまう。

――このまま絞め殺シてシマオウカ。

不意に危険な考えが稲妻の様に思考を焦がす。

……想イを繋げラれぬなラ……贄とすレば自分のモノにナル。

彼女の自慰を見たのがばれた時と同じ。負の衝動が囁いてくる。な、ならぬっ!

……神ノ誇リヲ汚しタこの娘には相応シい末路ではなイか?

最初の体験で声の正体はわかっていた。それはもう一柱の我。神としての自尊を護ろうと
する隠された本能だ。
本能故に……後付の理性などたやすく犯され、はしたない喘ぎと共に屈服する。それは同
時に神からの転落にも繋がる奈落の橋。絶望に歓喜しながら我は悟っていた。

――今度コソ堕ちル。

好美は我の異変にも気が付かず背を向けて周囲をまさぐっている。最も気が付いた所で今
更――逃げラレルものカ。や、止めるのだ。や、ヤッてしま、エ。

もはや身体は我の意志をほぼ完全に離れていた。とぐろが驚くほどゆっくりと、震えなが
ら狭まっていく。
ようやくこちらを振り向こうとする彼女。たがモウ遅イ。滓の如く残った自制で彼女の苦
悶だけは見まいと固く目を閉じる……。

ペチッ。

突如硬直した鼻先を何かが叩いた。――さらさらとした、紙の感触。意外な刺激に思わず
目を見開いてしまう。

"保健体育"

恥ずかしげに顔を背けた好美の突き付ける書物の題目。我の狂気はあっけなく瓦解した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『はいコレ……56ページに、載ってるから』

裸を晒しているより恥ずかしいのか、全身真っ赤になりながら彼女が促す。突然の珍事に
先程の己を責める余裕も無く、我は言われるがままに書物を捲った。

(ふむ……男性器のしくみ。だと?)

そこには人間の男性器……つまりはイチモツについての解説が図入りで示されていた。
動揺は知識への興味に落ち着けられ、その内容に思わず見入ってしまう。

(ふーむ。このような形状と構造をしておったのか)

そこでふと今の身の上を思い出す。何故このようなモノを見なければならないのだ。見れ
ば見るほど持たぬ自分が惨めになるだけではないか。
気持が顔に出てしまったのか、察した好美が我を宥める。

『アタシのカラダによ、欲情できるんだから大丈夫。でも肝心のやり方がよくわかってな
いんだと思う。竜神様は元々形が曖昧なんだから、作っちゃえばいいんだよ』

落雷に打たれた思いだった。なんという娘だろう。当の本人よりも余程この身を識ってい
るではないか……彼女は我の前にさらに別の書物を積み上げていく。

"青少年情報源"

"日本男性の外性器"

"童貞おろし100連発"(なんなのだこれは?)

いくつか釈然としないモノもあったが、性器やその生態に関わる知識の数々は実に興味深
く、我はしばしそれらを鼻息荒く貪り続けた。

(なるほど。欲情するとイチモツに血液が流入し勃起という肥大硬直化が起きるのだな。
そしてその形質を利用して女性器に挿入、刺激を与えると言う訳か)

成熟した男女が交わるものである事はある程度識ってはいたが、実際は実にその……魅力
的な内容だ。その仕組みを知る度に我は感嘆の声を漏らす。

(実によくできておるではないか。そして男性の興奮が頂点に達すると子種が胎内に放出
され……)

『だ、駄目ぇ! 良く分からないけどす、すんごいイヤラシイから声に出さないで!』

何故か好美が一層真っ赤になって我の感慨を遮る。今更何を言うのだろう。行為寸前迄及
んでおいて、その前のおさらいで気を乱すとは不思議なものだ。 
とにかくその様子が面白く、調子に乗った我は悪戯を思いついてしまった。

(ふむ。そなたが何故慌てるかはよく分からぬが……ひとまずよかろう)

『んもぅデリカシー無いんだから……ぁ!』

ホッとした彼女の隙を付き、我は脚を広げて己が股間に霊力を集中――先程得た知識を早
速披露した。

(好美よ。よく見ておれ)

……ヌチャッ。ニョキリッ。

(ふぬっ。まずは陰茎、をこう伸ばして……)

『き、キャあッ!、い、いきなり、なななナニおっ勃ててんのよ……バカぁ』

……ムキュムキュッ。

(そして先を膨らませて……亀頭と為せば。ふむ。こんなものかの)

『あう。か、かか雁りり……高ッ』

付け焼刃にしては上手くいった様だ。それにしても先程からの彼女の狼狽振りが期待以上
で実に可笑しい。こちらも笑いが堪えきれなくなってくるではないか。

(フ、フフ。クハハハハ! どうだ? そなたの望み通りになってきたであろう?)

勃ちあがったイチモツをゆらゆらと振って挑発する我の前で好美は硬直していた。もはや
まともにこちらを見れないのか、うつむいたまま全身を震わせブツブツと呟いている。

『……じゃ……ないのに……少しムードを……バカ』

(喜んでくれぬとは全くわけが分からぬのお。これでできるのであろう?)

『でもこんなの見たら……欲し……やだアタシ何言って……様のバカ』

(バカバカといい加減にせんか。そこまで恥ずかしがる仲でもあるまいに……さあとくと
見るのだ)

弱点を克服した喜びで、我はすっかり有頂天になっていた。無理にでも見せようと腰をく
ねらせ彼女に近づけていく。

――プチ。

(プ、プチ?)

我の霊感が何かイヤラシイ、否嫌な気配を彼女から捉えた。まるで飢えた獣を目の前にし
ているが如き……次の瞬間だった。

『も。ももも、も う 知 ら な い……我慢、できないんだからっ!』

ムギュっ!グバッ。

(む、むおおお!)

突如好美が我のイチモツに襲い掛かるとそれをがっぷりと咥えてきた。両手が竿と根元を
まるで蛇の如く這いまわり、その感触を確かめていく……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ピチャ、チュルルル……ジュッ。

力は篭っていたが痛くは無い。貪られる度何やら不思議な感覚が沸きあがってくる。

『ハァ……じゅるる。竜神様が悪いんだからね……アタシ処女なのに……これじゃまるで
あむっ、淫乱な痴女みたいじゃないのぉ。お、おかしくなりそう』

クチュクチュクチュクチュ。

つばに塗れた手が肉の竿を執拗に絡みつき、愛しむ様に摩りあげる。

『もっとこう、できあがってから恥ずかしげに見せてくれるとか……いい感じになってか
らこ、こんな事してあげるつもりだったのに。この変態。さ、サイテードラゴン……ちゅ
むっ』

(む、ぬぬぬぬ)

造りたてのイチモツをされるままに弄ばれる。その豹変振りには面食らうモノがあるが、
正直に嬉しい光景――の筈だったのだが。

チュムチュム、チュムッ。

『はぁああ。最初からこんなに、太く、長くして……さっきの同人の見過ぎだよぉ。こん
なの入るわけない……でも凄い、イイかも』

(ぬ、くっ。お、大きい方が喜ぶと書いてあったが、アッおおおっ)

ジュリッ、ジュリリッ。

『こうやって唾でベトベトにして……もっと濡らさないとぉ。あ、そういえばタマちゃん
はないんだ、ね? ち、ちゃんと出るのかな?』

(駄目なのか? 中身ぐぁっ、は正確に造ったつもりだがアッ)

少し間が抜けた性の睦み言が延々と続くが、それを愉しむ余裕は我から次々に削り取られ
ていった。

(ぬがっ! ま、まさかこれほど、までとはアオうっ!……)

『竜神様ァ……イイの? いいんだね? すっごく良さそうな顔してる……』

蕩けそうな彼女の声に我の意識まで溶かされつつあるようだ。イチモツに塗り込まれる快
楽と、呼応するかのように我が内の欲望が膨れ上がって――これが、性の喜びか。

何度か自慰の真似事をした事があったが、荒れ狂う欲望の出口がわからず結局無理矢理抑
え込む様な形で終っていた。それが今、好美の愛撫に導かれる様に一箇所へと集中してい
くのが感じ取れる。

『ほら、エッチってこんなに気持イイんだよ。さっき舌でシテくれた時は、アタシもこん
な感じで、あうふっ……こっちもガマンできなくなってきたかもぉ』

クチュクチュと彼女の股間から粘った水音が聞こえる……快楽に綻んでいるであろうソコ
の情景が、見もしないのに鮮やかに想像できた。それこそ内側に潜む処女の証までもがだ。
我に捧げられる、彼女の――。

(グアアッ、好美よ!)

ガシッ!

『きゃあ! もー何すんのよって……あっ』

何かが思考に閃いた瞬間。我の身体が勝手に彼女を床に組み敷いてしまった。
た、確か次は次は次は。何をすればいいのか解っている筈なのに判っていない。焦れった
い困惑に動きが止まると、ようやく理性が手綱を握りなおした。

(わ、わわ我は、我は……な、んという事を)

それでも捉えた裸身を開放はしなかった。したくてもできなかったのだ。得体の知れない
何かが我をも捉えて、離そうとしない。

(はぁーッ……好美よ。ハアーッ)

『……竜神様。苦しそう』

あれだけの暴挙を受けたというのに、彼女は妙に落ち着き払っていた。こんな時まで本当
に……よくできた娘だ。

『最後まで頑張らないと、赦さないからね?』

好美はイチモツを優しく自身の秘所にあてがうと、こちらに口付けを求めてきた。応じる
口先に伝わる震えは彼女のものかはわからない。だがそれがおさまる頃には我は自由に動
ける様になっていた。

『竜神様のおちんちんがアソコの口に当たってる……こんなに熱くて、溶けちゃいそう』

欲しい。と彼女の慈愛に溢れた瞳が訴える。いいんだよ、と欲情に塗れた唇がやさしく無
音で促がして来る。
我も応えて腰を進め、食い込む先端の肉に遅れつつ最後の契約を確かめた。

(今こそそなたの望みを叶えよう。いや、叶えさせて欲しい――受け取ってくれぬか?)

『…………はい。お願いします』

途端に畏まるかよわい姿に軽い獣性の猛りを覚えつつ、我は。

ギヂュッ!キヂギチッ!

好美の処女の証ごと一気に押し貫いた。

『アウウッ!……い、痛ぁ、ああああ』

破瓜の悲鳴が上がるがそれすらもどこか欲望に染まっているかの様。我は動きを止める事
無くゆっくりと押し引きを繰り返し、犯し続ける。

ギジュッ。ギジュッ。

赤い温流に塗れる己が肉の感触。ぎっちりと締め付けられる苦痛にもにた未知の快楽。
彼女には負担を掛けているのは承知の上だ。しかしそれでも欲しかった。この繋がりを
我の全てが求めていたのだから。

(我の気持を感じてくれ。こんなにも、こんなにもそなたがっ!)

もはやなりふりかまっておれぬ。せめて想いを肉の繋がりより伝えようと懸命に腰を送り
込む。やや慣れてくれたのか好美の声にも艶が混じり、我と共に荒く高まっていく。

『ハァ……イタぁ、あハァハァハァ』

(ふぬううっ! はっはっハァハァ……)

苦痛に硬直していた内部もじわりと濡れほぐれ、侵略者を歓迎し始めた様だ。我は興奮に
注送を早めながらようやく彼女をまともに見つめる。

(だ、大事はないか? その……だ)

『もう、普通はゆっくひ、入れないと。しょうがないお馬鹿さんンンッなんだから』

でもわかっていたけどねといいたげな声と共に。清清しくも淫らな喜びに溢れた好美がそ
こにいた。大胆にもギュッと股間を締めて我を責められ、その刺激に思わずのたうちまわ
りたくなる。

『うくっ、うふふ。神様の癖に、もっとオンナノコの扱ひっ、上手にできないのぉ?……』

まだ完全に苦痛が取れたわけではないだろうに、気丈にも我を挑発する好美。気遣いとだ
とは分かってはいるものの……ここまでされては神としての矜持はどうしようも無く反応
してしまう。がそれもまた彼女の手の内なのだ。

――サて、こノ屈辱、怒りをなんとシてくれヨうカ。

(おのれ……おのれ我をココまで愚弄しおって。この罰当たりめが……)

どうして我の声は笑っているのだ? 両腕ととぐろで喘ぐ裸身を押さえ、徹底的に犯す構
えに入る。

(身の程を知るがよい。泣いても叫んでも朝まで許さぬからそう思え!)

『うふふっ。お、お許しくださぁ、あん、ああああんっ……!』

オカス。侵す。犯す。全身全霊を込めて賞罰を与えるべく盛り続ける。犠牲者の後悔の歓
喜が実に、実にたまらぬ心地良さ。

(オオウッ!オオッ、おオオオウウッ!)

『あっ! アッ! アあッ!』

眩しく暗く優しく激しく。全身を蝕む熱がイチモツへと集中していくのがわかる。わが意
が意のままにならない異常にして、いや正常な狂態。
もはやまともに思考を組み立てられず……欲するは熟れて濡れた肉の感触。足りぬ。足り
ぬ足りぬ足りぬ!

ジュブッ!ジュブッ!ジュブブブッ!

周りが見えなくなってきた。擦れる度に溶け合ウ。一つにナル。どちらがどちらをオカして
イルノか判ラなくなってキテ……我ガ、あ、アアア、弾けるううううるるるッ!

(グアァオオオオオオンンッ!)

『あ!ア! あづ、熱イのが――いいイイイッ』

我のイチモツから欲望が幾度と無く好美の胎内へ弾き出される……その刺激に一旦は我を
取り戻したものの、続く快感に砕き散らされ、沈んでいく……。

(ガああああっ?と、止まらぬぅうううううっ!)

『う、嘘? あふっ、あふ溢れちゃううううよおおおっ』

彼女も感極まったのか身体を何度も悦びに痙攣させ、やがて失墜する。それをとぐろで包
み込みつつ、我もそのまま崩れ落ちた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『はぁっ、あふっ、あはっ……』

(ぐふっ、はぁはぁはぁ……)

互いに言葉を交わせぬまま、意識があるのかも定かでないような暫しの時間。我は好美を
抱き締めたまま交わりの余韻に浸っていた。何が起きたのか記憶を辿っても上手く反芻で
きないが、直感的に己が成し遂げた事への感慨がある……。

『げほっ。竜神様……ちょっと苦しい。締めすぎ』

話せるまでに回復したのか好美が我に訴えてきた。慌ててとぐろをやや緩めて隙間を空け
ると、蛇腹にもたれて再びぐったりとする。

『はぁーっ。なんかたくさん出されてお腹破れるかと思ったぁ。きっと床がどろどろにっ
てあれ? 意外と濡れてないなんで?』

腑に落ちないのか自身の股間を指で探る彼女、まだ破瓜の痛みが残っているのか眉をしか
めながら尋ねてきた。

『ねぇ。せ、せーえき、出してくれたよね?』

(そこまでは造っていなかったかもしれぬ。おそらく気を放っただけであろう)

本来は子種も撃ち出されるのだろうが、霊力そのものが流れ出たような感覚から純粋に気
だけをやったらしい。事実我のイチモツの先端からは愛液以外は何も滴ってはいなかった。

(むう……最後の最後でし、しくじったかの?)

ちゅむっ。

恐る恐る尋ねる我の鼻先に軽い口付け。大人になりたての彼女は胸を張って笑っていた。

『こういう時は盛り下げちゃダメ。無理にでも"よかった"とかいって相手を誉めていい感
じに持っていく』

(そ、そうなのか。すまぬ)

『まぁたあやまる。神様らしく威張り散らさないのは好きだけど、少しは男らしくしてよ
ね……ってなんかアタシが一方的に筆卸ししたみたい』

返す言葉も無い。が我は正直今の関係を気に入っていた。もし好美が巫女の様に仕える立
場をとっていたならば、ここまで愛しく思えたかどうかは疑わしい。

そう……神と渡り合うぐらい強くてしたたか、それでいて優しき女性。そんな彼女が心底
好きなのだ。尻にしかれているぐらいが相応で、その心地良さに比べれば古びた矜持など
小姑の嫌味程度にしか過ぎないのではないか。
――神とシテあるマじき考えデあロウ、が……そんな物は知らぬ存ぜぬ。我は、我だ。

『ちょっと聞いてる?……しょうがないなぁ』

思索に耽る姿に業を煮やしたのか、強い力で好美が我の顔を掴み彼女の方へ向けさせる。

『じゃあ気を取り直して……手本見せるよ? ――竜神様、スッゴクよかったよ』

じゃあアタシはどうなのよ? という内心が聞こえてきそうな彼女の視線。その迫力にま
とまらぬ我の言葉が背中を押されて将棋倒しにこぼれ出る。

(む、むう。そ、そなたの処女はそのなんともいえず熱くて溶けそうでいや実に甘美な)

『フーッ! な、何その締りの無いユルユル言葉はっ。まさかアタシのアソコがそうだっ
てい い た い の?』

ご、誤解もいい所であるがとにかく一方的に我が、悪い。事にしておこう。でないと我の
身が危ない気がする。命とは別の意味でだが。

『はっきりしなさい。アタシはよかったの?よくなかったの?』

(……よ、よかったぞ)

『ホントに? ホントにホントにそーなんでしょうね?』

(わ、我が誇りに懸けて誓おうぞ。そなたのぐ、具合は生涯で最高である!)

なんとなく頭を掲げ宣言してしまった我。その胸元をクスクスと好美の笑い声がくすぐっ
て――また、やられたか。

『アハッ。アハハハ。ホントに堅物なんだからぁ。もーおかしい。おかしいよ……おかし
いね。なんで涙、出るんだろう』

胸元を濡らす好美の涙に身体がかっと熱くなる。それに突き動かされるように我はそっと
彼女をかき抱いた。徐々にとぐろを狭めながら全身を包み込み愛撫すると、滑った蛇体の
感触に喘ぐ耳たぶを舐めながら囁く。

(案ずるな。そなたは我の不甲斐なさに泣いておるのだ。苦労をかけるの)

『うぅ、うん……ホントに情けない神様、いや男だよね。い、一人前にするのに骨が折れ
そう。ウフフフ』

(フゥッ。言いおったな。ならば責任を持ってしてもらおうではないか)

重ねる肌に我の欲望が再び屹立し始めていた。身体をずらして先端を彼女の股間に擦り付
けながらねだってみる。

(手始めに……ここで男を磨いてもらおうか)

クチュッ……ヌププッ……!

無言ながら腰の動きは了承の合図。情欲の残滓が呼び水となり、蕩けた好美の肉が再び我
を飲み込んでいく。

ズチュッ、ズチュッ、ズチュチュ。

『んはッ! もう調子に乗って……アタシもまだ、痛いって、ううんっ』

(それはいかん。我の気で癒さねばな。その為にはンフフフ……わかっておろう?)

『あ!あああんっ。もうぅこの、スケベドラゴンんっ……くふうっ』

恐らく外には月が輝く真夜中の星空。その祝福の下で再び愛の宴が始まる。前言どおり朝
まで続けてみようと誓いながら、我は幸福の連続に酔いしれるのだった。

END

どなたでも編集できます