ミサイル防衛 〜基礎講座〜の議事録
発表者と議事録担当
発表は釈迦様。ご自身の卒業論文をコンパクトにまとめ、わかりやすく解説してくれました。議事録担当はピーコ。
発端
1983年、レーガン米大統領がソ連の核攻撃に対する『多層防御』を計画。
基本的な仕組み
敵国より発射された弾道ミサイルを、段階に応じて撃ち落すこと
弾道ミサイルは基本的に放物線を描きながら、目標に向かって進んでいく
1．推進段階(ブーストフェイズ)：敵基地からミサイルが発射された直後の段階
2．中間段階(ミッドコースフェイズ)：放物線の最高点付近を進んでいる段階
3．終末段階(ターミナルフェイズ)：目標付近に到達している段階
歴史的変遷
1．戦略防衛構想(SDI：Strategic Defense Initiative)
レーガン大統領が打ち出した構想。上記の三段防御の構想はこの時点で確立されている。ブースト段階でミサイルを撃ち落すことは非常に困難。また、計画の中には迎撃兵器を宇宙空間から発射することや、指向性のレーザー兵器を使用するなどといった当時の技術では実現困難な事項が含まれていたため、『スターウォーズ計画』などと揶揄された。1993年、宇宙防衛構想としての「SDI」は放棄された。
2．国家ミサイル防衛構想(NMD：National Missile Defense)
米国本土及びアラスカ、ハワイを含む全土をICBMから防衛するためのBMD。地上の探知用レーダーシステムと迎撃ミサイル、及び宇宙空間より探知、追跡する衛星システムにより構成。NMD自体は地上配備中間コースシステム(Ground-based Midcourse Systems)と呼ばれるものであり、ミッドーコースフェイズに達した弾道ミサイルを地上発射型ミサイル(GBI：Ground-based Interceptor)発射し迎撃するもの。ブッシュ(父)大統領は、『限定攻撃に対するグローバル防衛』(GPALS：Global Protection Against Limited Strikes)を提唱。1993年に誕生したクリントン政権も、名称は違えどこの政策を引き継ぐ。それは核拡散国が近い将来、米国に対して脅威となることを想定し、それに対して領域を防衛することを目的としたものであった。しかし、実験の失敗やシステム開発の遅れが、実際の配備を大幅に遅らせてしまった。
3．戦域弾道ミサイル防衛構想(TMD：Theater Missile Defense)
クリントン政権は一時期NMDに傾倒するが、在外米軍や同盟国を守る必要性からTMDに優先順位(Priority)を置いた。TMDとは前述の通り、在外米軍並びに米国の同盟国を防衛するためのシズテムである。
そのシステムは2種類に分けられる。
○ 下層防衛TMD：大気圏内(高度100KM以下)でミサイルを迎撃
・ 陸上配備の『改良型パトリオット(PAC-3：Patriot Advanced Capability-3)』
・ 海上配備の『海軍地域防衛(NAD：Navy Area Defense)』システム
○ 上層防衛TMD：大気圏の上層でミサイルを迎撃
・ 移動式陸上配備の『戦域高高度地域防衛(THAAD：Terminal High Altitude Area Defense)』システム
・ 『海上配備型上層システム(NTWD：Navy Theater Wide Defense)』
※ ブロック��･�兇吠�けられ、�兇任蓮▲好織鵐澄璽疋潺汽ぅ�-3(SM-3)による高高度迎撃を目指した。
この構想が後のMD構想に大きく関わってくる。
4．ミサイル防衛(MD：Missile Defense)構想
2001年の5月1日のブッシュ大統領の演説に端を発する。NMDとTMDの区別を廃し、包括的なミサイル防衛構想を目指した。
重要点として3つ挙げられる。
第一、海上配備、あるいは航空機搭載機のブースト段階迎撃システムである。攻撃目標を補足しやすいので、リアクションタイムさえ克服すれば、囮やチャフに悩まされることもない。
第二、クリントン政権が進めてきたミサイル迎撃技術、つまり弾道ミサイルがミッドコースフェイズ、あるいはターミナルフェイズに到達したミサイルを迎撃するシステムを、近い将来、実際に配備が可能なMDシステムであると捉えた点である。
第三、ブースト段階を重視する理由として、NMDとTMDの区別を廃していることから、ミサイルのブースト段階では、対象が米国本土であるか、あるいは在外米軍や同盟国であるか。それらを区別せずに迎撃が可能であるから、と発表者は考えている。
上記の三点を考慮すると、ブッシュ政権が進めるMDシステムとは、クリントン政権がNMD･TMDにブースト段階での迎撃構想を取り入れた多層防衛システムということになる。しかし、ブースト段階のミサイルに迎撃ミサイルを命中させるには、きわめて高速かつ精度の高さが求められる。ブッシュ政権下での防衛政策は、クリントン政権が進めてきたTMDがクローズアップされる形になった。
5．日本のミサイル防衛
日本のミサイル防衛システムは、米国のMDシステムのうち、ミッドコースフェイズとターミナルフェイズにおける迎撃システムを踏襲している。
○ ミッドコースフェイズ
・ イージス艦に搭載されたSM-3によって迎撃
・ SM-3はフェイズド・アレイ・レーダーによって目標に対し、中間・終末誘導が行なわれる
○ ターミナルフェイズ
・ 地上配備型パトリオット3(PAC-3)によって迎撃
いずれも、運動エネルギーのみによって目標のミサイルを破壊することを目的としている。目標のミサイルが誘爆し、核による放射能汚染などを防ぐためである。また、昨今では情報収集衛星の発射にも成功し、情報収集能力の向上が図られている。
MD構想出現の歴史的意義
冷戦期には核による相互確証破壊が抑止力となっていた。だが、近年には根拠地が不明なテロリストなどの出現により、目標を明確に設定することが困難となった。そこで自国や同盟国の防御に重点を置き、テロリストや核拡散国に対し、「自国への攻撃は無意味である」と表明することにより、相互確証破壊に代わる新たな抑止力になったのである。作成者は、攻撃型抑止から防御型抑止への転換であると結論付けた。
(2007年4月7日執筆)
2007年04月07日(土) 21:16:15 Modified by momonosato