microcosmos M - 長崎ストーカー殺人
クローズアップ現代「なぜ家族まで〜検証・長崎ストーカー殺人〜」


先月、長崎県西海市で23才の女性の母親と祖母の二人が殺害された事件。逮捕された27才の男は、千葉県の女性の家に居座り、日常的に暴力を繰り返していた。女性の父親から相談をうけた警察は、男に事情聴取や警告を行っていたが、男は女性から引き離された事を機に、ストーカー行為を行い、最後には家族の殺害に及んだ。その後の取材から、警察の対応には、男女間の暴力事案に対する処理のスピードや、警察同士の連携などに問題があったことが判ってきた。何度も警察に危機感を伝え対応を求めていた父親は「今の法律は私たち一般市民を守ってくれない」と弁護士を通して思いを述べた。対応に何らかの問題があったとして今、警察庁も検証に乗り出している。SOSはなぜ届かなかったのか、事件を検証する。
取材VTRでは、
3県にまたがる今回の事件を、去年10月から殺人事件の起きた12月までの2か月にわたって時系列で追っています。
1、27才の男は、「千葉県」の女性の家に居座り、日常的に暴力を繰り返していた。
2、女性の父親から相談をうけた警察は、男に事情聴取や警告を行っていた。
3、男はストーカー行為を行って、女性から引き離され、「三重県」の実家に戻った。
4、男は「三重県」の実家を出て、最後には、女性の実家「長崎県」にいる母親と祖母の二人を殺害した。
すでに10年以上前になりますが、
「ストーカー殺人」という言葉が大きな注目を集め、その後、ストーカー規制法がつくられました。今回も、女性の父親からの訴えに対して、警察は何もしなかったわけではないのですが、結果として、最悪の形になってしまいました。
今回の被害者側の動き、そして各県の警察の動きを詳細に追った。取材VTRを見ながら、警察の対応には問題はなかったのか?こうしたストーカー問題に対して、今後、法整備をどう進めていけばいいのか?相次ぐこうした問題を、社会として、どう考えていけばいいのか?
・・・など、さまざまなことを考えました。
先月、同居していた女性に暴力を繰り返し長崎県西海市で女性の母と祖母を殺害した男が逮捕。女性の父は何度も警察に助けを求めていた。繰り返されるストーカー殺人を検証。千葉大学法科大学院教授…後藤弘子,社会部記者…藤本智光,キャスター森本健成長崎県西海市の山下美都子さん(56)と久江さん(77)が殺害された事件で、美都子さんの夫山下誠さん(58)が27日、弁護士を通じて現在の心境などを書面で明らかにした。長崎、千葉、三重県警に被害を相談していたにもかかわらず、妻と母を殺された山下さんは「法律を変えてほしい。家族だけではストーカー加害者から被害者を守れない」などと記し、ストーカーやDV(ドメスティックバイオレンス)被害に対する法制度の不備や警察の連携不足などを訴えた。
 書面によると、山下さんは三女(23)が筒井郷太容疑者(27)から暴行され監禁状態にあることを知り、長崎県警を通じて三女が住む千葉県の習志野警察署に相談。三女の上司らが部屋に突入して三女を救出し、同行した署員が筒井容疑者を傷害容疑で任意同行した。同署は「三女には近づかない」との誓約書を取り、逮捕しなかった。
 しかし筒井容疑者は三女の知人らに「居場所を教えなければ殺す」とメールを送るなどしたため、山下さんは今月6日、逮捕を求めて同署を訪ねたが「1週間待って」と言われた。その後も筒井容疑者は三女の周囲をうろついたが、傷害の被害届が受理されたのは8日後。この間、脅迫メールを送られた人たちの保護も相談したが、習志野署の返答は「メールを受けた人が住んでいる管轄の警察に相談してください」だったという。
 また、山下さんは筒井容疑者の行方が分からなくなったため、筒井容疑者の実家がある三重県警桑名署に実家の巡回を要請したが「その後、何の連絡もなかった」としている。
 こうした対応について山下さんは「威迫行為が続いていたのに野放しにされていた」として「この国で誰が筒井容疑者のような危険人物から守ってくれるのか、今も分からずにいます」と訴える。
 また、被害申告のためだけに、自費で千葉まで出向かなければならなかったことや、被害届の受理に時間がかかったことなどを「不合理」と訴えた。
 亡くなった美都子さんは「申し分のない妻」、久江さんは「大切に育ててくれた優しい人」としのび、筒井容疑者については「死刑にしてください」と記した。長崎県西海(さいかい)市で、山下久江さん(77)、美都子(みつこ)さん(56)が殺害された事件で、長崎県警は17日夜、美都子さんの三女(23)の元交際相手で、三重県桑名市霞町1、無職、筒井郷太(ごうた)容疑者(27)を殺人、住居侵入容疑で逮捕した。筒井容疑者は「間違いありません」と容疑を認めているという。長崎県警は筒井容疑者が三女との交際を巡るトラブルから2人を殺害したとみて詳しい動機を追及している。
逮捕容疑は16日午後6時ごろ、西海市西彼(せいひ)町風早郷(かざはやごう)、自営業、山下誠さん(58)方離れの窓ガラスを割って侵入、久江さんの胸や腹を包丁で数回刺して殺害し、更に同20分ごろ、母屋の窓ガラスを割って入り、美都子さんを包丁で十数回刺して殺害したとしている。死因はいずれも失血死だった。
県警によると、誠さんが10月29日、県警西海署に「千葉県に住む三女が元交際相手の男から暴力を受けたり、脅されている可能性がある。千葉県警に捜査してほしい」とストーカー行為による被害を相談。長崎県警は同日、千葉県警に通報したという。
こうした経緯などから、長崎県警は筒井容疑者が事件に関与した疑いがあるとみて捜査。17日午前、筒井容疑者を長崎市内のホテルで見つけ、任意同行した。この時、筒井容疑者が所持していたウエストポーチの中に包丁2本が入っていたといい、県警はこの包丁が凶器とみて調べている。
事件は16日午後9時前に帰宅した誠さんの次男(18)が、家に明かりがなく居間の窓ガラスが割られているのを見つけ、三女と東京にいた誠さんに電話で伝え、誠さんが西海署に通報。次男は近所の親類と一緒に2人を捜し、敷地内にあった美都子さんのワゴン車の荷台で、2人が血まみれで倒れているのを見つけ110番した。
三女は筒井容疑者から逃れ、誠さんが付き添っていたとみられる。
県警によると、車は鍵がかかっており、血痕は車外にもあった。また、母屋玄関には鍵がかかり、割れた窓ガラスのそばには鉄アレイが残っていた。階段には血をぬぐったような跡があった。
現場は大村湾に面して民家が点在する集落。国道から約3キロ離れて道は狭く、住民以外の通行はほとんどない。
こうした状況から、県警は顔見知りが恨みなどから2人を刃物で刺し、発覚を遅らせるため車に運んで鍵をした可能性が高いとみて捜査していた。

長崎県西海市で12月16日、男性が、元交際相手の女性A子さんの母親と祖母を殺害した事件で、警察は以前から何度もA子さんに対するDV・ストーカー被害について相談を受けていたにもかかわらず、最悪の事態を防ぐことができなかった経緯が明らかになってきました。

A子さんは千葉県習志野市で容疑者男性と同居している時から、激しい暴力を振るわれていました。A子さんが容疑者男性によって監禁状態におかれていることを知った父親は、2011年10月、長崎県警を通じて習志野署に相談。A子さんは救出され、西海市の実家に戻りました。習志野署は男性を傷害容疑で任意同行しましたが、「A子さんには近づかない」との誓約書が得られたため、逮捕はしませんでした。
しかし、その後も容疑者男性がA子さんや知人らに「居場所を教えなければ殺す」と脅迫状を送るなどしたため、父親は12月6日に被害届を提出しようとしましたが、習志野署は「提出は1週間待って欲しい」と伝えました。父親とA子さんは、12月12日になって被害届を提出し、習志野署は14日に傷害容疑で捜査を開始しましたが、男性は三重県の実家で暴れた後に姿を消し、2日後に犯行に及びました。

毎日新聞のまとめによれば、A子さんの父親は、10月29日以降、長崎・千葉・三重の県警に計5回相談しており、男性の両親も、男性の暴力について計3回警察に相談していたということです。
事件後の声明で、A子さんの父親は、被害申告のために自費で千葉まで出向かなければならなかったこと、被害届の受理に時間がかかったこと、三重県桑名署に男性の実家の巡回を依頼したにもかかわらず連絡がなかったことなど、警察対応の問題を指摘し、「法律を変えてほしい。家族だけではストーカー加害者から被害者を守れない」と訴えました。
また、事件の2日前に男性が実家から姿を消したことについて、桑名署は千葉県習志野署には連絡を入れたものの、長崎県警には連絡がなかったことも明らかになりました。
今後、警察対応について十分な検証の報告が待たれるとともに、被害者の家族や知人に対する保護対策の強化など、DV法・ストーカー法の見直しにつなげていく必要があります。山下さんが、長崎県警西海署に「千葉県に住む三女が元交際相手の男から暴力を受けたり、脅されている可能性がある。千葉県警に捜査してほしい」とストーカー行為による被害を相談
長崎県警は、千葉県警に通報
10/30 千葉県警は、男から事情聴取し、厳重注意。男は「二度と暴力を振るわない。自分から連絡は取らない」と話す
10/31 男が脅す内容のメールを送る
11/01 千葉県警習志野署は電話で男に警告
11/ 男は、三女などに、『お前の母親や父親、きょうだいを殺す』とメールを送る
12/09 千葉県警習志野署は、男を再度出頭させ警告。男は「自分から連絡は取らない」と応じ、実家のある三重県に帰る
12/12 三女は、9月と10月に自宅や千葉県習志野市内の路上で顔を殴られるなど怪我を受けたとして、千葉県警習志野署に傷害の被害届を提出
12/14 千葉県警は被害届を同日付けで受理。傷害事件として捜査を開始
男が三重県桑名市の自宅で父親に暴力を振るって行方不明に
12/16 午前11時頃、山下さん宅に向かって黒い服の男が歩き、その後をタクシーが付き従うようにゆっくりと走っているのを近くの住民が目撃
午後6時頃、男は、西彼町風早郷、山下さんの母、久江さん方に窓ガラスを割って侵入し、久江さん(77歳)を包丁で複数回刺して殺害
午後6時20分頃、男は、山下さん方で、山下さんの妻、美都子さん(56歳)を包丁で複数回刺して殺害
午後9時前、山下さんの次男が帰宅。家に明かりがなく居間の窓ガラスが割られているのを見つける
次男は、東京にいた父親の山下さんに電話で伝える。山下さんが西海署に通報
家族の姿が見えないため、次男は近所に住む親類男性と探す
午後9時10分頃、長崎県西海市の山下さん方の家族から「車の荷台にお母さんが倒れている」と110番通報
長崎県警西海署員が現場に駆け付ける
車の荷台にいた2人の女性のうち、1人はその場で死亡を確認、もう1人は搬送先の病院で死亡を確認
ワゴン車は施錠され、車内や敷地内には多数の血痕
12/17 午前8時、長崎県警は殺人事件として西海署に捜査本部を設置
司法解剖の結果、死因は失血死と判明
長崎県警は山下さんの娘と面識のある20歳代の男を長崎市内のホテルで見つけ、任意同行。包丁2本を所持
16日午後6時頃〜同20分頃に、山下さん宅で、女性2人を包丁で複数回刺して殺害した疑いがあるとして、長崎県警は、三重県桑名市霞町の無職、27歳男を殺人、住居侵入容疑で逮捕
12/18 午後、長崎県警は、27歳容疑者を長崎地検へ送検
12/27 長崎県警は、容疑者が所持していた2本の包丁から、死亡した2人の血液を検出したと発表
2012 01/04 27歳容疑者の刑事責任能力を判断するための鑑定留置(期限:1月4日〜4月10日)