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「あ」から連想して即興でこんなの書いてみた

「さっき何か言った?」
 こっちを振り向いて彼が私に尋ねてきた。
 私はなんでもないと首を振る。
「いや、『あ……』とかなんか言いかけたように聞こえたんだけど」
 そう言って彼は右手の缶コーラを一口飲んだ。
 耳がいい。鈍いのか鋭いのかはっきりしてほしい。
 呟いたわよ。呟きましたとも。
 隣を歩きながらなんとか手をつなぎたいと思っていたのに、喉が渇いたからって自販機に走り寄っていっちゃうんだもの。
 思わず声の一つくらい漏らしますとも。
 不満はたくさんある。
 こっちの気も知らない脳天気な目の前のクラスメイトの態度とか。
 そんな彼のことが好きで好きでたまらない自分の気持ちとか。
 好きなのにどうしても一歩が踏み出せない臆病な自分の性格とか。
 こうしていっしょに帰ってるのだって、委員の仕事で遅い私と部活をやっている彼の帰る時間がたまたま合うことが多いだけで。
 私と彼はなんでもない――悲しいくらいになんでもない、ただのクラスメイト同士なのだ。
 ああ、またため息出そう。でも出したら出したで、
「なーんか元気ないな。悩みごとあるなら話せよ? まあおとなしいのはいつもか」
 軽口を叩きながらも優しい声色に、私は嬉しくなる。同時に寂しくなる。
 あなたの普段通りの気配りが、一番私に堪えるのに。
 好きだからこそ、特別扱いされたいのに。
「あ、ヤバい! 急ぐぞ!」
 急に彼が私の左手を掴んだ。
「!?」
 私の驚きなんか少しも考慮せずに、彼はいきなり駆け出した。引きずられそうになりながら、慌てて私もいっしょに走り出す。
 点滅する青信号が赤になるとほとんど同じタイミングで、私たちは横断歩道を渡り切った。
「ふー、間に合った」
 疾走直後の深い息を吐いてから、彼は私に顔を向けてくる。
 そしてとても楽しそうにニカッと笑った。
 気恥ずかしくなった私は反射的に顔を伏せる。
「ワリィ。信号変わりそうだったからつい」
「……別にいい、けど」
 ようやく出た言葉がそれだった。
 私のバカ。もっとマシな言い方あるはずなのに。
「ホントごめんな。委員長運動苦手なのにな」
「……」
 何か言いたいのに、どうしてこういうときに私は何も言い出せないのだろう。
 でも――
「……」
 いまだに握られてる手の感触が、そんな葛藤なんてなしにしてくれそうなくらいに、温かい。
「あれ、委員長機嫌直った?」
「……え?」
「さっきより表情明るいから」
「…………」
 顔が真っ赤になったと思う。走ったのとは関係ない熱さが頭に上り、焼死しそうなほどに恥ずかしくなった。
 って、なに恥ずかしがってるのよ。ちょっとくらいガンバレ私!
 私は恐る恐る顔を上げると、精一杯の笑顔を浮かべて言った。
「走るの……ちょっとだけ、楽しかった……かも」
 その言葉に彼はまたニッコリと笑った。
「悩みごとあっても体動かすとスッキリするしさ、委員長も今度から運動してみたら?」
「……うん」


 それから私たちはぽつぽつと話をしながら帰り道を歩き、駅前のバス停で別れた。
 彼はなんだかいつもより楽しそうだった。
 私も、とても楽しかった。
 精一杯頑張った甲斐があったと思う。
 告白は……さすがにまだできないけど。

次話
作者 4-181
2008年02月14日(木) 23:00:52 Modified by n18_168




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