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じぇみに。酸

「妹、さん?」
少年の後ろに立つ、彼とどことなく似た風貌の、しかし確実に女性である少女。
睦月の通う中学の制服を纏った、すらりとした体つき。
ハネ毛気味の兄と比べると落ち着いた流れでセミショートの髪が首元にかかっている。
少年からその娘を紹介されて、睦月は呆気に取られていた。
「ああ、結。渡辺結。俺の双子の片割れ。
ちょいと事情があって数年別に暮らしてたけど、明日から同じ学校に通うことになった。
よろしくな」
少年はにっと笑って、一歩横にずれる。
少女はにこりと微笑んで歩み出ると、一礼してから睦月に名刺を手渡した。
『     渡辺 結
   私立北原中学二年生
 住所:某県某市○○区××町――――
 電話番号:090-○○○○-××××
   注:私は喋れません』
最後の注意書きに驚き、思わず彼女の顔を見る。
少女は相変わらず微笑んだまま、睦月に手を差し伸べた。
初対面の相手に物怖じせず、愛想も良い。
かと言って過度に自己主張せず、相手のペースに合わせる術を心得ている。
睦月は穏やかに微笑む少女の手を握り返しながら、思った。
自分はこの子とは仲良く出来そうに無い、と。

     * * *

562 : じぇみに。酸 ◆MZ/3G8QnIE [sage] : 2009/04/23(木) 23:25:34 ID:Ro2I7o3O
渡辺結と言う少女は、滝口睦月にとって一種憧れの対象である。
事故の後遺症で言葉を喋れないというハンディキャップを背負う彼女の、一体何が羨ましいのか。
まず165cm程度の程よい長身、対する睦月は150cmにすら達していない。
余計な脂の少ないバランスの取れた体躯は、同性から見ても美しいと思う。
胸の方も脂肪の付きがいささか悪いが、それはまあ別の問題。
二人の学業成績は同程度だが、自分を座学しか取り柄のない人物と考える睦月にとって、努力を苦ともせずムラなくコンスタントに好成績を収める結はやはり眩しく見える存在だった。
加えて結は運動神経にも優れる。
反射神経、平衡感覚、スタミナ。筋力以外の殆どの要素で成年男子と引けを取らない。
特定の部活動には属していないが、どの競技をやらせてもそつなくこなし、チームプレーを乱すことなく仲間のフォローも出来るので、運動部の助っ人として呼ばれることも多い。
どちらかと言えば中性的な相貌も相まって、宝塚の男役の様な、所謂"王子さま"などと見なされることもあるが、穏やかでやわらかい物腰からは確かな女性らしさがにじみ出ている。
男性的な格好の良さも、女性的な物腰も、睦月には持ち合わせていないものだった。
何より羨ましく思えるのは、結が彼女の兄の愛情を独占していることである。

渡辺綱、結の双子の兄にして、睦月の想い人。
妹に負けず劣らずハイスペックだが、行動力と自己主張が過剰で陽気に過ぎる性格が災いし、周囲に"バカ"と認定されている少年だ。
自他共に認めるシスターコンプレックスぶりもそれに拍車をかけている。
暇さえあらば妹の周りをたむろし、己の無謀かつ無計画な冒険に彼女を連れまわす。それでいて結への気遣いも忘れない。
その日一日を楽しむ事と妹のことしか頭にない彼にとっては、女子との恋愛など頭の片隅にも入っていない。
それでも、睦月は綱のことが好きだった。
幸いと言うべきか、睦月と同様に綱へ好意を寄せる女子は、他にいないであろうと思われる。"バカ"故に。

反対に、妹の結は同性によくもてる。
主に後輩の女子から、大半は冗談交じりとは言え、ラブレターを受け取ったのも一度や二度ではない。
男子から告白を受けたこともあった。
そのいずれも、結は断っている。
この少女にとっては、意図を汲んでくれる兄の傍が何より心休まる場所であり、わざわざ恋色沙汰に関わって神経を磨り減らすのは馬鹿げているのだろう。
結の方もまた、相当なブラコンなのであった。
当然、睦月は面白くない。
綱はどうしてこの歳になって、未だに妹離れできないのかと不満にも思う。
睦月にとって渡辺結は憧れの対象であると同時に嫉妬の対象でもあった。
思春期特有の複雑な、苦い感情を抱かせる存在。
故に、同じクラスになった当初、睦月は結のことが苦手だった。

     * * *

それは進級して間もない、ある火曜日の午後の話だった。
昼休みを終えて、古文の授業が始まる。
担当の教師は年配の男性で、比較的厳格である以外の目だった特徴はない人物だった。
教師は教壇に付くと、教科書を置いて教室をぐるりと見回す。
その視線がある一点で止まった。
「飯田、制服はどうした」
クラス中の視線がその生徒に集まる。
他の皆が制服でいる中、一人だけ前の授業で使った体育のジャージを着ていた。
彼女は居心地が悪そうに体を縮める。
「……お昼用事があって、着替え逃しました」
その青ざめた顔色を見れば、明らかに嘘とわかる。
睦月も、更衣室でロッカーを前に途方にくれる彼女の姿を目撃していた。
何より、周囲より時折くすくすと嘲笑う声が漏れているのが証拠だ。
(……最低)
高レベルとは言えないが一応進学校である北原でも、こんなことがあるのか。
睦月は机の下で、ぐっと拳を握った。
飯田とは特に親しい仲ではない。
それでも、育ちが良く世間擦れしていない睦月にとって、特定の個人を集団で寄ってたかって攻撃するのは軽蔑すべき行為であった。
だがこういう状況で苛められる方に味方することがどういう事態を招くか、判らないほど物知らずではない。
睦月は自己嫌悪を感じながらも、俯いてじっとしていた。
古文の教師は事情を知ってか知らずか、それ以上追求しない。
「そうか、今度から早めに着替えておけ。それでは授業を――――」
その時、すっと隣の席の人物が挙手をした。
渡辺結であった。
少女はそのまま立ち上がると、黒板に向かって歩く。
「渡辺、一体何の用だ」
結は微笑んで一礼し、チョークを取って手早く黒板に文章を書いて見せた。
『飯田さんは体育の時間中に制服を隠されました』
教室中がざわめく。
睦月は小さく馬鹿、と呻いた。
虐めの中心人物は恐らく藤枝と言う生徒だ。
彼女の母親は北原学園に絶大な影響力を持つOB会の会長で、教師達も彼女には強く出られないと聞いている。
案の定、古文教師は一瞬苦虫を噛み潰したような顔をした。
余計な騒ぎを起こすな、そう言いたいのだろう。
「ち、違います」
突然、顔を真っ青にした飯田が声を上げた。
「着替えるの、忘れただけです、本当に。せ、制服は、ちゃんとあります。ありますから」
教師はそれを聞いて密かに安堵したようだった。
「ほら、そう言うことだ。きっと渡辺の勘違いだろう。
次の休みにでも、更衣室のロッカーとかをちゃんと確かめてみろ」
『"偶々"次の時間、なくした筈の制服が戻っていたとしても』
結は尚も黒板に文字を連ねた。
『制服を隠されれば、誰でも不安で不愉快な思いをします。
明確な証拠がなくても、今後似たようなことがあれば、虐めと判断すべきです』
成る程、と睦月は思った。
確かに皆の面前で虐めの存在を訴えれば、教師であれ一部の生徒であれ、握りつぶすのは難しくなるだろう。
だが、訴え出る結のリスクが大きすぎる。
睦月は不安で仕方がなかった。
教室がざわめく。
教師の顔が苦々しそうに歪む。
飯田は青い顔のまま俯く。
一部の女子が敵意の篭った目で結を睨む。
渡辺結は黒板の前で、毅然と全ての視線を受けていた。

放課後、帰る準備の途中で数人の女子に呼び止められた結は、そのまま女子トイレに連れ込まれた。
今はトイレの前に例の女子グループのメンバーが陣取って人払いをしている。
その一部始終を、睦月は後ろから見守ることしか出来なかった。
無力だ。
廊下の隅で突っ立ったままの睦月は、拳を握り締めて歯噛みしていた。
その手には結の通学鞄がある。
彼女が席を空けている間、悪戯されることを恐れて持ち出しておいたものだ。
自分にはそんなことしか出来ない。
今頃、結は藤枝らから私刑を受けているだろう。
痣等の証拠が残るような真似はしないだろうが、逆に言えば証拠が残らない行為ならば何でもやる連中だ。
睦月は意を決すると、生活指導の教師を呼ぶべく、踵を返した。
「滝口? なにやってんだ?」
突然、能天気な声に呼び止められる。
「……渡辺!」
今一番会いたくもあり、それでいて一番顔を合わせたくなかった少年がそこにいた。
綱がこの状況を知れば、真っ先に女子トイレに突撃するのが目に見えている。
知恵が回る藤枝らのことだ、誰かが乱入して来ても対処する手は打ってあるだろう。
かえって、結と綱にとって悪い状況を生み出しかねない。
ただそれでも、形振り構えない状態であることは判っている。
睦月は意を決すると綱に駆け寄った。
「渡辺、わ、渡辺さんが――妹さんが、大変……」
「あー、なんか、面倒ごとに巻き込まれてるみてーだな」
綱は携帯電話をいじくりながら、慌てるでもなくあっけらかんと返答する。
その態度が信じられなくて、睦月は呆然とした。
「何、呑気なこと言ってるの? 妹さん、酷い目にあってるかも知れないのに……っ!」
「滝口」
必死に詰め寄る睦月を制しながら、綱は慣れた手つきで携帯電話を耳に当てる。
そのまま睦月に向けて、にやりと不敵な笑みを見せた。
「ウチの妹は、あんな連中に負けやしねーよ」


「どう言うことかしら、渡辺さん?」
現在、結の四方を五人のクラスメイトが取り囲んでいる。
結の正面に立つ、長髪で垂れ目の、優しげな雰囲気を纏った少女がリーダーなのだろう。
彼女だけが結に語りかけていた。
「私達にとって貴女はどうでも良い存在。お互いに無干渉でいれば何も問題は起きないのよ?
それなのに、どうしてわざわざ、貴女の方から私達の調和を乱すような行為に及ぶのかしらね?
百歩譲って飯田さんの制服の件に私達が関わっていたとしても、これは私達と飯田さんの問題なの。
貴女が口を挟むべきじゃない。判ってるの?」
結は臆した風でもなく、曖昧に微笑んだまま答えない。
リーダーの少女は結の肩を掴んだ。
「何とか仰いなさいよ」
「藤枝さん、無駄だよ。こいつ(放送禁止用語)だって」
リーダーである藤枝の右正面の、髪をひっつめにした小柄な少女が退屈そうに呟く。
藤枝の左隣にいる、短髪でいささか痩せ気味な少女が続ける。
「紙とペンくらい与えてやったらどうかな。
手を一切使わせず、ペン咥えて口だけで千回"ごめんなさい"を書かせるとか、面白そう」
「だまらっしゃい」
藤枝はぴしゃりと黙らせた。
彼女は改めて結を睨みつける。
「何笑ってるのかしら?」
その微笑が気に食わなかったのか、藤枝は手の甲で結の頬を叩いた。
結は顔を逸らしただけで、一歩も引かない。
頬に手を当てながらも、相変わらずの柔らかい表情で藤枝らを見返す。
若干気圧され気味なリーダーをよそに、右隣にいる脱色した(校則違反だ)セミロングの少女は嘲笑を浮かべる。
「殴られてもへらへらと、気持ち悪ィ。こいつ、頭可笑しいんじゃない?
それともマゾ?」
「どうでもいいわ」
藤枝が合図を送ると、結の右後ろに控えていたガタイの良い少女が無言で結の腕を捕まえた。
「貴女にはこれから、便器から水を飲んで貰うわ。
私達はしっかりその様子を撮影してあげる。
勿論、他所様にこれを漏らすことは無いわ。
だけど、もし今後、また貴女が私達に不当な言いがかりを付けるような真似をすれば――――、おわかりでしょう?」
茶髪がそれを聞いてはしゃぐ。
「パシリ2号決定?」
痩せっぽちはくつくつと低い笑みを漏らした。
「面白いねえ。こいつ、学校に来れなくなるんじゃないかな?」
「それならそれで、都合良いよ」
ひっつめ髪は、どうでも良さげに呟く。
そのまま個室へと引っ張っていかれる前に、結は懐から取り出したメモ帳に手早くボールペンを走らせ、藤枝らに掲げて見せた。
『飯田さんにもこれを?』
藤枝は満足げに頷いた。
「ええ、飲ませてあげたわ、トイレの水。
あの娘ったら、無様に泣きながら何度も『止めて下さい』と頼んでくれたの。
本当、滑稽で、可笑しくって。
心行くまで堪能させてもらったわ。
その時の画像がまだあるんだけど、貴女も見る?」
瞬間、結の貌から一切の表情が消えた。
結の肩を掴んでいる体格の良い少女の方へ、一歩後ろに下がりながら、左手でその肩を掴む。
そのまま肩を前方に引き、足と腰を使って一気に相手の股間を跳ね上げた。
屈強な少女は空中でひっくり返りながら、凄まじい勢いで肩から堅いトイレのタイルに叩きつけられ、うっと呻いたまま動かなくなる。
鼻先を投げられた少女の足がかすめ、藤枝は呆気に取られて尻餅をついた。
結は投げた勢いで身を翻し、左後ろのひっつめ髪に相対すると、左腕を引きながら左足を払う。
バランスを崩されたひっつめ髪は、防御する間もなく肝臓を膝で打ち抜かれ、くの字に曲がりながら崩れ落ちた。
「な――ッ! あんた――!」
藤枝の両隣にいた少女らは呆然と立ち尽くしていたが、ようやく状況を理解すると、同時に結に掴みかかる。
結は振り向きながら素早く左に移動。
痩せっぽちは茶髪の背に阻まれ、結に襲い掛かるタイミングを逃す。
茶髪の我武者羅な右拳を難なく潜り抜け、結は彼女の襟を掴んで強く押し出しながら内側から足を払った。
後方に倒れこむ茶髪に足を取られ、つんのめる痩せっぽち。
その手を横に払いつつ、顎を掌で打ち上げる。
「グがッ!」
手に伝わる嫌な感触に、結は目をしかめた。
それでもまだ終わらない。
倒れた茶髪の無防備な腹を踏みつける。
茶髪は蛙が潰れた様な悲鳴を上げながらのたうち回り、タイルに吐瀉物をぶちまけた。
十秒にも満たない間に、四人が結の下に倒れ伏している。
藤枝は呆気に取られたまま、一部始終を眺めていた。
「う……」
いつになく真剣な表情で睨んで来る結を見上げながら、少女は懐から細長い箱のようなものを取り出した。
震える指でロックを外すと、藤枝は箱を振りかざして結に突撃する。
「うあぁあ――――――ッ!」
結はとっさに跳び退き、壁に立てかけてあったモップを掴む。
そのままモップをくるりと回し、柄を藤枝の手首に打ち付けた。
改造スタンガンが火花を上げながら手から離れ、タイルに転がる。
手を押さえてうずくまろうとする藤枝。
結は彼女のタイを掴んで無理矢理立たせると、壁際に押しやり喉元すれすれにモップの柄を突きつけた。
「こ、こんなこと……、こんな事をしてただで済むと……ッ!」
結は無表情の一瞥で悪罵を止めると、ポケットから携帯電話を取り出し、ボタンを操作した。
雑音交じりの中、女の声が再生される。
『貴女にはこれから、便器から水を飲んで貰うわ。私達はしっかりその様子を撮影して――――』
藤枝の顔から血の気が引く。
『――――ええ、飲ませてあげたわ、トイレの水。あの娘ったら、無様に泣きながら何度も『止めて下さい』と頼んでくれたの』
「脅迫するつもりッ!?」
藤枝は目を血走らせて食い掛かる。
結は彼女の喉をモップで押さえたまま、片手で携帯電話に文字を打ち込んで藤枝に掲げて見せた。
『データは既に他所に転送済みです。
飯田さんの写真を含め、今まで脅迫材料全て。
漏らせばこの録音を公開します』


「く……ッ、どきなさい!」
よろよろとふら付きながら、藤枝ら五人は、這う這うの態で女子トイレから出てきた。
出会い頭に、退屈げに立ち尽くしていた男子にぶつかり、藤枝は苛々しながら目を上げる。
少年は能天気に手を上げて挨拶を返した。
「よ」
「渡辺……! そう、貴方もグルだったのね……!」
呪い殺さんばかりに睨み付けて来る視線を受け流しながら、綱は携帯電話を耳に当てる。
先程のトイレでのやり取りを聞きながら、少年は目をしかめた。
「言いがかりつけてリンチの挙句、脅迫して使いっぱしりかよ。
やり方がエグィな。陰湿だし、気に入らねー」
「黙れッ! 貴方が言えた身かッ!」
藤枝は壊れたスタンガンを投げ付けるが、綱は難なく片手で受け止めた。
何を言った所で、負け犬の遠吠えにしかならない。
藤枝は奥噛みすると、少年を押しのけた。
「覚えていらっしゃい。妹さんはきっと、後悔することになるわ……」
「基本的には結が買った喧嘩だ。
度が過ぎん限り俺は関わんねーよ。けど……」
綱の右手に握られたスタンガンが、ミシミシと音を立てる。
「もし影で妙な噂立てたり、教師に手回して上から追い詰めたりしてみろ。
俺は回りくどい真似はしねえ。
そん時ゃ、問答無用で、骨格変わるまでぶん殴る」
スタンガンは握り潰され、バラバラに砕けて床に零れた。
少年の顔は背後から伺うことは出来ない。
藤枝らは青白い顔で、すごすごと退散した。


「あいつらもこれで、少しは反省すると良いんだけどなー」
尻尾を巻いて逃げて行く少女達の背中を見送りながら、綱は呑気に呟く。
物陰から様子を伺っていた睦月は呆気に取られてその様子を見ていた。
「ええっと……。渡辺、さんは……」
少女が心配するまでもなく、結が何時も通りの風体で、女子トイレから悠々と姿を現した。
「おー、結。おつかれさん」
結は兄の姿を認めると、微笑みながら小さく手を振って歩み寄る。
「怪我、ないか?」
首肯。
ふと、結の視線が綱の背後の睦月に送られる。
首を傾げる結。
「あの……、鞄」
勝手に持ち出した意図を勘繰られたりしないだろうか。
持ち主に鞄を手渡しながら、睦月は気まずい思いにとらわれる。
だが、結は右手を拝むように掲げながら、笑顔でぺこりとお辞儀をした。
「鞄、持ってくれてありがとな。
じゃ、また明日」
少年は妹を代弁するとその肩を叩いて、踵を返す。
結はもう一度だけ睦月に一礼してから、兄の後ろを追った。
二人の後姿を見送りながら、少女は呟く。
「あの兄にして、ね……」


夕暮れの歩道。
綱と結は、並んで家路を歩いていた。
「今日火曜だよな。週刊ダッシュ、コンビニに置いてっかなー。
しかし今月の小遣いも残り少ない。ウウム、どーしたもんか」
綱は今日発売の漫画雑誌を買うか否かで、道すがら頭を悩ましている。
「結ー。お前も読むだろ?」
少年が左の少女に同意を求める。
だが、結は俯くだけで反応が鈍い。
「結?」
兄に呼びかけられて、結はようやく顔を上げた。
その笑顔には、なんとなく何時もの覇気が無い。
「お前、素人に手、上げたこと気にしてんのか」
少女は図星を突かれて苦笑した。
「気にすんなって。あの状況じゃ逃げられなかったし、相手は5人がかりなんだから、技使っても問題ねーよ。
先生も許してくれるって。
それに、殴られなきゃ判んねえ事もある。
あいつらにも良い薬になったろう」
綱はそう言いながら、結の頭に手を置いた。
「大丈夫だって。ほら、スマイルスマイル」
そう言って、にっと口の端を吊り上げる。
結も釣られて笑いながら、乱暴に髪をかき回す兄の手を除けた。
あからさまに残念がる綱。
「なでなでしたいんだけどなー。
兄としては傷心の妹を慰めてあげたいんだけど。
……何? 余計なお世話?」
結はそっぽを向くと、兄を置いて先に行ってしまう。
少しだけ、名残惜しそうな顔で。

     * * *

「相席、いい?」
明くる日の昼休み。
サロンで一人、不恰好なサンドイッチをつつく渡辺結を見付けると、睦月は彼女の前の席に陣取った。
結が頷くのを確認し、持参した弁当の包みを広げる。
梅干と昆布佃煮のおにぎりにアスパラ牛肉巻き、菜の花辛し和え、出汁巻き、蕗煮しめ等々。
彩り良くバランスの取れたメニュー。
手を合わせ黙祷してから箸を手に取ると、睦月も食事を始める。
暫くは、二人して言葉もなく黙々と口を動かしていた。
半分ほど弁当箱を開けて、一息ついてから、睦月はようやく口を開いた。
「昨日は、……その、ごめんなさい」
何が? と尋ねる様に、結は首を傾げる。
「私、見てるだけで、何も出来なかったから」
結は首を振ると、傍らの鞄を持ち上げて示し、右手の平を拝むように上げた。
元は自分が撒いた火種。鞄の件を感謝こそすれ、恨む理由はどこにもない。
そう言いたいのだろう。
再びサンドイッチに手を伸ばす結を眺めながら、睦月は思った。
(……不思議な子)
あれから藤枝のグループは大人しくしている。
綱の脅しが効いたのか、結が手を回したのか。
ともあれ、飯田の件は解決したらしく、彼女の制服は無事戻り、藤枝らからの干渉もなくなっていた。
何とも、鮮やかな手際。
大人しいだけの娘だとばかり思っていた。
だが、その行動力、成すべきと思ったことを成し遂げる意思は、兄譲りのようだ。
何となく、綱が妹を可愛がる理由が、少し判ったような気がする。
陽と陰。快活と冷静。男と女。
二人は全く違っているようで、その心の奥深い部分を共有しているのだろう。
羨ましいな。
睦月はそんなことを思った。
「やっほー、ムッキー。お昼かえ?
おや、渡辺の妹さんもご一緒?」
不意にかかる能天気な声。
振り向くとぼさぼさの髪を頭の後ろで纏めている少女が手を振っていた。
少女は無遠慮に睦月の横の椅子に陣取ると、ずいと身を乗り出して結の顔を凝視する。
「うーむ、確かに渡辺に似とるな。
アレを女にして、ガキ臭さ抜いて、思いっきり可愛くしたら、こんな感じやね。
おっと、失礼。私は北大路侑子。D組。ムッキーの友達よ。
よろしゅう」
二人は互いにお辞儀。
すかさず結は名刺を差し出す。
「これはどうも、ご丁寧に」
持ち慣れないものを渡され、神妙にする侑子。
「それじゃ貰っとくわ、渡辺さん――――兄貴の方と混同して、ややこしいな。
うーん、渡辺、結、結さん、むすび……。
"おむすび"って、呼んでええ?」
苦笑しながらも頷く結。
睦月は半眼で警告した。
「渡辺さん、こいつ馴れ馴れしいから、嫌なら嫌と言って――書いてやった方が良いわ」
「そんなこと言って。ムッキーやて、名前で呼びたいん違う?」
からかうような、口調の侑子。
「何でそうなるのよ」
「兄貴の方にも名前使う口実が出来るやろ?
愛しの渡辺くんを、"綱かっこはーとまーく"と愛情込めて呼んでやることが――へぶッ!?」
睦月、侑子の脇腹に肘を打ち込む。
結は目を丸くして、携帯電話に文字を打ち込んで掲げて見せる。
『滝口さん、兄のことを?』
「そそそそ、そんなわけないでしょ!
あんな、あんな、無神経でバカでお調子者で――――」
紅潮しながら、しどろもどろに反論する睦月。
「やーん、もう。ムッキーったら。このツ・ン・デ……ごぎゅ!
うう……そ、そんな暴力的やから、いつまで経っても渡辺にデレデレオーラをスルーされ……うごッ!?」
平常での睦月の態度を暴露するたび、侑子に拳が打ち込まれていく。
結は二人の様子を眺めながら、どこか安心したように笑っていた。
どこか寂しそうに。
2011年05月08日(日) 22:13:40 Modified by ID:b+GVV9iJpQ




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