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気弱無口




「一方ロシアは鉛筆を使った!!」
この俺、杉村公平は渾身のオチを叫ぶと同時に、両足を交差させて両手を上に大きく広げ(手首だけは曲げて
おくのがポイント)小首をかしげつつ「アメリカ人だってこうは行くまい!」という満面のスマイルを放つ!
静止すること数秒。
「………………………………」
俺のトークショーの特等席に座る我が宿敵・工藤香奈は、しかしいつも通りに、長い前髪で表情を隠すように
俯いたままだった。
その姿勢は、俺が工藤の席の前に立ちゲリラトークショーを開始した時点となんら変わりない。
もう、俺の絶妙のトークなんぞ滋賀にも行けない……もとい、歯牙にもかけないって言わんばかりの、
見事なノー・リアクションだった。
つまりは。
今日もまた、完膚なきまでの俺の完敗だった。
「………ちくしょー!!」
負け犬の遠吠えを放ちつつ、俺は教室を飛び出す。
「いつかお前を笑わせてやるからなぁあああああああああっ!!」
絶叫しつつ全力疾走はキツイが、ここは譲れない。コツは、ドップラー効果を意識するコト。
「あ、公平! もう先生来るよ?!」
ありがとう、先生優しいチハル君が大好きだよ?
「ほっとけ。飽きたら戻ってくる」
うん、バッサリ切り捨ててくれるマモルも、おいちゃんわりと好きだな。
教室を飛び出した勢いのまま俺は階段にたどり着き、そこを駆け下りる。
一階下に降り立った俺は、教室に足早に向かう生徒たちの波を掻き分けながら、廊下を全力疾走。
「……む? 杉村、どこへ行く? それと廊下を走るんじゃない」
「すいませんっしたー!」
廊下ですれ違った車田センセ(担任兼次の日本史のセンセね)に振り返ることなく謝りつつ、俺は階段に
たどり着き、二段飛ばしで駆け上がり、自分の教室に向かう。そして扉の前で立ち止まり、一息。
「ただいま」
「……お帰り」
「早かったな」
俺が飛び出したのとは反対の扉からなんでもないよーなテンション(ただし見るからに汗だく)で
教室に戻ると、呆れ気味のチハルとまったく変わらないマモルが迎えてくれた。
チハルの方なんかは、ハンカチまで差し出してくれる世話焼きっぷり。さすが、このクラスの
「嫁にしたい子No1」の座を姫萩と争うだけのことはあるっ!
惜しくらむは、どっちも売約済みなことだが!
そして、車田センセが教室に入ってくる。
「――うむ、全員揃っているな」
センセは教科書を教卓に並べながら、ぐるりと俺たちを見回してそう言う。
そして、いまだに汗が引かない俺を最後に見て。
「それと杉村、身体を張ったネタも程ほどにな」
固い口調の割りに意外と話せる、というかどんな情況にも質問にも冷静に対処してくる、人呼んで
『武厳学園のマジレス大王』こと担任の車田知恵(くるまだ ともえ)センセの言葉に、教室の中に
静かな忍び笑いの声が生まれる。
センセ、ナイスネタ振り。
それを特に誇るでもなく、収まった頃を見計らってセンセは「では、授業を始める。本日は152ページの……」
と教科書を開き始める。
教室中がそれにしたがって教科書を開く中、俺はそっと斜め前の席の工藤を盗み見る。
工藤は相変わらず長い前髪で表情を隠すように俯いたままで。
今のちょっとした盛り上がりにも、アイツだけはちっとも反応しなかった。



改めて自己紹介をしよう。俺は杉村公平。この武厳学園の一年B組に所属するぴちぴちのフレッシュマン。
特技は、考えるよりも先に滑らかに動く舌。
それをふんだんに活用し、この1-Bきってのお調子モンとして、ムードメーカーの地位を確立しつつある。
ちなみに先ほどの世話焼き少年チハルこと斉藤千春と、ぶっきら人間マモルこと石橋護は、こうしたキラ星の
ごとくの俺の輝きに誘蛾灯に誘われる虫のごとく吸い寄せられた……うそですスイマセンチョーシこいてました
いつもオバカな俺をフォローしてくれる貴重な友人ですゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……
とにかく、この学園に入ってからのダチである。
だが、そんな風に着々とクラス内での立ち居地を固めつつある俺に、宿敵が立ちふさがった。
それが例の、工藤香奈だ。
こいつは、こいつだけは、俺がどんな渾身のギャグをかましてもちっとも笑わない。
もともと、大人しい奴だ。制服は他の女子みたいにスカート丈を詰めたりとかしてないし、アクセサリーの
類も一切なし。おかっぱのような髪型は染めもキューティクルも入れておらず、しかも前髪を長くして目元を
隠していて、しかもいつも俯いてるから、こいつがどんな顔してるか知らない奴も多いんじゃないだろうか。
クラス分けされた当初は、それなりにあいつに話しかける奴もいたが……芳しい反応が返ってこないので、
いつの間にやら話しかける人間は少なくなった。結局、いつも教室の隅で目立たずひっそり座ってるような、
そんな奴となったわけだ。
だが、俺にはそれが我慢ならなかった。
俺のギャグに笑わない奴が、よりにもよって同じクラスにいるなんて、許せるはずがない。
よろしい、それは俺への挑戦と見た!
そうして俺は、「いつかこいつを笑わせてみせる!」を合言葉に日々奮闘し。

……そして、連敗を続けているのである、とほほ。



そんな愚痴を俺は、机に突っ伏しながら休み時間のダチとのダベリ中に漏らしてみる。
「あー、チクショウ! 自信なくすぜホント!」
「えーと、その、いつもお疲れ様」
「止めとけ千春。優しくすると図に乗るだけだ」
「チハル、温かいお言葉をありがとう。それとマモル、お前はいつか泣かす」
「やれるものならやってみてもらおうか」
く、さすが野球部期待のルーキーは体格もがっしりしてて、金も力もない優男の俺が物理的に対抗するのは
難しそうだ。……こうなると、何か弱みを握るしかないな。
「……公平、不穏当な事を考えちゃダメだよ?」
考えが読まれちまったらしい。さすがチハル、いつもあの篠原とツルんでるだけのことはある。
ちなみにいつもチハルにべったりな当の篠原は今、授業中からずっとお昼寝中のため、こうして
俺たちは男同士の親交を深める事が出来ているのである。
「しかし公平、実際にいい加減にしたらどうだ? あれだけやっても無反応と言うなら、工藤も
ウザがってるんじゃないか?」
「く、痛いところを……!」
実際、さすがの不屈な俺もそろそろメゲそう。あれだけ工藤専用のオンステージを繰り返しているというのに、
まったくの無反応と言うのも気力がガリガリ削られる。
ましてや芸人として、自分の出した芸が滑ってるんじゃないかという認識は恐怖そのものだ。
うううー、俺はこのまま負け犬として一生を終えるのか?!
「……んーと、僕はそうは思わないかな……?」
と、俺が絶賛ヘコみ中に、チハルがおずおずと切り出した。
俺とマモルの視線がチハルに集まる。
それに少し気圧される素振りをしながらも、チハルは言葉を続ける。
「工藤さん、いつも一人だし……このままじゃ良くないと思うんだ。だから、公平がきっかけになって
もうちょっと打ち解けてくれたらって思うし……」
自分の言葉を確認するように言って、それから少し強い口調で。
「きっと工藤さんも、公平の事を迷惑には思ってないんじゃないかな」
言葉こそ自信なさげだったが、なんだかしみじみと実感のこもった語り口だった。
そしてチハルは、最後にきっぱりとこう言った。
「だから僕は、公平の事応援するよ?」
「……ありがとうチハル、心の友よ〜! 俺様感涙にむせび泣き!」
「わわ!」
俺は身を乗り出し、チハルを抱きしめる。チハルは恥ずかしいのか抵抗するようにもがいている。
「くくく、初いやつめ! 抵抗しても無駄じゃ、どうしてくれウボアっ!?」
「………………!」
「あ、綾……!」
調子乗ってふざけてたら、横合いから飛び出してきた篠原に蹴飛ばされ、教室の床に転がされました。
つーか起きてたんですか篠原さん。
篠原はチハルを守るように両手で抱きかかえ、俺を威嚇をこめて凝視している。
どうやら以前、からかい過ぎたらしい。
えーと。
すかさず身を起こし、すばやく土下座をする俺。
「スイマセンまた調子乗りすぎました!」
「バカが……」
うんマモル、いつかお前絶対泣かすからネー?
そんな俺たちに恐る恐る歩み寄ってくる姫萩こと、清く正しいメガネっ子。あれ、逆だっけか?
「えーと、その……た、楽しそうね?」
「姫萩、こいつに気を使わなくていい。思ったとおりに、『無様だな』とか『キモい』とか言ってやれ」
「わ、私そんなこと思ってないよ?!」
慌てて手を振る姫萩。そして、その場をごまかすように早口で言葉を続ける。
「そ、それよりも杉村くん、お客さんが来てるよ?」
「客? 誰?」



「あなたが杉村公平くん? 始めまして、でいいのかしら? 工藤香澄です」
生徒会長さまでしたー!
いや驚いたね。姫萩に呼ばれて廊下に出てみたら、ホントに今をときめく生徒会長さまがいるんだもん。
工藤香澄、一年のときから当時の生徒会長じきじきのスカウトで生徒会入り、その元で敏腕を振るい前会長の
引退後は二年生でそのまま会長職を引き継ぎ、そのまま二期連続の会長就任を果たす成績優秀容姿端麗、
生徒からも慕われ教師からも覚えめでたい人望の厚い名物生徒だ。その名声たるや、一年坊に過ぎない
俺でも知ってるくらいで。
長く艶やかな黒髪に整った顔立ち、一見すれば日本人形かどこぞのおひい様かというような儚げな印象とは
裏腹に、その眼の力は強い。
事実、伝統に胡坐をかいて落ちぶれた柔道部から抗議をものともせずにごっそり予算を削り、規模は小さい
ながら着実に実績を伸ばしている男子バレー部の予算の増額を果たしたという果断さの反面、きちんと
説明すればどんな話でもちゃんと聞いてくれるという、柔剛併せ持つ女傑である。
そんな生徒会長さまがどうして俺を……。
は?! まさか!
「さては……俺の噂を聞きつけて、そのスター性を見込んで生徒会にスカウト、ゆくゆくは生徒会長の座を
譲り渡す後継者として手取り足取りムフフな個人指導をするために――!」
とりあえずボケてみました。
「んー、私の前任の生徒長はあなたみたいな賑やかなタイプの人だったから、それもアリかもしれないけど……
あの人、賑やかなだけじゃなくて頭も切れて指導力とか人望とかもあったわよ。あなたそれ、持ち合わせてる?」
「すいませんチョーシこきました」
成績は標準に達するのもやっとなくらいです! 課題とかテストとかはチハルの世話になりっぱなしでス。
そんな俺の様子に、会長は口元に手をやって小さく笑う。
なんていうか、そういう仕草がものすごく様になっていて……「かっこいい大人の女性」という感じだった。
でも、スカウトじゃないとしたら、なんで俺を名指しに……?
「まぁ、そんなにかしこまらないで。ちょっとあなたの顔を見に来ただけで他意はないから」
「俺の顔、スか?」
「ええ。妹によくちょっかいを出してる子がいるって言うから、顔くらいは確認しておこうかなって」
妹? まさか……?
「お察しの通り。あなたのご執心の工藤香奈は、私の妹よ」



マジすかー!
いや工藤なんて名前はそれほど珍しくもないし、なにより印象が違いすぎてまさか姉妹だとは思わなかった!
あー、でも、いわれて見れば天使の輪の写る艶やかな黒髪とか口元とか顎のラインとか、結構にてるかも。
……ってことはアイツも、前髪あげたら結構カワイイかったり……?
ってそれよりも。
「妹によくちょっかいを出してる子」に生徒会長が直々にお出ましで会いに来るって……
なんかすごく不安になるんですけどー!
「だからそんなに怯えないでよ。ホントにあなたの顔を見に来ただけなんだから」
「本当スか?」
「ええ、安心して、本当よ。あなた自身のリサーチはとっくに済んでるもの」
「余計不安になったッス!」
「もちろん、ろくでもない子がろくでもない理由で妹にちょっかいかけてるって言うなら、アレする
つもりだったけどね?」
「そこでにっこり笑わないで下さい」
アレって言うのが何かはとても聞けない。ガタガタブルブル。
「ま、それは半分冗談だけど」
残り半分に付いても聞かない事にします。
「とにかく、香奈の事をよろしくねって単なるご挨拶。それだけよ」
「よろしく、すか……」
さっき、マモルの奴に言われた事を思い出す。チハルは応援してくれたけど、それでもやっぱり迷いはある。
「俺なんかがよろしくしちゃっていいんスすかね……?」
「なあに? 意外と繊細なタイプ?」
「意外は余計です」
「あははは、ごめんなさいね。でも大丈夫よ。あの子だって、構ってもらって悪い気はしてないわ。
私にも覚えあるもの」
「会長にも……すか?」
「ええ、その点はさすがに私の妹ね。寂しがり屋のクセに、自分からは声をかけられないタイプ」
あの子は私よりも度を越してるけどね、と会長は笑いながら続ける。
「やっぱり、成績優秀で美人で人望あって、しかもちょっと抜けてるけどそこが可愛いくて仕方ない
優しい彼氏までいる非の打ちどころのない姉がいると、妹は引っ込み思案になっちゃうものなのかしらね?」
「うわ、自分で言ったよこの人」
しかも、彼氏いるのかよ。ちょっとショックー。いや狙ってたわけでもないけど……贔屓してたアイドルに
熱愛発覚ー、みたいな?
「でも……会長が話しかけられないタイプって……こんな別の学年の教室まで押しかけておいて?」
「慣れたのよ、私も。いいえ、構ってもらって、慣れさせて貰ったというべきかしら?」
へーへー、件のカレシさんですか。なんとなくやさぐれモードな俺。
「だからね、私はあなたに期待してるのよ」
……へ?
えーと、その……文脈的に、なにやらこう、おとーさん娘さんを僕に下さい、うむ娘を頼むぞ的な
ニュアンスが……。
なんとなく答えられずにいる俺の肩を、会長はぽんと叩き。
「強いてアドバイスを送るなら、他の人のいないところで声をかけてあげて、って所かしら?
それじゃ、これからも妹をよろしくね、杉村君」
そういい残して、颯爽と去っていく。
後には、反応に困って呆然とする俺だけが残されたのだった。




放課後。
掃除当番の俺がゴミ捨てから戻ると、教室内はがらんとしていた。
とりあえず絶叫する。
「おのれ掃除当番ども(俺以外)め!! ゴミ捨てが最後の仕事とはいえ、俺が戻るのを待たないで帰るとは、
何たる薄情モノ揃いぞ! まぁ、俺だってこの情況なら帰るがな!」
うむ、芸人たるもの一人ノリツッコミくらい、観客がいなくてもこなさなくては。
って。
「………………………………」
「……いたのか工藤……」
つーかスマン、素でお前の存在に気付かなかった。
工藤(同じく今日の掃除当番、か行の終わりからさ行の名前の奴が本日の当番だったのでした)は、自分の席に
座っていつものように俯いていた。
やべぇ。今の俺ちょっと恥ずかしい。
聞く奴がいるならいいだろうって? 違う違う! 人に聞かせない一人ボケツッコミ用と、人に聞かせるネタは
はっきりきっぱり違うんだ!
一人用のネタを他人に聞かれると、すごく微妙なんだ!
とりあえず、ゴミ箱をもどそうと教室に入ると、工藤はますます身を縮こませて俯く。
……いやあの、そうやってあからさまに緊張されると、こちらも気まずいんだが。
「他の連中は、帰っちまったのか?」
俺は、その雰囲気を振り払おうと、フレンドリーに話しかける。
「………………………………」
工藤は、俺の言葉にぴくり、と身を震わせるが、そのまま何も言わずに俯いている。
……き、気まずっ!
つーか工藤と二人だけってのがすげーやりにくい!
いつもなら他の連中がいて、工藤がノーリアクションでも「工藤相手にまた滑った俺」として、
二次的なウケは取れてたんだが……工藤の他の人はなく、当の工藤にリアクションなし!
まさにソーメン鹿! 違った四面楚歌!
俺大ピンチ!
「あー……」
なんか気の利いたことを言おうとして……やばい、なにも思いつかねぇ。俺自慢の考えるより先に動く舌も、
今は動作不良っていうか、この情況でギャグかまして滑ったりしたら、わりと俺のアイデンティティが
致命傷になりそうな危機感が……!
「他の連中はともかく、チハルは残ってくれるもんだと思ったんだけどなぁ……」
そんなわけで、ヘタれた俺はそんなどうでも言いことを言ってみる。ちなみに斉藤なチハルと杉村な俺、
ついでに篠原な篠原も出席番号順に班分けとか言うと一緒になることが多い。
――反応が、あった。
工藤は、弾かれたように顔を挙げて。
でも、何か言いたげに口をもごもごと動かし、でも結局何も言えずに、俺の顔を見ている……前髪で
見えないけど、多分。
反応があったことに少し驚きながら、俺は少し考え。
「ま、義務が終わっていてもたってもいられなくなった篠原に引っ張られたんだろけど」
また反応が合った。
顔を挙げた工藤は、俺に向かってこくこくと首を振る。口が僅かに開いてて、何で判ったのか驚いてるっぽい。
……やべぇ。今俺テンション上がりまくり。
工藤からリアクションをもらえたことで、こんなにテンションが上がるとは……!
調子に乗った俺は、自慢の舌も再起動。芝居がかった仕草で、右手の人差し指でこめかみを押さえつつ、
思案の表情を作る。
「きっとチハルは、篠原に襟首を掴まれて引っ張られながら、残った連中に申し訳なさそうに手を合わせてた、
と見たが……いかがかねワトソンくん?」
工藤は、先ほどよりも力のこもった仕草で、大きくこくこくこくと頷いてる。
いいなぁ、リアクションがあるってステキ。
「なに、簡単な推理だよワトソンくん。なぜなら、アイツラのいつものことだからね!」
工藤に向かって手を振りつつ、そうしめる。
あははは、工藤のやつ拍手し始めたよやぁりぃ!
「なんだよ工藤、いいリアクションしてくれるじゃん」
調子に乗ってそんなことを言った俺は……どうやら地雷を踏んでしまったらしい。



その言葉を聴いた工藤は、ぴたりと拍手を止めて。
自分の両手をわたわたと見比べてから、すごい勢いで両手を脚の上に戻すと、また俯いてしまった。
「………………………………」
俺は、反応に困ってぽりぽりと頬をかく。
はあ。工藤のリアクションを引き出せたと思ったけど……うまくいかねーなー。
今の……つい反応しちゃったけど、本当はこんな事したくなかったんだからねっ!(ツンデレ風)って
リアクションかねぇ……?
もう一つため息をついてから、とりあえず俺は、ゴミ箱を元に戻そうとまた歩き出す。
俺と工藤しかいない教室の中に、俺の足音だけが響く。
さすがに俺にももう、工藤になにか仕掛ける気力はなかった。
「……あ、そこ……」
え?
不意に聞こえた聞きなれないか細い声に、俺は気をとられ。
ズボ。
ずるん。
ごちん。
……ドゴッ!!
「うぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は、自分の抱えたゴミ箱の影に隠れた、誰かの片付け損ねたバケツに思いっきり足を取られた。
視界が回転、ついでおもいっきり後頭部を打ち付け、眼から火花が飛ぶ。
……おまけに、放り投げられたゴミ箱が、見事に俺のみぞおちを捕らえたのだった。
三連コンボに、俺はのた打ち回って叫び声を挙げる。
なにこのドリフコント?! 狙ってやったならともかく、天然で成立とかありえないだろやありぃ
俺天性の才能あるねマジで?!
よかった、掃除のすんだ教室で、空になったゴミ箱で、ホントーに良かった!
「……ご、ごめんね杉村君……」
――気が付くと、工藤が駆け寄ってきていた。が、のた打ち回る俺に手も出せず、わたわたしてる。
このか細い声……どうやら、さっきの声も工藤のものだったようだ。
「……バケツの事もっと……」
そこで声は途切れる。多分、バケツの事をもっと早く言っていたら、とか言いたいんだろう。
「あー……」
ようやく痛みも落ち着いてきた俺は、上体を起こしながらぼやく。
「確かに、もうちょっと早く教えてほしかったなぁ……」
「……ご、ごめんなさい……」
床にぺたりと座り込んで、両手を足の間に挟むようにしてすごい勢いでしゅんとする工藤。
って言うか。
「さっきもそうだったけど……普通にリアクションとか会話とかできるじゃん」
「……………………!」
俺の言葉に一瞬ピクリと肩を震わせて、しかしまた縮こまってしまう工藤。
コレは……。
……いつもはまったくの無反応の工藤。
……思わず、と言った状況では反応してくれる工藤。
……しかし、そこに触れるとまた沈黙してしまう工藤。
……それと休み時間の、会長の「他の人のいないところで声をかけてあげて」というアドバイス。
今頭をぶつけたのがよかったんかね? バラバラだったパズルのピースがパチリとはまるような感覚。
「工藤さ、もしかして……」
その結論を、工藤にぶつけてみる。
「人前でなんか反応するのが、恥ずかしいん?」
「………………………………」
工藤は、ちょっと顔を挙げて……やがて、こくんと頷いた。
よく見ると……髪の合間から覗く耳が、真っ赤に染まってたり。
………………………………。



そうすか。
恥ずかしかったんすか。
だから必死に反応しないように、こらえていた、と。
「……それだけじゃ……なくて……」
ほう? 聞きましょう。
両手の人差し指をちょんちょんとつつき合わせながら、工藤は続ける。
「……あの……何か反応しなくちゃ、って思うと、余計に……」
ウン。余計にテンパっちゃって何もいえなくなるんダネ。
うんうん、よく判るよ、こうやって間近で工藤見てると。
………………………………。
なんでしょうね、このやり場のない感情は。
本当なら「なんじゃそりゃ〜!!」とでも怒りだすところなんだろうけど、その気にもなれない。
強いて言うなら……レベル上げて装備整えてイベント一通り見て宝箱全部開けて、その末に辿りついた
ラスボスの間にいたのが、涙目で震える人畜無害な小動物だったような、そんな感覚。
判る? ……俺にも判らん。
どうにもやるせないキモチで一杯の心が、うまく制御できない。
「つまり……お前はとにかく恥ずかしがり屋で……その前髪も、そのためってか?」
そんな心を離れた自動制御の舌が、自分でも何の意図で聞いてるかわからん質問を紡ぎだす。
それに対し、少し間を取ってからまた小さくこくんと頷く工藤。
俺は一つため息をつき、思わず愚痴を漏らす。
「隠すなんてもったいねぇなぁ。わりと可愛い顔してんのに」
「………………!」
……はて。
工藤が硬直してる。
さっきまでの比じゃない、固まりっぷりだ。
なんでコイツこんなに固まって、って……。
……………………。
今俺、何て言った?
なんていうかこう、やるせないキモチのままに、深く考えずにさらっと口にした台詞だったんだが。
……なんか、コウ、くりてぃかるナコト、イッテマセンカ、オレ?
「…………………あ……………」
工藤は突然立ち上がると、俯いたままでぱたぱたと教室を飛び出していった。
こっちも混乱中で、止めることも出来ず呆然とその背中を見送る。
つーか止めたところで何をするのかって話だが。



「………………………………やれやれ」
俺は首を振り、思わず呟く。
今のはまずかったかなぁ。
ああいう恥ずかしがりに、あの台詞はヤバいだろう。
…………でも。
俺が転んでて、工藤が近寄ってきたとき。
偶然下から覗き込むような形になって見えた工藤の素顔……実際、わりと可愛い感じだったんだよなぁ。
ついその本音がこぼれちまいました。
でも本当、前髪で隠すのは勿体無いと思うんだ。
やれやれ。俺は意味もなく、頭をかく。
と、廊下の方から、かすかな物音。
そちらを振り向くと……戸口の影から顔だけのぞかせるようにして、工藤がまだいた。
今考えてたことが考えてたことだけに、思わず言葉に詰まる俺。
「…………あのね、杉村君…………」
工藤は、そこまで言ってから少し俯き。
また顔挙げて。
「……また、明日ね……」
それだけ言うと、小さく手を振ってから、すぐさま戸口の向こうに引っ込んだ。
廊下から聞こえる、ぱたぱたと小走りに去っていく物音。
「………………やべ、返事しなかった」
呆然と見送ってしまってから、俺はゆっくりと立ち上がる。
なんとなく視線は、工藤の去った戸口を見つめたまま。
「………………」
また明日、か……。
「……くっくっく」
我知らず、笑いがこぼれる。
また明日、また明日ね、また明日。
とりあえず俺は、工藤に拒絶されてはいない、ってのは確実らしい。
「は、ははは、ははははははは」
テンションダダ上がりの俺。
人前だと恥ずかしい? テンパってどうしていいかわからなくなる?
上等っ!
「覚悟しやがれ工藤! 俺の超絶テクに夢中にさせて、『人前じゃ恥ずかしい』なんて考える事も
出来ないくらいあられもない声上げさせてやるからな!! だぁ〜っはっはっはっはっは!」
「……私も、生徒間の恋愛や青少年のリビドーには理解を示しているつもりだが……」 
「……は?」
不意に。
俺だけしかいないはずの教室に、俺以外の声が響いた。
ギ、ギ、ギ、ギ、とぎこちない動きで、工藤が出て行ったのとは反対側の扉へと目を向ければ。
おそらく見回りに来たのであろう、車田センセが腕を組んで立っていた。
「さすがに立場上、双方の合意を得ない不純異性交遊や犯罪行為などは止めねばならなくてな?」
「ご、誤解ですマム!」
そうして。
抗弁もむなしく俺は職員室にドナドナされて、小一時間こんこんと車田センセのお説教を食らったのだった……。
ちゃんちゃん♪





杉村公平:軽いお調子者。いつも暗い香奈を笑わせることを目標にしているバカ。
      どれくらいバカかというと、公平のキャラ確認にネコなカノジョの観察日記03を読み返したら、
      ずっと裾と袖を間違えてた事に今更気づいたくらい。
工藤香奈:前髪で瞳を隠した地味少女。優秀な姉のプレッシャーで引っ込み思案。
      どれくらい引っ込み思案かと言うと、家族以外の人に話しかけられるとテンパって
      何も話せなくなるくらい。いつも話しかけてくれてた公平とお話したいとずっと思ってたが、
      話そうと意気込めば意気込むほどますますテンパる悪循環に陥る難儀な気弱無口。
工藤香澄:生徒会長。妹の香奈を気にかけている。今は颯爽として人当たりもいいが、2年くらい前は
      孤高の無口ツンデレだった。どれくらいツンデレだったかと言うと、具体的には無口ツンデレくらい。
      二年で生徒会長になって苦労したり、そのツンぷりに周囲と摩擦を起こしたりといったイベント
      をこなしつつ、ずっと支えてくれた副会長(元会計)と付き合い始めてから余裕が出てきて、
      丸くなった。デレたとも言う。
      ちなみに身内に対しては以前から優しく接しており、妹の世話もよく見ていたし、妹もそんな姉を
      頼って、色々と相談に乗ってもらっていた。「クラスの子が話しかけてくれるんだけど、うまく
      返事できなくて困ってる」、とか。
      今日も彼女は、「……今日ね、杉村君と少しだけお話できたの……」と少し恥ずかしそうに報告
      してきた妹に、「杉村君って……ああ、あなたがよく言ってた、よく話しかけてくれてた子ね?
      良かったじゃない」といけしゃあしゃあと何食わぬ顔で答えてることでしょう。
車田知恵:日本史の先生。武厳学園のマジレス大王。どれくらいマジレスかと言うと、
      「赤ちゃんはどうやってできるの?」
      「うむ、男女が愛し合うことで授かるものだ」
      「具体的には?」
      「興奮し勃起状態となった男性の陰茎を、女性の膣に(以下略」くらい。
      ちなみに武厳は「むごん」と読みます。このスレ的なお約束。

斉藤千春:友情出演。脇役になっても、コイツの甲斐甲斐しさは異常。
篠原綾:友情出演。今まで公表の機会はなかったが、一人称は「ボク」。「僕」でも「ぼく」でもなく「ボク」。
     表の理由は「千春の真似」で、裏の理由は「貧乳ショート活発娘の一人称として、ここは譲れん」。
石橋護:伏線はあったが初出演。身も蓋もない言動が特徴で、千春と綾の関係を餌付けとか言っちゃう人。
     がっしりとした体格の、いかつい野球部期待のホープ。
姫萩紫:友情出演。清く正しいメガネっ子。1−Bのお母さん。伏線としてわりと引っ張ってたけど、
     ぶっちゃけ「護と姫萩さんは付き合ってます」の一言ですむ。

作者 5-321
2008年09月07日(日) 23:43:33 Modified by n18_168




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