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千草(仮題)前編

 本を読んでいた千草は不意打ちに言う。
「キスしよ?」
 笑顔の一つもない無表情で、だけどほんの少しだけ恥ずかしそうに頬を染めて 千草は言う。
 不意打ちに言って俺と唇を奪う。
 それが済むと、再び笑顔の一つもない、だけどほんの少しだけ満足そうに、薄いレンズの奥にある目を細めて、千草は本に没頭する。
 それが、俺と千草のデートだ。



 俺はバンドをやっている。
 高校の頃からインディーズ。卒業してから2年でメジャー。武道館なんて夢のまた夢だけど、少なくともバイトをしなくても食えるくらいには売れている。
 メンバーは四人、全員男。
 リーダーはギター兼ボーカル。歌はむちゃウマなくせに、普段のトークは絶望的にど下手の無口。一日中歌以外の声を聞かないこともたまにある。断っておくが、こいつは男であって俺の彼女じゃない。
 ベースは正統派美形でリアルに遊び人スケコマシ。スマイルが武器だそうだ。現に女の子の大半がコイツ目当て。いつか刺されるんじゃないかと心配している。
 ドラムは兄貴。血縁関係とかじゃなくて、兄貴。年齢的には一番下なのに、兄貴。とにかく硬派でとにかくゴツくてとにかく、兄貴。
 でもって最後は俺、シンセサイザー。役どころはいわば2.5枚目。ライブのトークとかはリーダーがやるもんなのに、残念ながらウチのリーダーは
「えっと…今日は、その……楽しんでってよ。がんばるからさ、俺達」
 がライブで言った台詞最長記録。カンペを渡しても噛みまくる。
 ベースのコマシは言動が天然でストロベッてて、女の子だけがどこか間違った方向に盛り上がるし、兄貴は暴走族か漁師の気合入れになっちゃう。
 だから自然と、特徴のない俺に役が回ってきた。
 注目を集め、適当に笑いを取り、観客を盛り上げる道化役。
 断っておくが嫌じゃない。喋るのは好きだし、トークで観客を沸かせるのは気持ちいい。それが癖になったせいか、普段からも多弁系になった。
 そのことについては、後悔していない。ある一点を除いては。
 それは―――女の子にモテなくなったことについてだ。

 女の子に煙たがれる訳じゃない。元々モテてたわけでもない。いや、むしろバンドを始めるまでは、冴えない普通の奴扱いだった。
 多弁になったら女の子には注目されるが、しかしお友達以上になれなくなった。理由はほぼ常に行動をともにしているメンバー達だ。
 純粋に歌が好きで寄ってくる子は、リーダーの担当。
 遊んでる感じの子や、逆に純情な子は、われらがバンドのコマシ王子が捕食。
 百戦錬磨な経験を積んだお姉さまは、硬派な年下兄貴が目標。
 この隙のないラインナップに搾り取られた跡に残ったのは、俺のトークに喜んでくれるちっちゃな女の子だけ。
 ああっ、俺、ロリコンだったら良かったのに!
 …いや、ロリコンだったらむしろ危なかったか?
 とにかく、俺の元に届けられる女の子からのファンレターは、クレヨンで「がんばって」と書かれたイラスト付きということになった。
 まあ、今にして思えばそれでよかったのかもしれない。
 なぜなら、お陰で千草に嫉妬されずに済むのだから。



「?」

 千草が首をかしげてこちらを見返した。そこで、俺は自分が本を開いたまま千草の横顔を注視していたのに気付く。
 柄にもなく恥ずかしくなる。

「何?」
「あ、いや…千草と付き合いだした時の事を、ちょっと…」
「……そ」

 それだけ返事をすると、彼女は読書を再開した。他人が千草のリアクションを見れば、きっと俺に同情的な視線を向けてくるに
違いない。
 だが、それは勘違いだ。彼女の頬は、ほんの僅かに赤く染まっている。それは、他人が見たら絶対に気付かないような些細な変化。だけども、付き合いだしてからずっと見つめてきた
俺には解る。
 照れているのだ、千草は。
 出会った頃など、俺が千草のそんな些細な感情の機微に気付けるようになるな
んて思ってもなかった。

 千草との出会いは、ある意味衝撃的だった。

「6」
「ないです」
「寄せて」
「4日で」
「月曜無理。火曜」
「ん」
「ん」
「いや待て、お前らどこの宇宙人だ」

 無口なリーダーに付き合って本屋に行った時、リーダーが店番の子と謎のやり
取りをした挙句合意に達したのを見て、俺は思わず突っ込んだ。
 ちなみに今の会話をテレパシー能力が未発達な地球人でも理解できるように翻
訳すると

『あの〜、このシリーズの6ないですか?』
『申し訳ありませんが、売り切れになっております』
『あ、じゃあ、取り寄せはお願いできます?』
『4日後になりますがよろしいですか?』
『4日って月曜?あ、俺その日無理なんで火曜に取りに来るって子とでいいっす
か?』
『はい、承りました』
『よろしくお願いします』

 ということだったらしい。
 その店員とリーダーは『何でそんな解りきったことを?』という風にこちらを
見てきたので、俺は『んなこと解るわけねぇだろボケが!』という意味合いがこ
もった愛想笑いを返してやった。
 その店員が、千草だった。

「読・ん・だ・ぞぉぉぉぉぅっ!」
「お疲れ様」

 仰向けに倒れた俺。机の上に残されたのは閉じられたハードカバー。タイトル はGreat Expectations―――大いなる遺産。千草はこのタイトルの和訳に物も押
したいらしいが、呼んでみてよく解った。うん、Expectationsは遺産より期待の方がいいだろう。
 一方千草は、ちらりともこちらを見ずに言うと、立ち上がった。向かったのは部屋の出入り口。
 コーヒーでも淹れに行ったのだろう。

「あ、砂糖はいらないから!ミルクだけで!」
「…緑茶」
「あ、さいですか…」

 うむ。期待を裏切られた。ピップの気持ちが少しわかったぞ。
 などとくだらないことを考えながら俺は上を見る。
 見えるのは蛍光灯と、天井と、本。
 本だ。本、本、本、本…。およそ地震が起きたら死ねるほどに積み上げられた 本の山。
 千草はビブリオマニアだ。本人は違うといっているが、十分そうだと思う。
 思えば、千草と付き合いだす切欠も、彼女の本好きだ。



「やめてください!」

 図書館で、そんな声が聞こえた。
 俺はリーダーに勧められて始めた読書の実行のため、手頃な本の物色に図書館
に来ていた。その時、聞こえたのだ。

「んだよ、関係だろ!」

 静かなはずの図書館で、言い合う声がした。一つは千草、もう一つは餓鬼っぽい男の声。
 前者の方に俺は驚いた。千草があんな大きな声を出すのは初めて聞いた。
 痴漢、それともナンパ?
 いずれにしてもただならない様子を感じて行って見れば、そこには本を広げた中学生くらいのガキが三人と、それをいつものぼおっとした様子とは打って変わ
った千草がいた。言い合いを聞いたところ、このガキが図書館の本の表を切り抜いていたらしい。それに千草が注意して、ガキが逆切れしたというわけだった。

「ちょとぐらい問題ないだろ!」
「けど、これは皆も本で…」
「じゃあ俺が使ってもいいわけだ」
「けど…」

 むちゃくちゃな屁理屈を言うガキに、千草は一歩も引かないが、しかし口下手な彼女の方が押されている。周りで見ている連中は、そっちにちらりと視線を寄せただけで、すぐに厄介ごとを恐れて視線をずらす。
 根性なし共め。その周囲の反応を見て、千草は傷ついたような表情をして、ガキの方が勢いづく。

「ほら、だれももんくいわねえじゃん」
「ですけど…」
「だいたい、いきなり大声出して。マナー違反はそっちだし」

 いたぶるように薄ら笑いを浮かべて言うガキども。その時には既に俺のの堪忍袋ゲージは振り切れていた。

「屁理屈こくなよ、ガキ共?」



「…ありがと」
「ん?ああ、別に。俺も腹立ってたし」

 千草が話しかけてきたのは、半泣きで去っていくガキ共を見送っていた時だった。
 はっきり言って楽勝だった。断っておくが殴り合いとかじゃない。あくまで口げんかの発展だ。
 相手はちょっと嘴が発達しただけのひよこ。それに引き換えこっちは商業用のトークを経てきたプロ。
 ふっ、鎧袖一触とはこのことよ。

「借りにきたの?」
「へっ?あ、ああ。本をな。リーダーに薦められて本を読み出したけど…初心者用に言いの探してるんだけど…」
「うん」
「お、紹介してくれんの?サンキュ…って、おい?引っ張るなよ…つか、そっち出口だってば!」
「うん」
「『うん』といわれても…」

 結局、そのまま引っ張られ、歩くこと三分。
 辿り着いたのが千草の家。歩きながらどうにか聞き出したことによると、短大に通いながら一人暮らしらしい。
 …トラブルから助けた後に一人暮らしの女子大生の家に引きずり込まれる男?
 え?Hイベントのフラグ立てちゃった?
 なんて妄想しているままに家に引きずり込まれた俺を待ち受けていたのは、そんな邪念を吹っ飛ばすほどの本だった。
 いや、靴箱に本が入ってるってあり?
 ともかく、本のせいで壁が見えないという事実に呆然としている俺に、千草は奥のほうでごそごそと何かしてから、年季の入った一冊の本を差し出してきた。

『ガリバー旅行記』

「お礼」
「えっ?…あ、うん。どうもえっといつまでに返せば…」
「あげる」
「…いいのか?」

 思わず受け取ってしまった古びた本を、俺は眺める。ハードカバーだ。保存状態はいい。売ればそれなりになると思うが…。

「いい。あなたは…いい人だもの。この子もきっと大切にしてくれると思うから」

 俺は、目を覚ました。
 寝起きは良い方の俺の脳は、即座に今までの事が全て夢だったと気付く。どうやら、千草との出会いを思い出しながら、寝てしまったようだった。耳には、ローテンポのラブソングが聞こえる。聞き覚えがある曲…というよりも俺が書いた曲だ。
 俺は起き上がろうとして、自分の口をふさぐ、濡れたような柔らかい感触にも気付く。
 …なんだこりゃ?
 目を見開けばいきなり肌色の何かが視界をふさぎ、更には後頭部にも柔らかい感触。しかもいい匂いまでする。

「ん?」

 俺は何気なく、声をあげ…

「!!!!!?」

 無言の悲鳴。そう表現できるような慌てた気配が伝わってきた。
 次の瞬間、視界が急に開け、俺の頭の下に差し込まれていた柔らかな枕が飛び
跳ねるように動いた。

「なんだなんだ!?」

 混乱しつつも起き上がる。そして周りを見ると、すぐ近くに千草がいた。
 彼女には珍しく、明らかに驚愕の感情を浮かべた顔を、なぜか真っ赤に染めて
、壁を背にしてこっちを見ている。
 回転しろ、俺の灰色の脳細胞。一帯何が起こった?
 現状から数秒前を推測するんだ。

1.俺は寝ていた。ここには俺と千草しかいない。
2.ついさっきまで俺の頭を支えていた枕はどこにも無く、そういえばなんか暖かかった気がする。
3.さっき俺の口をふさいでいた感触は覚えがある。千草の唇の感触だ。
4.千草がめずらしいことに滅茶苦茶動揺している。

 …ふっふっふ、初歩的な推理なのだよヘイスティングス。
 俺は自身ありげな笑みを浮かべて千草を見る。千草は、俺の視線を受けてさっと目をそらす。いつもの無表情も今はどこか取り繕ったようなものになり、そもそも白い肌はまだ赤みを残している。
 証拠は十分だな。だが、ここでもう一つとラップをかけて置こう。
 俺は千草をビシッっという効果音つきで指差して、

「千草…犯人はお前だ!」
「違う、してない」
「おやぁ、してないって何をかなぁ?」
「……極悪人」

 千草は無表情に呟いた。普通に言われたらグサリと来るかもしれないそれだが、シチュエーションによる補正と僅かに赤い頬のせいで俺の嗜虐心をくすぐる媚薬に変わる。

「極悪人はどっちだよ?人の寝込みを襲っておいてさ…」
「おっ、襲…ってなんか…」
「ん?聞こえないなぁ」

 言いながら、俺は千草ににじり寄り、そっと抱き寄せる。千草はそっぽを向きながら、それでも抵抗する素振りはない。俺は調子に乗って千草の頬を撫で、口を耳元に寄せる。

「でもさ、どうしてそんなにキスが好きなんだ?」
「好きじゃ…ないもん」
「嘘つけ。じゃあ、どうしてそんなにキス魔なんだよ?」
「キス魔…じゃ!はむぅ…」

 言葉を遮って、俺は千草にキスをする。舌も入れないフレンチキスだ。しかし効果は劇的だ。一枚のレンズ越しの目は、一瞬大きく見開かれ、すぐに蕩けて細まっていく。
 ああ…その表情ヤバイって。
 思わず押し倒したくなるが、ここはグッと我慢。キスを終えて、千草と目を合わせる。

「どうしてだ?」

 再び問う。実は答えが返ってくることなど期待してはいない。どんな反応が返ってくるかが楽しい。それこそ嘘でも、無言であってかまわない。自分の言葉に対して彼女がどう返してきてくれるか、それが楽しい。
 特に、普段から情緒情動が見えにくい千草だからこそ、こういう感情が表に出ている時は格別だ。
 期待を込めて見つめる俺の視線の先で、千草は口を開く。

「……から…」
「ん?」
「怖い…から」
「…何がだ?」

 千草は躊躇うようにしてから、必死といった風情に口を開いた。

「私…口下手だから。…あなたみたいに、歌ったりもできないし…好きって伝えられないから……。だから…代わりにキス、するの。伝わってなかったらって思うと、怖くて…キスしないと、不安だから…」

 千草が言い終えるより早く、俺は再び彼女の唇を奪った。

「んっ…んんー!」

 今度は舌を入れる。千草が僅かに抗うような動きをするが、それも僅かだった。

「ふゅ…ふ、ぅ……」

 千草は反撃を試みる。必死さが伝わる舌の動きだが、あまりに稚拙だった。俺は差し込まれて舌をしゃぶる様に迎撃し、怯んだところで逆襲。千草の歯や
歯茎を撫で回す。

「…んっ!…ぁぅん…!っはぅ」

 千草はついに音を上げて、逃げるように口を離す。息をつく千草を、俺はたまらなく愛しいと思いながら、告げた。

「伝わってるよ」
「…?」
「千草の気持ち、伝わってる」

 そう。千草の思いは完全に伝わっている。今のこの部屋には、俺が目を覚ましてからずっと、リーダーが歌う俺が書いた曲が流れている。
 内容はベタベタなほどにストレートなラブソング。千草と付き合い始めて、その時に彼女に送った歌で個人的にはかなりいい線だと思っている。だが、彼女の無言のキスに―――それによって伝えようとしてくる想いと比べてしまえば、陳腐にしか思えない。

「何百回好きだって言われるより、沢山伝わってる。だから、安心しろよ」
「…うん」

 頷くと、千草は心音を聞くように、俺の胸に顔を寄せる。千草の髪は、いい匂いがする。シャンプーか香水か、それとも彼女自身の香りなのかはわからないけれども、いい匂いだ。
 落ち着くような、それでいてどこかドキドキする……ぶっちゃけると、興奮する匂いだ。
 …結局獣かよとか言うな、畜生。仕方ないだろ、ディープキスした挙句、恋人と二人きりで抱き合ってるんだぞ?増して千草は結構いい体している。
 普段の図書館で作業しているエプロン姿では想とは見えないが、実は結構背が高く、手足は長い。プロポーションだってセーターの上からでも括れがはっきりと解るくらいだ。
 などと俺が自己欺瞞をしていると、千草が呟いた。

「Hな気分?」
「え?」
「硬いから」

 Oh!My馬鹿息子!
 そりゃ密着状態じゃ隠しようないわな。

「雰囲気、台無し」
「く…っ、仕方ないだろ?」

 二重の意味で硬直する俺に、千草は言う。さっきの意趣返しとでも言うつもりか?
 だが、そんな俺の想像と、彼女の意図はまったく違った。

「うん。仕方ないよね」
「えっ?」

 てっきり「この万年発情期がぁっ!」的なことを言われるのを覚悟していた俺は、意表を突かれて腕の中の千草を見る。千草も、俺の方を見ていた。
 笑顔の一つもない無表情で、だけどほんの少しだけ恥ずかしそうに頬を染めて千草は言う。

「セックスしよ?」



次話
作者 書く人
2007年12月12日(水) 09:45:04 Modified by n18_168




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