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rglc85tj8h 2007年12月09日(日) 20:54:20履歴
▼クロタールのミサイル発射シーン

▼中国海軍で始めてクロタール艦対空ミサイル・システムを搭載した#109「開封」

▼052型駆逐艦(ルフ型/旅滬型)のR440ミサイルの装填作業。再装填装置の使用方法が分かる。

■性能緒元
全長 | 3.00m |
直径 | 0.156m |
翼長 | 0.55m |
重量 | 84.5kg |
弾頭 | 破片効果榴弾(HE-FRAG ) |
推進装置 | 一段固体推進薬ロケットモーター |
最大速度 | マッハ2.3 |
射程 | 500〜12,000m |
射高 | 15〜5,000m |
誘導方式 | 無線指令+光学/赤外線/手動誘導 |
クロタール・ナヴァル艦対空ミサイル・システムは、フランスのトムソンCSF社(現ネクスター社)が開発した個艦防御ミサイル・システムである。ベースとなったクロタール対空ミサイル・システムは、1964年に南アフリカ共和国の依頼を受けてフランスのトムソンCSF社(現タレス社)が開発した自走式の中・低高度用対空ミサイル・システムで、1971年にカクタスの名称で南アフリカ軍に就役。その後改良型がクロタールと命名されてフランス空軍でも用地防空用として採用され、さらにそれを基にしてフランス海軍向けの艦載型クロタール・ナヴァルが開発された。
クロタールは、高度50〜3,000mをマッハ1.2程度で飛行する目標を迎撃することを想定して開発された。ミサイル発射機は8連装で、レーダーなどの管制機器と一体化したものと、発射機と管制機器が分離したタイプの2種類が存在する(中国海軍が調達することになるのは分離型のクロタール8MS)。システムはモジュール化されており、小型のミサイル艇から大型艦までさまざまな艦艇への搭載が可能。ミサイルの誘導は無線指令誘導方式を採用しており、DRBI51CJバンド・レーダーが、目標と(ビーコンの助けを借りて)ミサイルの双方を追跡して自動的にミサイルに誘導指示を行うが、電子妨害などによりレーダーが使用できない状況に備えて赤外線/光学追跡モードも用意されている。クロタールシステムの主兵装であるマトラR440ミサイルは、重量85kg、全長2.89m、直径0.15mで、弾頭は15kgの破片効果榴弾(HE-FRAG)で、赤外線式近接信管と瞬発信管が装着されている。推進装置は固体ロケット式で、発射後2.3秒で最大速度のマッハ2.3まで加速される。有効射程は50〜10,000m、有効高度は15〜4,000m。
中国がフランスからクロタール・ナヴァル(クロタール8MS)を輸入したのは、1987年のことである。中国では1960年代からHQ-61艦対空ミサイルの開発を行ってきたが、文化大革命による混乱や中国の電子技術の遅れもあって1980年代に入っても十分な実用性は確保できていなかった。そのため、艦隊防空は艦砲や機関砲に依存せざるを得ない状況が続いており、経空脅威に対して極めて脆弱な状況にあった。
中国海軍では艦対空ミサイルに関する立ち遅れを速やかに改善するため、1987年にかなりの外貨を費やしてフランスから2基のクロタール8MS艦対空ミサイル・システムを調達した。この内、1基のクロタールが051型駆逐艦(ルダ型/旅大型)の#109「開封」に搭載されて実用試験に供された。「開封」の艦後部の37mm連装機関砲が撤去され、その場所にミサイル発射機と再装填装置(予備弾8発)が搭載され、直前に新たに設置された搭状マスト頂部にミサイル管制用のDCNS CTMシステム(CASTORIIレーダー、赤外線/レーダー照準装置などで構成)が設置された。後部ラティス・マスト頂部には同じくフランスから輸入したE/FバンドのTSR 3004シー・タイガー対空警戒レーダーが搭載され、クロタールに対空目標の情報を提供した。「開封」はこれらの装備を運用するためフランス製のTAVITAC戦闘情報システムを国産化したZJK-4戦闘情報システムが搭載され、これにより防空ミサイルを艦のシステムの1つとして有機的に運用することが可能となり、クロタールの性能を十全に生かせるようになった。「開封」によるクロタールの試験は数年間にわたり実施されたが、クロタールは高高度、中高度、低高度の目標に対して良好な命中精度を発揮し、その性能は関係者を満足させる物であった。また、システムの自動化の水準、再装填装置による戦闘持続能力などの実用面における配慮も高く評価された。
この試験結果を受けて、中国海軍は当時計画中であった次期駆逐艦(後の052型駆逐艦(ルフ型/旅滬型))の艦対空ミサイルとしてクロタール8MSを採用すること、そして、輸入したクロタールをリバース・エンジニアリングして国産化することが決定された。国産化されたクロタール8MSは、HHQ-7(海紅旗7)艦用防空導弾として制式採用され、中国海軍の主力艦対空ミサイルの地位を占めることとなる。クロタールの輸入は、中国海軍にはじめて実用的な艦対空ミサイル・システムを導入したという点で、中国海軍の歴史における一里塚になったといえる。
クロタールを搭載したのは#109「開封」と、052型駆逐艦(ルフ型/旅滬型)1番艦の#112「哈爾浜」(2番艦の#113「青島」はクロタールの国産型HHQ-7を搭載)の2隻であった。しかし、「哈爾浜」は2002年に実施された近代化改装でクロタールに換えてHHQ-7改良型を搭載しており、現在もクロタールを運用しているのは「開封」だけとなっている。
【参考資料】
艦載武器 2006年12月号(No.88)「中国海軍試験艦専題-幕後英雄」(天一・祁長軍/中国船舶重工集団公司)
艦載武器 2006年9月号(No.83)「旅滬級駆逐艦換装分析」(銀河/中国船舶重工集団公司)
中国軍事用語辞典(茅原郁生/蒼蒼社)
艦載兵器ハンドブック改訂第2版(海人社)
Chinese Defence Today
Naval Technology
中国武器大全
中国海軍
HQ-7艦対空ミサイル(紅旗7/海紅旗7/HHQ-7/FM-80/FM-90/CSA-N-4)
HQ-7近距離地対空ミサイル(紅旗7/FM-80/クロタール)