日本の周辺国が装備する兵器のデータベース

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▼ウクライナで試験中の中国向けズーブル級(ポルモニク級)揚陸艇。武装や一部の電子装備は未搭載。


ズーブル(Project12322)級大型エアクッション揚陸艇(NATOコード:ポルモニク/Pomornik)は、ソ連のアルマズ設計局が1978年から開発に着手した超大型のエアクッション揚陸艇[1][2]。

船体サイズはエアクッション揚陸艇としては異例となる満載排水量555t、全長57.3m、全幅25.6m[2][3]。あまりに大きいためドッグ型揚陸艦の内部に搭載することは最初から想定していない。船体の主要造材は耐腐食性の高いアルミニウム・マンガン合金であるが、砲爆撃や弾片による被害を防ぐため船体外部には軽装甲板が装着されている[3][4]。ペイロードも150tとケタ外れで、艦内の車輌甲板にT-80B戦車なら3輌(計150t)、BMP-2歩兵戦闘車なら8輌(115t)、BTR-80装輪装甲車なら10輌(131t)、兵員だけなら360人を搭載する事が出来る[1][2][3]。艦の前後にランプが装備されているが、艦尾ランプは小型のため、戦車や車輌は艦首ランプから乗降する[3]。ズーブル級は5基のNK-12Mガスタービンエンジン(11,836馬力)を搭載しており、2基はリフト用、3基は推進用に使用する[1]。最高速度は60ktsで、航続距離は55ktsで300nm。波高2m、風速12m/sまでの天候下において航行が可能で、高さ1.6mの波を突っ切ることができ、シーステイト4でも30〜40ktsでの航行が可能[2][3]。水上から地上に直接乗りつけることが可能で、陸上でも高さ2mまでの障害物であれば移動に支障は無いとされる[3]。

エアクッション揚陸艇としては異例の重武装を施しているのがズーブル級の特徴の1つ[2]で、対空/対水上兵装として射程3,000mのAK-630M 30mmCIWS2基を上甲板に搭載しており、さらに必要に応じて手動操作の9K34ストレラ3(NATOコード:SA-14グレムリン/Gremlin)4連装発射機4基を使用する[2][3]。AK-630の前方には地上攻撃用のMC-227 140mm22連装ロケット発射機2基が装備されている。MC-227ロケット発射機は停泊中や通常航行の際は艦内に収納されており、射撃時のみ甲板上にせり出してロケットの発射を行う[21]。このほかに機雷20〜80発を搭載して敷設作業を行うことも可能[3]。

ソ連海軍では計20隻のズーブル級を調達する計画を立てていたが、1980年代後半には国際情勢の変化とソ連経済の悪化を受けて建造費用の高い同級の発注数は半分に減らされた[2]。1984年から94年の間に10隻がロシアとウクライナで建造され、6隻がロシア海軍で、4隻がウクライナ海軍に引き渡された[2][3]。さらに2000年にはギリシャにも4隻が輸出された[1][2][3]。 しかしズーブル級はエアクッション艇特有の運用コストの高さ(一時間あたりの運用経費は4,000tクラスのフリゲートと同じコストを要する)、エンジンの寿命や信頼性に問題があったことにより現在ではロシア海軍(2隻)とギリシャ海軍(4隻)のみが現役に留まっている[2][3]。ウクライナでは上記の要因に加えてロシアからのコンポーネント調達が滞ったことにより整備に支障をきたしたこともあって、2008年までに全てのズーブル級が退役している[3][5]。

【中国のズーブル級調達について】
2006年、中国がズーブル級6〜8隻の調達を目指してロシアやウクライナと交渉中であるとの報道が成された[6]。その後のKommersant紙2007年5月7日付の報道によると、ズーブル型の購入に関する中露両国当事者の交渉は4隻で2億1000万ドルという価格を巡って折り合いを付けることが出来ず、中国はズーブル型購入の交渉から撤退することになった[7]。

その後、中国は交渉相手をウクライナに変えてズーブル級の調達を目指すことになる。2009年にロシアのインターファックス通信は中国とウクライナの間でズーブル級の輸出に関する交渉が行われていることを報じた[8]。契約額は3億1500万ドルとされ、最初の2隻をウクライナで建造し、さらにウクライナの技術者の監督のもと中国で2隻をライセンス生産する事が想定されているとのこと。ウクライナ政府はこの発注の存在を確認したが造船所の方はコメントを拒否した。2010年になるとウクライナのZorya Production Associationの消息筋からの情報として、2009年からズーブル級2艇の建造準備が開始され、一番艇は2011年に建造を開始、2012年に中国への引き渡しが行われるとの見通しが明らかにされた[9]。中国はズーブル級2隻をウクライナから購入、続いて中国国内で2隻をライセンス生産する事、Zorya Production Associationはライセンス生産のために中国にUGT6000ガスタービンエンジンを提供する事も定められている。これは資料[7]の情報を裏付ける内容である。

消息筋によると、中国で建造されるズーブル級は基本構造やスペックは原型と変わらないが、中国側は兵装や電子装備については自国製装備の搭載を希望しているとの事[9][10]。中国ではズーブル級のライセンス生産を通じて大型エアクッション揚陸艇建造に関するノウハウの蓄積を進め、将来的には自力での建造を実現することを目指していると推測される。

ロシアの国営兵器貿易会社ロスボルエクスポルトの海軍部門担当者アレクセイ・コズロフ氏は、中国はロシアとの間でもズーブル級やミレナ級(Project 12061型)の2種類のエアクッション揚陸艇の購入に関する交渉を行っている事を明らかにした[11][12]。

中国へのズーブル級引渡しは2012年に開始される予定であるが[1][7]、2011年5月27日にウクライナのフェオドシア造船所で建造中の中国向けズーブル級1番艦が船台で移動中、大型クレーンが落下して船体が破壊される事故が発生した[10]。この事故によりズーブル級1番艦の中国への引渡しが遅れることは免れないことになった。

【2013年4月19日追記】
2012年4月12日、ウクライナのフェオドシア造船所において中国向けに建造されたプロジェクト958型エアクッション揚陸艇(ズーブル級)一番艇の引渡し式典が挙行された。


性能緒元[2][3][4]
基準排水量480t
満載排水量555t
全長57.3m
全幅25.6m
主機NK-12Mガスタービンエンジン(11,836馬力)5基
速力60kts
航続距離300nm/55kts
乗員31名(士官4名、下士官〜水兵27名)

【兵装】
対空ミサイル9K34 Strela-3(SA-14 Gremlin) / 4連装発射機4基
対地ロケット140mmロケット弾 /22連装発射機MC-2272基(弾薬66発搭載)
近接防御AK-630 30mmCIWS2基(弾薬3,000発搭載)
機雷20〜80発

【搭載能力】
物資搭載量150t
戦車T-80戦車3輌
歩兵戦闘車BMP-2歩兵戦闘車8輌
兵員輸送車BTR-80装輪装甲車10輌
兵員最大360名

【電子装備】
レーダーMR-123 Vympel(Bas Tilt)/火器管制用1基
SRN-207(Curl Stone)/水上・航海レーダー1基
IFF(敵味方識別)装置1基
衛星通信装置1基
デッカ無線航法システム1基
昼間/夜間視認装置1基

同型艦
1番艇ウクライナのフェオドシア造船所で建造。2011年起工、2013年4月12日中国海軍に引渡し。 
2番艇   ウクライナのフェオドシア造船所で建造中。2011年起工。 
3番艇   中国で建造予定。 
4番艇   中国で建造予定。 

【参考資料】
[1]Naval Technology「Zubr Class (Pomornik) Air Cushioned Landing Craft」
[2]铁钩船长「孤独的“欧洲野牛”中国海军与大型气垫登陆艇使用探讨」(『现代军舰船』2009-10B/No.379/现代舰船杂志社)6〜16頁
[3]多田智彦「サンクトペテルスブルク国際海洋防衛展示会 ロシア海軍の最新艦艇レポート」(『軍事研究』2011年9月号/ジャパン・ミリタリー・レビュー)202〜213頁
[4]アルマズ設計局公式サイト「Десантный корабль Зубр проект 12322」
[5]История Военно-Морского Флота России и Советского Союза.「"Зубр" Проект 12322」
[6]Chinese Defence Today「Project 1232.2 Zubr Class Air Cushion Landing Craft」
[7]Kommersant 2007年5月7日「China Lays Down Russian Arms」[1]
[8]ASIAN DEFENCE「Ukraine military hovercraft to equip Chinese navy」(2009年8月24日)
[9]Y.Sidov「中國組装ZUBR氣墊船」(『漢和防務評論』2010年6月号)55頁
[10]Y.Sidov「烏克蘭爲中國製造的ZUBR重型氣墊船事故」(『漢和防務評論』2011年8月号)38〜39頁
[11]WWW.RUSNAVY.COM「China is about to buy Russian air cushion ships」(2010年4月20日)
[12]China Defense Blog「An update on the Zubr buy」(2010年4月20日)
[13]DC Ukroboronprom「ФСК «Море» передала Китаю перший десантний корабель на повітряній подушці」

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