日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼「翔龍」の模型。翼端にウイングレットが付いているのが見て取れる。

▼成都の飛行場で撮影された「翔龍」試作機


性能緒元
通常離陸重量6,800〜7,500kg
全長14.33m
翼幅24.86m
全高5.414m
エンジン渦噴7(WP-7)ターボジェットエンジン×1(推力4,200kg)
最高速度
巡航速度700km/h
上昇限度
巡航高度18,000〜20,000m
作戦行動半径2,000〜2,500km
連続飛行時間10時間
離陸距離350m
着陸距離500m
ペイロード600kg
機体寿命2,500時間

「翔龍」高高度無人偵察機は、中国航空工業集団公司所属の成都飛機工業集団公司や貴州高空工業集団公司などの企業が自社資本により開発中のUAV(unmanned aerial vehicle:無人航空機)[1]。英語名は「Soar Dragon Hing Altitude Unmanned Scout」[1]。

「翔龍」は、高高度に長時間に渡って滞空して広域監視や戦略偵察を行うことを目的とする大型のUAVであり、アメリカのRQ-4グローバルホークに相当するクラスの機体になる[1]。「翔龍」の開発は中国軍の指示によるものではなく、将来必要とされる高性能UAVを中国の現状の技術において纏め上げるという目標のもとで成都飛機工業集団公司や貴州高空工業集団公司などの各関係機関が合同で提出した高高度無人偵察機概念案に基づいて実施されている[1]。

【機体性能】
「翔龍」の機体サイズは全長14.33m、翼幅24.86m、全高5.414mで通常離陸重量は6,800〜7,500kg[1]。

「翔龍」の外観上の大きな特徴は、主翼と水平尾翼を結合させた結合翼(ジョイントウイング、ボックスウイング)を採用している点である[1]。

結合翼は、主翼を後退翼、水平尾翼を前進翼として双方の翼端同士を垂直坂で連結したものであり、平面図を見ると主翼と水平尾翼が菱形に見える。「翔龍」の場合、主翼と水平尾翼は同一平面状には無く、主翼は低翼に、水平尾翼が高翼に位置している。結合翼は後退翼と前進翼の双方の利点を共有できる特徴があり、高亜音速下の条件において高い揚抗比を有し、高い安定性と良好な姿勢回復性能を発揮する[1]。失速状態に入りにくく、大迎え角においても姿勢を回復しやすいため、飛行制御システムの設計を簡略化できる作用がある。高い揚抗比は、空気の薄い高高度の飛行の際に有利に働く。結合翼は水平尾翼の分だけ翼面積を広く取ることが容易なため、翼面加重を低減しやすい点も、高高度飛行に適した特性になる[1]。

高高度飛行を行うグローバルホークの場合、アスペクト比の高いグライダーのような細長い直線翼を採用しているが、この様な翼は自重による変形が生じやすく、設計や材料に格段の工夫が求められる。それに対して結合翼の場合は、主翼と水平尾翼が一体構造になっているため直線翼に比べて主翼にかかる荷重を減らす効果があり、主翼設計に求められる工夫は直線翼よりも緩和され、構造材の重量も軽減することが出来る[1]。

「翔龍」は、迅速な展開を考慮して中国軍のY-8輸送機や世界各国で使用されているC-130輸送機への搭載を前提として設計されている[1]。空輸の際は胴体と翼を分離してコンテナに搭載されるが、輸送後は要員3名により30分で各コンポーネントを組み立てて飛行可能になる。機体設計はモジュール構造を全面的に取り入れており、エンジン、アビオニクスなどの機材だけでなく、主翼なども簡単に換装可能。将来、性能向上の必要性が生じた場合でも、主翼やエンジンを変更することで容易に対処が出来るとしている[1]。

「翔龍」の胴体は機首直後が膨らんだ独特の形状をしている[1]。この部分にはグローバルホークと同じ様に衛星通信用のアンテナが収納されていると思われる。インテークは背負式で後部胴体中央上部にWP-7ターボジェットエンジン1基が配置されている[1]。WP-7はJ-7戦闘機の初期型に使用されたエンジンだが、超音速飛行をしない「翔龍」のWP-7はアフターバーナーを撤去しており最大推力は4,200kg[1]。

グローバルホークの場合、燃料効率のよいAE3007Hターボファンエンジン(推力3,447kg)を使用しているが、現在の中国には推力3,000〜4,000kg級の適当なターボファンエンジンが存在せず、やむなくターボジェットエンジンのWP-7を搭載せざるを得ない状況にある[1]。エンジンの問題に加えて、最大離陸重量がグローバルホークの半分程度で燃料搭載量にも差があることから、「翔龍」の連続飛行時間は10時間と、最大32時間の滞空性能を有するRQ-4Aグローバルホークには遥かに及ばないものに留まっている[1][2]。逆に推力重量比は「翔龍」の方が優れているので、上昇性能と巡航速度は「翔龍」の方が高い性能を有している[1]。

「翔龍」の機体制御は、自動制御システムと地上からの無線制御方式の併用で、事前に入力されたコースを自律飛行するだけでなく、飛行中のどの段階においても地上からの制御による操縦を行うことが可能。「翔龍」の機体制御や各種情報の送信には無線通信が使用されるが、通常常の無線通信では見越し距離外での通信は困難になるため、「翔龍」では機首上部に高速通信可能な衛星通信用アンテナを内蔵しており、通信衛星を介して地上の管制ステーションとの連絡を行う[1]。

「翔龍」は大型UAVのため、離着陸は通常の航空機と同じく滑走路を使用する。降着装置は引き込み式。

【運用】
「翔龍」の作戦ペイロードは650kgで、任務にあわせてモジュール化された各種機材を搭載する[1]。偵察・監視任務の場合には、合成開口/逆合成開口レーダー、電子光学/赤外線センサー、ビデオカメラなどを搭載する。赤外線センサーや合成開口/逆合成開口レーダーにより、悪天候下においても目標画像の探知が可能[1]。「翔龍」は、複数の通信システムを搭載することが可能であり、センサーで得られたデータは、無線データリンク装置を用いて地上の管制ステーションやコマンドポストにリアルタイムで送信される[1]。

通信中継任務の場合は、機首のペイロード室に通信機材を搭載して、空中無線中継局として運用される[1]。高度20,000mに滞空するUAVが空中無線中継局となった場合、半径200kmの範囲の無線短波通信機の通信を担うことが出来る[1]。さらに複数のUAVを滞空させることで任意の地域に無線通信網を敷くことが可能となる[1]。UAVは、有人機と違って乗員の疲労を気にすることなく長時間にわたって滞空して無線中継を遂行できるため、この種の任務に適合した装備であるといえる[3]。戦術通信では通信衛星の活用も可能であるが、UAVはより低コストで戦術通信網を構築することが可能であり、UAVを通信ノードとして活用することで近年通信データ量が増加している通信衛星の負担を軽減しそれを補完する役割を果たし得る[4]。

電子戦任務の場合は、2基の電子戦ポッドを搭載する[1]。任務にあわせて各種ポッドを搭載するが、特に注目されるのはGPSジャマーである[1]。これは20種類以上のGPS妨害機能が内蔵されており、半径400km以内のGPS装置の使用を妨害する能力を有しており、対GPSジャマー機能付きGPS受信機でも半径150km以内では使用出来なくなる。これは、現在多用されているGPS誘導システムに対する大きな脅威となる可能性を有した装備であるといえる[1]。

「翔龍」は偵察・広域監視任務のみならず、爆弾や誘導兵器を搭載して対地攻撃を行うことも想定されている。その際には、兵器搭載ペイロードを確保するためセンサー類の搭載量を減らすことになる[1]。

【今後の展望】
「翔龍」は、既に試作機が製造されており、2009年11月7日には初飛行に成功し、現在実用化に向けた試験が続けられている[5]。

1990年代中期以降、中国ではUAVの開発に高い優先度を与えるようになり、各メーカーではマイクロUAVから大型の戦略級UAVにいたるまで多種多様な機体の開発が行われている[6]。

ただし現在の所、中国軍でのUAVの運用は戦術偵察などの限定された分野に留まっている[6]。UAVの運用には、軍の情報戦(信息戦)への対応の確定、各軍のデータリンク網の統合・整備、無人機の運用を前提とした航空法規の改正、衛星位置測定システムや通信衛星網の整備、無線の割り当てなど各種インフラの整備といったさまざまな対策を講じる必要があり、UAVを単独で導入しても有効に機能させることは難しい[7]。技術面では、中国の電子産業の発展に伴いUAVを実用化するための技術的基盤が整備され、2010年代には中国独自の衛星測位システム「北斗2(コンパス)」が段階的に実用段階に達するなど、UAV運用に必要とされる条件が整いつつあり[6]、中国軍としては、此等の条件整備を踏まえてUAVの導入を漸進的に進めていくものと思われる。

「翔龍」は軍の要求に応じて開発された機体ではなく、メーカー主導で将来必要とされるUAVの性能実証機として開発されたもので、「翔龍」が実用化されたとしても直ちに中国軍に採用されるとは限らない。しかし、中国軍が今後の情報中心戦時代に対応してUAVの開発を重視していることは間違いなく、「翔龍」は今後の動向が注目される装備であると見なすことが出来る。

【参考資料】
[1]翔龙高空侦察无人机 空军世界 AirForceWorld.com
[2]坪田敦史『ミリタリー選書21:ステルス軍用機と軍用UAV』(イカロス出版/2007年)170頁
[3]井上孝司『戦うコンピュータ2011』(光人社/2010)144頁
[4]社団法人 日本機械工業連合会・日本戦略研究フォーラム「平成17年度無人機(UAV)の汎用化に伴う防衛機器産業への影響について」(2006年3月)30頁
[5]China Defense Blog Xianglong UAV conductes its maiden flight.(2009年11月12日)
[6]Richard D. Fisher, Jr.・Alexandria, Va.「China Seeks UAV Capability」(AVIATION WEEK/2011年8月8日)
[7]社団法人 日本機械工業連合会・日本戦略研究フォーラム「平成17年度無人機(UAV)の汎用化に伴う防衛機器産業への影響について」(2006年3月)148〜154頁

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