日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼「天弓1型」ミサイル

▼「天弓1型」4連装発射機(量産型)。この発射機には「天弓2型」ミサイルも搭載できる。

▼「天弓1型」4連装発射機(牽引状態)。

▼「長白」フェーズド・アレイ・レーダー


性能緒元(「天弓1型」ミサイル)
全長530m
直径41cm
翼幅100cm
重量870kg
弾頭重量90kg(HE 着発/近接信管)
最大速度マッハ3.5
射程100km
最大射高23,000m
最大旋回荷重25G
誘導方式中間誘導:慣性+指令誘導(修正)
  終末誘導:セミアクティブ・レーダー誘導or赤外線誘導

台湾は1970年代中期、建設予定の「強網」防空システムに統合して運用する長距離対空ミサイルの開発に着手した。これは、米中国交回復とそれに伴う米台国交断絶に伴う自主国防政策の一環であった。開発を担当したのは、台湾の精密誘導兵器開発の中心である中山科学研究院。当初はMIM-23「ホーク」中距離対空ミサイルをベースとし、ロケットモーターを換装し射程を延長、電子機器やソフトウェアを一新して新型ミサイルとする計画であった。この方法を選択したのは、新規開発に比べて開発機関を短縮し低コストで実現可能である点、ホークのレーダーやイルミネーターを流用する事が可能になる点、台湾はすでにホークを運用しており、そのインフラが使用できるなどの利点があった。数年後、中山科学研究院は最初の試製ミサイルの製造にこぎ着けた。このミサイルの外見は米国の「フェニックス」空対空ミサイルに類似していたという。しかし、この時期に中台間の交渉の結果、アメリカが台湾の対空ミサイル開発に技術支援を行う事が決定したことで、ホークをベースにしたミサイルの開発は中断される事になった。

アメリカが台湾と結んだ協定では、アメリカは台湾の次世代対空ミサイルの開発に対して、「パトリオット」対空ミサイルシステムの技術の85%を提供するという内容であった。この協定を受けて、1982年から改めて長距離対空ミサイルシステムの開発が開始された。この開発名には「天弓」計画の名称が与えられた。開発の中心となったのは、ミサイルの目標発見、追尾用レーダーである「長白」フェーズド・アレイ・レーダーであった。この開発は米RCA社の技術支援の元で行われた。ミサイルの試作では、中距離ミサイルの「天弓1型」5発と長距離ミサイルの「天弓2型」4発が製作された。これらのミサイルの設計においても、パトリオットの技術が大きく反映されていた。ただし、アメリカはパトリオットの誘導方式であるTVM(Track Via Missile)誘導システムに関しては台湾への開示を拒否したため、誘導システムに関しては中山科学研究院が独自に作り上げる事になった。また、ロケットモーターの設計も台湾側で行われた。

1985年3月22日、「天弓1型」の最初の試射が実施され、成功を収めた。翌年の3月26日には、セミ・アクティブ誘導方式の「天弓1型」実用型の試作ミサイルがレイセオンMQM-107「Streaker」標的機の撃墜に成功。4月17日には、終末誘導に赤外線誘導方式を採用したタイプの「天弓1型」がホーク対空ミサイルを改造した標的を迎撃。直撃はしなかったが、至近距離での爆発により標的を撃破することに成功した。この年から「天弓1型」の初度生産が開始され、各種の試験に供される事になった。

1989年9月25日、中山科学研究院は「天弓1型」ミサイル20発を陸軍防空部隊に引き渡し、陸軍試験場での評価試験が行われた。しかし、この試験では、システムの完成度が十分でない事が明らかになった。特に問題になったのは、「長白」フェーズド・アレイ・レーダーの信頼性であった。1993年上半期に実施された、実戦状況での試験では、上昇する目標、急降下する目標、旋回する目標、超低空から飛来する目標といった、多種多様な方法で侵攻する標的に対して、7発の「天弓1型」が発射され、5発が目標に命中した。その内、超低空から接近した標的に対しては2発のミサイルが発射され、うち1発が命中した。これらの結果を踏まえて、同年9月30日、「天弓1型」が正式に部隊に交付され、最初の「天弓1型」対空ミサイル大隊が台湾北部で編成され、「天龍」陣地と命名された。1993年には、米レイセオン社から「天弓」用の各種コンポーネントが11億ドルで調達された。

「天弓1型」ミサイルは、1985年に製作された最初の試作品では、ミサイル中央に安定翼が、後端に操舵翼が有るホークによく似た外観であり、ホークのコンポーネントの使用が伺える物であった。翌年に製作された実用型は、形状が一新され、ミサイル後端に四枚の操舵翼を有するMIM-104「パトリオット」ミサイルに類似した外観に変化した。ミサイルの速度が速く、弾体自体が揚力を持つため、大型の主翼は廃止され、方向制御用の操舵翼のみが残された。ミサイル弾頭のコーンは、中山科学研究院が開発したガラスセラミック複合素材(SCFC)で製作されたものであった。この素材は熱や腐食に強く、レーダー波を透過する性質を備えており、高速飛行するミサイルの弾頭部には最適な素材であった。「天弓1型」の弾頭は着発/近接信管が採用されており、地上からの爆破指示も出来る。目標を直撃するか、もしくは爆発により飛散する断片と爆風により標的を撃墜する。ミサイルの側面には整流板が配置され、その中には地上との連絡用回線と操舵翼制御用のケーブルが封入されている。ミサイルは方形の4連装ミサイル発射機に搭載される。ミサイルのサイズ(注:数値には複数の説がある。)は、全長5.3m、直径0.41m、翼幅1m、重量870kg、弾頭90kgHE弾、二重固体ロケットモーターを搭載し、最大射程は60〜100km、射高は23,000m、最高速度はマッハ3.5。

ミサイルの誘導方式は、中間誘導が慣性+指令誘導(修正)方式、終末誘導がセミアクティブ・レーダー誘導方式、もしくは赤外線誘導方式である。終末誘導でのレーダー波照射は目標命中の3〜15秒前の段階に限定される。これにより、レーダー波照射を終末に限ることにより、複数のミサイルを同時に打ち上げて追尾・管制を行う事が可能になった。もう一方の赤外線誘導方式タイプは、強い電子妨害下での運用能力を得るために開発された。2種類の誘導方式を併用する事で、システムとしての強靱さを増すことが指向されたのである。

「天弓1型」の目標探知・追尾システムの中心を占めるのが「長白」フェーズド・アレイ・レーダーである。ただし、「長白」の開発には時間を要したため、初期の「天弓1型」は、ホークミサイルのレーダーやイルミネーターを使用して運用される事になった。「天弓1型」は当初からホークのシステムでも運用する事も踏まえて開発されたために、このような措置が可能となったのである。

1989年9月25日には最初の「長白」が陸軍に交付され記念式典が催された。「長白」は、技術的にはアメリカGE社製ADAR-HP防空レーダーがベースになっている。「長白」フェーズド・アレイ・レーダーのレーダーアンテナのサイズは縦4.5m、横3m。アンテナには約6,000個の移相器が装着されており、複数目標の探知や追尾、同時に発射された「天弓」ミサイルの追跡や敵味方の区別などを同時にこなす。「長白」の探知距離は450km、同時に数百目標を探知・追跡しながら、24発の「天弓」ミサイルを追跡する能力を有している。「長白」の電子妨害に対する抵抗力は、台湾の保有するレーダーの中でも最高の能力があると評価されている。「長白」レーダーは指揮命令系統を納めるコンテナ側面に装着され、車両より牽引される。「長白」の各種センサーはアメリカ製ミサイルとは違い中国語で表示される。コンピュータが広く普及しておりその扱いになれた台湾人であれば、中学卒業程度の学力レベルで、短期間の訓練を受ければ射撃統制任務に就けるようになるとされる。「長白」は、台湾全土の防空システム「強網」とリンクして運用されるが、「長白」単独でも高度に自動化されているため、レーダーでの目標探知、脅威度の判断、目標の位置計算、武器選択、ミサイル発射から戦果判断までの一連の過程を独自にこなす事が出来る。また、システムの自己診断装置やシミュレーション機能も装備されている。レーダーを搭載するコンテナには敵味方識別装置も搭載されている。

「天弓」のモデルとなったパトリオットは、AN/MPQ-53フェーズド・アレイ・レーダーが目標の探知や追尾・ミサイルの誘導までを一手にこなすが、「天弓」の「長白」フェーズド・アレイ・レーダーは、ミサイルの誘導は行わない。「天弓1型」のミサイル誘導はCS/MPQ-25イルミネーターにより行われる。CS/MPQ-25は、ホークのイルミネーターであるAN/MPQ-46に比べてレーダー波の照射効率が60%向上しており、敵味方識別能力も強化された。フェーズド・アレイ・レーダーとイルミネーターの併用は、アメリカ海軍のイージスシステムでも行われている事から、台湾軍では「長白」に「陸上イージス」の呼称を与える事になった。「天弓」システムには、上記の他、敵の対レーダーミサイル攻撃に対処するため、囮となるレーダー波発生装置も配備されている。

「天弓1型」ミサイル大隊は、「長白」レーダー1基、CS/MPQ-25イルミネーター2基、発電機搭載車1両、複数のミサイル発射機+牽引車両から構成され、40〜56発のミサイルを保有する。全ての装備が車両により牽引する事が可能である。

台湾では、「天弓1型」の開発成功に続いて、より射程の長い「天弓2型」の開発も並行して行っており、こちらは1997年から生産が開始され、「天弓1型」と併用されるようになった。「天弓」ミサイルは、1型、2型合計で500〜600発がこれまでに生産された。「天弓」が配備された防空ミサイル大隊は、計6個が編成され台北県三芸区、高雄県大岡区、高雄県林園、馬公、台中、東引島に配置され防空任務に当たっている。

Jane's Information Groupの2006年7月31日の報道によると、台湾では「天弓1型」を退役させ「天弓2型」に更新する事を検討しているとの事[9]。両者はシステムの多くが共有化されているため、更新にはそれほど手間が掛からないものと思われる。

【参考資料】
[1]『台湾百種主戦装備大観』 2000年 (杜文龍:編著/軍事科学出版社)
[2]『国際展望-全球熱天追跡』 2005年24号(総第530期)「台軍声称可pi美“愛国者”與S-300-台湾“天弓”防空導弾情報」(国際展望雑誌社)
[3]『江畑謙介の戦争戦略論[II]-日本が軍事大国になる日』1994年(江畑謙介/徳間書店)
[4]Global Security
[5]台湾茶党-軍事茶館「簡介天弓一、二型防空飛弾(資料還原)」
[6]新浪網 2004年11月20日「台湾天弓防空導弾効能分析下(組図)」
[7]中華民国国防部公式サイト
[8]中国武器大全
[9]MissileThreat「Taiwan to Upgrade to Tien Kung-2 SAM」(2006年7月31日)

「天弓3型」長距離地対空ミサイル
「天弓2型」長距離地対空ミサイル
台湾陸軍

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