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rglc85tj8h 2013年04月02日(火) 02:32:02履歴

039型(NATOコード:Song/宋)は1999年に1番艦が就役した中国国産ディーゼル潜水艦である。1980年代に劉華清提督が進めた外洋海軍体制に沿う形で、旧式化した035型(NATOコード:Ming/明)に替わる新世代の潜水艦として構想された。湖北省の海軍武漢船舶設計開発局(第701機関)で設計され、武漢造船所と上海の武昌造船所で建造が行われた。1番艦(320号)の建造は1994年5月から始まり翌1995年8月からは洋上テストが開始されたが、海中運動性と放射騒音など設計上の重大な欠陥により就役は遅れ、就役は4年後の1999年になった。039型は近代的ディーゼル潜水艦を目指し、ロシア製の兵器、フランス製の戦闘システム、ドイツ製のディーゼル・エンジンなど様々な国の装備を詰め込んだため、それ等を潜水艦という一つのシステムに統合する事に非常に手間取ったようだ。
039型には初期型(039)、改良型(039G)、発展型(039G1)の3つのタイプが存在する。初期型の1番艦(320号)は2段型セイルが特徴だったが、騒音過大や水中安定性の不足など各種の初期不良が発生した。そのため、二番艦の設計は大幅な見直しが行われることとなった。設計変更を受けて二番艦以降は039G型(Gは改gaiの頭文字)のクラス番号が与えられ、2001年から2003年までに3隻(遠征21〜23)が建造された[4]。039G型は通常の段無しセイルに再設計され、艦首の形状もフランスの技術支援を受けて開発した新型ソナーに合わせて形状が改められている。さらに2004年からは、改良型である039G1型の建造が開始された。039G1型は武漢造船所だけでなく上海江南造船所でも建造が行われており、試験運用段階から量産段階に移行したと見られている[4]。039G1型は合計12隻の建造が確認されており[4]、トータルの建造数には16隻となる[4][8]。配備先は東海艦隊と南海艦隊。本級の実用化には長い時間を要したため、中国海軍ではストップギャップとしてロシアからキロ級(877/636型)の大量導入を図り、また古臭い035型の建造を続けたが、キロ級の導入後も039型の建造・改良は積極的に続けられており、中国の国産潜水艦整備に対する情熱は極めて高い事が分かる。
035型がロシア(旧ソ連)製のロメオ級(633型)を範としているのに対し、039型は西側諸国の技術も取り入れて設計されており、全体的に見ておおよそ1980年代の潜水艦と同レベル(海上自衛隊のゆうしお型とほぼ同等)の性能を持っていると言える。船型は涙滴型・複殻型で1軸推進を採用している。船内は7つの区画に分かれており、前部から魚雷室、発令所、前部電池室、後部電池室、機械室、電動機室、舵室となっている。非常用の緊急脱出装置も装備されており、救難潜水艇とのドッキング・ハッチも有する。船体にはキロ級に使われているものと同じ無反響タイルが貼られ、主機も防振ラフト機構(カナダ製)によって船体と離して設置されており船外への放射雑音を低減している。スクリューも中国の潜水艦として始めて、大きく湾曲した三日月型のハイスキュード・タイプ(7枚翼)になっている。このため039型の被ソナー探知性能はそれまでの中国国産潜水艦と比べて著しく改善され、アメリカのロサンゼルス級原潜と同等、キロ級を若干下回る静粛性を実現している。主機は独MTU製の16V-396SE84ディーゼル・エンジンだが、国産化も進められているという。以前より039型にはAIP(Air Independent Propulsion:大気独立型推進)システムを搭載したタイプがあるのではないかと言われていたが、039G1型がAIPを搭載しているかどうかは現在のところ不明である。
039型の戦闘システムは多目標を同時に追跡可能なタイプで、フランスからの技術支援を受けて中国が開発したものと思われる。自動化も進んでおり目標を探知した場合、即座に攻撃諸元を計算する事が出来るという。ただ戦闘システムの基本がフランス製であるのに対し魚雷はソ連・ロシア系で、1番艦の進水から就役に長い間があったのはシステム間のインテグレーションに手間取った事も一因のようだ。武装は艦首の533mm魚雷発射管6門で、うち2門から有線誘導魚雷を発射可能。搭載魚雷はYU-4とYU-5で、発射管内に6発、魚雷室に再装填用として12発を積んでいる。YU-4はロシア製のSAET-60のデッド・コピーで対水上艦艇用の自動誘導魚雷。パッシブ誘導型のYU-4Aとアクティブ・パッシブ両用型のYU-4B(ET-31)が存在する。309kgの高性能炸薬を装備し、最大雷速は30ノット、航走距離は最大6,000mと言われる。最大射出深度は50m。動力源は銀亜鉛電池で、モーター駆動である。YU-5は中国国産の対潜用有線誘導魚雷で、1995年頃から運用を開始した最新型。最大雷速は50ノット以上、航走距離は30,000mと言われる。炸薬量は205kg。039型は魚雷発射管から水中発射型のYJ-82を発射可能。YJ-82はコンテナごと魚雷発射管から射出され、水面に浮上後ミサイルを発射する。射程は約40km(改良型は延伸している可能性あり)で165kgの高性能炸薬弾頭を持ち、マッハ0.9の速さで海面すれすれを飛行して目標に向かう。誘導は中間期が慣性誘導で、終末段階はアクティブ・レーダー誘導に切り替わる。YJ-8は有線誘導魚雷用ではない4門の発射管から射出できる。通常039型はYU-4、YU-5、YJ-82をそれぞれ6発ずつ搭載して任務に就くようだ。
ソナーは上記のようにフランスから技術支援を受けて開発した、フランク・アレイ・ソナー(コンフォーマル・ソナー)を船体側面に装備している。フランク・アレイ・ソナーはパッシブ型だが側面に並べられたハイドロフォンによって測距を行う事ができる。また艦首にもパッシブ・アクティブ型のデジタル式アレイ・ソナーが装備されている。曳航アレイ・ソナー(TASS)を039型が装備しているという説もあるが詳細は不明。セイル内に収められているマストにはIバンドの捜索レーダーと赤外線センサーが装備され、海面捜索に使用される。またECM(Electronic Counter-Measures:電波・通信妨害)アンテナやレーダー警報アンテナ、電波方位探知アンテナなども装備されている。
039シリーズは中国近海での哨戒や航路防衛を主な任務としているが、2006年10月26日に1隻の宋型が太平洋上でアメリカ海軍のキティ・ホークCSG(Carrier Strike Group:空母打撃群)を追跡、対潜バリアをくぐり抜けて約8kmまで接近し浮上したという(2006年11月ワシントン・タイムズ紙)。CGSには通常2隻の原潜が配備され対潜警戒を行っており、空母や護衛艦艇にも対潜ヘリが搭載されているが、件の宋型はこれらの捜索を掻い潜って魚雷攻撃圏内まで接近したものと思われる。
■性能緒元
水中排水量 | 2,250t |
全長 | 74.9m |
全幅 | 8.4m |
喫水 | 5.3m |
主機 | ディーゼル・エレクトリック 1軸 |
MTU 16V-396SE84 ディーゼル 4基(6,029馬力) | |
水上速力 | 15kts |
水中速力 | 22kts |
航続距離 | 7,000nm/10kts(水上航行時) |
最大潜行深度 | 350m |
乗員 | 50〜60名 |
【兵装】
魚雷 | 533mm魚雷発射管 | 6門 |
YU-4対艦魚雷(魚4)、YU-5対潜魚雷(魚5) | 18発(6+12発) | |
機雷 | (魚雷を積まない場合) | 36発 |
対艦ミサイル | YJ-82 |
【電子兵装】
ESM | 921A型 | 1基 |
対水上レーダー | I-Band | 1基 |
■同型艦
1番艦 | 039型 | 遠征20号 | 320 | 武漢造船所で建造、1994年5月25日進水、1999年6月就役 | 東海艦隊所属 |
2番艦 | 039G型 | 遠征21号 | 321 | 武漢造船所で建造、1999年11月11日進水、2001年4月就役 | |
3番艦 | 039G型 | 遠征22号 | 322 | 武漢造船所で建造、2000年6月28日進水、2001年12月就役 | |
4番艦 | 039G型 | 遠征23号 | 323 | 武漢造船所で建造、2002年進水、2003年11月就役 | |
5番艦 | 039G型 | 遠征13号 | 313 | 武漢造船所で建造 | |
6番艦 | 039G型 | 遠征14号 | 314 | 武漢造船所で建造、2003年11月就役 | |
7番艦 | 039G1型 | 遠征15号 | 315 | 上海江南造船所で建造、2004年6月13日進水、2003年12月就役 | |
8番艦 | 039G1型 | 遠征16号 | 316 | 上海江南造船所で建造、2004年進水、2005年就役 | |
9番艦 | 039G1型 | 遠征17号 | 317 | 武漢造船所で建造 | |
10番艦 | 039G1型 | 遠征18号 | 318 | 上海江南造船所で建造 | |
11番艦 | 039G1型 | 遠征24号 | 324 | 武漢造船所で建造、2005年就役 | |
12番艦 | 039G1型 | 遠征25号 | 325 | 武漢造船所で建造 | |
13番艦 | 039G1型 | 遠征26号 | 326 | 武漢造船所で建造 | |
14番艦 | 039G1型 | 遠征27号 | 327 | 上海江南造船所で建造 | |
15番艦 | 039G1型 | 遠征28号 | 328 | 武漢造船所で建造 | |
16番艦 | 039G1型 | 遠征29号 | 329 | 武漢造船所で建造 |
▼二段型セイルの039型(初期生産型)

▼通常型セイルの039G型(改良型)。二段だったセイルの上部前端を埋める形で整形されている

▼4隻で雁行する039G型

▼水中から発射されたYJ-82対艦ミサイル

▼建造中の039G型。セイルと船体に無反響タイルが装着されている

▼039G型のセイル上部。兵庫県にある古野電気社製レーダーを装備しているようだ

▼039型の発令所内部

【参考資料】
[1]世界の艦船2003年3月号、2005年9月号(海人社)
[2]艦載兵器ハンドブック改訂第2版(海人社)
[3]Grobal Security
[4]Chinese Defence Today「Type 039G/G1 (Song Class) Diesel-Electric Submarine」
[5]Chinese Military Aviation
[6]中国武器大全
[7]百度知道
[8]MDC軍武狂人夢「宋級/元級柴電攻擊潛艦」
中国海軍