072-III型戦車揚陸艦（ユティンI型/玉亭I型）
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rglc85tj8h 2018年04月05日(木) 00:25:24履歴
1992年〜2002年に同型10隻が就役した戦車揚陸艦。NATOコードネームは「Yuting I class」。072/072-II型戦車揚陸艦（ユカン型/玉坎型）の就役から間もない1983年、中国船舶工業総公司と中国海軍では072/072-II型に続く戦車揚陸艦の開発作業に着手した[2][3]。設計作業は1987年に完了し、072/072-II型改良型には「072-III型坦克登陸艦」の公式名が付与された[5]。建造は上海の中華造船廠（現在の滬東中華造船（集団）有限公司）が担当。当初の建造数は5隻を予定しており、1番艦「峨眉山」は、1993年に就役し1997年までに全艦完成した[2]。その後、1995年に中国と台湾の間での緊張状態が高まった事を受けて揚陸艦戦力の拡充が決定され、上海中華造船廠に対して5隻の追加発注が行われた[3]。第二次発注分の5隻は1997年から2002年にかけて中国海軍に引き渡されている[3]。
【性能】
072-III型のスペックは以下の通り。基準排水量3,430t、満載排水量4,800t、全長119.5m、全幅16.4m、喫水2.8m。主機は12PA&V-280MPCディーゼル（9,600馬力）2基、推進軸は2軸、最高速力18kts、航続距離は3,000nm/14kts。艦固有の乗員は104名。072-III型は072型戦車揚陸艦（ユカン型/玉坎型）の拡大改良型というべき揚陸艦であり、基本的な配置やデザインはタイプシップと類似している所が多い[4]。大きな変更点としては、艦後部にヘリコプター発着甲板が新設された事が挙げられる[4]。ヘリコプター甲板は01レベルに設けられており、後に建造される072A型戦車揚陸艦（ユティンII型/玉亭II型）よりも海面上高さは大きい[4]。甲板強度はZ-8クラスの大型ヘリコプターの着艦が可能[2][3]。ただしヘリコプター格納庫は備えていないため、艦固有の艦載ヘリを搭載する事は出来ない[2]。
艦首には観音開き式のバウ・ドアが設置されており、その内側に水密構造を兼ねた折畳み式ランプが設けられている。艦尾にもランプを有しており、艦内の車輌甲板は全通していると見られる[4]。揚陸の際には海岸にビーチングした上でランプを展開、車輌や部隊を上陸させる。また海上でバウ・ドアを展開して水陸両用戦車や上陸用舟艇を発進させることも可能。車輌甲板の面積は810平方メートルを確保している[3]。揚陸作戦での搭載量は500tだが、ビーチングを考慮しない輸送任務の場合は最大2,000トンの積載能力を有する[3][5]。搭乗兵員は歩兵250名。63A式水陸両用戦車を最大10輌搭載。車輌甲板には人員輸送用の724型エアクッション揚陸艇を最大2隻格納出来る。この他、小型揚陸艇LCVPを最大4隻搭載出来るが、通常は2隻を艦橋構造物後部両舷のダビットに格納している。物資の搭載は艦の前後のランプ、もしくは艦橋手前の01甲板直前に設置されているデッキ・クレーンを使用して行われる[4]。デッキ・クレーンの手前には貨物ハッチが用意されており、艦首楼直後には上甲板と車輌甲板の間で物資や車輌を移動させるためのエレベーターが設けられている。
【兵装】
072-III型は第一次発注艦と第二次発注艦で異なった兵装を装備している。第一次発注艦では近接防御火器として66式57mm連装機関砲1基を艦首部に搭載、艦橋直前の01甲板には76式37mm連装機関砲を装備していた[3]。ただし管制レーダーなど高度な火器管制システムは装備されていないため、全天候性に欠け対艦ミサイルの迎撃能力も限定されていた。これに対して第二次発注艦では近接防御火器の近代化が図られており、JPT-4G型火器管制レーダーと76F式37mm連装機関砲3基の組み合わせに変更されており、命中精度の向上と全天候性能の確保を実現している[2][3]。対空戦闘においては乗員による携行式SAMの使用も想定されている。一部の072-III型では上記の兵装に加えて対地攻撃用に81H型122mm40連装ロケット発射機2基を装備している[3]。
【総評】
072-III型は前級072/072-II型の運用実績を踏まえて開発された手堅い設計の戦車揚陸艦であるが、中国海軍の揚陸艦艇としては初めてヘリコプター発着甲板を設置するという新機軸が導入されている。格納庫は装備されておらず運用には限界があるものの、兵員の空中機動やヴァートレップ式物資輸送といったヘリコプターを使用した各種任務を実施し得るようになった。072-III型は10年間で10隻が就役し中国海軍の揚陸艦戦力の近代化に一定の功績を果たしている。072型が就役するまで中国海軍の戦車揚陸艦戦力の中核を占めていた米国製のLST-1級戦車揚陸艦は、072/072-II型と072-III型に更新される形で1999年までに全艦が退役した[6]。072-II型の第一次発注艦は南海艦隊に配備され、第二次発注艦は東海艦隊に配備されている[3]（#908〜910については北海艦隊所属との説もある[2]）。
【電磁投射砲試験艦への改造】
2018年2月初旬、武漢の長江大橋近くに停泊中の072-III型「海洋山」（#936）が、艦首部に型式不明の大型砲塔を搭載しているのが確認された[7]。バウ・ドアは溶接されて塞がれ、既存の兵装はすべて撤去された上で、船体中央部にコンテナなどが追加で搭載されていた。大型砲塔の形状、各種追加装備の搭載、武漢は中国軍で電磁投射砲研究を行っている馬偉明院士の所属する研究グループが存在することなどから、「海洋山」は電磁投射砲の試験艦に改造されたものと推測されている。中国海軍には専用の試験艦である970型試験艦（ダーファ型/大華型)が存在するのに戦車揚陸艦が電磁投射砲の試験艦とされたことについては、電磁投射砲に必要な各種システムを搭載するのに、072-III型の広い艦内車輌甲板が都合良かったものと推測されている[8]。
■性能緒元
| 基準排水量 | 3,430t |
| 満載排水量 | 4,800t |
| 全長 | 119.5m |
| 全幅 | 16.4m |
| 喫水 | 2.8m |
| 主機 | 12PA6V-280MPCディーゼル（9,600馬力） 2基、2軸 |
| 速力 | 18kts |
| 航続距離 | 3,000nm/14kts |
| 乗員 | 104名 |
【搭載部隊】
| 物資搭載力 | 500t（揚陸作戦）、2,000t（物資輸送） | |
| 揚陸艇 | 724型エアクッション揚陸艇 | 2隻 |
| 小型揚陸艇 | 2〜4隻 | |
| 戦車 | 63A式水陸両用戦車 | 10輌 |
| 揚陸兵員 | 1個中隊 | 250名 |
| 搭載機 | なし | ヘリコプターの発着艦は可 |
【兵装】
| 近接防御 | 66式57mm連装機関砲 | 1基（#991、934〜937） |
| 近接防御 | 76式37mm連装機関砲 | 2基（#991、934〜937） |
| 近接防御 | 76F式37mm連装機関砲 | 3基（#908〜910、939、940） |
| ロケット砲 | 81H型122mm40連装ロケット発射機 | 2基（一部の艦） |
【電子装備】
| レーダー | 対水上レーダー | 1基 |
| 756型航海レーダー | 1基 | |
| JPT-4G型火器管制レーダー | 1基（#908〜910） |
■同型艦
| 1番艦 | 991 | 峨眉山 | Emeishan | 第一次発注艦。1992年9月就役 | 南海艦隊所属 |
| 2番艦 | 934 | 丹霞山 | Danxiashan | 第一次発注艦。1995年9月就役 | 南海艦隊所属 |
| 3番艦 | 935 | 雪峰山 | Xuefengshan | 第一次発注艦。1995年12月就役 | 南海艦隊所属 |
| 4番艦 | 936 | 海洋山 | Haiyangshan | 第一次発注艦。1996年5月就役。2018年電磁投射砲試験艦へ改造 | 南海艦隊所属 |
| 5番艦 | 937 | 青城山 | Qingchengshan | 第一次発注艦。1996年8月就役 | 南海艦隊所属 |
| 6番艦 | 908(前938) | 雁蕩山 | Yandanshang | 第二次発注艦。1997年1月就役 | 東海艦隊所属 |
| 7番艦 | 909(前939) | 九華山 | Jiuhuashan | 第二次発注艦。2000年4月就役 | 東海艦隊所属 |
| 8番艦 | 939 | 普陀山 | Putuoshan | 第二次発注艦。2000年8月就役 | 東海艦隊所属 |
| 9番艦 | 910（前940） | 黄崗山 | Huanggangshan | 第二次発注艦。2001年12月就役 | 東海艦隊所属 |
| 10番艦 | 940 | 天台山 | Tiantaishan | 第二次発注艦。2002年4月就役 | 東海艦隊所属 |
▼76F式37mm連装機関砲を装備した第二次発注艦の#939「普陀山」
▼艦尾のランプを開き水陸両用車輌を収容する072-II型。艦後部の発着甲板にはZ-8輸送ヘリコプターが着艦中
▼艦首ランプから05式水陸両用戦車を発進させる#909「九華山」
【参考資料】
[1]Jane's Fighting Ships 2006-2007（Jane's Information Group）141頁
[2]軍武狂人夢「玉亭級大型戰車登陸艦」
[3]Chinese Defence Today「Type 072-II (Yuting Class) Large Landing Ship」
[4]世界の艦船1月号増刊 世界の揚陸艦（2009.1/NO.701）（2009年1月/海人社）93頁
[5]中国武器大全「玉亭級（０７２�掘肪街酖侘Υ蓮�
[6]中国軍艦博物館「美製1511型LST」
[7]張伝華「中国電磁炮進入批量生産至少需要十年」『現代艦船』2018/08号（≪現代艦船≫雑誌社/中国船舶重工業集団公司）20-25頁
[8]「疑似国産電磁炮上艦試験」『艦載武器-軍事評論』2018.04B/No.288（中国船舶重工業集団公司）4-5頁
中国海軍