日本の周辺国が装備する兵器のデータベース




J-10は四川省成都(チェンドゥ)の第611航空機設計研究所(現 成都飛機工業集団公司)が開発したマルチロール戦闘機である。中国空軍では殲-10(J-10)の制式名称と「猛龍」のニックネームが付与されている[1][10][23]。外国向けにはF-10、輸出名称としてはFC-20の名称が知られている。2002年から中国空軍に配備され始め、初期生産型のJ-10、量産型のJ-10A、複座型のJ-10Sなどの各タイプが2014年頃までに約300機生産された[23]。

【開発経緯】
・前史
1980年代に実用化されたソ連の新型戦闘機Su-27やMiG-29は、当時ソ連と敵対していた中国にとって深刻な脅威であった。当時の中国空軍にはJ-6(MiG-19)やJ-7(MiG-21)のような旧式の戦闘機しかなく、ソ連の新鋭機には到底対抗し得ない事は明らかであった。全天候性能を有さないJ-6やJ-7では、米ソ両国の超音速爆撃機や戦術攻撃機の迎撃も難しいと判断されており、どのような対抗措置を取るべきかが中国空軍の直面する課題であった[23]。

1980年代には、西側諸国との関係が改善していたので、中国空軍ではF-16(米)、ミラージュ2000(仏)などの西側第4世代戦闘機を調達してソ連の新鋭機に対抗することを検討するが、当時の中国軍の財政状況では高価な第4世代機の調達は現実的ではないと判断され、輸入の試みは頓挫する[23]。戦闘機の輸入は実現しなかったが、西側技術を導入して既存の戦闘機の能力向上を図る試みは実施に移され、J-8II戦闘機(殲撃8B/F-8II/フィンバックB)の近代化を図る「PeacePearl(英語)/和平典範(中国語)」計画、J-7戦闘機をベースにした「スーパー7」計画が企画され、前者は第二次天安門事件による制裁措置により開発中止となるが、後者は最終的にFC-1/JF-17戦闘機として実用化に至りパキスタン空軍で採用された。

既存機の改良計画が進められる一方で、中国空軍では国産の第4世代戦闘機の開発こそが問題を抜本的に解決する道であると判断しており、超音速爆撃機を迎撃し得る高空・高速性能と、制空戦闘機としての良好な機動性を兼ね備えた新型戦闘機の開発要求を提案するに至る[23]。この要求に答えたのが、四川省成都に本拠地を置く第611航空機設計研究所であった。

・「10号工程」
同研究所では、J-7戦闘機とその改良型の開発を主に担当していたが、それと並行して1970年代から1980年代初めまで、カナードデルタ・単発エンジンの新型戦闘機J-9の開発を行っていた。これは、高高度・高速で進入する超音速爆撃機の迎撃を主任務とした全天候戦闘機であったが、技術的困難や改革開放政策に伴う経済建設優先などの要因で1980年代中盤に開発は中断された。しかし同研究所では、J-9の開発中断から程なくして、J-9の開発案の1つであった、カナード付き無尾翼デルタ・機体下部インテイク・単発エンジンの機体案を叩き台にして次世代戦闘機に関するスタディを開始した。この次世代戦闘機に関するスタディは「10号工程」と命名され、3年間にわたる研究が続けられた。研究では、J-9では固定式だったカナードを全可動式に変更すると共に、新型の機体制御装置を導入し安定性を劣化させて敏捷性を高めた戦闘機を独自開発する事が検討された[2]。

611研究所の「10号工程」は、空軍の求める次世代戦闘機案にかなうプランとして評価され、1984年5月には、国防科学工業委員会と国家計画委員会により次世代戦闘機の開発部署を第611研究所にする事が決定された。同年6月、国防科学工業委員会は、機体の要求性能を確定。1986年1月には、中央政府と中央軍事委員会により、新型戦闘機開発計画が国家重点計画の1つに認定された。同年7月、国防科学工業委員会は、新型戦闘機の開発における人事を発表し、王昴を行政部門の責任者に、第611研究所の宋文聡を設計主任に任命した[2]。

1987年6月、第611研究所は新型戦闘機に関する6つの設計案を作成し、これを基にして基礎的なプランの策定作業を開始した。新型戦闘機には、中低空域での高機動性、視程視認外空対空ミサイル(BVR-AAM)と全方位赤外線誘導空対空ミサイル(IR-AAM)の運用能力付与、空対空戦闘能力と空対地能力を兼ね備えたマルチロールファイターとする、などの要素が求められた[2]。

しかしこのような機体を開発するには、中国が苦手としていたフライ・バイ・ワイヤ操縦装置や運動性向上技術(CCV)概念といった最新の技術が必要であった。そのため中国はイスラエル航空機工業(IAI)から、アメリカの圧力によって1987年に開発が中止された新世代戦闘機ラヴィの開発に関わった技術者を呼び寄せ、J-10の開発に参加させたと言われている。情報の少ない段階では、J-10はラヴィのコピーではないかとの観測もあったが、A-4スカイホーク攻撃機の後継として対地攻撃など多用途任務に当たる小型戦闘機であるラヴィと、マッハ2を超える超音速迎撃戦闘機として開発されたJ-10では機体の性格がかなり異なり、一見すると似通っているが実際には相違点が多い。イスラエルの影響については不明な点が多いが、(機体設計よりも)レーダーを含むアビオニクス開発における役割にこそ彼らの重要な貢献があったとの見解も示されている[23]。

・天安門事件と中露関係改善の影響
これで順調に開発が進むと思われていたが、1989年に起こった天安門事件が開発を阻む事になった。J-10はエンジンとアビオニクスを西側から輸入する予定であったが(並行して国産開発も進めていた)、アメリカをはじめとする西側諸国は天安門事件を契機に対中政策を見直し、対中武器輸出の規制を開始する事になった。これにより中国は戦闘機の心臓と頭脳とも言うべき部分を失ってしまった。しかし道筋は思いがけない方向から開ける事になった。元々旧ソ連の新鋭戦闘機に対抗するために開発が始まったJ-10にとっては皮肉な事ではあるが、冷戦終結後に関係が改善したロシアがAL-31Fターボファン・エンジンとアビオニクスの提供に合意したのである。J-10は西側装備を前提として開発されていたため、ロシア製装備を搭載するための改設計が必要だったが、これでなんとかJ-10開発を進める事ができるようになった。

J-10の試作機は1998年に初飛行を行った。この機体には同じく試作されたWS-10エンジンが搭載されていたとの情報も有る。しかしフライ・バイ・ワイヤの重大な問題により1999年に墜落事故を起こし、試作2号機とパイロットが失われてしまったとされる。ただし、中国側はこの件について認めておらず、J-10の試験では事故は発生していないとしている[3]。

J-10の存在が世界に公開され始めたのは2001年の初め頃。その後幾つかの改良が行われて2000年までに6機の試作機(No.1001〜1006)が製作され、さらに2002年までに3機の試作機(No.1007〜1009)が作られた。複座訓練型のJ-10Sは2003年に初飛行に成功した。

・開発中止の危機
このようにして開発がすすめられたJ-10であったが、空軍の中では限られた資金を確実に成功するとは保証できない国産戦闘機に投ずるよりも、1990年代にロシアから輸入され国内でのライセンス生産も行われるSu-27SK(J-11戦闘機)に集中すべきだとの意見も根強いものがあった[23]。Su-27SKは、長大な航続距離と高いペイロードを兼ね備えた機体で、高度なFCSや高い空中戦能力を有する第4世代戦闘機であり、1998年には中国国内でのライセンス生産も開始されていた[23]。J-10反対派は、中型の単発エンジン戦闘機であるJ-10では、航続距離や搭載兵装ではSu-27SKと比較すると遜色があることは否めず、機体が小型のために将来の発展性についても疑問があるとして、不確実なJ-10への投資ではなく、すでに実績のあるSu-27SK/J-11の配備を進めるべきであると主張した[23]。

空軍内部での検討の結果、Su-27の先進性と性能の高さは否定できるものではないが、中型戦闘機であっても作戦空域や任務の条件次第では、大型戦闘機と同等の働きができると指摘。さらに、各国が経済合理性から、高額な大型戦闘機と比較的安価な小型戦闘機のハイ・ローミックス運用を行っていることを念頭に、Su-27SK/J-11の配備と並行してJ-10の開発続行を決定[23]。これに伴い、J-10は開発中断の危機を乗り越えて、量産に移行することが確認された。

・量産開始後の状況
成都航空機工業株式会社(CAC)によるJ-10の生産は2002年に開始され、2003年からは量産段階に移行。翌2004年には最初の機体が部隊配備に漕ぎつけた[23]。2003年から2006年までの第一期〜第三期量産分のJ-10は初期量産型に属する機体であり、FCSは空対空モードと通常爆弾やロケット弾による限定的な対地攻撃能力のみを備えていた[23]。これらの機体に搭載するロシア製AL-31FNターボファンエンジンは2001年から2003年にかけて中国に引き渡された。

アクティブ・レーダー誘導空対空ミサイルやレーザー精密誘導弾の運用能力を備え、FCSの性能を向上させた本格量産型に当たるJ-10Aの生産は2006年に開始。J-10Aと複座型J-10Sの量産のため、中国はロシアとの間で、2005年7月にAL-31FNを確定100基(3億ドル)、オプション100基の発注契約に調印[4][5]。最初の100基は2007年までに中国に引き渡され、2007年後半から2008年にかけてオプションの100基の引渡しが開始された。「漢和防務評論」2008年1月号の記事によると、2007年までに生産されたJ-10が約80機程度であるのに対して、納入されたAL-31FNの台数は154基であり、約半数のエンジンは損耗予備エンジンに当てられているとのこと。

J-10の機体単価については。2010年4月13日に行われた、空軍第24戦闘機師の公開取材において同部隊の指揮官である厳鋒師長が「価格は1機当たり約1億9000万元(約26億円)」であると明らかにしている[18]。

J-10の派生型としては、初期生産型のJ-10、本格量産型のJ-10A、複座型のJ-10S、八一飛行表演隊に配備されたJ-10AY、海軍航空隊向けのJ-10AH(J-10Aの海軍版)、J-10SH(J-10Sの海軍版)の6種類が存在する[1][10]。J-10Aは2015年頃まで生産を継続し、その後は改良型であるJ-10B戦闘機(殲撃10B/F-10B)に席を譲り生産を終えた[23]。ただし、主に訓練用に用いられるJ-10Aの複座型であるJ-10Sの生産は低率ながらその後も継続して行われている。J-10/J-10A/J-10Sの累計生産数は300機に達するとみられており、同じく300機を超える機数が配備されているJ-11戦闘機(Su-27SK)J-11B戦闘機(殲撃11B)と共に、中国空軍の戦闘機の中核としてハイ・ローミックス体制を構築している[23]。

中国海軍の空母艦載機として成都がJ-10をベースとした機体を提案しているという話もあり、2008年に開催された珠海航空ショーで、前述のJ-10の主任試験飛行士雷強氏によってその存在が確認された[12]。しかし、中国海軍が瀋陽飛機工業集団公司が提案したJ-15を採用したことでJ-10の艦載機型はペーパープランに終わることとなった、

成都飛機工業集団公司の親企業であるAVIC(中国航空工業集団有限公司 Aviation Industry Corporation of China, Ltd.)は、J-10の輸出を目指しFC-20の輸出名称で国際兵器ショーでの展示を行っていた。パキスタンでは実際に輸出を前提とした交渉が進められていると報じられたこともあったが、最終的にはJ-10は中国軍のみでの運用に留まっている。

【機体性能】
J-10は、機体下面のインテーク、カナードデルタ翼など機体の基本コンセプトではラヴィと同じであるが、主翼やカナード、胴体の形状ではかなり異なっており[1]、機体サイズもラヴィよりも大型化しておりF-16とほぼ同規模になっている。これはJ-9の研究から得られたデザインをベースにした事、想定任務の違い(小型多用途戦闘機であるラヴィと、迎撃任務を主とする中型多用途戦機であるJ-10)、エンジンがラヴィのF404よりも大形のAL-31Fになった事、全般的にラヴィよりも高い能力が求められた事などによる所が大きい。

・エンジン
エンジンについては、設計の初期段階では渦噴15(WP-15)ターボジェットエンジン、もしくは渦扇10(WS-10)ターボファンエンジンの搭載を前提に作業が開始された[23]。WP-15は、エジプトから入手したMiG-23MSのツマンスキー(カチャツロフ)R-29-300ターボジェットエンジンをリバースエンジニアリングにより国産化作業を進めていたエンジンで、12,5tの最大推力を確保することが目指されていた[23]。一方の、WS-10は1980年代に開発が中断されたWS-6に続いて1980年代後半から開発が開始されていた国産ターボファンエンジンであり、最大推力13.5tが目標とされていた[23]。しかし、どちらのエンジンも開発作業は順調ではなく、西側製エンジンの搭載も含めて検討が重ねられていたが、西側製エンジンについては天安門事件による制裁措置によって入手が不可能となったのは前述の通り。最終的にJ-10は、Su-27やSu-30が積んでいるロシア製のAL-31Fターボファンエンジンを、J-10の仕様に改修したAL-31FNを搭載して量産化されることになった。AL-31FNは、J-10への搭載を前提にギアボックスをエンジン下部に移動するなどの設計変更が行われているが、元々双発戦闘機用に開発されたエンジンであるため、エンジンのデジタルコントロールがまだ開発されていない。そのため、エンジンの整備や動作の制御にはまだ課題が多いとされる[1]。

2007年4月13日、J-10の設計主任の薛熾寿技師は、2007年中にJ-10に国産エンジンを搭載する計画がある事を明らかにした。また、エンジン以外のレーダーや電子装備等のコンポーネントの国産化率も向上させていくとした。ただし、搭載予定の渦扇10A(WS-10A)の開発は未だ完了しておらず、WS-10Aを搭載したJ-10が量産されるにはなお時間を要すると見られていた。2008年11月に開催された珠海航空ショーではJ-10の主任試験飛行士の雷強氏により、WS-10Aを搭載したJ-10の試験が既に行われている事が明らかにされた[7]。WS-10Aは、2010年代にはJ-11B戦闘機(殲撃11B)J-16戦闘機への搭載が開始されたが、信頼性の問題から単発戦闘機であるJ-10の搭載はさらなる改良作業を経て実施されることとなり、J-10Aは量産終了までAL-31FNを搭載して製造が行われる結果となった。

機首下部にあるインテークは、ラヴィでは固定式であったが、超音速性能を重視したJ-10では、より高速飛行に適した可変式インテークに変更されている(ただし、1991年に製造された全金属性模型ではラヴィと似た固定式インテークを使用していた)。最大速度はAL-31FNの高い推力と可変式インテークが功を奏してM2.2とマッハ2越えの目標を達成している[23]。戦闘行動半径は機内燃料のみで450kmで増槽付きだと1,200km、フェリー航続距離は機内燃料のみで1,680km、増加燃料タンク搭載で3,000km、空中給油一回で4,200kmとされている[24]。J-10は機首右側に空中給油用プローブの装着が可能であり、長距離任務に従事する際にはH-6U空中給油機(轟油6/H-6DU)から空中給油を受ける事で航続距離を延伸して作戦を遂行する。

・アビオニクス
J-10の搭載するレーダーについては下記の候補が検討されたとされる[8]。

JL-10A(神鷹10A)は、中国雷華電子技術研究所が開発したXバンドのパルスドップラー・レーダー。最大探知距離はルックアップで80km、ルックダウン54km。最大追尾距離は32〜40km。捜査範囲は左右各60度、上下各60度。ただし、JL-10Aは、中国にとって最初の多用途パルスドップラー・レーダーであり、その開発は難航したとされる。ロシアは自国製のファズトロン・ジューク10PDを提案していた。このレーダーは160kmの探知距離を有し10〜15目標を同時探知、そのうち4〜6目標を同時追跡するTWS機能を持っている。またイスラエルはElta EL/M-2032レーダーを提案したという。EL/M-2032はIAIラヴィ向けに開発したEL/M-2035をベースに開発されたレーダーで、空対空モードの他、合成開口(SAR)、地上移動目標表示(GMTI)、地形追随能力を有している。イタリアが提示したGrifo 2000/16は、アメリカのF-16A/BのAPG-66の換装用に開発されたレーダーで、空対空・空対地など26のモードを備えている。また、赤外線探知装置や光学追尾装置との連動を行う事も可能。中国はロシア製のファズトロンNIIR ジュークRP-35を3機分導入しロシアの援助を受けて組み立てたが、追加発注は確認されていない。ジュークRP-35は、機種レドームの小さいMiG-29UB向けに開発されたXバンドレーダーでジュークMEの簡易型である[9]。中国はこのレーダーを解析したが、重要チップのコピーを行う事ができなかったとの説もある。

最終的にJ-10/J-10Aは、南京の第14電子技術研究所で開発されたKLJ-3パルスドップラー・レーダー(別名としてJL-15、1473型の名称も伝えられている。)を搭載することになったとされる[8](異説あり)。KLJ-3はイスラエルから導入したEL/M-2032の設計を基本として、レーダーアンテナ直径の大型化(450mmから650mmに拡大)とレーダー出力の強化などで探知距離を延伸し、EL/M-2035レーダーの水準に近づけたものであると評価している[23]。このレーダーは最大探知距離104〜130km、15目標を追尾しつつ、2〜6目標を同時攻撃できるといわれている。諸元は情報ソースにより食い違いがあり、[23]では最大探知距離100km以上、追尾距離70km、同時攻撃2目標のデータが示されている。対地・対艦能力についてはEL/M-2032のものを基本とし、対地捜索能力と打撃能力を向上させる改良を施したとのこと[23]。

飛行操縦装置は中国で開発されたデジタル4重式フライ・バイ・ワイヤが採用されている。コクピットはグラス化されており、3つの多機能ディスプレイ(MFD)が備えられている。またウクライナのものを中国でコピーしたヘルメット目標指示装置によりミサイルのシーカーを連動させて照準を行う能力も確保されている。コクピットの操作の自動化と情報化によるパイロットの負担軽減に意が払われ、例えばBVR-AAMの発射に必要な操作はSu-27SKと比較すると半分の時間で済むようになっているとのこと[23]。

J-10はLANTIRNのような前方赤外線・レーザー目標指示ポッド(イスラエルの技術援助で開発)をインテーク下部のハードポイントに搭載可能であり、夜間や悪天候下でも攻撃ミッションを行うことが出来る。自己防御システムとしては、垂直尾翼上部にレーダー波警告装置、電子戦アンテナ、敵味方識別装置などを備え、垂直尾翼を挟む形で胴体内部にチャフ・フレア発射装置を合計4基内蔵している[24]。

【兵装】
J-10は主翼下面に6箇所、胴体下面に5箇所、計11箇所のハードポイントがある。その内、500〜1000kg級の大型兵装を搭載できるのは、主翼の内側二ケ所と胴体中心線上の一箇所の合計五箇所に留まる。主翼最外部のハードポイントは赤外線誘導空対空ミサイルの搭載が主で、胴体四隅のハードポイントは、全長2m以上の兵器は装着できないので100〜250kg爆弾一発の搭載に限定される。このほか、固定武装としてインテーク直後の胴体下部に23mm二銃身機関砲を装備している。

空対空任務では、空対空ミサイル4〜6発と飛行距離に応じて増加燃料タンク1〜3基を搭載して任務に当たる。増加燃料タンク3基を搭載した場合は、空対空ミサイルの搭載数は4発までとなる。

J-10が最初に搭載した空対空ミサイルはPL-11セミアクティブ・レーダー誘導空対空ミサイルPL-8赤外線誘導空対空ミサイル(霹靂8/パイソン3)である。

前者はイタリアのアスピーデの技術を基盤として開発された中国最初の実用型セミアクティブ・レーダー誘導ミサイルで、最大射程は45km、最大荷重35G。中国はPL-11の配備により、これまで欠如していた見越し外目標攻撃能力を有する空対空ミサイルを入手することにようやく成功した[23]。ただし、アメリカではこの時点で発射後の誘導の必要がない「打ちっ放し能力」を備えたAMRAAMアクティブ・レーダー誘導空対空ミサイルが実用化されており、ソ連/ロシアもそれに続いてR-77アクティブ・レーダー誘導中射程AAM(AA-12 Adder)を配備するため、中国でもそれに追いつく次世代BVR-AAM PL-12をロシアの技術支援の下で開発中であり、改良型のJ-10Aからその搭載が可能となる。

PL-8はイスラエルのパイソン3に由来する赤外線誘導空対空ミサイルであり、射程は500〜15000m、最大荷重38G。新型の冷却シーカーの採用により、敵目標への正面からの攻撃能力を有しており、最大25度のオフボアサイト発射能力を備えている[23]。J-10はPL-8の搭載により、西側第4世代戦闘機の近距離空対空戦闘能力に遜色のない水準を備えることに成功したと評価されている[23]。

J-10の設計では、当時の西側戦闘機で標準化していた戦闘機の多用途化に影響され、空対空任務以外での空対地、空対艦任務の付与も考えられていた[23]。J-10では、通常爆弾や対地ロケット弾といった従来型の対地攻撃手段に加えて、設計段階から精密誘導爆弾やその運用に必要なレーザー照射ポッドの搭載も考慮されていた[23]。運用の初期の段階では、PL-8、PL-11以外には、通常爆弾とロケット弾程度の兵装の搭載に限定されたが、J-10の就役後、段階的に各種兵器との統合化が進められ、改良が進むにつれ運用可能な兵装の種類が増えていくことになる。

・本格量産型J-10Aの兵装
2006年から量産に入ったJ-10Aでは、FCSのアップグレードが行われ、懸案であったPL-12アクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル(霹靂12/SD-10)の運用能力が付与された。これに合わせて、ハードポイントの少なさを解消するため、一箇所のハードポイントで二発のPL-12を搭載できる並列パイロンが開発され、増加燃料タンク三基を搭載した状態でも、PL-12×4、PL-8×2と相応の数の空対空ミサイルを装備することが可能となった[23]。(なお、PL-11は翼幅のサイズの問題からこの並列パイロンでの運用はできないとのこと[23])。J-10Aのレーダーは同時に二目標に対してPL-12による攻撃が可能であり、最大70kmまでの目標を打撃し得る能力を備えている[23]。その後、PL-12の改良型PL-12A、PL-8の改良型PL-8Bとの統合化も行われ、空対空戦闘能力をさらに向上させている[23]。

J-10Aでは、空対地任務向けにLT-2レーダー誘導500kg爆弾の運用能力が付与されたことにより、精密打撃能力を確保している[23]。 空軍では、J-10Aの精密打撃能力に注目し、2010年代に入って退役過程に入ったQ-5攻撃機(強撃5/A-5/ファンタン)の対地攻撃任務をJ-10Aによって代替することを検討。2010年からJ-10部隊において精密誘導爆弾による対地攻撃訓練を開始、2016年までに空軍と海軍航空隊のJ-10A/AH部隊の全てで精密誘導爆弾による対地・対艦作戦能力を備えるに至った[23]。J-10Aの精密誘導弾搭載能力は更新されたQ-5攻撃機と大差ないが、J-10A自身が本格的な戦闘機であることから総合的な作戦能力はQ-5を大きく上回ったと評価されている[23]。このほか、対地・対艦ミサイル、対レーダーミサイルの装備も行われるとみられていたが、装備統合化の具体像はまだ明らかになっていないところが大きい。

中国空軍では、戦闘機や爆撃機の迎撃を主任務としていた1980年代までの空軍戦略を、1990年代以降は対地・対艦攻撃任務を含む任務の多様化を前提とした「攻防兼備」の体制に改めることになり、戦闘機についても多用途性能の追求をより一層重視するようになる。それに伴い、J-10Aに続いて開発が進められたJ-10B戦闘機(殲撃10B/F-10B)では、J-10A以上の多用途性確保が課題となり、多種多様な兵装の装備が追及されるようになる。

【J-10へのAESAレーダーの搭載について】
2023年1月、J-10の機械式レーダーをASEAレーダーに換装した能力向上型の写真がネットにアップされた[25]。記載されている型式名から、レーダーは第607所が開発した空冷式のXバンドAESAレーダーJKL-24であることも判明した[10][25]。この改装によりレドームのピトー管も撤去されたと推測されている[25]。

JKL-24は窒化ガリウム半導体を用いた中国最新のAESAレーダーであり、その探知距離はRCS値5平方メートルの目標に対して240kmとの推測もある[25]。これは既存のJL-10A機械式レーダーの探知距離を大きく上回る性能であり、同時探知・追尾能力についても格段の進歩を達成したのは確実である。J-10の場合、レーダーの能力の限界から最大射程が150kmを超えるPL-15を生かせないことが問題であったため、今後も長く運用を続けるのであればレーダーのAESA化は不可欠の処置であった[10]。

今回のアップグレードでは、レーダーの換装に加え、ヘルメットマウンテッドサイト、アビオニクス、EWシステムの更新などの能力向上も成されたとみられ、どのような改装が成されたか今後の動向が注目される[25]。

【パキスタン空軍へのJ-10輸出の試みについて】
香港の新聞「香港商報」紙の2009年11月9日の報道によると、中国訪問中のパキスタン空軍司令官Rao Qamar Suleman大将は同紙の取材に対して、J-10(輸出名FC-20)のパキスタンへの輸出について既に中国側の同意を得ており、現在は購入価格の交渉段階にあることを明らかにした[14]。パキスタンとしては当面36機のJ-10の輸入を希望しているとのこと。J-10の輸出については、ロシア製のエンジンを使用している事がネックとなっていたが、「香港商報」の中国空軍関係者への取材によると、エンジンを国産のWS-10A「太行」にすることによりこの問題を解消したとされる。J-10の輸出価格は2500万ドルから4000万ドルとされており輸出総額は最大で14億4000万ドルに上るとの見方もあるが[15]、パキスタンへの輸出価格がどの程度になるかは未定。パキスタンは最終的には150機程度のJ-10を調達したいと希望しているとの情報も報じられていた[16]。

その後、パキスタン空軍のRao Qamar Suleman司令官は、J-10の輸入に関して「J-10の配備は試験飛行を実施して、空軍の要求に合致する事を確認した上で決定を行う。」として現時点ではJ-10の調達は未決である事を明らかにした[17]背景にはパキスタンの経済情勢に起因する財政問題があり、当面は緊急性の高い事業を完了することを優先させたため、J-10の新規調達は繰り延べになったとの事。

2013年10月には、パキスタンの軍事アナリストKaiser Tufail氏の見解として、パキスタンによる36機のJ-10購入は当面延期される見込みとされる。経済情勢を踏まえて兵器の新規調達が手控えられる状況にある事、WS-10Aエンジンの実用性を見極めたうえで、搭載エンジンをWS-10AにするかAL-31FNの間々とするかを決定したい空軍の意向が背景にあるとされる[21]。これに関連して、グローバルタイムズ(電子版)の2013年9月27日付の報道によると、 中航技進出口有限責任公司の馬志平副総裁は記者会見において、J-10がパキスタンに輸出されているのではとの質問に対して中国政府はまだJ-10の海外輸出ライセンスを認可していないとして、現時点での輸出は出来ないと述べた[22]。

最終的にJ-10/FC-20のパキスタンへの輸出は実現を見ずに終わり、それが実現するのはエンジンを国産WS-10Bに変更したJ-10Cの登場を待つことになる。

▼空軍のJ-10S(複座型)

▼ロケット弾ポッドを装備したJ-10A

▼空中給油を受けるJ-10A

▼誘導爆弾を投下するJ-10A

▼海軍航空隊に配備されたJ-10S(J-10SH)


▼1991年に製造された原寸大全金属製模型。この時点ではインテークは固定式であることが分かる。


J-10A性能緒元
重量8,500kg(空虚重量)、17,500kg(最大離陸重量)
全長16.5m
全幅9.8m
全高5.6m
エンジンLyulka-Saturn AL-31FN A/B 122.6kN ×1(試作機はAL-31Fを搭載)
最大速度M2.2、低空M1.1
戦闘行動半径463〜1200km
フェリー航続距離1,680km(機内燃料のみ)、3000km(増加燃料タンク×3)、4200km(空中給油一回)
上昇限度18,000m
機内燃料搭載量4,500kg
武装23mm連装機関砲×1
 PL-12/PL-12Aアクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル(霹靂12/霹靂12A)(J-10A)
 PL-11セミアクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル(霹靂11/FD-60)(J-10/J-10A)
 PL-8/PL-8B赤外線誘導空対空ミサイル(霹靂8/霹靂8B/パイソン3)
 YJ-91高速対レーダーミサイル(鷹撃91/Kh-31P/AS-17C Krypton)
 LT-2レーザー誘導爆弾(雷霆2型)
 LS-6滑空誘導爆弾(雷石6)
 FT-1/3誘導爆弾(飛騰1型/3型)
 各種爆弾/ロケット弾ポッドなど約4.5t
乗員1名(J-10/J-10A)/2名(J-10S)
注:J-10のスペックについては諸説ある。機体サイズは[24]参照。兵装については、搭載の実態が未確認のものも含まれている。

【注】
[1]月刊航空ファン 2009年1月号「F-10ついに現わる-エアショー・チャイナで話題を独占した中国新世代戦闘機」(文林堂)
[2]新浪網「掲秘殲9:殲10梟龍是其発展型(1)」(2008月8月7日)
[3]新浪網「首席試飛員談殲10試飛史:創零墜燬記録」(2008年11月6日)
[4]Kojii.net「今週の軍事関連ニュース (2007/11/02)」
[5]Chinese Defence Today「Russia Signed AL-31 Engine Deal with China」(2005年7月31日)
[6]漢和防務評論2007年12月号「中国購入更多AL31FN発動機」(John WU/漢和防務中心)
[7]新浪網「試飛員称殲10已装上国産発動機進行試飛」(2008年11月9日)
[8]Ido社区「殲-10戦闘機全解析 続完 転貼」
Jane's All tlte World's Aircraft 2007-2008(Jane's Information Group)
[9]月刊航空ファン 2007年4月号「中国最新軍用機事情」(石川潤一/文林堂)
[10]Chinese Military Aviation J-10の項 http://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/fi...
[11]Kojii.net「今週の軍事関連ニュース (2006/01/20)」
[12]星島環球報「【珠海航展】空軍承認将利用殲-10研製艦載機」(2008年11月6日)
[13]China Defence Blog「Still no sign of the domestic engine WS-10A yet.」(2009年2月4日)
  Военный паритет「Заключен контракт на поставку более 100 двигателей АЛ-31ФН в Китай」(2009年2月4日)
[14]香港商報(オンライン版)「京承諾售巴基斯坦殲10」(2009年11月9日)
[15]時事ドットコム「最新鋭戦闘機、初輸出へ=パキスタンと交渉−中国」(2009年11月9日)
[16]Defense Industry Daily「Pakistan Buying Chinese J-10 Fighters」(2009年11月9日追記部分)
[17]CombatAircraft.com News「Pakistan defers purchase of J-10 planes till their test flights」(2010年2月26日)
[18]時事ドットコム「国産戦闘機売り込みに意欲?=外国武官・メディアに公開−中国」(2010年4月13日)
[19]防衛白書平成23年度版 第I部 第2章 第3節 第2軍事 4 軍事態勢掲載の図表I-2-3-2
[20]防衛白書平成23年度版 第I部 第2章 第3節 第2軍事 4 軍事態勢掲載の図表I-2-3-2
[21]Defense News「Pakistan Deal for Chinese J-10 Fighters Uncertain」(WENDELL MINNICK and USMAN ANSARI/2013年10月9日)
[22]Global Times「Third-generation fighter jets await export approval」(Yuan Kaiyu/2013年9月27日)
[23]银河「”猛龙”的进化 浅析歼10战斗机的多用途发展」『舰载武器』2019.03/No.309(中国船舶重工集团公司、26〜46ページ)
[24]银河「”猛龙”的进化 浅析歼10战斗机的多用途发展-歼10战斗机图示」『舰载武器』2019.03/No.309(中国船舶重工集团公司、巻頭5〜9ページ)
[25]捜狐「歼10A换装AESA雷达,探测距离超过F16V和F35,是否会出口朝鲜?」(2023年2月2日)https://www.sohu.com/a/636451861_121432636?scm=101...

【参考資料】
Jane's All tlte World's Aircraft 2007-2008(Jane's Information Group)
月刊航空ファン 2007年4月号「実戦化の進む国産最新戦闘機”殲十”初公開」(石川潤一/文林堂)
同上「中国最新軍用機事情」(石川潤一/文林堂)
Jウイング特別編集 戦闘機年鑑2005-2006(青木謙知/イカロス出版)
漢和防務評論
別冊航空情報 世界航空機年鑑2005(酣燈社)
軍事研究(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)

Chinese Defence Today
Chinese Military Aviation
China Defence Blog
Kojii.net
Japan Aviation & Railway News 2007年6月2日「中国、ロシアからJ-10戦闘機用エンジンを大量に追加購入」(松尾芳郎)
中国情報局
新浪網「掲秘殲9:殲10梟龍是其発展型(1)」(2008月8月7日)
Ido社区「殲-10戦闘機全解析 続完 転貼」

【関連事項】
J-10B戦闘機(殲撃10B/F-10B)
J-10C戦闘機(殲撃10C/FC-20CE)

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