日本の周辺国が装備する兵器のデータベース




【開発状況】
J-10戦闘機は中国が永らく待望してきた国産の新世代戦闘機であり、約20年の開発期間を経て漸く2002年頃から部隊配備に漕ぎ着ける事に成功した。

しかし、J-10の設計概念はイスラエルのラヴィや未成に終わったJ-9戦闘機といった1970年代末から1980年代にかけて開発されていた機体に遡り、使用されている各種技術もその時代に開発・実用化された物が多く、欧米やロシアの第4〜4.75世代戦闘機と比較するとやや立ち遅れた点があることは否めなかった。これは中国のおかれた国際的な状況やJ-10の複雑な開発経緯から見ると止むを得ない所があったが、戦力としての有効性を維持し続けるためには時代に見合った改良を加えて行く事が不可欠であった。1990年代以降、中国空軍の戦略が従来の防空任務中心から一定の攻撃能力も兼ね備える「攻守兼備」へと転換したため、迎撃戦闘機として開発が行われたJ-10に対しても速度要求の優先度が低くなると共に、より一層のマルチロール能力の付与が求められるようになってきた[1]。

J-10の開発元である成都飛機工業集団公司では、J-10の量産と並行して改良型の開発に着手していた。改良型の開発では、J-10では不十分だったステルス性への配慮に基づいた設計変更が施されると共に、21世紀の戦闘機にふさわしい性能と多用途作戦能力を備える事が指向されたと見られる。

2006年1月のJDW誌は、成都飛機工業集団公司が、J-10の改良型「スーパー10」の開発を進めていると報じた[2]。スーパー10は、レーダーはロシア製のファズトロンN001VEP+Peroをベースに開発された「パンダ」と呼ばれるフェイズド・アレイ・レーダーを装備、エンジンはサリュート社がJ-10向けに開発した推力偏向装置付きのAL-31FN-M1(推力A/B時132.4kN)に換装され、それにあわせてインテイクを拡大。機体構造も強化されると伝えられた。

その後、スーパー10の情報は途絶えたが、2009年1月2日北京の中国評論社はJ-10の改良型であるJ-10Bが2008年12月26日に初飛行を行ったと報じた[3]。初飛行が伝えられてから3ヶ月が過ぎた2009年3月、J-10B試作機の写真が一般に公開されその姿が明らかになった。J-10Bの試製01〜02号機はレドーム先端に、飛行データ観測用と思われる比較的長いプローブを装着されていたが、試製03号機ではこれは撤去されている[7]。2011年になると、機首右部に空中受油用プローブを装着したJ-10Bが撮影された [11]。同年7月に撮影されたJ-10B試製05号機は、エンジンをWS-10A(もしくはWS-10B)に換装しただけでなく、カナード翼前縁部に続く形で胴体にも前縁部を伸ばすなど各部に設計変更が施されている[12]。

J-10Bは2012年から2014年の間に、J-10Aに替わって本格的な量産に移行したと見られている[14]。成都ではJ-10Bの量産と並行してレーダーをアクティブ・フェイズド・アレイ式に変更するなど更なる改良が施されたJ-10Cの開発を進め、2015年5月以降にJ-10BからJ-10Cに生産を切り替えている[15]。2017年までの3年間でJ-10Bが56機、J-10Cが54機生産されたとの見積もりが公開されている[14]。

【J-10Bの特徴】
J-10Bと原型機J-10Aとの主な相違点としては、1.インテイクの設計変更、2.機首レドームの大型化、3.垂直尾翼頂部の形状変更、4.ベントラルフィンの面積拡大、5.キャノピー直前に光学/赤外線センサーを装備、6.垂直尾翼にアンテナ増設、8.機種側面に2箇所のアンテナ増設などが上げられる[4][5][6]。なお、J-10Aをベースとして複座型J-10Sが開発されたが、J-10Bについては複座型は開発されておらず単座型のみが存在する。

J-10Bがそれ以前のJ-10A/Sと外見上で大きく異なっているのは、インテイク形状が可変式インテイクから、DSI(Diverterless Supersonic Inlet)に変更された点である。J-10A/Sでは枡形インレットが境界層分離板の機能を有していたが、J-10Bではインレット下部の凸部で境界層を圧縮して切り裂く方式が採用されている[4]。DSI方式は、可変式インテイクに比べて可動部分を無くす事により信頼性が向上し、システム重量を軽減する効果がある[5]。また、境界層を圧縮する凸部は、エンジンブレードを隠しインテイク内への電波の流入を抑制するため、機体正面からのRCS(Radar cross section:レーダー反射断面積)値を減少させる効果もある[7]。ただし、DSI方式はマッハ1.6程度の低中音速域では有効な方式とされるが[4]、それ以上の速度域においては可変インテイクの方が有利になるので、J-10Bの最高速度はJ-10A/Sよりも低下するものと見られる。成都飛機工業集団公司では、パキスタン向けに開発したFC-1戦闘機において既にDSIを採用しており、J-10Bの設計においてはその蓄積されたノウハウが活かされた形となっている。

J-10Bに搭載されたエンジンは、試製01〜04号機まではノズルの形状からJ-10A/Sと同じロシア製のAL-31FN(最大推力12.5t)であることが確認されている。J-10BではAL-31FNの必要空気流量に合わせてインテイク内部形状の再設計が行われているものと見られる[8]。J-10B量産型ではAL-31FNの改良型であるAL-31FN-M1/別名AL-31FN SER3(最大推力13.5t、エンジン寿命1500時間、エンジン制御をデジタル化)を搭載している[13][14]。推力増加とエンジンのデジタル制御の採用はJ-10Bの空中機動性やペイロード増加に寄与していると考えられる。2011年7月に撮影された試製05号機では、AL-31FNではなく中国製のWS-10A(もしくはWS-10B)エンジンを搭載しているのが確認されており[9][16]、こちらは国産エンジンとの適合性を確認するためのテスト機と思われる。

J-10Bの機首のレドーム部分はJ-10に比べて大型化されており、レドームの色もJ-10A/Sの黒色から灰色に変更されている。成都の飛行場でレドームをはずした状態のJ-10Bが撮影されたが、同機の搭載していたレーダーは中央部にIFFアンテナを並べているなど、ロシアのPESA(パッシブ電子走査アレイ)レーダーに良く似た形のものであった[10]。中国は1996年にロシアのNIIP設計局のPERO PESAレーダーのアンテナを購入しており、すでに15年にわたってPESAレーダーの研究を行っていることから、J-10Bが搭載しているレーダーもPESA方式の可能性が高いとされる[10]。J-10Bのレーダーのアンテナ直径は600〜700mm程度であり、探知距離は戦闘機大の目標に対して100〜120kmほどと推測されている[10]。コクピットの風防前には新たにオプティカル電子捜索センサーと赤外線捜索追跡センサー(EOTS/IRST)が設置された[4]。このセンサーは機体中心線から右側にオフセットして搭載されている[5]。J-10Bは、EOST/IRSTを使用することでレーダーを使用する事なく目標の捜索・追跡が可能となった[7]。

垂直尾翼先端部はJ-10A/Sでは水平にカットされていたのが三角形に変更されている。その下のアンテナもJ-10よりも大型化されており、電子戦(EW)と電子対抗(ECM)機材が追加されていると見られる[4]。この他に、ドラクシュート収納部の左右に2箇所、コクピット側面とエンジン部分下方側面に合計4箇所の黒色の小型アンテナが確認されている[5][6]。これらのアンテナの役割については不明であるが、電子対抗機材ではないかと推測されている。J-10Bの固有兵装はJ-10A/Sと同じ23mm連装機関砲を搭載している。外部搭載兵器については多用途任務の強化を目的に、J-10A/Sとよりも搭載兵器のバリエーションを増やして各種兵装を搭載・運用することが可能。

空対空任務では、J-10Aと同じくPL-8短距離空対空ミサイルPL-12中距離空対空ミサイルの組み合わせに加えて、新型のPL-10短距離空対空ミサイル(霹靂10)PL-15中距離空対空ミサイル(霹靂15)の運用能力が付与された[15]。J-10Bは、空対艦、空対地任務に加えて、敵防空網制圧任務についても可能で、演習でYJ-91高速対レーダーミサイル(鷹撃91/Kh-31P)とKG-500電子戦ポッド、目標照準ポッドなどを搭載して敵防空網制圧訓練を実施しているのが報じられている[15]。

【J-10B 推力偏向ノズルテストベッド機】
2017年12月、通常のAL-31FN-M1とは異なる形状のエンジンノズルを搭載したJ-10Bの写真がネットに投稿された[16]。鋸の歯のような形状が特徴のこのノズルは、ジェット噴流の方向を変えることで機体制御を行う推力偏向ノズルであることが判明した[16]。推力偏向ノズル付きのこのエンジンはWS-10XもしくはWS-10B3等の名称でよばれているが、制式名はまだ不明[16]。J-10B 推力偏向ノズルテストベッド機は、2017年12月25日に初飛行に成功。翌2018年11月に広東省珠海で開催された珠海航空ショーでは、同機が推力偏向ノズルを用いたデモフライトを披露してその存在を公にした[16]。航空ショーでのデモフライトを許可したということは、開発陣やメーカーが推力偏向ノズルとそれによる機体制御に公開できるだけの信頼を置いていることの証であるといえる。

J-10Bテストベッド機での推力偏向ノズルの試果結果は、J-20(殲撃20/J-XX/718工程)の改良で生かされるとみられている[16]。

▼J-10B試作機(「01」号機)

▼3機目の試作機(「03」号機)

▼エンジンをAL-31FNから中国製WS-10Bに換装した5機目の試作機(「05」号機)

▼「歼10B使用国产推力矢量发动机进行超机动展示 -2018珠海航展 | J-10B aerobatic demo (WS-10 TVC engine) - 2018 China Air Show」。
2018年11月に開催された珠海航空ショーでのJ-10B TVCテストベッド機によるデモフライト動画


J-10A性能緒元
重量
全長
全幅
全高
エンジンLyulka-Saturn AL-31FN-M1/別名AL-31FN SER3(A/B推力13.5t)×1
最大速度  
戦闘行動半径 
フェリー航続距離 
上昇限度 
機内燃料搭載量 
武装23mm連装機関砲×1
 PL-15中距離空対空ミサイル(霹靂15)
 PL-12アクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル(霹靂12/SD-10)
 PL-10短距離空対空ミサイル(霹靂10)
 PL-8赤外線誘導空対空ミサイル(霹靂8/パイソン3)
 YJ-91高速対レーダーミサイル(鷹撃91/Kh-31P/AS-17C Krypton)
 C-803K対艦ミサイル(YJ-83K)
 LT-2レーザー誘導爆弾(雷霆2型)
 LS-6滑空誘導爆弾(雷石6)
 FT-1/3誘導爆弾(飛騰1型/3型)
 各種爆弾/ロケット弾/電子戦ポッドなど約4.5t
乗員1名

【参考資料】
[1]大公網「殲10B對地攻擊力 隱身性加強」(2009年9月8日)
[2]Kojii.net「今週の軍事関連ニュース (2006/01/20)」
[3]田辺義明「最新・中国航空・軍事トピック〜殲10Bが初飛行」『航空ファン』2009年3月号(文林堂)135頁
[4]田辺義明「5月号特集「中国の空母と航空戦力」・追補〜空母のその後と殲10B登場」『航空ファン』2009年6月号(文林堂)76〜77頁
[5]Chinese Defence Today「Jian-10B Multirole Fighter Aircraft」
[6]空军世界「歼-10B改进型战斗机 采用DSI进气道与相控阵雷达的最新型第三代战斗机」
[7]Yefim Gordon、Dmitriy Komissarov著『Chinese Air Power:Current Organisation and Aircraft of All Chinese Air Forces』(Midland Pub Ltd、2010年8月)375〜379頁
[8]平可夫『漢和軍事叢書02−中国製造航空母艦』(漢和出版社/2010年)91〜92頁
[9]大旗網「丝妹、女棍今天下午飞欢了。。。TH-DSI−−反正我是信了!!!」(2011年7月30日)
[10]平可夫「J10安装無源相控陣雷達」(『漢和防務評論』2011年8月号/No.82)22〜23頁
[11]大旗網「成飞已停产歼7G,歼10B正在北线进行最后的定型试飞!」(2011年1月10日)
[12]中华网「性能大提升:曝05号歼10B改进之处」
[13]新浪网-新浪军事「歼20为何没有用国产发动机 关键材料仍旧是拦路虎」(2017年3月15日)
[14]East Pendulum「Perte de vitesse pour la chaîne de production du J-10C ?」(HENRI KENHMANN/2017年1月31日)
[15]sinodefence.com「Chengdu J-10B/C」http://sinodefence.com/chengdu-j-10bc/ (2019年1月19日閲覧)
[16]Chinese Military Aviation「J-10B Vigorous Dragon/Firebird」http://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/fi... (2019年1月19日閲覧)

【関連項目】
J-10戦闘機(殲撃10/F-10)

中国空軍

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