J-35艦上戦闘機（殲撃35）
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rglc85tj8h 2025年04月28日(月) 15:44:28履歴
▼動画：Eurasia Naval Insight「China's J-35 Stealth Fighter Takes Off From Aircraft Carrier」（2024年9月27日公開）
J-35（3505号機）の写真、001型空母「遼寧」にJ-35のモックアップが搭載された、「遼寧」からの発着テストの可能性、などの情報が紹介されている。
▼動画：Australian Military Aviation History「China's new J-35」（2024年12月14日公開）
FC-31からJ-35/J-35A、J-31Bに至るまでの開発経緯と各種派生型を紹介した動画。
■性能緒元（推測含む）[1]
| 空虚重量 | 14.5t |
| 通常離陸重量 | 23.5t |
| 最大離陸重量 | 約30.8t |
| 全長 | 17.8m |
| 全幅 | 13.5m |
| 全高 | 4.7m |
| エンジン | 初期型：WS-13Eターボファンエンジン「泰山」（ドライ51.96kN、A/B 85〜87.279kN）×2 |
| 量産型：WS-19ターボファンエンジン「黄山」（ドライ7.8t、A/B 10〜10.5t）×2 | |
| 最大速度 | M1.8 |
| 燃料搭載量 | 8,000kg(機内のみ) |
| 作戦行動半径 | 1,200km(機内燃料） |
| 航続距離 | 2,800km以上(最大） |
| 兵器搭載量 | 8,000kg（機内2,000kg/機外6,000kg) |
| ハードポイント | 12箇所（機内×4〜6、機外×6） |
| 武装 | PL-15中距離空対空ミサイル（霹靂15） |
| PL-10短距離空対空ミサイル（霹靂10） | |
| 各種ミサイル/爆弾/ロケット弾など | |
| 乗員 | 1名 |
J-35艦上戦闘機（殲撃35）は、中国航空工業第1集団公司（AVIC-I）傘下の瀋陽航空機工業（SAC）第601研究所によって開発されたステルス艦上戦闘機である。J-35は、SACが自主開発した第五世代戦闘機FC-31戦闘機「鶻鷹」（J-31/殲撃31）をベースとして、艦上戦闘機として発展させた機体となる。J-35の設計主任を務めたのは、SACの孫聡技師[2] 。氏はJ-15、FC-31でも設計主任を担当し、ステルス戦闘機と艦上戦闘機の開発ノウハウを積んだ人物であり、J-35の設計主任にふさわしいキャリアを積んでいた。
【開発経緯】
SACは、次世代戦闘機開発コンペに敗れた後、ステルス戦闘機の開発能力を確立し、国内外のユーザーの関心を引き付けるため、FC-31戦闘機「鶻鷹」（J-31/殲撃31）の自社資金による開発に着手した[3]。しかし、FC-31について、中国空軍はJ-20戦闘機の開発・配備に傾注し、FC-31に関心を示す事はなかった 。SACでは、F-35の調達が期待できない国々からの採用を期待したが、こちらについても、FC-31がSACの自社開発であり、実用化までにはまだかなりの投資を要することから、共同開発のパートナーは得られなかった[4]。
この情況に変化が生じたのは、中国海軍の動向であった 。中国海軍は、アメリカ海軍におけるステルス戦闘機F-35B/Cの配備の進捗具合を見て、ステルス戦闘機に対抗するにはこちらもステルス戦闘機を保有する必要があると認識するに至った[5]。
中国海軍では、同国初の艦上戦闘機となったJ-15（殲撃15）に続く次期艦上戦闘機について検討を行っていた。J-15は大型戦闘機であり、兵器搭載量や航続性能などについては十分な能力を有していたが、カウンターパートであるアメリカ海軍では高いステルス性を有する第五世代戦闘機F-35B/Cの調達・配備が進んでおり、第4.5世代戦闘機であるJ-15で対抗するのは困難であった。故に、J-15に続く次の艦上戦闘機は、ステルス機とすることが必須だった。その候補となったのは、SACのFC-31発展型と、成都航空機工業（CAC）/第611研究所のJ-20戦闘機の艦上戦闘機化の二つであった。これは奇しくも、中国空軍の次期主力戦闘機競争の再来といえるSACとCACの対峙となった。
純粋な性能という観点であれば、大型戦闘機であるJ-20のほうが充実したアビオニクスを備え、兵装搭載量でも有利であり、航続距離も長いなど、中型戦闘機であるFC-31に対して優位に立つところが多い。しかし、航空母艦での運用という観点から考えると、話はそう単純ではない。まず、大型戦闘機では限られた面積の空母艦上で運用する場合、中型戦闘機に比べて搭載機数が少なくなるデメリットが存在する[6]。さらに、SACがJ-15の開発で艦上戦闘機に関するノウハウを蓄積済みで、FC-31についても前脚をダブルタイヤにするなど設計当初から艦上戦闘機化を考慮に入れていたの対して、CACは同社が開発したJ-10戦闘機の艦上戦闘機化を構想したことはあるが、SACに比べると艦上戦闘機設計に関するノウハウに乏しいのは否めなかった[7]。J-20は陸上戦闘機として設計されたので、艦上戦闘機に仕立て直すには、主翼の折り畳み機構、機体や降着装置の強度改善、防錆・防塩対策の導入など、艦上戦闘機に必要な各種要素を組み込むために、設計全般に手を加える必要があり、これらの作業には かなりの手間と時間を要することが見込まれた[8]。
最終的に中国海軍が選定したのはSACの提案であった。海軍はFC-31の方が、艦上戦闘機としての適性があると判断し、FC-31を艦上戦闘機として発展させるための資金供給を開始した[9]。海軍の動きに空軍も追随することになり、ここに至ってFC-31は中国海・空軍での採用を前提として開発を進めることが決定され、海軍向けの艦上戦闘機にはJ-35（殲撃35）、空軍向けの陸上戦闘機にはJ-35A（殲撃35A）の型式名が新たに付与された[10]。
J-35/35Aの開発が知られるようになったのは2023年に入ってからである。「350003」の機体ナンバーが記された新型戦闘機が駐機中の所を撮影されたのである[11]。
この戦闘機は、FC-31をベースにしながらも、設計に大きく手が加えられたことは明白であった。後方視界を確保したバブルキャノピーだったFC-31から、キャノピーが胴体背部に連続する形状に変更されていた。FC-31は二分割キャノピーで後方に引き上げて開放する形式だったのが、350003号機では先端にヒンジを付けて前方に引き上げるというアメリカのF-35B戦闘機と共通する方式が採用されている。降着装置も改良が加えられており、カタパルト運用を前提としたローンチ・バーが前脚に追加されていた。これにより、350003号機は艦上戦闘機として開発された機体であることが判明した。機首下部には光学/電子センサーを収納する多角形のフェアリングがあるのも確認されたが、これはこれまでのFC-31試作一、三号機には未搭載であり、350003号機の実用戦闘機としての完成度が高い水準にあることをうかがわせた[12]。
これまでの慣例から、試作機の機体ナンバーの前二桁「35」は型式名「J-35」を、下二桁「03」は三機目の試作機を意味すると思われる。そして、FC-31試作一、三号機とは異なり、垂直尾翼に中国人民解放軍空軍の徽章が施されていることから、この機体が中国軍での採用を前提とした戦闘機であることは間違いないと判断された[13]。
2024年の第15回珠海航空ショーでは、空軍型であるJ-35A戦闘機が実機を持ち込んでデモフライトを行うと共に、屋内ブースではJ-35艦上戦闘機の模型が空母模型と合わせて展示され、内外に中国第二の第五世代ステルス戦闘機であるJ-35/35Aの存在が公にされた[14]。
2024年末までに、「3503」と「3505」の機体ナンバーを施したJ-35の写真がネットで紹介されたことで、J-35の試作機は少なくも五機存在するものと考えられており[15]、実用化に向けて作業が進められているものと思われる。艦上運用される第五世代ステルス戦闘機は、2025年時点ではアメリカ海軍のF-35Cとアメリカ海兵隊の強襲揚陸艦で運用されるF-35Bしか存在せず、J-35の配備が実現すれば、世界で三番目の艦上運用される第五世代戦闘機になる。
J-35はカタパルト発艦を想定して設計されたが、2023年11月には002型空母「山東」で、2024年2月には001型空母「遼寧」の甲板で駐機中の原寸大モックアップが確認されており、 これは、J-35がスキージャンプ甲板を備えた001/002型空母でも運用できることの傍証であるとみなされている[16]。
【設計】
J-35の設計はFC-31から発展したものであり、各部に共通点を見て取ることが出来る。
兵装は胴体中央ウエポンベイに収納し、主翼と水平尾翼は前縁部から翼端切り落としに至るまで角度を揃え、機体の各部パネルにはレーダー反射断面積抑制を意図した鋸歯状の加工が施され、レーダー反射断面積の低減に有効なDSIインテークを採用するなど、FC-31で導入されたステルス性を意図した設計[17]が全般的に採用されている。
機体の基本的なレイアウトについても、肩翼配備の低アスペクト比の先端切り落としデルタ翼、後方に傾斜した双垂直尾翼、全遊動式水平尾翼、主翼と水平尾翼を同一線上に配置、相応の揚力を生み出す平底胴体など、FC-31試作三号機との共通点が多い。
ただし、制式名がJ-31ではなくJ-35となっていることからも明らかなように、両機の間には明確な相違点も少なくない。それは、本格的な艦上戦闘機として必要な設計変更に留まらず、機体の基本設計に手を加えて両機の相違点となっている箇所も複数存在する。
まず、艦上戦闘機として必要な設計変更について記述する。陸上基地に対して圧倒的に限られた面積の飛行甲板での運用を想定する艦上戦闘機は、陸上戦闘機以上に着艦時の低空・低速飛行時の安全性と制御性が重要になる[18]。J-35では、特に大迎え角時の飛行性能改善を意図して、主翼と水平尾翼の翼面積を大幅に拡大するとともに、細かい機体制御を可能とするため、主翼後縁のフラップを二分割してそれぞれ制御できるようになった。これにより、低空・低速域での操縦性が改善されるだけでなく、空中戦におけるドッグファイトにおいても操縦性や敏捷性の向上がもたらされている。水平尾翼は僅かに位置を後ろに移動させており、それに伴ってテイルブームの全長が伸ばされている[19]。
J-35は、主翼面積拡大のため、主翼後退角を45度と、FC-31やJ-35Aよりも緩やかなものにして、翼もより長いものを採用している。主翼拡大により全幅はFC-31試作三号機の11.5mから13m越えにまで広がり、翼面積は60�屬貿�るサイズになっている[20]。主翼を折り畳んだ状態のJ-35の全幅は8m程度と、J-15戦闘機の格納状態の横幅と大差ない長さに収まっていると見られている[21]。
世界各国の艦上軍用機と同様に、格納庫への搭載に当たって駐機面積を出来るだけ確保するため、J-35も主翼に折り畳み機構を取り入れている[22]。同機の折り畳み機構にはステルス性確保のための工夫が施されており、主翼を展開すると折り畳み機構の上にカバーを展開して機体の継ぎ目を隠すようになっている。これは先行するJ-15艦上戦闘機には存在しない新機軸であり、ステルス性の改善に加えて、副次的効果として折り畳み機構の防錆・防塩効果、そして（極めて僅かではあるが）空気抵抗の減少も期待できるとされる[23]。
降着装置についても艦上戦闘機としての運用に即した設計変更が加えられている。もともと、J-15の開発において艦上戦闘機開発のノウハウを確立したSACでは、FC-31の開発段階から艦上運用を想定していたと見られ、陸上戦闘機としては必要のないダブルタイヤの前脚を当初から採用していた[24]。J-35では、着艦時の衝撃に対応するため前脚はFC-31以上にがっしりとした作りになり、そこに新たにローンチ・バーが追加された。これはカタパルト発艦を前提とした装備であり、ローンチ・バーの追加はJ-35がCATOBAR（Catapult Assisted Take-Off But Arrested Recovery：カタパルト発艦通常着艦）方式の空母の艦載機として開発されたことを物語っていた。
なお、カタパルト発艦は機体を急加速させるのでそれを想定した機体強度の確保が求められ、艦上戦闘機が陸上戦闘機よりも重量が重く成り易い理由の一つとなっている。上記カタパルトの場合、最大加速が4〜5Gに達するので、機体のみならずパイロットも対G対策を取る必要がある[25]。これに対して、アメリカ海軍のフォード級航空母艦や中国海軍の003型空母「福建」で採用された電磁カタパルトは加速をよりきめ細かく調整可能となったので、カタパルト発艦時の加速が3G前後にまで抑えられている。故に、電磁カタパルトのみを想定すれば、機体強度をそれだけ低くして良いという話になり、機体の余分な重量増加を抑制することが期待できる[26]。J-35の詳しい開発経緯は最新鋭機ということもあり不明な点が多いが、もし電磁カタパルトだけを想定して設計されたのであれば、その分だけ軽量化に繋がり、機体設計上のメリットも無視できないもあるので、今後の新情報が期待される所である。通常の着艦を行うためには、強制的に着艦速度を落として安全な着艦を実現するアレスティング・ワイヤを引っ掛けるためのアレスティング・フックも当然必要であり、J-35も装備していると思われるが、具体的な形状や配置場所についてはまだ明らかになっていない。
このほか、機体各部への防錆・防塩対策の導入、海上運用を想定したエンジンの改設計など、外観からは分からない艦上戦闘機特有の設計変更も各部に施されていると思われるが、これにはSACのJ-15艦上戦闘機の開発で得られた各種ノウハウが反映されているものと想定される。
一方で、艦上戦闘機として必要な要素とは直接関係なさそうな設計変更も多いのがJ-35の特徴である。FC-31では、後方視界を確保したバブルキャノピーを採用していたが、キャノピーが胴体背部のドーサルスパインにそのまま繋がっていくファストバック形状に変更され、ドーサルスパイン自体もFC-31よりも大型化されている。この設計は、艦上戦闘機J-35、陸上戦闘機J-35Aが共に取り入れられているので、この設計を取り入れた共通の理由があることが伺える。この設計の利点として想定し得るのは、バブルキャノピーに比べて空気抵抗が少なくなり、飛行性能の改善に有利に働くことと、胴体背部の機内容積を確保して、より多くの燃料や電子機器を積むためのスペースとして利用し得るという二つの理由が挙げられるだろう。ドーサルスパインの大型化により、少なくとも1000L程度は搭載燃料を増やすことが出来たと推測されている[27]。バブルキャノピーの変更は、ステルス性の向上に良い影響を与えるという考察もあり[28]、一挙両得のアプローチが採用されたことも十分考えられるだろう。
開発リソースの点から見ても、J-35とJ-35Aで共通の設計とすればそれだけ開発の手間を省くことが可能となり、機体製造の面でも共通化を高めることにはメリットが多い。無論、この設計には後方視界の悪化という、戦闘機としての運用にかかわるデメリットが存在する。これについては、得られるメリットと勘案して取捨選択を行った可能性、もしくは、技術革新により後方視界を直接確保せずとも光学／電子センサーにより良好な全周視界を確保した可能性が考えられるので、今後、さらに開発に関する詳細な情報が登場することが期待される。
もう一つ、J-35とJ-35A共通の設計としては、FC-31は二分割キャノピーで後方に引き上げて開放する形式だったのが、J-35/35Aではキャノピー先端にヒンジを付けて前方に引き上げるというアメリカのF-35B戦闘機と共通した方式に変更されている。これについては、コクピットのパイロットの座席をFC-31よりも前方に配置するための措置であり、これにより前方と側面の視界を改善することが意図されたとされる[29]。前方と側方の視界確保は特に艦上戦闘機であるJ-35で重要になる特徴であり、設計共通化でJ-35Aも同じキャノピーを採用したことが考えられる。射出座席は、J-20戦闘機と同じHTY9を装備している[30]。J-35/35A共に、機首右側に空中給油用プローブを収納しており、必要に応じて航続距離を延伸することが可能[31]。
【アビオニクス】
J-35は、2020年代に実用化される第五世代戦闘機として、それにふさわしい先進的なレーダー・光学電子センサー、大型多機能液晶ディスプレイを採用したグラスコクピット、広角ホログラフィックHUD(Head Up Display)、HMD（Helmet mounted Display）、統合デジタルデータリンクシステム、AI支援システム、ブロードバンド電子戦システムなどが採用される[32]。最初に確認されたJ-35 350003号機の段階で、すでにアビオニクスは実用機水準に到達しており、AESAレーダー、光学電子照準システム、電子光学開口分配システムなどが完全に実装された状態となっていた[33]。
なお、アメリカのF-35では二分割された大画面液晶表示ディスプレイと、バイザーに飛行情報や兵器の照準情報などを投影するHMDを用いておりHUDは備えていない。両機の相違については、コクピット用電子機器関係に関する米中両国の技術差によるものとの指摘がなされている[34]。この指摘についての判断材料となり得るJ-35がF-35とは異なるアプローチを選択した理由についてはまだ明らかになっておらず、今後の開発経緯のさらなる開示が待たれるところ。
J-35のレドームに収納されているAESAレーダー（Active Electrically Scanned Array：アクティブ電子走査アレイ）のアンテナは直径700mm程度と予想され、これはF-35CのAN/APG-81（直径730mm）と同程度の大きさとなる[35]。このレーダーの型式名や具体的な性能はまだ明らかにされていないため、その性能を推測するため、パキスタンのJF-17 Block3戦闘機に採用されている中国のAESAレーダーであるKJL-7Aを俎上に上げる。KLJ-7Aは小型戦闘機であるJF-17 Block3への搭載を前提としているためレーダーアンテナ直径はJ-35のものよりさらに小型の650mmに留まっている。しかし、そのアンテナ部には1200個ものT/R（送受信）モジュールを配置しており、その探知距離はRCS（レーダー反射断面積）3〜5�屬量槁犬�170kmの距離で探知可能で、最大12目標を同時追尾して、その内、4目標に同時攻撃を実施する能力を有している 。J-35のレーダーは、KLJ-7Aより後に開発されたことから、その後に実用化された新技術を応用することでさらなる性能向上が追及されているのは想像に難くない。レーダーアンテナの直径の差から、J-20戦闘機の1475型/KLJ-5 ASEAレーダー（アンテナ直径800〜900mm）並みの探知距離は得られないと見られているが、後から開発されたことでレーダーとしての性能は1475型/KLJ-5と遜色のないものに仕上がっていると推測されている[36]。
J-35の機首下部には、多角形のフェアリングがあり、この中に電子/光学センサーが入っている[37] 。
米軍のF-35の場合は、機首下部のフェアリング内に、AN/AAQ-4O電子光学目標指示システム（EOTS：Electro-Optical Targeting System）という赤外線センサーとレーザー・センサーなどの電子光学装置を統合化した目標指示装置を搭載している。EOTSは、捜索、照準、追尾、測距、座標作成など多様な任務が想定されており、自らは電波を発しないパッシブセンサーであるため相手側に逆探知される恐れがない点もレーダーを補完するセンサーとして有利に働く。探知距離の長さも特徴で、最大探知距離はF-35のAN/APG-81レーダーとほぼ同等だとされている[38]。
J-20とJ-35の電子/光学センサーは、F-35のEOTSとは大きな違いが存在するとの指摘がある。EOTSが広範囲の視野を有するのに対して、J-20とJ-35のものはそこまで広い視野は備えていないとされる[39]。これはマルチロールファイターとして、対空・対地・対水上攻撃を幅広くこなすことを想定しているF-35と、主要任務を空対空作戦として攻撃任務は二義的任務と位置付けているJ-20/J-35の相違によるものだとされる。故に、J-35の電子/光学センサーは、空中目標の捜索と照準を中心とした空対空任務を主眼に置いて活用されるとする[40]。ただし、両機の電子/光学センサーのフェアリングを見ると、J-20の視界が240度なのに対して、J-35/35Aでは360度の全周視界を確保していることも指摘されている[41]。後述するようにJ-35Aは対地・対艦攻撃能力も相応にこなすことが求められていることからも、J-35の電子/光学センサーは空対地・空対艦任務での活用も意図されているとも考えられる。
▼比較：J-35/35AのベースとなったFC-31(左)とJ-20(右)の電子/光学センサーのフェアリング比較。前者が全周視界を有しているのに対して、後者の視覚が狭いことが見て取れる中国航空工業博物館の模型の写真(執筆者撮影)より作成。
J-35には、もう一つの電子/光学センサーが実装されているとされる。それは、米F-35のAN/AAQ-37電子光学開口分配システム（ED-DAS：Electro Optical Distributed Aperture System）相当するシステムである[42]。AN/AAQ-37は、機体各部の6箇所にセンサーを配置して、ガラスによるセンサー窓を（開口部）を設置。これにより機体を中心として360度全周を監視覆域として、ミサイルの探知及び追跡、ミサイル発射位置の探知、赤外線捜索追尾および目標指示、兵器支援などに活用される。攻防両面での活用が意図されており、特にミサイル攻撃に対する防御機能としての役割に優れ、迅速な脅威の産出と対応、反撃までを迅速に遂行することを可能とするシステムである[43]。J-35は、ドーサルスパインを大型化してキャノピーとなだらかに繋がるようにしたことで後方視界が失われ、センサーにより全周視界を確保するED-DASのようなシステムを導入する必要性が存在していた[44]。
この視界確保以外にも、J-35/35AがF-35のED-DASに相当する高度な全周視界確保が求められた理由として挙げられるのが、空軍におけるJ-20との任務の相違である[45]。空軍のJ-20は空中優勢を確保することが一義的に求められる戦闘機であるのに対して、J-35Aは空対空任務を中心としつつ、空対地・空対艦能力も有するマルチロールファイターとして位置付けられている。そのため、地上や洋上での複雑な環境下での運用も想定する必要があり、地上や水上からの対空ミサイル攻撃に備える必要性がJ-20よりも強く求められることになった。J-35Aはステルス機ではあるが、超低空飛行による被発見率の低下も行うことも想定されており、その際にも全周視界の確保は飛行中の安全性を増すと共に、敵の攻撃をいち早く発見し対処することに繋がる。J-35Aが全周視界確保のために電子光学センサーを活用しているのは、上記の二つの理由によるものである。海軍では空軍とは異なりJ-35の第一義的任務はを空対空戦闘であるとしたが、全周視界確保は空対空戦闘や洋上運用でも役立つことから、わざわざ撤去するようなことは行われず装備されているとみられる。
現在の戦闘機では、各プラットフォームをデータリンクで統合したネットワーク戦、各種センサーの情報を整理・統合表示するセンサーフュージョン能力、AIの活用、無人機との連携など、ネットワークやソフトウェアの活用が強く希求されている。J-35もその例外ではなく、SAC設計研究所の首席技術エンジニアである王永慶氏は、彼が提示する「信息融合・数据融合・協同指揮（情報誘導・データ融合・協同指揮）」に基づき、J-35/35Aは、第五世代戦闘機にふさわしい高度な空中センサーとして機能することが求められていることを明らかにしている[46]。J-35/35Aは、センサーフュージョンにより各センサーの情報を統合して高い全周感知能力を備えており、データリンク機能と協同指揮機能を活用して、複数の無人機との連携作戦についても可能な能力が付与されている。
さらに、J-35/35Aの空中センサー能力は、三軍統合データリンクを通じて軍種を越えた統合運用を行うことも可能となっている。この場合、J-35/35Aは多機能空中プラットフォームかつ高い情報処理能力を備えた空中指揮プラットフォームとしての役割を果たすことになり、各種航空戦力、弾道ミサイル、巡航ミサイル、長射程・大口径の地対地ロケットなど多種多様な兵器システムとの統合作戦を実施することになる[47]。
前述した王永慶氏によると、J-35/35Aの開発では、高度に情報化された統合運用能力が求められる現在の空中戦に即した能力を付与するとともに、将来の戦場の変化を前提に発展余地を確保しておく方針が採られたとのこと[48]。J-35が追及したのは、より早い「キルチェーン」の実現だとされる。キルチェーンとは、探知-分析-判断-攻撃-判定の一連のループであり、キルチェーンを早く回すほど、相手側に先手を打つことができ、こちら側の優位性が高まることになる。
【J-35の低視認性】
第五世代戦闘機として開発されたJ-35にとって、ステルス性の追求は最も重要な課題であるのは言を俟たない。J-35も、各国で開発されたステルス戦闘機と同じように様々なステルス性向上のための設計が施されている。
J-35を正面から見ると、胴体中央側面のチャイン（側面のエッジ）を境にして、胴体の上半分と下半分に等しく分けられ、そろばんの玉のような相似形に成型されている。機体の外板は一定の角度に傾斜をつけことで、レーダーの電波の反射の一番強い方向を限定するとともに乱反射を防ぐ技術である。主翼と水平尾翼も、それぞれの前縁と後縁を一定の角度に揃えられている。インテーク外側の入口、主翼前縁、水平尾翼の外側には、機体の色とは異なる縁取りのようになっている。これは特に電波反射率の高いところであり、レーダー電波を吸収・減衰するための工夫が施されているとみられる。これらの手法は、先行するF-22、F-35、J-20などのステルス戦闘機に取り入れられている共通した設計手法である[49]。
機体形状という点では、前述の通り、バブルキャノピーを廃してキャノピーからドーサルスパインに連続して繋がるようにした設計も、レーダー反射率を抑えるうえで有効に機能していると観測されている[50]。
機体外板は低視認性を考慮して非常に滑らかにされており、パネル、アンテナ、隙間などレーダー反射率に悪影響を及ぼす要素は徹底して対策が採られている[51]。飛行操縦翼面には、可能な限り構成する角度の種類を減らすエッジ・マネージメントが行われており、降着装置扉やウエポンベイ扉など多くのエッジ構成箇所にこの概念が取り入れられている[52]。
J-35のインテークは、JF-17、J-10B、J-10C、J-20などでも採用されているダイバータレス超音速インレット（DSI）が採用されている。DSIは、インテーク開口部の胴体側に膨らみを設けて、他方で境界層空気流を逃がすスボウリッター・プレードと隙間などを持たないようにして、インテーク開口部からエンジン前面のファンに直接レーダー波が届きにくく、また出にくい設計にしている。DSIは、シンプルな構造で可動部分を減らすことで軽量化と整備性向上を実現でき、隙間や不要な張り出しを一切なくすことでステルス性の向上に大きく寄与する[53]。
J-35では（正確にはその原型であるFC-31試作三号機の段階で）、レーダー波対策のみならず赤外線に対する低視認性対策も取り入れられており、同機のエンジンノズルは赤外線を抑制する複合材を採用している[54]。さらに、後端部が鋸歯状に加工され、胴体側の排気口がむき出しになる後端部にも同様の処理が施されている。これは赤外線とレーダー波双方の低視認性向上のための設計であると見られている[55]。
ステルス性の向上には、外観から分かる対策のみならず、機体構造や材質、塗料など表からは伺い知ることが難しい要素も多い。J-35が部隊配備され、時が経つにつれて次第に情報が明らかにされていく子を期待したい。
【エンジン】
J-35のエンジンは、試作機〜初期型にはFC-31試作三号機にも搭載されたるWS-13Eターボファンエンジン「泰山」（ドライ51.96kN、A/B 85〜87.279kN）が搭載されると考えられている[56]。ただし、WS-13Eの発展型であるWS-13F/WS-21（A/B 93.4kN）を搭載しているとの情報もある[57]。WS-13Eは。前述の通り、艦上運用を想定してエンジンの防錆・防塩対策が施されていると見られている。
J-35は二基のWS-13Eを搭載して、170kN前後の合計推力で最高速度マッハ1.8を発揮する能力を有している。しかし、J-35は、主翼の延長と面積拡大によりFC-31よりも空気抵抗が増大しており、機体重量も機体強度の強化、主翼と水平尾翼の大型化、艦上戦闘機化に伴う追加装備、実用戦闘機として必要な各種装備を満載したこと、機内燃料搭載量の増加と、不利になる要因が多々存在する。そのため、最高速度こそマッハ1.8とFC-31と同等の性能を確保しているが、加速性能は明らかに悪影響を受け、中国海軍が要求した、アフターバーナー未作動でマッハ1.5を発揮して20分から30分間の超音速巡航飛行を可能とするという目標に対して、WS-13E搭載J-35は最高速度マッハ1.2で15分を少し上回る程度の時間の超音速巡航が可能と、目標を限定的にしか達成できなかった[58]。
単発でも十分な大推力を発揮し得るF135-PW-400エンジンを前提として開発されたアメリカのF-35と比較すると、充分な推力を持った戦闘機用ターボファンエンジンの欠如はFC-31/J-35の設計に影響を与えずにはおかなかった。合計推力が同じだとしても、双発エンジン搭載の場合、単発エンジン機と比較して、機内容積が20%減少する上に、空虚重量で20%重くなってしまい、燃料消費量でも不利になるというデメリットが存在する[59]。ましてや、WS-1３Eは合計推力でも170〜174.558kNと、F135-PE-400の187kN級には及ばない[60]。F-35と比較して、機内搭載量の上で不利になるのもいとわず機体の正面投影面積を減少させるなど空力的な洗練を重視したFC-31/J-35の設計は、エンジンパワーの余裕のないエンジンを積んだうえで飛行性能を確保することを求められた設計陣の取捨選択によるものだと見なすことができる[61]。（ペイロードよりも飛行性能を優先したのは、中国海軍がJ-35に求めた役割も影響しているが、それについては後ほど説明する。）
しかしながら、推力不足を機体設計で完全に補えるわけではなく、J-35の全体的な飛行性能は、第4.5世代戦闘機と同レベルの性能となり、それは第五世代戦闘機としては物足りないものであると評されている[62]。ただし、要求性能を達成できないことは、中国海軍は当初から織り込み済みであった。J-35の本命となるエンジンは、完全新規設計の中型ターボファンエンジンWS-19（渦扇19）「黄山」であり、WS-13Eは、その実用化までのストップギャップとしての役割を果たす過渡的な存在だったのである[63]。
WS-19は、将来の第五世代戦闘機向けに開発されていたエンジンで、その推力はミリタリーで76.492kN、アフターバーナー使用時98.066〜102.970kNを目標としていた[64]。数多くの新世代の素材・構造が盛り込まれた高性能エンジンを目指したが、それゆえに開発には時間を要した。ようやく2017年頃から、地上・空中試験段階に入ったことが報じられるようになり、実用化への大きなハードルを越えたことが明らかになった。FC-31の開発が長期間にわたって足踏みを続けていたこと、そして2018年頃にJ-35/35Aの開発が認可されるに至った大きな理由の一つに、このWS-19の開発遅延と、2017年頃に開発の目途が付くようになったことが影響していると見られている[65]。
中国初のステルス戦闘機であるJ-20も、本命エンジンであるWS-15ターボファンエンジンの実用化には長い時間を要したことから、開発・初期量産段階ではロシア製AL-31F M1/M2を搭載して試験飛行を進め、次の段階では量産体制が構築されていた国産のWS-10Cを採用することで、WS-15の熟成を待ちながら、J-20の開発と量産化を実現したという経緯が存在する[66]。これは、アメリカが先行するF-22やF-35に対抗するためにはステルス戦闘機の実用化が急務であり、新型エンジンの熟成を待っていては、ただでさえ大きな戦力差をさらに引き離されてしまいかねないという状況下での選択だった。
J-35（WS-13E搭載型）の飛行性能は、第4.5世代戦闘機と同水準に留まり、要求された超音速巡航能力も部分的にしか満たし得ないが、開発を迅速に進め、「遼寧」や「山東」といった既存空母に本機を搭載して、運用ノウハウを構築するには十分であり、運用体制を構築しておけば、WS-19の実用化に合わせて速やかにWS-19搭載J-35の配備を開始することが可能となる。J-35の配備は、このような段階を踏んで能力を向上させていく方向になるものと考えられている[67]。
【兵装】
J-35の兵器搭載量は、機内2,000kg、機外6,000kgの合計8,000kgとされる。J-35のウエポンベイは、J-20の胴体ウエポンベイ（縦4.5m未満×幅2.5m以上）に近い大きさであり、通常型のPL-15中距離空対空ミサイルであれば4発、翼折りたたみ機構を採用したPL-15Eであれば最大6発の収納が可能[68]。このウエポンベイには対地攻撃任務であれば、500kg精密誘導爆弾や超音速空対地ミサイルであれば4発、もしくは各種開発されている100kg級の小口径誘導爆弾であれば12発の搭載が可能[69]。ただし、ウエポンベイのサイズに制約されるため、対艦ミサイルや巡航ミサイル、そして長射程を誇るPL-17空対空ミサイルなどには対応しておらず、主翼下パイロンへの搭載を余儀なくされる。
主翼下には合計6箇所のパイロンを装着可能。内側の各二箇所は最大1.5tまでの積載量を有する重パイロンであり、外側の各一箇所は近距離空対空ミサイルの搭載を主とする軽パイロン。ステルス性を考慮せずに済む場合には、これらのパイロンが活用される。空対空任務の場合、J-35は最大で合計12発の空対空ミサイルを搭載することが出来る。この場合、ウエポンベイに4〜6発、主翼パイロンに合計4発のPL-15/15E、そして一番外側のパイロンにはPL-10短距離空対空ミサイル（霹靂10） 2発を搭載するものとみられている。100kg級の小口径誘導爆弾であれば機外搭載数は18発になり、ウエポンベイの12発と合わせると合計30発もの搭載が可能[70]。固定武装としての機関砲については、搭載箇所、そもそも搭載しているのかを含めて情報がない。
スタンドオフ兵器を用いた対地/対艦攻撃任務に用いられる場合は、主翼下の重パイロンに2〜4発の巡航ミサイルや空対艦ミサイルを搭載する。ただし、当面の間,、J-35は西側のステルス戦闘機や各種経空脅威に対抗するため空対空戦闘を主任務とすると見られており、対地/対水上攻撃任務については、合計12か所の機外搭載ステーションを有するJ-15（殲撃15）とJ-15T（殲撃15T）の役割となる。空対空戦闘においては、最大12発の空対空ミサイルを搭載可能なJ-15Tは、J-35の搭載弾数不足を補完する存在として、連携して空中目標に対する戦闘を行うことも可能。J-15/J-15Tは非ステルス戦闘機であり、機外搭載を前提としているのでステルス性低下を懸念することなく各種兵装を搭載した「空飛ぶ弾薬庫」として、J-35の搭載兵装の少なさを補う役割を果たす。これは米海軍のF-35CとF/A-18E/Fの役割分担と似た形となる。
J-15は、スキージャンプ発艦を前提とするSTOBAR空母（short take-off but arrested recovery：短距離発艦通常着艦）での運用においては兵器ペイロードが制約される問題があった。しかし、カタパルト運用を前提とするJ-15TとCATOBAR空母である003型空母「福建」の組み合わせが実現すれば、燃料10tと7tの兵装を満載した状態で発艦を行えるようになり、長射程スタンドオフ兵器や多数の空対空ミサイルを積んでJ-35を支援するのにますます都合が良くなる[71]。この余裕のあるペイロードを生かして、増加燃料タンクと空中給油ポッドを積んで、J-35に対して空中給油を行うのもJ-15Tの役割となる[72]。
【中国海軍がJ-35に求めている役割とは】
J-35は、アメリカのF-35へのカウンターパートとして開発された機体であり、両機はよく比較対象として語られる。ただし、艦上戦闘機という枠に限定しても、アメリカ海軍がF-35Cに求めた役割と、中国海軍がJ-35に求めた役割にはかなりの相違点があることが指摘されている[73]。
冷戦終結後のアメリカ海軍の空母戦力は、地域紛争に対する戦力手段としての運用が中心となり、実戦に投入された米海軍の艦上戦闘機も空対空任務は少なく対地攻撃手段として用いられることが大半であった。F-35Cについても、空対空、空対地、空対艦、電子戦などさまざまな任務を想定した高い多用途性能が求められた。そのステルス性は敵空域への進行において有利となる要素であり、大推力エンジンを頼りに長大な航続距離や高いペイロード搭載能力も兼ね備え、高度な探知能力と情報化された空中プラットフォームとしての役割を果たし得る機体となった。
これに対して、中国海軍がJ-35に求めた役割は米海軍とは大きく異なるものであった。本国から遠く離れた地域に対する強力な戦力投射手段である米海軍の空母戦闘群に対して、中国海軍の空母戦力は中型空母二隻に、ようやく三隻目の8万トン級空母が間もなく戦力化される段階であり、米海軍に比べてはるかに少ない戦力に留まっており、運用を想定している海域も中国本土から隔絶するほど遠くはならない。
まだ成長途上で米海軍とは比べるべくもない規模の中国空母艦隊は、まず自分が生き残るために必要な艦隊防空能力を確保することが最優先となっている。055型駆逐艦（レンハイ型）や052D型駆逐艦の大量建造もこの一環であり、これらのエリア・ディフェンス艦が担当する空域のさらに外側に防空網を構築するのが艦上戦闘機であるJ-35に求められる第一の役割とされた。そのため、空対空戦闘を最優先として、空対地、空対艦能力は空対空能力を第一として付帯的に加えられる要素というのがJ-35に求められた性能であった[74]。
艦隊防空任務に対して重点を置くために求められたのが超音速巡航能力の獲得、高い機動性の実現、空対空戦闘能力の最優先といった要求として形になった。要求が異なるがゆえに、J-35はF-35Cほどの多用途性能や航続距離・ペイロード搭載量は求められず、現状入手できるエンジン推力の限界も相まって、機内容積の不利を理解した上で、空力的な洗練の方を選択する結果となったのである[75]。
ただし、この情況は過渡的な措置であることも認識しておく必要がある。J-35にとって本命となるWS-19ターボファンエンジンが実用化すれば、その合計推力は196.132〜205.94kNとF-35Cを上回るものになり、本格的な超音速巡航性能をはじめとする第五世代戦闘機にふさわしい高い飛行性能を実現し、空対空、空対地、空対艦の各方面でその攻撃能力を向上させるであろう。
WS-13Eを搭載したJ-35初期生産型は、まず現役の航空母艦である001型空母「遼寧」、002型空母「山東」で搭乗員の訓練と空母での運用を開始するだろう。両艦ともに、スキージャンプ甲板による発艦と通常着陸を前提としたSTOBAR式空母であるため、カタパルトを搭載するCATOBAR式空母に比べると、連続発艦速度や発艦時の最大重量において制約があるのは否めない。しかし、中国海軍が当面J-35に求めている艦隊防空任務であれば、搭載ペイロードの問題が正面化するリスクは少ないだろう。
そして、中国初のCATOBAR航空母艦である003型空母「福建」が就役すれば、J-35はJ-15T共に同艦の航空隊に配属され、搭載ペイロードの制約から解放された運用が可能となる。中国海軍ではこれまで回転翼AEW機を用いて洋上での早期警戒を行っていたが、ヘリコプターという機種自体の制約から固定翼AEW&C機による早期警戒管制体制に比べると、その能力には限度があった。しかし、カタパルト発艦を行う「福建」では、固定翼AEW&C機であるKJ-600（空警600）艦上早期警戒管制機の配備・運用も行われると見られているため、中国空軍の支援が届かない外洋においてもKJ-600とJ-35/J-15Tの組み合わせによる早期警戒、迎撃体制を構築することが可能となる。
そして本命エンジンであるWS-19搭載型が実用化に漕ぎ着ければ、J-35は第五世代戦闘機としての性能をフルに発揮する準備が整うことになり、2030年頃にはJ-35が中国海軍空母艦載機群の主力戦闘機となると見られている[76]。
【参考資料】
[1]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭5〜8頁、26〜38頁。银河「海空新霸主—浅谈中国新一代隐身舰载战斗」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭8〜9頁、16〜26頁。
[2]捜狐「总设计师官宣：歼-15和歼-35两型飞机都会上航母！」（每日经济新闻/2024年11月12日）https://www.sohu.com/a/826083080_115362
[3]马立华「奋飞新时代—中国空军第二款隐身战斗揆」『兵工科技�甦�2024年珠海航展专辑（上）（兵工科技杂志社/2024年）41〜48頁。：41頁
[4]马立华「奋飞新时代—中国空军第二款隐身战斗揆」『兵工科技�甦�2024年珠海航展专辑（上）（兵工科技杂志社/2024年）41〜48頁。：42頁
[5]马立华「奋飞新时代—中国空军第二款隐身战斗揆」『兵工科技�甦�2024年珠海航展专辑（上）（兵工科技杂志社/2024年）41〜48頁。：42頁
[6]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭5〜8頁、26〜38頁。：29〜30頁
[7]网易「“歼10双发版”下马成就了歼20，那歼10J舰载机版，又为何下马？」（来源: ��蔚/2021年11月29日）https://www.163.com/dy/article/GPVOCOTI0552PK5K.ht...
[8]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭5〜8頁、26〜38頁。：30頁
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[10]马立华「奋飞新时代—中国空军第二款隐身战斗揆」『兵工科技�甦�2024年珠海航展专辑（上）（兵工科技杂志社/2024年）41〜48頁。：42頁
[11]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭5〜8頁、26〜38頁。：29頁
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[14]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭5〜8頁、26〜38頁。：29頁
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[16]Chinese Military Aviation「J-35/31/FC-31 Gyrfalcon」 http://chinese-military-aviation.blogspot.com/
[17]青木謙知「瀋陽飛機工業集団 SAC 殲撃31 鶻鷹 Jianji 31 Gyrfalcon」『戦闘機年鑑2023-2024』（イカロス出版/2023年5月25日）217頁。银河「从F-35看中国第五代隐身舰载战斗机」『舰载武器』2018.08/No.295（中国船舶集团有限公司）5〜8、10〜37頁。：32頁
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[20]银河「海空新霸主—浅谈中国新一代隐身舰载战斗」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭8〜9頁、16〜26頁。：21頁
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[24]手机新浪网「歼-31的前轮为什么是双轮胎的？这里告诉你原因」（2018年7月8日）https://jmqmil.sina.cn/spider2/doc-ihezpzwt2627610...
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[28]The War Zone「China’s New Carrier-Capable Stealth Fighter’s Canopy Is Its Most Intriguing Feature」（TYLER ROGOWAY/2021年12月1日）https://www.twz.com/43323/chinas-new-carrier-capab...
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[30]Chinese Military Aviation「J-35/31/FC-31 Gyrfalcon」 http://chinese-military-aviation.blogspot.com/
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[33]银河「海空新霸主—浅谈中国新一代隐身舰载战斗」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭8〜9頁、16〜26頁。：21頁
[34]青木謙知「「J-35A「J-15T」、謎の「J-XX」「J-36」続々と登場！中国の第五／第六世代戦闘機—中国の次世代ステルス戦闘機の正体を推理する」『軍事研究』2025年4月号（（株）ジャパン・ミリタリー・レビュー）52〜65頁。：57頁
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[36]银河「海空新霸主—浅谈中国新一代隐身舰载战斗」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭8〜9頁、16〜26頁。：22頁
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[38]青木謙知「アメリカ空軍のマルチ戦闘機F-35AライトニングII」『軍事研究 2018年11月別冊 米中ロの最新主力戦闘機』（Japan Military Review/2018年11月1日）42〜49頁。：45〜47頁。青木謙知「ロッキードマーチン F-35A ライトニングII F-35A Lightning II」『戦闘機年鑑2023-2024』（イカロス出版/2023年5月25日）20〜23頁。：20頁
[39]银河「海空新霸主—浅谈中国新一代隐身舰载战斗」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭8〜9頁、16〜26頁。：22〜23頁
[40]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：34頁
[41]Chinese Military Aviation「J-35A Gyrfalcon」「J-20 Mighty Dragon/Fagin」 http://chinese-military-aviation.blogspot.com/
[42]银河「海空新霸主—浅谈中国新一代隐身舰载战斗」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭8〜9頁、16〜26頁。：23頁
[43]青木謙知「アメリカ空軍のマルチ戦闘機F-35AライトニングII」『軍事研究 2018年11月別冊 米中ロの最深主力戦闘機』（Japan Military Review/2018年11月1日）42〜49頁。：45〜47頁
[44]银河「海空新霸主—浅谈中国新一代隐身舰载战斗」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）巻頭8〜9頁、16〜26頁。：23頁
[45]吴喜川「歼-35A、歼-20、苏-57三款五代机齐聚中国航展—访西北工业大学航空院王正平教授」『兵工科技�甦�2024年珠海航展专辑（上）（兵工科技杂志社/2024年）17〜24頁。：20〜21頁
[46]吴喜川「歼-35A、歼-20、苏-57三款五代机齐聚中国航展—访西北工业大学航空院王正平教授」『兵工科技�甦�2024年珠海航展专辑（上）（兵工科技杂志社/2024年）17〜24頁。：21頁
[47]马立华「奋飞新时代—中国空军第二款隐身战斗揆」『兵工科技�甦�2024年珠海航展专辑（上）』（兵工科技杂志社/2024年）41〜48頁。：46頁
[48]百度「专访歼-35A首席专家王永庆 看国之重器如何铸就？」（东北新闻网/2024年11月15日）https://baijiahao.baidu.com/s?id=18157410834016182...
[49]本段落の低視認性対策の描写は、河津幸英『図説米中軍事対決』（三修社/2014年）のF-22戦闘機の低視認性確保対策の記載（190〜19頁）を参照して作成した。
[50]The War Zone「China’s New Carrier-Capable Stealth Fighter’s Canopy Is Its Most Intriguing Feature」（TYLER ROGOWAY/2021年12月1日）https://www.twz.com/43323/chinas-new-carrier-capab...
[51]The War Zone「Our Best Look Yet At China’s J-35 Carrier-Capable Stealth Fighter」（TYLER ROGOWAY/2022年7月21日）https://www.twz.com/our-best-look-yet-at-chinas-j-...
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[53]青木謙知「「J-35A「J-15T」、謎の「J-XX」「J-36」続々と登場！中国の第五／第六世代戦闘機—中国の次世代ステルス戦闘機の正体を推理する」『軍事研究』2025年4月号（（株）ジャパン・ミリタリー・レビュー）52〜65頁。：60〜61頁
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[55]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：8、28頁。青木謙知「「J-35A「J-15T」、謎の「J-XX」「J-36」続々と登場！中国の第五／第六世代戦闘機—中国の次世代ステルス戦闘機の正体を推理する」『軍事研究』2025年4月号（（株）ジャパン・ミリタリー・レビュー）52〜65頁。：59頁
[56]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：8、33頁。青木謙知「「J-35A「J-15T」、謎の「J-XX」「J-36」続々と登場！中国の第五／第六世代戦闘機—中国の次世代ステルス戦闘機の正体を推理する」『軍事研究』2025年4月号（（株）ジャパン・ミリタリー・レビュー）52〜65頁。：59頁
[57]Chinese Military Aviation「J-35/31/FC-31 Gyrfalcon」 http://chinese-military-aviation.blogspot.com/ 青木謙知「「J-35A「J-15T」、謎の「J-XX」「J-36」続々と登場！中国の第五／第六世代戦闘機—中国の次世代ステルス戦闘機の正体を推理する」『軍事研究』2025年4月号（（株）ジャパン・ミリタリー・レビュー）52〜65頁。：58〜59頁。The War Zone「Our Best Look Yet At China’s J-35 Carrier-Capable Stealth Fighter」（TYLER ROGOWAY/2022年7月21日）https://www.twz.com/our-best-look-yet-at-chinas-j-...
[58]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：33頁
[59]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：31頁
[69]青木謙知「ロッキードマーチン F-35C ライトニング�� F-35C Lightning �供廖慇鐺�機年鑑2023-2024』（イカロス出版/2023年5月25日）27頁。
[61]银河「从F-35看中国第五代隐身舰载战斗机」『舰载武器』2018.08/No.295（中国船舶集团有限公司）5〜8、32〜33頁。：31〜33頁。银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：33頁
[62]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：8頁
[63]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：34頁
[64]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：34頁
[65]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：34頁
[66]Chinese Military Aviation「J-20 Mighty Dragon/Fagin」https://chinese-military-aviation.blogspot.com/
[67]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁：34頁
[68]银河「从F-35看中国第五代隐身舰载战斗机」『舰载武器』2018.08/No.295（中国船舶集团有限公司）5〜8、10〜37頁：32頁。银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：35頁
[69]青木謙知「「J-35A「J-15T」、謎の「J-XX」「J-36」続々と登場！中国の第五／第六世代戦闘機—中国の次世代ステルス戦闘機の正体を推理する」『軍事研究』2025年4月号（（株）ジャパン・ミリタリー・レビュー）52〜65頁。：62頁。知乎「歼35再度现身，标准涂装加隐身涂层，锯齿状喷管或是矢量发动机」（河东三叔/2022年5月23日） https://zhuanlan.zhihu.com/p/518346078
[70]知乎「歼35再度现身，标准涂装加隐身涂层，锯齿状喷管或是矢量发动机」（河东三叔/2022年5月23日） https://zhuanlan.zhihu.com/p/518346078
[71]天一「从第十五届中国航展看中国海军舰载航空兵新发展」『舰载武器』』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）13〜25頁。：15〜17頁
[72]天一「从第十五届中国航展看中国海军舰载航空兵新发展」『舰载武器』』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）13〜25頁。：22〜24頁
[73]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：32〜38頁
[74]吴喜川「歼-35A、歼-20、苏-57三款五代机齐聚中国航展—访西北工业大学航空院王正平教授」『兵工科技�甦�2024年珠海航展专辑（上）（兵工科技杂志社/2024年）17〜29頁。：20頁
[75]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：32頁
[76]银河「谇火-中国海军舰载战斗机的技术积累与性能选代（下部）」『舰载武器』2024.12/No.447（中国船舶集团有限公司）26〜38頁。：38頁
【関連項目】
J-35A戦闘機（殲撃35A）
002型空母「山東」
001型空母「遼寧」
FC-31戦闘機「鶻鷹」（J-31/殲撃31）
次世代戦闘機
J-20（殲撃20/J-XX/718工程）
中国空軍
中国海軍