日本の周辺国が装備する兵器のデータベース

▼JL-8(L-11/K-8J)「雄鷹」



▼パキスタン空軍のK-8「カラコルム」



▼エジプトでライセンス生産されるK-8E。記念式典の写真


▼スーダン空軍のK-8。ガンポッドとロケット弾発射機を装備しているのが見て取れる


性能緒元
空虚重量2,757kg(K-8)/2,910kg(JL-8)
最大離陸重量4,204kg(K-8)/3970kg(JL-8)
全長9.63m
全幅11.60m
全高4.21m
エンジン(K-8)ギャレットTFE731-2A-2A×1(1,633kg)
(JL-8)プログレスAI-25TLK×1(1,720kg)
(L-11)南方航空動力公司WS-11(渦扇11)×1(1,720kg)
最大速度807km/h
フェリー航続距離2,140km
上昇限度13,600m
機内燃料1,780kg
最大外部搭載量934kg
ハードポイント5(胴体1+主翼4)
武装R550空対空ミサイル(パキスタンのK-8P)×2
 PL-7空対空ミサイル(JL-8)×2
 PL-5空対空ミサイル(JL-8)×2
 23mm機関砲ポッド×1
 250kg爆弾
 ロケット弾ポッド
乗員2名

K-8「カラコルム」は中国の南昌飛機製造公司(NAMC。現在の洪都航空工業集団(HAIG))とパキスタン航空複合企業体(PAC)が共同開発したジェット練習機。中国空軍では教練-8(JL-8)の制式名称が付与されている。最近、HAIGは自社の航空機の命名基準の変更を行い、K-8/JL-8に対して「雄鷹」のニックネームを与えている。

【開発経緯】
1970年代までの中国空軍のパイロット養成システムでは、初教-5や初教-6といったレシプロ機で初等〜中等訓練(の一部)を実施した後、戦闘機や爆撃機の複座型を使用して中等〜高等練習を行う体制をとってきた[3]。しかし、JJ-5(J-5の複座型)やJJ-6(J-6の複座型)などの戦闘機転用練習機は中〜高等練習機としては過剰ともいえる性能であり、初等訓練(レシプロ練習機)との性能差が大きいため、スムーズな訓練移行が必ずしも出来ないという難点があった。中国でもジェット練習機の開発は行われていたが、実用化には漕ぎ着けられなかった。

中国空軍は1970年代に訓練体系の見直しを行い、レシプロ練習機での訓練の後、ジェット練習機での訓練課程を挟んで、戦闘機や爆撃機の複座型での訓練に移行する構想を立案し、1974年に512廠(後に320廠と合併してNAMCとなる。)に新型ジェット初等練習機「初教7(CJ-7)」の開発を命じた。CJ-7は、直線翼に単発エンジン(渦噴10/WP-10。推力は通常1,100kg、A/B1,320kg)の複座練習機であり、機体規模や形状はチェコスロバキアが開発したアエロL-29デルフィンに似ていた。CJ-7の開発は、文化大革命の混乱もあって順調には進まず、512廠と320廠の合併による組織の混乱も開発遅延に拍車をかける事となった。結局、1970年代末に行われた航空機開発計画の再検討により、CJ-7は早期の開発の目処が立たないと判断され、開発は中断される事が決定された[3]。

CJ-7の開発は中断される事になったが、NAMCは同機の開発で得たノウハウを元にしてジェット練習機の研究を継続していた。1982年には、新しいジェット練習機の開発案が石屏技師を方案組組長として作成された。この開発案は、世界各国のジェット練習機の趨勢を分析し、そこに中国空軍の置かれた状況を加味して考え出された機体で、コンセプトとしては「訓練効率向上、訓練費用低減(原文は提高訓練効率、降低訓練費用)」を両立させるという物であった[3]。

ただし、当時の中国は改革開放が緒に就いたばかりであり、軍事部門でも経済成長優先のため兵器開発計画の多くが中断される状況にあり、練習機開発のための充分な資金を政府が支出することは困難であった。NAMCは、この問題を解決するために、この開発案を各国に宣伝して、開発資金を分担してもらえる開発パートナーを募集するという手法を採用した。これは、1980年代の中国の軍需産業で広く行われた手法であった。中国当局は軍需産業に対して、国内装備需要の落ち込みを補填するために軍需産業の経営裁量権の範囲を拡大し、各企業が自主的に資金調達や兵器輸出を行う事を可能とした。このような状況下で、外国市場をターゲットとした輸出用装備を企画提案して、その装備の調達を希望する国との間で共同開発を行うことで開発資金を補填するという新しい開発形態が登場する事となった。こうして開発された兵器には、パキスタンとの共同開発である90-II式戦車(MBT-2000/アル・ハーリド)、パキスタンに加えてアメリカ企業も参加したスーパー7戦闘機(後のFC-1/JF-17)等がある。外国パートナーから得られる技術やノウハウは、国際的孤立の状況において立ち遅れていた中国国防産業にとって貴重な技術的資産となった。

NAMCがパートナーとしたのは、中国と政治的軍事的に深い関係を有してきたパキスタンであった。1980年代、パキスタンはアメリカから高性能なF-16A/B戦闘機の調達を開始していたが、従来同国空軍が使用していたT-33・T-37練習機ではF-16との性能差が大きく、乗員訓練に問題が生じており、新世代の中等練習機を必要とする需要があった。パキスタンとNAMC・中国航空技術進出口総公司(中国の航空機輸出入を掌る企業。略称CATIC。)は、1986年8月に中等ジェット練習機開発に関する協定に調印した。この協定では、中国側が開発費の75%、パキスタン側が開発費の25%を負担する事が取り決められた(後にパキスタンは負担額を45%に増加)。開発される練習機の名称としては、両国国境地帯にあるカラコルム山脈にちなんで「Karakoram-8」(K-8)と命名された[3][4]。機体の組み立ては中国で行うが、パキスタンも一部のコンポーネントの製造を担当する事とされた。(最初のパキスタン製の部品が製造されるのは1999年からとなった。)

K-8の開発作業は、1987年6月に開始。開発主任には開発案を纏めた石屏技師が就任した。NAMCでは3年以内に試作機を製造し飛行試験に漕ぎ着ける事を目標として掲げた。同年9月にK-8の開発項目の策定が行われ、K-8は全ての初頭・中等練習機に求められる訓練項目を実施する事が可能で、高等練習機の訓練項目の一部も実施可能な能力を確保する事とされた。具多的には、J-6戦闘機、A-5攻撃機、ミラージュIII/V戦闘機などにはK-8の訓練終了後直ちに機種転換が可能であり、F-16やミラージュ2000など第3世代戦闘機についても複座戦闘機による短期間の訓練を経て機種転換を行い得る事が求められた。その他の要求項目としては、速度域165〜800km/h、海面上昇率30m/s、運動性能は持続4G、ゼロゼロ式射出座席の装備、ある程度の対地、対空戦闘能力を保持する事などが決定された[3]。

K-8は国際市場への売込みを前提として、西側諸国のジェット練習機と遜色のない性能を達成する事が求められた。これによって設計作業では、国際的に通用する設計水準を確保すると共に、各国で広く採用されているコンポーネントを導入する事で輸出市場における商品価値を高める事が目指された。NAMCでは、当時良好な関係を有していた西側諸国から各種装備を導入する事で、この問題に対処した。K-8は、エンジン(ギャレット・エアリサーチ)、アビオニクス(ロックウェル・コリンズとアライド・シグナル)、空調システム(エアリサーチ)、射出座席(マーチンベイカー)など主要コンポーネントの多く外国製で固める事となった。これは、永らく西側機の運用を行ってきたパキスタンにとっても望ましい事であった[3][4]。

試作機5機(飛行試験に使用する3機+静強度試験に使用する2機)の製造が1989年1月からNAMCによって開始された。飛行試験に供される機体には、アメリカから調達したギャレットTFE731-2A-2Aターボファンエンジンが搭載された。同年6月4日に発生した第二次天安門事件を受けて、アメリカは中国に対する兵器輸出規制を発動したが、K-8のコンポーネントは民間向けの名目とする事で何とか輸入を継続できた。ただし、アメリカ企業からの情報提供が得られ難くなったため、トラブルが発生した際に自力解決を迫られる事がまま発生したとの事。試製初号機は1990年11月26日に完成、1991年10月に初飛行に成功した[3][4]。1990年からはK-8を中国空軍向けに改修した機体(後のJL-8/L-11/K-8J)の開発も開始された。(JL-8の詳細については後述。)

パキスタン空軍向けの機体は1994年9月21日に最初の機体が引き渡され、1996年末までに増加試作型12機が評価試験用に同国空軍に配送された。当初の契約ではパキスタン空軍では75機のK-8を調達する事になっていた。ただし、パキスタン空軍では既存のT-37の機体寿命延長を行ったため、K-8の導入ペースは緩やかなものとなり、1999年末までに25機から30機が導入され、2003年までに40機を配備するとされた。パキスタン空軍の最終的なK-8シリーズの導入数は100機程度になると見られている。2009年1月にはアビオニクスの近代化を行った改良型K-8Pの導入が開始され、計27機が2010年10月13日までに同国空軍に納入されて[7][15]。

パキスタンへの輸出と並行して、国際市場での売込みが積極的に行われ、1999年には、エジプトが80機のK-8の導入と自国でのライセンス生産を決定した。契約総額は3億4500万ドルに達したが、これは中国の航空機輸出では最大規模の契約額であった[4]。エジプト向けのK-8は機体各部の再設計が行われ、アビオニクスの近代化やグラスコクピットの採用がなされている。エジプトでのライセンス生産のため、設計図や工作機械など15万枚に及ぶ図面が英訳された。エジプトでのK-8Eの生産は2001年から開始され2005年には80機の生産が完了したが、同年には40機の追加生産が行われる事が決定され、エジプトが導入するK-8Eの合計機数は120機となった[7][8]。エジプトは最終的に94%のコンポーネントを国産化することに成功した[13]。2010年5月26日には120機全ての生産が完了したことを記念する式典がカイロにおいて挙行された[13]。

K-8は、手ごろな性能と低価格(一機あたりの価格は1996年時点で300万〜350万ドル)、高い信頼性、低い運用コスト、良好な操縦性、世界的に定評のある西欧製コンポーネントを使用しているなどの点が評価され、上記のパキスタンとエジプト以外にも、ボリビア(6機購入の意向[10])、ガーナ(6機)、ミャンマー(12機+50機)、ナミビア(4機)、スリランカ(9機)、ザンビア(8機)、ジンバブエ(12機)、スーダン(12機)、ベネズエラ(18機)と多くの国に採用されており[1][7][12][14][15]、これは国際市場を視野に入れたK-8の設計コンセプトが成功を収めた事を示している。

K-8は、スリランカなどでは、本来の任務である練習機としての運用だけでなく爆弾やロケット弾、機関砲パックを搭載してCOIN(Counter Insurgency)任務にも投入されている。2002年には「タミル・イーラム解放の虎」による空軍基地攻撃によりスリランカ空軍の2機のK-8が地上で破壊されている[7]。

【機体性能】
K-8は単発エンジン、タンデム座席、機体側面インテーク、低翼直線翼と1980年代の中等ジェット練習機としてはごくオーソドックスなデザインだが、初等訓練から高等訓練の一部までカバーできる飛行性能と軽攻撃機としての能力も求められたため、最大設計荷重+7.33G/-3Gという高い強度が与えられているのが特徴である。機体構造は大部分がアルミニウム製だが、安定翼、垂直尾翼、フラップなどに複合材が使用されている。機体寿命は8,000時間。整備性の向上のため機体各部にアクセスパネルを設けている[3]。

K-8の機体スペックは以下の通り、機体の空虚重量は2,757kg、最大離陸重量は4,204kg。全長9.63m、全幅1.60m、全高4.21m。K-8の最高速度は、807km/h、上昇限度は高度13,000m。離陸距離440m、着陸距離530mとなっている[1]。主翼は直線翼であるが、前縁部には僅かに後退角がかかっている。主翼には左右合計4つのハードポイントが設けられており、増倉、爆弾やロケット弾発射機、偵察用ポッド、赤外線空対空ミサイルなどを搭載可能。パキスタンのK-8Pは、同国空軍で採用されている仏製R550「マジックII」赤外線空対空ミサイルの運用能力が付与されている。胴体中央部にもハードポイント1基が用意されており、23mmガンポッドなどを搭載可能。

座席はタンデム複座で、後部座席からの前方視界確保のため後席は前席より28cm高くなっている。射出座席はマーチンベイカーMk.10Lゼロゼロ式射出座席を採用している。キャノピーはツーピースの横開式で、脱出時には射出座席をぶつけてキャノピーを破砕して脱出を行う。ただし、実用後にキャノピーの破片が搭乗員を負傷させる可能性がある事が指摘された。この教訓を受けて、これ以降に中国で開発された軍用機ではキャノピー各部に少量の火薬を装填しておき、脱出時にキャノピーを爆破破砕してその後に座席を射出する形式が採用される事になった[3]。空調システムはエアリサーチECS51833を採用しており、キャノピー内部は加圧され空調が整えられている。この装置のおかげで、K-8は零下40度から52度までの気温下でも問題なく任務を遂行する事が出来る[1]。

操縦席にはロックウェル・コリンズ社製EFIS-86T計器飛行装置が採用されており多機能表示装置(MFD)2基が計器板中央に装備されている[1]。2005年にはグラスコクピット化の進んだコクピットを採用した改良型が登場しており、MFDは3基に増加、新たにHUD(Head-Up Display)、作戦用計算機、デジタルビデオレコーダー、アップフロントコントロールパネル、情報転送カードなどを装備している[1][2][8]。航法装置としては、TACAN(Tactical Air Navigaton)/無線方向探知機、および着陸誘導用のILS(Instrument Landing System)などが用意されており、顧客の要望に応じて各種オプションを選択可能。機体制御は従来型の機械式で、フライ・バイ・ワイヤのような電子式制御装置は採用されていない。

中国向けのJL-8以外の機体は全て米ギャレット社製TFE731-2A-2Aターボファンエンジン(推力1,633kg)を採用している。TFE731-2A-2AはTFE731エンジンの中国向け輸出版であり、デジタル電子制御システム(digital electronic engine controller:DEEC)を採用しておりきめ細かな推力の調整が可能。TFE731-2Aは本来、DEECよりも先進的な全自動デジタル電子制御システム(Full authority digital engine control:FADEC)を装備していたが、アメリカの対中兵器輸出規制により制御システムのダウングレードが行われた経緯がある。DEECによる細かな推力調整に加えて、大迎角でも正常に作動するエンジンの信頼性も相まって、難易度の高いアクロバット飛行を可能としている[3]。エンジン換装作業に必要な時間は58分とされる。政治的問題でアメリカ製エンジンの輸出が許可されない場合に備えて、ウクライナ製プログレスAI-25TLK(1,720kg)、もしくはAI-25TLのライセンス生産型である南方航空動力公司WS-11(渦扇11)も搭載エンジンのラインナップに加えられている[1]。

燃料タンクは、胴体に1基、左右主翼のインテグラルタンクが用意されており、合計1,780リットルの内容量を有する。さらに、ハードポイントに増倉を装備して航続距離を延伸する事が可能。機内燃料のみでの飛行時間は3時間、増倉装備時の飛行時間は4時間。

"JL-8/L-11「雄鷹」/K-8J"
【開発経緯】
中国空軍では、1980年代初頭から老朽化したJJ-5練習機を代替するジェット練習機の開発に関する検討作業を行っていた。1983年には仮称「L-8(練8)」練習機の概念案が作成され、各関係機関での検討が行われた。1986年4月、空軍副司令官の林虎はNACMの提出したL-8練習機設計案を受領した。L-8練習機はターボファンエンジンを搭載し、最高速度850km/hg、飛行時間3時間を達成する事が求められていた。ただし適当な推力のターボファンエンジンが無いことから、最高速度の要求値は800km/hに下げられた。その後NAMCでのL-8の開発は、さまざまな理由により頓挫してしまった(詳細な理由については不明)。1988年にはJJ-5の生産が終了し、中国空軍では早急にJJ-5に続く中等練習機を充当する必要が生じる事となった。

このような状況下において、中国空軍は、JJ-5の後継としてパキスタンとの共同開発機であるK-8をベースにした機体をNAMCに開発させる事を決定した。総参謀部は、この新型練習機に「JL-8(JiaoLian8/教練8)」の名称を付与した。JL-8は輸出向けには「K-8J」の名称が与えられている。

空軍の要求では、新型練習機はK-8をベースにして、K-8で多用されていた外国製コンポーネントは中国で生産調達できる物で代替する事とされた。要求では特に高い信頼性と整備性が求められた。最も大きな問題はエンジンにあった。前述のL-8練習機の開発でも問題になっていた様に、当時の中国では中等練習機用の適当な推力のターボファンエンジンが存在しなかった。この問題を解決するため、まず外国製エンジンを搭載して実用化して、その後エンジンを国産化するという方策が取られる事となった。K-8が搭載しているアメリカ製ギャレットTFE731-2A-2Aとソ連製(後ウクライナ)プログレスAI-25TLの二種類のエンジンが候補とされ、最終的には、1989年7月に北京で開催された発動機選型論証会においてAI-25TLをJL-8のエンジンとして採用する事が決定された。輸入されたAI-25TLは中国向けという事で、ロシア語で中国を表わすキタイの頭文字「K」を取ってAI-25TLKと命名されている[4]。

1991年3月には北京においてJL-8に関する総合評論会が開催され、JL-8の必要性、研究開発の流れ、主な要求項目、技術的可能性、研究期間と必要経費などについて討議が行われた。1992年2月、総参謀部と国防科学工業委員会はJL-8計画を正式に承認。同年4月には、JL-8の戦術・技術要求協議会が開催、空軍と航空産業関係者による意見交換が実施され、基本的な見解の一致を見た。5月には空軍がJL-8に関する戦術・技術要求を提示して、7月には総参謀部と国防科学工業委員会は空軍の要求項目を承認した[4]。

JL-8はK-8をベースに開発されたが、エンジン換装に伴ってインテークの設計が変更されている。またアビオニクスも国産品に換装され、機体構造や制御系統、燃料系統、電気系統、油圧系統なども設計変更が施された。機体強度の強化も要求されており、それに従って主翼、フラップ、水平尾翼や降着装置の加重限度が高められている。これらの設計変更によってJL-8は設計図の80%を改定する必要が生じ、その作業は1993年末まで行われ2万枚近い設計図が製作された[4]。

1994年1月4日、中国航空工業総公司は洪都航空工業集団に対して同年中にJL-8の初飛行を実施し、1995年には開発を完了し部隊への配備を開始する事を求めた。洪都は急ピッチで作業を進め、6月10日には試製01号機の製造を開始、9月30日には試作機の完成を見た。JL-8の試製01号機は12月23日に初飛行に成功した。同年、国防科学工業委員会はAI-25TLKターボファンエンジンを1998年までに国産化する事を決定した。AI-25TLKのリバースエンジニアリング作業は1992年8月から南方航空動力公司によって行われていた。国産化されたAI-25TLKは渦扇11(WS-11)の名称が与えられ、1995年にエンジンの作動試験が開始。1996年10月26日にはWS-11をK-8に搭載しての飛行試験が開始された。2001年10月にはWS-11の初度生産が開始され、各種試験を経て2002年3月に制式採用された[4]。量産化されたWS-11を搭載したJL-8には、AI-25TLK搭載機と区分するため「練11(L-11)」の名称が付与される事が定められた[3]。

試製01号機の飛行試験は、エンジンの空中での再始動に関する分析調整が行われた事により一時中断していたが、1995年11月には空中でのエンジン再始動に関する試験飛行を再開し12月には完了した。1997年10月にはJL-8に搭載されたAI-25TLKエンジンの評価試験が完了し、11月には設計技術審査も終了。同年12月、空軍司令部と航空工業総公司は技術評価結果を批准。1998年6月には8機のJL-8が空軍に引き渡され、空軍での部隊評価試験が開始(軍への引渡しは1996年との説もある[5])。2004年7月、JL-8の設計案は国務院と中央軍事委員会での承認を受けて、最終的にJL-8が制式化された[4]。

中国空軍ではJL-8/L-11をJJ-5に換わる中等練習機として導入を進めている。JL-8/L-11の生産予定数は400機であり既に250機以上が生産されている[5]。空軍の他、飛行学校や海軍航空隊にも配備が行われている。

【機体特性】
JL-8/L-11の基本的な機体設計はK-8のそれを踏襲しているが、前述の通り機体の80%が再設計されている[4]。主な変更箇所としては前述の通りエンジンをウクライナ製AI-25TLKターボファンエンジンに換装したほか、射出座席やアビオニクスなど西欧製の各種コンポーネントを国産に置き換えた点が挙げられる。AI-25TLKエンジンは、K-8のTFE731-2A-2Aエンジンに比べて燃焼に必要とする空気量が多く、JL-8では空気流入量を増やすためにインテーク形状の設計を変更している。JL-8のインテークは、K-8に比べて角張っており上下に長くなっている[4]。この他のJL-8の外見上の区分としては、機首上部に小型のアンテナが付加された点、K-8では垂直尾翼に装備されていた小型の安定板がなくなっている点などが挙げられる。

AI-25TKLは南方航空動力公司によってWS-11として国産化されたが、エンジン換装は思わぬ副産物をもたらす事になった。K-8が採用しているアメリカ製TFE731-2A-2Aエンジンは、デジタル電子制御システムを採用しておりきめ細かい推力の調整が可能であり、高度なアクロバット飛行を行う上で重要な役割を果たしていた。しかし、AI-25TLK/WS-11の推力制御装置にはデジタル電子制御システムは採用されておらず、TFE731-2A-2Aの様な細かな推力調整は不可能であった。これによりJL-8/L-11は、アクロバット飛行の際に、密集編隊飛行や最小半径での急旋回といった高度な演目において米製エンジンを搭載したK-8にくらべて困難が生じる事になった[3]。エンジンの推力制御システムは中国航空産業のネックの1つであり、これがJL-8/L-11の運動性を制約する要因になってしまった格好である。

JL-8/L-11は、CJ-6による初等飛行訓練を終了したパイロット候補生の訓練に使用される。JL-8/L-11を運用する部隊での評価は大変高いものがあるとされる。素直な操縦性、航続距離の長さ、後部座席からの良好な視界、基本訓練から高度なアクロバット飛行や戦術訓練まで幅広い多目的訓練に使用できる機体のポテンシャル、ターボファンエンジン採用による燃費の良さ等が特に評価されているとの事[3]。

ただし、K-8の項でも指摘されていた射出時にキャノピーの破片で負傷する可能性は中国空軍でも問題視された。また直線翼を採用した事で、後退翼のJJ-5練習機に比べて高速飛行時の訓練に支障を来たすことも指摘されている[3]。この他に、JL-8自体の問題では無いが、現代的な設計を施したJL-8での訓練を終えた訓練生が高等練習機であるJJ-6やJJ-7に機種転換する際、新型のJL-8に慣れた訓練生は旧式なJJ-6やJJ-7に慣熟するのに苦労するという話もある[3]。

中国空軍のアクロバットチームである「八一表演飛行隊」では1990年代までJJ-5練習機を使用してきたが、その後継としてK-8/JL-8を採用する事が検討された。しかし、この時点ではエンジンの国産化が出来ていなかったので外国製エンジンを使用する事で整備上の問題が生じる懸念が存在した事、アメリカ空軍のアクロバットチームである「サンダーバード」のF-16を使用した迫力ある飛行に強い印象を受けた軍幹部がアクロバットには戦闘機を使用すべきであると主張した事もあり、八一表演飛行隊でのK-8の採用は見送られ、J-7戦闘機ベースのJ-7EBが採用される結果となった[3]。

【2009年10月13日追記】
ボリビアのエヴォ・モラレス大統領は中国から6機のK-8練習機を購入する事を明らかにした[11]。大統領は、購入したK-8は麻薬密売組織への攻撃に使用されるとした。

【2010年6月23日追記】
The Irrawaddy news magazine(オンライン版)の2010年6月15日付の報道によると、ミャンマー空軍はK-8練習機50機を中国から購入したとのこと[14]。ミャンマーは既に12機のK-8を中国から輸入しているが、2009年11月にミャンマー空軍司令官のMyat Hein中将が中国を訪問して、K-8練習機の追加購入に漕ぎ着けた。これらの機体は分解された状態でミャンマー国内に運び込まれ、同国Meikhtilaにある航空機製造整備基地で組み立て作業が行われている。ミャンマー空軍の情報筋によると、K-8はパイロットの訓練とCOIN任務に使用されるとしている。

【派生型一覧】
K-8基本型。パキスタンとの共同開発。アメリカ製TFE731-2A-2Aエンジンを採用したほか、コンポーネントの多くを欧米製とする。
K-8EK-8のエジプト空軍型。機体各部の再設計やグラスコクピット化などの近代化が施されている。エジプトでのライセンス生産が行われる。
K-8J中国空軍に採用されたK-8。空軍の制式名称は教練8(JL-8)。エンジンをウクライナ製AI-25TLKに換装し、欧米製コンポーネントを中国製に置き換えている。
練11(L-11)JL-8のエンジンをAI-25TLKの中国生産版WS-11に換装したもの。中国空軍向け生産の主力となる。「雄鷹」のニックネームが与えられている。
K-8Pパキスタン空軍向けのK-8近代化型。アビオニクス改良やグラスコクピット化が施されている。K-8Pはパキスタン空軍の他、ガーナ空軍でも採用。
K-8V IFSTAK-8をベースにして次世代戦闘機に必要な機体制御システムのテストベッドとして開発された機体。操縦系統にフライ・バイ・ワイヤ、エンジン推力のデジタル制御システムを採用。電子機器によって機体姿勢の制御を行い、プログラムに応じて各種飛行動作を再現できる。IFSTAとはIntegrated Flight Test Simulate Aircraftの略称。中国語では総合飛行測試模擬飛機。1997年6月に初飛行[8][9]。
K-8Wベネズエラ空軍型。2010年3月13日から9月24日までに18機が納入された[15][16]。

【参考資料】
[1]Jane's All the World’s Aircraft 2007-2008(Jane's Information Group)
[2]Chinese Aircraft:China's Aviation Industry Since 1951(Yefim Gordon & Dmitriy Komissarov著/Hikoki Pubns出版/2008)
[3]恒岳/紅雲「鋳翼-中国空軍訓練作戦体系探求」(『航空档案』2006年第10期/航空档案雑誌社)
[4]李韶華「人丁興旺的“雄鷹”家族-K-8系列教練機的研制與発展過程(下)」(『航空档案』2008年第5期/航空档案雑誌社)
[5]田辺義明「最新・中国航空・軍事トピック-練習機の「三銃士」」(『航空ファン』2008年12月号/文林堂)
[6]Chinese Defence Today
[7]Chinese Military Aviation「JL-8/K-8 Karakorum/Mighty Eagle」
[8]空軍世界「中国/巴基斯坦聨合研制 教練8、K-8、”喀拉昆侖”噴気式初級教練機」
[9]鼎盛軍事「鮮為人知的中国両代変穏機」
[10]ASIAN DEFENCE「Bolivia buys six K-8 jet trainers」(2009年10月2日)
[11]ロイター通信「Bolivia to buy Chinese jets to battle drugs」(2009年10月10日)
[12]中華網「中国軍機扎根美国後院:委内瑞拉K8服役」(2010年2月11日)
[13]新浪網「中埃合作生産120架K-8E教練機完成合約」(2010年5月26日)
[14]The Irrawaddy news magazine(オンライン版)「Burma Buys 50 Fighter Jets From China」(2010年6月15日)
[15]中華網「洪都1月内交付23架K-8 创历史纪录」(2010年10月19日)
[16]環球網「委内瑞拉接收首批中国K-8W教练机 可挂空地导弹」(2010年3月16日)

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