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S-300PMU地対空ミサイル・システム(SA-10B/C Grumble)は、ソ連/ロシアのアルマズ設計局が開発した高高度・長射程地対空ミサイル・システムである[1]。

中国は中ソ関係改善後の1993年、ロシアから32基のS-300PMUを輸入[2]。それまでの中国空軍防空部隊の主力地対空ミサイルはソ連のS-75(SA-2 ガイドライン/Guideline)の流れをくむHQ-2(紅旗2型)であったが、改良を重ねていたものの旧式化は否めなかった。S-300PMUは、中国空軍防空部隊にとって最新の長距離地対空ミサイル・システムであり、本システムの導入は中国の防空システム近代化における画期であると評価されている[2]。

S-300PMU自体の追加調達は行われなかったが、21世紀に入ると中国は改良型であるS-300PMU1とS-300PMU2を多数調達し、防空システムの大幅な強化が実現することになる[2]。S-300PMUは技術的にも中国に大きなインパクトを与え、1980年代から開発が進められていたHQ-9地対空ミサイル・システムの設計に強い影響を与えることになる。

【S-300PMU】
S-300PMUは、S-300Pシリーズ初の輸出型で、1989年にその存在が公にされ、1992年に開発を完了した。ベースとなったのはソ連軍で運用されていたS-300PS/S-300PMで、1992年に開発を完了した[3]。S-300PM/PUMシリーズは、それ以前のソ連地対空ミサイル(S-75やS-200など)と比較すると、ミサイル発射機、各種レーダーの多くが車輛牽引や自走化されており、機動展開能力の向上が図られているのが特徴[4]。これは、地対空ミサイル・システムの生存性向上には、迅速な陣地転換により敵の防空制圧作戦から逃れることが鍵であるとするヴェトナム戦争や中東戦争の戦訓を反映したもの[4]。

【システム構成】
S-300PMUは、5V55R/5V55RUD地対空ミサイル、対空ミサイル・システム90Zh6(指揮車輛、捜索レーダー、火器管制レーダーシステム、自走発射機など各種システムを一括した呼称)、整備支援車両によって構成される[4]。以下、主なシステム構成要素について説明を行う。

仝0式ミサイル発射機5P85TE
S-300PSではMAZ-7910八輪TEL車輛のシャーシに4連装発射機を搭載し、より高い野外機動性を発揮していたが、S-300PMUでは調達費削減のため、MAZ-7910八輪TEL車輛に加えて、KrAZ-260B野戦トラックによる牽引方式も採用された[3]。ユーザーの要望でどちらを選択することも可能で、MAZ-7910をシャーシとしたタイプは5P85SU /5P85DU(輸出版)、牽引式ミサイル発射機の場合は5P85TE(Eは輸出版に付与される記号。以下の型式名でも同様)という型式名が付与される[3][5][6]。

S-300PMUの5P85TE牽引式ミサイル発射機(輸出用名称)は、KrAZ-260B重野戦トラックで牽引される。4連装発射機は通常は水平状態で、発射の際には垂直にされる。発射機からの打ち上げ後にロケットモーターに点火するコールドローンチ発射方式が採用され、ミサイルはモーター作動後に目標方向に施行される[4]。垂直発射方式は、発射機を目標の方向に旋回させてミサイルを打ち上げる従来の方式と比較すると、ミサイル発射機を一々目標に指向させずに発射することができるので、より迅速なミサイルの発射が可能となる。発射機はミサイルの収納筒を兼ねており、10年間のメンテナンスフリーが保証されている[4]。

地対空ミサイル5V55R/5V55RUD
S-300PMUで使用される、5V55Rミサイルは、戦術航空機、戦略航空機、巡航ミサイルなどを主目標とし、弾道ミサイルや誘導弾の迎撃も可能とされる[4]。誘導方式は無線指令誘導[5]。全長7m、直径0.5m、弾頭重量100kgで、射程5〜70km、高度25〜25,000mまでの目標の迎撃が可能[4][6]。改良型の5V55RUDは、最大射程90km、最大射高27,000mに能力を向上させている[6]。ミサイルの誘導はTVM(Track Via Missile)方式が採用された[7]。TVMとは、セミアクティブ・レーダー誘導方式と無線指令誘導の利点を合わせたような誘導方式で、地上の射撃指揮レーダーから照射されたレーダー波の反射波をミサイルが受信、その情報をレーダーに送信、地上で諸元算出を行い、それをもとに地上からミサイルに誘導指令を送って目標に向けて制御する方法[8]。TVM方式は、諸元計算は地上で行うのでミサイル自体に高性能な計算機を搭載する必要はなく重量を軽減でき、通常のセミアクティブ・レーダー誘導方式や無線指令誘導と比較すると命中精度とジャミングに対する高い抗湛性を確保されているとされ、アメリカのパトリオット地対空ミサイル・システム(PAC-1/PAC-2)でも採用されている[8]。

30N6E射撃指揮フェイズド・アレイ・レーダー/ミサイル射撃指揮車5N63SE
S-300PMUのミサイルの誘導を行う30N6E射撃指揮フェイズド・アレイ・レーダーを搭載しているのが、ミサイル射撃指揮車5N63SEである[4]。5N63SEは、MAZ-543M重野戦トラックをベースにして製造されたF-30シャーシに30N6Eレーダー、操作要員コンテナ、計算機、停車時にも電力を確保するAPU(補助発電装置)などを搭載したもの[4]。目標の追尾とミサイルの管制誘導の両方を、5N63SEが担当する。5N63SEが搭載する30N6E射撃指揮フェイズド・アレイ・レーダーは、Sバンド三次元レーダーで、二つのフェイズド・アレイ・レーダーを貼り合わせた構造[6]。それぞれのレーダーアンテナは、各2700個の素子で構成されている[6]
。最大300kmの探知距離を有し、最大200目標を検出し、12目標を追尾、同時に6目標に対して最大12発のミサイルを指向させる同時多目標迎撃能力を備えている[4][6]。レーダーは通常、全周旋回しているが、高速目標の迎撃確率を高める際には、回転を止めてより早い処理速度、解析度、正確性を発揮させることも出来る[6]。コマンドポスト車輛や捜索警戒レーダーとの情報のやり取りは、近距離であればケーブル接続で、離れている場合は無線通信により行われる[4]。S-300PMU対空ミサイル・システム単独での情報収集だけでなく、他部隊から得た情報に基づいて目標攻撃を行うことも可能[4]。

76N6E 「Clam Sshell」低高度早期警戒レーダー車
S-300PMU対空ミサイル・システムは、多種多様な目標との交戦を想定して、複数の早期警戒レーダーをシステムに組み込んでいる。

76N6E低高度早期警戒レーダーは、低空を飛翔する小型目標、主に巡航ミサイルの探知を対象にとして開発された[9]。通常でも低空域の目標はグラウンドクラッターに紛れて探知が難しいが、76N6Eはこれに加えて強力な電子妨害環境下においても確実に巡航ミサイルを探知できることが要求された[9]。

通常、レーダーは地平線外の探知が困難な特性がある。76N6Eではこの問題に対して、レーダー自体をマストの上に乗せることで少しでも探知範囲を拡大し、特に低空域の探知領域を広げる方策を採用[10]。

レーダー全体の名称は76N6E、レーダーアンテナの名称はFA-51MU、レーダーを搭載する伸縮式マストの名称は40V6M/40V6MD[9][10]。レーダーを搭載するマストは、78フィート(約24m)の40V6Mと127フィート(約39m)の40V6MDの二種類が用意されている[9]。40V6M/40V6MDマストは油気圧伸縮式で牽引状態では短縮して横倒しにされる。牽引車輛は、MAZ-78100もしくはKrAZ-280が使用される[10]。

76N6Eは二次元レーダーで、レーダー波反射面積0.0.岼幣紊如飛行速度2,600km/hまでの目標の探知が可能[8]。高度900mを飛行する目標の場合、最大120km、高度457mだと最大93kmの距離での探知能力を有している[10]。レーダーの操作は、マニュアル式と完全自動の二種類が用意されており、ケーブルを介して最大500m離れた距離での遠隔操作が行える[9]。

76N6Eは、送信波と反射波の周波数差から距離を産出する周波数変調連続波レーダーで、低空域のグラウンドクラッターの中から目標を探知する優れた能力を備えており、電子妨害やチャフに対する高い抗湛性を有している[9]。中国は、多数のS-300PMU/PMU1/PMU2シリーズを調達したことから、76N6Eの最大の海外ユーザーとなっている[9]。

36D6/ST-68UM/5N59防空捜索レーダー「Tin Shield」
76N6Eが低空域を担当するのに対し、36D6/ST-68UM/5N59三次元防空捜索レーダーは、主に中高度〜高高度域の経空目標の捜索に使用される[5]。36D6レーダーは、5〜10秒間隔で全周旋回し-20度から+30度の俯仰角で電子ビームを照射している。捜索可能高度は90m〜46,000m、捜索距離は最大300km[5]。レーダー波反射面積0.1屬量槁犬鮑蚤175kmの距離で探知可能[11]。同時追尾可能な目標数は最大で100[11]。レーダーには敵味方識別装置が内蔵されており、同士討ちを防ぐようになっている[5]。

レーダーは6UF6もしくは40V6M台車に搭載される。台車にはレーダー捜査員が搭乗するボックスが付随している。6UF6は台車に直接レーダーアンテナを搭載しているが、40V6Mは、探知範囲拡大のため、76N6低高度早期警戒レーダーと同じく油気圧伸縮式マスト(40V6M)の頂部にレーダーアンテナを搭載している[7]。牽引車輛は、MAZ-78100もしくはKrAZ-280[7]。


上記のほかにS-300PMU地対空ミサイル・システムを構成するのは、54K6Eコマンドポスト車、ミサイル再装填車輛、データ中継車輛、自走発電車輛、交流電器配電車輛、各種補給車輛、整備車輛、自衛用火器などが存在する[4][5][6]。

【編成と運用】
S-300PMU一個射撃中隊は、牽引式ミサイル発射機5P85TE×3から構成されるミサイル小隊(ユニット名称83P6)×4個、ミサイル射撃指揮車5N63SE、76N6低高度早期警戒レーダー車、36D6/ST-68UM/5N59防空捜索レーダーを各一台備えている[4][6][12]。

S-300PMUは車輛による牽引や自走車輛化がなされており、以前の地対空ミサイルと比べると機動性が向上しているが、システム全体を展開するには広大な面積の土地を必要とするため、任意の場所に自由に展開するのは現実的ではない[13]。そのため、中国では長距離地対空ミサイル・システムを、担当する防空地域内に規格に沿ったミサイル基地を構築し、適量の射撃中隊を布陣させる方法を採っている[9]。固定陣地は、ミサイル射撃指揮車5N63SEを中心に配置して、死角を無くすため射撃指揮車を取り囲むように円陣を組んでミサイル発射機を並べる配置をとるのが一般的[14]。各車輛は防空制圧攻撃を想定して、爆風除けにコンクリートや盛土で壁を作り、抗湛性を高めている[14]。

S-300PMUは、防空ネットワークの一角を構成して、一元的な防空指揮下での対空戦闘を行うことが基本であるが、ネットワークとの接続が不可能な場合は、射撃中隊に配備された各種レーダーを用いて独自に目標を捜索、発見、迎撃を行うことも可能[4]。

【参考資料】
[1] 「PLA Area Defence Missile Systems」http://www.ausairpower.net/APA-PLA-IADS-SAMs.html
[2]河津幸英『図説 米中軍事対決』(アリアドネ企画/2014年)264頁
[3]高智「北域天空守护卫者 苏联/俄罗斯S-300/S-400地对空导弹系统(上)」『海陆空天惯性世界』193号(海陆空天惯性世界杂志社/77〜101頁)92頁
[4]Ракетная техника「Зенитно-ракетная система C-300ПС (C-300ПМУ) 」http://rbase.new-factoria.ru/missile/wobb/c300ps/c... (2019年1月20日閲覧)
[5]Air Power Australia「Almaz S-300P/PT/PS/PMU/PMU1/PMU2 Almaz-Antey S-400 Triumf SA-10/20/21 Grumble/Gargoyle」(Carlo Kopp/2003-2012)http://www.ausairpower.net/APA-Grumble-Gargoyle.ht...(2019年1月23日閲覧)
[6]Military-Today.com「S-300PMU Long-range air defense missile system」http://www.military-today.com/missiles/s300_pmu.ht... (2019年1月20日閲覧)
[7]高智「北域天空守护卫者 苏联/俄罗斯S-300/S-400地对空导弹系统(上)」『海陆空天惯性世界』193号(海陆空天惯性世界杂志社/77〜101頁)90頁
[8] 高智「北域天空守护卫者 苏联/俄罗斯S-300/S-400地对空导弹系统(上)」『海陆空天惯性世界』193号(海陆空天惯性世界杂志社/77〜101頁)80頁
[9]Air Power Australia「76N6 Clam Shell Low Altitude Acquisition Radar 5N66/5N66M/76N6/76N6E/40V6M/MD Clam Shell」(Carlo Kopp/1995-2011)http://www.ausairpower.net/clamshell.html(2019年1月23日閲覧)
[10]高智「北域天空守护卫者 苏联/俄罗斯S-300/S-400地对空导弹系统(上)」『海陆空天惯性世界』193号(海陆空天惯性世界杂志社/77〜101頁)84〜85頁
[11]高智「北域天空守护卫者 苏联/俄罗斯S-300/S-400地对空导弹系统(上)」『海陆空天惯性世界』193号(海陆空天惯性世界杂志社/77〜101頁)83〜84頁
[12]Air Power Australia「S-300P/S-400/S-500 Air Defence System Vehicles」(Carlo Kopp/2003-2012)
http://www.ausairpower.net/APA-S-300PMU-TEL-TL.htm... (2019年1月23日閲覧)
[13] 河津幸英『図説 米中軍事対決』(アリアドネ企画/2014年)274頁
[14] 河津幸英『図説 米中軍事対決』(アリアドネ企画/2014年)278〜280頁
(注:記事はHQ-9の陣地に関する記述だが、S-300の基地も同様の構築方法を用いているので記述を参照した)

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