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rglc85tj8h 2025年12月22日(月) 19:24:30履歴
Y-9Z総合電子戦機(運輸9Z/Y-9DZ/高進12/GX12)は、近年その存在が明らかになった新型電子戦機。型式名のZは、中国語の「综合」を表している[1]。2022年当時はY-9DZの名称が用いられ、中国の特殊任務機を意味する「高進(GX)シリーズ」の一機として「高進12(GX12)」の名で呼ばれる場合もある[2][3]。2025年9月3日に北京で行われた軍事パレードに同機が参加したが、その際に「Y-9Z」の名称が使用されたので、同機の型式名はY-9Zで確定したと考えられる[1]。2022年に中国航空工業集団有限公司(Aviation Industry Corporation of China:AVIC)が自社の航空機に公式愛称を命名し、Y-9Zは「雷電-9」と命名されている[5]。
Y-9Zは、Y-8CB/Y-8JB電子戦機とTu-154M/D電子情報収集/偵察機の後継として開発され、新型の電子偵察システム、情報処理システム、ECM(Electronic Countermeasure:電子対抗手段)システムといった充実したシステムを搭載した[1][4]。以前は複数の機種を用意していた電子戦任務をY-9Zに集約することが意図されており、それゆえ「総合」の型式名が与えられ、Y-9Zは中国軍で最も先進的な電子戦機として実用化された[1]。その存在が初めて明らかになったのは、2017年11月に公開された衛星写真によるものであった[4]。
Y-9Zは2022年には中国空軍での運用が確認されている[4]。2024年8月26日に長崎県五島市にある男女群島沖においてY-9Z一機が日本の領空で2分間の飛行を行い、これが中国空軍機による初の日本の領空侵犯となった[3]。
【性能】
Y-9Zは、電子偵察任務、アクティブジャミング任務、合成開口レーダー監視、通信妨害、心理作戦、ネットワーク戦能力を一体化した、様々な電子的特殊任務を遂行し得る新世代の総合電子戦機の名にふさわしい機体となっている[1][4]。その探知対象は、レーダー波、無線信号の捕捉・検知・収集・追跡において極めて高い効率性を有しており、戦場における「顺风耳(順風耳。千里眼と対になる耳の良い神の名前)[2]」と称されている[1]。
Y-9Zは、他の特殊任務機と同じくY-9輸送機をベースとして機体各部に複数の電子戦システムを搭載して開発された。
Y-9Zの電子戦装備をまとめて紹介すると、機首に特徴的な円筒形のレドームを配置して、その直後にフェアリングを置いている。そして胴体下部にカヌー型の大型フェアリングを追加して、胴体後部には機体外壁と一体化した大型のコンフォーマルアンテナを装備している。垂直尾翼頂部にアンテナが追加され、尾部にもレドームを備えており、そのほか機体各部にブレード型アンテナを多数配置している。主翼直後の胴体上部には衛星通信アンテナを内蔵したフェアリングがあり、胴体側面には心理作戦用と思われるパイプ型アンテナが設置されている[1][4]。
胴体下部のカヌー型フェアリングの中には大型のアンテナアレイが収納されているとみられ、強力なアクティブ/パッシブ式の電磁信号検出能力を備えているとみられる[1]。Tu-154M/D電子情報収集/偵察機に搭載されたSAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)と同様の装備である可能性がある。また、このフェアリングの中央部には開口部があり、光学センサーらしき装備が内蔵されていることから、Y-9Zには光学捜索能力も備わっていることが分かる。
後部胴体側面の機体外壁と一体化した大型のコンフォーマルアンテナは、2022年に配備されたY-9LG電子妨害機(運輸9LG/高進13/GX13)と非常に酷似した装備であり、同一機能を持つ同一システムである可能性が高いと判断されている[1]。このコンフォーマルアンテナは、ESM/ELINTアンテナ(ESM:Electronic Support Measures:電子支援対策/ELINT:ELectric INTelligence:電子諜報)として複数の電磁波帯域をカバーして、目標空域の奥深くまで広範囲の電子放射線を検知し、電磁信号の受信・識別・位置の特定・分析・記録を通じて電子情報の取得活動を行うと考えられる[1][4]。
Y-9Zの通信偵察システムは、現在、短波と超短波通信に使用されているほぼ全ての運用周波数帯域をカバーしている[1]。空中を飛び交う多種多様な信号を探知して、敵の音声。データ通信、ネットワークデータを監視する。Y-9Zは必要に応じて、敵の通信設備を対象とした遮断や妨害を実施して、サイバー戦場に高密度の情報戦ネットワークを構築することが可能であるとされる[1]。
Y-9Zは、高速データ処理ユニットを搭載しており、傍受した電磁信号の分類、位置の特定、脅威の度合い判定をリアルタイムで処理することができる[1]。通信衛星を用いたデータリンクと戦区指揮システムを連動させて、目標座標、信号特性などの諸元を即時にデータリンクを用いて地上指揮センターや友軍の作戦部隊に送信して、リアルタイムでの情報融合能力を備えている[1]。
【運用】
Y-9LGとY-9Zの開発と配備は、電磁領域における中国軍の戦力を大幅に向上させ、複雑な戦場において電子戦に勝利するための手段として機能する。実戦では、Y-9ZはY-9LG電子妨害機と組み合わせて運用されることになる。Y-9Zは、敵のレーダー網の中核ノードを識別・特定する役割を果たし、Y-9LGは高出力の指向性マイクロ波パルスを照射して電子的制圧と電子的妨害を行う[1]。
中国軍では輸送機ベースのY-9ZやY-9LGのような電子戦機のみならず、戦闘機ベースのJ-16D、J-15D、J-15DTといった電子戦機の開発・配備も進めている。両者の性格の相違を挙げると、Y-9LGが、大型プラットフォームに多数の捜査員と装備、装備を稼働させるだけの発電能力を備えて、前線の比較的後方に位置して、長時間の飛行を行い、様々な任務を持続的に遂行するのに対して、J-16D、J-15D/DTは脅威度の高い空域に高速で展開して深く侵入し、精密な電子攻撃/妨害を実施する。その点で、両者は競合関係にはなく、電子戦を行う上での相互補完関係にあるというべきである。
2024年に南シナ海で行われた演習では、両機が連携して仮想敵の火器管制レーダーを盲目化して、敵側の作戦データリンクをマヒさせることに成功したとされる[1]。同年に実施された中露合同演習では、Y-9LGとY-9Z総合電子戦機がコンビで参加して、Tu-95M爆撃機とH-6N爆撃機に電子支援を提供して、中露の爆撃機編隊全体をカバーする強固な電磁バリアを構築した[1]。Y-9Zは、日米両軍のレーダー信号を収集し、Y-9LGは日米両軍の早期警戒管制機や艦艇のレーダーに対する遠距離妨害をシミュレートしたと推測されている[1]。
【参考資料】
[1]观海「特殊机梯队—运-9LG雷达干扰机、运-9Z1综合电子战机」『兵工科技 纪念中国人民抗日战争暨世界反法西斯战争胜利80周年2025九三大阅兵 上册』(兵工科技杂志社/2025年9月)63-66ページ
[2]臺北戲棚「千里眼(せんりがん)と順風耳(じゅんぷうじ)」(2018年3月29日)https://www.taipeieye.com/ja/article/62/
[3]TBS NEWS DIG「中国軍用機は初 中国の「Y-9」情報収集機が長崎県沖の日本領空を侵犯 自衛隊は戦闘機を緊急発進させ警告」(2024年8月26日)https://www.youtube.com/watch?v=tiOj4IuKfsY
Yahooニュース「日本領空を初めて侵犯した中国軍機の正体は新型の特殊任務機Y-9Z」(高橋浩祐/2024年8月28日)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/2e52a2db6...
[4]Chinese Military Aviation.「Y-9Z High New 12」http://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/su...
[5]知乎「现役军机“花名”大全官宣:歼-11叫做应龙、轰-6也不全都叫做战神」(墨刃/2022年7月3日)https://zhuanlan.zhihu.com/p/536817215
【関連事項】
Y-9輸送機(運輸9)
Y-9LG電子妨害機(運輸9LG/高進13/GX13)と
中国空軍