日本の周辺国が装備する兵器のデータベース




世界中で使用されている傑作中型双発タービン・ヘリコプター、アエロスパシエル(現ユーロコプター)AS-365NドーファンII(1990年にAS-565パンサーに改称)の中国版。

AS-565は、主ローターは複合材製のスターフレックス・ヘッドに4枚ブレードを取り付け、尾部には11枚のブレードを持つフェネストロンがあるのが大きな特徴。機体構造は軽合金製。胴体形状は尾部に向かって細くなり先端にフェネストロンを装備、その上方に大きな垂直尾翼が付いている。またフェネストロンの前方には水平安定板と両端の垂直安定板がある。機内はコクピットにパイロット2名で、操縦系統は2重の油圧が組み込まれている。降着装置は前輪式の引き込み脚。車輪は前輪のみ2重になっている。燃料タンクはキャビン床下にあり、その容積は1,135L。エンジンはアリエル1C(744hp)を2基搭載。乗員は正パイロット、副パイロット、対潜オペレーターの3名。対潜装備としてはHS-12Hディッピング・ソナー、ソノブイ、MAD(磁気探知装置)、フレア・マーカーなど。機首にはORB-3203T捜索レーダーが搭載されている。ORB-3203Tは電子妨害に対する抗坦性が高い。レーダーの最大探知距離は大型艦船170km、潜水艦のシュノーケルで30kmとなっている。対潜兵装としては機体左部のパイロンに短魚雷1発の搭載が可能。

中国は1980年代初めにAS-365N1ドーファンIIの民間型を輸入して軍用ヘリに転用したが、その一部は対潜機材を搭載して対潜ヘリコプターとしての運用が行なわれた。AS-365は小型の機体であり、搭載できる対潜機材や兵装には限界があった。しかしAS-365は中国海軍にとって、対潜ヘリコプター運用のノウハウを確立するために大きな役割を果たした重要な機体であった。

1980年代にはハルピン飛機工業集団有限公司でZ-9の名称でAS-365N1ドーファンIIのライセンス生産が開始された。最初の段階では、多くの部品をフランスからの供給に頼っており実質的にノックダウン生産に近い生産形態であった。最初の機体は1982年に初飛行し、1992年1月までに50機が生産され陸・海・空軍に配備された。中国ではライセンス生産と並行してコンポーネントの国産化に努力し、その結果部品の国産化率は1992年に初飛行したZ-9Aで70パーセント、1995年に初飛行したZ-9Bでは90パーセントにまで向上することになる。Z-9シリーズは中国軍で150機以上が使用されており、海軍には救難用のZ-9、対潜用のZ-9Cが開発配備され対潜作戦や捜索救難に用いられている。Z-9Cの初飛行は1989年。

Z-9Cの機体の基本的な構造はAS-565と大差は無い。ただしエンジンは中国製の渦軸8A(WZ-8A)(734hp)2基に換装、そのほかの通信機器、航法装置、着陸用機材、レーダーなども中国製機材で代替されている。また悪天候下でも船に着艦できるよう、着艦支援装置が装備されている。乗員はパイロット、戦術コーディネーター、対潜オペレーターという編成になった。Z-9Cは機首にXバンドのKLC-1水上捜索レーダーを装備している。このレーダーによって探知された目標はデータリンク装置で母艦に送られ、母艦はそのデータを使って対艦ミサイルを発射する事ができる。レーダーの最大探知距離は大型艦船150km、小型艦船90km、潜水艦のシュノーケルで25kmとなっている。KLC-1は中国初のヘリコプター用小型多目的レーダーである。ただし搭載位置の関係上、全方位の同時探知は不可能で索敵範囲は前方60度に限られる。そのため機体を旋回させながら各方位の探知を行う必要があり、燃料消費量の増大や目標見落しの可能性の増大といった問題点を有している。対潜兵装としては機体の左右のパイロンに短魚雷1発づつ、もしくは対潜爆雷2発づつの搭載が可能となり、AS-565に比べて強化された。ただし対潜作戦は水上艦隊との共同で行うことが前提となっており、単機での潜水艦探知、攻撃能力は限定されている。

Z-9Cが搭載可能な兵装は対潜爆雷や対潜魚雷といった装備が中心で、対艦攻撃用の空対艦ミサイルの運用能力は保持していない。この点を解消するために開発されたのが、最近その存在が確認されたZ-9Dである[4]。Z-9Dは、TL-10空対艦ミサイルの運用能力が付与されており、機体左右のパイロンに合計2発のTL-10を搭載する。TL-10(天龍10)は洪都航空工業集団が開発した重量240kg、射程15kmの小型の対艦ミサイルで、搭載力の少ないヘリコプターでも運用できる様に設計されている。Z-9D自体にもASW作戦能力は付与されているが、機体重量に限界があるので対艦ミサイルを搭載して対水上艦艇戦を行う際には吊り下げソナーなどASW作戦用の装備を下ろして運用される[11]。

Z-9Dは2010年代に入ってから中国海軍に採用され、ASW作戦に従事するZ-9Cの空中援護任務に従事したり、対艦ミサイルを搭載し対水上艦艇戦を行う艦載汎用ヘリとして配備が進んでいる[11][12]。Z-9Dの機首レドームに搭載されたKLC-3B型洋上捜索レーダーは、3000t以上の水上目標なら180kmで、50t以上の小型艇でも60kmでの探知が可能[13]。中国海軍は、Z-9Dを主に台湾海軍が多数配備しているミサイル艇の制圧に用いると考えられている[11]。ミサイル艇は小型で海岸の地形を生かして潜伏が可能で、高速で接近して対艦ミサイルを発射するため運用によっては大型艦艇にとっても無視できない脅威となる。ただし、小型で十分な対空兵装や対空レーダーを搭載できないことから対空能力が脆弱である弱点を抱えており、ミサイル艇よりはるかに移動速度が速くミサイル艇の対空兵器の射程外から空対艦ミサイルにより制圧が可能なヘリコプターによる対応が有効とされる[11]。中国海軍に採用されたZ-9Dは、対艦ミサイルをTL-10より軽量なYJ-9(重量105kg、有効射程18km)に変更しミサイルの最大搭載数を4発に増加している[11]。

Z-9CはAS-565と同様にコンパクトな機体であり、その対潜能力や航続距離、搭載能力についても一定の限界がある。しかし、Z-9Cが中国海軍の標準的対潜ヘリコプターとして広く配備されたことは、中国海軍の対潜能力、索敵探知能力を大幅に改善し、中国海軍の戦術的、技術的立ち遅れを補うために大きな役割を果たすことになった。2018年末の段階で中国海軍はZ-9Cを25機、Z-9Dを11機保有している[14]。

【輸出型】
Z-9CはZ-9ECの名称で外国への輸出が図られている。2006年には、パキスタンに輸出されるF-22Pフリゲイト(ズルフィカル級)の搭載機として6機のZ-9EC対潜ヘリがパキスタン海軍で採用される事が決定した。これは、Z-9対潜型機としては初の輸出事例である。Z-9ECは、対潜兵装の他にTL-10艦対空ミサイルの運用能力も有しているとの事[6]。2009年9月30日には、最初の2機の引渡し式典が行われた[7]。2010年11月4日には2回目の引渡しが行われ2機のZ-9ECが同国海軍に受領された[10]。

Z-9ECはパキスタンの他に、2013年にはバングラデシュ(2機)、ベネズエラ(8機)の発注が報じられている[8]。

【派生型一覧】
AS-365NドーファンII980年代初めにフランスから輸入したAS-365N1ドーファンII民間型の一部に対潜機材を搭載して対潜ヘリコプターとして運用。
Z-9C中国でライセンス生産されたAS-365N1ドーファンIIの艦載対潜哨戒型。1989年に初飛行に成功。
Z-9C訓練型海軍航空隊のパイロット養成用に生産された機体[8]。海軍飛行学院で運用されている[9]。
Z-9DTL-10空対艦ミサイルの運用能力が付与された対水上艦艇能力強化型。機体左右のパイロンに合計2発のTL-10を搭載する[4][8]。中国海軍に採用されたZ-9Dは、対艦ミサイルをTL-10より軽量なYJ-9に変更しミサイルの最大搭載数を4発に増加している[11]。
Z-9ECZ-9Cの輸出型。パキスタン、バングラデシュ、ベネズエラで採用。

性能緒元(Z-9C)
重量2,302kg
全長13.46m
全幅11.94m(ローター直径)
全高3.47m
エンジン渦軸WZ-8A(734hp) ×2
最大速度305km/h
巡航速度260km/h
航続距離1,000km
ホバリング限度2,620m
武装YU-7/ET52(A244S)324mm短魚雷、対潜爆雷など
 TL-10空対艦ミサイル×2(Z-9D)
 YJ-9艦対艦ミサイル(鷹撃-9)×2〜4(Z-9D)
乗員3名

▼夜間の発着艦訓練を行うZ-9C

▼対潜魚雷を投下するZ-9C

▼TL-10対艦ミサイルを搭載したZ-9C

▼第五次アデン湾派遣護衛艦隊の052B型駆逐艦「広州」に搭載されたZ-9C。対海賊任務に備えてコクピット上部に光学/赤外線センサーが増設され、機体側面上部には特殊部隊の兵員降下用ホイストが設けられている


▼Z-9Cの着艦訓練動画。後半は夜間着艦訓練


【参考資料】
[1]別冊航空情報 世界航空機年鑑2005(酣燈社)
[2]艦載武器 2006年8月号「乗風御浪会有時-中国陸軍航空兵的発展及其在渡海登陸作戦中的作用」
[3]艦載武器 2005年7月号「飛向大洋-中国海軍艦載直昇機的発展與問題」
[4]Chinese Defence Today「Zhi-9C-D Naval Helicopter」
[5]India Defence「Pakistan Navy To Acquire Four Chinese F-22 P Frigates」
[6]新浪網「中国售巴反潜直昇機可能加装天龍-10反艦導弾」(2009年10月9日)
[7]新浪網「中国製直-9EC反潜直昇機正式交付巴基斯坦海軍」(2009年10月09日)
[8]Chinese Military Aviation「Z-9C (AS-365F) Daulphin 」「Z-9D Daulphin 」
[9]網易新聞中心「海軍飛行学院配備直9艦載型用于教学」(2010年4月14日)
[10]ONLINE - International News Network「Navy Inducts Z9EC helicopters, EW Jet Aircraft 」
[11]兵工科技公式WeChat「这款国产直升机可挂载4枚反舰导弹,将成为小型水面舰艇的克星」(西安兵工科技杂志社/2019年1月5日)https://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MzA5MTk4MTI1OA==&...(2019年1月9日閲覧)
[12]新浪網「中俄反潜演习:中国护卫舰为何能指挥俄军万吨巨舰」(2017年9月20日)http://mil.news.sina.com.cn/china/2017-09-20/doc-i...(2019年1月9日閲覧)
[13]新浪網「瞄准蔡小姐的沱江舰!中国直9D的雷达性能逆天」http://slide.mil.news.sina.com.cn/h/slide_8_203_49...(2017年4月10日) (2019年1月9日閲覧)
[14]「写真特集 今日の中国軍艦」『世界の艦船』2019年2月号(海人社/21〜51ページ)40ページ

【関連項目】
Z-9輸送ヘリコプター(直昇9/AS-365N1ドーファンII)

中国海軍

amazon

▼特集:自衛隊機vs中国機▼


▼特集:中国の海軍力▼


▼特集:中国海軍▼


▼中国巡航ミサイル▼


























































メンバーのみ編集できます