日本周辺国の軍事兵器 - 「翼竜-I」型無人偵察・攻撃機

▼兵器ショーで展示された「翼竜-I」の模型



▼「翼竜-I」の試作機

▼空対地ミサイルを発射する「翼竜-I」

▼通信衛星や別の「翼竜-I」を経由して管制ステーションとの間の連絡を行う「翼竜-I」


性能緒元
最大離陸重量1,100kg
全長9.054m
翼幅14m
エンジンレシプロエンジン×1
最大速度280km/h
上昇限度5,000m
航続距離4,000km
連続飛行時間20時間
燃料搭載量350リットル
作戦ペイロード200kg(センサー100kg/兵装100kg)
兵装「蒼狼」レーザー誘導空対地ミサイル×2
兵装「藍箭-7」レーザー誘導空対地ミサイル×2
兵装「藍箭-9」レーザー誘導空対地ミサイル×4
  TY-90赤外線誘導空対空ミサイル(天燕90)×2〜4
  爆弾や非致死性兵器など

「翼竜-I(YL-I)」型無人偵察・攻撃機は、成都飛機工業集団公司が輸出向けに自主開発した「翼竜」無人偵察・攻撃機の発展型。対地攻撃能力を有するタイプを「翼竜-IA(YL-IA)」型と呼称する場合もある[7]。同機は2009年6月に輸出許可を交付されている[1]。成都飛機工業集団公司と北方工業集団公司(NORINCO)によって中東諸国を中心に売込みが進められ、これまでにアラブ首長国連邦、エジプト、カザフスタン、サウジアラビアへの輸出に成功している[6]。中国空軍でも採用され、「攻撃-I(GJ-I)」の制式名称を付与された[7]。2014年に開催された「和平使命2014」軍事演習において、高地での偵察任務と、発見した「敵」指揮車両に対する実弾攻撃訓練を実施してその性能を内外に披露している[7]。

【性能】
「翼竜-I」は、搭載された電子光学/赤外線センサーを使用して偵察、測量、監視任務を遂行し、必要に応じて兵装を搭載して対地攻撃を行うことが想定されている。また、ECM任務、戦場監視、対テロ作戦、国境警備などにも使用可能[1]。

前型の「翼竜」無人偵察・攻撃機では、降着装置は固定式で観測センサーは胴体下部の旋回式ターレットのみであったが、「翼竜-I」型では、機首上部に新たに合成開孔レーダーが搭載され、降着装置は引き込み式に変更されるなどかなりの設計変更が加えられている。機体はアルミ合金製だが、機首上部のレドームはレーダー波を通す複合材で作成されている[1]。主翼は長時間の滞空飛行に適したアスペクト比の大きい細長い翼。垂直尾翼はV字型で、水平尾翼は無い[1]。機体最後尾に搭載されたレシプロエンジンで推進式プロペラを回転させる。エンジン出力は不明だが、機体の大型化に対応して「翼竜」無人偵察・攻撃機よりも強化されている可能性がある。降着装置は引き込み式。離陸の際には、カタパルトから離陸促進ロケットにより打ち出す方法と自力で滑走させて離陸させる二通りの離陸方法を選択できる。機体回収の際には、状況に応じて通常の着陸かネットによる回収のいずれかの方法を取る[2]。

最高速度は280km/h、最大航続距離は4,000km、上昇限度は5,000m。20時間の最大連続飛行が可能であり、長時間に渡る監視任務を遂行可能な能力を有している。機外ペイロードは200kgだが、機首下部の赤外線センサーの重量が100kgなので兵装にまわせるのは100kgに留まる[2]。機体制御は、自動制御システムと地上からの無線制御方式の併用で、事前に入力されたコースを自律飛行するだけでなく、飛行中のどの段階においても地上からの制御による操縦を行うことが可能。「翼竜-I」は4,000kmという航続距離を有しているが、地上からの無線通信ではこのような遠距離での遠隔操作は不可能。「翼竜-I」ではこの問題に対処するため2通りの手法を採用している。1つは、実際に偵察を行う機体とは別に、中継通信を行う「翼竜-I」を飛ばしてリレー通信を行う方法である。中継通信を行う「翼竜-I」を経由することで、山岳地や建物といった障害物、もしくは水平線の向こうといった見越し線範囲外にまで通信可能な範囲を拡大することが可能となる[4]。2つ目の対処法は、通信衛星を介して情報のやり取りをする方法である。「翼竜-I」には衛星通信機能が搭載されており、衛星通信回線を使用してデータのやり取りを行う能力を有している。「翼竜-I」は遠距離での作戦の際には、状況に応じて上記のどちらかの方法で管制ステーションとの間の連絡を維持することになる。

偵察用機材としては、機首上部に合成開口レーダー、機首下部に電子光学/赤外線センサーとレーザー測距/目標指示器を内蔵した旋回式ターレットが装備されている[2][4]。旋回式ターレットは、機体の進行方向にかかわり無く任意の方向を見ることが可能。「翼竜-I」は、赤外線暗視装置と合成開口レーダーにより、悪天候下でも地上の監視を継続する能力を有している。得られた目標情報は、データリンク機能を通じて管制ステーションに随時転送され、オペレーターはその映像をリアルタイムで確認することができる。地上の管制ステーションでは、送信された映像を元に目標情報を確認、敵と判断したらレーザー目標指示器で目標を照射、搭載兵装の発射指令を出して目標を攻撃する。

兵装は主翼下部の合計2基の兵装ステーションに搭載される。任務に応じて各種空対地/空対空兵器の搭載が可能な点は「翼竜-I」のセールスポイントの1つ。

【搭載兵器一覧】[6][8]
名称誘導方式
「蒼狼」空対地ミサイルレーザー誘導式
「藍箭-7」空対地ミサイルレーザー誘導式UAV用に開発
「藍箭-9」空対地ミサイルレーザー誘導式「藍箭-7」の小型版。小型軽量化により搭載数を倍増(2→4発)
AKD-10空対地ミサイルレーザー誘導式武装ヘリコプターの搭載兵器として開発
FT-7型精密誘導爆弾レーザー誘導式重量130kg
GB-7型精密誘導爆弾GPS誘導式重量50kg
GB-4型精密誘導爆弾GPS誘導式重量100kg
BRM-1型90mm誘導ロケット弾レーザー誘導式 
FT-9型精密誘導爆弾重量50kg
FT-10型精密誘導爆弾重量25kg。小型化により付帯被害軽減を図った非対称戦争向け装備
TY-90赤外線誘導空対空ミサイル(天燕90)赤外線誘導式武装ヘリやUAV向けに開発

上記の兵装のほかに、非致死性兵器を搭載して、デモや暴動を鎮圧するのにも使用される[5]

【今後の展開】
「翼竜-I」は、目標捜索と攻撃を同一の機体で実行することを目的として開発された[1]。偵察、目標位置特定、対地攻撃、ELINT任務、ECM任務、無線中継、国境警備任務などでの使用が想定されている[1]。同様の機体としてはアメリカが開発したMQ-1プレデターなどが存在する。「翼竜」はMQ-1と同じく、中高度で長時間の飛行を行い、発見した目標に対して即座に攻撃を加えることが出来る非対称戦争に適したUAV(unmanned aerial vehicle:無人航空機)であるといえる。

【参考資料】
[1]虎鯨「珠海航展中国无人机作战系统」(『兵器知识』2011 1A/《兵器知识》杂志社)34〜35頁
[2]刘俊学「航展上的国产无人机群」(『兵工科技 2010 23・24合刊 珠海航展专辑』/兵工科技杂志社)61〜64頁
[3]井上孝司『戦うコンピュータ2011』(光人社/2010)144頁
[4]中华网「中国翼龙-1无人机可挂载炸弹导弹 已获准出口图」(2010年11月19日)
[5]中国战略网「翼龙I无人机在警用及反恐领域中的应用_2011巴黎航展_战略图库」
[6]平可夫「北方工業公司推出新型機載導弾」(『漢和防務評論』2015年6月号/加拿大漢和信息中心)29頁
[7]予陽「紀念抗日戦争勝利70周年閲兵方(梯)隊全掃描」(『坦克装甲車両』2015年第10期/《坦克装甲車両》雑誌社/12〜39頁)36頁
[8]「中国空軍攻撃-1察打一体無人機及其機載武器展示」(『現代兵器』2014年増刊2/中国兵器工業集団公司)47頁

【関連項目】
「翼竜」無人偵察・攻撃機