日本周辺国の軍事兵器 - 「MICA」空対空ミサイル




▼ミラージュ2000-5Eiの胴体下部に搭載されているのがMICA RFアクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル。


性能緒元
全長3.10m
直径16cm
翼幅56cm
発射重量112kg
弾頭部12kgHE破片
最大速度M3.0
射程500m〜60km
誘導方式MICA RF:慣性誘導+アクティブ・レーダー誘導
 MICA IR:慣性誘導+画像赤外線誘導(台湾軍は未装備)
装備機種「ミラージュ2000」戦闘機

【開発経緯】
「MICA」アクティブ・レーダー/画像赤外線誘導空対空ミサイルは、フランスのマトラ社(現MBDAミサイルシステムズ)が開発した空対空ミサイルである。MICAはフランス語の「Missile d’Interception et de Combat Aérien(戦闘・航空迎撃ミサイル)」の略称。

MICAの研究開発が始まったのは1982年で、当初はマトラ社のプライベートベンチャーであった。1985年にフランス空/海軍がMICAの開発の後援を開始して暫定開発段階に入り、1987年から本格的な開発に着手することになった。最初の試作ミサイル(アクティブ・レーダー誘導型)飛行試験は1991年に実施。1997年にフランス国防省から量産発注を受けて、1999年にフランス軍への引渡しが開始された。

【性能】
MICAは、R550赤外線誘導空対空ミサイル「マジックII」とシュペル530 DIEセミアクティブ・レーダー誘導ミサイルの2つをまとめて代替するミサイルとして開発された。マトラ社はこの課題に対して、ミサイルの機体部分を共通化して、シーカー部を換装することでアクティブ・レーダー誘導型(MICA RF)と画像赤外線誘導型(MICA IR)の2種類の誘導方式を選択するという方法を採用した。シーカー部は相互に換装が可能で、シーカー以外は共通の設計であるため開発の手間を省くことが出来、複数の種類のミサイルを装備せずにすむため整備面でも有利になるメリットがあった。その反面、近距離空対空ミサイルと中距離空対空ミサイルを1つのミサイルに兼ねさせたため、前者としては大型に過ぎ、後者としては射程が短くなってしまうデメリットも内包することになった。

MICAは、ミサイル先端部に小型の安定板を設置し、中央部に弦長が長く幅の短い固定翼を装備している。尾部には全遊動式操縦翼があり、ミサイルの推力偏向装置と共に飛翔制御を担当する。これらの制御装置によってMICAは、優れた運動性を備えている。MICAの最大速度はM3.0、射程距離は最小500m、最大60km。

MICAは、シーカー部、ミサイル本体、ロケットモーター、安定翼、制御翼、推力偏向装置などで構成されている。アクティブ・レーダー誘導型(MICA RF)と画像赤外線誘導型(MICA IR)の双方とも共通して、慣性航法誘導装置と発射母機からの中間飛翔アップデートシステムを装備している。MICA RFのシーカー部には、AD4Aアクティブパルスドップラーレーダーを収納したセラミック製レドームが装備される。MICA IRのシーカー部には先端が透明になった画像赤外線センサーが設置されている。

MICA RFとMICA IRの双方とも、発射後は慣性航法誘導により飛翔する。中間誘導に慣性航法方式を使用することで、ミサイル自体がレーダー波を発生させないため、目標がミサイルの接近を探知することが困難になる。また、中間誘導を行うことで従来の赤外線誘導ミサイルではシーカーの探知距離の問題から困難であった長射程での攻撃も可能となった。

MICA RFのAD4Aアクティブパルスドップラーレーダーは、終末誘導で使用されるほか、AD4Aの探知範囲内であれば、発射時点で目標への照準も可能であり、この際にはミサイルの「打ちっぱなし」が可能となる。MICA IRの画像赤外線センサーは二重バンドシーカーであり、MICA RFと同じく終末照準と発射前の照準の両モードでの使用が可能。MICA IRは目標に対する全方位攻撃が可能であり、敵の赤外線対抗手段に対する高い抵抗力を有している。

MICAの弾頭部には12kgの高性能炸薬が搭載されており、接触信管とアクティブ・レーダー信管の2つが用意されている。MICAの運用時間は500時間とされている。

【台湾空軍におけるMICA】
台湾は「ミラージュ2000」戦闘機の導入にあわせて960発のMICA RFアクティブ・レーダー誘導ミサイルを購入した[1](資料[2]だとMICAの購入数は480発)。台湾空軍は、ミラージュ2000の近距離空対空ミサイルとしてはR550「マジックII」を採用したため、赤外線誘導型のMICA IRの調達は行われなかった。台湾へのMICAの納入は1997年に開始されたが、この時点ではMICAはフランス軍自体も装備していなかった。フランスは自国向けよりも台湾向けのMICAを優先して生産したのである。MICAの台湾への納付が完了したのは2003年。MICAは台湾空軍では「雲母導弾(ミサイル)」とも呼ばれている。

台湾空軍のミラージュ2000は空対空任務の場合、胴体下部左右で前後に並ぶステーションにMICA RFを4発と、主翼左右パイロンにR550「マジックII」2発を搭載する。ミラージュ2000は、MICAの搭載により見通し外射程(BVR)での撃ちっ放し攻撃力と複数目標への同時攻撃能力を獲得した。ミラージュ2000-5は、24目標を探知し、8目標を追尾しつつ4目標を同時に攻撃する能力を有している。これは中国空軍が装備しているSu-27SKの空対空戦闘能力を上回っていると言えよう。(Su-27SKはのちに近代化改修を受けて火器管制システムに改良を加えR-77アクティブ・レーダー誘導AAMの運用能力を獲得する。)

フランスは2000年には、台湾にMICAとR550「マジックII」の整備を行うためのミサイル整備センターを設置して、両ミサイルの維持補修を行っている。

2008年9月22日の台湾立法院で呉健行空軍参謀長が明らかにした所によると、空軍で使用されているMICAのほとんどが運用寿命を超過しており、現在使用可能なものは38発に過ぎない状況にあるとのこと[3]。国防部は中山科学院に対してMICAの寿命延長作業を命じているが、一時的に全てのMICAが使用不可能になる可能性が浮上してきた。中山科学院の調査によると、ミサイルの保管状況は良好であり、少なくとも5年の寿命延長が可能であるとの結果が出ている[3]。

台湾が購入したMICAの製品寿命は10年であり、既に全てのMICAが寿命に達している。フランスは、台湾が今後もMICAの運用を継続するにはミサイル部品の購入と換装作業が不可欠であると表明している[2]。ただし、空軍の財政問題から寿命問題への対応策は2012年10月の時点では確定していない[2]。

【参考資料】
Air-Launched Weapons ISSUE 47-2006(Jane's Information Group)
『ミリタリー選書8-軍用機ウエポン・ハンドブック』(青木謙知/イカロス出版/2005年)
『台湾百種主戦装備大観』 2000年 (杜文龍:編著/軍事科学出版社)

MBDA公式サイト
軍武狂人夢
中国軍網資料庫

[1]SIPRI Arms Transfers Database
[2]自由時報 電子報「幻象掛過期雲母飛彈 空中發射恐瞬間爆炸」(2012年10月11日/記者羅添斌/台北報導)
[3]Yahoo!奇摩部落格 中華台湾福爾摩沙国防軍「飛弾過期危機 幻象将有機無弾」(2008年9月22日)

「ミラージュ2000」戦闘機
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