日本周辺国の軍事兵器 - 海鴎型ミサイル艇(ドヴォラ型)




▼雄風I型対艦ミサイルを発射するFABG-12号艇


性能緒元
満載排水量47.0t
全長22.8m
全幅5.5m
喫水2.0m
主機ディーゼル 3軸
 MUT 331TC92ディーゼル 3基(2,605馬力)
速力36kts
航続距離700nm/32kts
乗員10名(うち士官2名)

【兵装】
対艦ミサイル「雄風1型」艦対艦ミサイル / 単装発射筒2基
近接防御T75S 20mm機関砲1基
 12.7mm重機関銃2挺
T75S 20mm機関砲は1994年から装備開始

【電子兵装】
航海用レーダーGS/UPS-60X1基
火器管制レーダーAN/SPG-21A「海鴎二型」1基
光学射撃指揮システムMk35 mod31基
チャフ・フレアAV-2連装発射機2基
電子戦装備WD-2A電子支援システム 

海鴎(HaiOu)級は、イスラエルのドヴォラ(Dvora)級高速艇をベースに開発された小型ミサイル艇である。計50隻が建造され、長年に渡り台湾海軍の主力ミサイル艇の地位を占めていたが、老朽化に伴い2012年7月1日までに全て退役した。

【開発経緯】
1970年代後半、台湾海軍は「先鋒計画」の名称でアメリカのアシュヴィル型哨戒艇(PGM-84)を基した龍江級ミサイル艇を15隻建造することを予定していた。しかし、この計画はアメリカの対艦ミサイル禁輸措置や龍江級自体の性能の問題から1977年に2隻が調達された時点で打ち切りとなった。海軍は龍江級に替わる高速ミサイル艇として、イスラエルのドヴォラ級高速艇を購入しこれをベースとしたミサイル艇を国産化することを決定した。台湾はイスラエルから2隻のドヴォラ級(FABG-5、FABG-6)を輸入(台湾では「毒蜂」級と呼ばれた)、これを原型としたミサイル艇「海鴎級飛弾快艇」を1979年から84年にかけて中国造船公司高雄廠において50隻(FABG1-2、7-12、14-21、23-30、32-39、41-58)を建造した。

【性能】
海鴎級の船体はアルミ合金製で、主機はMTU331 TC92ディーゼル3基(2,605馬力)、3軸推進で最高速力は36ノット。初期生産型はマストはモノコック構造でミサイルは艦尾に搭載されていたが、量産型はラティスマストに変更されミサイルも艦中央部に搭載位置が変更された。電子装備は、GS/UPS-60X航海用レーダー、主兵装の「雄風1型」艦対艦ミサイル管制用のAN/SPG-21A「海鴎二型」火器管制レーダーとMk35 mod3光学射撃指揮システムを搭載。なおイスラエルから輸入したFABG-5、FABG-6の2隻はイスラエル製の火器管制システムを搭載している。電子戦用装備はWD-2A電子支援システムとイスラエル製のAV-2連装チャフ・フレア発射機×2を装備している。当初の兵装は、イスラエルのガブリエル対艦ミサイルを国産化した「雄風1型」艦対艦ミサイル単装発射機2基と艦橋直後に搭載された12.7mm重機関銃×2であったが、1994年から艦の後部にT75S 20mm機関砲×1が追加装備された。

海鴎級は海蛟快艇大隊に所属しており、大隊は5個中隊から、各中隊は2個分隊から編成されていた。一個分隊は5隻の海鴎級を指揮下におく。個々の艦には艦名は無く艦番号FABG-××が与えられた(当初の艦番号はFAB-××)。海鴎級は対艦攻撃任務のほか、海上警備活動などの後方任務にも従事しており、その他演習中には中国海軍のミサイル艇部隊を模したアグレッサー任務にも使用されていた。

海鴎級は4年間で50隻という大量建造が行われ、台湾は短期間で有力なミサイル艇戦力を構築することに成功した。その一方で、海鴎級の50トンというコンパクトな船体は、電子装備や兵装の搭載にも限界があり、特にミサイル搭載数の少なさ(2発)は問題とされた。そして小型の船体は、航洋性能の不足や航続距離の短さといった問題点も有していた。また「雄風1型」艦対艦ミサイルの最大射程は40kmで、これは中国のSY-1対艦ミサイルよりも短くアウトレンジ攻撃を受ける危険性も指摘されていた。これに対しては船体の小型さを生かして沿岸部の遮蔽地形に隠れて、攻撃直前まで発見されないようにする等の戦術的対策がとられていた。また、小型の船体は被発見率やレーダー反射面積の点において有利であると見なされていた。

【退役までの過程】
1998年7月11日には演習中の海鴎級FABG-46が座礁事故を起こし、後に離礁に成功したが、修理は行われず現役に復することは無かった[2]。

海鴎級は建造から既に20年以上が経過し、船体の金属疲労も進んでいた。台湾海軍では「光華六号」の名称で、海鴎級の後継となるFACG-60型ミサイル艇(光華6号計画艦)の整備を進め、2011年12月までに合計31隻を就役させている。海鴎級の退役は2009年から開始されていたが、光華6号計画艦の整備完了によりその速度が早まり、2012年7月1日には最後の20隻が現役を退くこととなった[2]。

退役した海鴎級の一部は台湾と国交のある国に譲渡されるが、搭載兵装の「雄風1型」対艦ミサイルは弾薬庫に保管され、20隻については有事における予備艦艇として整備維持されることが明らかにされている[2]。

【輸出事例】
台湾は、1994年にFABG-1、FABG-2の2隻を国交のある南米パラグアイに売却した。2隻は、「Capitan Ortiz」(P 06)「Teniente Robles」(P 07)と命名され哨戒艇として使用されている(武装はT75S 20mm機関砲1艇と12.7mm重機関銃3艇)[6]。

2009年6月には、台湾は海鴎級4隻(FABG-7、FABG-11、FABG-29、FABG-32)を西アフリカのガンビア共和国に贈与した[7]。当初は南部アフリカのマラウィ共和国に贈与される予定であったが、同国が中国との間で国交を樹立したためこの話は頓挫していた。2008年になって、海鴎級4隻は台湾と国交のあるガンビアに贈与される事が決定した。4隻は約二億台湾圓をかけて再整備が行われ、その際に対艦ミサイルは撤去された。改修を終えた4隻は、2009年5月に大型貨物輸送船に搭載されてガンビアに向けて出港し、6月上旬に同国に到着、同月26日に引き渡し式典が行われた。

ガンビアでは、海鴎級は領海/河川警備、哨戒・治安任務などに使用されている[7]。2010年には同級の1隻が暴風で破損。巡視船として復元するには修理に見合わないほどの損害を受けたため訓練艇に任務変更された[8]。2012年6月28日、台湾は同艇の代替として成功級巡視艇3隻をガンビアに寄贈することを明らかにした[8]。

【参考資料】
[1]中国/台湾海軍ハンドブック改訂第2版 (海人社)
[2]軍武狂人夢「海鷗型飛彈快艇」
[3]中国軍艦博物館
[4]中国武器大全
[5]軍事・兵器大事典
[6]Yahoo!奇摩部落格-中華台灣福爾摩沙國防軍「我4艘飛彈快艇 改贈甘比亞(FABG-7.11.29.32這四艘 !) 」(出典『聯合報』╱王光慈/2009年7月22日)
[7]Jane's Fighting Ships 2009-2010(Stephen Saunders (編) /2009年6月23日 /Janes Information Group)597頁。
[8]Taiwan Today「海上警備力強化に協力、台湾がガンビアに巡視艇寄贈」(2012年6月29日)

「雄風1型」艦対艦ミサイル(雄蜂/天使/ガブリエル)
台湾海軍