日本周辺国の軍事兵器 - 新型122mm自走榴弾砲(中国)




▼装薬装填中の写真。奥の兵員は砲手。


性能緒元
重量24.5トン
車体長6.66m
全幅3.28m
全高2.5m
エンジン6V150型液冷ディーゼル 554hp
最高速度57km/h
航続距離500km
武装96式122mm榴弾砲(PL-96/D-30)×1(40発)
 88式12.7mm重機関銃(QJC-88)×1
 3連装発煙弾発射機×4
装甲溶接鋼板
乗員5名(車長、砲手、装填手二名、操縦手)

07式122mm自走榴弾砲(PLZ-07)は中国軍第三世代の履帯式122mm自走榴弾砲[1][3]。2008年には南京軍区の陸軍部隊での運用が行われているのが確認されている[2]。

中国軍では、1980年代に開発した89式122mm自走榴弾砲(PLZ-89)が陸軍や海軍陸戦隊の機甲師団/旅団の自走砲連隊(3個大隊編制、1個大隊に18輌装備)に配備され、より大口径の83式152mm自走榴弾砲などと共に火力支援任務に当たってきた。89式122mm自走榴弾砲は、83式152mm自走榴弾砲に比べると口径が小さいことから砲弾の破壊力については見劣りするが機動性が高くある程度の水上浮航性を有している事から、83式が師団クラスの全般的な火力支援任務に当たるのに対して、89式は旅団クラスの支援火力として部隊に追随して前線に近い距離での直接・間接の火力支援を行う事が想定されている[3]。07式122mm自走砲は、この89式122mm自走砲の後継として開発された自走砲であると思われる。開発においては、軍の情報化の進展に合わせた情報システムの近代化が重要な課題とされた[5]。

【性能】
89式122mm自走砲は、77式水陸両用装甲兵員輸送車(WZ-511)をベースに開発された車体に密閉砲塔を搭載しているが、07式122mm自走砲では現在配備が進んでいる04式歩兵戦闘車(ZBD-97/ZBD-04/WZ-502)の足回りや動力部などを流用して再設計されたシャーシを採用している。総重量は24.5tと89式122mm自走砲より4.5t重くなったことで、砲撃プラットフォームとしての安定性を増している[6]。エンジンは554馬力の6V150型液冷ディーゼルを搭載しており、最高速度は57km/h。変速装置は07式の初期型ではCH400を、改良型ではCH400Dを搭載している。エンジンと変速装置はパワーパック化されており、整備の際には迅速に取り外すことが可能[5]。動力部には自動消火装置が標準装備されており、一定以上の熱を感知すると自動的に作動して火災を消火する[5]。サスペンションはトーションバー式で第一、二、六転輪には油気圧式ショックアブソーバーが取り付けられており、走行時の振動や射撃時の車体動揺を吸収する役割を果たす[5]。履帯には路上走行時に道路を破壊しない様に、ゴムパッドの装着が可能。04式歩兵戦闘車は水上航行能力を有していたが、07式自走砲では浮航性能は要求されず、水上航行に必要なトリムベーンや推進装置のウォータージェットは撤去されている。これは容積を食うウォータージェット関連装備を撤去して、弾薬搭載スペースや乗員の給弾作業に必要とされる車内容積を確保するための措置と見られる。

車体は、前部左に操縦室、右に機関室、後部が砲塔を搭載した戦闘室という配置を取っている。07式の乗員は、車長、砲手、装填手二名、操縦手の計5名。操縦席は車体前方左部に配置されており、操縦席キューポラには3つのペリスコープが用意されており、真中のものは夜間の移動に際して暗視装置を装着することが出来る。操縦席には車両の位置や地図、エンジンの状態や搭載燃料などのデータを確認するための情報端末が設置されている。これらの措置により、07式は良好な操縦性を有していた89式自走砲よりもさらに操縦時の負担が軽減されている[5]。

車体後部に搭載された砲塔は全周旋回式で、砲塔右側前部に車長、榴弾砲を挟んだ反対側に砲手席、装填手二名は車長席と砲手席の後方の座席に着座する[6]。車長席には液晶パネルが設置されており、目標の諸元や衛星航法装置による車輌位置情報、エンジンの状態などを確認することが出来る[5][6]。車長席上部には全周旋回式のペリスコープが設置されており、目標の捜索や目標指示に使用する。ペリスコープには微光増幅式暗視装置が内蔵されており、夜間の使用も可能[5]。榴弾砲を挟んだ砲塔左部前方には砲手席があり、砲塔前右部の直射用照準器と砲塔上部の間接射撃用照準器、砲の俯仰角や砲塔の旋回などを調整する操砲用装置が用意されている。07式は装填手二名が搭乗しておりし、砲尾右側の第一装填手は砲弾の装填を担当、砲尾左側の第二装填手は装薬の装填を担当している。砲塔上部には車長用と二名の装填手用の計三基のハッチが装備されている[5]。車体後部には横開き式の大型ハッチが設けられており、乗員の乗降や弾薬補充に使用される。07式のNBC防護装置は電子制御式で、外部の異常を探知すると車内の気圧を増して外気の流入を抑制、さらにフィルターによる空気の濾過を同時に行う[5]。戦闘室で火災が発生した際には、自動消火装置が作動して車内に配置された消火装置を使用して二次爆発を抑制する[5]。

【射撃統制システム・武装】
07式の射撃統制システムは、弾道計算機、光学/赤外線照準装置、無線機などで構成されている。データリンク機能や衛星航法システムを標準装備しているのも特徴であり、砲塔上部にはGPS/「北斗」衛星航法システムやデータリンク機能用の専用通信アンテナが搭載されている。07式は、同時期に開発された05式155mm自走榴弾砲(PLZ-05)05式120mm装輪自走迫撃砲(PLL-05)と同じく、ネットワーク技術が積極的に取り入れられているのが特徴である。データリンク機能により連隊・大隊射撃指揮車両からの指揮管制による一元的な統制射撃を実施したり、UAV等から得られたデータを即座に射撃に反映させることが出来るようになった。

搭載している96式122mm榴弾砲(PL-96)は旧ソ連の122mm榴弾砲D-30をリバースエンジニアリングで国産化した86式122mm榴弾砲の改良型である。口径(121.92cm)や砲身長(32.7口径)には変化は無いが、薬室の容積を拡大しており、初速と命中精度も向上している[5]。96式122mm榴弾砲の最大射程は榴弾で18km、FRFB弾で21km、最も長射程のRAP弾で27km。通常榴弾やFRFB弾以外にも、照明弾、ビラまき用砲弾、対戦車子弾搭載砲弾、誘導砲弾など各種砲弾が用意されている。07式の砲弾搭載数は40発。

07式には装填ラックと装填ラマーから構成される装填補助装置/半自動装填装置が搭載されており、装填手の給弾作業を補助する半自動装填、自動装填装置を使用しない完全手動装填の二つの装填方式が用意されている[3][5][6]。89式自走砲の装填補助装置は油圧駆動式であったが、07式では火災の発生を抑えるため電気駆動式に変更されており、操作方法が簡単になると共に装置の信頼性も向上している[5][6]。装填補助装置を使用する場合は、装填ラックに砲弾を乗せた後の作業は自動化され、装填手の作業は装薬装填のみとなる[5]。装填補助装置を使用することにより、毎分6〜8発の発射速度を確保している[6]。また、俯仰角を変更しながら砲弾を発射して、複数の砲弾を同時に同じ目標に着弾させる能力も有している[5]。装填手を不要とする完全な自動装填装置を採用していないことについては、構造が複雑になり信頼性や製造コストに悪影響を与える点や自動装填装置が砲塔内部の多くの空間を占めてしまうなどのデメリットを考慮した決定と見られている[5]。射撃に当たっては、自走砲大〜中隊の指揮車輌からの射撃諸元をデータリンクにより各車輌に転送、各車輌はその諸元を元に射撃統制装置を使用して一斉射撃を行うことが可能。照準・射撃・弾着修正の過程は高度に自動化されている。07式は、停車後約1分で射撃を開始することが可能であり、射撃終了から3分後には走行状態に復帰する。間接照準射撃のみならず直接照準射撃も想定されており、その際の命中率は96式122mm榴弾砲(PL-96/D-30)の直射照準射撃と比較しても命中精度が向上しているとされる[6]。

副武装として砲塔上部には88式12.7mm重機関銃(QJC-88)1挺が装備されている。12.7mm重機関銃は、89式自走砲では車長用キューポラに装着されていたが、07式では装填手用ハッチに装備されており、砲塔左側の装填手が操作を担当する。射程500m以内の軽装甲車両や歩兵の制圧に用いられる[6]。砲塔両側面には3連装発煙弾発射機が4基搭載されている。

【総括】
07式122mm自走砲は、中国軍砲兵部隊の情報化推進を象徴する装備の1つといえる。砲の射程などのスペックでは更新対象である89式自走砲とそれほど差が無い様に思えるが、情報化の進展により、射撃開始までに要する時間は大幅に短縮され、命中精度も向上していることから、07式の生存性能と総合的な作戦効率は89式自走砲の3〜4倍に高まっていると評価されている[5]。

新型の97/04式歩兵戦闘車を基にしたシャーシを採用する事で、89式122mm自走砲よりも機動性は向上しており、各種装備の搭載スペースも拡大されている。また、ファミリー化により装備の共通性を高め、調達コストを節約する事が可能になると思われる。

ただし、89式が有していた浮航性能は廃止されたため、水陸両用部隊向けには水上航行性能を有した07B式122mm水陸両用自走榴弾砲(PLZ-07B)を開発する必要が生じる事となった。89式の浮航能力自体は、洋上からの着上陸作戦に使用するには不十分な物だったので、水上航行能力の高い自走砲の開発が求められていた。しかし、通常の砲兵部隊ではそこまで高度な水上航行能力は必要ないことから、07式では思い切って浮航性能をオミットすることにより生産コストの削減や車内容積の拡大を図ったと思われる。

[1]YouTube「China's 60th National Day parade 中華人民共和国60周年国慶閲兵 PT2」(2009年10月1日)
[2]China Defense Blog「New 122mm SPH」(2008年7月8日)
[3]水銀「共和国的鉄流方陣-2009年国慶節陸軍参閲装備大掃描(三)」『坦克装甲車両』2009年第9期(《坦克装甲車両》雑誌社)22-26ページ
[4]ВПК.name「И снова китайские изделия лучше всех − Самоходная 122-мм гаубица PLZ-07」
[5]東聿「仰首咆哮撼山岳−我国07式122毫米自行榴弾炮展新姿」(『現代兵器』2009年11月号(総第371期)/中国兵器工業集団公司)40-44ページ
[6]凤凰网「简析国产第3代122毫米自行榴弹炮——PLZ-07式」(2022年7月9日/兵工科技)https://i.ifeng.com/c/8HVPmtQ0NTg

97式歩兵戦闘車の派生型
07B式122mm水陸両用自走榴弾砲(PLZ-07B)
89式122mm自走榴弾砲(PLZ-89)
96式122mm榴弾砲(PL-96/D-30)
中国陸軍