日本周辺国の軍事兵器 - 031型弾道ミサイル潜水艦(6631型/629型/ゴルフ級)



031型弾道ミサイル潜水艦(建造時の形式名は6631型)は、ソ連の629型弾道ミサイル潜水艦(NATOコード名:Golf class)の同型艦である。

【建造の経緯】
1959年2月4日、中国とソ連は「中国海軍の艦艇製造分野における中華人民共和国に給与される技術援助に関する協定」(原題:関于在中国海軍艦艇製造方面給与中華人民共和国技術援助的協定。)、いわゆる「二・四協定」に調印した[1][2]。「二・四協定」では、ソ連は中国に対して潜水艦やミサイル艇などの海軍艦艇や各種兵装の現物とそのライセンス権を給与、中国での国産化に必要な図面の提供や技術者の派遣などを実施する事が取り決められた[1]。629型通常動力弾道ミサイル潜水艦(中国語では「常規動力導弾潜艇」[2])と同艦が搭載するR-11FM弾道ミサイルも、この「二・四協定」で中国に提供された兵器の1つである。

「二・四」協定では、ソ連は629型潜水艦の船体とパーツを中国に提供、中国は提供された部品と図面を元にソ連技術者の指導を受ける形でノックダウン生産を行う計画であり、中国でノックダウン生産される629型には「6631型」の形式名が与えられた[5]。1959年、ソ連は協定に基づいて629型潜水艦の船体とパーツ、建造に必要な図面、そしてR-11FM弾道ミサイルの現物を中国に送り、中国国内での建造を指導するための専門家を派遣した[3][4]。ただし、R-11FMに搭載する核弾頭は提供されなかった模様。

中国側に提供された629/6631型の隻数については、資料によって異同がある。

西側や中国では中国に提供されたのは1隻分のパーツのみであり、大連で組み立てられたとの説が主流であったが、ソ連/ロシア海軍について造詣の深いアンドレイ・V・ポルトフ氏は著書の中で中国に提供した629型は、合計4隻であるとしている[6]。中国語資料でも[7]では、複数の6631型が建造されており、その内1隻が1960年代に北朝鮮に提供されたという情報を明らかにしている。(こちらについては、他の資料での裏付けが得られていないが、事実であれば注目すべき情報である。)

1隻のみ建造されたとの説を採る資料[4]では、ソ連から提供されたパーツや資料を基にして大連紅旗造船所で建造が行われたとしている。資料[4]では、6631型の建造は1960年に開始、中ソ対立によるソ連技術者の帰国と技術支援の途絶により遅延を余儀なくされたものの、1964年に竣工、1966年に海軍での運用が開始され「031型常規動力導弾潜艇」の形式名が付与された、とのタイムスケジュールを提示している(なお、同じく1隻建造説を採る資料[7]では1966年9月に進水としている。)

一方、ポルトフ氏の提示する情報では、ミサイルを搭載しない船体2隻がソ連極東のコムソモルスク・ナ・アムーレで建造されて中国に回航され、さらに2隻分のパーツが中国に送られて上海で組み立てが行われたとしている。この内、一隻は1983年にカムラン湾沖でソ連の675型巡航ミサイル原潜(エコーII型)のK-10と衝突して沈没したとしている[6]。この艦は、ロシア語資料[9]では艦番号208とされ、JL-1弾道ミサイルの運用試験中に675型原潜と衝突して沈没したとされている。ただし、この件については、中国側での対応する資料は得られておらず、詳細については不明な点が多い。本稿では、6631/031型の建造数については諸説あり、現時点では確定しがたい事を提示するに留めておく。

【SLBM試験艦への改造】
1960年代に中国海軍に就役した031型であるが、搭載ミサイルであるR-11FMの国産化が行われなかった事もあってか、就役後暫くの間は主に練習艦として運用されていた[4]。その後、新型SLBM(後の巨浪1型/JL-1)開発のテストベッド艦として使用する事が決定され、1968年から72年にかけてR-11FM用ミサイル発射筒3基を撤去して新たに新型SLBM用の発射筒2基を装備する改修工事が実施された[10]。元来、031型は水上航行状態でしか弾道ミサイルの発射が出来なかったが、この改装に合わせて弾道ミサイルの水中発射能力が付与されたと見られる。

改装が実施されたのはネームシップ(艦番号1101。のち艦番号は200に変更、艦名は「長城200号」となる[18])とされるが、ロシア資料では「長城208号」も同様の改装を受けてJL-1のテストベッド艦として再就役したとしている[9]。改装工事終了直後の1972年10月にはフルサイズのJL-1のモックアップを発射筒に搭載して射出する試験に成功している[11]。実際のJL-1による水中発射試験は1982年10月7日に渤海において実施されているが、ミサイルは打ち上げ直後に制御を失って墜落している。事故を受けてミサイルに幾つか改修を加えた上で、10月12日に二度目の水中発射試験が行われ、こちらは成功した[5][11]。これ以降のJL-1の打ち上げ試験は 092型弾道ミサイル原子力潜水艦(シア型/夏型)を使用して実施されたため、031型からのJL-1の発射試験は上記2回の試験をもって終了した(1984年3〜4月には、「長城200号」を使用して渤海で4発の模擬ミサイルの水中発射試験が実施されている)。

1990年代に入ると、次世代SLBMであるJL-2の開発プラットホームとして「長城200号」を使用する事が決定、1995年からテストベッド艦としての改造が実施され、JL-1用発射筒を撤去した上でJL-2用発射筒1基を新たに搭載している[12]。「長城200号」を使用したJL-2の発射試験の開始時期については、2002年8月[13]、もしくは2005年6月[14]など複数の説がある。2005年6月の試験(水上発射と水中発射の両説がある)では、青島近海からJL-2の打ち上げを行い、タクラマカン沙漠の目標地点に着弾させた[15][16]。

「長城200号」によるJL-2の発射試験では、浮上した状態での打ち上げと潜行状態での水中発射の双方が実施されているが、JL-2の開発は必ずしも順調には進んでおらず、2003年、2004年、2005年、2008年、2009年に行われた水中発射試験の内、前述の2005年の試験を除いていずれも失敗したと伝えられている[15]。資料[15]によると、2009年の水中発射試験では、ミサイルの射出には成功したものの、水中から空中に飛び出したミサイルのロケットモーターが作動せず、そのまま海面に落下。潜水状態の「長城200号」は、沈降してきた弾体と接触、かなりの被害を受けたもののダメージコントロールにより沈没は免れ、母港に帰還後修理が実施されたとしている。

1960年代に就役した「長城200号」は既に艦齢40年を越えるベテラン艦であるが、中国のSLBM開発において極めて重要な役割を果たし続けている潜水艦であるといえる。その働きは党や軍から高く評価されており、2010年8月4日には長年に渡るSLBM開発における貢献に対して中国中央軍事委員会から「水下発射試験先鋒艇」の栄誉称号が送られている[17]。

性能緒元
水上排水量2,350t
水中排水量2,950t
全長97.5m
全幅8.6m
喫水6.6m
主機ディーゼル・エレクトリック 3軸
 73-Dディーゼル 3基(6,000馬力)
 モーター3基(5,500馬力)
水上速力17kts
水中速力13kts(最高)、
潜水深度300m
航続距離6,000nm/15kts(水上航行時)
乗員86名(士官12名)

【兵装】
弾道ミサイルJL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5)1基
魚雷533mm長魚雷6門(艦首4門、艦尾2門)
 YU-1 533mm長魚雷(魚1型/53-51型)

【電子兵装】
対水上/航海レーダー353型(Snoop Plate)1基
ソナー総合ソナー1基
捜索ソナー1基
通信ソナー1基

同型艦
長城200号1101→200大連紅旗造船廠で建造。1962年起工、1964年竣工、1966年就役北海艦隊所属[4]
208コムソモルスク・ナ・アムーレで建造。1960年起工、1961年進水、1962年就役、1983年1月21日ソ連原潜K-10と衝突して沈没[9](中文資料では情報が得られていない)-
*資料[6]ではこのほか2隻が上海で建造されたとしているが、具体的な情報については不明。

【参考資料】
[1]沈志華's Blog「援助與限制:蘇聨與中国的核武器研制(1949-1960)之三」
[2]劉華清『劉華清回憶録』(解放軍出版社/2004年)295頁
[3]アンドレイ・V・ポルトフ『ソ連/ロシア原潜建造史』(海人社/2005年)100頁
[4]鉄血網「031型G级常规弹道导弹潜艇」
[5]中国武器大全「G级(629型)常规动力弹道导弹常规潜艇」
[6]アンドレイ・V・ポルトフ『ソ連/ロシア原潜建造史』(海人社/2005年)77頁
[7]葉明「中国艦艇出口50年」(『現代艦船』2007-08A/現代艦船雑誌社)19頁
[8]Jane's Fighting Ships 2006-2007(Jane's Information Group)120頁。
[9]Штурм Глубины「Проект 629 (629А)」
[10]新浪網「中国海军舰炮近程防御与战略导弹系统」
[11]Chinese Defence Today「JuLang 1 (CSS-N-3) Submarine-Launched Ballistic Missile」
[12]世界の艦船2005年1月号増刊 世界の潜水艦(海人社)102頁
[13]MissileThreat「CSS-NX-5/CSS-NX-4 (JL-2)」
[14]Jane's Fighting Ships 2006-2007(Jane's Information Group)120頁
[15]自由時報「中國水下試射 「彈」砸自家潛艦」(2010年1月25日)
[16]軍武狂人夢「093型商級核能攻擊潛艦/094型晉級核能彈道飛彈潛艦」
[17]中華人民共和国中央人民政府公式サイト「胡锦涛签署命令 给2个单位1名个人授予荣誉称号」(2010年08月04日)
[18]中国軍約網「中国海军潜艇发展史」
[19]中国武器大全「巨浪冲天:中国巨浪-1型潜射弹道导弹」

中国海軍