日本周辺国の軍事兵器 - 051C型駆逐艦(ルージョウ型/旅洲型)



051C型は大連造船所で建造された新型防空駆逐艦。船体や上部構造物の構成は、同じ大連造船所で建造された051B型駆逐艦をベースにしているが、電子装備類や兵装がより新しく高性能なものになっている。NATOコードはLuzhou class(ルージョウ型/旅洲型)。

051B型と比べて最も大きな違いは対空ミサイルである。051B型はフランスのクロタル近距離対空ミサイルをコピーしたHQ-7近距離対空ミサイルを搭載していたが、051C型はロシア製のS-300FM長距離対空ミサイル・システムの8連装回転式VLS(ロシアのスラヴァ級ミサイル巡洋艦と同じタイプ)を前甲板に2基、後部構造物上に4基(計48発)装備している。S-300Fは「リフM」防空システム(「リフM」は輸出型の名称で、ロシア海軍での名称は「フォールトM」)の一端を成す対空ミサイルで、アメリカのパトリオット・ミサイルに匹敵する性能を持つと言われている。中国は同システムの改良型であるS-300FMシステム一式を2002年にロシアから購入した。S-300FM防空システムは30N6E1フェーズド・アレイ・レーダーによって12発の48n6Ye対空ミサイルを同時に管制し、6目標を攻撃する事ができる。48n6Ye対空ミサイルの射程は120km、最高高度25,000〜30,0000mで、航空機や巡航ミサイルだけでなく限定的ながら弾道ミサイルの迎撃能力も持つ。このシステムの採用により051C型は052C型駆逐艦と共に本格的な長距離エリア防空能力を有する事となった。なお本級は051B型でヘリコプター格納庫だった場所にVLSを埋め込んだため整備スペースが無くなり、発着甲板はあるものの固有のヘリコプターは搭載されていない。

対艦兵装は051B型と同じYJ-83対艦ミサイル(C-803)だが、搭載数は4連装発射機2基と半減している。近接防御火器は76A式37mm連装機関砲4基から、730型30mmCIWS2基に変更され、砲も79A式100mm連装砲から052B型などと同じ87式55口径100mm単装砲(H/PJ-87)を搭載。対潜装備としては3連装魚雷発射管2基を装備しているが、固有の艦載ヘリコプターが無い事もあり本艦単体での対潜能力はそれほど高い物では無い。

レーダー類としては、まず後部構造物上にS-300FM長距離対空ミサイル・システムの管制に使用される30N6E1フェイズド・アレイ・レーダーが搭載されている。30N6E1のレーダー・アンテナは折畳み式で、作動時にアンテナが立ち上がって回転しながら目標の追尾やミサイルの誘導を行う。ただし配備位置の関係上、前方については艦橋構造物やマストが邪魔となって捕捉出来ないエリアが生じる。対空目標の捕捉用には後部マストに設置されたMR-750MA三次元対空捜索レーダー(NATOコード:Top Plate-B/トッププレートB)が使用される。艦橋上にMR-331「ミネラル-ME」砲/対艦ミサイル管制用レーダー(NATOコード:Band Stand/バンドスタンド)を装備している。上記3つのレーダーはいずれもロシアから導入した物である。この他、前部マスト頂部に364型対空・対水上レーダーを搭載している。対潜ソナーとしては、艦首部に国産のSDJ-9アクティブ/パッシブ式バウソナーを装備している。

1番艦の「瀋陽」は2006年10月に就役。2番艦の「石家荘」は2007年3月に就役した。所属は両艦共に北海艦隊。本級の就役で中国海軍は射程100km級の長距離エリア防空艦(052C型駆逐艦と本級)、射程30kmの9M38中距離対空ミサイル「ウーラガン」とその改良型で射程50kmの9M38M2中距離対空ミサイル「シュチーリ1」、及び国産で射程40kmのHQ-16中距離対空ミサイルを運用する中距離防空艦(052B型駆逐艦ソブレメンヌイ級駆逐艦054A型フリゲイト)と5種類のエリア防空艦を保有することになった。

S-300FMを搭載した051C型の就役により、中国海軍で唯一エリア防空艦を配備していなかった北海艦隊もようやくその欠如を補う事が可能となった。中国海軍がHQ-9長距離対空ミサイルを開発しつつ、ロシアからS-300FMという似た位置づけの装備を並行して調達した件については、新規開発のHQ-9のバックアップとして購入されたとの見解が一般的である。S-300FM搭載艦2隻はいずれも北海艦隊に配属されているが、これについては弾道ミサイル迎撃能力を有する本級を黄海や渤海湾に展開させることで、北京首都圏や天津といった人口密集地や原子力潜水艦の基地など重要拠点に対する弾道ミサイルや巡航ミサイルによる攻撃を防ぐ役割が与えられると見られている[3]。近年では本級がフリゲイト艦などを率いて沖縄近海を通過するのを、しばしば自衛隊が確認している。

「漢和防務評論」2008年5月号の報道によると、中国はロシアとの間で「リフM」長距離対空ミサイル・システムの購入に関する交渉を行っているとの事[8]。これは中国海軍が051C型の追加建造、もしくはその発展型防空駆逐艦を建造する意向の表れではないかと推測されていた。ただし、その後の展開は不明。

【日本近海での行動】
■2008年11月2日昼頃、051C型駆逐艦1隻と053H3型フリゲイト1隻及びフーチン級補給艦1隻、他1隻が沖縄本島北西約400kmの東シナ海を南東進しているのを、海上自衛隊のP-3C(鹿屋基地所属)が発見した。自衛隊が051C型駆逐艦を視認したのはこれが初。
■2009年6月25日早朝、051C型駆逐艦1隻と054A型フリゲイト2隻及びフーチン級補給艦1隻、他1隻が沖縄本島の西南西約170kmの太平洋上を北西進しているのを、海上自衛隊第4護衛隊群第4護衛隊の護衛艦DD-158「うみぎり」(定係港:呉)が発見した。この艦隊は6月19日に東シナ海から南西諸島を通過し太平洋に出ていた。6月22日午後には沖ノ鳥島北東約260kmの海域において054A型フリゲイトの近傍で艦載ヘリコプターが活動しているのが確認されている。
■2010年3月18日午前、051C型駆逐艦1隻と054A型フリゲイト1隻が沖縄本島の西南西約180kmの南西諸島沖を南東進しているのを、海上自衛隊第2護衛隊群第2護衛隊のDD-154「あまぎり」(定係港:舞鶴)が確認した。また同日午後、054A型フリゲイト1隻と053H2型フリゲイト1隻が同じ地点を南東進しているのを、海上自衛隊第13護衛隊のDD-132「あさゆき」(定係港:佐世保)が確認した。

性能緒元
満載排水量7,100t
全長155.0m
全幅17.1m
吃水6.0m
主機ウクライナ製ガスタービン、若しくは中国国産蒸気タービン
 タービン4基(94,000馬力) 2基2軸
速力30kts
航続距離 
乗員 

【兵装】
対空ミサイル48n6Ye長距離対空ミサイル(S-300FM) / VLS(8セル)6基
対艦ミサイルYJ-83対艦ミサイル(C-803) / 4連装発射筒2基
魚雷YU-7 324mm短魚雷 / B515 324mm3連装魚雷発射管2基
87式55口径100mm単装砲(H/PJ-87)1基
近接防御730型30mmCIWS2基

【電子兵装】
3次元対空レーダーMR-750MA(Top Plate-B)1基
火器管制レーダー30N6E1(Tomb Stone)SAM用1基
 MR-331「ミネラル-ME」(Band Stand)SSM/砲用1基
チャフ/フレア発射装置726-4型18連装デコイ発射機2基
衛星通信用装置 2基
バウソナーSJD-91基
データリンク  
Mineral-ME3SSM用


■同型艦
1番艦瀋陽Shenyang1152004年12月18日進水、2006年10月就役北海艦隊所属
2番艦石家荘Shijiazhuang1162005年進水、2007年3月就役北海艦隊所属

▼ヘリコプター発着甲板はあるが後部構造物に格納庫は設けられていない。30N6E1フェイズド・アレイ・レーダーのアンテナは畳まれている

▼陣形運動中の北海艦隊主力。画面右の2隻は051C型の#115「瀋陽」と#116「石家荘」

▼Z-9Cヘリコプターの着艦訓練を行う#115「瀋陽」

▼射撃中の100mm単装砲。手前にS-300対空ミサイル用VLSが見える

▼S-300対空ミサイル用ランチャーの搭載作業


【参考資料】
[1]Jane’s Fighting Ships 2007-2008「DESTROYERS:LUZHOU CLASS(TYPE 051C)(DDGHM)」(Jane’s Information Group)122頁
[2]世界の艦船2008年2月号「注目の中国新型艦艇2 水上戦闘艦」(海人社)
[3]現代兵器2007年7月号(総第343期)「天降蛟龍-中国海軍新鋭戦艦巡礼」(杜東冬 編訳・一然 編集/中国兵器工業集団公司)

[4]Chinese Defence Today
[5]Global Security
[6]Yahoo!ブログ〜ロシア・ソ連海軍〜「広域防空システムS-300F「フォールト」」(2007年5月5日)
[7]軍武狂人夢「旅洲級飛弾駆逐艦」
[8]漢和防務評論2008年5月号「俄羅斯與中国的水面艦合作前景」(平可夫)

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