日本周辺国の軍事兵器 - 094型弾道ミサイル原子力潜水艦(ジン型/晋型)



現在開発中の弾道ミサイルJL-2(巨浪2/CSS-N-5)を搭載する新型戦略原潜で、同型4隻の建造を計画しているといわれている。1番艦は2001年葫蘆島の渤海造船所で起工、2004年に進水、現在洋上での公試を実施中で2008年に就役すると言われている。2番艦も進水済みで2010年ごろ就役すると見られている。

【建造に至る経緯】
094型の開発は1996年に正式決定されたとされる。計画名称は37751A計画、通称「震惊」。中国では、次世代原子力潜水艦開発のためのノウハウを得るために、ロシアに13回に渡って技術者チームを派遣しており、1997年から1998年の一年間だけでロシアに14回に渡り軍の人員を派遣し、新型潜水艦の操作方法の学習を行わせている[1]。

西側では上記のような中露の技術協力関係から、094型の設計にはロシアから得られたプロジェクト671RTM型攻撃型原潜(ヴィクターIII型)やプロジェクト667BDR戦略原潜(デルタIII型)の技術が反映された艦になると予測していた。しかし、実際には、094型は排水量13,250t(水中状態)のプロジェクト667BDR戦略原潜よりもかなり小型の8,000tに留まり、船体設計においてもプロジェクト667BDRよりも、以前中国が建造した092型弾道ミサイル原子力潜水艦(シア型/夏型)に近いデザインであることが判明した。弾道ミサイルの搭載数も、予想の16発よりも少ない12発に落ち着いたが、こちらも092型と同じ搭載数であった。

これらの事例から推測されるのは、094型は、ロシアからの技術導入は部分的なものに留まり、基本としては中国側が中心となって開発した092型の発展型としての性格が強い原潜であるということである。なお、ロシア側の技術利用の事例としては、「漢和防務評論」2008年3月号の記事で、ロシアのルービン潜水艦設計局への取材により、同設計局は潜水艦の建造に必要な自動溶接装置の技術は提供したが、それがどのように使用されるか中国側は明らかにしなかったとしている。記事では、実際に094型の建造で自動溶接装置の技術指導を行ったのは、ウクライナのBadon研究所のエンジニアであったとしている。装置の供給国と技術者の派遣国を別にしたのは、情報統制と特定の国に計画のイニシアチブを握られないようにするための中国側の対策であると思われる[2]。

094型の設計が092型をベースとしたもので、ロシア由来の技術導入が限定的なものに留まった要因しては、設計を抜本的に変えることで開発に要するリスクが増大し、実用化が遅れる事を懸念したことが考えられる。優先されたのは、実質的に核抑止力として機能していない092型に代わり、継続的な戦略パトロール体制を構築するため速やかな戦力化を実現することであったといえる。

再び「漢和防務評論」2008年3月号の記事によると、中国海軍では、1990年代中頃に実用性に問題のあった092型戦略原潜に大幅な近代化を施しており、改装後を受けた同艦は制式名称を092M型と改めている。中国海軍は、092M型の改装後の運用実績に一定の評価を与えており、094型の戦闘情報システムも092M型と同じ物を採用しており、ソナーについても艦の形状から判断して、同様の装置を搭載していることが窺えるとしている。092Mと094型の相違点としては、092型のJL-1よりも大型のJL-2弾道ミサイルを搭載するため、セイル部が拡大されていること、フリーフラッド・ホールの位置が異なる、船尾の形状が一部変化、などが有る。094型と同時期に建造された093型原子力潜水艦(シャン型/商型)では、H/SQ G-207舷側ソナーを採用しているが、094型が同ソナーを搭載しているかについては現状では不明[2]。

【性能】
094型の艦形は、092型のものを引き継いで艦橋後部のセイル部を上方に拡大してミサイル区画としている。船体形状は保守的で、多数のフリーフラッド・ホールが設けられており、船体への消音タイルの装着も確認されていないことから、設計に際して静粛性がどこまで優先されたのか気になる点である。

船体長は137m、船幅11m、排水量は水中状態で8,000t。主機は加圧水型原子炉×2 蒸気タービン×2、1軸。熱出力は150MW。動力部は093型攻撃原潜のものと同一であると見られている。乗員は140名。

主兵装であるJL-2弾道ミサイルの搭載数は092型と同じ12発。JL-2弾道ミサイルは現在開発中の潜水艦発射式弾道ミサイルで、2002年にゴルフ級潜水艦から発射試験が行われた。JL-2の射程は7,200〜8,000kmの間でいくつかの説がある。3〜4個の多弾頭(各90キロトン)または250〜1,000キロトン単弾頭が装着可能。JL-2が実用段階に達した場合、094型戦略原潜の母港になると見られる海南省三亜からインド全域やモスクワ、米軍基地の有るグァムなどを射程に収めることが可能となる。また、北方の渤海に展開した場合は、アラスカを攻撃圏内に入れることが出来る。射程2,500kmのJL-1に比べると、はるかに広い地域を射程圏内に治めることが可能となった事が見て取れる。ただし、JL-2の射程では中国の沿岸からではアラスカより南のアメリカ本土やハワイなどを攻撃する事は困難[5]。アメリカ本土の攻撃が可能な外洋に進出するのは094型の低い静粛性から現実的ではない[5]。この点から、JL-2のアメリカに対する核抑止効果は限定的なものに留まらざるを得ないのが否めない所。

弾道ミサイルのほかに、艦首部に533mm魚雷発射管6門を装備している。

戦闘情報システムやソナーについては前述の通り。

【総括】
094型の建造は前述の通り2001年から開始されていたが、設計変更や搭載する原子炉の問題で本級の建造は滞っていたと言われている。現在、1番艦が就役間近で、2番艦も艤装が進んでいるが、主兵装であるJL-2弾道ミサイルの実用化が遅れているため、094型が戦略原潜としての価値を発揮するのは、もうしばらくの時間を要すると見られている。

いずれにせよ092型(NATOコード:夏型/シア型)一隻では実質的な核抑止効果を期待できない中国にとって、本級と潜水艦発射型弾道ミサイル・システムの早期配備は緊急の課題となっている。

094型は4隻の建造が決まっているが、その後はミサイルの搭載数を増加させた改良型へと建造が移行されるものと推測されている。中国の刊行物に掲載された想像図によると、新型原潜は094型にあったセイルの盛り上がりが無くなりアメリカのオハイオ級戦略原潜のような船体形状になっており、搭載ミサイル数は24発に増加している。

中国海軍は、山東省南端の膠州湾に建設した潜艇第一基地に原子力潜水艦を配備しており、さらに2006年には海南島三亜に2つ目の潜水艦基地を建設しており、094型は、この2つの基地に配属されることになる。これらの基地は、埠頭やドック、訓練施設のほか、海岸沿いに建設された洞窟基地が存在する。上空からはその状況を確認できない洞窟基地は、偵察衛星によっても基地に潜水艦が何隻停泊しているかを把握することが困難にさせる効果が有る。

性能緒元
水中排水量8,000t
全長137m
全幅11m
主機加圧水型原子炉×2 蒸気タービン×2、1軸
熱出力150MW
水中速力 
乗員140名

【兵装】
弾道ミサイルJL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5) / 垂直発射筒12基
魚雷533mm魚雷発射管6門
YU-3 533mm長魚雷(魚3/SET-65E)12発

同型艦
1番艦長征9号4092001年起工、2004年7月28日進水、2007年就役南海艦隊所属
2番艦  2003年起工、2006年進水、2009年就役 
3番艦  現在建造中 
4番艦  現在建造中? 
5番艦  現在建造中? 
6番艦  現在建造中? 

【参考資料】
[1]博客口碑評論「美震惊:中国863計画尖端武器戦略太恐怖了!」
[2]漢和防務評論2008年3月号「094戦略核潜與中国的会場核拡充」(平可夫/漢和情報センター)[2][3]
[3]世界の艦船2008年2月号(No.686)「注目の中国新型艦艇 1.潜水艦」(編集部/海人社)
[4]Chinese Defence Today「Type 094 (Jin Class) Nuclear-Powered Missile Submarine」
[5]China Defense Mashup「What China’s SSBN Nuclear Missile Submarines Mean for the U.S.」(2012年11月13日)

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