日本周辺国の軍事兵器 - 6銃身30mm装輪自走機関砲

▼2012年11月に開催された珠海航空ショーで展示されたCS/SA5型装輪対空自走砲。奥の車輌はCS/SA1 35mm装輪自走対空砲

▼砲塔部分の拡大写真

▼左:砲塔正面からの写真。右:砲身部の拡大写真。砲身カバーの奥に多銃身30mm機関砲の砲口を確認できる

▼後部写真。車体後部は容積確保のため天井が一段高くなっている。隣に並んでいるのはLD-2000近接防空システム(陸盾2000)


性能緒元
重量約21トン
車体長8m
全幅3m
車体高2.1m(砲塔含まず)
エンジンディーゼルエンジン(460馬力)
最高速度100km/h
航続距離800km
武装6銃身30mm機関砲×1
 HN-6携帯対空ミサイル(紅纓6/FN-6/飛弩6)連装発射機×2
装甲圧延鋼板装甲
乗員  

本車は、2012年11月13〜18日にかけて開催された第九回珠海航空ショーに「輪式30毫米自行高炮武器系統」の名称で展示された装輪式自走対空機関砲システム[1]。当初、型式名は不明であったが、2021年に開催された第13回珠海航空ショーでは「CS/SA5型30mm輪式自行高炮」の輸出名称で展示されたことにより型式名が明らかになった[2]。開発は中国兵器装備集団公司の参加企業の1つである重慶長安汽車公司によって行われた[1]。販売は同じく中国兵器集団グループの北方工業公司(NORINCO)が担当する。

【性能】
CS/SA5は、8輪装甲車のシャーシに6銃身30mmガトリング機関砲とFN-6携行地対空ミサイルを装備したガン・ミサイル複合対空システムである。

第九回珠海航空ショーで登場したCS/SA5のシャーシは、車体サイズやエンジン出力は08式装輪歩兵戦闘車「雪豹」(ZBL-08)とほぼ共通しているため、ZBL-08の開発メーカーである内蒙古第一機械製造集団有限公司からシャーシの提供を受けている可能性が考えられる。ただし、車体形状や細部にはかなりの相違があるため、自走対空機関砲化に当たって大幅な設計変更を施しているものと思われる。

シャーシは圧延鋼板装甲を溶接して製造されている。車体前部右側が機関室、左側が操縦手席、車体中央には6銃身30mm機関砲を搭載した二人用砲塔を設置。車体左側面中央部には兵員の乗車に用いられる横開き式ドアが設置されている[1]。車体後部は車内容積確保のため天井を嵩上げしている。車体後部には乗降用の大型ハッチが設けられており、機関砲弾や対空ミサイルの積み込み時に使用する[1]。

搭載エンジンは460馬力のディーゼルエンジンで、21トンの重量の本車を最高100km/hの速度で走行させる能力を有している[1]。航続距離は800km。中国軍のAFVでは水上航行性能を重視しており、30mm装輪自走対空機関砲のベース車体と思われるZBL-08も車体後部に水上航行用スクリューを設置していたが、30mm装輪自走対空機関砲はスクリューは未搭載[1]。この事から同車の開発において水上航行性能は優先されず、水上航行性能を有さないか(スクリューよりも簡易な)車輪の回転により推進力を得る方法に変更された事が想定される。

【武装】
本車の兵装および各種センサーは全て砲塔部分に搭載される。砲塔も車体と同じく圧延鋼板装甲を溶接して製造されている[1]。砲塔正面中央部には6銃身30mmガトリング機関砲が配置されている[1]。ガトリング砲身は鋼製カバーで覆われているので一見すると短砲身砲のような外観をしているが、砲口を見るとその奥に6つの砲口の存在を確認できる。砲身基部は金属フレームの架台で支えられているが、これは射撃時の砲身の振動を抑えて命中精度を向上させるためのものと考えられる[1]。

6銃身ガトリング機関砲の発射速度は毎分5,000発と極めて高く、短時間で多数の弾薬を集中的に発射する事により高い目標打撃能力を有している[1]。30mm機関砲弾の砲口初速は960m/秒で、有効射程は4,000m。対空攻撃のみならず地上目標に対してその高い発射速度は有効に働くと考えられる[1]。

6銃身30mm機関砲は確かに有効な対空兵器であったが、近年、攻撃ヘリの搭載する対戦車ミサイルの射程延伸に伴い、対空機関砲の射程外からアウトレンジ攻撃を受ける危険性が急速に拡大しており対空自走砲の側でも何らかの対策を講ずる必要が生じていた。この問題に対処するためのもう1つの兵装が、砲塔両側面に搭載したFN-6地対空ミサイル連装発射機である[1]。FN-6は中国軍向けHN-6の輸出用名称。赤外線誘導方式で、発射後ミサイルが自律的に目標に飛翔していくので地上からの誘導の必要は無い「打ちっ放し射撃」が可能。ミサイルの射程は最小500m、最大3,800m。射撃可能高度は最小15m、最大5,500mと、30mm機関砲ではカバーできない距離の経空脅威への対処が可能となった[1]。

砲塔後部には火器管制用レーダーと、レーザー測遠器を内蔵した電子/光学サイトが搭載されている[1]。搭載レーダーは一基なので、目標追尾中は周囲の警戒は出来ないと思われるため、他の車輌やレーダー等からの情報をデータリンクにより得る事で、捜索レーダーの欠如を補っていると考えられる。

砲塔前面には4連装発煙弾発射機が2基搭載されており、車体各部に取り付けられたレーザー波照射警報装置等からの情報を基にして必要に応じて発煙弾を発射して車体を隠して敵の攻撃を回避する。

【発展型】
2021年に開催された第13回珠海航空ショーでは、第九回珠海航空ショーと同じシャーシのものと、新たな派生型としてシャーシを新型の8輪装甲車に変更した二つのタイプが登場した[2]。こちらは以前のタイプよりも車体が大型化して射撃プラットフォームとしての安定性が向上しているとの事[2]。シャーシの車高のかさ上げ、側面ハッチの採用など、車内容積の拡大や乗り降りの容易さも追及されているとみられる。どちらのタイプも、センサーについては高度化が図られ、捜索用レーダー、追尾用レーダー、電子/光学サイトを揃えて、一両で捜索と追尾を並行して実施できるように改良が施されている[4]。

【特徴】
CS/SA5は、装輪車輌としての高い路上機動性能を生かして、道路網を利用した迅速な展開が可能。国土の防空、要地防空、部隊に随伴して防空カバーを提供するなど各種任務への対応が可能。主な攻撃対象は低空域の航空機、ヘリコプター、UAV等を想定しているが、6銃身30mm機関砲の高い発射速度を生かした巡航ミサイルなどの空対地スタンドオフ兵器に対する迎撃も想定している[1]。

CS/SA5は輸出向けに開発されたガン・ミサイル複合防空システムであり、現時点では中国軍への配備は確認されていない。ただし、CS/SA5とよく似た形状の、25mm6銃身ガトリング機関砲を搭載した新型対空自走砲(通称「625轮式自行高炮」)が中国軍で運用されているという情報が出ており、同車との関連も考え得る存在となっている[3]。

▼中国兵器装備集団公司のプロモーションビデオに登場するCS/SA5型30mm装輪自走対空機関砲(0:22〜0:37のシーン)。シャーシは珠海航空ショー2021で登場した新型。SAMが4連装×2になっているのに注目。


【参考資料】
[1]熊佳「従伝統到信息化 珠海航展上的兵器装備集団産品」(『兵器』2013年1月号/《兵器》雑誌社)38〜45ページ
[2]多源焦點「CS/SA5型:30mm彈炮合一系統,能有效對付無人機」(國平軍史/2021年10月6日)https://dyfocus.com/news-military/2156f8.htmlhttps://dyfocus.com/news-military/2156f8.html(閲覧日2021年12月23日)
[3]太平洋在线官网「西藏军区装备轮式625弹炮合一系统,大八轮配海」http://www.jialirotors.com/a/xinwenshizheng/lilun/...
[4]腾讯新闻「CS/SA5型30mm自行高炮,伴随机械化部队作战,将主推国际军火市场」(2021年11月6日)https://new.qq.com/rain/a/20211106A07RBT00

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