■性能緒元
| 重量 | 30トン |
| 全長 | 7.01m |
| 全幅 | 3.24m |
| 全高 | 3.50m |
| エンジン | WR4B-12V150LB液冷ディーゼル 520hp |
| 最高速度 | (路上)55km/h、(野外)30km/h |
| 航続距離 | 450km |
| 武装 | 29口径152mm榴弾砲×1（30発） |
| 12.7mm重機関銃×1（250発） | |
| 7.62mm機関銃×1 | |
| 69式40mm対戦車ロケットランチャー（RPG-7）×1 | |
| 砲付仰角 | -5度〜＋65度 |
| 装甲 | 均質圧延鋼板装甲(最大装甲厚20mm) |
| 乗員 | 5名 |
83式自走榴弾砲は66式152mm榴弾砲（D-20）を搭載した中国陸軍の第一世代の大口径自走榴弾砲である。1978年、中国陸軍砲兵部隊と総参謀部は機甲部隊に追随できる密閉型砲塔を持った近代的自走砲の要求を提出し、国営674廠と127廠、星光儀器廠により開発が進められた[3]。1980年に試製車輛が完成したが、半自動装填装置の問題により1983年11月まで改良が行われた。83式自走榴弾砲は1984年の北京軍事パレードで初公開され、1984年末から陸軍の戦車師団と機械化歩兵師団の自走砲連隊（3個大隊編制、各18輌装備）に配備が始まった。軍制改革後、師団の旅団化が進められたことで、それ以降は旅団の砲兵大隊（中国語だと炮兵营)に配備された。生産は1990年まで続けられ、合計78輌が生産された[3]。
車体は砲兵部隊の共通重プラットフォームとして開発された60-1(321型）履帯式中型砲兵共通プラットフォーム（中国語だと「60-1(321 型)履带式中型炮兵通用底盘」）を使用している。フロントエンジンを採用することで、車体後部を兵装搭載区画として活用できる設計が採用されており、その構造を生かして83式のみならず、89式122mm40連装自走ロケット砲と89式120mm自走対戦車砲（PTZ-89）のシャーシとしても使用されている[3]。装甲鋼板の溶接構造で、前部左側に操縦手席、右側に機関室、車体後部に砲塔と戦闘室というオーソドックスな配置になっている。全長は7.01m、全幅3.24m、戦闘重量30t。エンジンは、最高出力520馬力のWR4B-12V150LB型12気筒液冷ディーゼルを搭載し、路上で55km/h、野外で30km/hの最高速度を発揮する[3]。
操縦手は専用のハッチから乗降し、車体後面には乗降や弾薬補給に使用される左開きの大型ハッチがある。操縦手用のペリスコープが3個装備装備されており、そのうち中央の1個は暗視装置と換える事ができる。密閉式の砲塔は全周旋回可能で、前部右側に車長、左側に砲手が位置し、さらに装填手2名が配置される砲塔内の乗員はビジョン・ブロックとガンポートを1基ずつ備えた砲塔両側面のハッチ及び車体後面のハッチから乗降を行う。
主砲は牽引式の66式152mm榴弾砲を改修して車載化した83式152mm榴弾砲を搭載する[3]。砲身長は29口径で、砲口にマズルブレーキ、砲身に排煙器が装着され、基部には駐退復座器が取り付けられている。砲の俯仰角は-5〜+65度[3]。83式は中国の自走砲としては初となる半自動装填装置を採用しており、砲弾を装填ラックに載せると以後は自動で装填され装填手の負担を軽減する。砲弾装填後に装薬を手動装填すると発射準備が整う。83式は半自動装填装置の採用により、毎分五発の発射速度を実現している[3]。通常榴弾を使用した場合の最大射程は18km、MP152ロケット推進弾を使用した場合は22kmである。1990年代以降になると、ロシアの技術協力により開発されたレーザー誘導砲弾も使用可能となり、装甲車輌に対し精密射撃を行うことが出来るようになった[2][3]。また、運用後期には遠距離打撃能力の改善を意図して射程30kmになるロケット推進弾の運用能力が付与されている[3]。間接照準射撃のみならず直接照準射撃も可能で、緊急時には対戦車戦闘を行うことも想定されている[3]。
152mm砲弾の携行弾薬数は30発で、そのうち26発を砲塔に、4発を車体に搭載している[3]。副武装として車長用キューポラに12.7mm機関銃が装備されているほか、自走榴弾砲としては珍しく152mm砲と同軸で7.62mm機関銃を備えており[4]、砲塔ハッチには乗車射撃用のガンポートも用意されている[3]。このほか、乗員が下車戦闘で使用するため目的で69式40mm対戦車ロケットランチャー（RPG-7）1基も搭載している[2]。
装甲厚は砲塔正面で20mmで、機関銃や砲弾の破片に対する抗湛性を有する程度であるが[3]、中国軍の自走榴弾砲としては初となる密閉式砲塔を採用していることから、対砲兵射撃におけるチープキルを防ぐという点では有効であった。さらに、被弾時の火災に備えて、自動/手動消火装置を搭載している[3]。排煙除去用のエバキュエーターは装備されているが、NBC防護装置は未搭載[3]。生存性改善のため、車体各部に擬装ネット取付用の金具を備えている[3]。
【総評】
83式の開発当初の仮想敵は、当時最大の脅威であったソ連地上軍の戦車部隊や砲兵部隊への対抗が目的であり、83式は対砲兵戦、敵火器制圧、敵撃破、戦車部隊への砲撃など、ソ連の強力な地上戦力に対抗する装備としての実用化が目指されていた[3]。83式が意識していたのは、ソ連の同クラスの自走榴弾砲、2S3「アカーツィア」152mm自走榴弾砲であったと思われるが、中ソ和解とその後のソ連崩壊により北の脅威は消え去ることとなり、1990年には83式の生産も終了している。
台湾海峡での緊張が高まった1996年には、海軍の戦車揚陸艦に83式などの自走砲や牽引式野砲を搭載して、特設の火力支援艦として演習に参加している[3]。ただし、動揺する船舶上から安定した正確な砲撃を行うのは困難であるということが判明し、海軍では053H型フリゲイト（ジャンフーI型/江滬I型）の「九江」に50連装122�丱蹈吋奪犯�射機×5を搭載した火力支援艦に改造するなど、上陸時の火力支援についての試みを重ねることになる[3]。
中国軍では、大口径野砲については155mmと122mmの二系統に集約する方針を採用しており、155mm砲については集団軍の砲兵旅が掌握することとされ、05式155mm自走榴弾砲（PLZ-05）とPCL-181型155mm装輪自走榴弾砲(PCL-181/SH-15)の配備が進められている[3]。83式はこれら新式自走砲と交代する形で第一線から退いているが、これまでに生産された大量の152mm砲弾の在庫の存在も相まって、第二線級部隊や訓練任務での運用が続けられている。旧式化に伴う戦力の陳腐化を防ぐため、新型砲弾や観測用ドローンとの組み合わせなど様々な措置が取られており、誘導砲弾を用いて前線観測部隊やドローンと連携することで命中率90%の精密射撃を実施する実績を上げているとの事[3]。ただし、主砲の長砲身化などの根本的な能力向上策は施されておらず、新型自走砲の配備が進めば段階的にその姿を消していくと見られている[3]。
83式は、改革開放による西側技術導入が本格化する前に開発に着手されソ連地上軍に対抗する重型機械化部隊の支援火力車輛として開発された。ソ連という驚異の消滅後は、中国軍の装備調達が空軍と海軍中心になったことでその生産は終了し、21世紀になって155mm級自走榴弾砲の配備が始まるまで、長らく数少ない中国軍の大口径自走榴弾砲として運用され続けた。その性能は1990年代には陳腐化していたが、中国軍の近代的自走榴弾砲として後に続く自走砲の技術的基盤となったのは疑いないと思われる。
【参考資料】
[1]戦車名鑑-現用編-（後藤仁、伊吹竜太郎、真出好一/株式会社コーエー）
[2]环球防务网「中国83式152毫米自行榴弹炮_TYPE 83 152MM SELF-PROPELLED GUN-HOWITZER_GlobalMil-」http://www.globalmil.com/military/army/china/self-...
[3]网易「中国装备志——83式152毫米自行榴弹炮」(2022年12月20日/来源: 自在吃辣椒的喵酱 )https://www.163.com/dy/article/HP1DAQR70552V2VR.ht...
[4]捜狐「83式152毫米自行榴弹炮是我国第一代大口径自行火炮」(2020年11月13日)https://www.sohu.com/a/431600055_120883677
【関連項目】
130mm自走加農砲（中国）
89式122mm40連装自走ロケット砲
89式120mm自走対戦車砲（PTZ-89）
66式152mm榴弾砲（D-20）
中国陸軍