日本周辺国の軍事兵器 - 98式120mm対戦車ロケットランチャー(PF-98)

▼PF-98 営(大隊)用型。右がHEAT弾、左がHEAT-MP弾

▼データ入力パネル

▼ロケットの装填

▼照準、射撃



▼PF-98 連(中隊)用型。後方はロケット弾の収納筒

▼ロケット弾を装填した状態

▼射撃体勢



性能緒元(PF-98)
全備重量(大隊用)20kg
発射機全長1,191mm(携行時)
発射機重量1.85kg
弾頭部直径120mm
ロケット重量8.03kg(HEAT)
9.15kg(HEAT-MP)
7.42kg(サーモバリック弾)
最大速度246m/秒(HEAT)
 205m/秒(HEAT-MP)
貫通力垂直:800mm、68度傾斜:230mm(HEAT)
垂直:400mm(HEAT-MP)
最大有効射程(大隊用)800m(HEAT)
 1,800〜2,000m(HEAT-MP)
最大有効射程(中隊用)400m(HEAT)
発射速度4〜6発/分
左右射角360度
俯仰角-6度〜30度

98式120mm対戦車ロケットランチャー(PF98 98式120毫米反坦克火箭)は中国軍最新の対戦車ロケット。69式RPGPF-89対戦車ロケットランチャーが歩兵分隊用の対戦車兵器であるのに対して、PF-98は歩兵連隊の対戦車営(大隊)や対戦車連(中隊)で運用されてきた65式82mm対戦車無反動砲の後継となる存在であった。そのためPF-98は、65式が行ってきた対戦車戦闘と部隊の火力支援という二つの任務を兼ね備える事になった。この点で、従来の中国軍の対戦車ロケットとは一線を隔する存在であり、部隊においても65式82mm対戦車無反動砲の後継となる中/大隊用支援火器として「連営二代」の名称で呼ばれている。

1980年代に入ると東西各国で口径100mmを超える大型の歩兵用対戦車ロケットが開発される様になった。これは複合装甲や爆発反応装甲が登場して戦車の防御力が大幅に向上したことに対抗する動きであった。ドイツのパンツァーファウスト3、ロシアのRPG-27、フランスのAPILAS等はその代表的な例である。中国軍は1980年代末、フランスのAPILAS 112mm対戦車ロケットランチャーの導入を検討し、フランス人技術者による射撃試験も実施していた。しかし、APILASの調達は値段面での折り合いが付かずに最終的に中断されることになった。これを受けて、自力で第三世代戦車を撃破可能な新型重対戦車ロケットを開発する方針が決定された。しかし、重量過大、充分な射程・貫通力を得るための技術的課題の克服には多くの時間を要し、1990年代になってようやく本格的な開発が開始された。PF-98がその姿を公にしたのは、1999年12月20日に駐香港歩兵部隊に装備されているのが確認された時であった。

PF-98は射手と装填支援の補助要員の二名で運用される。歩兵による携行輸送が基本であるが、LYT-2021戦闘バギー等の軽車両に据え付けて使用することも行われている。PF-98は運用される部隊に応じて、PF-98営(大隊)用型(営用型)とPF-98連(中隊)用型(連用型)の二つのバリエーションが存在する。PF-98営(大隊)用型の構成は、ロケット弾、発射筒、点火装置、簡易射撃統制システム、大隊用微光増幅式暗視照準器、大隊用三脚から構成される。営(大隊)用型は、射程や命中精度、火力支援任務を重視した構成になっている。大型の三脚も、携行性よりも安定した射撃プラットホームとしての要素を重視したものである。PF-98中隊型の構成は、ロケット弾、点火装置、中隊用光学照準器、中隊用微光増幅式暗視照準器、中隊用三脚である。PF-98連(中隊)用型は携行性を重視した構成になっており、重量軽減のため装備の簡易化が行われている。中隊用三脚は発射筒後部に装着され、射手は射撃の際、トリガーを両手で持ち発射筒を左右に振って照準を行う。その際三脚は発射筒の重量を支えて、左右に振り回す支点になる。これは伏せた状態で重い発射筒を肩に背負うことなく射撃を行うための工夫である。もちろん、肩に背負った状態での射撃も可能である。

PF-98の発射筒は、軽金属とグラスファイバー製の軽量で強度の高いものになっている。ロケット弾は射撃前に発射筒に装填される方式であり、発射筒は200回以上の使用が可能。PF-98のロケット弾は対戦車用のHEAT(成形炸薬弾)と火力支援用のHEAT-MP(多目的対戦車榴弾)とサーモバリック弾の三種類がある。HEATは重量約8/03kgでタンデム弾頭を採用している[4]。これは貫通力の強化、爆発反応装甲対策を狙ったものである。HEATの初速は246m/秒、貫通力は垂直の均質鋼板に対して800mm、68度傾斜の均質鋼板に対しては230mmとされる。有効射程は、PF-98営(大隊)用型で800m、PF-98連(中隊)用型で400m。これは両者の照準装置(簡易射撃統制システムと光学照準器)の能力の差が出た形になっている。HEAT-MPは重量は約9.15kg[4]。弾頭部には自己鍛造断片技術が使用されており、炸裂時の断片威力向上を図っている。HEAT-MPの弾頭部はタンデム化はされていない単一弾頭である。HEAT-MPの初速は205m/秒、55度の角度で着弾した際には均質鋼板400mmの貫通が可能。着弾の際に、120個以上の直径5.5mmの鉄球と断片を飛散させ、また焼夷効果も有する。密集歩兵に対する殺傷半径は25m。HEAT-MPの最大射程は2,000m(PF-98営(大隊)用型)。サーモバリック弾(High-Impulse Thermobaric:HIT、熱圧弾頭)は、従来の火薬による爆発ではなく、霧状に放出された可燃物と空気を適度な比率で混合させて爆発的に燃焼させるものである[4]。酸化剤として空気を利用しているため、通常弾頭と比べて同じ重量なら爆風による破壊力(爆圧は通常の爆薬より低い)が格段に大きくなる。特に強化陣地や地下坑道、建造物等の閉塞された場所への攻撃に高い効果を有する。サーモバリック弾の重量は7.42kg、全長825mm。370mmのコンクリートに50cmの穴を穿ち、90㎥の建物内部を制圧する能力を有している。最大射程は2000m[4]。

PF-98営(大隊)用型は射程の延伸と命中精度の向上を図るために、簡易射撃統制システムを導入したのが大きな特徴である。このシステムはレーザーレンジファインダー、光学照準器、弾道計算機、LED(発光ダイオード)表示装置、安定装置、大隊用微光増幅式暗視照準器から構成されている。距離測定後、射撃データは自動的に計算され、目標の諸元情報が照準器に表示される。目標を発見してから諸元を計算して射撃が可能になるまでの時間は10秒以内であり、動体目標への見越し射撃が可能となっている。PF-98連(中隊)用型は射撃統制システムは装備しておらず、暗視装置付き光学照準器を利用して射撃を行う。PF-98営(大隊)用型/連(中隊)用型双方とも微光増幅式暗視装置を装備しており夜間の照準が可能である。営(大隊)用型の暗視装置は目標の識別・距離測定が自動化されており、夜間の最大照準範囲は300〜500mになる。

PF-98は代替される65式82mm対戦車無反動砲に比べて、射程、貫通力、命中精度、夜間戦闘能力等の面で大幅な向上を達成した。またバックブラストを減少したことで陣地や室内からの発射も可能になり、戦術的柔軟性が向上している。なおPF-98は、HJ-73対戦車ミサイルと併用されることになっている。紅箭73はその3,000m以上の射程を生かした遠距離射撃を実施するが、貫通力に劣るため戦車の側面・後部への射撃を中心に行い、PF-98は800m以内(連(中隊)用型は400m)に入ってきた戦車に対してその強力な貫通力によって正面から撃破することが想定されている。現在の中国軍は、射程5,000m超の紅箭9紅箭8や砲発射式対戦車ミサイル、3,000mの紅箭73、2,000mの89式120mm自走対戦車砲(PTZ-89)等の対戦車砲、800mのPF-98営(大隊)用型、400mのPF-98連(中隊)用型、そして射程200mのPF-89対戦車ロケットランチャーによる多層式対戦車攻撃態勢を構築している。またPF-98大隊型の2,000mの射程(HEAT-MP)は旗下の大隊により有効な火力支援を与えることが可能であり、歩兵自身が保有する支援火力としても貴重な存在となっている。

PF-98は「Queen Bee II」の名称で国際市場への売込みが行われており、これまでにバングラデシュ、ジンバブエへの輸出に成功している[2][3]。

【改良型〜PF-98A】
PF-98は新世代の対戦車ロケットとして配備が行われたが、実際に部隊で運用してみるとさまざまな改善要求が提出される様になった[4]。まず問題になったのは重量(ランチャーだけで10kg)であり、歩兵が携行搬送するには負担が大きいことが指摘された。また、命中精度改善のために導入された簡易射撃統制システムであるが、キーボードが25個もあり複雑な操作が求められるため射手の負担が大きく実用的でないことも判明した。また、夜間戦闘で使われる微光増幅式暗視装置についても、性能に大差が無いのにPF-98(営用型)とPF-98(連用型)で別々のタイプが使用されているため、後方負担が大きくなっている点も問題視された[4]。また、PF98はバックブラストを減少したとはいえ、後方100m、左右各70度は人員が立ち入らない安全区画を確保する必要があった[5]。これは、軽金属製のロケットモーターを採用したことで、後方墳流に金属断片が混じって飛散するためであった。安全区画の存在は、塹壕や山地など複雑な地形で発射する場合のリスクとなり、射手が発射を躊躇し戦術的柔軟性の低下につながった[5]。

上記の部隊運用で得られた改善要求を反映させて開発されたのが、98A式120mm対戦車ロケットランチャー(PF98A 98A式120毫米反坦克火箭)である[1]。PF-98Aの主要な改良点は以下の通り[4]。
全備重量の軽減全面的に設計を見直し、ランチャー(10kg→7kg)、照準装置(2.5kg→2.1kg)、ロケット本体(HEAT弾:8.03kg→7.24kg)、暗視装置(2kg→1.2kg)などの軽量化を図ることにより軽量化を達成
操作の簡易化簡易射撃統制システムの操作方法を簡易化。複雑との指摘を受けたキーボードは25から12にまで削減。合わせて省電力化も図られる。
暗視装置の共通化営用型と連用型で異なっていた暗視装置を共通化。重量軽減(2kg→1.2kg)、精度向上、連続動作時間の延長(7時間→40時間)と全般的な性能向上を達成。
砲弾の改良PF98A式120mm破甲火箭弾(HEAT)、PF98A式120mm多用途火箭弾(HEAT-MP)、PF98A式120mm攻堅火箭弾(陣地攻撃用)が開発された。それぞれ性能向上と軽量化が図られているのが特徴。
後方噴流体策ロケットモーターの素材を非金属素材に変更し金属断片の発生を無くす。合わせて後方墳流をカバーする減速パラシュートを新設。発生した後方墳流の多くをこれで抑えむことで、安全区画を約半分にまで減らすことに成功した[5]。
外観上の特徴としてはランチャーの前後に装着された黒色のランチャーガードの形状が角張ったものになり、簡易照準装置や暗視装置が変更された点などが確認できる[1][4][5]。ランチャーガードを角ばったものにしたのは、ランチャーを地面に設置した際に横転しにくくするためであり、低い姿勢での発射を容易にするための改良[5]。PF98Aは2006年に制式化され、PF98に替わって歩兵部隊の対戦車/火力支援兵器としての配備が行われている[4]。

【今後の展望】
PF98/98Aは強力な防御力を備えた第3世代戦車に対抗する事を主眼として開発され、概ねその目的を実現した兵器と見なされている[5]。ただし近年の歩兵装備が増加する傾向の中で、(軽量化されたとはいえ)PF98Aの重量は重い負担となっている。また、低強度戦争や市街地や山地での戦闘など戦場の在り方が多様化する中、対戦車兵器であるロケットランチャーが、歩兵部隊や陣地攻撃、建物の制圧など様々な相手に対して即時使用可能な歩兵用支援火器として使われるケースも増えている。重量問題から携行数が限定され、弾薬のバリエーションが少ないPF98/98Aは、近年の動向とはそぐわない性格を有していると指摘される[5]。PF98Aの登場からすでに10年以上が経過していることから、中国軍がこの問題にどのように対処するのか早晩明らかになるであろう。

2018年には、軽量で歩兵による携行輸送が可能なHJ11(紅箭11型/AFT11)対戦車ミサイルの配備が確認され[6]、対戦車兵器としてのPF98の後継はHJ11になるとの観測も現れており、今後の動向が注視される。

【参考資料】
[1]007兄弟的BLOG「我军摩步连步兵班换装98A式120班炮」(2013年8月15日)
[2]Defense Updates「Chinese Type 98 / PF98 120 mm recoilless rocket launcher from NORINCO」(2012年12月27日)
[3]ZIM.Def.Blog「PF-98 Queen Bee II」
[4]崔忠旺・焦方金・满文兵「越起:PF98A式120mm反坦克火箭」『火力真相 解密中国榴弹武器』(轻武器系列丛书编委会 编著/航空工业出版社/2015年1月)156〜173ページ
[5]殷杰「PF98A型120毫米火箭筒缘何由下班」『坦克装甲车辆』2018年第1期 (《坦克装甲车辆》杂志社)9〜13頁
[6]新浪军事「中国最新红箭11导弹已服役 配备超强激光技术(图)」(2018年02月11日 )http://mil.news.sina.com.cn/jssd/2018-02-11/doc-if... (2018年5月1日閲覧)

現代兵器 2006年6月号「地火流星-中国歩兵反坦克火箭発展歴程」
槍炮世界
中国武器大全
中華網
2ch中国兵器スレ

中国陸軍