日本周辺国の軍事兵器 - HHQ-9A艦対空ミサイル(HQ-9A/海紅旗9A/紅旗9A)

▼試験艦#891「畢昇」で実施されたHHQ-9A艦対空ミサイルの発射実験。

▼052C型駆逐艦#170「蘭州」の後部HHQ-9A用VLS。VLS横にはミサイル搭載用のクレーンがある。

▼ミサイルランチャーの搭載。

▼ミサイルの管制を行う346型多機能フェーズド・アレイ・レーダー。


性能緒元
全長6.8m
重量1,300kg
弾頭重量180kg(HE)
最大速度マッハ6
射程6〜120km
射高25(50mとの説もある)〜30,000m
誘導方式指令更新付慣性、セミアクティブTVM(Track-Via-Missile)。終末アクティブレーダー誘導との説もある。
装備機種052C型駆逐艦(ルヤンII型/旅洋II型)(HHQ-9A搭載)
 052D型駆逐艦(ルヤンIII型/旅洋III型)(HHQ-9B搭載)

HHQ-9A(紅旗9A/海紅旗9A)対空ミサイルは国産開発の長距離SAMシステムで、中国海軍初の垂直発射型SAMである。中国は湾岸戦争(1991年)での米軍による激しい空爆などの戦闘状況から自国の防空システムの限界を認識し、新しい防空ミサイルシステムの開発に着手した。開発に当たったのは、北京の長峰機電技術設計研究院(航天機電集団第二研究院)と海鷹機電技術設計研究院(航天機電集団第三研究院)であった。長峰機電技術設計研究院は、中国の対空ミサイル弾道ミサイル開発の中心であり、海鷹機電技術設計研究院は鷹撃対艦ミサイルシリーズや紅鳥巡航ミサイルの開発に従事した研究院であった。

HQ-9の開発は9号工程と命名され、Su-27のライセンス生産(11号工程)やJ-10戦闘機の開発(10号工程)と並んで、90年代の重点装備計画の1つに位置づけられた。開発は約10年の歳月を要し、1997年には陸上発射型HQ-9の初度生産が開始され、海軍も次世代エリア・ディフェンス用対空ミサイルとしてHQ-9を採用する事を決定した。HQ-9は当初はアメリカのパトリオットを参考にして開発されていたが、後に、ロシアから購入したS-300P(SA-N-6 Grumble)のミサイル、ランチャー、誘導システムなどを参考にして大きな設計変更が行われたと言われている。対艦ミサイルなどへの迎撃能力を向上させたHQ-9は管制用のフェーズド・アレイ・レーダーと共に試験艦「畢昇」に搭載され海上での実用試験が行われた。2002年には、HHQ-9A(海紅旗9A)と命名され制式化。2004年には052C型駆逐艦(ルヤンII型/旅洋II型)に搭載され、実戦配備にこぎ着ける事に成功した。

HHQ-9Aの主要項目は以下の通り。全長6.8m、ミサイル重量1,300kg、弾頭重量180kg、射程6〜120km、射高25(50mとの説もある)〜30,000m、最大速度マッハ6。ミサイルのサイズは、原型の陸上型HQ-9に比べかなり小型化されているが、これはミサイルの運動性能を高めて低空から飛来する対艦ミサイルなどに対する迎撃能力を強化する目的による物である。ただし、高度20mの目標の迎撃が可能な、アメリカのスタンダードSM-2Block3と比べると低空での迎撃能力には劣る面がある。052C型駆逐艦と同時期に建造された052B型駆逐艦(ルヤンI型/旅洋I型)9M38M2艦対空ミサイル(SA-N-12グリズリー)を搭載したのは、HHQ-9Aが苦手とする低空目標の迎撃を行い、艦隊防空をより強固なものにするためであったという推測もなされている。

誘導方式は、指令更新付慣性、セミアクティブTVM(Track-Via-Missile)、終末誘導にはアクティブレーダー誘導が使用されているとの説もある。HHQ-9Aの原型のHQ-9は、同時に6発のミサイルを3〜6目標に指向させる能力を有している。ミサイルの発射間隔は約5秒

目標の探知及びミサイルの管制は346型フェーズド・アレイ・レーダー(LIG-346)によって行われる。同レーダーの名称は382型など複数の説がある。レーダーの大きさは、幅3.9m、高さ4.6m。艦橋四方に配置されている。レーダーは内側に15度傾斜、中心線から45度の方向に取り付けられている。フェーズド・アレイ・レーダーには、米SPY-1シリーズに代表される、大電力送信信号をアンテナ。ブロックに送り個々の移相器に分配して位相変化させ空中に放出するパッシブ方式と、日本のFCS-3や独蘭のAPARの様な小電力送信信号をアンテナ・ブロックに送って個々の移相器に分配し位相変化させた後、増幅器で大電力に増幅して空中に放射するアクティブ方式の2種類が存在する。「漢和防務評論」2005年11月号の記事によると、346型はアクティブ方式を採用しており、この技術はウクライナのKran-Radiolokatsiya社の技術支援を受けているとの事。

HHQ-9Aは発射セル6基を円形に配置して組み合わせたVLSに装填されている。VLSの形状は、ロシアのS-300FのB-303A 8連装回転型VLSに似ているが、HHQ-9Aは回転式ではなく6連装である点が相違点である。システム変更の理由としては、構造の簡易化やそれぞれのセルから直接発射することでミサイルの発射速度を向上させるなどの目的によると見られている。なお、発射時にはVLSが動かないH/AJK03型であるが、再装填作業の際には特定の開口部を再装填口として、VLSを回転させながら装填用クレーンを用いてミサイルランチャーを装填する[3]。

HHQ-9Aはセル下部から高圧ガスで打ち出され高度18〜20mに達した後ロケット・モーターに点火する、コールドガス発射方式を採用している。コールドガス発射方式はロシアやフランスで採用されているもので、利点としてロケット・モーターの点火が発射機外で行われるため船体側が安全であるほか、発射機内でのブラストの処理を行う必要がないという事だ。その結果VLSの構造が簡単になりシステムの重量を軽減出来る。

HHQ-9Aは、中国海軍にとって悲願であったエリアディフェンスミサイルの国産化に成功したという点で、中国海軍史にとって大きな意義があった。しかし、この種の兵器システムの能力を十全に発揮させるためには長期間の運用によりシステムをくみ上げていく必要があった。中国海軍では長距離防空ミサイルとしてHHQ-9Aを開発すると同時に、ロシアから「リフM」防空ミサイルシステムを輸入して051C型駆逐艦に搭載している。これはHHQ-9Aとの比較を行い、HHQ-9Aの完成度が高まるまでの即戦力となる長距離防空ミサイルという位置づけになるだろう。

その後、中国海軍のエリアディフェンス駆逐艦は、052C型駆逐艦(ルヤンII型/旅洋II型)およびその発展型である052D型駆逐艦(ルヤンIII型/旅洋III型)というHHQ-9シリーズ搭載艦に一本化され、「リフM」搭載艦は051C型二隻で幕を閉じることとなった。

【参考資料】
[1]『軍事研究』 2003年12月号「16DDHに初搭載!純国産FCS-3改」(多田智彦/ジャパン・ミリタリー・レビュー)
[2]Chinese Defence Today
[3]MDC軍武狂人夢「旅洋-II級飛彈驅逐艦」http://www.mdc.idv.tw/mdc/navy/china/052c-pic2.htm
[4]捜狐新聞中心 「紅旗9-中国区域防空真正中堅?」

【関連項目】
052C型駆逐艦(ルヤンII型/旅洋II型)
052D型駆逐艦(ルヤンIII型/旅洋III型)

中国海軍